品川近視クリニック東京本院 副院長
冨田 実
Tomita Minoru最新眼科屈折矯正医療の現状
The Latest Trends in Refractive Surgery
はじめに
屈折矯正異常(近視、遠視、乱視)を治療す る試みは、はるか昔から行われてきた。屈折矯 正の観点から最初に行われた外科手術は水晶体 摘出で、1746 年にBoerhaaveが強度近視症例に 対して、水晶体摘出手術が有効であることを示 したのが最初である。その後過去 250 年以上の 間に多様な屈折矯正手術法が報告され、現在に 至っている(表)1)。エキシマレーザーが角膜 手術に応用され、1990 年に Pallikaris が LASIK (Laser in situ keratomileusis)を初めて考案し た。これによってより正確な屈折矯正が可能と なり、多くの人々に屈折矯正手術が普及して いった。屈折矯正手術の種類
現在、屈折矯正手術の中では LASIK が最も 主流で 2008 年には約 30 万症例の LASIK が日本 で施術されたといわれている。当院の実績でも 2008 年には 20 万症例以上の LASIK を施術した 実績がある。その手術を受けた人の 99%以上 の人が 1.0 以上に裸眼視力が回復しており、患 者の満足度が高く、合併症のリスクがほとんど ないこともこの手術がここまで普及してきた原 因の一つであると考えられる。屈折矯正手術の 第一選択は LASIK であるが、角膜形状不整や 角膜厚不足により LASIK ができない患者には、 Phakic IOL(有水晶体眼内レンズ)で矯正で きる。 老眼に対してはモノビジョン LASIK や CK (Conductive Keratotomy)、カメラTM(KAMRATM)、多焦点眼内レンズなどがある。
LASIK(Laser in situ keratomileusis)
LASIK とはマイクロケラトームやフェムト セカンドレーザーで一定厚の角膜フラップを作 成し、露出角膜実質面にエキシマレーザーを照 射して角膜形状を変化させた後に、角膜片を戻 す術式で、1990 年に Pallikaris によって発表さ れた2)。その後、LASIKは世界中で急速に広が り、現在では年間約 400 万件の手術が行われる までになった。LASIK では手術による合併症 が他の外科手術より少なく、非常に安全ではあ るが、①角膜フラップ作成に関わる術中、術後 の合併症や、②角膜拡張症(keratectasia)と 呼ばれる角膜形状異常を来すことがあることな ども大きな問題ではあった。近年、フェムト セカンドレーザーでフラップを作成できる最 新機種が発売された。AMO(Abbott Medical Optics)の製品である IntraLaseTM(図1)が その代表であり、日本でも最も多く導入されて いる。IntraLaseTMが LASIK のフラップ作成に 使用されるようになってから、角膜フラップの 厚みを正確にコントロールすることが可能にな り、フラップの術後位置変異や LASIK 後の重 症ドライアイの症例頻度も劇的に減少した。ま た、現在でもフェムトセカンドレーザーの技術 は進歩しており、最新フェムトセカンドレー ザ ー の Ziemer 社 製(Ziemer Group AG) の FEMTO LDVTM(図2)は照射エネルギーが IntraLaseTMの 50 分の1のエネルギーでフラッ プが作成でき、角膜により侵襲が少なく、術後 炎症やドライアイなどの合併症が IntraLaseTM を使用した場合と比較して少ないといわれてい る。さらに、レーザーを通しにくい角膜混濁を 伴う症例にも最新の FEMTO LDVTMは通常通 りのフラップ厚で対応ができるようになった。 エキシマレーザーに関しては多くの会社が発売 をしており、厚生労働省が初めて認可した 2000 年に発売されていたエキシマレーザーに比べて 近年のエキシマレーザーは照射スピードが早く
最新眼科屈折矯正医療の現状
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品川近視クリニック東京本院 副院長
冨田 実
発生する不正乱視を抑えたり、不正乱視を減少 させる術式としてwavefront guided treatment が多くの施設で行われている。個別の角膜の形 状を測定してそれに合わせて照射を行うもので あるが、データに信頼性が低い場合に使用する と結果が良くない可能性が出てくる。最近の 研究では収差はwavefront guided treatmentで とればいいというものではなく、元の収差と LASIK 術後も変わらない Aberration Neutral (Aberration-FreeTM)という状態が患者にとっ て最も自然でいい見え方であるという報告もあ る3)。最新機種のAMARISTMはこのAberration Neutral という状態を作り出すことをコンセプ なり、瞳孔中心に照射を狙うアイトラッカーも スキャンスピードが増加してより正確に目標と する部位に照射できるようになった。人間は手 術の時など緊張すると眼が上転してしまう傾向 があり、今までの X 軸、Y 軸方向の追尾だけで は軽度の上転の際には偏心照射を生じてしまう 可能性があった。最新型の次世代エキシマレー ザーの SCHWIND 社製(SCHWIND eye-tech-solutions)の AMARISTM(図3- a)には上転 などあらゆる眼の動きにも対応するアイトラッ カーが搭載されており、全世界の屈折矯正を 専門とする眼科医を驚かせた(図3- b)。ま た、LASIK などの角膜屈折矯正手術によって 1746 1869 1885 1889 1894 1895 1896 1898 1939 1943 1949 1953 1963 1964 1969 1974 1975 1978 1980 1981 1983 1985 1986 1987 1990 1991 1995 1997 1998 1999 2000 2002 2004 2006 ドイツ オランダ ノルウェー オーストリア 米国 オランダ イタリア オランダ 日本 日本 コロンビア イタリア コロンビア コロンビア ソ連 ソ連 米国 米国 米国 米国 英国 米国 ドイツ ドイツ 米国 フランス ソ連 ドイツ 米国 ギリシア 米国 米国 米国 メキシコ 日本 米国 日本 米国 米国 米国 日本 Boerhaave Snellen Schiøtz Fukala Bates Faber Lucciola Lans 佐藤 佐藤、秋山 Barraquer Strampelli Barraquer Barraquer Yanaliev Fyodorov Gasset、Kaufman Bores、Myers、Cowden Kaufman Waringら Choyce Trockelら Seiler Fechnerら Marshallら Baikoffら Fyodorovら Krumeich Schanzlin Pallikarisら Schanzlinら Lindstrom FDA Méndezら 厚生省 FDA 厚生労働省 FDA FDA FDA 厚生労働省 水晶体摘出により高度近視が改善することを記載 角膜強主経線に対する角膜切開術の理論 白内障術後乱視に対する角膜切開術 透明水晶体摘出による強度近視矯正 角膜瘢痕による角膜曲率の平坦化 角膜輪部切開による角膜乱視矯正 角膜半層切開による乱視矯正 家兎を用いた角膜屈折矯正手術実験 円錐角膜に対する角膜後面切開術 近視に対する角膜前後面放射状切開術 Refractive keratoplastyおよびIntracorneal lens 高度近視眼に対する前房型Phakic IOL Keratophakia Keratomileusis 角膜前面放射状角膜切開術(RK) 角膜前面放射状角膜切開術(RK) 円錐角膜に対する熱形成術 米国での放射状角膜切開術 Epikeratophakia PERK Studyの開始 Polysulfone corneal inlay
エキシマレーザーによるウシ角膜切開 エキシマレーザーによる角膜T切開 虹彩支持型Phakic IOL Photorefractive keratectomy(PRK) 隅角支持型Phakic IOL 後房型Phakic IOL Nonfreeze epikeratophakia Intrastromal corneal ring
Laser in situ keratomileusis(LASIK) Intrastromal corneal ring
Minimally invasive radial keratotomy(Mini RK) PRKの認可
Conductive keratoplastyによる遠視矯正 PTKの認可(VISX社およびニデック社) 近視に対するIntracorneal ring segmentsの認可 PRKの認可(VISX社およびニデック社) Conductive keratoplastyの遠視矯正適用の認可 円錐角膜に対するIntracorneal ring segmentsの認可 Conductive keratoplastyの老視矯正適用の認可 LASIKの認可(ニデック社)
トにしている。エキシマレーザーやフェムトセ カンドレーザーは3年も経てば新しい世代の最 新機種(より安全でより結果も良いもの)が開 発、発売されるため、常に最新の機種を導入し ている施設で手術は受けるべきであると思われ る。
Phakic IOL(有水晶体眼内レンズ)挿入術
円錐角膜の疑いなど角膜の形状が悪かった り、角膜厚が不足していて LASIK などの角膜 屈折手術を受けることのできない患者のために 最近注目を集めている治療が Phakic IOL であ る(図4)。Phakic IOLには虹彩支持型、後房型、 隅角支持型の3通りのものが発売されている。 どの部位に IOL を支持するかはどの方法も一長 一短で、どれが最も優れているとは言い難い。 しかし、角膜を削ることなく屈折矯正効果が得 られるため、LASIK などの角膜屈折矯正手術 に比べると術後の不正乱視の発生率が低く、見 え方の質は LASIK のそれを上回っていると報 告する人も多い。ただ、LASIK などの角膜手 術よりも眼内手術は感染やその他の合併症の頻 4次元 3次元 2次元 5次元 1次元 図3-b AMARISTMに搭載されている5次元眼 球追尾照射システム 冨田 実, 2009 図1 AMO社製の最新型フェムトセカンドレー ザー iFSTM AMO社提供 図2 Ziemer社製の最新型フェムトセカンドレーザー FEMTO LDVTM Ziemer社提供 図4 Phakic IOL挿入眼 冨田 実, 2009
図3-a SCHWIND社製の最新型エキシマレー ザー AMARISTM SCHWIND社提供
この治療は前述した CK とは異なり、遠方視力 をほとんど低下させることなく、近方視力を増 加させることができる画期的な治療である5)。 この治療は患者の術後トレーニングを必要とす る。トレーニングをしない患者は近方視力の獲 得に6カ月から1年かかるが、トレーニングを すると術後1カ月で裸眼近方視力が大幅に回復 する。また、この治療は近視矯正施術と併用す ることで、40 歳以上の患者が近視矯正手術後 に老眼鏡を使う必要がなくなる可能性がある。 また、白内障術後の患者にも有効であると考え られている。 現在では日本人の約6割が近視、乱視などの 屈折異常が認められるといわれている。屈折 矯正施術の代表である LASIK 手術は成功率が 99%以上とあらゆる手術の中で成功率が高く、 結果も非常に良い。この手術を通じて多くの人 の QOL 向上に寄与できれば、眼科医としてこ の上ない幸せである。 度も上がるため、LASIK 不適応の患者に対し て行う治療であると考える。
CK(Conductive Keratotomy)
この手術は老眼の治療としては初めて FDA に認可された治療である。非優位眼の角膜にラ ジオ波を当てて、角膜のカーブをスティープ化 させることにより、近視を作成し、遠方の視力 を落として、近方の視力を上げる治療である (図5)。施術は5分で終了し、術直後から効果 は得られるが、長期的に観測するとだんだんと その効果は弱まってくる。治療の optical zone が大きく、LASIK のモノビジョンに比べると 遠方の視力の低下が少ないが、術前に近方視力 を上げる代わりに遠方視力が低下することを十 分理解していただいた上で、手術施行すべきで ある4)。カメラ
TM(KAMRA
TM)
最も新しい老眼治療で、直径4mm の厚さ 8μmの中心に 1.6 mmの穴が空いているシート に 8,000 個の穴が開いており、グルコースを通 すようになっている(図6)。このピンホール を通して見ることによって、焦点深度が深くな り、近方視力を上げることができる(図7)。 (文 献) 1)増田寛次郎 監 , 水流忠彦 編著:THE LASIK 最新屈折矯正手術の 実際. ライフ・サイエンス(東京):2009, 12-18.2)Pallikaris IG, et al.:A corneal flap technique for laser in situ keratomileusis. Human studies. Arch Ophthalmol 145:1699-1702, 1991.
3)de Ortueta D, et al.:Comparison of standard and aberration-neutral profiles for myopic LASIK with the SCHWIND ESIRIS platform. J Refract Surg 25:339-349, 2009.
4)冨田 実 , 他:CKの LASIK 術後眼と非 LASIK 眼における効果の 比較検討. 第 24 回日本眼内レンズ屈折手術学会:2009.
5)Yilmaz OF, et al.:Intracorneal inlay for the surgical correction of presbyopia. J Cataract Refract Surg 34:1921-1927, 2008.
図5 老眼治療のCK施術眼 冨田 実, 2009 若眼 近方視力 水晶体は近くの物に焦点を 合わせることができる 老眼 カメラTM(KAMRATM) 移植眼 水晶体は焦点を合わせる ことができない カメラTM(KAMRATM) 図7 カメラTM(KAMRATM)のピンホール効果 冨田 実, 2009 図6 カメラTM(KAMRATM)挿入眼 AcuFocus社提供