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デジタル教科書を活用したアクティブ・ラーニング型社会科授業の開発

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Academic year: 2021

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Ⅰ 問題の所在 本研究の目的は,紙媒体の教科書の限界性を 踏まえた上で,デジタル教科書を活用したアク ティブ・ラーニング型社会科授業を開発し,そ の意義と可能性について明らかにすることにあ る。 現代社会では,ICT(情報通信技術)の発達 に伴い様々なメディアが拡張し,従来の社会構 造や制度,そして,我々のモノの見方・考え方 にも大きな変革が求められ続けている。このよ うな社会変動に対して,「教育の情報化」政策 を進める文部科学省は,「2020年代に向けた教 育の情報化に関する懇談会」(最終のまとめ) において,授業・学習面での ICT 活用に関し て,「各教科等の学びにどのように ICT を活用 すれば学びが深まるのか,どのように授業での ICT 活用を進めていくべきかが不明確である …」等の課題が示され,今後,特に,アクティ ブ・ラーニングの視点から各教科に応じた ICT による授業改善の推進を指摘している1) 実際,ICT 活用といっても,ICT 自体,情報 通信における技術を指した言葉に過ぎず,その ような技術を具現化したメディア(媒体)こそ が検討すべき課題であり,ICT メディアの教 育への活用を授業レベルで検討することが求め られる。しかし,ICT メディアは,あくまで も教授手段であり,アクティブ・ラーニングの 観点に応じた ICT メディア活用を授業レベル で位置づけることが肝要であると言える。 本研究では,特に ICT メディアとして指導 者用デジタル教科書に焦点づけたい。なぜなら, 現在,「新たな情報通信技術戦略工程表 教育分 野の取組(2010)」に基づき教科書のデジタル 化が進み,その中でも指導者用デジタル教科書 の有用性が実証されてきており2),アクティ ブ・ラーニングの視点に立った授業改善の推進 が期待できるメディアだからである。 最初に,アクティブ・ラーニングの概念に関 して整理したうえで,指導者用デジタル教科書 による社会科授業の改善視点について明らかに する。次に,それらの視点に応じた指導者用デ ジタル教科書を活用した開発単元について示し, ICT 社会における社会科学習指導の改善方策 に関して検討していく。 Ⅱ アクティブ・ラーニングと社会科授業 1  アクティブ・ラーニングの変遷 アクティブ・ラーニングの概念が政策的に紹 介されたのは,当初大学教育の分野であった。 2012年 8 月に中央教育審議会が発表した答申に おいて,次のように述べられている3) 「従来のような知識・注入を中心とした授業 から,教員と学生が意思疎通を図りつつ,一緒 になって切磋琢磨し,相互に刺激を与えながら 知的に成長する場を創り,学生が主体的に問題 を発見し解を見いだしていく能動的学修(アク ティブ・ラーニング)への転換が必要である。」 大学授業の質的改善を目指すために位置付け られたアクティブ・ラーニングは,初等中等教 育においても中心的課題として取り上げられる ようになった。諮問文「初等中等教育における 教育課程の基準等の在り方について(諮問)」 では,次のように記されている4) 「必要な力を子供たちに育むためには,「何を

デジタル教科書を活用したアクティブ・ラーニング型

社会科授業の開発

小 谷 穂 乃 茄

(大学院発達教育学研究科教育学専攻)

松 岡   靖

(教育学科准教授)

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教えるのか」という知識の質や量の改善はもち ろんのこと,「どのように学ぶのか」という, 学びの質や深まりを重視することが必要であり, 課題の発見や解決に向けて主体的・協働的に学 ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」) や,そのための指導の方法を充実させていく必 要があります。」 以上のように,当初,能動的学修への転換を 目指していたアクティブ・ラーニングは,初等 中等教育では授業改善の視点として位置づけら れるようになり,その内容も「主体的・協働的 な学び」から「主体的・対話的で深い学び」と いった説明に議論の過程で変化した5)。そして, 2017年版新学習指導要領では,アクティブ・ ラーニングといった文言自体が消滅することと なったのである。つまり,アクティブ・ラーニ ングを日本の教育行政的に捉え直した概念が 「主体的・対話的で深い学び」であり,それら の視点から授業改善を図ることが求められてい る6)。したがって,本稿では,「主体的・対話的 で深い学び」といった概念が,社会科授業を受 ける学習者とってどのような状態を指し,その ような状態を導くプロセスに,どのような指導 法が関与するのか検討することが中心的課題で あると見なすことができよう。 2  社会科授業構成における観点 「主体的・対話的で深い学び」の各要素と社 会科授業とは,どのような関連があるのか。各 要素の実現に関して,学習指導要領解説(以下 「解説」)7)では次のように説明している。 「主体的な学びの実現については,児童が社 会的事象から学習問題を見いだし,その解決へ の見通しをもって取り組むようにすることが求 められる。そのためには,学習対象に対する関 心を高め問題意識をもつようにするとともに, 予想したり学習計画を立てたりして,追究・解 決方法を検討すること,また,学習したことを 振り返り,学習成果を吟味したり新たな問いを 見いだしたりすること,さらに,学んだことを 基に自らの生活を見つめたり社会生活に向けて 生かしたりすることが必要である。」 主体的な学びの実現では,学習対象に対する 関心をもち,問題解決的な学習プロセスの中で, 「問い」を追究する子どもの姿が描かれている。 つまり,学習対象に対する肯定的な学習関与が 存在し,単元を通して「問い」を追究しようと する意欲が継続される時,主体的な学びが成立 すると見なすことができる。 したがって,①単元を通して継続して,学習 対象に対する興味・関心を持続させる指導法が 必要とされる。また,対話的な学びに関して, 次のように記されている。 「対話的な学びの実現については,学習過程 を通じた様々な場面で児童相互の話合いや討論 などの活動を一層充実させることが求められる。 また,実生活で働く人々から話を聞いたりする 活動についても今後一層の充実が求められる。 さらに,対話的な学びを実現することにより, 個々の児童が多様な視点を身に付け,社会的事 象の特色や意味などを多角的に考えることがで きるようにすることも大切である。」 対話的な学びの実現では,学習プロセスの 様々な場面で,児童相互が話し合いだけでなく, 実生活で働く人々に話を聞き,多様な視点から 社会的事象の意味を多角的に考える子どもの姿 が描かれている。つまり,「対話」とは,多様 な人々との「対話」であり,最初に持っていた 見方・考え方を自己との「対話」の中で見直し, 多様な見方・考え方に広げることであると見な すことができる。 したがって,②単元の場面に応じて,他者と の「対話」,自己との「対話」を可能にする指 導法が必要とされる。また,深い学びに関して, 次のように記されている。 「深い学びの実現のためには,「社会的な見 方・考え方」を用いた考察,構想や,説明,議 論等の学習活動が組み込まれた,課題を追究し たり解決したりする活動が不可欠である。」 深い学びの実現では,問題解決のプロセスの 中で社会的見方・考え方に着目して問題につい て思考したり,問題解決に向けて構想したり, 解決策を説明したり,解決について議論したり する子どもの姿が描かれている。思考する視点 となる社会的な見方・考え方について「解説」

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では,次のように説明している。 「位置や空間的な広がり,時期や時間の経過, 事象や人々の相互関係などに着目して,社会的 事象を捉え,比較・分類したり総合したり,地 域の人々や国民の生活と関連づけたりするこ と」 つまり,社会的な見方・考え方は,地理的, 歴史的,社会的な様々な視点であると同時に比 較・分類する等を示した学習方法でもある。こ れらの視点・方法から「問い」を追究すること で,深い学びに至ると見なすことができる。 したがって,③地理的・歴史的・社会的な 様々な視点から思考できるための指導法が必要 とされる。 以上の①②③の観点に応じ,社会科学習指導 法は検討されなければならない。本稿では,次 にデジタル教科書について検討した上で,観点 に応じた単元開発について論じる。 Ⅲ デジタル教科書を活用した小学校社会科授 業の段階的改善 1  デジタル教科書活用による社会科授業の課 社会科授業におけるデジタル教科書活用に関 して,これまで主に,岡崎により,紙媒体であ る教科書の構成分析に基づく,小学校社会科デ ジタル教科書の設計理論について検討されてい る8)。現状の教科書に関する知識分類等に基づ き構成内容と構成方法といった視点から検討さ れ,現状の教科書構成の課題を踏まえたデジタ ル教科書のモデル事例が示されている。しかし デジタル教科書の設計レベルの検討にとどまり, 授業内でどのように活用されるべきか,具体的 な学習過程での位置づけに関する検討は不十分 である。また,岩淵により,デジタル教科書の 小学校社会科授業における具体的な実践場面で の活用による検証が示されている9)。しかし, 資料活用の容易性・利便性について指摘するの みであり,デジタル教科書を用いることで,ど のような社会認識の成長に関与できるのか内容 面の分析に乏しいのである。 このことと同様に,教科書研究センターの調 査10)によると,小学校社会科デジタル教科書の 活用の現状について,「社会科での指導者用デ ジタル教科書は,電子黒板などで本文や図表, 写真などを映し出して活用されることが多い。」, 「指導者用デジタル教科書を魅力的な教材バン クとして活用し,指導者用デジタル教科書から 取り出した教材を資料として使用することも多 い。」等が指摘されている。また,実際の授業 の活用においても資料画像の拡大や動画視聴と いった資料提示の特徴面のみが強調される傾向 にある11) したがって,デジタル教科書の特徴的機能に 関して,単に資料提示面だけでなく,社会科授 業構成の観点から検討し,授業改善につながる 改善視点を明確にすることが求められる。 2  指導者用デジタル教科書の性格 指導者用デジタル教科書は,2008年版学習指 導要領の改訂を機に2011年より各教科に広がり, 現場では,年々,その普及率は高まり定着しつ つある状況にある12)。基本的には,教師が中心 的使用者であり,普通教室の授業での活用が想 定されている。また,授業をわかりやすくサ ポートするための提示型教材であり,これまで の紙媒体の教科書の限界性13)を超えた活用が期 待されている。 指導者用デジタル教科書の紙媒体の教科書を 超えた特徴的機能は,映像,画像,グラフと いった様々なマルティメディアデータを容易に 提示できる機能と既習内容のデータと学習内容 のデータを集約し,配列して示す機能にある。 前者に関して,具体的には,動画を再生する 機能や画像・文章・グラフなどの資料を拡大す る機能である。デジタル教科書内には,紙媒体 の教科書には存在できない動画資料が収録され ている。動画資料を用いることで,紙媒体の教 科書では文章だけで表示されていた内容を視覚 と聴覚から得ることができる。また,拡大機能 を使うことによって子どもの視線が対象に集中 できていることでより効果を上げると共に,取 り組むべき課題を明確にすることができる。 後者に関して,具体的には,教科書で示され た画像とテキストを取り込み,新たに配列でき

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る機能である(東京書籍版では,「MY 教科書 エディタ」14))。この機能は,小学校社会科指導 者用デジタル教科書特有の機能であり,教科書 内の使いたいテキストや図形,写真,挿絵など をドラック&ドロップするだけで自由にレイア ウトでき,さらにテキストのアレンジや外部の データを貼り付けたり文字を加えたりして, パッケージ化されたオリジナルの教材作成を可 能にする。このことは,社会科の学習過程にお いて,これまでの既習内容を想起させたり,多 面的・多角的な情報をデジタル教科書内で提示 させたりすることで,多様な見方・考え方から 学習問題を追究させることが可能になる。 以上の指導者用デジタル教科書の特徴的な機 能とアクティブ・ラーニングによる授業改善の 観点に応じ,次の活用方略が想定できる。 3  デジタル教科書を活用した活用方略 指導者用デジタル教科書を活用したアクティ ブ・ラーニング型社会科授業に関して 3 点の活 用段階に分類した。 第 1 段階は,基礎活用型のデジタル教科書活 用である。現在の,指導者用デジタル教科書を 活用している学校のほとんどがこの段階のデジ タル教科書活用である。①の観点に応じ,単元 を通して学習対象に対する興味・関心を継続さ せるために,デジタル教科書の基礎的な機能で ある「動画機能」や「グラフのアニメーション 機能」等のマルティメディアデータを使い,場 面ごとに学習者の興味・関心を高め,基礎的学 習内容の理解を進めることを目的にした活用方 法である(図 1 )。 第 2 段階は,概念形成型のデジタル教科書活 用である。この段階の活用は,第 1 段階の活用 を踏まえ,②の観点である「対話」をより充実 させた活用である。他者との「対話」を充実さ マルティメディ アデータの提示 ○興味・関心の 継続と向上 ○基礎的学習 内容の理解 図 1  デジタル教科書の基礎活用型の活用 せるために,デジタル教科書のデータの集約化 と配列化する機能を使って,学習用データを比 較・分類し提示させたり,学習者自身である自 己との「対話」を充実させるために,これまで の学習した内容や概念を提示し,予想させたり して,学習者の既有の知識に新しく学ぶ知識を 関連づけさせることで,新たな概念形成を支援 することを目的とした活用方法である(図 2 )。 第 3 段階は,概念深化型のデジタル教科書活 用である。この段階の活用は,第 1 段階,第 2 段階の活用を踏まえ,③の観点である地理的・ 歴史的・社会的な様々な視点から思考させるた めの活用である。第 1 段階の活用では,学習者 の興味・関心は高まったとしても獲得される知 識は,これまでの教科書と同様に常識的な内容 に留まる。そこで,デジタル教科書に他のメ ディアからのデータを取り込み提示できる機能 を活用し,多面的な観点と多様な立場といった 多角的な観点から「問い」に対して思考させる ことで,学習者が獲得する概念が深まり,深い 学びにつながることが期待できる(図 3 )。 また,第 1 段階,第 2 段階,第 3 段階の活用 は,図 1 , 2 , 3 が示している通り,入れ子の 形態になっており,第 1 段階から第 2 段階,第 3 段階へ授業がステップアップするための方向 性を示している。 以上の検討に基づき,「主体的・対話的で深 い学び」に適う,第 3 段階の概念深化型の授業 モデルを構成する。 学習過程は,デジタル教科書のマルティメ 比較・分類した データの提示 既習データの提 示 ○興味・関心の 継続と向上 ○基礎的学習 内容の理解 マルティメディ アデータの提示 既習内容・概念 を踏まえた 新たな概念の 形成 図 2  デジタル教科書の概念形成型の活用

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ディアデータより学習問題を設定させる「問題 設定場面」,問題追究の中で,問題に関する概 念を形成させる「概念形成場面」,形成した概 念に他のメディアからの様々なデータを付加し, 多面的・多角的な見方から問題について解釈さ せ,解決策を構想させる「概念深化場面」,構 想した解決策について他者と対話する中で解決 策の妥当性について吟味し,自らの解釈を明ら かにさせる「解釈吟味場面」を位置づけ,次の 通り構成した。 比較・分類した データの提示 既習データの提 示 ○興味・関心の 継続と向上 ○基礎的学習 内容の理解 既習内容・概念 を踏まえた 新たな概念の 形成 マルティメディ アデータの提示 他メディアから 地 理 的 ・ 歴 史 的・社会的デー タの提示 多面的・多角的 な観点から獲 得する概念の 深化 図 3  デジタル教科書の概念深化型の活用 デジタル教科書活用による概念深化型の授業モデル 学習活動 認識内容 デジタル教科書活用による授業過程 問題 設定 場面 ①デジタル教科書内のマルティメディアデータ(画像・映像・ テキスト)による基礎的内容と問題状況の把握 ②デジタル教科書内のデータの比較・集約による学習問題の設 定 ③既習事項の振り返りとデジタル教科書内の既習事項の提示に よる予想の設定 ○単元内容の概括的認識 ○マルティメディアデータ の比較による学習問題の 認識 概念 形成 場面 ①予想の交流による問題解決への見通しの形成 ②問題解決に向けてデジタル教科書内のデータ活用による関連 する情報の収集と選択 ③デジタル教科書内の既習内容と新たな情報の連結による問題 構造の可視化と概念の形成 ④形成された概念に関する新たな問題状況の設定 ○デジタル教科書内のデー タによる問題構造の認識 ○問題構造の価値対立場面 による問題状況の認識 概念 深化 場面 ①問題状況の解決に向けて,デジタル教科書と付加された他メ ディアからのデータの把握 ②多様な立場による問題状況についての解釈の把握 ③問題状況の解決に向けたグループごとの解決策の構想 ○問題状況に関する多面 的・多角的な見方・考え 方の認識 ○協働的学習による認識内 容の相対化 解釈 吟味 場面 ①構想した解決策の発表 ②構想した解決策に関する討論 ③解決策の振り返りと問題に関する自らの解釈の形成 ○討論を通した問題状況に 関する多面的な価値認識 ○自らの認識内容の修正と 知識の再構成

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Ⅳ デジタル教科書を活用した単元開発 1  単元名 「明治の改革から近代化へ」 2  単元の目標 〈知識及び技能〉 ○黒船の来航,廃藩置県や四民平等などの改革, 文明開化などをデジタル教科書内の資料を手 掛かりに,我が国が明治維新を機に欧米の文 化を取り入れつつ近代化を進めたことを理解 する。 ○デジタル教科書の「MY 教科書エディタ」で 作成した教材を用いて,鎌倉幕府・室町幕府 と江戸幕府の倒幕を比較し,明治の国づくり を進めた人々の働きについて理解する。 ○デジタル教科書内の資料や資料集等をもとに, 明治の国づくりを進めた人々についてまとめ ることができる。 〈思考・判断・表現〉 ○江戸時代末期,明治時代の様子,明治の国づ くりを進めた人々などに着目して,明治の諸 改革を捉え,近代化について考えることがで きる。 ○江戸時代末期と明治時代の違いをデジタル教 科書の資料から読み取り,学習問題を考える ことができる。 ○明治の国づくりを進めた人々がもし明治の諸 改革を行っていなければ,現代にどのような 変化していたのかを予想することができる。 3  単元の構成内容 ⑴ 問題設定場面 デジタル教科書を使い,江戸末期から明治初 頭の様子を概観させ,社会の大きな変化を感じ させる。その中で日本橋近くの写真に焦点づけ, 見比べさせることで,町や人々の様子の違いに ついて関心を高める。そして,「どうして江戸 時代末期と明治時代の人々や街並みが,わずか 20年で大きく変化したのか」といった学習問題 を成立させる。予想を立てる前に,既習事項で ある鎌倉幕府,室町幕府の衰退に関する情報を デジタル教科書によって整理して提示し,鎌倉 幕府は元寇によって御恩と奉公の関係が崩れ幕 府が弱体化したこと,室町幕府は将軍以外の勢 力の力が強まり,応仁の乱を契機に幕府が弱体 化したこと等を想起させる。そして,既習内容 を踏まえて,予想させる。 ⑵ 概念形成場面 予想としては,「何か争いがあったのではな いか」,「幕府を倒す勢力がいたのではないか」, 「幕府が弱体化する事件があったのではないか」, 「幕府の制度が変わったからではないか」等の 予想が想定される。そこで,誰がどのように 争って江戸幕府は倒されたのか,どのような倒 幕運動があったのか,江戸幕府と明治政府の政 策は何が違うのか等,視点を明確にして資料等 から調べさせる。調べた内容は,デジタル教科 書の「MY 教科書エディタ」に取り込み,構造 的な概念として提示する。そして,江戸末期か ら明治初頭の日本の姿を概念として把握させた 上で,「これほど急進的な改革を不満に感じた 人はいなかったのですか」と問う。すると西郷 隆盛などの名前が挙がるであろう。そこで, 「大久保と西郷は薩摩藩の盟友ですよね。」「な ぜ,二人は争わなければならなかったのか」と 新たな問題状況を設定し,予想させる。 ⑶ 概念深化場面 デジタル教科書に他メディアからの情報を付 加し,西郷と大久保の歴史的背景について提示 する。幼年期からの二人の生い立ちや思想につ いて,映像資料を基に示した後に,「なぜ,大 久保は西郷や板垣の征韓論を否定したのです か」について,大久保と西郷の立場の違いから 解釈させる。大久保は岩倉使節団の経験から, 韓国に出兵するのは時期早々であり,その前に 工業生産力を高めるなどの「富国」を優先すべ きといった考えであり,西郷は廃藩置県で職を 失った武士の不満を反乱や暴動ではなく「外」 に向ける外征論といった「強兵」に重きを置く 考え方である。双方の歴史解釈について確認し た上で,明治10年西郷は西南戦争によって自害, 翌年大久保は士族によって暗殺されたことを確 認する。そして,「もし,あなたが,その当時, 政府の役人だったら,大久保と西郷のどちらの 論に賛同しますか,大久保の論に賛同するなら, 不平士族の不満をどのようにして改善しますか, また,西郷の論に賛同するなら,外征のための

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費用はどのようにして工面できますか」と問い, 立場に応じてグループを形成し,解決策につい てグループごとに構想させる。 ⑷ 解釈吟味場面 各々の立場に応じた解決策を「MY 教科書エ ディタ」に取り込み,説明させる。大久保の論 の論拠は,国が富み,工業生産力を高めなけれ ば軍隊の強化などできないことであり,士族の 不満を抑えるために,例えば,士族を中心とし た軍隊の創設,一時金の増額,新たな仕事の開 拓などが想定される。また,西郷の論の論拠は, 士族の不満を抑えなければ政府への反乱・暴動 が起きることであり,費用面では,地租改正に よる税率の変更,国有地の増加,新たな工業の 4  単元の具体的展開(全10時間) 学習活動 指導上の留意点 デジタル教科書活用 デジタル教科書活用による指導過程 問題設定場面⑵ ①江戸末期から明治初頭の様子 を概観させ,社会の大きな変 化を理解する。 ②江戸時代と明治時代の日本橋 近くの写真を見比べさせ, 人々の様子の違いについて関 心を高め,学習問題を決める。 ③予想の前に,鎌倉幕府,室町 幕府の衰退に関する既習事項 を確認し,時代の変化につい て想起する。 ④学習問題について予想する。 ・児童の反応に応じて,適宜, 画像資料を拡大する。 ・児童の興味関心の高まりや すい出来事(例えば衣食 住)から文明開化を説明す る。 ・鎌倉幕府は元寇によって御 恩と奉公の関係が崩れ幕府 が弱体化したこと,室町幕 府は将軍以外の勢力の力が 強まり,応仁の乱を契機に 幕府が弱体化したこと等を 想起させる。 ○デジタル教科書内の写真を 並べて表示すると共に拡大 機能を用いて,児童の発表 内容をより明確にする。 ○デジタル教科書に,NHK for School「福沢諭吉~文 明開化~( 7 :57~)」を 取り込んでおき,視聴させ る。 ○「MY 教科書エディタ」で 作成した教材(鎌倉幕府の 倒幕内容と室町幕府の倒幕 内容を並列させた教材)を 提示する。 概念形成場面⑵ ⑤予想を交流し,問題解決への 見通しを確認する。 ⑥調べた内容について,江戸末 期から明治初頭の日本の姿を 構造的な概念として理解する。 ⑦新たな問題状況を確認する。 ・予想に応じて「江戸幕府と 誰がどのように争ったの か」,「どのような倒幕運動 があったのか」,「江戸幕府 と明治政府の政策は何が違 うのか」等,視点を明確に して資料等から調べさせる。 ・江戸末期から明治初頭の日 本の姿を,人物,藩,争い, 政策といった視点から提示 する。 ・急進的な改革に不満を持つ 人物について考えさせ,征 韓論の争いに焦点づける。 ○ NHK for School「西郷隆 盛・木戸孝允~明治の国づ くり~倒幕運動~( 2 :02 ~ 5 :54)( 7 :27~ 8 : 14)」のリンクをデジタル 教科書に取り込む。 ○調べた内容をデジタル教科 書の「MY 教科書エディタ」 に取り込み,構造的な概念 として提示する。 ○大久保と西郷の顔写真と業 績 を デ ジ タ ル 教 科 書 の 「MY 教科書エディタ」に 整理して提示する。 なぜ,わずか20年で,人々や 街並みが大きく変化したのか なぜ,盟友である大久保と西 郷は,争わなければならなか ったのか 振興などが想定される。それらの構想した案に ついて討論させることで,国の政策決定には 様々な面が関与していることを多面的に認識さ せる。最後に,明治維新期に活躍した人物の関 係図を完成させる。この人物関係図から,単元 「明治の国づくりを進めた人々」について総括 的理解を図る。そして,パフォーマンス課題と して「もし明治維新期に活躍した人物がいなけ れば,また,行動を起こしていなければ,現代 社会はどのような社会(人々の生活や国の仕組 みなど)になっていたのか」について考えさせ る。この課題によって,現代社会と明治時代に つながりがあることを再認識させ,歴史を学ぶ 意味を実感することが期待できる。

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デジタル教科書活用による指導過程 概念深化場面⑶ ⑧西郷と大久保の幼年期からの 二人の生い立ちや思想につい て概観し,次の発問について 考える。  「なぜ,大久保は西郷や板垣 の征韓論を否定したのです か」 ⑨大久保と西郷の立場の違いか ら解釈する。 ⑩次の発問に関して考える。  「もし,あなたが,その当時, 政府の役人だったら,大久保 と西郷のどちらの論に賛同し ますか,大久保の論に賛同す るなら,不平士族の不満をど のようにして改善しますか, また,西郷の論に賛同するな ら,外征のための費用はどの ようにして工面できますか」 ⑪立場に応じてグループを形成 し,解決策についてグループ ごとに構想する。 ・西郷と大久保に共感的理解 につながる具体的資料を用 いる。 ・大久保は岩倉使節団の経験 から,韓国に出兵するのは 時期早々であり,その前に 工業生産力を高めるなどの 「 富 国 」 を 優 先 す べ き と いった考えであり,西郷は 廃藩置県で職を失った武士 の不満を反乱や暴動ではな く「外」に向ける外征論と いった「強兵」に重きを置 く考え方であることを確認 する。 ○デジタル教科書内の動画資 料「西南戦争」を視聴させ る。 ○ビデオクリップ「富国強 兵」のリンクをデジタル教 科書に取り込んでおき,視 聴させる。 ○他メディアからの大久保と 西郷の征韓論に関する情報 をデジタル教科書の「MY 教科書エディタ」に付加さ せ,考えさせる。 解釈吟味場面⑶ ⑫大久保の論拠と解決策,西郷 の論拠と解決策について,グ ループごとに発表する。 ⑬グループごとに構想した案に ついて討論する。 ・大久保案:国が富まなければ 軍隊の強化などできない。士 族の不満を抑えるために,士 族を中心とした軍隊の創設, 一時金の増額,新たな仕事を 開拓する。 ・西郷案:士族の不満を抑えな ければ政府への反乱・暴動が 起きる。費用面では,地租改 正による税率の上昇,国有地 の増加,新たな工業を振興す る。 ⑭明治維新期に活躍した人物の 関係図を作成し,学習問題に ついて自分の考えをまとめる。 ⑮次のパフォーマンス課題につ いて考える。  「もし,明治の国づくりを進 めた人々がいなければ,また, 行動を起こしていなければ, 現代社会はどのような社会に なっていたのか」。 ・大久保の論の論拠は,「富 国」優先であり,西郷の論 拠は,「強兵」優先である ことに気付かせる。 ・両案の論拠と対策について 討論させる中で,国の政策 には様々な要因が関わって いることに気付かせる。 ・本単元で扱った人物の写真 を提示し,想起させる。 ・これまでの学習から人物を 指定させた上で,明治政府 の様々な改革が現代とどの ようにつながっているのか を考えさせるパフォーマン ス課題に取り組ませる。 ○各々の立場に応じた解決策 をデジタル教科書の「MY 教科書エディタ」に取り込 み提示する。 ○デジタル教科書にある本単 元で示された人物像を提示 する。 ○これまでの学習で出てきた 人物をまとめた,デジタル 教科書の「MY 教科書エ ディタ」で作成したプロ フィールの例を提示する。 Ⅴ 結語 本研究の意義は,次の 2 点にまとめることが できるであろう。 第 1 は,アクティブ・ラーニングの視点から,

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指導者用デジタル教科書を活用した社会科授業 について, 3 段階の活用法を示したことである。 興味・関心を継続させることを主眼とした基礎 活用型から,既習概念に新たな知識を付加させ 新たな概念形成を目指す概念形成型,また,他 のメディア情報と連結させ多面的・多角的に問 題を追究させる概念深化型へ授業がステップ アップするための段階的方策を明らかにした。 第 2 は,概念深化型の授業モデルを作成し, 小学校社会科第 6 学年単元「明治の国づくりを 進めた人々」を事例に,具体的な指導のあり方 を示したことである。歴史は解釈であり,歴史 事象について,学習者は多面的・多角的な情報 に基づき解釈しなければならない。しかし,従 来の教科書では一面的な内容しか示されておら ず,デジタル教科書に様々な見方・考え方の情 報を付加させることで,多面的に学習者が歴史 解釈することを可能にした。このことは従来の 歴史学習を方法論的に改善する可能性を示した と言える。 平成30年 6 月に,学校教育法等の一部を改正 する法律が公布され,教科用図書(教科書)に 代えて,その内容を記録した電磁的記録(デジ タル教科書)を使用することが可能となった。 実際,2017年版学習指導要領に基づく活用型 の授業では,知識・技能を社会的見方・考え方 といった視点から活用し,多面的・多角的に問 題を追究することが求められている。 しかし,紙媒体の教科書は,構成上一面的で 常識的な内容しか示せない媒体であり,その限 界性を超えるには,国から保障された情報と他 の見方・考え方を示した情報の双方を扱うこと ができるデジタル教科書の有意性は高いと言え るであろう。 今後は,本研究で提案した 3 段階の活用型を 踏まえ,他の単元に関してもデジタル教科書を 活用した授業改善に関して検討していきたい。 1 )文部科学省(2016)「2020年代に向けた教育 の情報化に関する懇談会(最終のまとめ)」, 平成30年11月 1 日取得,http://www.mext. go.jp/b_menu/houdou/28/07/__icsFiles/ afieldfile/2016/07/29/1375100_01_1_1.pdf 2 )文部科学省(2016)「「デジタル教科書」の位 置付けに関する検討会議(最終まとめ)」,平 成30年11月 1 日取得,http://www.mext. go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/110/ houkoku/__icsFiles/afieldfile/2017/01/27/ 1380531_001.pdf 3 )中央教育審議会(2012)「新たな未来を気づ くための大学教育の質的転換に向けて~生涯 学び続け,主体的に考える力を育成する大学 へ~(答申)」,平成30年11月 1 日取得, http://www.mext.go.jp/component/b_ menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/ 2012/10/04/1325048_1.pdf 4 )中央教育審議会(2014)「初等中等教育にお ける教育課程の基準等の在り方について(諮 問)」,平成30年11月 1 日取得,http://www. mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo0/toushin/1353440.htm 5 )教育課程企画特別部会『論点整理』(2015年 8 月)では,アクティブ・ラーニングを通し て目指される学習として「深い学び」が補足 説明されており,その後,議論を経て「深い 学び」が追加された。 6 )1980年台のアメリカのアクティブラーニング 論との相違といった原理的検討は,本稿の範 囲を超えるため,あくまでも指導法改善の視 点からの検討に留める。 7 )文部科学省(2016)『小学校学習指導要領 (平成29年告示)解説 社会科編』,日本文教 出版. 8 )岡崎均(2016)「教科書の構成分析に基づく 小学校社会科デジタル教科書の設計理論─ 5 年生産業学習を事例として─」『日本デジタ ル教科書学会年次大会発表原稿集』 5 ( 0 ), pp. 17-18. 9 )岩淵信明(2012)「デジタル教科書を活用し た社会科の授業」『大谷学報』92( 1 ),pp. 29-53. 10)伊勢呂裕史(2017)『我が国における各教科 のデジタル教科書の活用及び開発に関する総 合的調査研究』,教科書研究センター. 11)2017年に,デジタル教科書の先進校である佐 賀県佐賀市立本庄小学校,岐阜県岐阜市立長 良東小学校について授業観察による調査を 行った。両校とも動画機能,画像や文章の拡 大機能や動画機能,ペンの機能といった技能 的デジタル教科書活用に留まっている。 12)文部科学省(2014)「平成25年度学校におけ る教育の情報化の実態等に関する調査結果」, 平成30年11月 1 日取得,http://www.mext. go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/__icsFiles/ afieldfile/2014/09/25/1350411_01.pdf 13)紙媒体の教科書の限界性については,松岡が 教科書メディアの観点から指摘している。

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松岡靖(2016)「学習指導要領に依存した社 会科授業からの改善方略─学習者の「状況」 に着目した教科書メディアを相対化する授業 改善を通して─」『社会科研究』第84号, pp. 1 -12. 14)「指導者用デジタル教科書『新編新しい社会』」 東京書籍,平成27年版.

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