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ロシア・モスクワにおける「川西モスクワゼミ」の実態報告

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Academic year: 2021

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90 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告

Ⅰ.本報告の内容と問題意識

 (1)モスクワでのゼミ略称「モスクワゼミ」におけ る参加学生の動機,経緯,モチベーション,成長と評 価等,異文化世界におけるグループ学習活動の実態を 考察する。  (2)日ロの高校生,大学生の日本に対する意識及び 行動様式の違いについて考える。

Ⅱ.はじめに

 ロシアへの留学と日本に対するロシア学生一般の現 実像を,以下に箇条書きに示す。 ─海外からのロシアへの留学は,特に大学生の留 学はロシア語学留学が主な目的である。 ─大学からの正規の単位交換留学のほか,日本の 大学よりの派遣の学生ではあるものの,正規の 交換留学生でない学生もいる。この留学生がモ スクワゼミの殆どであった。 ─モスクワでのコース分けは大学が語学力をもと に留学の動機に応じて決める。 コースは 3 カ月,半年,1 年,さらに短期 1 カ 月(東海大学,東京外国語大学)と多彩。 ─日本のロシアイメージは統計上では最低の評価 だが,ロシア側の評価はそうではない。 ロシア人の対日イメージは大変良い。マンガ, アニメ,映画,コスプレ,商品,等。 ─ロシア人の日本語学習意欲は高い。昨年 3 月 11 日の東北大震災後は更に顕著である。 ノボシビルスク・北海道文化センターにおける 地元高校生の日本語熱は今も高い。 ノボシビルスク大学東洋学の応募学生はそれま での中国語から断然日本語専攻に殺到。 大学卒業論文のテーマは多岐にわたる。指導に は日本人の派遣教員が指導している。 例;「日ロ言語コミューニケーション比較」, 「アイヌ熊送りの伝承」,「日本のやくざ考」「部 落民の研究」,「城南宮における曲水の宴」,「三 十六計の研究」,「軍記物,太平記の研究」等。 ─ロシアへの国別留学生は中国が断然多い。日本, コリア,トルコ,欧州が次いでいる。 日本への親近感は強いが,経済面では存在感が 低下し,韓国,中国製品の存在感が増大。

Ⅲ.モスクワで「日露関係を学ぶ」(通称;

川西モスクワゼミ)を開講(資料 1,

参照)

─サバテイカル研究の余暇を使い,マンションの 自室をゼミ学生に開放して,3 カ月にわたる 「モスクワゼミ」を開講した。期間は 2012 年 1 月 24 日〜 3 月 7 日。 ─S 社,T 社の日本の代表的企業からゼミの支援, 協力により,景品,グッズを提供してもらう。 このことにより,ゼミ学生たちのモチベーショ ンが高まり,最優秀賞受賞では 12 名のゼミ学 生のうち 3 名が高得点で一線に並ぶという大接 戦になった。 出席,発表,レポート,貢献度の4項目の20点 満点とし,3 名が 19 点の同点であった。 4 人目以降とは大きな点差が開いた。もともと は差のない学生たちであった。 ─ゼミ学生は 12 名。他にオブザーバーが 2,3 名 で,毎回 15 名前後であった。 これには私の自室を教室にしたため,収容人員 が 15 名前後との制約もあった。 ─ゼミ学生の構成は日本の大学より派遣の留学生, 自費留学生,ロシア人研究者,モスクワ在住の 高校生と多彩であった。男女比率は女性が 7 割, 男性 3 割の構成。

ロシア・モスクワにおける

「川西モスクワゼミ」の

実態報告

The Journal of Economic Education No.32, September, 2013

The Actual Report of “Moscow Seminer” in Moscow

Kawanishi, Shigetada

川西 重忠(桜美林大学) The Japan Society for Economic Education

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91 ─ゼミ学生全員全員による研究報告と日露関係専 門家による「日露間の諸問題」講義を毎回開催。 現地の日系企業のトップ及び日ロの代表的学者 のレクチャーを適宜行った。 モスクワ駐在の企業トップの講義も採り入れた (S 社社長,T 社社長,M 社など)。 ─評価は下記 4 分野での総合評価とした。各 5 点 の計 20 点満点評価。  「出席」,「報告」,「アンケート及び感想」,「貢献度」 の 4 項目。3 名同点の大接戦であった。  評価に苦しんだが,結局,ゼミの貢献度を評価して 最優秀賞 1 名,優秀賞 5 名を決めた。  受賞結果として,上位はすべての賞を女性が独占し た。意欲,能力,実行力,自己表現力全ての面で女子 学生が男性を圧倒し,女子学生の持つパワーを見せつ けた。  モスクワゼミに参加の学生たちの動機については 様々であった。①食(和食)が食べられる(これが恐 らくは最上位),②大学では出会えない友人と知り合 える,③通常日本では学ぶことのできない多彩な日ロ の著名講師による講義が現地で聞ける,④「将来の就 職に活きそうだ」などの期待や,ゼミ学生同士の交流 などがあげられよう。

Ⅳ.「モスクワゼミ」が問いかけたもの,と

その意味。(資料 2,参照)

 (1)女性の優位が,意欲,実践力,競争心,粘り強 さ,いずれの面でも男性を圧倒した。  目的が明確。期日内にきっちりとやり遂げる。 異文化の異国の生活でも対応力がある。 (これは全世界的な傾向。日本の大学でも中国で もモスクワの大学でも同じ)  (2)継続的に身近なモチベーションを与えると行動 と意欲の向上に結び付いた。 ─成績評価に基づいた表彰制度と景品贈呈,最 優秀賞には S 社と T 社の超人気商品。 ─多彩な講師陣と将来への就職に結びつく可能 性が強いのも,人気の一因であった。 ─経済上の負担を与えない配慮。留学生のほと んどは切り詰めた生活をしている。 ─講師は都度ゼミ生の研究報告や留学報告に対 し適宜な意見(コメント)を与えた。 ─通達はメールが主体,報告事項はホームペー ジにスピーディに掲載し伝達した。  (3)モスクワという地の絆と冬期の厳寒期の開催が 相乗効果を生み出した。 酷寒のモスクワ(− 30℃)でのモスクワで学ぶ 者同士による,ロシアという共通の絆により 3 カ月間の学習が相乗効果を発揮した。長すぎ ても短すぎても難しかった。  (4)ゼミ学生の参加動機はいろいろと思うが,結果 は意欲に比例して成績評価に連動して現れた。3 カ月のゼミの期間はごまかしのきかないちょう ど良い時間であった。  能力は初対面の外見と違い見かけだけでは判 断できない,それぞれ適正と持ち味が違うから である。  最後のゼミ報告者で,富山から 1 人でやって 来た留学生が,先行する有力ゼミ生 2 名を最後 の報告で追いつきゴールで並んだ頑張りに驚い た。開始当初は,おとなしくて目立たず,全く ノーマークの学生であった。  彼女の緊張感の中での渾身の報告は,部屋の 空気が震えるほどの力があることを実体験した。 ゼミ最終日におけるこの富山から来たゼミ生の 報告時には,部屋の空気が,ピリピリ震えるほ どの緊張感が走った。今まで 10 年以上にわたる 大学講義の中でも,これほど部屋の空気が張り 詰めた経験は初めてであった。  (5)日ロ両国の学生によるこのようなゼミは,かっ て例がないので,代表的な日本企業トップが, さまざまの形で支援を惜しまなかった。結果と して,双方に無理のない産学協働の教育活動と なったものと思う。

Ⅴ.「モスクワゼミ」の意味と今後(資料 3,

参照)

 今後の国際理解に必要な教育は,公的教育以外では 任意の民間での「相互理解」と「相互交流」「相互信 頼」にもとづく教育であろう。このことをモスクワゼ ミは例示している。現代の日本での一般の国際理解教 育として,モスクワにおける国際教育の一事例として 「モスクワゼミ」の活動は意味があるのではないか。  このモスクワゼミの活動は,近々『モスクワで日露 関係を学ぶ』と題して発刊を予定している。既にゼミ 生全員が執筆済みであり,その反響が期待されている。 (内容は配布資料をご参照)  モスクワより帰国後は,研究所のロシアに関する案 内をメールで提供している。ゼミ生同士の交流はゼミ 生同士で行っているので,私からは基本的にモスクワ

The Japan Society for Economic Education

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92 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告 ゼミ生たちには,研究所のロシア情報以外は連絡しな いように努めている。

Ⅵ.まとめに代えて

 モスクワにおけるサバテイカルの研修制度は,一意 専門分野の研究を現地で行い,その研究成果を帰国後 にさまざまの形で発表し報告するためのものである。 私もロシアの経済社会の研究や,ロシアにおける日系 企業の動向調査,及び日露関係の現状と展望について の調査研究を行うのが主たる目的でモスクワにきたの であるが,「モスクワゼミ」は全く思いがけない経緯 から 3 カ月間のゼミ活動に発展したものである。どの 意味からみても本来の研究目的ではない。場所がモス クワであり,滞在した期間がプーチンの大統領返り咲 きの時期にあたるという歴史的な時代背景もあり,場 所とタイミングに恵まれた。モスクワゼミは開始から 終了まで,3 カ月という限られた期間ではあったが, 異文化環境の中におけるグループ学習という特異の活 教育動の中で,ロシアと日本のそれぞれの国の経済教 育の特徴が,ゼミ学生やモスクワの現地ビジネスマン との交流を通じて浮び上がってきた。  学生達に具体的なモチベーションと明確な方向付け を与えると,学生達は特別の指導をしなくても自発的 に学習やテーマに取り組み,その体験を通じてぐんぐ ん伸びてくるのである。  発行する『モスクワで日露関係を学ぶ 川西モスク ワゼミ 3 ヶ月の記録』は,全国の書店で店頭販売され る。ゼミ生の中からは就活解禁の 4 月最初の週に,は やばやと第 1 志望に内定の報告が寄せられてきている。 その報告から,モスクワゼミの活動の中に,そう思わ せる何かが,元気が出る何かがあったのであろうか。  モスクワでのゼミ活動以外にも,ロシアシベリアに あるノボシビルスク市でも,大学の日本語科の学生達 や,北海道札幌市と共同で創立したノボシビルスク文 化センターで自発的に日本語を学習する高校生たちの グループと懇談する機会があった。ロシアにおける日 本語と日本に対する関心の強さと日本に留学して学び たいという熱意は同じであった。相互理解はこれから である。今回は,これらロシア各地域での日本学習の 概要をご紹介しておきたい。このモスクワゼミのグ ループ学習の事例を通じて,日ロ両国の相互交流,相 互信頼の将来の姿が見てとれるのではなかろうか。  多様化の進む現代のグループ教育の在り方のユニー クな 1 つの生きた事例と思い,今回,モスクワゼミの 事例報告をさせて戴いた次第である。 資料 1 モスクワゼミで協力戴いた講師 第 1 回 2012 年 1 月 25 日 ゼミ生報告(匂坂ゆり,ポリーナ),川西総括 第 2 回 2012 年 2 月 8 日 サルキソフ先生(山梨学院大学名誉教授)「北方領土問題」 第 3 回 2012 年 2 月 23 日 富田武先生(成蹊大学教授)「日本兵シベリア抑留者問題」 第 4 回 2012 年 2 月 24 日 生田章一氏(丸紅ロシア CIS 総支配人)現代ロシア経済事情 第 5 回 2012 年 3 月 7 日 日比賢一郎氏(ソニーロシア社長),ロシアビジネス奮闘記 第 6 回 2012 年 3 月 27 日 モスクワゼミ生と日ロの関係者による懇親集会  ゼミ生の多くは日本の大学から派遣された語学留学生であったが,現地モスクワ在住の高校生や,ロシア人の若い 研究生,自費でやってきたロシア語留学の社会人などと千差万別で,モスクワに来た動機も経歴もさまざまであった。 モスクワゼミのゼミ生の受け入れについても周りにいた面白そうな学生に声をかけたもので,特に選別の基準は何も ない。その意味では,特に日露のエリート学生の育成を意図したわけではない。それどころか反対に,順調で学力優 秀な交換留学生への呼びかけは意図的に避けた,と言った方が正しい。というのは,このようなゼミは,いわゆる優 秀な大学生には一種の回り道になり,必ずしも歓迎される類(たぐい)のものではないからである。モスクワゼミの 男女比率は 3:7 で女性が 3 分の 2 を占めた。  (中略)  ところが,じょじょにあとで分ったことであるが,「モスクワゼミ」に参加したこの子たちは私の予想をはるかに超 えたいずれも粒ぞろいの個性的で優秀な学生達であった。特に女性は素晴らしかった。彼女たちはのびやかで明るく 外形容姿に優れているだけでなく,意欲において,能力において,実行力において,自己表現力おいて優れ,何より も素直さと粘り強さを併せ持っていた。修了時期が近づくにつれて持ち味をぐんぐん発揮してきた。さいごまで成長 資料 2 『モスクワで日露関係を学ぶ』(通称モスクワゼミ)よりの抜粋

The Japan Society for Economic Education

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93 序章 「モスクワで日露関係を学ぶ」ということ 川西重忠 (3000 字) 第 1 章 モスクワゼミ「日露関係を考える」 講師による講義 24000 字 1)北方領土問題について (7000 字) コンスタンチン・サルキソフ(山梨学院名誉教授) 2)シベリア抑留問題入門─何から読んだらよいか 6337 字 富田武(成蹊大学法学部教授) 3)20 年を経たロシア経済 5410 字 生田章一(丸紅執行役員,ロシア・CIS 総支配人) 4)モスクワゼミ・ゼミ生との講話と対話 (5000 字) 日比賢一郎(ソニーロシア社長) 山田順一(トヨタバンク社長) 第 2 章 モスクワゼミ・ゼミ生報告約 3 万字 1)日本企業の東アジアとロシアへの直接投資 4645 字 クルネバ・ポリーナ(ロシア科学アカデミー研究員) 2)幕末における日露関係プチャーチンと川路聖謨 5230 字 匂坂ゆり(学習院女子大学大学院修了) 3)ロシアビジネスの可能性 6000 字 下濱さくら(中央大学商学部 3 年) 4)対ロシア貿易の拠点港を目指す伏木富山港の可能性 4315 字 山田和紀子(富山大学人文学部 3 年) 5)ヤーカチにみえるロシア 2420 字 横井希実子(東京外国語大学ロシア語専攻 3 年) 6)イギリスとロシアでの語学研修 2827 字 水野頌子(東京外国語大学ロシア語研修 3 年) 7)音楽畑から見たロシア生活 4000 字 早川枝里子(モスクワ音楽院) 8)役を着るのがロシア流 2000 字 小柳耕(札幌大学 4 年) 第 3 章 「ロシア・モスクワ便り」 川西重忠(桜美林大学教授) (12000-15000 字) 1)モスクワゼミについて 2)モスクワゼミ・ゼミ生最終報告 3)ロシアで学ぶ日露の大学生たち 4)モスクワゼミ・ゼミ生と日露関係者交流会食会 6)留学生によるモスクワ印象記モスクワに学ぶ留学生たちの声 あとがき 川西重忠(桜美林大学北東アジア総合研究所長) (2000 字) 資料 3 『モスクワゼミの記録 〜モスクワで日露関係を学ぶ〜』目次 余力を保ちながら,最優秀賞獲得に向け,ぎりぎりのつばぜり合いの大接戦の展開に,ゼミ指導官を任ずる私の方が 興奮し,評価に困惑しホトホト疲れはててしまったほどである。  (中略)  ヒトの一生は,「人間力と精神力」の勝負であるという見かたをする私のような戦後世代の男性には,思わず歓喜の 叫び声を上げたいほどの驚きと喜びであった。  (中略)  世上では,到るところで日本の将来を危惧する声を耳にするが,私はそうは思わない。その国の将来は,その国の 教育を見れば容易に類推ができる。今の学生を見れば 30 年後のその国の将来が見えるものである。モスクワゼミの女 性のエネルギッシュな活躍を見る限り,日本の勢いが 30 年後,急速に低落するとは思えない。  (中略)  海外体験は,いつの時代であっても鮮烈な体験であるが若い時ほど効果も大きい。モスクワゼミの学生と同様に若 い学生同士の交流がさらに活発になり今後ともよい果実が実ることを切に期待したい。

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参照

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