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中国重慶市の国有企業と郷鎮企業:
生産関数の分析
陳光
輝 1.序 本稿は中国内陸部,四川省重慶市の国有企業と汗馬企業の1980年,85年と92 年のクロスセクションデータをプールして行った生産関数の比較分析について 報告するものである。 1970世代末以降,中国で顕著にみられた一つの現象は,郷鎮企業の発展であ った。郷鎮企業はかつて人民公社組織が所有,経営し,公社解体によって郷営 化,村営化された企業や新たに出現した民営企業など,農村企業の総称である が,Byrd and Lin(1990)によれば,1978−86年間,その工業生産額は実質, 年あたり23.4%で拡大し,農村部の非農業雇用は年率12.7%で増加した。郷鎮 企業が都市部も含む地:域経済の成長に大きく貢献した事例も報告されている。 呉(1993)によれば,江蘇省,漸江省の高度成長を支えたのは郷鎮企業を中心 とする非国有部門であり,1991年,郷鎮企業の工業生産シェアは江蘇,漸江, それぞれ46.4%,49.6%に:達した。 郷鎮企業の工業生産シェアは重慶では大きくない。屡・郡・紀・梁(1988) によれば,その値は1987年現在,13.6%であった。しかし,郷鎮企業の成長は, ここでも急速であった。郷営企業のみの値であるが,1985−92年間,その実質工 業生産額(1990年価格)は年あたり21.6%で拡大し,国有企業の年率7.8%を大 1) きく上回った。 沿海部の江蘇,漸江で起こったような郷鎮企業主導型の成長は,内陸部の重 1)重慶市統計局「重慶統計年竪』1993のデータから算出した。92 彦根論叢 第290号 慶でも可能であろうか。厳(1993)は沿海部品鎮企業の成長要因として資金, 技術の獲得システム;農村の行政,経済システム;市場環境の3点で恵まれた 条件にあったことを挙げ,その成長モデルは必ずしも普遍的に適用可能でない と論じた。こうした環境面,制度面からの分析に対し,本稿は生産技術面の分 析を提供する形になる。 分析はおおむね,次の手順で行った。 1.工業8部門のデータを軽工業,重化学工業の2部門に分ける。 2.国有企業と郷鎮企業の生産関数を,技術進歩率など,パラメーターの相違 の有無を検定しながら,部門ごとに推定する。 3.推定結果をもとに,等量曲線や生産性の比較を行う。 以下,その経過と結果をII節, III節で1頂に報告し, IV節で分析結果のまとめを 行う。 II.データ 本稿の分析で用いたデータは,重慶市の中小企業振興のための日中共同研究 の一環として!993年,市の計画委員会,経済委員会,科学技術委員会,統計局 2) の全面協力下で実施されたアンケート・統計調査によるものである。この調査 第1表 データ内訳 国有企業 郷鎮企業 合計 食料品 紡織 化学 黒色金属 電気機械 輸送機械 一般機械 建築材料 合計 27(O.310) 18(O.750) 37(O.755) 3(O.375) 6 (O.273) 11(e.440) 34 (O.436) 36 (O.667) 172 (O.496) 44 (O.167) 14(O.424) 10 (O.278) 1(1.000) 1(O.033) 5 (O.119) 42 (O.186) 22 (O.163) 139 (O.181) 71 (O.202) 32 (O.561) 47 (O.553) 4 (O.444) 7(O.135) 16 (O.239) 76 (O.250) 58 (O.307) 311 (O.279) カッコ内は標本・母集団比率。 2)当該共同研究については中国重慶市中小企業振興日中共同研究会日本委員会1994を参 照されたい。
中国重慶市の国有企業と郷鎮企業:生産関数の分析 93 からは食料品,紡織化学,黒色金属(鉄鋼),電気機械,輸送機械,一般機 械,建:築材料の8つの部門に属し,かつ,1979年までに設立された市内独立採 算企業,計1781社(1992年現在)を母集団とする,1980年,85年と92年につい てのデータが得られた。サンプルサイズは706であったが,本稿の分析で用いた のは国有企業と郷鎮企業で,かつ,必要な情報が完備していた311弾除である。 ただし,前節で引用した一部統計と同様,このデータでいう郷鎮企業は郷営企 業のみを指し,村営企業や民営企業は除外されている。 311社の内訳は第1表のとおりであった。カッコ内は標本・母集団比率(それ ぞれの度数の比)である。標本・母集団比率は全般に記章企業で低いなど,バ ラツキが大きく,そして母集団の度数自体が小さかったケースもあるが,一部 カテゴリーは企業数が極めて少ない。なお,このサンプルの8つの産業部門は, 工業部門のすべてを網羅してはいないが,重慶工業の主要な領域はカバーして 3) いる。1992年,この8部門の工業生産額シェアは68.9%であった。 第2表 2部門分類データの内訳 国有企業 郷鎮企業 合計 軽工業 重化学工業 合計 45 127 172 58 81 139 103 208 311 分析は繊維,紡織を軽工業,その他を重化学工業とする2部門で行った。2 部門分類データの内訳は第2表のようになる。用いたのは具体的には各社,実 質付加価値総生産,資本投入,労働投入と実質賃金率のデータであり,それぞ れ,次のようにして得た。 1.実質付加価値総生産:各社,名目の付加価値純生産額に資本減耗引当分 (減価償却+大修理基金)を加えて付加価値総生産額を算出し,それぞれの(付 加価値でない,グロスの)名目生産額/実質生産額をデフレーターとして実質 化した。単位は千元(1990年価格)。 3)重慶市統計局『重慶統計年上』1993のデータから算出した。
94 彦根論叢第290号 2.資本投入:各社,石炭換算のエネルギー消費量が資本投入量を反映すると 想定した。単位はトン。 3.労働投入:各社,年末従業員数。単位は入。 4.実質賃金率:各社,賃金コスト総額を年末従業員数で割って名目賃金率と し,付加価値総生産と同じデフレーターを使って実質化した。単位は千元(1990 年価格)。 第3表は各変数の各部門,企業グループごとの平均,メディアン(中央値) と変動係数(標準偏差/平均)を示す。平均,メディアン,いずれでみても国 有企業は規模が大きく,実質賃金率が高い。変動係数の値からは企業間格差の 大きさがうかがえ,その程度は郷鎮企業の方が大きかったと判断できる。 第3表 各変数の平均,メディアンと変動係数(1992年) 軽工業 重化学工業 国有企業 郷鎮企業 国有企業 郷民企業 (1)実質付加価値総生産 平均 メディアン 変動係数 (2)資本投入 平均 メディアン 変動係数 (3)労働投入 平均 メディアン 変動係数 (4) 実質賃金率 平均 メディアン 変動係数 5654 1456 1.93 2911 728 1.52
084U
19々4
0α2 ・1
2.12 2.12 0.25 496 24 2.89 220 18 2.38 706
2.47 1.82 1.24 1.43 6314 4025 0.96 8860 3229 1.61 712 567 0.77 2.44 2.40 0.31 785 200 2.66 939 80 2.95 93 53 1.51 1.56 1.33 1.01 III.生産関数の分析 生産関数は当初,CES型を想定した。しかし,どの産業,どの企業グループ中国重慶市の国有企業と郷鎮企業:生産関数の分析 95 も代替弾力性が1,すなわち,実際の関数はコブ・ダグラス型に帰着するとの 仮説を棄却できない形となり,結局,分析はコブ・ダグラス関数で行うことに なった。以下,順に報告する。
A.CES関数
当初に想定したのは,次のようなCES関数であった。 Y : 7t{6[exp(IKt) K] 一P 十 (1 一 6) [exp (A,t) L] Tp}一’ip (1) ただし, Y,K, L:それぞれ実質付加価値生産額,資本投入量と労働投入量 γ,δ,ρ:それぞれ効率,分配,代替のパラメーター λK,λL:それぞれ資本効率,労働効率の変化率を表すパラメーター t:1980年,85年,92年をそれぞれ1,6,13とするタイムトレンド である。 この生産関数はλKとλしの大小関係から非中立的な技術進歩も検出できると 4) いう特徴をもつ。ただし,1/(1+ρ)で与えられる代替弾力性が1であると き,すなわちρ=0のときはコブ・ダグラス関数に帰着し,技術進歩も必ず中 立的となる。 推定は(1)式の対i数型, lnY = ln7t 一 (1/p) ln{6[exp(1.t)K]一P 十 (1 一 6) [exp(aLt)L]’”} (2) 5) を非線形回帰して行った。CES生産関数は通常,利潤極大化や費用極小化の一 階の条件式を用いて推定するが,それが妥当かどうか,中国経済については疑 問となる可能性を考慮したからである。 非線形回帰は残差平方和の最小化を繰り返し計算で行うため,推定すべきパ 4)陳1991を参照されたい。 5)非線形回帰については,たとえばJudge et al.1982を参照されたい。計算はTSP 4.2B を用いた。96 彦根論叢 第290号 ラメーターの初期値を与える必要がある。初期値の設定は次の手順で行った。 1. 2. λK=λL=λとし,(2)式を次のように書き換える。 lnY = ln7十 At一 (1/p) ln[6KnP 十 (1 一 6) LrmP] (3) (3)式右辺,1n[δK一ρ+(1一δ)L一ρ]の部分をρ=0の近傍でテーラー展 6) 濡し,次の近似式を導く。 lnY = ln7 十 At十6 lnK 十 (1 一 6) lnL 一(1/2)ρδ(ユーδ)(lnK−1nL)2 (4) 3.(4)式を ln(Y/L) = ln7 十 At十 6 ln(K/L) 一 (1/2)p6(1 一 6) [ln(K/L)]2 (5) と書き換え,回帰式 第4表 CES生産関数の推定結果 軽工業 重化学工業 国有企業 郷鎮企業 国有企業 郷鎮企業
γδρ
KLE2
λλSRn
3.393 (O.574) e.159 (O.148) 一〇.983 (O.867) 一〇.OOI (O.068) O.021 (O.034) O.720 0.832 135 1.556 (O.206) O.397 (O.087) O.087 (O.161) O.055 (O.306) O.052 (O.191) O.957 0.763 174 2.373 (O.249) O.217 (O.049) O.289 (O.216) O.268 (O.213) O.040 (O.027) O.694 0.764 381 1.610 (O.206) O.013 (O.032) 一1.IOI (O.963) O.136 (O.106) O.052 (O.018) 1.024 0.637 243 SE, R2, nはそれぞれ回帰の標準誤差,決定係数とサンプルサイズ。カッコ内は標準誤差。 6)この近似についてはKmenta 1986,514−15;金子1982,27−28を参照されたい。中国重慶市の国有企業と郷鎮企業二生産関数の分析 97 1n(Y/L)=bo十blt十b21n(K/L)十b3[ln(K/L)]2
のOLS推定で得られる
7= exp bo A =b, 6= b, p == 一2b3/[b2(1 一 b2)] を初期値とする。ただし,λはλK,λL共通の初期値である。 推定結果は第4表のようになった。どの産業,どの企業ともρの推定値は標 準誤差が大きい。仮説ρ=・ Oが棄却できない形である。 B.コブ・ダグラス関数 上記の結果をうけて,生産関数はコブ・ダグラス型,Y= ev exp(lt) K” Li−fi (6)
とした。パラメーターはα,β,λの3つで,βは資本の生産弾力性,λは技術 第5表 コブ・ダグラス生産関数の推定結果 軽工業 重化学工業 国有企業 郷鎮企業 国有企業 郷鎮企業 α n l βE2
λSRn
1.285 (O.128) O.239 (O.079) O.013 (O.013) O.722 0.829 135 O.424 (O.122) O.373 (O.048) O.054 (O.015) O.952 0.763 174 O.914 (O.066) O.127 (O.023) O.066 (O.007) O.697 0.761 381 O.461 (O.113) O.097 (O.044) O.063 (O.013) 1.026 0.632 243 SE, R2, nはそれぞれ回帰の標準誤差,決定係数とサンプルサイズ。カッコ内は標準誤差。決 定係数はそれぞれ,(7)式から算出されるlnYの推定値とその観測値の相関係数を自乗して求 めた。98 彦根論叢 第290号 進歩率になる。推定は(6)式の対数型,
lnY=lncr十At十P lnK十(1−P) lnL (7)
を次式のように書き換え,OLSで行った。ln(Y/L) := lnev十At十Pln(K/L) (8)
第5表が推定結果である。 第5表が示す各パラメーターの推定値は,国有軽工業企業の技術進歩率λを 除き,すべて5%有意である。また,第4表と比べ,パラメーターが2つ少な いにもかかわらず,回帰の標準誤差や決定係数に遜色はない。推定結果は良好 であったと判断できる。 国有企業と憎憎企業の比較は第5表からも可能であるが,その差が有意かど うかはわかりにくい。そこで各産業,al=α2,β1=β2などの仮説を設定し, 尤度比検定を行った。ただし,添え字1,2はそれぞれ国有企業と郷鎮企業を 表す。検定統計量は以下の手順で算出した。 1.次式のようにダミー変va D,, D2を導入し,(8)式の回帰を国有企業と郷鎮 企業,一括して行う。 ln(Y/L) = (lnai)Di 十 (lnev2)D2 十 ki (Dit) 十 Z2 (D2t) 十β1[Dlln(K/L)]十β2[D21n(K/L)] (9) ただし, Dr:国有企業であれば1,そうでなければゼロ D2:郷鎮企業であれば1,そうでなければゼロ である。 この回帰の残差平方和をURSSとする。 2.たとえば仮説α、=α2を検定する場合は,(9)式を次のように改める。 ln(Y/L) = lna 十 Ai (Dit) 十 12 (D2t) 十 6i [Diln(K/L)] 十 P2 [D21n(K/L)]中国重慶市の国有企業と郷鎮企業:生産関数の分析 99 回帰を行い,残差平方和をRRSS,サンプルサイズをnとすれば, LR = n(lnRRSS 一 lnURSS) 7) が検定統計量となる。 LRは自由度kのX2分布に従う。ただし, kは仮説の数である(上記の例では 1)o 第6表 仮説検定の結果
LR
臨界値aあ
=
業 、エ λ
業222学222勿
工αβλ化αβλβ
軽===重==;=
αβσλ αβ’λβσ 1 9臼 20.65 1.71 4.02 13.86 0.41 0.03 0.47 3.84 3.84 3.84 3.84 3.84 3.84 5.99 a対応するκ2分布の5%点。 第6表が検定結果である。有意水準は5%としたが,軽工業では仮説β,= β2,重化学工業ではβ、=β2とλ1=λ2が棄却できず,後者については複合仮説 β1=β2,λ1=λ2も棄却できなかった。 検定結果を反映した生産関数は,軽工業と重化学工業,それぞれ次のように 定式化して推定できる。 ln(Y/L) = (lnai)Di 十 (lna2)D2 十 Ai (Dit) 十 12 (D2t) 十6 ln(K/L) (10) ln(Y/L) : (lnai)Di 十 (lna2)D2 十 lt 十P ln(K/L) (11) 推定結果は第7表のようになった。その特徴は以下のように整理できる。 7)マダラ1992,62−63を参照されたい。100 彦根論叢 第290号 1.いずれの産業部門も国有企業・郷鎮企業間で資本の生産弾力性βに差がな く(したがって労働の生産弾力性1一βにも差がなく),残るパラメーターα, λの大小が技術効率の優劣に直結する。 2.いずれの部門も高温企業の定数αは小さい。しかし,郷鎮軽工業企業の技 術進歩率λは国有企業を上回る。 3.重化学工業では技術進歩率の差はない。技術効率は郷鎮企業が劣ることに なる。 第7表 生産関数の最終推定結果 軽工業 重化学工業 国有企業 郷鎮企業 国有企業 郷鎮企業 lncr β
E2
λSRn
1.181 (O.130) O.012 (O.015) O.826 O.349 (O.039) O.860 309 O.429 (O.110) O.055 (O.013) O.764 O.936 (O.068) O.762 O.115 (O.022) O.065 (O.007) O.839 624 O.440 (O.071) O.631 SE, R2, nはそれぞれ回帰の標準誤差,決定係数とサンプルサイズ。カッコ内は標準誤差。決 定係数はそれぞれ,(7)式から算出されるlnYの推定値とその観測値:の相関係数を自乗して求 めた。 C.等量曲線と生産性 第1図のF1, F2はそれぞれ,推定した生産関数から得た軽工業,国有企業と 郷鎮企業の等量曲線であり,1992年の生産1単位を可能にする資本,労働の組 み合わせを示す。F2は常にF1の外側にあり,郷鎮企業の技術効率の劣ってい たことがわかる。郷鎮軽工業企業の技術進歩率は国有企業を上回っていたが, 1992年現在の効率レベルはまだ,国有企業が優った形である(単純に外挿すれ ば,技術効率の逆転は1997年目なる)。 図中の(K/L)1,(K/L),は,メディアンで代表させた国有企業と郷鎮企業の 資本労働比率を表す。生産点(国有企業A,郷鎮企業B)における資本生産性,中国重慶市の国有企業と郷鎮企業:生産関数の分析 101 労働生産性と限界代替率を左右する重要な比率であるが,第8表が示すとおり, その値は国有企業の方が高かった(この大小関係は平均値でも同様であった)。 K F, 2.5 2 1.5 1 O.5 F, v...... 06 第1図 軽工業, なお,表の資本生産性, 出した。
A/金
.. (K/L), . (KIL),O.2 O.4 O.6 O.8 L
国有企業と郷鎮企業の等量曲線(1992年,Y=1) 労働生産性と限界代替率はそれぞれ,以下のように算 Y/K = a exp(13A) (K/L)P−i Y/L = a exp(13a) (K/L)” (aY/aL)/(aY/aK) = [(1 一 6) /B] (K/L) 第8表 資本労働比率と生産性,限界代替率(1992年) 軽工業 重化学工業 国有企業 郷鎮企業 国有企業 郷鎮企業 資本労働比率 資本生産性 労働生産性 限界代替率 3.22 1.78 5.74 6.01︵U758
4724
9自144
5.89 1.23 7.25 45.1 2.55 1.57 4.01 19.5 重化学工業部門の等量線図は省略するが,曲線の位置関係は第1図と同じく,102 彦根論叢 第290号 常に郷鎮企業のものが外側にあった(これは生産関数の推定結果から明らかで ある)。資本労働比率の大小関係も同じであった。ただし,軽工業に比べ,等量 線は国有企業,郷鎮企業とも垂直方向に拡大,水平方向に縮小した形であった。 また,第8表が示すように,資本労働比率は高く,その国有企業・郷鎮企業間 差は大きかった。 各産業,第8表の資本生産性と労働生産性はおおむね,国有企業が優ってい る。技術効率の相違が現れたといえる。唯一,例外は重化学工業部門の資本生 産性であったが,その原因は資本労働比率差の大きさに求められる。この部門, 郷鎮企業の資本労働比率は国有企業の半分にも満たない。労働生産性は低下す るが,その分,国有企業を上回る資本生産性を確保した形である。 第9表 限界代替率と実質賃金率の国有企業・郷鎮企業比(1992年) 軽工業 重化学工業 限界代替率 実質賃金率(メディアン) 実質賃金率(平均) 1 1 O.75 1 1 O.58 1 1 O.86 1 : O.43 1 : O.55 1 : O.64 第9表は限界代替率と実質賃金率の国有企業・郷鎮企業比を計算したもので ある。いずれの産業も限界代替率は郷鎮企業が低く,格差の程度は重化学工業 部門で大きいが,同じことがメディアン,平均,いずれの実質賃金率について もあてはまる。限界代替率,したがって資本労働比率の相違が実質賃金率の格 差で説明できる形である。資本コストのデータがなく,実質賃金率だけで判断 せざるを得ないのであるが,資本労働比率の国有企業・郷鎮企業差,そしてそ の差の産業部門による相違は,要素価格の状況と矛盾しないようである。 IV.結 以上,中国重慶市の国有企業と郷鎮企業の生産関数を比較分析した経過,結 果を報告した。分析結果は次のようにまとめることができる。 1.軽工業と重化学工業,いずれの部門も郷鎮企業の技術効率は劣位にあった。 ただし,郷鎮軽工業企業の技術進歩率は国有企業を上回った。
中国重慶市の国有企業と郷鎮企業:生産関数の分析 103 2.総じて郷鎮企業の資本生産性と労働生産性は,国有企業に及ばなかった。 技術効率の劣位が反映した形である。 3.ただし,郷鎮重化学工業企業の資本生産性は国有企業を上回った。国有企 業に比べ,その資本労働比率が極めて低かったからである。 4.郷鎮企業の資本労働比率は軽工業でも低かった。当該比率の国有企業・郷 鎮企業間差は要素価格差を反映する形であった。 国有企業を上回る郷鎮企業の成長は重慶市でもみられた。しかし,こと生産技 術に関しては,郷鎮企業の優位性は実証できなかったといえる。 引用文献 Byrd, William A., and Lin Qingsong. 1990, “China’s Rural lndustry : An lntroduction.” C痂η爵Rural Indmst7zy:Structure, Develo勿zent, and ROfoua. Ed. Byrd and Lin. Oxford : Oxford UP. 3218. 陳光輝.1991.「雇用吸収力の計量分析:台湾,インドネシア製造業の比較」 『彦根論叢』 272 : 103−15. 中国重慶市中小企業振興日中共同研究会日本委員会.1994.『中国重慶市中小企業振興研究 報告書:中国重慶市中小企業の現状と課題』大阪:太平洋人材交流センター. 厳善平.1993.「二心企業の成長と中部経済開発」丸山243−74. 呉軍華.1993.「江蘇・翫江の経済成長と発展モデル」丸山157−90. Judge, George G., et al. 1982. “Nonlinear Regression Models.” lntroduction to the Theory and Practice of Econometn’cs. New York : Wiley. 633−63. 金子敬生.1982.『経済分析の計量的方法』東京:日本評論社. Kmenta, Jan. 1986. Elements of Econometn’cs. 2nd ed. New York: Macmillan. マダラ,G. S.1992.『計量経済分析の方法1和合肇訳.東京:マグロウヒル. 丸山伸郎(編).1993.『長江流域の経済発展:中国の市場経済化と地域開発』アジアの経済 圏シリーズ3.東京:アジア経済研究所. 膠元和・郡元平・難山・梁志全.1988.f重慶市隠鎮企業研究主報告」重慶社会科学院経済 発展研究所『重慶市旧劇企業研究報告』重慶:重慶社会科学院経済発展研究所.1−30.