原
著
帝王切開で出産した女性の出産満足度と産後早期の
うつ傾向との関連についての検討
―日本語版SMMSの信頼性・妥当性の検証を通して―
Investigating the relationship between maternal satisfaction with the cesarean
birth experience and early postpartum depressive tendencies
―Verifying the reliability and validity of the Japanese version of the SMMS―
箱 崎 友 美(Yumi HAKOZAKI)
*1鳥 越 郁 代(Ikuyo TORIGOE)
*2佐 藤 香 代(Kayo SATO)
*3 抄 録 目 的 帝王切開(帝切)で出産した女性の出産満足度と産後早期のうつ傾向との関連を明らかすること,な らびにその出産満足度に影響を及ぼす要因について検討する。 対象と方法 A・ B 県の 22 の産科施設にて帝切で出産した褥婦 362 名を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施 し,回収は留め置き法と郵送法を用いた。質問紙は,母親の基本属性・帝切で出産した母親の出産満足 度(日本語版 SMMS)・産後のうつ傾向(EPDS)・自尊感情(自尊感情尺度日本語版)・母親の愛着 (MAQ)より構成された。SMMS得点とEPDS得点ならびに属性との関連は,t検定・一元配置分散分析 を用い,出産満足度に影響を及ぼす要因の検討は,重回帰分析を用い分析した。 結 果 回収率は83.1%(301名)で,そのうち294名(97.7%)を分析対象とした。帝切の分類は,予定帝切が 207名(70.4%),緊急帝切 87 名(29.6%)で,出産満足群(SMMS 得点 ≥147 点)が 247 名(84.0%)を占め た。また出産満足群は,出産不満足群に比して有意にEPDS得点が低かった(p=0.003)。さらにSMMS 得点に対する影響要因として,母親の愛着得点が選択された(p=0.001)。 結 論 出産満足群・不満足群の2群間において,EPDS得点に有意差が認められたことから,帝切での出産 満足度と産後早期のうつ傾向には関連があることが示唆された。また,出産満足度に影響を及ぼす要因 として母親の愛着が確認された。 2016年10月17日受付 2017年9月29日採用 2017年12月22日公開*1群馬大学大学院保健学研究科(Gunma University Graduate School of Health Sciences)
*2福岡県立大学大学院看護学研究科助産学領域(Department of Midwifery, Graduate School of Nursing, Fukuoka Prefectural University) *3国際医療福祉大学大学院助産学分野(Department of Midwifery, International University of Health and Welfare Graduate School)
以上のことから,助産師は,出産の振り返りを通して,帝切による出産に対する女性の認識を確認 し,退院後も継続した支援を提供していくことが重要である。また帝切による出産の場合,遅れがちに なる産後の早期母子接触・早期授乳を積極的に実施することが,出産満足度の向上につながると考えら れる。 キーワード:帝王切開,出産体験,出産満足度,EPDS得点,産後早期のうつ傾向 Abstract Objectives
The objectives of this study were: 1) to investigate the relationship between satisfaction with the birth experi-ence and early postnatal depression among women who had had a cesarean delivery; and 2) to determine factors that influence maternal satisfaction with the birth experience.
Participants and Methods
We conducted a survey at 22 obstetrical institutions in A and B prefectures. The research participants were 362 postpartum women who had had a cesarean delivery. The questionnaires were self-administered. Completed ques-tionnaires were returned by post or were left at the participating institutions. The survey items included: the basic attributes of the participating women; maternal satisfaction with the birth experience following cesarean delivery, as assessed by the Scales for Measuring Maternal Satisfaction (SMMS, Japanese version); the status of early postpartum depression, as evaluated by the Edinburgh Postnatal Depression Scale (EPDS); self-esteem, as measured by the Scale for Self-esteem ( Japanese version); and maternal attachment, as measured by the Maternal Attachment Questionnaire (MAQ). The relationships between the SMMS score and EPDS score and / or the participants' basic attributes were analyzed using t-tests and one-way analysis of variance. Multiple regression analysis was used to investigate factors influencing maternal satisfaction with the birth experience.
Results
The overall response rate was 83.1% (301 of 362 women). Of those who completed the survey, 130 (44.2%) were primiparae with a first cesarean delivery, 139 (47.3%) were multiparae with two or more cesarean deliveries, and 25 (8.5%) were multiparae with a first cesarean delivery. There were more elective cesarean deliveries (70.4%, n=207) than emergency cesarean deliveries (29.6%, n=87). The mean SMMS score was 169.5. In total, 247 women (84.0%) were satisfied with the cesarean birth experience (the satisfied group; SMMS score≥147). The mean EPDS score was 6.88. The mean EPDS score of the satisfied group was significantly lower than that of the group who were dissatisfied with the cesarean birth experience (the dissatisfied group; SMMS score≤146) (p=0.003). A comparison of SMMS score by basic attributes showed no significant difference for all attributes, including cesarean delivery mode (planned or emergency). The MAQ score was the only factor identified as significantly influencing the SMMS score (p<0.001). Conclusion
Our study suggests that there is a relationship between satisfaction and postnatal depression status among women who experience a cesarean birth. This was deducible from the significant difference in the EPDS scores registered by the two groups, i.e., the satisfied group and the dissatisfied group. We also found that maternal attach-ment was the only factor contributing to maternal satisfaction with the birth experience. In conclusion, it is important that midwives provide women the opportunity for reviewing the birth experience and continuous support after leaving hospital. In addition, earlier skin-to-skin contact and breastfeeding is recommended in the postpartum care for women experiencing cesarean births. These measures may lead to an improvement in maternal birth experience.
Key words: cesarean delivery, birth experience, maternal satisfaction, EPDS score, early postpartum depressive ten-dency
Ⅰ.緒 言
日 本 に お け る 帝 王 切 開 率 は, こ の 30 年 で, 7.3%(1984)から 19.7%(2014)と 3 倍に上昇してお り,現在 5人に1 人が帝王切開での出産となっている (母子保健の主なる統計2015,p.127)。 帝王切開の増加の理由としては,晩婚化や出産年齢 の高齢化に伴うハイリスク妊婦の増加,骨盤位経膣分 娩の減少や反復帝王切開での出産の増加,そして医療 訴訟に対するリスク回避のための選択的帝王切開の増 加などが考えられている(印出他,2010,pp.1441-1446;竹内,2013,pp.10-16)。また,陣痛の恐怖から逃れるために,産科的適応のない帝王切開での出産を 希望する女性も増えている(菊地,2011,pp.19-22)。 帝王切開で出産をした女性は,「自然分娩で出産で きなかった」という失望感や失敗感,罪責感を抱き, その出産体験は,女性にとって喪失体験になることが 報告されている(新道他,1990,p.48)。また,帝王切 開での出産は,出産から3年の経過を経ても否定的な 体験として振り返るなど,長期に及ぶ心理的影響が明 らかとなっている(Rijinders, et al. 2008, p.111)。さら に,緊急帝王切開の中でも,特に児や自らの生命に危 険がある程の緊急性の高い帝王切開での出産であった 場合,出産後,女性は否定的な感情を持ちやすいだけ でなく,フラッシュバックや悪夢を伴うようなトラウ マとして認知されることもある(横手,2005,p.434)。 出産体験の受けとめが否定的,もしくは出産体験が 不満足だった場合,産後にうつ傾向となることが報告 さ れ て お り(関 塚 他, 2007 , p.109; 常 盤, 2003 , p.32),帝王切開での出産と産後うつ病との関連を指 摘している先行研究もある(原田,2008,p.3;山下 他,2003,p.1132)。 また,産後うつの関連要因を分析した研究では, EPDS(日本語版エジンバラ産後うつ病自己評価表: Edinburgh Postnatal Depression Scale:以下 EPDS)得 点 と 自 尊 感 情 に 相 関 が あ る こ と(安 藤 他, 2006 , pp.671-672)や,EPDS得点が高いほど児への愛着が弱 い こ と が 報 告 さ れ て い る(有 本 他, 2010 , pp.753-754)。 女性の出産体験の認識を評価するための尺度は, 1970年代から,米国やカナダを中心に開発されてき た。Marut, et al.(1979)によって開発された Percep-tion of Birth Scale(POBS)は,陣痛や分娩に関する29 の質問項目(各項目1~5点で評価)から構成された尺 度であり,点数が高いほど肯定的な出産体験として評 価される(得点範囲:29~145 点)。その後,Mercer, et al.(1983)は,294 名の初産婦を対象に POBS を用 い,分娩様式(経腟分娩・帝王切開)における出産体 験の認識を評価しており,経腟分娩で出産した女性 (248名)は,帝王切開で出産した女性(56名〈予定帝王 切開の8名を含む〉)と比較し,有意に POBSの平均得 点が高かったことを明らかにしている(経腟分娩群 104.3 vs帝王切開群96.4〈p=0.001〉)。 さらに,Cranley, et al.(1983)は,POBS を用いて 陣痛を経験しない予定帝王切開で出産した女性の出産 体験を評価するために,POBSの「陣痛に関する10項 目」を「帝王切開の準備に関する10項目」に置き換え, 分娩様式の違い(経腟分娩・予定帝王切開・緊急帝王 切開)による出産体験の認識を評価した。その結果, 緊急帝王切開で出産した女性は,経膣分娩や予定帝王 切開で出産した女性と比較し,出産を否定的に認識し ていたことを報告している(p=0.01)。 国内においても,三枝(1999)の「出産のとらえ方 尺度」や常盤他(2000)による「出産体験自己評価尺 度」,竹原他(2007)の「出産体験尺度」が開発されて いるが,いずれも経腟分娩で出産した女性が対象であ り,帝王切開で出産した女性を対象にした尺度は見当 たらない。また,帝王切開で出産した女性の出産満足 に関する調査が少なく,帝王切開で出産した女性の出 産満足度も明らかになっていない。 そこで,本研究の目的を,①帝王切開で出産した女 性の出産満足度を評価し,その出産満足度と産後早期 のうつ傾向との関連を明らかにすること,そして②帝 王切開での出産満足度に影響を及ぼす要因について検 討することとした。 本研究では,まず帝王切開で出産した女性の出産満 足度を評価するために,Gungor, et al.(2012)の開発 した「帝王切開で出産した母親の出産満足尺度(The Scales for measuring maternal satisfaction in cesarean birth: 以 下 SMMS)」英 語 版 を 翻 訳 し, 日 本 語 版 SMMSを作成した。この尺度を用い,国内ではまだ明 らかになっていない帝王切開で出産した女性の出産満 足度の評価をすることができる。 また,本研究で,帝王切開で出産した女性の出産満 足度と産後うつ傾向との関連,ならびに出産満足度に 影響を及ぼす要因を明らかにすることにより,帝王切 開で出産する女性のための産前・産後のケアのあり方 について検討することができ,その結果,女性の出産 満足度を高める助産実践についての示唆が得られると 期待できる。
Ⅱ.本研究の概念枠組み
本研究の概念枠組みを図1に示す。本研究では,帝 王切開での出産満足度と産後早期のうつ傾向には関連 があると仮定し,その検証をおこなう。また産後早期 のうつ傾向だけでなく,産後うつの要因として挙げら れている母親の自尊感情と母親が児に対して抱く愛 着,さらに母親のどのような属性が帝王切開での出産 満足度に影響を及ぼすのかについて検討する。Ⅲ.用語の操作的定義
出産体験 本研究における出産体験を,妊娠中に帝王切開が決 定してから,術中・術後を含む退院までの褥婦の体験 とする。また,緊急帝王切開の場合については,陣痛 体験も含むこととする。 産褥早期のうつ傾向 本研究では,産後2週間までに発症する,抑うつ気 分,過度の不安感,行動に対する興味や喜びの欠如と 定義する。Ⅳ.帝王切開で出産した母親の出産満足尺度
(SMMS)
本尺度は,Gungor, et al.(2012)によって開発され た 42 項目から構成される出産満足尺度であり,①医 療職への認識,②帝王切開の準備,③励まし,④児と の出会い,⑤情報提供と意思決定の関わり,⑥産後の ケア,⑦病室,⑧病院施設,⑨プライバシーの尊重, ⑩期待との一致の 10 個の下位尺度から成り立ってい る。この尺度は「1:全くあてはまらない」から「5: とてもあてはまる」の5段階で評価され,得点範囲は, 42~210 点である。Gungor, et al.(2012)は,カット オフポイントを 146.5 点とし,147 点以上を満足な出 産体験と評価している。オリジナル版(トルコ語)で の信頼係数は 0.91 と高く,英語版も作成されている。 本研究では,以下のプロセスを得て,日本語版SMMS を作成し,本研究の評価尺度の1つとして使用するこ ととした。 1.日本語版SMMSの作成 日本語版 SMMS の作成にあたり,まず SMMS の開 発者に使用の許可を得て,SMMSの英語版を日本語に 翻訳した。次に,内容の不明箇所は開発者に確認を行 い,助産学の2名の大学教員とともに翻訳内容を検討 した。さらに,翻訳の内容は医療翻訳の専門家に確認 してもらい,わかりやすい日本語に修正された。海外 で使用されている尺度の日本語版を作成する場合,通 常であれば順翻訳の後に逆翻訳を実施するのが通例で ある。しかし,今回の日本語版作成のプロセスにおい て,開発者も含めて内容を確認することができてお り,質問紙の本来の内容が表現できていると考えられ たため,逆翻訳というプロセスを行わないこととし た。さらに,本来ならば事前に日本語版の信頼性・妥 当性についての検討を実施することが必要だが,対象 者が限定されており,その確保が困難なため,本研究 をもって検討を行うことにした。その結果,日本語版 SMMSの信頼係数 Cronbach's α は 0.951 で内的整合性 は保たれていた。各因子別のCronbach's αをみてみる と, 0.834~0.574 で あ っ た。 そ の 中 で Cronbach's α<0.6 の因子は,第 VIII 因子「現実との一致」と第 IX 因子の「励まし」であった。 本来,因子分析の結果において,Cronbach's α<0.6 は使用しないことが望ましいと言われている。しかし 緊急帝王切開で出産した女性の場合,出産が自分の期 待していた通りにならなかったことにより,出産体験 の満足に負の影響を及ぼすことが報告されている (Yokote, 2008, p.44)。また,常盤他(2000)の作成し た経腟分娩女性対象の出産体験の自己評価尺度の作成 において,「頼りになるスタッフの存在」が第3因子と して位置づけられ,出産の自己評価において,ス タッフの存在が重要であるとが報告されている。これ らのことから,本研究では帝王切開で出産した女性の 出産満足度を評価するにあたり,「現実との一致」や 「励まし」の2つの因子に含まれる内容は,重要な評価 項目であると考え,除外せず使用することとした。 日本語版 SMMS の構成概念妥当性の確認のために 最尤法により因子分析を行い,因子間の相関を考慮し てプロマックス回転を用いて確認を行ったところ,下 位尺度間相関はr=−0.090~0.558と有意な相関を示し (p<0.001),回転後9の因子に分類された(表1)。 今回の因子分析で得られた因子の内容は,第I因子 「情報提供と意思決定の関わり」,第II 因子「産後のケ ア」,第III因子「病院施設」,第IV因子「児や家族との 出産満足度 産後早期のうつ傾向 自尊感情 母親の愛着 母親の属性 (年齢、学歴、出産経験など) 先行研究で明らかにされている関連 本研究で明らかにしようとする関連(t 検定・一元配置分散分析) 本研究で明らかにしようとする影響(重回帰分析) 図1 本研究の概念枠組み表1 帝王切開で出産した女性の出産満足の因子構造 n=294 Cronbach's α=0.915 因子負荷量 第 I 因子 第 II 因子 第 III 因子 第 IV 因子 第 V 因子 第 VI 因子 第 VII 因子 第 VIII 因子 第 IX 因子 第 X 因子 第 I 因子 情報提供と意思決定の関わり Cronbach's α=0.834 問 13 私のパートナー/家族は,帝王切開前に必要な処置のすべてについて説明を受けた。 .866−.012 −.032 .000 −.053 .019 −.097 −.093 .053 −.003 問 16 医師・看護師は,手術の前に,帝王切開について私のパートナー/家族にすべて説明してくれた。 .659−.025 .019 .016 .029 −.013 −.076 −.150 −.047 .009 問 18 出産中の私のケアに関する処置は,必要に応じて私のパートナー/家族の承諾を得てから行われた。 .657 .140−.040 −.051 −.115 .048 .031 −.010 .018 −.018 問 15 医師・看護師は,手術の前に,帝王切開について私にすべて説明してくれた。 .632−.019 −.005 −.009 −.063 .002 .053 −.024 .053 .460 問 14 医師・助産師・看護師は,帝王切開前に私が伝えたことをすべて考慮に入れてくれた。 .500−.099 .037 .097 .096 .036 .030 .184−.103 .235 問 12 私は,帝王切開前に必要な処置のすべてについて説明を受けた。 .497−.014 .005 .014 .046 −.117 .068 .121 .020 .302 問 17 出産中の私のケアに関する処置は,私の承諾を得てから行われた。 .368 .086 .001−.080 .080 .189 .039 .083 .005 .077 第 II 因子 産後のケア Cronbach's α=0.873 問 24 看護師は,産後の私自身のケアについて十分な時間をかけて説明してくれた。 .040 .955−.013 .026 .115 −.102 .047 −.028 −.084 −.117 問 25 看護師は,赤ちゃんのケアについて十分な時間をかけて説明してくれた。 .073 .797−.067 .027 −.079 .046 .039 .073−.108 .083 問 26 看護師は,授乳の介助に十分な時間をかけてくれた。 −.032 .685 .065 −.047 −.191 .112 −.022 .083 .006 .096 問 23 看護師は,産後数日間,適切に私のニーズに対応してくれた。 −.029 .678 .119 .042 .122 .056 −.048 −.043 .004 −.047 問 27 私自身のケアや赤ちゃんのケアについて,各々の医療従事者から受けた説明は一貫していた。 .039 .438 .131−.027 −.023 −.030 −.045 .025 .015 .300 第 III 因子 病院施設 Cronbach's α=0.840 問 30 産後に滞在した部屋は,家族や友人が訪問しやすい部屋だった。 −.080 .070 .899 −.075 −.054 −.079 −.036 .072−.077 .081 問 29 産後に滞在した部屋は,快適で私のニーズを満たしていた。 .006−.032 .781 .025 −.044 .073 .029 −.165 .017 .149 問 31 病院内に,出産中に家族が休憩・待機するための適切で快適な場所があった。 .116 .055 .740 .048 .054−.130 .042 −.026 −.065 −.073 問 32 病院では必要とするすべてのものを簡単に見つけることができた。 .061 .101 .548−.025 −.050 −.030 −.052 .099 .221−.140 問 28 帝王切開の準備の間滞在した部屋は,清潔で,私のニーズを満たしていた。 .139 .033 .486 .099 .130 .097−.044 −.011 −.022 −.015 問 33 病院の食事は良かった。 −.283 −.135 .486 .016 −.055 .188 .061 .109 .031−.063 問 36 医療従事者は,ケアをする間,私のプライバシーを尊重してくれた。 .142 .086 .290−.029 .070 .077 .134 −.031 .011 .053 第 IV 因子 児や家族との対面 Cronbach's α=0.734 問 21 産後,私はもっと早く赤ちゃんに母乳をあげたかった。 .003−.022 −.037 .928 −.048 .044 −.070 .081−.134 .101 問 19 産後,私はもっと早く赤ちゃんを抱きたかった。 .019 .059 .027 .853−.058 −.116 −.105 −.004 .065 −.035 問 20 産後,家族はもっと早く赤ちゃんに会わせてもらいたがっていた。 −.067 −.050 .068 .590 .029 .093 .149 .006 .076−.217 問 22 産後の痛みや不快感を軽減するために,もっとできることがあったのではないかと思う。 .014 .264−.111 .308 .070 −.085 .087 .045 .192 .010 問 37 医療従事者が,簡単に時間をずらせたはずの日常的な医療処置を行ったことで,帝王切開前後の家族 との特別な時間を邪魔された。 −.010 −.030 .093 .195 .116 .122 .142 −.097 .039 .057 第 V 因子 帝王切開術前の準備 Cronbach's α=0.802 問 6 看護師は,私を帝王切開に向けて準備させるために,十分な時間をかけてくれた。 −.020 −.050 −.009 −.094 1.096 −.009 −.025 .060−.047 −.091 問 7 看護師は,帝王切開前の私のニーズを満たすために,十分な時間をかけてくれた。 −.092 .117 −.016 −.019 .800 .021 .012 −.006 −.004 .188 問 5 予定の時間に遅れることなく,帝王切開を行う手術室に案内された。 .094−.121 −.026 .145 .385 .152 .038 .007 .003−.017 第 VI 因子 医療スタッフの認識 Cronbach's α=0.845 問 4 医師は,出産時に必要な医療介入を行ってくれたと思う。 .104−.080 −.005 .024 .062 .793 −.018 .164−.078 −.157 問 3 出産に関わった医師・助産師・看護師は,私の家族に対して良い対応をしてくれた。 .035 .045 .081−.060 −.006 .714 −.039 −.040 .102 −.012 問 2 出産に関わった医師・助産師・看護師は,私に対して良い対応をしてくれた/親切な態度だった。 −.079 .271 .001 −.027 −.035 .679 −.065 .020 .018 .067 問 1 入院中にケアに関わった医師・助産師・看護師の人数は十分だった。 −.066 .360 −.079 .048 .077 .493 .009 −.255 .077 .097 第 VII 因子 プライバシーの尊重 Cronbach's α=0.844 問 34 帝王切開の準備中,私のいる部屋に必要以上の人の出入りがあった。 .046−.082 .070 −.053 −.012 −.052 .942 −.017 .000 −.028 問 35 産後,私のいる部屋に必要以上の人の出入りがあった。 −.104 .097 −.030 −.024 .018 −.057 .829 −.012 .022 −.030 第 VIII 因子 現実との一致 Cronbach's α=0.598 問 39 私の出産体験は,私が予想し希望した通りのものだった。 −.084 −.014 .077 .081 .097 −.089 −.062 .695 .013 .053 問 41 出産時に,私が予想していなかった医療介入が行われた。 −.071 −.034 −.037 .060 −.004 .046 .011 .531 .102−.051 問 42 今回の出産は,私の人生においてもっともすばらしい体験の一つであった。 .087 .194−.064 −.014 −.077 .114 .087 .365−.005 −.069 問 40 帝王切開での出産は,私が予想していたより時間がかかった。 .039 .057−.050 −.002 −.052 .106 .239 .289 .024−.197 問 38 この病院における最高のケアを受けられたと思う。 −.002 .118 .111 −.106 .047 .097 −.099 .278−.050 −.027 問 11 私は帝王切開の前から,どの医師・助産師・看護師が自分のケアを担当するか知っていた。 .171 .054−.077 −.055 .058 .017 .008 .227−.025 .196 第 IX 因子 不安軽減の援助 Cronbach's α=0.574 問 9 私は,帝王切開前の自分のストレスを軽減するために,もっと助けが必要だった。 −.010 .108 −.041 −.007 .023 −.116 −.032 .074 .834 .106 問 10 私の家族は,帝王切開前の彼らのストレスを軽減するために,もっと配慮されるべきだった。 .088−.200 .017 −.041 .098 .085 −.030 .048 .715−.025 問 8 医師・助産師・看護師は,帝王切開の前に(私の気持ちに配慮せず)私がやるべきことのみを私に指示 した。 −.061 −.066 .019 .048 −.187 .096 .098 −.014 .351 −.060 下位尺度 間相関 第 I 因子 第 II 因子 第 III 因子 第 IV 因子 第 V 因子 第 VI 因子 第 VII 因子 第 VIII 因子 第 IX 因子 第 X 因子 第 I 因子 1.000 .531 .357 .128 .451 .427 .130 .467 .346 .346 第 II 因子 1.000 .539 .263 .490 .578 .260 .368 .449 .360 第 III 因子 1.000 .263 .458 .558 .349 .328 .279 .217 第 IV 因子 1.000 .355 .133 .321 .379 .355 .090 第 V 因子 1.000 .520 .347 .549 .478 .390 第 VI 因子 1.000 .313 .324 .353 .348 第 VII 因子 1.000 .338 .345 .171 第 VIII 因子 1.000 .390 .390 第 IX 因子 1.000 .273 第 X 因子 1.000 因子抽出法:最尤法 回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法
対面」,第 V 因子「帝王切開術前の準備」,第 VI 因子 「医療スタッフの認識」,第 VII 因子「プライバシーの 尊重」,第 VIII 因子「現実との一致」,第 IX 因子「不安 軽 減 の 援 助」の 9 つ で あ っ た。 こ れ ら は, 英 語 版 SMMSの下位尺度より因子が 1 つ少ない因子構造で あった。本研究の因子分析の結果では,第III因子が, 英語版SMMSの「病室」(問28~30)と「病院施設」(問 31~33)を構成する項目によって構成されていたた め,「病院施設」と命名した。さらに,英語版SMMSの 「プライバシーの尊重」に含まれていた問 36は,第 III 因子の「病院施設」に,問 37 は第IV 因子の「児や家族 との対面」に含まれていた。この二つの内容を確認 し,それぞれ新しい因子に含まれるものとして妥当で あると考えられた。また,問11は,本来「情報提供と 意思決定の関わり」に含まれていたが,本研究では第 VIII因子の「現実との一致」に含まれた。これに関し ても,内容を見ると「現実との一致」に含まれること が妥当であると考えた。以上のことから,英語版 SMMSと異なる部分があったものの,日本語版SMMS の構成概念妥当性も確保されていると考えられた。
Ⅴ.研 究 方 法
1.研究デザイン 量的記述研究デザイン 2.データ収集期間 平成26年6月15日~10月31日 3.研究協力施設の選定 日本医療機能評価機構のウェブサイトを利用し,A ・B県において産科医療保障制度に登録し,分娩を取 り扱っている産科施設を検索した(公益財団法人日本 医療機能評価機構,2012)。その結果,127 施設が抽 出された。その中で帝王切開を取り扱っている 72 施 設へ電話にて研究協力の依頼を行い,研究協力を 行ってもよいと回答のあった施設に研究計画書を送付 し,後日研究協力の有無について回答を得た。その 後,研究協力の回答が得られた施設に伺い,再度研究 計画書を用いて研究に関する説明を行い,承諾が得ら れた22施設を研究協力施設とした。 4.研究協力者 研究協力の得られた22施設(病院7施設,診療所15 施設)において帝王切開で出産をした褥婦。 5.研究協力依頼と回収方法 研究協力施設のスタッフから,帝王切開で出産後, 順調な回復過程にある褥婦に対し,入院中(退院1~2 日前)に研究協力を依頼してもらうとともに,本研究 への協力は自由意思であることを一言添え,調査票一 式(研究協力依頼文,質問紙,返信用封筒)の入った 封筒を配布してもらうよう依頼し,配布に関しては研 究協力施設のスタッフに一任した。なお,調査票の回 収は,施設での留め置き法(退院時に調査票の入った 封筒に封をして施設のスタッフに提出してもらうよう に説明して配布し,後日研究者が施設を訪問し回収す る),または郵送法(退院後1週間以内に質問紙を返送 してもらう)の2つの方法で行った。 6.調査内容 質問紙は以下のように母親の基本属性のほか,出産 体験の満足に関する質問項目(日本語版 SMMS),産 後のうつ傾向(EPDS),そして産後うつの要因とされ ている自尊感情(自尊感情尺度日本語版)や母親の愛 着に関する質問項目(母親の愛着質問紙)によって構 成された。 1)母親の基本属性(年齢・学歴・職業の有無・同居 家族・出産経験・帝王切開経験・今回の帝王切開の 分類・帝王切開の適応理由・出産週数・児の体重・ 児の健康状態) 2)帝王切開で出産した母親の出産満足度(日本語版 SMMS,42項目) SMMSは,Gungor, et al.(2012)によって開発され た,母親の出産体験の満足を評価するための尺度であ る。147点以上は出産体験に満足していると判断でき ることから,本研究では,出産満足群(SMMS 得点 ≥147)と,出産不満足群(SMMS 得点 ≤146)に分類し た。 3)産後のうつ傾向(EPDS,10項目)EPDSは,Cox, et al.(1987)によって,産後うつ病 のスクリーニングを目的に開発された尺度である。ま た,岡野他(1996)によって「日本版エジンバラ産後 うつ病調査票」が作成され,現在では様々な医療機関 において産後うつ病のスクリーニングに使用されてい る。この尺度は,10 項目 4 件法(0 点~3 点)の最低 0 点,最高30点の自己評価票で,各項目の総得点が9点 以上の場合は,産後うつ病が疑われる。
4)自尊感情(自尊感情尺度日本語版,10項目) Rosenberg(1965)が作成した自尊感情尺度は,他者 との比較により生じる優越感や劣等感ではなく,自身 で自己への尊重や価値を評価する尺度である。質問紙 回答は,「5:当てはまる」から「1:当てはまらない」 の5段階で評価され,得点範囲は10~50点である。点 数が高いほど自尊感情が高いことを表す。山本他 (1982)によって日本語版が作成され,尺度の内的一 貫性は高いと推察され,構成概念妥当性も高いといわ れている。 5)母親の愛着(母親の愛着質問紙:Maternal Attach-ment Questionnaire.以下MAQ,8項目)
中島(2001)は,Muller(1994)が開発した 8 項目の 母親の愛着尺度(Maternal Attachment Inventory)を日 本語に翻訳し,母親の愛着尺度日本語版を作成した。 その後,さらに中島(2002)は,日本語版に修正を加 え,母親の愛着質問紙(MAQ)を作成した。なお,母 親の愛着質問紙の信頼性・妥当性は中島(2002)に よって検討・支持され,信頼係数Cronbach's α は 0.94 で内的整合性は保たれている。この質問紙は,「4:非 常にある」から「1:ほとんどない」の 4 段階で評価さ れ,得点範囲は8~32点である。この尺度は,母親が 児に対して抱いている愛着を測定する尺度で,カット オフポイントはなく,得点が高い程愛着があるとみな される。 7.分析方法 各質問項目を単純集計し,統計処理ソフト SPSS Statistics ver19.0を用いて分析を行った。出産満足度 と産後のうつ傾向との関連を検討するために,SMMS 得点を出産満足群(SMMS得点≥147)と出産不満足群 (SMMS得点≤146)に分類し,2群間でのEPDS得点の 平均点についてt検定を用い,比較・検討した。t検定 の際には,事前に正規性の検定も実施した。また属性 別(年齢,学歴,出産経験の背景,帝王切開の分類 等)ごとに,SMMS得点を算出し,一元配置分散分析 およびt検定を用い,出産満足度(SMMS得点)に影響 を及ぼす変数について検討をした。さらに,上記の分 析で,有意差が確認された変数を用い,出産満足度 (SMMS 得点)に影響を及ぼしている要因について重 回帰分析を行った。検定の有意水準は5%とした。 8.倫理的配慮 産科スタッフから研究協力候補者に研究協力依頼を する際に,本研究への協力は自由意思であり,強制す るものではないことを一言添えて,調査票一式を配布 してもらった。また,依頼文にも同様の内容を明記し た。なお,本調査は無記名・自記式での調査であり, データは統計学的に処理するため,個人が特定されな いこと,研究目的以外に使用しないことを研究協力者 用依頼文に記載した。調査票の提出をもって,本研究 への同意を得たこととした。 本研究は福岡県立大学研究倫理委員会の承認を得て 行った(承認日2014-5-12)。
Ⅵ.結 果
1.研究協力者の概要 1)研究協力施設の概要 質問紙の配布総数は 362 名,回収数は 301 名(回収 率83.1%),有効回答数は294名(97.7%)であった。 2)研究協力者属性 研 究 協 力 者 の 年 齢 は 15~29 歳 が 80 名(27.2%), 30~39 歳が 191 名(65.0%),40 歳以上が 23 名(7.8%) であった。また,出産経験の背景をみると,初産婦 (今回が初めての帝王切開)が130名(44.2%),帝王切 開経験のない経産婦が 25 名(8.5%),帝王切開経験の ある経産婦が139名(47.3%)であった。帝王切開の分 類 別 に み る と, 選 択 的(予 定)帝 王 切 開 が 207 名 (70.4%)で あ り, 緊 急 帝 王 切 開 が 87 名(29.6%)で あった(表2)。 2.各尺度の得点結果 1)SMMS得点 対象者の SMMS 得点の平均は 169.57(SD 20.31)点 であった。またGungor, et al.(2012)の示す出産満足 度のカットオフポイント(146.5点)により対象者を満 足群と不満足群に分類すると,満足群(147 点以上) 247名(84.0%),不満足群(146 点以下)47 名(16.0%) であった(表3)。満足群のSMMS得点の平均は173.17 (SD 15.49)点,不満足群の平均は136.96(SD 9.28)点 であった。 2)EPDS得点 EPDS得点の平均は 6.88(SD 3.14)点であった。ま た,岡野ら(1996)の示すカットオフポイントの 9 点 で対象者を低値群と高値群に分類すると,低値群227 名(77.2%),高値群67名(22.8%)に分けることができ た(表 3)。また,低値群の平均は 5.51(SD 1.59)点,高値群の平均は11.55(SD 2.51)点であった。 3)自尊感情・母親の愛着得点 自尊感情得点の平均は 34.28 点(SD 6.50)で,愛着 得点の平均は30.80点(SD 2.75)であった(表3)。 3.SMMS 得点と EPDS 得点,自尊感情得点,母親の 愛着得点の関連 1)SMMS得点とEPDS得点の関連 SMMS得点を満足群・不満足群の 2 群(満足群 147 点以上,不満足群 146 点以下)に分けて EPDS 得点の 関連についてt検定を用い分析をおこなった。その結 果,EPDS 得点の関連において,出産満足群の EPDS 得点の平均は6.62点であり,出産不満足群のEPDS得 点の平均8.44点と比較すると,有意に低いことが明ら かとなった(p=0.003)(表4)。 2)SMMS得点と自尊感情得点の関連 SMMS得点と自尊感情得点の関連においては,出産 満足群の自尊感情得点の平均は 34.62点に対し,出産 不満足群の自尊感情得点の平均は 32.33点であり,出 産満足群の自尊感情得点が有意に高いことが明らかと なった(p=0.033)(表4)。 3)SMMS得点と母親の愛着得点の関連 SMMS得点と母親の愛着得点の関連においては,出 産満足群の母親の愛着得点の平均 30.99点に対し,出 産不満足群の平均は 29.67 点であり,出産満足群の母 親の愛着得点が有意に高いことが明らかとなった (p=0.032)(表4)。 4.出産満足度に影響を及ぼす要因の検討 出産満足度に影響を及ぼす要因について検討するた めに,まず対象者の属性別にSMMS得点を比較した。 その結果,基本的属性ならびに帝王切開の分類などい ずれの属性においても統計学的有意差が認められな かった(表2)。 次にt検定と一元配置分散分析の結果から有意差の あった〈EPDS 得点〉〈自尊感情得点〉〈母親の愛着得点〉 を独立変数とし,SMMS得点を従属変数として強制投 表3 各尺度の得点結果 項 目 n(%) Mean(SD) SMMS得点 294(100) 169.57(20.31) SMMS得点≥147(出産満足群) 247(84.0) 173.17(15.49) SMMS得点≤146(出産不満足群) 47(16.0) 136.96(9.28) EPDS得点 294(100) 6.88(3.14) EPDS得点<9(低値群) 227(77.2) 5.51(1.59) EPDS得点≥9(高値群) 67(22.8) 11.55(2.51) 自尊感情得点 294(100) 34.28(6.50) 愛着得点 293(100) 30.80(2.75) 表 4 SMMS 得点と EPDS 得点・自尊感情得点・愛着得点 の関連 SMMS 得点 ≥147 (出産満足群) SMMS 得点 ≤146 (出産不満足群) t値 df p 値 Mean(SD) Mean(SD) EPDS得点*** 6.62(2.98) 8.44(3.60) 3.15 59.73 0.003 自尊感情得点* 34.62(6.39) 32.33(6.86) −2.15 291 0.033 愛着得点* 30.99(2.49) 29.67(3.77) −2.21 48.48 0.032 p<0.05* p<0.005*** 表2 対象者の基本的属性と属性別に見たSMMS得点の比較 項 目 n (%) SMMS 得点Mean±SD p 値 出産場所1) 病院 152 (51.7) 7.12±3.30 0.36 診療所 142 (48.3) 6.63±2.95 年齢2) 15~29歳 80 (27.2) 171.19±29.69 0.84 0.22 30~39歳 191 (65.0) 169.68±19.71 40歳以上 23 (7.8) 163.13±23.43 学歴2) 中学・高校 109 (37.1) 171.60±20.98 0.89 0.08 専門学校・短期大学 118 (40.1) 170.42±20.17 大学・大学院 67 (22.8) 164.81±18.95 職業1) 職業あり 140 (47.6) 168.61±20.69 0.44 職業なし 154 (52.4) 170.45±19.99 出産経験の背景2) 初産(初めての帝王切開) 130 (44.2) 166.56±20.45 0.71 0.05 経産 帝王切開経験なし 25 (8.5) 169.80±22.30 経産 帝王切開経験あり 139 (47.3) 172.40±19.44 帝王切開の分類1) 選択的(予定)帝王切開 207 (70.4) 170.07±20.21 0.44 緊急帝王切開 87 (29.6) 168.40±20.62 1)t検定 2)一元配置分散分析
入法を用いて重回帰分析を行った。その結果,〈母親 の愛着得点〉のみが選択された(p=0.001)(表5)。
Ⅶ.考 察
1.帝王切開で出産した女性の出産満足度 本研究では,Gungor, et al.(2012)によって開発さ れた SMMS を日本語に翻訳して使用し,帝王切開で 出産した女性の出産満足度を評価した。その結果,本 研究の SMMS 得点の平均は,Gungor, et al.(2012)の SMMS得点の平均と比較し,20 点近く高く,84% の 女性が出産満足群に分類された。また先行研究では, 緊急帝王切開の場合,予定帝王切開に比べ満足度が低 い こ と が 報 告 さ れ て い る(Blomquist, et al. 2011, p.386)が,本研究では,この2群間に有意差が認めら れなかった。 その理由として,日本とトルコにおける帝王切開の 入院期間の長さの違いと,産前・産後に提供されるケ アの違いが考えられる。トルコでは帝王切開後 72 時 間で退院し(Gungor, et al. 2012, p.350),退院後産後 の育児に関する支援は,主に家族によって行われてい る(Goker, et al. 2012, p.2)。一方,日本における帝王 切開の入院期間は 8~9 日(横手,2013,pp.399-400) であり,クリニカルパスの導入により,帝王切開で出 産する女性のためのケアの標準化が進んでいる。それ に伴い,SMMSに含まれている術前・術後のケアが入 院中に提供されている現状がある。特に予定帝王切開 の場合,術前に帝王切開の準備や情報提供として,医 療者から術式や帝王切開のリスク,麻酔や児の蘇生に 関する説明,出産前後の処置や経過についての説明 (伊東他,2005,pp.568-574;高橋他,2004,p.852) が実施されている。さらに,産後には予定・緊急に関 わらず,SMMSの質問項目に含まれている「術後の疼 痛緩和」や「母乳育児」に関するケアが,身体の回復 に応じて助産師や看護師といった専門職者により提供 されている。 以上の理由により,本研究では全体的に SMMS 得 点が引き上げられ,予定・緊急帝王切開群ともに,高 い数値が得られたと推察される。 ただし,緊急帝王切開で出産した女性は,予定帝王 切開で出産した女性と比べ恐怖レベルが高く,その体 験を否定的にうけとめやすい(Elvarder, et al. 2013, p.292)ことや,出産満足度が低い(Blomquist, et al. 2011, p.387)ことが明らかになっていることから,今 後その体験の評価を含めた尺度の検討を重ねていく必 要があると考える。 2.帝王切開で出産した女性の出産満足度と産後早期 のうつ傾向 本研究において,出産満足群・不満足群の2群間に おいて,EPDS 得点に有意差が認められたことから, 出産満足度と産後早期のうつ傾向に関連があることが 示唆された。帝王切開での出産は,失敗感や罪責感な どを抱かせ,喪失体験となることがある(新道他, 1990,p.48)。またEPDS高得点者に帝王切開で出産し た 女 性 が 多 い(原 田, 2008 , p.3; 山 下 他, 2003 , p.1132)ことが報告されている。 しかし一方では, 帝王切開分娩と産後うつは関連が ないという報告がある(Goker, et al. 2012, p.4)。ま た,Sorenson, et al.(2010)は,分娩様式は産後うつ 病と関連がなく,出産体験の否定的な認識が,産後う つ病と関連していると述べている(pp.19-20)。さら に,経膣分娩の場合であっても,出産体験の自己評価 が低い場合,産後早期のうつ傾向に関連することが示 唆されている(関塚他,2007;常盤,2003)。 本研究における EPDS 得点の平均は,6.88 点(SD 3.14)であり,これは岡野他(1996)示すスクリーニン グカットオフポイント(9 点)よりも低かったことか ら,帝王切開での出産体験そのものが産後のうつ傾向 につながるものではないと考えられる。しかし,産後 の EPDS 得点の報告は多様である。浦山他(2013, p.98)の調査によると,帝王切開で出産した女性を含 む産褥 5 日目の女性の EPDS 得点の平均は 6.5 点(SD 3.8)であり,本研究の対象者全体の EPDS 得点平均 6.88点(SD 3.14)と大きな差異はなかった。一方,初 経産別の EPDS 得点の調査によると,産褥早期の EPDS得点が初産婦は5.1点(SD 4.7),経産婦は3.4点 (SD 3.8)で あ っ た こ と が 報 告 さ れ て い る(榮 他, 2016,p.37)。この結果は,本研究よりも低い結果と なっているが,それは,榮他(2016)の調査対象の約9 表5 出産満足度に影響を及ぼす要因(重回帰分析) 標準化されていない 係数 標準化係数 t 値 p 値 B 標準偏差 ベータ 自尊感情得 点 0.155 0.204 0.049 0.760 0.448 EPDS得点 −0.409 0.423 −0.063 −0.968 0.334 愛着得点*** 1.681 0.426 0.227 3.947 0.001 p<0.005***割が経腟分娩の女性であったことが理由として考えら れる。 ま た, 出 産 満 足 群 の EPDS 得 点 は, 不 満 足 群 の EPDS得点より有意に低かったことから,出産体験の 認識が産後のうつ傾向に関連していることが考えられ た。そのた め, 産後に 出産の 振り返 り(バ ース レ ビュー)を行い,帝王切開の出産に対する認識を確認 していく必要がある。森田他(2012,p.62)は,帝王 切開後のバースレビューの実施によって,対象者が 「改めて出産したことを実感できた」と述べたことを 報告している。また,産後に出産の振り返りを行う効 果について,梅本他(2010,p.98-99)は,自らの出産 体験が整理されていくことで,改めて自分の体験とし て意味づけられることを指摘している。 海外では帝王切開や吸引分娩後に出現する心理的ト ラウマの予防として,デブリーフィング(debriefing) による介入が実施されている。このような介入につい て,Gamble, et al.は,振り返るという行為によって出 産体験やその時の気持ちを語り,その行為は,疑問の 解 決 や 問 題 を 探 索 す る 機 会 と な る と 述 べ て い る (2004)。 出産の振り返りについて,鈴木(2015,p.991)は, ルーチンではなく時間に幅を持たせ,出産体験が想起 されることの意味を考慮したうえで行われる必要性が あると述べている。また,横手(2011,pp.836-837) は,女性の不安や憤りの傾聴や女性自身が自分の頑張 りを認め,帝王切開も立派なお産であると思えるよう な支援の継続が,帝王切開分娩の受容につながること を示唆している。よって,産後の出産の振り返りを通 して,帝王切開で出産をした女性の出産に対する認識 を確認し,必要に応じて退院後も継続した支援を提供 していくことが重要である。 さらに,Houston, et al.(2015,p.229.e6)は,分娩 様式の希望と産後うつ病の関連を調査し,経膣分娩を 希望していた女性が,結果として帝王切開での分娩と なった場合には,産後うつ病のリスクが増加する可能 性があると述べている。このことから,帝王切開で出 産した女性は,期待と現実のギャップによって喪失感 などの否定的感情を抱きやすく,それが誘因となり産 後早期のうつ状態に陥る可能性があるため,妊娠中か ら帝王切開に関する情報提供や,入院中のEPDSを使 用しての早期のスクリーニングの実施が望まれる。退 院後には,母乳外来や健診の場で母親の気持ちを傾聴 する機会をもつこと(喜多野他,2014,p.43),そして 助産師や保健師による訪問サポート(森他,2015, pp.1033-1034)といった継続したケアを提供していく ことが産後早期の精神的な支援として有用である。 3.出産満足度に影響を及ぼす要因 本研究によって,出産満足度に影響を及ぼす要因に ついて検討した結果,「母親の愛着得点」のみが選択さ れた。Rubin は,子どもを産むという行為は,自分の 子を抱きしめてはじめて完全なものとなる(1984, p.126)と述べている。また,産後の早期母子接触・早 期授乳のケアは母子のきずなをより強いものにする (原他,2004,p.8)だけでなく,子どもとの親密度増 加に繋がり,愛着形成にも影響を及ぼすとされている (大神他,2005,p.245)。つまり,帝王切開の場合, 経膣分娩に比べて遅れがちになる産後の早期母子接触 ・早期授乳を積極的に行うことにより,愛着形成が促 進され,さらに出産の満足度向上につながると考えら れる。 また,本研究では,出産満足度に影響を及ぼす要因 としてEPDS得点や自尊感情は選定されなかった。出 産満足度には,産科的な背景や新生児の要因などを含 む様々な要因が関連していることが報告されている (中野他,2003;山口他,2011)。このことから,今後 さらに出産満足度の影響要因を探索していくことが望 まれる。
Ⅷ.研究の限界と今後の課題
本研究は,A 県と B 県の 2 県において帝王切開で出 産した女性を対象としており,限られた地域における 調査であり,本調査を一般化するには十分でないた め,今後も継続して調査を実施していく必要がある。 また,本研究では SMMS の平均点が SMMS 開発者 であるGungor, et al.(2012)の結果と比較し20点以上 高く,帝王切開で出産した女性の 84% が,出産満足 群に分類される結果となった。さらに先行研究では, 緊急帝王切開の女性は,出産を否定的体験として認識 されやすいことも指摘されているが,本研究では帝王 切開の分類(予定帝王切開・緊急帝王切開)における 出産満足度の有意差は認められなかった。その理由と して,日本は SMMS 開発国のトルコに比べ,帝王切 開後の入院期間が長く,産前・産後のケアが充実して いることが推察された。 本研究において,出産満足度と産後早期のうつ傾向の関連が示唆されたことから,自然分娩だけでなく, 帝王切開で出産した女性に対しても出産体験の振り返 りを実施する必要があると考える。また,振り返りを 行う際には,出産体験を語る場を提供するだけでな く,帝王切開での出産が立派なお産であると思えるよ うに関わっていく必要がある。さらに,帝王切開で出 産した女性の思いに寄り添うとともに,退院後も継続 してケアができるよう病院内外の看護スタッフと連携 していくことで,帝王切開で出産した女性が出産に対 して抱くわだかまりを解き,退院後の育児に前向きに 望めるのではないだろうか。そして,現在日本には帝 王切開で出産した女性の出産満足度を評価する尺度が ないため,経腟分娩のように出産満足度の評価が十分 になされていない。よって,今後は本研究の成果を踏 まえ,さらに日本人女性の帝王切開での出産体験に関 するデータを積み重ねながら,その体験を評価できる 信頼性・妥当性の高い尺度の開発が必要である。
Ⅸ.結 論
1. 帝王切開で出産した女性の 84% が出産満足群に 分類され,予定帝王切開と緊急帝王切開の 2 群 では出産満足度に有意差はみられなかった。 2. 帝王切開で出産した女性の出産満足度と産後早 期のうつ傾向には関連があることが示唆された。 3. 帝王切開で出産した女性の出産満足度の影響要 因として,「母親の愛着」が確認された。 謝 辞 本研究の趣旨を理解し,ご協力いただきました研究 協力者の皆さま,協力施設の施設長,医師,産科ス タッフの皆様に心より感謝いたします。本研究は福岡 県立大学大学院看護学研究科修士論文を加筆・修正し たものである。 利益相反 本研究に関する利益相反はありません。 文 献 有本梨花,島田三恵子(2010).出産満足度と母親の児に 対する愛着との関連.小児保健研究,69(6),749-755. 安藤智子,無藤隆(2006).妊娠期の抑うつと胎児への感 情に関する仮説モデルの検討.小児保健研究,65(5), 666-674.Blomquist, J. L., Quiroz, L. H., Macmillan, D., Macullough, A., & Handa, V. L. (2011). Mother's Satisfaction with Planned Vaginal and Planned Cesarean Birth. American Journal of Perinatology, 28(5), 383-388.
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