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授乳期の乳房診断アセスメントツールの開発

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Academic year: 2021

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*1静岡県立大学(University of Shizuoka)

*2聖路加看護大学,聖路加産科クリニック(St. Luke's college of nursing, St Luke's birth clinic)

2011年7月13日受付 2012年6月5日採用

原  著

授乳期の乳房診断アセスメントツールの開発

—項目精選—

Development of an assessment tool for the state of the breast

during lactation: selection of items

長 田 知恵子(Chieko OSADA)

*1

堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)

*2 要  旨 目 的  本研究の目的は,授乳期の母親を対象とする乳房の状態や乳汁の分泌状態を観るアセスメントツール を開発するにあたり,より臨床での有用性を高めるため,作成したツールの項目を精選することである。 方 法  既存研究(長田,2007)ならびに文献検討に基づき,本研究のアセスメントツールの原案を作成した。 さらに母性・助産学領域の研究者および臨床で母乳育児支援に携わっている助産師らが内容妥当性およ び表面妥当性の検討を行い,追加修正した。母乳育児支援の経験年数が異なる助産師5名と乳房疾患の 既往がない授乳期の母子45組,計90乳房を対象として調査した。 結 果  妥当性の検討として,構成概念妥当性は,主因子法・プロマックス回転による探索的因子分析を行い, 3因子16項目が抽出された。第1因子からそれぞれ【乳汁の産生を観察する視点】【乳汁のうっ滞を観察 する視点】【子どもの母乳の飲み方を観察する視点】と命名した。このうち,第2因子は,既存のアセス メントツールとの相関において,より強い相関が得られた。また,超音波検査法を用いた診断でも同様 の結果が得られたことから,基準関連妥当性の確認ができた。  信頼性の検討は,Cronbach s α係数0.844(下位概念:0.872,0.786,0.852)であることから同質性の高 さを確認した。同等性は,級内相関とκ係数から検討したところ,母乳育児支援歴6年以下の助産師と では一部の項目で0.4を下回るものの,母乳育児支援歴8年以上の助産師間では ほぼ一致 していた。 結 論  本研究のアセスメントツールは,授乳期の乳房状態を観察するツールとして,3因子16項目から構成 される。本研究において,信頼性や妥当性の確認および項目間の偏りや使用者への負担が少ない項目を 見極めたことにより,臨床での有用性が期待できると考える。 キーワード:授乳期,母乳育児,乳房診断,アセスメントツール,項目精選

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Ⅰ.はじめに

 現在,母子のスキンシップや母乳中に含まれる免疫 などにより,母乳育児の利点が見直されている。平 成17年の厚生労働省の調査(2006)でも,妊婦を対象 とした母乳育児に関する調査結果によると,「母乳が 出れば母乳で育てたいと思っていた」52.9%,「ぜひ母 乳で育てたいと思っていた」43.1%であり,96.0%が母 乳で育てたいというように,母乳育児への期待が高ま っている。しかし,現在,母乳育児に関するアセスメ ントツールは,授乳場面に焦点を当てたツールはある ものの(2010,長田),授乳期の乳房トラブルに対し て,共通見解を得ている鑑別診断や判断基準がないこ とから,乳腺外科などの他部門への連携の判断は助産 師個々の経験に基づいて行われているのが現状である。  そこで本研究の目的は,授乳期,特にトラブルの発 症しやすい乳汁生成Ⅲ期の母親を対象とする乳房の状 態や乳汁の分泌状態を観るアセスメントツールを開発 するにあたり,より臨床での有用性を高めるため,作 成したツールの項目を精選することである。ツールの 項目の偏りや使用者の負担が少ない項目を見極めるた めの項目精査は,臨床での有用性の観点からも重要で あると考える。

Ⅱ.研究デザイン

 本研究は,助産師が乳汁生成Ⅲ期の母親の乳房の状 態を見極めるための「授乳期の乳房診断アセスメント ツール」を作成し,項目の精選をする量的探索的研究 デザインである。 Abstract Purpose

ThisThis study aimed to develop an assessment tool to evaluate the state of the breast and milk secretion of lactating mothers. In this study, items were carefully selected for an assessment tool to increase its usefulness in a clinical setting.

Methods

The original study designed an assessment tool that was based on the results of previous study (Osada,2007). Since then the content and surface validity were discussed by researchers in the maternity and midwifery fields, as well as midwives specializing in breastfeeding support in the clinical field, resulting in new content being added to modify the original assessment tool to modified it. Five midwives, having different lengths of experience in breast-feeding support and 45 pairs of mother and child participated in the survey study. A total of 90 breasts from 45 lac-tating mothers, who had no history of breast disease were used as the subjects.

Results

Exploratory factor analysis was performed on the validity of construction concept using both the principal factor analysis with the Promax rotation method. From these methods, three factors and 16 items were extracted: specifically the factors were, 1) viewpoint for observation of milk production, 2) viewpoint for observation of galac-tostasis, and 3) viewpoint for observation of the way of children’s sucking the breast in order. Among these factors, the second was closely correlated with that of the previous assessment tool. Since the results of diagnosis using the current tool were similar to those obtained using ultrasonography, its criteria-related validity was confirmed. Since Cronbach’s α coefficient of reliability was 0.844 (0.872, 0.786, 0.852 for subordinate concepts), the reliability of this assessment tool was confirmed. The interclass correlation coefficient and Cohen’s kappa (k) coefficient were less than 0.4 for some items in midwives with six or less years of breastfeeding support experience; but was coincident among midwives with eight or more years of similar experience. But, it was coincident among the midwives whose experience was 8 years or more.

Conclusion

This assessment tool for diagnosing the state of the breast during lactation was constructed with 3 factors and 16 items. The reliability and validity of the assessment tool were satisfactory. Items were chosen for the tool so as to lighten the load for its users and decrease the inter-item deviation. Therefore, it is expected that this assessment tool will be available in the clinical field.

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設問がわかりやすいか,誤解を受けやすい表現はない か,さらに追加したほうがいい項目はないか,使用す るにあたり負担になるような箇所はないか,使用する 際の所要時間を検討した。

3.測定用具

1 ) 併存妥当性用ツール(LATCH assessment tool,以 下LATCHとする。)

 LATCHは,Jensen, Wallace & Kelsay(1994)によっ て母乳育児行動を観るために開発されたツールで,母 親あるいは看護者によって,母子の母乳哺育行動を5 項目(吸着,嚥下音,乳頭のタイプ,快適な授乳,抱 き方)3段階評価(0∼2;得点範囲0∼10)で測定する ツールである。母乳育児が良好なほど得点が高値を示 すよう構成されている。なお,本研究では,すでに国 内の調査(土江田,2008)で信頼性と妥当性が確認され たものを用いた。 2 ) 超音波検査  乳腺炎の診断には,細菌学的な検査,すなわち罹患 している乳管より乳汁を採取し培養することにより感 染の有無を見極める検査と,超音波を用いた画像診断 がある。前者の細菌学的検査は,罹患した乳管からの 乳汁採取の困難さ(河田・杉下,2004)や,培養検査に は日数がかかることから即時判断が求められる乳腺炎 には不向きである(根津・上条,2004)。一方,後者の 超音波検査法は,マンモグラフィーとは異なり,X線 による被曝はなく身体への侵襲が少ないため,乳腺膿 瘍の際の穿刺や切開部位の見極めも兼ねて,現在,乳 腺炎の確定診断として多くの施設で用いられている検

Ⅲ.方   法

1.用語の定義 乳汁生成Ⅲ期:乳汁生成は,乳汁の産生機序からⅠ∼ Ⅲ期に分類される(Riordan, 2005)。このうち,乳 汁生成Ⅲ期とは,分娩後9日以降から母乳育児終了 までの期間で,乳汁産生はいかに母親の乳房内にあ る乳汁を飲み取ったか(オートクリンコントロール) によって,乳汁産生量が決まる時期である。 2.「授乳期の乳房診断アセスメントツール」の作成過 程(図1) 1 ) アイテムプールの作成  授乳期の乳房状態を観察するための項目として, 「助産師による退院後の母乳育児における観察項目と アセスメントの思考過程」(長田,2007)ならびに文献 検討に基づき,51項目から構成される「授乳期の乳房 診断アセスメントツール」の原案を作成した。 2 ) 内容妥当性と表面的妥当性による原案の修正 〈内容妥当性〉  助産師歴3年以上で,母性あるいは助産教育の経験 がある研究者(修士卒以上5名)が,ツール内で用いて いる用語の理解しやすさや回答のしやすさ,回答する 際の心理的,時間的な負担などの視点から評価検討し た。 〈表面的妥当性〉  助産師歴10年以上で母乳育児支援歴5年以上の助産 師(5名)が,実際の支援場面で本研究のツールが使え るかという有用性の視点から評価した。具体的には, 助産師による退院後の母乳 育児ケアにおける観察項目と アセスメントの思考過程 (長田,2007) 文献検討 ツール (51項目) 〈項目精選〉 対象助産師(5名) ・信頼性や妥当性 ツール (109項目) ツール (16項目) 助産師(10名) ・内容妥当性  ・表面的妥当性 助産師(4名) ・項目の分類や  因子名の確認 この中の4名 図1 本研究における項目精選の手順

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査法である(菊谷・土橋・篠原,2007)。そこで,本研 究の外的指標として超音波による診断法を用いること とした。  本研究の超音波検査に用いた装置は,GEヘルス ケア・ジャパン株式会社のLOGIQ Book XPであっ た。検査は,通常の母乳育児支援の直後に,超音波検 査歴10年以上で,乳腺疾患の検査も経験のある女性 検査技師1名が行った。検査項目は,乳腺炎に関する 既存資料(竹下,2005;植野,2007;菊谷・土橋・篠 原,2007;長尾・飯塚,2007;竹下,2009)で用いられ ている項目ならびに乳房状態について超音波装置を用 いて調査した資料(榎本・土橋・菊谷他,2005;安井 ・片桐,2009)を基に原案を作成した。それを,本研 究の検査技師が母乳育児中の褥婦(出産後2ヵ月)1名 の授乳前後の乳房について超音波装置を用いて調査し ながら,項目の是非を他2名の技師とともに検討した。 その結果,膿瘍の有無や乳腺体の低エコー域レベルな ど,本研究で用いる項目は,68項目となった。  なお,医療介入したケースの場合は,女性検査技師 の検査後に担当医が乳腺膿瘍であることの確認と穿刺 部位を決めるため,再度超音波で診断を行った。また, 医療介入が必要な膿瘍の場合,そのままにしておくと 患部が自壊する可能性が高いだけでなく,状態の悪化 に伴い母子が他施設に受診する可能もある。そこで本 研究では, 本来は医療介入が必要であったケース を 見逃さないために,その後の状態についてアンケート 調査をした。 3 ) 体温測定  乳腺炎は炎症性の疾患であることから,炎症兆候の 1つである発熱状態を測定するため,温度精度 0.1℃ であるテルモ社製電子体温計C202を使用し,母親の 両腋窩で体温測定を実施した。 4.調査 1 ) 対象者  対象は,以下の条件を満たし研究の趣旨に賛同し, 研究参加に同意した助産師とした。 ・地域で主に母乳育児支援(乳房マッサージや授乳指 導など)に携わっている。 ・母乳育児支援の際,乳房の診断を助産師自らの手 (触診)でも行っている。 ・助産師経験が,5年未満,5年以上10年未満,10年以 上15年未満,15年以上に該当する。 ・乳汁生成Ⅲ期を対象とする母乳育児支援歴がないあ るいは1年未満,1年以上10年未満,10年以上に該当 する。  対象母子は,研究の趣旨に賛同したケースとした。 なお,乳腺炎以外の乳房疾患の既往(豊胸術も含む) や母乳育児をやめるための相談や支援のために来院し たケースは除外とした。 2 ) 調査場所  乳汁生成Ⅲ期の母子を対象として母乳育児支援をし ている母乳育児相談室1カ所 3 ) 調査期間  2009年9月∼10月末日。 4 ) 調査方法 (1)リクルート手順  対象施設長および対象助産師に,口頭と文章で研究 の趣旨を説明した。承諾後,同意書に署名および基本 情報収集のためのアンケートへの記載を依頼した。  対象母子に対しては,対象施設の待合室にリクルー ト用のポスターを調査前日から終了日まで掲示し,自 由意思による参加を呼びかけた。調査当日,対象施設 に母乳育児支援を受けに来院した母親(付き添いの家 族がいる場合は家族も含める)に,研究の趣旨を口頭 と文章で説明し,同意書に署名後,調査への参加を依 頼した。 (2)データ収集  対象助産師には,通常のケア終了後,今回開発した アセスメントツールとLATCHへの記載を対象母子毎 に依頼した。  対象母子には,無記名の基本情報用質問紙への記載 および後日郵送用の住所の確認をするとともに,体温 測定と対象助産師のケア終了後,研究者による視・触 診および女性検査技師による両乳房の超音波検査を依 頼した。さらに,調査後2週間以内に無記名式の質問 紙を送付し,記載後,返信用封筒に入れ,投函するよ う依頼した。 5.倫理的配慮  本研究を行うに当たり,以下の倫理的配慮を行った。 [対象母子] 1 ) 研究への参加は対象者の自由意思であり,研究は 病院施設の業務やケアとは無関係であり,調査に協 力しない場合でも病院施設での医療・看護は通常通 り受けられ,研究に不参加や途中でやめる場合でも 不利益を生じないことを説明した。 2 ) 母子の状態が急性期で研究参加が難しい場合は,

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担当助産師と相談し研究対象としないこととした。 3 ) 乳腺専門の検査技師は,女性に依頼した。 4 ) リクルート時には,乳癌検診の目的で超音波検査 を行うのではないことを明示した。しかし,超音波 検査で悪性腫瘍や乳腺膿瘍の可能性,その他医療介 入が必要と判断された場合は,研究者や検査技師か ら直接母親には伝えず,対象助産師にその旨を直ち に報告することとした。また超音波検査は,X線に よる被曝がないことも対象の母親に説明した。 [対象助産師] 1 ) 研究への参加は対象者の自由意思であり,調査に 協力しない場合でも不利益を被ることがないことを 説明した。また,研究に不参加や途中でやめること も可能であることを説明した。 2 ) 研究のデータおよび結果は,研究目的以外に使用 することはなく,途中でやめた場合には,それまで のデータは破棄することを事前に伝えるとともに, 同意書とともに辞退書も渡した。 [対象母子・対象助産師] 1 ) 対象者に対する秘密保持として,施設名や個人名 は特定されないようデータ処理し,得られたデータは 研究目的以外には使用せず,不要になり次第,破棄す ることとした。なお,研究の成果発表は匿名性を重視 して行うことを説明した。 2 ) 聖路加看護大学の倫理審査委員会の承諾を得て行 った。 (聖路加看護大学倫理審査委員 承認番号:09 - 061) 6.分析方法 1 ) 項目の分析  本研究で作成したツールの項目について,回答の偏 りや欠損値割合の確認から項目の分析を行った。 2 ) 妥当性の検証  調査前に,内容妥当性ならびに表面的妥当性の検証 は,母性・助産学を専門にしている研究者と臨床現場 で実際に乳汁生成Ⅲ期の母乳育児支援を行っている助 産師計10名が行った。  構成概念妥当性の検討は,探索的因子分析を行い, 因子構造を確認し,抽出した因子を命名した。この 際,標本妥当性の基準は,KMO値0.7以上,累積寄与 率50%以上を目標とした。  基準関連妥当性の検討は,併存妥当性用のアセスメ ントツールのLATCHと超音波装置での画像診断とし た。 3 ) 信頼性の検証  同質性の確認として,項目全体および抽出した因 子のCronbach s αによる内部一貫性の検討を行った。 また同等性の確認として,助産師間の評定者間一致を みるために級内相関係数と,経験年数による相違を分 析するためにκ係数を算出した。  データ分析には統計解析用ソフトSPSS Ver.17.0 J for Windowsを用いた。

Ⅳ.結   果

1.回収率  研究参加の同意を得られた母子への基本情報用質問 紙の回収率は,100%であった。最終質問紙の回収率は, 95.6%であった。 2.対象者の概要(表1・2)  対象助産師は,母乳育児に関する基礎教育は同じ研 究センターを経た助産師,計5名で,このうち,乳汁 生成Ⅲ期を対象に自分が主になって支援をした経験が ある助産師は3名だった。助産師歴は,3.5∼35年であ った。  対象母子は45組,対象乳房数は90であった。内訳 として,母親の年齢は25∼42歳(平均33.3歳)で,初 産婦32名・経産婦13名(1∼4経産)であった。主訴は「乳 汁分泌不全(24.4%)」「その他(定期的な支援)(26.7%)」 が多かったが,「乳腺膿瘍(2.2%)」のケースもあった。 乳腺炎以外の乳房疾患の既往のあるケースはいなかっ た。児は,男児21名女児24名で,出産後5∼553日(平 均137.7日)であった。児の栄養方法は,母乳栄養(母 乳と離乳食も含む)53.3%,混合栄養(母乳と人工乳以 外に離乳食も含む)37.8%,人工栄養8.9%であった。 表1 対象助産師の概要 助産師 助産師歴(年) 乳育児支援歴(年)乳汁生成Ⅲ期の母 A 13 8 B 35 15 C 3.5 0 D 6 0 E 6 1

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3.「授乳期の乳房診断アセスメントツール」  内容妥当性および表面的妥当性の検討の結果,本研 究の調査では109項目で構成される「授乳期の乳房診 断アセスメントツール」を用いた。 4.項目の分析  項目間の偏りがあるもの(SDが0)や,欠損値が 60%以上の項目は削除した。 5.妥当性の検討 1 ) 内容妥当性  調査前に,本研究で使用したアセスメントツールに ついて,本研究の対象助産師以外の母乳育児支援を専 門にしている助産師が検討したところ,「使用されて いる用語の意味はわかる」「実際に使用したら,初め てでも5∼10分程度で回答できた」,さらに,この助 産師らの中でも乳汁生成Ⅲ期の母乳育児支援歴のない 助産師からは「乳房の状態を観察する仕方がわかった」 という結果を得た。また調査後,因子分析で得られた 3因子について,母乳育児支援歴5年以上で現在,支 援に直接携わっている助産師4名で検討を行い,分類 や因子名の適切性について確認し,了承を得た。 2 ) 基準関連妥当性(LATCHと超音波診断法)  本研究の「授乳期の乳房診断アセスメントツール」 と併存妥当性用のツールLATCHとの相関は,ほとん どが負の相関であった。第1因子とLATCHの中のH(抱 き方)では正の相関があるものの,それ以外は負の相 関であった。また第2因子とは,第1因子に比べると 強い負の相関が多かった。  また,本研究のツールと乳房の超音波診断の結果は, 第1因子とは0.016∼0.746,第2因子とは0.011∼0.814, 第3因子とは0.027∼0.673であり,相関関係が弱い項 目も一部あった。しかしながら第2因子では,「乳腺 体の低エコー域」「膿瘍部位の肥厚」「腫瘤内部の高エ コー域」の項目において,相関関係が強いという結果 が得られた。 3 ) 構成概念妥当性(表3)  主因子法,プロマックス回転による探索的因子分析 を行った。因子数の決定は,スクリープト基準を参考 に,累積寄与率が50%を超えること,因子負荷量が0.4 以上を採択基準とし,共通因子が0.2以下や0.4未満の 項目,複数の因子に高い負荷量をもつ(0.4以上が複数 ある場合)項目は削除した。なお,「乳汁の性状」の因 子負荷量は0.399であるが,この項目を削除すると後 述するCronbach’s α係数が下がることから削除はしな いこととした。以上の結果,最終的に3因子16項目を 採用した。各因子の解釈として,第1因子は乳頭や乳 房の弾力性や伸展性および乳汁の性状を観る項目から 構成されていることから【乳汁の産生を観察する視点】 と命名した。第2因子は硬結の有無や発赤,乳房痛な ど乳房内に乳汁がうっ滞した際に表れる症状で構成さ れていることから【乳汁のうっ滞を観察する視点】と 命名した。第3因子は子どもの授乳状況を観る項目か ら構成されていることから【子どもの母乳の飲み方を 観察する視点】と命名した。 6.信頼性の検討 1 ) 同質性(表3)  ツール全体のCronbach’s α係数は0.844で,このう ち第1因子は0.872,第2因子は0.786,第3因子は0.852 であることから,各因子の同質性の高さが確認できた。 2 ) 同等性(表4,表5)  助産師5名の評定者間一致は,級内相関係数とκ係 数で算出した。  級内相関は,助産師A・B・Cでは0.21∼0.95,助産 師A・B・Dでは0.61∼0.99,助産師A・B・Eでは0.16 ∼1.00であった。κ係数は,助産師AとBは0.26∼0.94, 助産師CとAあるいはBでは0.08∼0.92,助産師DとA あるいはBでは0.12∼1.00,助産師EとAあるいはBで 表2 対象母子の概要 母親の年齢 25∼42歳 平均:33.3歳SD=4.2 分 娩 歴 初産婦 経産婦  1経産婦  2経産婦  4経産婦 32人 13人 10人 1人 2人 主   訴 乳汁分泌不全 乳腺炎(うっ滞を含む) 分泌不足感 吸着困難 乳頭損傷・白斑 乳腺膿瘍 その他(定期的な支援) その他(定期的な支援以外) 24.4% 13.3% 6.7% 6.7% 6.7% 2.2% 26.7% 13.3% 児 の 性 別 男児 女児 21人24人 児 の 日 齢 5∼553日 平均137.7日SD=133.7 栄 養 方 法 母乳栄養 混合栄養 人工栄養 53.3% 37.8% 8.9%

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は0.06∼1.00というように,一部の項目で0.4を下回 る結果があった。  以上の結果,助産師歴10年以上で乳汁生成Ⅲ期の 母乳育児支援歴8年以上のAとBはほぼ一致するもの の,助産師歴6年以下で乳汁生成Ⅲ期の母乳育児支援 歴1年以下のEは,A,Bともに一致率は低かった。C とDは,中程度の一致率が多かった。  なお,助産師C,D,Eは,同一の対象母子を観て いないため,分析は行わなかった。  以上の結果,本研究で項目を精選し,3因子16項目 から構成される 授乳期の乳房診断アセスメントツー ル を開発した。

Ⅴ.考   察

1.ツール開発および項目収集や精選方法の妥当性  Ora(1990/2006)は,最良のケアの提供,権威と影 響力のある研究の実施,そして看護の知識基盤の拡大, これらは,看護の変数の定量化が信頼できる時,つま り,現象を正確に測定できる時に可能になると述べて いる。しかし既存研究では,授乳場面に焦点を当てた ものはあるものの,乳房状態から判断するツールはな い(長田,2010)。したがって,授乳期の乳房状態を観 るためのツールの開発は必要であると考える。  また,尺度開発する上で項目を抽出するには,主に 自分で項目を検討する方法やインタビュー法によるも の,既存の文献を検討する方法がある(鎌原・宮下・ 大野木他,2007)。このうち,文献検討による方法では, 参考にした文献の数によっては内容が網羅されていな い,気に入った項目を追加していくうちに本来測るべ きドメインからずれていく危険性などが指摘されてい る(吉田,2007)。そこで,本研究の基盤となった「授 乳期の乳房診断アセスメントツール」は,母乳育児支 援をしている実際の場面から抽出した観察項目と,さ らに既存の文献より得た項目も含めた観察視点から作 成した。また臨床での有用性を考慮し,臨床で実際に 母乳育児支援に携わっている助産師の意見を参考に追 加修正を行った。これは,既存研究より臨床家のほう がより詳細に状態を観ている(長田,2009)こと,ツー ルは使用することによって価値,有用性がある (堀・ 松井,2001)といわれていることからも,項目の収集 や精選方法は妥当であったと考える。  本研究の内容妥当性・表面的妥当性で得られた109 項目について,探索的因子分析を行った。この探索的 因子分析は,与えられた多くの変数間に相関がみら れる場合,これらの変数間に内在する因子を探るこ とを目的としており(柳井・緒方,2007),そのため尺 度が一次元的なものであると想定できるのなら,因 子は測定しようとしている構成概念に相当する(鎌原 ・宮下・大木野他,2007)ことから,測定用具を開発 表3 授乳期の乳房診断アセスメントツールの因子分析の結果 α=.844 因子負荷量 第1因子 第2因子 第3因子 第 1 因子:乳汁の産生を観察する視点(6項目) α=.872 3 乳房の弾力性がない 0.892 ­0.146 0.047 49 乳頭の柔軟性がない 0.85 0.01 ­0.035 48 乳頭の伸展性がない 0.842 0.037 ­0.016 2 乳房の可動性がない 0.801 ­0.101 ­0.084 86 射乳がない 0.502 0.009 0.181 70 乳汁の性状(乳汁の粘調性がある) 0.339 0.285 0.295 第 2 因子:乳汁のうっ滞を観察する視点(7項目) α=.786 34 硬結部位に発赤がある 0.033 0.793 ­0.019 40 乳房痛がある 0.177 0.715 ­0.18 4 硬結がある ­0.291 0.707 0.100 104 頭痛がある 0.186 0.699 ­0.23 88 乳管閉塞がある ­0.071 0.694 0.167 78 乳汁内に血液や膿が混入している 0.222 0.521 0.211 76 乳汁(色)に濃淡がある ­0.071 0.430 0.063 第 3 因子:子どもの母乳の飲み方を観察する視点(3項目) α=.852 108 吸着状態(乳頭を捉えられていない) ­0.005 ­0.047 0.968 107 哺乳拒否(哺乳を嫌がる) 0.066 ­0.032 0.943 109 吸啜状況(乳汁を嚥下していない) ­0.070 0.081 0.715 (主因子法,プロマックス回転)

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表 4 助産師間のツール項目の一致:級内相関係数 ツールの項目 助産師 ツールの項目 助産師 ツールの項目 助産師 Aと Bと C Aと Bと D Aと Bと E 第 1 因 子 3 乳 房 の 弾 力 性 が な い 0. 48 第 1 因 子 3 乳 房 の 弾 力 性 が な い 0. 71 第 1 因 子 3 乳 房 の 弾 力 性 が な い 0. 28 49 乳 頭 の 柔 軟 性 が な い 0. 35 49 乳 頭 の 柔 軟 性 が な い 0. 74 49 乳 頭 の 柔 軟 性 が な い ̶ 48 乳 頭 の 伸 展 性 が な い 0. 40 48 乳 頭 の 伸 展 性 が な い 0. 84 48 乳 頭 の 伸 展 性 が な い ̶ 2 乳 房 の 可 動 性 が な い 0. 52 2 乳 房 の 可 動 性 が な い 0. 64 2 乳 房 の 可 動 性 が な い 0. 16 86 射 乳 が な い 0. 95 86 射 乳 が な い 0. 73 86 射 乳 が な い 0. 14 70 乳 汁 の 性 状( 粘 調 性 が あ る ) 0. 75 70 乳 汁 の 性 状( 粘 調 性 が あ る ) 0. 77 70 乳 汁 の 性 状( 粘 調 性 が あ る ) 0. 02 第 2 因 子 4 乳 房 内 に 硬 結 が あ る 0. 87 第 2 因 子 4 乳 房 内 に 硬 結 が あ る 0. 79 第 2 因 子 4 乳 房 内 に 硬 結 が あ る 0. 42 88 乳 管 閉 塞 が あ る 0. 69 88 乳 管 閉 塞 が あ る 0. 85 88 乳 管 閉 塞 が あ る 0. 18 34 硬 結 部 位 に 発 赤 が あ る 0. 65 34 硬 結 部 位 に 発 赤 が あ る 0. 90 34 硬 結 部 位 に 発 赤 が あ る 1. 00 10 4 頭 痛 が あ る ̶ 10 4 頭 痛 が あ る 0. 61 10 4 頭 痛 が あ る ̶ 40 乳 房 痛 が あ る 0. 59 40 乳 房 痛 が あ る 0. 85 40 乳 房 痛 が あ る ̶ 76 乳 汁 に 濃 淡 が あ る 0. 22 76 乳 汁 に 濃 淡 が あ る 0. 64 76 乳 汁 に 濃 淡 が あ る 0. 42 78 乳 汁 内 に 血 液 や 膿 が 混 入 し て い る 0. 76 78 乳 汁 内 に 血 液 や 膿 が 混 入 し て い る 0. 76 78 乳 汁 内 に 血 液 や 膿 が 混 入 し て い る ̶ 第 3 因 子 10 8 吸 着 状 態( 乳 頭 を 捉 え ら れ て い な い ) 0. 21 第 3 因 子 10 8 吸 着 状 態( 乳 頭 を 捉 え ら れ て い な い ) ̶ 第 3 因 子 10 8 吸 着 状 態( 乳 頭 を 捉 え ら れ て い な い ) 0. 53 10 7 哺 乳 拒 否( 哺 乳 を 嫌 が る ) 0. 85 10 7 哺 乳 拒 否( 哺 乳 を 嫌 が る ) ̶ 10 7 哺 乳 拒 否( 哺 乳 を 嫌 が る ) 0. 30 10 9 吸 啜 状 況( 乳 汁 を 嚥 下 し て い な い ) 0. 21 10 9 吸 啜 状 況( 乳 汁 を 嚥 下 し て い な い ) 0. 99 10 9 吸 啜 状 況( 乳 汁 を 嚥 下 し て い な い ) ̶ 表 5 助産師間のツール項目の一致: κ 係数 ツールの項目 助産師 ツールの項目 助産師 ツールの項目 助産師 Aと B Aと C Bと C Aと B Aと D Bと D Aと B Aと E Bと E 第 1 因 子 3 乳 房 の 弾 力 性 が な い ̶ 0. 39 ̶ 第 1 因 子 3 乳 房 の 弾 力 性 が な い 0. 27 0. 25 0. 12 第 1 因 子 3 乳 房 の 弾 力 性 が な い 0. 25 ̶ ̶ 49 乳 頭 の 柔 軟 性 が な い ̶ ̶ ̶ 49 乳 頭 の 柔 軟 性 が な い ̶ ̶ ̶ 49 乳 頭 の 柔 軟 性 が な い ̶ ̶ ̶ 48 乳 頭 の 伸 展 性 が な い ̶ ̶ ̶ 48 乳 頭 の 伸 展 性 が な い ̶ 0. 51 ̶ 48 乳 頭 の 伸 展 性 が な い ̶ ̶ ̶ 2 乳 房 の 可 動 性 が な い 0. 34 0. 22 0. 35 2 乳 房 の 可 動 性 が な い 0. 04 ̶ ̶ 2 乳 房 の 可 動 性 が な い 0. 46 ̶ ̶ 86 射 乳 が な い 1. 00 0. 92 0. 92 86 射 乳 が な い 0. 83 0. 56 0. 75 86 射 乳 が な い ̶ ̶ 0. 12 70 乳 汁 の 性 状( 粘 調 性 が あ る ) 0. 86 ̶ ̶ 70 乳 汁 の 性 状( 粘 調 性 が あ る ) ̶ ̶ 0. 29 70 乳 汁 の 性 状( 粘 調 性 が あ る ) ̶ ̶ ̶ 第 2 因 子 4 乳 房 内 に 硬 結 が あ る 0. 8 0. 87 0. 93 第 2 因 子 4 乳 房 内 に 硬 結 が あ る 0. 76 0. 76 0. 83 第 2 因 子 4 乳 房 内 に 硬 結 が あ る 1. 00 0. 25 0. 25 88 乳 管 閉 塞 が あ る 0. 77 0. 62 0. 68 88 乳 管 閉 塞 が あ る 0. 78 1. 00 0. 78 88 乳 管 閉 塞 が あ る 1. 00 0. 12 0. 12 34 硬 結 部 位 に 発 赤 が あ る 0. 65 0. 48 0. 79 34 硬 結 部 位 に 発 赤 が あ る 1. 00 0. 84 0. 84 34 硬 結 部 位 に 発 赤 が あ る 1. 00 1. 00 1. 00 10 4 頭 痛 が あ る ̶ ̶ ̶ 10 4 頭 痛 が あ る 0. 76 0. 63 0. 43 10 4 頭 痛 が あ る ̶ ̶ ̶ 40 乳 房 痛 が あ る 0. 65 0. 65 0. 47 40 乳 房 痛 が あ る 1. 00 0. 78 0. 78 40 乳 房 痛 が あ る ̶ ̶ ̶ 76 乳 汁 に 濃 淡 が あ る 0. 53 0. 08 0. 12 76 乳 汁 に 濃 淡 が あ る 0. 83 0. 45 0. 58 76 乳 汁 に 濃 淡 が あ る 0. 44 0. 66 0. 06 78 乳 汁 内 に 血 液 や 膿 が 混 入 し て い る 0. 64 0. 84 0. 79 78 乳 汁 内 に 血 液 や 膿 が 混 入 し て い る 0. 84 0. 63 0. 78 78 乳 汁 内 に 血 液 や 膿 が 混 入 し て い る ̶ ̶ ̶ 第 3 因 子 10 8 吸 着 状 態( 乳 頭 を 捉 え ら れ て い な い ) 1. 00 0. 12 0. 12 第 3 因 子 10 8 吸 着 状 態( 乳 頭 を 捉 え ら れ て い な い ) ̶ ̶ ̶ 第 3 因 子 10 8 吸 着 状 態( 乳 頭 を 捉 え ら れ て い な い ) 1. 00 0. 64 0. 64 10 7 哺 乳 拒 否( 哺 乳 を 嫌 が る ) ̶ ̶ ̶ 10 7 哺 乳 拒 否( 哺 乳 を 嫌 が る ) ̶ ̶ ̶ 10 7 哺 乳 拒 否( 哺 乳 を 嫌 が る ) 0. 34 ̶ ̶ 10 9 吸 啜 状 況( 乳 汁 を 嚥 下 し て い な い ) 0. 89 ̶ ̶ 10 9 吸 啜 状 況( 乳 汁 を 嚥 下 し て い な い ) ̶ ̶ ̶ 10 9 吸 啜 状 況( 乳 汁 を 嚥 下 し て い な い ) 1. 00 ̶ ̶

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する際に用いられる分析方法である。さらに,本研 究のKMO値(Kaise-Meyer-Olkinの標本妥当性の測度) は,0.844であることから標本的な妥当性も確認でき た。以上のことより,本研究での項目精選の方法およ び標本妥当性は適切であったと考える。 2.精選した項目の信頼性と妥当性  本研究で作成したツールの信頼性は,Cronbach’s α 係数が0.844というように,0.8以上であることから, その内的整合性の高さが確認できた。  今回,併存妥当性としてLATCHおよび超音波診断 の結果との相関を検討した。その結果,状態が良くな いほど高値を示す本研究のツールと,状態が良いほう が高値を示すLATCHでは,負の相関が得られること で妥当性が検証できる。今回の結果では,本研究ツー ルとLATCHとでは,強い負の相関が得られた項目も あるが,相関が弱いという項目もある。しかし妥当性 の検証のための相関は,相関が弱ければその概念を測 れず,反対に強すぎても妥当性検証用のツールと同様 の概念を測定するツールであることから,開発する意 義が問われる。つまり,本研究ツールとLATCHとの 併存妥当性の検証においては,状態の良し悪しの項目 が逆転していることから,相関の強弱よりも,負であ るか正であるかを検証することが重要であると考える。 したがって,今回の結果,ほとんどの項目において負 の相関が得られたことから,併存的な妥当性は得られ たと考える。  また,乳房の診断に用いられることの多い超音波診 断法との相関では,第1因子の相関は低いものの,第 2因子との相関は強いという結果であった。なかでも, 超音波による診断は,膿瘍の局所診断が他疾患との 鑑別に有用であるといわれている(菊谷・土橋・篠原, 2007)。したがって,超音波診断法で得られた結果と 本研究で得られた第2因子との相関が強いということ は,第2因子が乳腺炎や乳腺膿瘍などの乳房内の乳汁 うっ滞等との関係が深い観察項目であることが示唆さ れた。  以上,本研究ツールとLATCHおよび超音波診断法 による検証は,相関関係を示しており,適切に授乳期 の乳房状態を観ることができる可能性があると考える。 さらに,得られた結果について母乳育児支援の専門家 による検討を行うことで内容妥当性の確認ができたと 考える。 3.ツールの有用性  本研究では,「退院後の母乳育児ケアにおける助産 師の観察視点と臨床判断」(長田,2007)と文献検討を 基に51項目から構成される「授乳期の乳房診断アセ スメントツール」を作成した。その後,内容妥当性お よび表面的妥当性の結果,109項目となった。これは, 主に授乳中の乳房の状態を観るものとして,総合的 に診断できるツールである。しかし,臨床的有用性の 視点からみると109項目は負担となる。そこで,項目 内容について,因子分析を用いて精選し16項目とし た。尺度の信頼性は項目数が多いほど高くなるが(石 井,2005),項目数は回答時間を考慮して決定する必 要があるといわれている(舟島,2006)。今回,項目数 を減らしたことは,使用者の負担が少なくなり,臨床 での有用性が高まったと考える。しかし,実際に有用 性の高いツールの項目数は10以下が多いことから(長 田,2010),さらに項目の検討が必要であると考える。  また,母乳育児支援では,母子双方の視点から観 ることが重要であると示唆されているが(長田,2009), 実際の母乳育児支援では子どもが寝ていて授乳をしな いケースや,母親のみが支援を受けに来院するケース もあることから,母子双方を見ることができないこと もある。本研究のツールは,そのような場合でも母親 から情報を得ることによって,対応が可能なツールで あるため,臨床的に有用性があると考える。また,実 際に母乳育児支援を行っている助産師らが使用してみ たところ,用いている言葉の意味内容や記載の負担と いう問題はなく,臨床的有用性の確認も行えたと考え る。  さらに,現在,熟達助産師を示す客観的な指標はな い(正岡・丸山,2009)ことから,ツールを用いる対象 助産師の条件を見極めるため,κ係数を算出した。そ の結果,母乳育児支援歴が浅いと一致率が低いが,8 年以上での一致率は高い。この結果を踏まえると,本 研究のツールは,母乳育児支援の経験がある看護者に は乳房の状態が見極められているため,不必要である。 しかし,母乳育児支援に不慣れな新人助産師や新たに 母乳育児支援に携わる助産師にとっては,授乳期の乳 房診断を学ぶ際の資料としての一助になる可能性があ ると考える。 4.研究の限界と今後の課題  本研究の評定者間一致のうち,級内相関では経験の 違いによる値の相違が考えられることから,κ係数を

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算出した。その結果,一部の項目で相関関係が低いた め,今後はさらなる同等性の検討として,経験年数だ けでなく,項目の内容や用語の確認などの見直しが必 要であると考える。また,乳房内に乳汁が貯留した状 態を診るための超音波診断法はあるものの,乳汁産生 が少ない場合について記載されている資料や既存研究 はないことから,今後,第1因子である【乳汁の産生 を観察する視点】の項目を検討するための外的基準と なる測定用具を見極め,調査することが課題である。

Ⅵ.結   論

 本研究の結果,以下の結果が得られた。 1 ) 妥当性の検討:探索的因子分析(主因子法,プ ロマックス回転)の結果,3因子16項目を採用した。 各因子は,【乳汁の産生を観察する視点】【乳汁のう っ滞を観察する視点】【子どもの母乳の飲み方を観 察する視点】と命名した。状況が良い方が高値示す LATCHと,状況が良い方が低値を示す本研究のア セスメントツールとの相関は,ほとんどが負であり, なかでも第2因子とは強い負の相関が得られた。 2 ) 信頼性の検討:ツール全体のCronbach’s α係数は 0.844で,このうち第1因子は0.872,第2因子は0.786, 第3因子は0.852であることから,各因子の同質性 の高さが確認できた。 謝 辞  本研究ご協力いただきました母子の方々,ならびに 助産師の皆様に心より感謝申し上げます。また,超音 波検査等をしていただきました株式会社US−ismの 皆様に御礼申し上げます。さらに,土江田奈留美先生 には,本研究を調査するにあたりLATCHの日本語版 の使用を快諾していただき,感謝申し上げます。また, ご指導をいただきました聖路加看護大学の柳井晴夫教 授に深謝申し上げます。  本研究は,第15回聖路加看護学会学術大会におい て発表しました。 引用文献 土江田奈留美(2008).哺乳行動アセスメントツールの開発. 2007年度聖路加看護大学博士論文. 榎本智子,土橋一橋,菊谷真理子他(2005).授乳期乳腺 疾患スクリーニングにおける超音波(US)検査の有用 性について 乳汁うっ滞から産褥期乳腺炎を中心に. 日本癌検診学会誌,14(3),411. 舟島なをみ(2006).看護実践・教育のための測定用具ファ イル 開発過程から活用の実際まで.1 - 25,東京: 医学書院. 堀洋道,松井豊(2001).心理測定尺度集Ⅲ 心の健康を はかる.397-408,東京:サイエンス社. 石井秀宗(2005).統計分析のここが知りたい.78 - 90,東 京:文光堂.

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参照

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