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湖沼流域政策研究を通して振り返る【記念特集 環境総合研究センター10周年に当たって】

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―8― 滋賀大学環境総合研究センター研究年報 Vol. 10 No. 1 2013

記念特集

湖沼流域政策研究を通して振り返る

第 2 代センター長  中村 正久(環境総合研究センター特任教授)

誰からという訳ではないが「研究センターは 10 年存続 してはじめてその存在意義が認められ、そこからが本当の スタートだ」という話は、幾度か耳にした。環境分野に力 を入れている大学や行政附置の研究機関が近隣に数多く存 在する中で、滋賀大学という小さな大学の環境総合研究セ ンターが 10 周年を迎え活発に活動を続けていること、ま たその経緯で私自身が多少なりともその実績に貢献するこ とが出来たのかもしれないと思えば喜ばしい。これは無論 センター専任研究員や学部から研究活動に参加された多く の研究員の先生方、更にはセンターを側面から支え続けて きた多くの大学関係の尽力の賜物以外の何物でもない。し かしセンターの真価が問われるのはこれからだ。これまで の 10 年間の取組みを振り返り、新たな 10 年に向けてどう いった取り組みをしていくのか、試行錯誤をしつつも大き く前進していくための緒に着いたということだろう。 本学は経済・教育の二学部からなる小さな大学だが、振 り返ってみればそれぞれ長年にわたって各界へ多くの人材 を輩出してきた。とくに地域の財界や教育界における貢献 は多大で、滋賀県における実績は他大学の追随を許さない。 また、風光明媚な史跡環境や琵琶湖の自然環境と一体化し た立地条件に恵まれ、近隣住民との交流を通して地域社会 に溶け込んだ存在としても親しみをもたれている石山・彦 根両キャンパスには、多様な専門分野で熱心に教育・研究 に取組んでいる多くの先生方が居る。その中で特に組織 だって活動を遂行してきたのは教育学部を中心とする湖沼 物理学、生物・生態学、湖沼実習などの研究分野で、とく に琵琶湖や瀬田川をめぐる自然科学研究では著名な先生方 が歴史に名を刻む成果を残されている。そんな背景を踏ま えつつ、時代の要請に基づく多様な研究ニーズに応えられ る新しい研究プログラムを開発し、マンモス化した大都市 の総合大学では出来ない総合研究を遂行するセンターを目 指そうというのがその設立の趣旨であった。私は、2005 年 4 月に赴任したのだが、赴任前に勤務していた滋賀県琵 琶湖研究所在職中からセンター設立構想については伺って いた。赴任に当たって私に期待された役割を端的に言えば、 専任及び学部研究員の先生方の多くが参加できる分野横断 的な環境研究の場づくり、地域の研究機関との連携の強化、 更には国際的な研究協力の拡大といったことだったが、具 体的には環境総合研究所の柱となるプロジェクトを形成し 文科省による採択を目指すというものであった。 そういう訳で、上記の滋賀大学がもつ、また滋賀県・琵 琶湖を対象とする国際的な取組みであれば説得力があって 採択の可能性も高まるであろうという希望と期待をもって とり組みだしたものの、私自身もまた大学当局も全く暗中 模索の状態であった。2006 年度は「地域・国際連携による、 持続可能な湖沼流域管理に向けたガバナンスおよび知識 ベース構築に関する研究の推進と拠点整備」とする申請を 作成し、文科省でのヒアリングに臨んだものの、こういっ た事業は京阪神の大規模大学や研究機関が担うべきもの で、どうして滋賀大学がとり組むのかと怪訝な顔をされ一 蹴され悔しい思いをしたことを思い出す。試行錯誤は続い たが、多くの先生方や大学職員の方々の身を粉にした支援 を得、結果的に「持続可能な資源利用と保全を可能とする 湖沼流域管理のためのガバナンス向上に関する研究」とす る申請が文科省特別教育研究経費「連携融合事業」カテゴ リーの対象プロジェクトとして採択され、2008 年度から 3 年間にわたって実施されるに至った。しかし、プロジェク トの構想の段階から、その実施、さらには研究成果の集約 に至る過程で多くの壁を乗り越えなければならなかった。 ここではこの「連携融合」をどう構想することになったの かの経緯を、研究分野、研究機関、及び国際的取組それぞ れについて振り返ってみたい。 まず、研究分野の連携融合についてであるが、とくに苦 労したのは琵琶湖研究の位置づけであった。前述の通り滋 賀大学における琵琶湖研究はどちらかと言えば自然科学に 特化して発展してきた歴史的経緯がある半面、湖沼流域政 策をめぐる研究者や研究実績はほとんど存在せず、琵琶湖 をめぐる自然科学と社会・政策科学の融合を図る研究グ ループを立ち上げる困難さは明白であった。私がそれ以前 所属していた琵琶湖研究所は行政附置の機関だったという

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―9― 環境総合研究センター 10 周年に当たって こともあり、自然科学研究と社会・人文科学が連動しなけ れば行政施策に反映できる成果を生み出すことは難しいと いう認識は研究員に浸透していた。湖内、湖岸、集水域を めぐる研究グループが外部研究機関と連携して研究を遂行 していたのだが、とくに湖岸研究や集水域研究ではそう いった意識が強かった。湖内研究も、生み出された知見情 報を社会に還元するための工夫に社会科学的思考が求めら れることは少なからずあった。しかしここは大学のセン ターである。直接的かつ恒常的に行政機関や社会との接点 を意識した研究を実施することは組織の性格上難しいので ある。先生方と様々な議論を重ねていったが、なかなか展 望は開けなかった。ところが思わぬところから展望が開け たのである。それは実験調査艇「清流 III」の新造計画と、 調査艇付設の調査・実験準備施設「びわ湖・瀬田川オブザ ベトリ」の新設計画に対して文科省が予算措置を施すとい う幸運によるものだった。これらの船舶と施設はそれぞれ 教育学部とセンターが若干距離を置きつつ計画の策定をし てきたものだったが、期せずして湖沼流域研究の別の柱と してその存在意義が大きくなったという訳である。琵琶湖 研究をめぐる「連携融合」はこの様に複線的に実現したわ けである。 研究分野の連携融合のもう一つの課題は、「琵琶湖」や「湖 沼」に囚われない幅広い環境分野の研究関心を申請プロ ジェクトにどう反映すべきか、ということであった。この 点に関しては当時の教育学部長・川嶋教授、経済学部の近 藤教授などから、また事務手続きの経験豊富な事務方から もそれぞれ壺を得た指摘と適切なアドバイスを頂戴し、結 局、次の発想に集約することとした。それは、滋賀県立大 学をはじめとする近隣大学・研究機関に在籍する研究者の 協力を仰ぎ、彼らの研究関心と研究リソースを裾野広く取 り組むことで滋賀大学だけの実績や両学部の志向性の違い にあまりとらわれないプロジェクトに仕立て上げるという ことだった。これが「流域政策研究フォーラム」の設立で あった。このフォーラムは、滋賀県立大学環境科学科とセ ンターが共同で任を担う事務局と、数十名の発起人メン バー、更には随時参加の一般市民などによって構成し、琵 琶湖およびその他のわが国の湖沼をめぐる課題、淀川水系 の課題、日本の水制度をめぐる課題、世界の水及び流域ガ バナンスの課題について課題群の専門分野にとらわれるこ となく緩やかなサロン形式の議論を中心に展開しようとす るものであった。実際のフォーラムでは年 10 回程度のサ ロンが 4 年間にわたって実施された。具体的な話題例とし ては地球温暖化と農業、リン資源の枯渇問題と湖沼への影 響、日韓における流域管理・水制度の比較、水資源管理の 視点と方法、流域管理の法政策などを挙げることが出来る。 メンバーあるいはゲストからの話題提供をもとに様々な議 論を展開し、それぞれの実務あるいは研究の取組に生かし てもらおうというもので年次ごとに作成した報告書は幅広 く配布し重宝された。 このフォーラムは、情報源として、また思索を刺激する 場としてセンターの研究推進には掛買のない存在となった わけだが、更に申請プロジェクトに位置づけた地域の研究 機関との「連携融合」を実現するインフォーマルな手段と して重要な手段を提供したことになる。 さらに求められていた最後の課題、国際的取り組みの「連 携融合」の構想である。センターは既に日韓環境シンポジ ウムや日中研究協力など東アジアを中心とした連携に実績 を重ねつつあった。私もその一員として洛東江と琵琶湖・ 淀川をめぐる研究協力に関わった。しかし、特定の河川・ 湖沼について詳細な比較研究を実施するのは求められてい るプロジェクト構想から考えればあまりそぐわないことは 明らかであった。また近隣大学では取組めないようなス ケールと政策課題を対象とするプロジェクトでなければプ ロジェクトの採択はおぼつかないことは、既に 2006 年の 経験から分かっていた。 振り返れば幸運なことに、私はセンター赴任前から滋賀 県が所轄する財団法人・国際湖沼環境委員会(International Lake Environment Committee- ILEC)の科学委員の任を 担っていたが、その関係で 2003 年から 2005 年にかけて、 世界の 28 湖沼の流域管理の経験と課題を集約する大規模 な国際プロジェクトの責任者でもあった。その経緯で構想 し た の が 統 合 的 湖 沼 流 域 管 理(Integrated Lake Basin Management-ILBM)という概念をさらに発展させる取り 組みを反映することが出来ないだろうかと思い至ったもの の、いわゆる学術研究として限定された期間内に成果を出 すには対象が大きすぎた。しかし ILBM の基本は「湖沼 流域ガバナンス」の長期に渡る段階的な向上を支援するた め の 知 識 ベ ー ス シ ス テ ム(Learning Acceleration and Knowledge Enhancement System-LAKES)の構築であり、 この作業は 2005 年からこつこつと続けてきていた。この ILBM と LAKES が琵琶湖のみに特化した概念であれば流 域政策研究の成果としては極めてその価値は限られるが、 あらゆる湖沼の流域管理に応用が利く概念であればその価 値は大きい。そのため前述の滋賀県立大学環境科学科、国

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―10― 滋賀大学環境総合研究センター研究年報 Vol. 10 No. 1 2013 際湖沼環境委員会(ILEC)、そして当センターの研究協力 協定に漕ぎ着けた。また、LAKES システムの実用化につ いては、民間の情報処理企業をとりこんだシステム開発業 務を組み込むことにした。こうしてば国際的取り組みの「連 携融合」構想がおぼろげながら輪郭を現したのであった。 2010 年 3 月末で滋賀大を退職し、その後特任として再 赴任してから既に 2 年が経過したが、名称こそ違え内容的 にはこの「「持続可能な資源利用と保全を可能とする湖沼 流域管理のためのガバナンス向上に関する研究」の後継プ ロジェクトが現在も続いている。いま改めてセンター赴任 後から現在に至るまでを振り返れば感慨深いものがある。

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