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情報会計の展開

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情報会計の展開

清  水  哲

雄 1 序  伝統会計の理論は,企業における会計事象をどのように認識し,どのよう に測定し,これをどのように情報として開示するかという観点から研究が進 められてきた。換言すれば伝統会計の理論は,会計情報の提供者の側からの 会計事象の認識→測定→伝達のルールを定めることに中心があった。  企業会計をその目的の視点から考えると,財産計算を中心とする静的会計 観,損益計算を標榜する動的会計観,さらに情報論的アプローチによる情報 会計観にわかれる。情報会計観は会計情報の利用者側から要求される会計の あるべき望ましい姿を演繹的に導き出そうとするものであるのに対して,前 二者は法的な制度に縛られた会計情報の提供者の側に立った会計観である。  静的会計観,動的会計観は存在論的会計思考であり,情報会計観は規範論 的会計思考であるが,曾ての規範論的会計思考のFritz Schmidtによる有機 観とはその内容が異なる。Schmidtの有機観は第1次世界大戦後のドイツの 激烈を極めたインフレーションの下での損益計算のあり方を思考したもので あって,ここにいう情報会計観とはその立場を異にしている。したがって動        ユ  的会計論を近代会計学と呼ぶならば,情報会計論は現代会計学といえよう。 しかして現代会計において要求されるものは「対象の正確な計数的表象」と 1)現代会計学では会計情報を利用者の側に立ってみる思考に変化してきている。1966年 のAStatement()f Basic Accounting Theo7yはその典型であり,その後の情報会計に 関する論攻も利用者指向user orientedの会計観である。z.B. LIU, CHAD M.:Variation in Accounting lnformation Load;The /mPact of Disclosure Requirements of FASB Statement IVo.33 On Cash Flow Predictions of Financial Analysts U.M.1. 1982.

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2   彦根論叢 第268号 しての会計情報の測定と,「意味ある知らせを伝える」ものとしての伝達を明 確に区別し,会計情報の測定にあたっては事実をありのまま写像し,会計情       2) 報の伝達にあたっては有用な情報の提供がなされなければならない。  本小論では企業会計目的観の変遷をたずね,それらに対する会計測定の原 理を考察し,さらに技術革新の社会環境における会計の姿と有用な会計情報 とは何かを考察したい。 II企業会計目的観の変化による会計測定の対応  企業会計の目的観の相違によって会計の測定は相異る。かの有名なフラン ス商業条例Ordonnance de Commerce 1673は,あの当時悪徳商人による詐欺 破産が横行したので,国王ルイ14世が時の宰相Jacques Savaryに命じて作 らせたものである。これは債権者を保護するための法律であり,商人は2年 に1度財産目録と,これを基礎にした貸借対照表を作ることを命じたもので, これによって債権者も企業家も企業の支払能力を知ることができた。したが ってその測定原理は企業資産の処分価値をあらわす時価である。この財産計 算的思考が1807年のフランスの商法を経て,ドイツー般商法典1862年Das allgemeine Handelsgesetzbuch von 1862に到達した。その後ヨーロッパは 産業革命を経験したのであるが,それは資本主義の先進国から始まり,英国 は1730年代の紡績機械の発明に端を発し,欧州全体としては1825年以後で  3) ある。  産業革命の企業会計ないし企業財務へのインパクトは,機械等の設備投資 による資本の固定化をもたらしたことである。さらに1870年∼1871年の普仏 戦争は,経済的には景気の上昇をもたらし,それはやがて物価騰貴の引き金 となった。このような経済環境にあって商法規定による時価評価は企業に莫 2)山形池内:「会計情報の有用性について」『経営研究』大阪市大 第40巻第2号 1989 年7月. 3)アメリカは欧州よりややおくれ,1830年代とされている。また日本は日清戦争(1895 ∼1896)以後とされているが,産業革命全体としては18世紀の中葉から19世紀の中葉が その時期とされている.

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       情報会計の展開   3 大な利益を生んだが,この利益はいわゆる架空利益であり,しかも商法によ れば,この利益は発生の源泉を問わず配当しなければならないことになって いるので,実質的には資本の喰いつぶしになるという矛盾を蔵している。さ らに資本の固定化による多くの設備財を決算時に時価評価することは困難で ある等のことから,商法と健全な企業の維持発展を望む当然の姿としての損 益計算との緩和策として主観主義価値説が現れたのである、1879年にSchef− flerは設備財には取得原価,販売財には販売価値で資産を評価することを提 案し,また1886年にHermann Veit Simonは使用を目的とする財(=設備財) には使用価値,販売を目的とする財(=販売財)には交換価値を適用すべき ことを提案した。このSchefflerやSimonは商法による時価評価を採る財産 計算のみの会計目的から一歩踏み出したことは評価されるが,依然として財 産計算を重視している。  それでは動的会計観の先駆者は誰かというと,SchmalenbachはVon Wil− mowskyをあげている。彼は1891年にその著「所得税法」において,貸借対 照表の目的は財産計算ではなく,営業経営によって得られた利益あるいは損 失の算定であると主張した。動的会計観の第二の先駆者としてあげられるの はRudorf Fischerである。彼は1909年にその著「貸借対照表価値原理」にお いて,貸借対照表は財産の表示ではなく複式簿記を基本として成立するもの で,商人の損益計算を目的とするものであると主張し,貸借対照表はその当 時の設備や物品がもつ原価であり,損益計算上歯期間に配分すべきものを収 容したものであるとする原価価値説を提案した。

 このように評価論についてはSimonはSchefflerを継承したと同様に

FischerはWilmowskyを糸区縛したのである。  損益計算を企業会計の目的に据え,動的会計観を確立したのはKdln大学 のEugen Schmalenbach(1873.8.20 一一 1955.2.20)である。 Schmalenbachは 1908年に商業研究雑誌Zeitschrift fUr handelswissenschaftliche Forschung 第3巻第3号に「減価償却Abschreibung」なる論文を掲載し,財産貸借対照 表か損益貸借対照表かを設問し,これがSchmalenbachの動的会計観のはじ

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4   彦根論叢 第268号 めとされている。1919年には「動的貸借対照表論Dynamische Bilanz」とし て公刊され,動的会計観を完成させた。  Schmalenbachは全体利益は部分利益の和であるといういわゆる一致の原 則Grundsatz der Kongruenzから説き起こし,ついで企業に発生する利益を 経済性の表現Der Gewinn als Ausdruck der Wirtschaftlichkeitとして捉え たところに彼の動的会計観の特徴を見出すことができる。そして彼の損益計 算の理論を支える原理としてつぎの4つを措定する。① 継続性の原理Der

Grundsatz der Kontinuitat②比較性の原理Der Grundsatz der

Vergleichbarkeit③ 計算確実性の原理Der Grundsatz der Sicherheit der Rechnung④ 用心の原理Der Grundsatz der Vorsichtこのうち計算 確実性の原理として費用や将来費用となる資産について取得原価主義を採り,       4) また収益については実現主義 Realisationsprizipを男用っている。これらは今 日広く制度会計の領域に用いられている重要な会計原則となっている。  上に述べてきた静的会計観や動的会計観は貨幣の公準のうちの貨幣価値一 定の公準の下になされてきた存在論的会計観であり,また伝統的会計と呼び 得るものである。この場合の企業会計によって作り出される会計情報は会計 情報の提供者すなわち企業の楽ないしは経営者側に立つ会計情報である。し たがって費用・収益の測定原則も取得原価主義と実現主義であり,伝統会計 はこの2つの原則の上に成立しているもので,この単一の会計情報を種々の 利用者が自己の利害に照らし合わせて調整することになっている。  ここで会計目的が損益計算から情報提供へと変る時代の移り変りを考察し てみよう。アメリカは1957年から1958年にかけて経済的不況を経験し,さら に1960年代前半には経済が伸びず,国際競争力が衰え,国際収支も赤字が増 大した。アメリカ国内の不況による過剰資本は一方では資本輸出による巨大 企業の海外進出を促し,企業の国際化,多国籍化となり,また他方ではドル 4)Eugen Schmalenbach ’」Dynamische Bilanz Auf1.121955.土岐政蔵(1893.2.16∼ 1963.7.25)訳『12版・動的貸借対照表論』森山書店昭和34年pp.5∼13.土岐政蔵  「シュマーレンバッハの人と業績」『名古屋商科大学論集』第7巻昭和38年9月.

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      情報会計の展開   5 安による外国資本のアメリカ株式市場への流入となってM&Aが盛んにな った。1960年代後半にはGNPの伸びがさらに衰え,設備投資の減退,製造業 の利益率の低下,売上げの伸びの鈍化等から企業の生き残り戦略としての企 業合併や資本集中化の傾向があった。この時代はまたベトナム戦争の時代 (1959年∼1973年)でもあった。この戦争のための費用は莫大でアメリカ国 民の負担は増大し不況の中でのインフレーション(スタグフレーション)を 促した。このように1960年代の前後はアメリカにとって内憂外患の時代であ り,アメリカ経済の沈滞とインフレの悪環境のもとでの大企業の複雑化,多 元化をめぐって会計理論の拡大化とともに会計のディスクロージャという目 的から会計情報の利用者の意思決定に役立つような情報提供を求める声が利       5) 用者側から発生したのである。  1900年代の初頭に財産計算を中心とした会計観が時代の要請としての損益 計算へと推移したと同様に,1960年代後半に至ってまた会計の目的が時代の 要請によって推移したのである。  従来の会計はこの激変する技術革新の新たな波と貨幣価値の変動がなされ ている現実に直面しては,従来の会計的手法では会計情報の受け手の側は満 足し得る会計情報が得られなくなってきた。ここに会計情報の受け手すなわ ち会計情報の利用者指向の必要性が生じてくる。この利用者指向による会計 情報作成上の指針guideline for communicationの第1に挙げられるのは, 会計報告書について必要な判断を下すことができるようにするためには,ど のようなことを会計報告書に盛り込まなければならないかという予期される       6) 利用への適応appropriateness to expected useである。そしてこのような指        7) 針に従って原価と時価の2本建による財務諸表の作成を要請している。 5)山本繁「ASOBATの評価と問題点」『会計学研究』日本大学会計学研究所No.1 1984年. 6)AAA A Statement(of Basic.A ccounting Theoiy(以後ASOBATと略称する) 1966 p. 7.飯野利夫訳『基礎的会計理論』 1969年 国元書房 12ページ. 7)AAA ASOBAT pp.82∼92.飯野利夫訳 前掲書pp.117∼130.

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6  彦根論叢第268号  しかしてASOBATでは会計をつぎのように定義している。すなわち,会 計を情報の利用者が判断や意思決定をおこなうにあたって,事情に精通した うえでそれができるように,経済的情報を識別し,測定し,伝達する過程で     あるとしている。これは正に情報作成の指針にあるように,企業会計はその 利用目的に適合する会計情報を提供するものであり,情報会計は利用目的適 合性をもつ会計でなければならない。したがってASOBATが示す基本的会 計基準basic accounting standardsとしての4つの会計基準たる①目的

適合性relevance②検証可能性verifiability③不偏性freedom from

       9) bias④計量可能性quantifiabilityは会計情報の利用者側(受け手)から要 求される会計基準である。  さらに従来の企業会計は貨幣価値の変動に対して無力であったが,情報会 計は利益の内容を分析し,保有による利益holding gainsと操業による利益 operating profitsを峻SIJする能力をもつ。制度会計における取得原価主義で は,名目的,統一的ではあるが,実質的にはバラバラの価値水準による測定 尺度をとる。これに対して情報会計では取得時を明らかにした取得原価主義 を採るものとされるから,その時の貨幣価値水準が判明するので,会計情報 の利用者は情報要求に満たされたものを得ることができる。また財産計算を 目的とする場合の測定基準たる処分時価を意味する時価ではなく,カレント コストによる時価を用いるから,これはむしろ企業の生産力を維持するため の時価を意味すると考えられる。先きに示した原価と時…価の複数表示は会計        10) 情報の利用者にとってはその目的による利用方法の要求に応じ得る。  Edwards=Bellは会計についてつぎのようにその有用性を強調している。 すなわち会計資料は経営意思決定を評価する手段として役立てられ,それに よって(1)当期の生産過程を統制し(2)未来の意思決定をよりよいもの 8)AAA ASOBAT p L 飯野利夫訳 前掲書 2ページ. 9)AAA ASOBAT p.8.飯野利夫訳 前掲書 13ページ. 10)阪本安一「会計目的と会計測定との関連性」『商学論集』大阪学院大学 第13巻第1  号 昭和62年4月.

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       情報会計の展開   7        11) にし(3)意思決定の過程そのものを改善することに貢献することであると しているが,これはASOBATが公刊される4年前にすでにこのように会計 の目的を経営意思決定に有用ならしめんとする考えのもとに会計理論を展開 しようとしている。Edwards=Bellにおける経営に係わる意思決定は未来の 行動に関するものであり,また利潤に係わる意思決定は当該企業が最大利潤 を生むような行動コースを選択することに向けられる。したがって企業目的 としての利潤(経済的利潤)は未来に関するものであると同時にまた期待値          12) としてあるものである。しかして利益概念として,保有利益と操業利益とを 峻別するためにカレントコスト概念を導入している。 III社会的環境の変化と会計の機能  今日の企業は技術革新の波と物価変動の波に揉まれつつ生きている。この ような環境にあって今日の制度会計は企業の経営成績を算定し,財政表示を するのであるが,物価変動の観点からいっても企業の実態を正しく測り得な いのが今日の状態であろう。今日制度会計で採用されている取得原価主義は 激動する経済環境のもとではこれを見直さざるを得ない。前節で述べたよう に企業会計の目的が損益計算から情報提供へと移るとともに会計報告も過去 的なものから未来予測へと移り変ってきている。ASOBATに示されている   13) 付録Bは取得原価とカレントコストの併記によって企業環境の変化を財務諸 表を利用する種々の読者にそれぞれの立場から読み取らせようとするもので ある。  このように会計情報の利用者が異なれば,単一の会計情報では役立たなく なるために多元的評価が指向されることになるが,このようなアプローチを とる研究者には先きのEdwards=BellやChambers, Bedfordなどがいる。 11) Edwards, Edgar O. & Bell, Philip W.:The Theo73, and Measurement of Barsiness  Income 1961 University of California Press p.4.中西寅雄監修,伏見多美雄,藤森三  男訳編『意思決定と利潤計算』日本生産性本部 昭和39年 3ページ. 12)Edwards=Bell ibid. p。32.訳書25ページ. 13)ASOBAT pp.82∼95.訳書pp.117∼133.

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8   彦根論叢 第268号 Edwards=Be11は資産の評価にあたって,現在再調達原価current replace− ment costで示すシステムを推奨し, Chambersは現在現金換金法current cash equivalentと呼びたいと主張する計測システムを提供し,またBedford は再調達原価replacement cost,正味実現可能価値net realizable values,       14) 主観価値subjective valuesを織り込んだ混合システムを展開した。これらの 諸提案は取得原価主義による会計情報に対して情報提供という側面から量的, 質的欠点を補うために代替的計測基礎を織り込む会計情報のモデルを提案し たものであり,単一的計測による会計情報よりは有用性は高いであろうが, しかしこれとても大多数の情報利用者のごく一部の人に有用であるためにわ ざわざすべての可能な計測方法を用いて,考えられ得るすべての資料を報告        15) する必要があるから無駄が多いとレヴジンは手厳しい。  会計の役割は一方においては企業の現状を正確にタイムリーに認識し,測 定し,これを報告することであり,他方においてはASOBATのように会計 的測定に原価のみならずカレントコストをもとり入れて企業の状態を正しく 情報目的に適合するように認識し,測定することである。  費用・収益対応の原則は単に期間の発生費用と期間の実現収益との対応表 示を求める原則ではなく,両者の因果関係を求め,どのような原因によって どのような結果が生じたかを知るための原則である。今日の企業活動に影響 を与えるのは,企業内に起きる事象だけではなく,企業外部に起こる事象も 大きな影響を与える。したがってそれらの事象を会計的認識の対象とし,会 計記録をしなければならない。さらに逆に企業が影響を及ぼした社会的事実 についてもこれを記録し報告しなければならない。  企業の経営者は彼の意思を下位部門たる受け手に対して将来とるべき行動 予定を建て,これを将来の行動モデルとして伝達する。情報の受け減たる各 部の責任者はその指示に従って実行した結果を情報の送り手たる経営者に報 告する。これがフィードバックである。そしてフィードバックされた情報は 14) Revsine, Lawrence:RePlacement Cost Accounting Prentice−Hall 1973 p.10. 15) Revsine, Lawrence:ibid. p,16.

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       情報会計の展開   9 さらに経営者において予定と実績の比較による差異分析をし,その結果を再 び各部の責任者に伝達して反省の材料とし,情報の送り手も将来の行動の予 定を建てる場合の良き材料となる。このtwo waysの情報の流れが情報会計         16) の大きな特徴である。  伝統会計の殻を破るアプローチの1つに意思決定有用性アプローチがある。 ASOBATによれば,会計は企業の利害関係者が企業に対して合理的な意思 決定に役立つ経済的情報を作成しこれを伝達することであるとしているが, 会計情報が利用者の意思決定に有用であるためには,会計情報はどのような 属性を備えていなければならないかという要請に応えるために情報基準をル ールとして定めなければならない。これは会計情報の利用者側から要請され る会計情報の基準であり,ASOBATのいう4つの会計基準がこれにあたる。 元来情報会計の発展方向として2つある。1つは企業の将来の発展を損益計 算書と貸借対照表によって表わそうとするもの,他は会計情報の利用者特に 投資家の意思決定に役立つようなモデルを設定し,それに満足を与えるよう        17) な情報を提供するものである。前者は企業自体の立場から企業に生起する経 済事象をあるがままに写像することによって有限な資源の有効な利用をはか り,会計の社会的使命を果たそうとするものであり,この考え方はASOBAT      18) の会計目的観に準処し,会計情報が特定の利害関係者,例えば投資家に役立 つというよりもあらゆる利害関係者に役立つことが重要とされる。したがっ てこの場合の会計は社会的制度としての企業体,したがって企業体理論busi− ness entityを前提としなければならない。しかしこのASOBATが標榜する 情報会計の理念ないしこれを支える利用者指向の4つの会計情報基準は抽象 的,観念的であるために具体的に意思決定をおこなう情報利用者を特定し, その価値基準を想定し,この意思決定のルールを組入れた意思決定モデルを 作成し,このシステムのインプット要素として必要な情報の内容を明らかに 16)阪本安一「企業環境の変化と会計の役割」「税経通信』第42巻第12号 17)武田隆二『情報会計論』中央経済杜 昭和46年 23ページ. 18>ASOBAT p.4.訳書pp,5∼6. 昭和62年11月.

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10  彦根論叢第268号        19) するという研究方法がとられるようになった。たとえばAAAの外部報告委 員会は投資者評価モデルおよび配当予想モデルにおける投資者側からのニー ズとしての諸変数を先ず確定し,この諸変数を潜在的に満足させると思われ る有高量(z.B.棚卸資産)および活動量(z.B財貨および用役の販売)の一覧 表からインプット項目を選択し,その有高量および活動量のインプットの属 性(棚卸資産についての歴史的原価,現在貨幣原価等)が諸変数を満足する ものかどうかを検討するという方法を示している。  Revsine, Lawrenceはある特定のグループが求める情報ニーズに焦点をあ       20) ててその会計情報を模索する。彼は特定の利用者グループとして長期持分投 資家をあげる。その理由は,①長期持分投資家long−term equity investors は取引の数と量とにおいて外部会計報告書の多くの利用者グループのなかで 最も重要である。②長期持分投資家は他の利用者グループよりも多方面に わたって外部会計報告書に依存する。③一般に長期持分投資家の情報ニー       21) ズは予測資料predictive dataに向けられるからである。  一般に投資家を情報利用者として特定化した場合,投資家は株式投資収益 率の期待値あるいはそれからの期待効用の最大化を求めており,株価は企業 の将来のキャッシュ・フローあるいは分配可能利益フローの正味現在価値を        22} 反映するものとして,この推計を容易にする会計情報を求めている。しかし このアプローチが成功するためには設計された意思決定モデルが情報利用者 の現実の行動を説明し,かつ予測できるという条件を備えていなければなら ないし,また情報提供者は情報利用者の要求に対して忠実に行動する奉仕者 であるという重大な仮定が成立していなければならない。これを検証する方 法は情報利用者が会計情報を入手した時に,この会計情報に反応して何等か の行動を起したかどうかを調査することで,この会計情報の有用性を検証し 19) A Report of the 1966−68 Committee on External Reporting, “An Evaluations of  External Reporting Practices,”the Accounting Review, Supplement to Vol. XLIV,  1969 pp.78 A−123. 20) Revsine, Lawrence:op. cit. p.19. 21) Revsine, Lawrence: op, cit. p.29.

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      情報会計の展開   11 得る。これを要するに会計情報はone wayではなくリアクションとしての two waysでなければならず,フィードバック機能を果たすことによって,さ        23) らに精選された会計情報が提供されることになる。尤も情報会計は利用者指 向の会計であるが,情報作成者指向の会計も情報会計の範疇に入れようとす る研究者もいる。その根拠は会計は元来フィードバック機能をもつものであ り,情報の作成者すなわち提供者も亦広い意味では情報の利用者であると考        24) えることができるからである。しかし先きに述べた静的会計観や動的会計観 においては制度会計として会計情報は情報提供者によるone wayであり,フ ィードバック機能をもってはいない。  伝統会計の殼を破るアプローチの1つに意思決定有用性のアプローチがあ ったが第2のアプローチは最近論じられ始めたエージェンシ理論のアプロー チである。所有と経営が分離している大企業では資本提供者たる株主や債権 者はプリンシパルであり,この資本の運用を任された経営者はエージェント である。エージェントがプリンシパルのために自己犠牲的に行動し,株主の ためには株式価値の最:大化,債権者のためには負債価値の最大化を目指して 最善の意思決定をし努力すれば問題は起きないが,経営者も亦1人の経済人 であり,自らの効用を最大化にすべく行動すれば,プリンシパルとエージェ ンシーとは時として利害が相容れないことが起きる。この時プリンシパルの 22)決算発表と株価の反応の因果関係の研究は最近コンピューターを用いて多くのデータ  を処理し,優れた研究成果を挙げている。たとえば,桜井久勝,後藤雅敏「決算発表に  対する株式市場の反応1・II」『企業会計』第37巻第11号,第12号 昭和60年11月,12月.  後藤雅敏「決算発表に対する市場反応時点の検出」『会計』第133巻第5号 昭和63年5  月.後藤雅敏「個別決算情報の公表と日次株式収益率の変動一会計数値の情報効果一」  『彦根論叢』第253,254号合併号 昭和63年12月.またShigeki Sakakibara, Hidetoshi  Yamaji, Hisakatsu Sakurai, Kengo Shiroshita, and Shimon Fukuda:Theノの碑6∫θ  Stock Ma「feet・Pricing Systems and A ccounting lnfo rmation Praeger 1988の第6章  The Usefulness to Investors of the Accounting Disclosure Systemでは会計情報の投  資家への効用を論じている。 23)石塚博司「会計情報の需要と供給」『会計ジャーナル』第20巻第3号 昭和63年3月. 24)大崎美泉「情報会計におけるアプローチの検討一会計政策の問題を中心として一」  「経済論集』大分大学 第39巻第6号 昭和63年2月.

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12  彦根論叢 第268号 側からみればエージェンシー・コストが発生する。このエージェンシ・コス トを軽減するためにエージェントがどのような行動をし,その結果どのよう な経営成果が得られたかをフォローする必要があり,このためにプリンシパ        25) ルはその立場において会計情報の開示を求める。したがってプリンシパル側 の情報利用者の要求に応えてエージェントは情報を提供することになるが, この情報生産の誘因としてはつぎのものが考えられる。これは又,情報提供 のフK一ドバックされたものとしてこれを受けとめることができる。①経 営成果が向上した会計情報をプリンシパルに提供すれば,そのリアクション としてエージェントはより多くの報酬を期待することができると同時に社会 的名声等の非金銭的報酬をも得ることができる。② 高い経営業績を誇示す ることによって,他のライバルに勝ち,自己の地位を不動のものにし彼の生 活基盤も安定したものになる。③ 低コストの資金を調達できれば投資機会 は増大し,経営成果もあがるので,自己に有利な情報は好んで提供するが, 時には自己を有利に導くために虚偽の会計情報(2.B.粉飾経理)などの提供も     26) なくはない。それのみならず日本の企業経営をアメリカのそれと比較して人 口に謄災されるのは,アメリカではエージェントの経営成績の努力をプリン シパルは短期的にしか考慮しない結果,経営の長期的展望に欠ける結果が表 われている場合がある。この点わが国はいわゆる日本的経営の1つといわれ る終身雇用制による下からの叩き上げが効を奏していて企業としては長期利 益計画を建て,状況に応じて中期・短期と弾力的に対処可能な企業環境を作 り上げているのは平なことである。  今日の大企業は自らの利益追求とともに企業が創造した付加価値の増大を も追求する。企業の付加価値を構成するものは,純付加価値として企業の利 潤,地代,利子,賃金,租税であり,さらに減価償却費,賃借料,保険料, 25) GUnter Bamberg and Klaus Spremann(Eds.): Agency Theo?y, lnformation, and  Incentives Springer−Verlag Berlin ・ Heidelberg 1987, 1989. Section 2”lnformation  and lncentives, lnformation Systems for Principal−Agent Problems” by Volker  Firchau pp.81’一83. 26)石塚博司 前掲論文.

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      情報会計の展開   13 修繕料等を加えて粗付加価値を追求する。これらの付加価値は単に算定され るだけではなく,それが賃金や福利厚生費等として分配される割合,すなわ ち労働分配率や,地代・減価償却費・保険料資本関連項目に対して充当され る割合,すなわち資本分配率,さらに公租公課・社会保険料等の企業負担分 に充当される割合,すなわち社会分配率等として企業の利害関係者に対する 分配の状態を観察することも重要である。付加価値の分配率は時の移り変り とともに変化するが,時代の傾向に応じて分配の公正性,妥当性を求めなけ ればならない。一般的傾向としては粗付加価値の総量の増加によって利害関 係者の要求を充足することになる。付加価値会計の脱会的意義は,これによ って企業の生産物に対する経営努力と,それがもたらす社会的貢献度を表わ すことができることである。  企業戦略としては上に述べた付加価値会計の情報のほかに企業社会会計 corporate social accountingの情報利用がある。企業社会会計とは企業の社 会的情報をその経済的情報と併せて統合し,これを計算表示する会計である。 企業社会会計の目的は,① 企業の人的要素たる従業員の福利厚生の増進を 図り,労働の社会的環境を良好に導くことにより企業内部と利害関係者間の 経済的,社会的利害の調整を図ること。②企業の社会的評価を高めるため に環境整備をおこない,企業の社会的貢献度の増大を図ることである。この 具体的方策としては地域住民に雇用機会を与え,さらに公害の予防・除去を 図ることである。  損益計算を主目的とする企業会計では,貨幣の公準から派生する貨幣測定 の公準postulate of monetary measurementが一般的承認を得ているが,企 業会計が経済的事象のみならず社会的事象をもその対象とするようになって, 貨幣的測定が適用できないような人間の健康状態の向上,公害の除去の程度 等の情報開示は貨幣単位ではない計量化の公準postulate of quantifiability が採用されなければならない。ASOBATの会計基準の第4に掲げられてい       27) る計量可能性quantifiabilityの基準はまさにこれに相当する。 27)阪本安一「企業環境の変化と会計の役割1『税経通信』第42巻第12号 昭和62年11月.

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14  彦根論叢 第268号 IV 技術革新環境における測定一カレントコストー  財がもっている経営経済的価値value to the businessは資産の本質たる用       28) 役の潜在性service potentialsである。潜在用役は財が企業に対して示す貢献 の程度であるが,これによって企業は市場における競争力を高め,その財か ら生ずる生産物の価値の増大を通じて企業に貢献する。技術革新の結果は企 業が有する生産財たる固定資産がもつ経営経済的価値に変動をもたらすとと もにその生産物の価格に変動をもたらすことになる。したがって取得原価主 義を固執する制度会計は,企業の状態に関して公正な写像をおこなうことが できない。  技術革新の影響が全くない場合には企業が現在使用している財の耐用年数 を経過した時,これと全く同一の玉将を再取得することを前提とする再調達 原価を回収することによって企業の資本維持を図ることができる。しかし技 術革新の影響のある場合には現在使用の財と全く同一の財を再調達したので は,企業は新しい時代に取り残されてしまい,時代に応ずる生産活動を継続 することは不可能となる。このような場合には企業会計は,現在使用中の財 の価額をカレントコストによって評価し,これによって資産の費消価値を測 定し,この価値の減耗分を回収する資本維持計算をおこなう必要がある。カ レントコスト会計はこのような社会的要請に応える会計である。  ここでカレントコストを求める計算式を考察してみよう。それは現在使用 中の固定資産と少くとも同一の給付能力をもつ新技術を反映する新資産の価 額を考えなければならない。したがって旧資産と新資産との両者を含む資産 のグループの価格変動指数によって現在使用中の旧資産の取得価額を修正  29) する。 28)資産は予想される営業活動に利用され得る,あるいは役立ち得る用役潜在の総計であ  るとAAAの1957年改訂版は述べている。 AAA:Accounting and Reporting Standards for CoiPorate Financial Statements 1957 Revision, 29) New Zealand Society of Accountants:Gutdance Notes on Current Cost A ccounting /

(15)

       情報会計の展開   15  この計算方法は現在有する旧固定資産の雲雨を基礎として,新資産に比較 し得るカレントコストを導き出すものであって,現在有する旧固定資産はこ のような指数法によって修正される。 辮馨(旧資産の取得原価を基礎とする簿価)・〔

蝌m灘1)

 たとえば取得原価が100万円,減価償却累計額を50万円とし,この固定資産 の取得時の当該固定資産が属する資産グループの価格指数を120,またこの固 定資産の当年度の価格指数を180とすれば,カレントコストは   (¥・,…,…一¥…,…)・揚一¥75・,…とな・.  この方法は当該固定資産が一般市場で取引されるものに限って可能であっ て,この固定資産が特殊なもので一般の市場価格たる時価を容易に決定でき ない時はつぎの方法による。①鑑定評価法……この方法は土地,建物,工 場設備のような立地条件に左右されるものについては,その時価の判定が著 しく困難であるから専門家による鑑定評価を受ける。②市場価格あるいは 取引価格参考法……この方法は現在有する固定資産と類似の固定資産がある 場合,もし市場で売買された例があればこれを参考にしてカレントコストを 決定する。③グループ別修正原価法……これは主として特殊注文品につい て,技術的変化の影響を加味した新製品を含むグループ別の物価指数をもつ       30) て取得原価を修正する方法である。  つぎに棚卸資産について考察してみよう。今日は多品種化の傾向が強く, しかも各種の価格統計が発達してきているので,これらの品種別,グループ 別の価格指数によって修正原価やカレントコストを算定し易い環境になって \Ip.12 par.26 March 1982.pp.42∼43にはその計算:例を付録(1)として示している。  阪本安一  『現代会計の基礎理論』中央経済社 昭和57年 172ページ. 30)阪本安一 前掲書 176ページ.

(16)

16  彦根論叢第268号 きている。再調達原価,取替原価current replacement costをもってカレン        31) トコストとしたり,またこれらの期間平均をもってカレントコストとする研 究者もいる(先きにあげたRevsine,L.もその1人である)が,これは財その ものの取替あるいは再調達を表わすものであって,技術革新の影響による財 の品種の変化には応じていない。そこで固定資産の場合と同じようにカレン トコスト算定にはつぎの算式を用いるのが妥当であろう。 糖・一〔消費し又は払出した財の取得原価)・(

?ォ欝

 たとえば1,000万円(20,000個@¥500)のうち12,000個を@¥600で売却し たとすると,各種の原価概念を用いることにより複数の利益が算出され,こ れを利害関係者に開示することができる。 ①制度会計上の利益=売価一取得原価        120万円=720万円一600万円  ② 架空利益=修正原価一取得原価         30万円=630万円一600万円   (修正原価は取得原価を一般物価水準インデックスによって修正する。    いまここでは一般物価指数を販売時に105とする。)  ③一般的業績利益=売価一修正原価         90万円=720万円一630万円  ④ 技術革新的業績利益=売価一カレントコスト        112万円=720万円一608万円   (グループ別の価格変動指数は取得時の600に対して608とする。)  ⑤ 技術革新による企業業績利益=再調達原価一カレントコスト 31) The Council, New Zealand Society of Accountants : Current Cost Accounting  Recommendation No,エ.,lnformation ReLflecting’ぬ6助6云3(ゾChanging Pn’ces March  1986. Kirkman, Patrick R.A.:Accoornting under lnLf7ationaiy Conditions George  Allen & Unwin LTD. 1974.

(17)

      情報会計の展開   17        12万円=620万円一608万円  (再調達原価を620万円とする。) ⑥業種別業績利益=:売価一再調達原価       100万円=720万円一620万円 ⑦技術革新的原価節約利益=修正原価一カレントコスト        22万円=630万円一608万円

騰脇ト萄藩嬬      売価

      制度 会計上の利益①120万円のうち30万円は一般物価あるいは貨幣価値の変動に よる架空利益②であって一般的業績利益③は90万円である。(b)一般的業 績利益③の90万円には技術革新努力による業績は含まれていないが,技術革 新的原価節約利益⑦22万円を加えたものが技術革新的業績利益④の112万円 となる。(C) 技術革新的原価節約による利益⑦のうち12万円は当該企業の 技術革新的努力の結果として得られた企業業績利益⑤である。(d)修正原 価と再調達原価との差額10万円は当該品種の商品を取り扱う業種一般があげ 得る業績利益であり,将来に対する予測の的中度を示す利益でもあるから,       32) 投機的利益の一種とみることができる。  600万円 608万円 620万円 630万円       720万円

  1一一①制度会計上の利益120万円一1

  1〈一②架空利益30万円一→1←一③一般的業績利益90万円一一一→1

     トー一一④技術革新的業績利益112万円一→1

     技術革新による企業      業績利益12万円        ,      !←一⑤一→1一一一一一⑥業種別業績利益100万円一→1       ⑦技術革新的      1← 原価節約利→1        益22万円 以上のような各種の原価情報によってつぎのことを知り得る。(a) 32)阪本安一「情報会計と会計原則」『企業会計』第38巻第7号‘ コ和61年7月.

(18)

18  彦根論叢 第268号 V 有用な会計情報の要件  AAA1972年のCommittee Reportによれば目的適合性relevanceは財務 報告がもつべき基本的基準primary cr{terionであるとし,しかもこの目的        33) 適合性は将来の事象に関する予想prediction情報の提供を内包している。す なわち会計報告の資料が備えていなければならない要件としては,第1に目 的適合性があげられており,これが他の3つの会計基準たる検証可能性 verifiability,不偏性freedom from bias,計量可能性quantifiabilityの根幹 をなしているのはあたかもわが国の企業会計原則の一般原則の第一の真実性 の原則が他の6つの一般原則の根元をなしているのと同じ重さがある。  それとともに予測問題については会計報告書の読者にとって企業について 予測可能でなければならない。企業に生起する経済事象は市場価格に反映さ れるから,この市場価格の予測に役立つ情報を得るには,つぎの4つの方法 がとられる。 (1)予算資料を利用する予測法……この方法は企業の内部者には入手可能 であろうが外部者は利用困難であろう。 (2)過去における会計資料を利用する間接的予測法……この方法は少なく とも過去5年間以上の連続する会計資料を利用して経済分析などの手法によ りトレンドをみる方法である。 (3)将来を予測するうえに先導的指標Iead indicatorを見付けこれを利用 する方法……この方法も出来るだけ多くの資料を集めて趨勢的に相関関係を 見付けて予測する方法である。 (4)確認できる情報connobolating informationを得て予測する方法… たとえば企業の商品回転率の増減の傾向,売上高の傾向,利益率の傾向など       34) を財務報告書によって確認する方法である。さらにSFAC No.2によれば目 33) AAA : ”Report of the Committee on Corporate Financial Reporting”the Account−  ing Review Supplement to Vol. XLVII, 1972 p.525. 34) AAA:Committee Report. 1972 pp,526N527.

(19)

       情報会計の展開   19 的適合性は適時性timelinessとフィードバック価値feedback valueをもそ        35) の要素として持たなければならない。すなわち会計情報はその利用者が必要 な時にタイムリーに提供されなければ会計情報としての価値はなくなり,ま た会計情報によって影響を受けた結果を情報提供者にフK一ドバックして次 に提供する会計情報の質的向上を図る情報とすれ.ば,会計情報はますますそ の利用者に有用なものとなる。  有用な会計情報となるための第2の要件の信頼性は,基本的には検証可能 性verifiabilityと表現の忠実性representational faithfulness及び中立性        36) neutralityの3つの要素から構成されている。すなわち会計情報は客観的で, 検証的な証拠資料にもとづいて作成され,事実を忠実に写像し,特定の利害 関係者のみに有用であるという偏向biasがないように信頼され得る会計情 報でなければならない。ASOBATは利用者にとって有用な会計情報となる ための要件として4つの基準を示し,そのうち目的適合性の基準をその根元 に据え,他の3つの要件を満たしても尚この目的適合性の基準を満たさない       37} ものは有用な会計情報ではないとした。この点SFAC No,2は有用な会計情 報の要件に目的適合性と信頼性を据えたが,SFAC No.2にある表現の忠実

性はASOBATにはない。そしてASOBATにある計量可能性はSFAC No.

2にはない。これはSFAC No.2が会計情報の質的特性を示すことを目的に しているからである。  AICPAの会計目的スタディ・グループ1973年は,報告の質的特性としてつ ぎのものをあげている。(1)目的適合性(2)重要性(3)形式と実質(4) 信頼性(5)不偏性(6)比較性(7)継続性(8)理解性 以下それぞれ について若干の検討を加えてみよう。(1)の目的適合性……財務情報を識別 し,集約するシステムとしての財務会計は財務諸表の利用者が賢明な経済的 意思決定をなすのを助けることを意図している。したがって意図された問題 35), 36) FASB , Qualitative Characteristics of Accounting lnformation, Statement of  Financial Accounting Concepts No.2, FASB, May 1980 pp.19一一45. pars.46一一110, 37)ASOBAT p.9.訳書 15ページ.

(20)

20  彦根論叢 第268号 点に関係のない情報はそれが如何に他の良い性質をもっていても有用ではな い。(2)の重要性……情報が財務諸表の利用者の経済的意思決定に影響を与 える見込みの大きい時は,財務諸表に開示されなければならない。この要件 を満している情報は重要性のある情報である。重要性の判断は情報が意味す る内容と,利用者の経済的意思決定に対して与える情報の影響力との見地に 立って行われなければならない。さらにまた重要性の判断は財務諸表上の集 約事項ばかりではなく,記載項目の1っ1つについても適用されなければな らない。(3)の形式と実質……形式ではなく実質が情報を支配するように情 報の報告指針が表明されなければならない。すなわち実質優先でなければな らないということである。(4)の信頼性……会計情報は信頼され得るもので なければならないという要件は,情報が100%正確性に近づくことが可能であ ることを意味するものではない。財務諸表情報の信頼性は,その情報のテー マに内在する不確実要因から影響を受けるばかりではなく,測定プロセスの 正確さの程度によっても影響を受ける。財務諸表に示されている価値が真実 なものに等しくなるまでの正確性を求めるのは不可能である。さらに高度な 正確性に到達することは経済性の観点から承認されない。(5)の不偏性…… 財務諸表の作成者と利用者,資金の貸手と借手,買手と売手,特別の利害関 係者グループの人々が財務諸表に関心をもっている。財務諸表においてある 1つのグループの犠牲において他のグループの利益を図ることになるような 偏向を排除するには,保守主義の安易な適用を慎む必要がある。保守主義の ための保守主義はまさに偏向の温床である。(6)の比較性……経済的意思決 定の基本は,いくつかの方途から選択をおこなうことである。選択するには 取り得たであろう他の方途から得られる潜在的可能性を知っている必要があ る。財務諸表は投資その他の意思決定を行うために必要な諸比較に便利なも のでなければならない。もし不確実な事柄(それは会社によっても,また業 種によっても著しく異なる)が表面に表われなかったり,あるいは表われて も不明瞭であるならば比較性は低下する。会社間の比較性は異業種間よりも 同業種間の方がより容易に達せられる。しかし財務諸表の目的が解明され普

(21)

      情報会計の展開   21 及した暁には,産業界は利用者の情報要求を満たすとともに比較性を満足さ せるような基準を設定することができるようになる。(7)の継続性……会計 方法の期間的継続性は比較性の重要な属性である。財務諸表の利用者の要望 は変化するものと予想されるから,変化した目的と変化した会計基準を求め ることになろう。したがってすぐれた技法が開発されるにつれて会計方法も 変化するであろうから,連続性を与えるためには変更丸しばらくの間は新旧 の両方法の効果を併せて示す必要がある。(8)の理解性……会計情報は専門 的知識や経験をもった利用者ばかりではなく,合理的に充分な情報が与えら れた利用者ならば誰であろうと理解できるように表示されなければならない。 専門的利用者にしか理解できないような情報の提示は偏向を作り出すのであ る。  要するに会計情報は,それが利用者の意思決定に適合し,かつ重要でなけ れば有用ではない。情報はその作成者の如何なる偏向からも可能な限り解放 されなければならない。意思決定をするにあたっては,利用者は提示された 情報を理解しなければならないとともに情報の信頼性を確かめ,過去の類似 の情報とを比較できなければならない。しかも会計情報はそれが専門技術的

      . . 38)

形式よりも,経済的実質を強調する時により有用となるのである。  またSFAC No.51984年では会計情報の質的特性としてつぎの4つをあ げている。(1)定義definitions(2)測定可能性measurability(3)目的        39) 適合性relevance(4)信頼性reliability さらにイギリスにおける会計基準 検討委貝会Accounting Standards Steering CommitteeのThe Corporate Reportは財務報告は有用であり,かつ基本目的を充足するにはつぎの特性を 備えるべきであるという。(1)目的適合性relevant(2)理解可能性under− standable(3)信頼性reliable(4)完全性complete(5)客観性objective 38)AICPA, Objectives of Financial Statement 1973.川口順一訳『アメリカ公認会計士  協会・財務諸表の目的』同文館 昭和51年 pp.73∼79. 39) FASB, Recognition and Measurement in Financial Statements of Business Enter−  Pn’ses, Statement of Financial Accounting Concepts No.5 FASB, June 1984 pp.19N  21. pars.57一一64.

(22)

22  彦根論叢 第268号 (6)適時性timely(7)比較可能性comparableこの7つの特性のうちThe Corporate Reportにおいて他よりユニークなものを取り上げてみよう。 (4)の完全性・・…・表示される会計情報は企業の経済活動に関する包括的概観 を可能な限り利用者に提供できるように完全なものでなければならない。し たがって完全性を追求するあまり会計情報は複雑なドキュメントになり勝ち である。(5)の客観性……会計情報は利用者のニーズに適するように客観的 あるいは不偏的でなければならない。会計情報の利用者のうちの特定の人々 の利益に偏してはならず,中立でなければならない。(6)の適時性……会計 情報は会計期間が終了した直後,適切な時に公表されれば最新の価値の測定        40) がなされているので意義深い情報となる。  ASOBAT以後のアメリカを中心とする会計情報あるいは財務報告の質的

   ・ 41)

       会計情報基準の展開

  ASOBAT AICPA SFAC No.2 SFAC No.5

  (1966年)     (1973)      (1980)      (1984)  有 用 性 「会計情報基準」 1.目的適合性 2.検証可能性 3.不偏性 4.計量可能性 「伝達指針」 1.利用目的適合性 (妥当性) 2.重要な関係の明  示 3.環境情報の付記 4.実務の統一性 5.期間的継続性 「報告の質的特性」 1.目的適合性 2.重要性 3.形式と実質 4.信頼性 5.不偏性 6.比較 7. 継糸売性 8.理解性

ASSC

(1975) 「財務報告の特性」 1.目的適1合性 2.理解可能性 3. イ言頼’1生 4.完全性 5.客観性 6.適時性 7.比較可能性 「会計情報の質的特 性」 理解可能性 意思決定有用性 [基本的特性] !.目的適合性 ①予測価値 ②ブイードバック  価値 ③適時性 2. 信頼’性 ①検証可能性 ②表現的弓実性 [副次的特性] 1.比較可能性 (首尾一貫性を含む) 2.中立性 「基本的認識規準」 1.定 義 2.測定可能性 3.目的適合性 4.信頼性

(23)

       情報会計の展開   23

特性の基準はASOBATを起点とし, ASOBATの4っの会計基準とともに

会計伝達の指針もそのなかに織り込まれているといえよう。そのいずれもが, それぞれの基準の第1に目的適合性をあげているのは会計情報がその利用者 の種々の目的にかなったものこそが真に有用なものと考える利用者傾向のあ       42) らわれであるからである。  会計情報の利用者指向の会計を情報会計とし,それぞれの利用者はまた企 業にとっては利害関係者でもある。そこでつぎに企業を取り巻く利害関係者 とは何か,そしてさらに彼等が会計情報として何を求めているかを考察して みよう。  財務報告の利用者としては,所有者owners,債権者lenders,供給者 suppliers,潜在的な投資家と債権者potential investors and creditors,従

業員employees,経営者managements,取締役directors,顧客cus−

tomers,財務アナリストとアドバイザー financial analysts and advisors,

ブローカーbrokers,アンダーライタunderwriters,証券取引所stock

exchnges,弁護士lawyers,エコノミストeconomists,税務署tax author− ities,規制機関regulatory authorities,立法機関legislators,財務報道機関 financial press and reporting agencies,労働組合labor unions,業界団体 trade associations,企業調査人business researchers,教員と学生teachers and students,及び一般大衆publicである。このうち所有者,債権者,従業 員は特定の企業に対して直接的な経済的利害関係をもっている。また経営者 や取締役も所有者に代わって企業経営を任されているので,企業に対して直 接的な利害関係をもっている。他方財務アナリスト,アドバイザー,規制機 関及び労働組合などは直接的な利害関係者に対して忠告や代理をするだけで       43) あるから間接的利害関係をもつことになる。 40) Accounting Standards Steering Committee, The Co7porate RePort 1975 pp.28一一29. 41),42)郡司 健「会計情報基準と現代会計一ASOBATの現代会計的意義一」「商学論  集』大阪学院大学 第15巻第1号 平成元年4月. 43) FASB, Obiectives of Financial Repontng by Business Ente2Prises Statement of  Financial Accounting Concepts No.1 November 1978. p.11 par.24.

(24)

24  彦根論叢 第268号  特定企業に最も直接的に関係がある財務情報の利用者は,それらの人々の 意思決定が期待されるキャッシュ・フローの金額,タイミング及び不確実さ amounts, timing and uncertainties of expected cash flowsに関係があるか ら,一般的に企業の好ましいキャッシュ・フローを生み出す能力に関心があ る。投資家,債権者,供給者及び従業員にとっては,企業は配当あるいは利 子dividends or interest,上昇した株価appreciated market prices,借入金 の返済repayment of borrowing,財貨あるいは用役の代価の支払いpay− ment for goods or services,給料あるいは賃金salaries or wagesの支払い などの形でキャッシュが流れてくる源泉である。これらの人々はキャッシュ, 財貨,用役を企業に投下し反対にこれらのふさわしい充分なキャッシュを得 ることを期待する。彼等は好ましいキャッシュ・フローを生み出す企業の能 力に直接的な関心をもち,また企業の能力の証券市場における評価たる株価 にも関心をもつ。さらに経営者にとっては,企業のキャッシュ・フローは株 主に対するアカウンタビリティを含んだ経営責任の重要な部分であり,彼の 意思決定は企業のキャッシュ・フローに大きな影響を及ぼすことになるから,       44) この好ましいキャッシュ・フローを生み出す企業の能力に大きな関心を持つ。

VI結び

 情報会計と制度会計の関係については,全く異質的な会計構造をもってい        45) るととらえるべきではない。何となれば従来の会計が伝統会計として,ある いは経験の蒸溜として帰納法的に生成し,制度化されてきたのに対しで1青報 44) FASB, SFAC No.1. pp.11’一12. par.25. 45)この点については多くの議論のある処である。武田隆二『情報会計論』中央経済社 昭  和46年目原田富士雄『情報会計学』同文館 昭和53年.阪本安一『情報会計の基礎』中  央経済社 昭和63年.郡司 健『企業情報会計』中央経済社 昭和59年.では制度会計  と情報会計を区分,対比の関係で考えられている。これらに対して若杉 明『制度会計  論』森山書店 昭和62年 森川八洲男『制度会計の理論』森山書店 昭和61年.では両  者を異質な,したがって対立的に把握される会計構造としてとらえるべきではないとし  ている。

(25)

       情報会計の展開   25 会計は基本会計として生成してきた会計理論であり,しかもそれは社会環境 (=経済環境)の変化に対応でき得るかくあるべき姿を演繹的に導き出した 会計である。また情報会計は企業を取り巻く環境のもとで何等かの動機によ って情報会計に社会的要請が生まれれば法的規制の枠内に入り込む可能性が あるからである。これは遠い過去に潮ればかのフランスの商業条例も社会的 要請に応えた会計法規であったし,またわが国では企業規模の拡大やコング ロマリット等からの企業のグループとしての業績を概観するために,昭和51 年に大蔵省令第28号として連結財務諸表規則が制度化され,また昭和64年1 月より商法計算書類規則に第18条としてリース会計情報の開示,さらに証券 取引法においてもリース会計情報の開示を求めている。  会計理論を構築する研究者の側からみると,彼等が望んでいるのは理論的 一貫性の追求であるが,機会があれば実務をその方面に少しでも動かしてい きたいと願う。スタンフォード大学のSprouse, Robertはその努力をされた 研究者であり,彼が1962年に出版したSprouse=Moonitzの会計原則試案A Terltative Set of Broad Accounting Principles for Business Enterprisesの 理論を機会あるごとに実行されていた。しかしてこのような理論は一挙に実        46) 務化されるのではなく,時期を待って少しつつ行われなければならない。さ らにまた会計理論は実践への意図を包蔵しつつ科学の名にふさわしい理論構 築をしなければならない。『理論的に正しいものは結局において実践を指導 すべきものである』という根本思想から出発して会計理論の構築をしなけれ     47) ばならない。情報会計は変化する社会的経済的環境のもとに,かくあらなけ ればならない規範会計である。 46)井尻雄士「アメリカの会計の発展事情」『会計』第125巻第1号 昭和59年1月. 47)山下勝治「理論会計学』巖松堂 昭和23年 33ページ,

参照

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 「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号

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