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女性にやさしい助産ケア

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Academic year: 2021

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(1)

日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 20, No. 1, 7-15, 2006

*1

聖路加看護大学大学院看護学研究科博士後期課程(St. Luke s College of Nursing, Nursing Research Division, Graduate School Doctoral Course) *2

聖路加看護大学(St. Luke s College of Nursing)

2006年3月4日採用

女 性 に や さ し い 助 産 ケ ア

─会陰切開の適用を再考する─

Women-centered care in midwifery

─Reconsidering the application of the episiotomy─

辻   恵 子(Keiko TSUJI)

*1

小 黒 道 子(Michiko OGURO)

*1

土江田 奈留美(Narumi DOEDA)

*1

中 川 有 加(Yuka NAKAGAWA)

*1

堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)

*2 抄  録 目 的  エビデンスレベルの高い論文を探索し,批判的に吟味する過程を通じて会陰切開の適用を再考するこ とである。 方 法  臨床上の疑問を明確化するためのEBNの方法論を用いて,「会陰切開・術」,「会陰裂傷」,「会陰部痛」, 「新生児」のキーワードを設定し,エビデンスレベルの高い論文およびガイドラインを探索した。RCT のシステマティック・レビューである2つの論文に着目し,批判的吟味を行った。同時に,会陰裂傷を 最小限にする助産ケアの知見について検討した。 結 果  批判的吟味を行った結果,2つのシステマティック・レビューにおける研究の問いは明確に定義され ており,妥当性を確保するための必要項目を満たすものであった。これらのシステマティック・レビュー から「慣例的な会陰切開の実施は,制限的な会陰切開に比べ, 会陰(後方)の損傷 のリスクを増大させ る。また, 創部治癒過程 における合併症のリスクおよび退院時の 会陰疼痛 のリスクを増大させる。 尿失禁 および 性交疼痛 のリスクを軽減させるというエビデンスはなく, 新生児の健康上の問題 が生じるリスクを減少させるというエビデンスは存在しない」との結果が導かれた。  また,これまでの助産ケアの知見を検討した結果,会陰マッサージ,会陰保護,分娩体位の工夫など で会陰裂傷を最小限にする可能性が確認された。 結 論  女性に優しい助産ケアとして,助産師は,会陰裂傷を最小限に防ぐケアの可能性を追求すると共に, エビデンスに基づいた情報を適切な方法で伝え,女性自身が必要なケアを選択できるよう,女性とのパー トナーシップを構築していくことが求められる。 キーワード:会陰切開,根拠に基づく医療,助産,女性中心のケア

解説論文:20周年記念論文

(2)

To reconsider the use of episiotomy by critically appraising research papers with a high evidence level. Method

We applied EBN methodology used to clarify clinical issues and searched for research papers and guidelines with a high evidence level. The keywords perineotomy/episiotomy, perineal laceration, perineal pain, and newborn were used. We focused on, and critically appraised, 2 research papers that are systematic reviews of RCT, and at the same time, we examined midwifery knowledge concerning minimizing perineal tears.

Findings

Our critical appraisal found that in both systematic reviews research queries were clearly defined and all points needed to insure validity were present. These systematic reviews advised that, “Compared to restrictive episiotomy, implementing routine episiotomy increases the risk of ‘posterior perineal trauma’. It also increases the risk of ‘healing complications’ and ‘perineal pain’ at the time of hospital discharge. There is no evidence of reduction in the risk of ‘urinary incontinence’, ‘dyspareunia’, or the incidence of ‘problems with newborn health’.”

In addition, our examination of current midwifery knowledge confirms the possibility of minimizing perineal tears through perineal massage, perineal protection, and innovative birthing positions.

Conclusion

In women-centered midwifery care, the midwife seeks possible treatments that minimize perineal tears, and at the same time, shares evidence-based information appropriately with the aim of building a partnership with women so that women can choose care treatments themselves.

Key Words : episiotomy, evidence-based medicine, midwifery, women-centered care

.は じ め に

 出産は女性にとって喜びであると同時に,身体の損 傷への危惧を伴う体験であり,児娩出時の不安として, 会陰の損傷を挙げる女性は少なくない。ウィリアムズ 産科学(Pritchard, 1976/1979)には「会陰切開を行わな ければ, ぎざぎざ裂傷 が生じることが多いが,会陰 切開創は真っすぐで清潔な外科的切開創である。会陰 切開は修復が容易で,裂傷より治癒しやすい」と記さ れ,これに学んだ多くの分娩介助に携わる医療者は「会 陰切開の方が,裂傷の傷より痕がきれいである」と強 く認識してきた。しかし,Woolley(1995)は,1980年 以降の会陰切開に関する64文献のレビューから,会 陰切開はⅢ度,Ⅳ度裂傷をきたし易く,肛門括約筋の 損傷とも関連し,疼痛も強く,長期罹患率が高いとの 結論を報告している。また,「切開を行わずに生じた 会陰裂傷の縫合には困難が伴う」と考える産科医は多 いが,陰唇小帯や小陰唇内外のⅠ∼Ⅱ度の裂傷は比較 的高頻度に見かけるものの,深い裂傷はほとんどなく, 縫合も容易であるとの指摘(進, 2002)もある。  1996年に発表されたWHOのケアガイド指針には, 「会陰切開は正当な理由なしに多用し,慣例的1に行 うことに有益な効果はなく,むしろ害を及ぼし得る」 と述べられており(WHO, 1996/1997),複数の研究に よってこの見解は支持されている。Moses(1992)は, 会陰切開と裂傷を比較した場合,会陰切開の方が瘢痕 組織を残し,膣の感覚を鈍らせることや,次の分娩時 にも切開部分の会陰が伸びずに裂傷を起こしやすいこ とを指摘している。また国内において,島田(2003)は, 会陰切開を受けた褥婦と,会陰切開と同等の会陰損傷 である,第Ⅱ度会陰裂傷の褥婦の創部痛や排尿トラブ ルの有無,日常生活上の支障などの後遺症を比較した。 その結果,褥婦の産後の後遺症の発生は両群で差がな く,会陰切開が産後の女性の苦痛を予防するというエ ビデンスは存在しないことを報告している。  しかしながら,国内では現在,初産婦の約30∼ 100%,経産婦の約10∼70%に会陰切開が実施されて いるという報告がある(河合, 2001)。そして鮫島(2005) は,出産ケアの見直しを実施した結果,初産婦の会陰 切開率が5年間で93%から5%に引き下げられたと報 告している。このことは,産科医間においても会陰切 開への認識にばらつきがあり,その実施は統一された 基準を基盤とした判断に拠るものではなく,それぞれ の分娩介助にあたっている医療者の意向によって,行 われたり,行われなかったりしているという現状を示 している。  元来,会陰切開の医学的適応には,①会陰が硬く 伸展が悪いため児頭の娩出を遷延させると考えられる

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女性にやさしい助産ケア 場合,②瘢痕により会陰の伸展が不十分な場合,③急 速逐娩の必要がある場合,④未熟児の出産に際し,児 頭に対する圧迫を回避する必要がある場合,⑤巨大 児分娩や回旋異常が疑われ,複雑な会陰裂傷や肛門へ の裂傷が必至と予想される場合,⑥骨盤位分娩で後続 児頭の娩出に際し,会陰の抵抗が強いと予測される場 合などがある(進, 2002)。ここでは少なくとも,胎児 の健康状態によりその必要性が左右されよう。WHO (1985)においても,会陰切開率は20%を超えるべき ではないとされているが,ある一定数の会陰切開は回 避できないものと考えられる。但し,その場合には予 防的処置あるいは慣例的な実施ではなく,その適用の 根拠に関して十分にアセスメントを行った上で,慎重 に実施されなければならない。必要のない会陰切開に よって苦痛を与えることを回避し,生まれてきた子ど もの育児やその後の生活に向けて,女性が本来持つ力 を十分に発揮できるよう,エビデンスに基づいた安全 でやさしいケアを提供していきたいと考える。  著者らは,会陰切開が必要な場合に限定されて行わ れるよう,その適用を再考する必要性を感じ,いま一 度エビデンスレベルの高い研究や,良質との評価を得 ている論文,そしてそれらに基づいて作成されたガイ ドラインなどを探索することとした。エビデンスを有 効に活用することを念頭に, 会陰切開は本当に必要 なのか という疑問を明確化し,エビデンスの探索を 行い,結果の吟味を行った。会陰切開の必要性につい て,エビデンスをもって十分に検討され,その上で慎 重に実施されるための一助となればと考える。

.エビデンスの活用に向けて

─EBNのステップに沿ったエビデンスの探索─

 本項では,EBN(evidence based nursing)のステッ プ(堀内ら, 2002)を参考とし,エビデンスレベルの高 い良質の論文を探索した手続きとその経過を示す。 1.疑問を作る(問題の定式化)  今回とりあげた疑問を明確化するために,ここでは PICO-Patient·Intervention·Comparison·Outcome(堀 内ら, 2002)を用いている。これは,臨床上の疑問の 明確化のために活用される方法である。会陰切開には 大別して母体側と胎児側の事由による医学的適応が存 在するため,今回は2種類のPICOを設定した。 〈PICO 1〉 Patient:経過の順調な産婦が Intervention:慣例的な会陰切開をすることは Comparison:会陰切開をしない場合と比べて Outcome:新生児に健康上の問題を生じない 〈PICO 2〉 Patient:経過の順調な産婦が Intervention:慣例的な会陰切開をすることは Comparison:会陰切開をしない場合と比べて Outcome:重度の会陰の損傷および産後の後遺症 (ex.疼痛)を予防する  また,ここでの疑問の種類を4種類の問いのカテゴ リー(「治療または予防・介入」,「予後」,「原因・害」, 「診断」)から吟味した。本稿では,慣例的な会陰切開 を医療介入と捉え,この疑問を「治療/予防」ととら えることとした。 2.エビデンスをさがす(情報収集) 1)標準的な教科書・ハンドブックをさがす  分娩期のケアに関して記載のある成書4冊(Stuart, 2002/2002 ; WHO, 1996/1997 ; Enkin, 1995/1997 ; Wagner, 1994/2002)を確認した。3つの成書(Stuart, 2002/2002 ; Enkin, 1995/1997 ; Wagner, 1994/2002) において,いずれも慣例的な会陰切開の利点を示す 明白な根拠はないとの記載があり,別の文献(WHO, 1996/1997)では,慣例的な会陰切開に有益な効果は なく,会陰切開は制限的2に使用されることが望まし い,との記載が確認された。 2)電子教科書およびガイドラインをさがす 〈UpToDate〉(http://uptodateonline.com):Patient Informationのサイトに,会陰切開のリスクおよび ベネフィットのどちらも十分な根拠を欠いている ことが記載されていた。

〈Evidenced Based Nursing〉(http://ebn/bmjjournals. com):Webサイトを確認したが該当するものは検 索できなかった。 〈HSTAT〉(http://www.hstat.nlm.nih.gov):サイト内の エビデンス・レポート「産科ケアにおける会陰切開 の利用:系統的レビュー」(2005)に,会陰切開の適 応基準による母体の産後早期のアウトカム,切開 脚注 1 本稿では引用文献中の routine を 慣例的 とした。 2 本稿では引用文献中の restrictive , selective を 制限的 とした。

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て検討がなされていた。その結果,慣例的な会陰 切開は制限的な会陰切開より重度の裂傷を発生し やすいが,長期的な排泄や性機能への影響はエビ デンスが不十分なため不明,との記載があった。 3)文献データベースをさがす (1)キーワードの設定

 まず,PubMedのMedical Subject Headings (MeSH) を参考にキーワードを設定した。第1のキーワード は,「会陰切開・術」が episiotomy のみであることを 確認したうえで設定した。会陰裂傷(perineal trauma, tear or laceration)あるいは会陰部痛(perineal pain)は MeSHに掲載されていなかったが,第2のキーワード として設定し,第3のキーワードとして,新生児(infant, baby, neonatal or fetal)を設定した。

(2)探索方法

 問いのカテゴリーを「治療/予防」と設定したこと から,論文のエビデンスのレベルは,①RCT(ランダ ム化比較試験─Randomized controlled trial)のシステ マティック・レビュー(SR),②単独のRCTの順が妥 当であるとし,探索を行った。

①システマティック・レビュー(またはメタ・アナリ シス)をさがす

〈The Cochrane Library〉(http://www.update-software. com/publications/Cochrane/)

 まず,CDSR (The Cochrane Database of Systematic Review)を確認した。このデータベースの和訳であ る『コクラン・レビュー抄録集日本語版1998年第4 版 』(http:// www.niph.go.jp/toshokan/cochrane/JP/ REVABSTR/JP/abidx.htm)を確認すると,「経膣分娩 における会陰切開の方針─Episiotomy Policies in vagi-nal births(最終更新日:12/02/1997)」が掲載されてい た。結果として,適用を制限した会陰切開が推奨され ていたが,最終更新日が1997年であることから,実 際のCDSRを検索した。

─Cochrane Library 2005 Issue3 検索式

#1 episiotomy 52件 #2 (perineal or perineum) and (trauma or

lacera-tion

or tears) 57件 #3 infant or baby or neonatal or feta 1002件 #4 #1 AND #2 AND #3 51件

・Carroli G. & Belizan J. (1999). Episiotomy for vaginal birth. Cochrane Database Syst Rev, 20 (2): CD000081.  これは会陰切開全般に関するレビューであり, RCT6件を統合し, 制限的な会陰切開施行群 と 慣例 的な会陰切開施行群 を比較している。  さらに,検索式をCDSRと同様に設定し,1999年以 降の良質なレビューをDARE(Database of Abstract of Review of Effectiveness)にて検索したが,該当する論 文はヒットしなかった。

〈MEDLINE (PubMed)〉 (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/ entrez/query.fcgi)

 Clinical Queriesより Systematic Review を選択し, Cochrane Libraryと同様の検索式を用いた結果,57件 がヒットした。各論文のアブストラクトを通読した結 果,以下の論文が設定した問いに該当した。

・Hartmann, K.,et al. (2005), Outcomes of Routine Episiotomy - A systematic Review. Journal of Amer-ican Medical Association, 293 (17), 2142-2148.  これは,会陰切開における妊産婦のアウトカムに 関するレビューであり,RCT7件とコホート9件を含 む計26件の論文を用いて, 制限的な会陰切開施行群 と 慣例的な会陰切開施行群 を比較している。 〈Joanna Briggs Institute for Evidence Based Nursing

and Midwifery〉(http://www.joannabriggs.edu.au/ about/home.php)  上記と同様の検索式で行なったが,目的に該当する 論文はヒットしなかった。よって,次に信頼性および 妥当性が確保されているRCTを探索することとした。 ②RCTをさがす  ここでは,以下の4つの文献データベースを活用し, 検索を行った。

〈The Cochrane Library〉

 The Cochrane Controlled Trials Register (CENTRAL) を検索した。検索式はCDSRと同様とし,22件がヒッ トしたが,PICOに該当する新たな文献はヒットしな かった。 〈MEDLINE (PubMed)〉  上記と同様の検索式で,Limit機能でRCTと限定し た結果,81件がヒットした。会陰マッサージ,会陰切 開後の薬剤の効果,会陰保護法,医師の信念,会陰 切開後の骨盤底筋群,切開法の違いなどのRCTが検

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女性にやさしい助産ケア 索されたが,新たな知見となり得る文献は見当たらな かった。 〈CINAHL〉(http://www.cinail.com)  PubMedと同様に検索を行い26件がヒットしたが, 該当するものは見つからなかった。 〈医学中央雑誌〉(http://login.jamas.or.jp/)  検索式を 会陰切開術 and RD(=ランダム化比較試 験,比較臨床試験,比較研究,メタ・アナリシス,診 療ガイドライン)の設定にて検索したところ,9件が ヒットした。検索された9件の内容を確認したが,会 陰マッサージ,胎児心拍モニター,分娩第2期の母体 に関する内容であり,関連文献は見つからなかった。  以上の検索結果から,本稿では2件のシステマティッ ク・レビューに着目し,論文の批判的吟味を行った。 論文の概要については表1に示す。

.論文を批判的に吟味する

 システマティック・レビューでは,①問題とするト ピックに関するすべての原著論文を探し出す膨大な努 力をし,②論文を批判的に評価し,③事前に定められ た質的評価基準を満たす研究を統合して結論が導かれ ていること,がその重要な特徴としてあげられている (Badenoch, 2001/2002)。CASP Japan (http://caspjp.

umin.ac.jp)が提供する「レビューを理解するための10 のチェックポイント ver.2.1」を参考に,著者らが行っ た論文の吟味の経過の概略を以下に示す。 1.結果は信頼できるものであったか  Carroliら(1999)の論文は,コクランライブラリー のDAREに収録されており,英国ヨーク大学のNHS Center for Reviews and Disseminationによって吟味さ れ,構造化抄録として作成されており,その妥当性 が確保されている。6つのRCTから結果の結合がなさ れているが,新生児のアウトカム指標が提示された RCTは限られており,結果は1つのRCTまたは3つの RCTの結合値が示されていた。  一方,Hartmannら(2005)の論文では,関連する研 究について包括的に検索が行われ,複数のレビューア により行われた研究の抽出過程と,その質の評価手続 きに関して明記されていた。妊産婦のアウトカム指標 を分娩後早期から長期にわたるものまで複数用いてレ ビューを試み,ばらつきについても検討している。し かし,最終的に各々の研究の質や結果が異なったこと から,複数のアウトカムにおいて結果の結合が不可能 であった。また各研究結果(相対危険率および信頼区 間)については,件数のみの表示となっており,課題 を残している。しかしながら,著者らの疑問に直接関 連する指標である 会陰の損傷 , 疼痛 , 縫合の必 要性 については,5∼7つのRCTから結果の結合がな されていた。  これら2つのシステマティック・レビューは,re-search questionが明確に定義されており,概して妥当 性を確保するための必要項目を満たすものであった。 少なくとも,著者らの疑問と一致するアウトカムにつ いては,結果に信憑性があるものと判断された。 2.結果は何か  2つの論文において,結果は相対危険率(RR)で示 されていた。妊産婦のアウトカムである 会陰(後 方)の損傷 は,制限的な会陰切開群が慣例群に比し て,Carroliら(1999)の結果では0.88倍,Hartmannら (2005)の結果では0.46倍少ないという結果となった (表1)。双方の結果は,真の効果の予測値として信頼 区間が1を含まないため,この結果には統計的な意味 があるといえる。  さらに, 縫合の必要性 はどちらのレビューの結果 においても,慣例的な実施群が制限群に比して高く, Carroliら(1999)の結果において, 疼痛 は,退院時 の会陰疼痛が制限群において0.72倍少なく,分娩後7 日間の 創部治癒過程 の合併症も制限群で0.69倍と 少なかった。  長期的なアウトカムでは,Carroliら(1999)の結果 およびHartmannら(2005)の前向きコホートの統合結 果の方向性は一致しており, 尿失禁 , 性交疼痛 に ついて両群で差はみられていない。  結論として,これらのシステマティック・レビュー から「慣例的な会陰切開の実施は,制限的な会陰切開 に比べ, 会陰(後方)の損傷 のリスクを増大させる。 また, 創部治癒過程 における合併症のリスクおよび 退院時の 会陰疼痛 のリスクを増大させる。 尿失禁 および 性交疼痛 のリスクを軽減させるというエビ デンスはなく, 新生児の健康上の問題 が生じるリス クを減少させるというエビデンスは存在しない」とい う著者らの疑問に対する結果が導かれた。

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テ ー マ A Systematic Review Episiotomy for vaginal birth (Cochrane Review)

著者 Hartmann, K., Viswanathan, M., Palmieri, R. et al. Carroli, G. & Belizan, J.

発表年 2005 1999 目的 会陰切開の慣例的な実施と制限的な実施における 妊産婦のアウトカムに関して利用できる最良のエ ビデンスを系統的にレビューする. 経膣分娩における制限的な会陰切開実施と慣例的 な会陰切開実施において起こりうる利益とリスク を明らかにする. データ抽出と質の 評価手続きの記載 あり 基準を満たしたランダム化比較試験7論文を採用. 長期的アウトカムの検討には良質の前向きコホー ト9件を追加.最終的な採択は全26件. あり 基準を満たした6つのランダム化比較試験を採用. 結果 妊産婦のアウトカム 1)会陰切開率 2)会陰の損傷 3)縫合の割合 4)疼痛 5)分娩時出血 6)創部治癒過程 7)失禁と骨盤障害 8)性的機能 1)会陰切開実施率の結果は統合されていない. 良質と判断されたSleepら(1984)の結果では, 制限群[10.2%],慣例群[51.4%]で実施されて いた. 2)5つのRCTを統合した結果,制限的会陰切開の 会陰の損傷は,慣例群に比して0.46倍少なかっ た.(RR 0.46 95%CI 0.3-0.7). 3)縫合の必要性を示す割合は,3つのRCTを統合 した結果,慣例群が制限群に比して1.26倍高 かった. 4)測定方法に均一性なし. 5)分娩時出血量および母体のヘモグロビン値に おいて制限群・慣例群に差はなかった. 6)感染や血腫など創部治癒過程の合併症に2群で 差を認めなかった. 7)出産後3ヶ月,3年後の尿失禁の有無に関して 会陰切開を行った群と自然裂傷群の2群に差は なかった(RR, 1.02, 95%CI, 0.72-1.07).さらに, 会陰切開が便失禁あるいは鼓腸のリスクを減少 させるというエビデンスは見出せなかった. 8)分娩後3ヶ月以内,またそれ以降の性交時痛に おいて制限群と慣例群の間に差は認められな かった. 1)制限群[27.6%],慣例群[72.7%]が実施. 2)制限群は慣例群に比して会陰後方の損傷のリ スクが低かった(RR 0.88, 95%CI 0.84∼0.92). しかし制限群は会陰前方の損傷と関連があった (RR 1.79, 95%CI 1.55-2.07).膣または会陰の重 度の損傷の発生率は2群で差はなかった. 3)制限群で縫合の必要性の割合が低かった(RR 0.74, 95%CI 0.71-0.77). 4)制限群で退院時の会陰疼痛が軽い(RR 0.72, 95%CI 0.65-0.81;NNT 9, 95%IC 7-12).分娩後3 日,10日,3ヶ月後の会陰の疼痛に差はなかった. 6)制限群で分娩後7日間の創部治癒過程の合併症 が少なかった(RR 0.69, 95%CI 0.56-0.85). 7)分娩後3ヶ月時点での尿失禁,3年後の尿失禁 において両群で差はなかった. 8)分娩後3ヶ月時点での性交疼痛には差はみられ なかった(RR 1.22, 95%CI 0.94-1.59). 結果 新生児のアウトカム 1) Apgar Score 2)新生児専門ケア ユニット入院 1) 3件のRCTの結合により,アプガースコア(1 分後7点以下)には両群で差はなかった(RR 1.09, 95%CI 0.78-1.51). 2)新生児専門ケアユニットへの入院は,両群で 差はなかった(1件のRCT:Sleepら, 1984). 結論 慣例的な会陰切開術の結果として妊産婦の利益を 支持するエビデンスは存在しない. 制限的な会陰切開の方針は,慣例での実施方針に比して多くの利益があり,その採択が推奨される ための明らかなエビデンスが存在する.制限的な 適用において,会陰後方の裂傷や縫合そして合併 症は減少し,殆どの疼痛や重度の膣または会陰の 損傷には差がない.但し会陰前方の裂傷のリスク は,増加する. ※RR:相対危険率 CI-confidence interval:信頼区間/ RRの95%信頼区間が1を含まない=5%の有意差で統計的に意味がある

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女性にやさしい助産ケア

.実践への提言

1.EBNの実践と女性を主体とするケアへ   会陰切開は分娩期の医療介入としてすべての女性 に必要なのか ─この問いに照らし,医学的適応のあ る会陰切開の制限的な実施と慣例的での実施をとりあ げた2つの研究論文の吟味を通して,慣例的な会陰切 開の利点とそのリスクについて検討した。会陰切開は 多くの場合,母子にとっての 安全 を優先した医療 介入と認識されてきたが,今回の結果から,会陰切開 の慣例的な実施に新生児のよりよい健康状態を獲得で きるというエビデンスは存在せず,さらに妊産婦のア ウトカムにおいても会陰(後方)の損傷,会陰の治癒 過程における合併症や疼痛を増大させるリスクの存在 が明らかとなった。また,性交疼痛や尿失禁のリスク を減少させる,などのエビデンスも見出されなかった。  2つのレビューの対象者と,国内の助産師がケアを 提供する妊産婦の状況に大きな相違はなく,この結果 は実践への適用が可能であると考える。また,会陰切 開が身体的な侵襲を惹起する可能性があることやその 適用の利点が確認できないことから, 慣例的な会陰 切開を行わないこと が,薬物投与,縫合などのさら なる医療介入を減らし,コスト・ベネフィットにつな がることも考慮できる。  これらのエビデンスに基づいた一連の情報を妊産婦 に適切な方法で伝える時,果たして彼らはどちらの方 法を選択するであろうか。Evidenced-based Medicine とは,時代の要請として,市民のなかから生起してき た考え方であり,元来消費者はそれを知ることにより, 自らに必要なケアを選び取れるということを前提とし ている。慣例的に行われてきた妊産婦へのケアを見直 し,よりよい方向に転換していくために忘れてはなら ないのは,ケアの受け手である女性自身の声であり, 力であろう。  「女性を中心にすえたケア─Women-centered care」 は,その概念分析によって 尊重 , 安全 , ホーリ スティック , パートナーシップ という属性と 女性 のエンパワーメント および 看護職の自律 という帰 結が導かれている(Horiuchiら, 2005)。本稿でとりあ げた会陰切開をこの概念に照らすと,必要時のみに限 定して行われる 制限的な会陰切開 は,身体への侵 襲が少ないケアへと導くこと,すなわち安全なケアの 提供として解釈できる。さらに,女性自身の意思決定 を尊重するという基本的なケアの姿勢が確認できる。 女性が自身の身体にどのような力が備わっているのか を知り,自身に必要なケアとそうでないものの識別を 可能にするために,助産師は根拠に基づく質の高い情 報を獲得し,必要な時に適切な方法で女性に伝えてい くことが求められ,そのための十分な時間と環境が日 常のケアとともに提供されることが望まれる。 2.会陰裂傷を最小限にする助産ケア  妊娠・分娩期にある女性のケアにかかわる助産師の 自律的な取り組みとして, 会陰裂傷を最小限にする ケアの可能性があるのではないだろうか。このことは, 女性を 尊重 し, 安全 に導くものとしてさらに大 きな可能性をもつ。ここではいくつかの方法とその見 解について述べていく。 1 )会陰マッサージ・会陰保護・分娩体位  妊娠中からの会陰のマッサージは会陰裂傷予防に 有効であるとし,スイート・アーモンドオイルを妊 娠34週から分娩まで毎日5∼10分会陰部にすり込む 方法が採用されている(Labrecqueら, 1994)。前田ら (2004)は,Labrecqueら(1999)が行った会陰マッサー ジに関するRCT(ランダム化比較試験─Randomized controlled trial)に つ い てEBM の ス テ ッ プ(堀 内 ら, 2002)にそって批判的吟味を行っており,結果として 「会陰マッサージは,初めての経膣分娩において会陰 裂傷を防ぐ可能性を高める有効な方法として支持でき る」と結論づけている。また分娩期の会陰マッサージ について,分娩第2期(子宮口開大,初産婦8cm以上, 経産婦5cm以上)に,水溶性潤滑剤を用いた会陰の マッサージの会陰伸展における有効性を検証した研究 (Stampら, 2001)では,会陰裂傷Ⅰ∼Ⅱ度の発生に差 は認められないものの,Ⅲ度裂傷について,この会陰 マッサージの効果が確認された。  また,国内において助産師は,手掌および手指を用 い,分娩第2期に会陰保護を行っている場合が多いが, この時期に 児頭を押え会陰を支える方法 を検討す るシステマティック・レビュー(MaCandlish, 1998)で は, 児頭に触れず会陰を支えない 方法において,会 陰切開の実施率が低下することが示唆され,さらに会 陰損傷あるいは第Ⅲ∼Ⅳ度裂傷のリスクについては両 群で統計学的有意差はなかった。  分娩体位による会陰裂傷の頻度の違いは認められな い(Roberts, 2005 ; Bodner-Adber, 2003)とする研究が 多くを占めるなかで,Shortenら(2002)は,〈蹲踞〉と

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いものの,実際に生じた場合には,縫合が必要な多く の会陰損傷をきたすことが示されている。またSoong (2005)は,〈側臥位〉,〈半臥位〉,〈四つん這い〉,〈膝立 て〉,〈蹲踞〉などさまざまな分娩時の体位について, 縫合が必要な裂傷の有無を指標に比較検討した。その 結果,〈半臥位〉で縫合が必要な会陰裂傷が多くなる傾 向にあり(Odds Ratio=1.16, 95%CI 1.01-1.33),〈四つん 這い〉では会陰の縫合を必要としない割合が有意に高 かった(Odds Ratio=0.77, 95%CI 0.62-0.96)。これは〈側 臥位〉,〈椅坐位〉,〈四つん這い〉という3つの体位の比 較において,肛門から会陰交連部分と陰門部分の伸展 と収縮状態,陰門形状を観察することにより,児娩出 には〈四つん這い〉が最も合理的な体位であるとした 調査結果(村上, 1998)と一致する。 2 )会陰裂傷の縫合は必要か  重度の会陰損傷の予防という観点から,会陰切開の 必要性が示される場面は多いが,会陰裂傷の縫合その ものの必要性を疑問視する見解も存在する。  Lundquistら(2000)が会陰裂傷Ⅰ∼Ⅱ度の80名の褥 婦に対して行った小規模のランダム化比較試験では, 産褥2∼3日目で創部癒合が良好な者は縫合群で80%, 縫合なし群では74%で統計学的に有意差はなく,産 後8週間目の創部は両群とも癒合良好であった。した がって,会陰裂傷Ⅰ∼Ⅱ度の治癒過程において縫合 の有無に差はなかったといえる。そして,治癒過程に おいて分娩後2∼3日および8週間後の不快感,疼痛, 苦痛について両群に有意差はなかった。助産所での自 然な分娩を推奨し,実践している毛利(2005)は,過 去650例の分娩から,自然な会陰裂傷(第Ⅱ度)の発生 は約17%で,そのうち縫合をしたものは8%,縫合せ ず自然治癒をしたものは11%であり,縫合しなかっ た場合においても産後に問題はなかったと報告してい る。つまり,会陰裂傷を最小限にすることができれば, 縫合の必要性そのものを減らすことができるのではな いだろうか。  妊娠・分娩期の助産師のケアによって,会陰裂傷そ のものを最小限に防ぐケアの可能性は,数多く存在す る。会陰切開を適用せずに,助産ケアによって会陰裂 傷を最小限にすることが可能であれば,医学的適応の ない慣例的な会陰切開により苦痛を体験する女性を, 少しでも減らすことに貢献できるものと考えられる。

 Midwifery Model (ICM, 2005) では,その理念およ びケア内容として 相手を尊重したケア , 個別に注 目したケア , 豊富な情報の提供 , 適切なモニタリ ング , 妊産婦自身のからだを信頼すること , 心地 よい自然体のケア , いつもともにいるケア提供者 の7項目を掲げている。女性自身が本来の力を発揮し, 自分にふさわしいケアを選びとれる主体であることを 前提として,助産師はケアを提供していくことが求め られる。そして女性のパートナーとして共にあること, さらに意思決定を共有しながら女性をよりよいケアの 構築に向けて巻き込んでいくことが必要であろう。そ のこと自体が,女性にやさしい助産ケアへの一助にな らないだろうか。 文 献

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参照

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