1 はじめに
近年,電力用変圧器に対して,省エネルギー,省資源,CO2排出 量削減など環境保護の立場から高効率化が求められるとともに1,2), 騒音低減や電磁環境への適合3,4)など,さまざまの要求が高まってい る。鉄心材料である方向性電磁鋼板に対してもこれらの目的に適っ た特性の向上が強く求められ,また変圧器特性向上に適合した鉄心 材料の選択と最適設計などの材料利用技術が重要となっている2–5)。 3 相積変圧器の効率に大きい影響を及ぼす鉄損は,通常使用する 材料の鉄損よりも増加し,その増加比率であるビルディングファク タ (BF) の低減が常に課題となる5)。BF 増大の原因としては種々の 要因が挙げられるが,鉄心の磁気的要因に関しては,回転磁束の発 生,回り込み磁束による磁束波形の歪,接合部における磁束の集中 など,鉄心の接合箇所における複雑な磁気的挙動が強く影響してい るとされる5–7)。これらは鉄心内部において磁束密度に不均一な分 布が発生することにともなう現象であり,その原因の解明と定量評 価には局所的な磁気測定が不可欠である。 これまでも,局所的磁気測定の方法として探りコイルによる方法 が用いられているが,鋼板に穴をあける必要があり,導線により鋼 板間の隙間が生じることなどのために磁束密度の分布に影響を与え ることが懸念される8)。これに対し,最近では非破壊で局所磁束密 度の測定が可能な探針法を用いた方法が開発されており,単板にお ける局所磁気測定に利用されるようになってきている9–11)。そこで, この探針法を 3 相積鉄心における局所磁気特性の測定に用いる方法 を開発し,実測を行った。その結果を 2 節に述べる。 一般に,3 相積鉄心を一定のシミュレーション精度を確保できる 程度に積み上げるには多くの試料と手間を要する。そのため,前述 の BF 劣化要因が集中的に現れる接合部,特に 3 相積鉄心の V 脚 (中央脚)とヨークの接合箇所,いわゆる T 接合部における磁気的 挙動を抽出できる簡易シミュレーションモデルを開発した12,13)。こ のモデルを用いて,BF に及ぼす局所磁気特性の影響を定量評価す *平成14年11月 5 日原稿受付Synopsis:
Methods of local measurement and analysis of magnetic properties and vibration and noise levels in a three-phase
stacked transformer core were developed and applied to the evaluation of the influence of core structure and material on
these properties. Inhomogeneous distribution of local flux density arising from rotating flux and circulation flux in the
vicinity of core joining parts and local iron loss distribution caused by them were quantitatively clarified. The building
fac-tor at 1.7 T, 50 Hz was evaluated by using a T-joint simulation model measurement and magnetic field analysis using an
integral element method. It was 1.2 by the former method and 1.4 by the latter, both in good agreement with practical
val-ues. Local vibration and noise level in the same core were measured, and the influence of core structure and material on
the distribution of vibration and noise in the vicinity of core joining parts was clarified.
3 相積変圧器モデル鉄心における
局所磁気特性および騒音の解析*
Analysis of Local Magnetic Properties and Acoustic Noise
in Three-Phase Stacked Transformer Core Model
35 (2003) 1, 21–27
要旨
3 相積変圧器鉄心における磁気特性および振動・騒音を局所的に 測定・評価する方法を開発し,鉄心材料と鉄心構造がこれらの特性 に及ぼす影響を調査した。探針法を用いた局所磁気測定法により, 3 相積鉄心接合部近傍における回転磁束と回り込み磁束による磁束 密度の不均一分布と,それによる局所鉄損分布の発生状況を定量的 に明らかにした。接合部シミュレーションモデルによる実験的方法 と,積分要素法を用いた磁界解析により,回転磁束と回り込み磁束 による 1.7 T,50 Hz でのビルディングファクタ評価を行い,前者で 約 1.2,後者で約 1.4 のほぼ実測に近い値を得た。また,3 相積鉄心 における振動と騒音レベルを局所的に測定し,鉄心接合部近傍にお ける振動・騒音の分布に及ぼす鉄心材料と鉄心構造の影響を定量的 に明らかにした。 石田 昌義 Masayoshi Ishida 技術研究所 電磁鋼板 研究部門 主任研究員 (課長)・理博 定廣 健一 Kenichi Sadahiro 技術研究所 電磁鋼板研究部門 主任研究員(主席掛長) 岡部 誠司 Seiji Okabe 技術研究所 電磁鋼板研究部門 主任研究員(主席掛長)る試みについて 3 節に述べる。 また,これらの実験的方法に加えて,鉄心の局所磁気挙動に対す る理解を深めるために,計算機シミュレーションによる磁界解析の 方法も併用した14)。その結果は 4 節に述べる。 一方,変圧器においては,低騒音であることが近年では特に重視 される特性の一つである3,4)。鉄心に起因する変圧器騒音の原因とし ては,鋼板の磁歪振動と,鉄心内部における電磁振動が主たるもの として考えられている5,15–17)。磁歪振動は励磁磁束密度に強く依存 し,特に磁束が集中する接合部では振動強度が増大する可能性が高 い。また,電磁振動も自由磁極が発生しやすい接合部で特に強度が 増すと考えられる。これらは,発生箇所も振動の基本周波数も一致 すると考えられ,要因の分離は困難であるが,振動・騒音レベルの 空間的分布の解析によりさらなる知見が得られる可能性が高い。そ こで,この変圧器騒音に関しても局所的測定を試み,鉄心材料と鉄 心構造の影響を調べた。その結果を 5 節に述べる。
2 3 相積変圧器鉄心における局所磁気特性
2.1 変圧器鉄心全体特性の測定方法
本報告において用いた 3 相積変圧器モデル鉄心の主要諸元および 構造図を Table 1 および Fig. 1 に示す。鉄心は,板幅一定・矩形 断面の 3 脚およびヨークから構成し,ヨーク部は 2 分割 V ノッチ とした。積層方法としては,交互積および 6 段ステップラップの 2 種類の接合方式を用いた。鉄心の質量は約 100 kg であり,外形寸 法は 1 辺 750 mm の正方形である。鉄心は水平の平面上に積層した。 鉄心の励磁は各脚 60 ターンの 1 次巻線によって行い,その内側に 巻いた 60 ターンの 2 次巻線によって磁束を検出した。鉄心全体の 鉄損は,各相の 1 次電流および 2 次電圧から電力計を用いて求めた 無負荷時の入力電力の和とした。鉄心素材の磁束密度および鉄損は JIS に規定されたエプスタイン試験法によって測定した18)。2.2 鉄心における局所磁気特性の測定方法
磁束検出探針およびホール素子を用いた鉄心局所磁気特性の測定 原理を Fig. 2 に示す9,10)。鉄心表面の鋼板に接触させた 2 本の探針 間に生じる誘起電圧は,探針接触点の下部が挟む断面部分の 1/2 の 面積に鎖交する変動磁束が誘起する電圧に等しいとの理論に基づい て,鉄心の局所磁束密度を求めた。また,鋼板表面における磁界強 度は微小なホール素子によって測定した。 磁束検出探針およびホール素子は,それぞれ鋼板表面の 2 方向 (x,y 方向とする)の磁束密度および磁界強度を検出できるように, 2 組を直角方向にセットして用いた。探針は焼入れ・窒化処理を施 した非磁性金属製のものを用い,探針間距離は,x,y 方向とも 5 mm とし,空隙補償コイルを設置した。ホール素子は感受部長さ 約 1.0 mm のものを探針間にセットし,感受部の中心を鋼板表面か ら約 0.5 mm とした。また,鉄心表面全面を測定できるように,こ れらの 2 組のプローブを 3 次元ロボットアームに組み込み,鉄心表 面を 2 次元的に自動スキャンできる機構を設けた。 磁束密度および磁界強度の波形は入力信号からデジタルオシロス コープを用いて求めた。各測定点における鉄損は,上記の磁束密度 B および磁界強度 H の波形により描かれるヒステリシスループの 面積から次式によって x 方向成分 Wxおよび y 方向成分 Wyに分けて 計算し,その和を 2 次元局所鉄損 W2dとした。 W2d (f/ρ)H · dB Wx Wy· · · (1) Wi (f/ρ)HidBi( i: x, y) · · · (2) ここで f は励磁周波数,ρ は電磁鋼板の密度を示す。周回積分は励 磁周期 1 回分について行う。 Joint geometry Number of steps Alternate lap 2 Step-lap 6 10 mm 2 mm 5 Shift length 2 Number of laminations/unit lap144 Total number of laminations
ca. 100 kg Total core weight
Table 1 Specifications of model three-phase stacked transformer cores
750 unit: mm 10 10 10 150 150 150 150 150 150 150 2 2 2 150 150 150 750 750 750
(a) Alternate-lap joint (b) Step-lap joint
Fig. 1 Structure of model three-phase stacked transformer cores
Iron loss Wloc ( area)
Magnetic field, H Integrator Magnetic field Flux Needle probe Flux density, B Amplifier V
Amplifier Hall probe Eddy currentFig. 2 Principle of local iron loss measurement using needle probes and a Hall probe
W (W/kg) 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0
(a) Before PJ irradiation (b) After PJ irradiation
Fig. 5 Change in iron loss distribution in stacked core by plasma-jet irradiation (The dotted triangle shows the plasma-jet irradiated area)
2.3 3 相積鉄心における局所鉄損分布
局所鉄損測定の一例として,23NewRGH を鉄心材料として用い た 3 相積変圧器モデル鉄心の V 脚(中央脚)とヨーク部との接合 部(T 接合部)付近における 2 次元局所鉄損 W2dの分布を Fig. 3 に示す。接合箇所直上とヨーク部右半分は測定されていない。V 脚 ―ヨーク間の 45° 接合の下部に沿って鉄損が著しく増加した部分が あり,その左側に鉄損が大きい部分が続いていることが分かる。 測定箇所のうち,図に正方形で示す V 脚とヨーク部の 2 ケ所に おける局所 B - H ヒステリシスカーブを x,y 方向成分別に図の上部 に示す。いずれも,磁束密度の圧延方向 (RD) 成分は大きく,圧延 直角方向 (TD) 成分は小さい。V 脚先端では磁化回転の影響が強く, 複雑なヒステリシスを示している。 次に,ヨーク部における鉄損分布の励磁磁束密度に対する依存性 を Fig. 4 に示す。1.0 T では鉄損分布における不均一の程度は小さ いが,励磁磁束密度の増加とともに V 脚‐ヨーク間の接合箇所に 沿って鉄損増大が顕著になっていく。また,鉄心の内側に相当する ヨーク部分(図では上部)で鉄損がより大きいことが観察される。 鉄心内部全体には多少の不均一が見られ,また励磁磁束密度が変化 してもほぼ分布状態が変化しないことから,鋼板内部の不均一に起 因した磁束密度のゆらぎが生じていることが推測される10,11)。 鉄心内部に局所的な歪が存在する場合には,磁束密度の分布が変 化し,鉄損分布がそれにともなって変化すると考えられる。V 脚の 先端部分にプラズマジェットを照射して局所的に歪を与えた場合の 局所鉄損分布の変化を,照射前後を比較して Fig. 5 に示す。V 脚 の先端部(図中の 3 角形の部分)にプラズマジェットを照射した。 照射方向は圧延方向と直角をなす方向(図中では左右方向)である。 プラズマジェットを照射した場合には,V 脚部分ではやや鉄損が増 加するものの,ヨークとの 45° 接合の線に沿って発生していた高鉄 損部分では,照射前に比べて鉄損が減少し,鉄損分布がより均一と なっていることが分かる。3 3 相積鉄心 T 接合部シミュレーションモデル
3.1 T 接合部モデルによる測定法
前述のように,3 相積変圧器鉄心におけるビルディングファクタ 増大の原因として,回転磁束の発生,回り込み磁束による磁束波形 歪,接合部における磁束の集中など,T 接合部で生じる複雑な磁束 挙動の影響が大きい5–7)。しかしながら,このような種々の要因の 分離・解析は必ずしも容易ではない。そこで,T 接合部の磁気的挙 動を容易に測定できる方法として,T 接合部のみを抽出した小型の 実験モデルを作製し,探針法を用いて局所磁気測定を測定する方法 を開発した12,13)。 本方法に用いた T 接合部シミュレーションモデルの構成を Fig. 6 に示す。装置は,励磁コイル・ヨーク・探針法による磁束密度測 定部からなる。試料は 3 相積鉄心のヨークと V 脚からなる T 接合 部を抽出した形状とし,ヨークで上下を挟んで磁気回路を形成させ る。試料の U,V,W 各相に相当する部分には独立の励磁コイルを 設置し,各相に設けた B コイルによって励磁磁束密度をモニター W2d (W/kg) y x 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 //RD FS: 200 A/m FS: 1.5 T Bx Hx //TD Bx Hx //TD By Hy //RD By HyFig. 3 Example of measured 2-dimensional iron loss distribution in stacked core using 23NewRGH
W2d (W/kg) 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 1.0 T 1.5 T 1.8 T
Fig. 4 Change in iron loss distribution in stacked core with exci-tation flux density
B-coil Local fluxsensor
Exciting coil Yoke 80 mm 80 mm V W U Specimen
Distortion factor 0.30 0.28 0.24 0.20 0.16 0.12 0.08 0.04 0.00
Fig. 10 Distribution of distortion factor in local flux density waveform measured in the V leg
しながら,各相部分を正弦波励磁した。探針は 15 mm 間隔で互い に直交するように設置した。
3.2 T 接合部モデルによる回転鉄損の評価
1.7 T,50 Hz で励磁した T 接合部モデルの各測定点における磁束 密度ベクトルの軌跡を Fig. 7 に示す。試料としては 35RGH(板厚 0.35 mm,W17/50 1.17 W/kg)を用いた。V ノッチ先端部分付近に おいては磁束密度の圧延直角方向成分が大きくなり,部分的にはこ の方向に 0.8 T 以上の振幅をもつ回転磁束が発生している。 この回転磁束によって発生する鉄損を評価するために,各測定点 における BL(磁束密度の圧延方向成分),BC(磁束密度の圧延直角 方向成分)の最大値に対応する回転鉄損を,あらかじめ測定した単 板試料による回転鉄損測定結果の補間により求めた。1.7 T,50 Hz における回転鉄損の算出結果を Fig. 8 に示す。BCが大きい測定点 では 1.8 W/kg を越える鉄損が認められる。全測定点の回転鉄損の 平 均 値 は 1.34 W/kg で あ り , 単 板 の 交 番 磁 化 に よ る 鉄 損 値 1.17 W/kg に比べて 15% 増加していることが分かる。鉄心全体の 質量に対する T 接合部質量の比率を 20% とすれば,1.7 T,50 Hz における回転磁束による鉄損増加率は約 1.5% と評価される。3.3
T 接合部モデルによる磁束波形歪の影響の評価
3 相積鉄心においては,脚磁束がゼロとなる位相においても局所 的には磁束が流入し(回り込み磁束あるいは循環磁束と呼ばれる), BF 増大の原因となるとされる。V 脚中幅方向位置の異なる 3 ケ所 で測定した磁束密度波形を Fig. 9 に示す。左右の測定点では正弦 波から大きく歪んでいる。この波形歪は主として V 脚への磁束の 回り込みに起因すると考えられる。この T 接合部を囲む 3 辺にお ける BL波形の歪率(基本波成分に対する高調波成分の実効値比率) を Fig. 10 に示す。BL波形歪率は各辺の幅中央では小さく,側部 では大きい。この磁束波形の歪に起因する鉄損増加率 D を,探針 法によって測定した電圧波形率(実効値/平均値の比率)k を用い て次式で評価する。 D {h e(k / 1.11)2} / 100 · · · (3) ここで,h,e は鉄損におけるヒステリシス損と渦電流損の百分率 であり,それぞれ40%,60% と仮定した。1.7 T,50 Hz における鉄 損増加率 D の各辺における平均値は,U 相 1.27,V 相 1.30,W 相 1.24 であった。この U,W 相相当の鉄損増加がヨーク部に,V 相 相当の鉄損増加が V 全体に,それぞれ均一に発生していると仮定 すると,1.7 T,50 Hz における磁束波形歪起因の鉄損増加率は約 15% であると計算される。 この値は回り込み磁束の分布状態を考慮していないが,鉄損増加 に及ぼす磁束波形歪の影響は,回転磁束の影響よりもはるかに大き いと推測される。両方の影響を同時に考慮すると,BF として約 1.2 の値を得る。この値は,1.2∼1.3 程度の実測の BF に近い2,19)。4 数値解析による積鉄心局所磁気特性の予測
上述のモデル鉄心およびシミュレーションモデルなどによる局所 磁気特性の実験的評価方法とともに,数値計算による磁界解析もま た機器特性予測の上で有用である。現在のところ,鉄心材料のヒス テリシス損や磁気異方性を正確に数値計算に反映させることは開発 途上の段階にあるが,鉄心材料や鉄心構造による傾向を精度よく表 現できる点で,実験的方法と相補的関係にあるといえる。本項にお いては,積分要素法20)を用いた磁束密度分布および磁束密度波形の 解析結果を示す14)。 以下の 3 相積鉄心の解析においては,Fig. 11 に示すメッシュ構 成を用い,30RGH(板厚 0.30 mm)と 30NewRGH(板厚 0.30 mm) の 2 種類の材料の磁化曲線 (B - H ) データを使用した。励磁条件と しては,各脚の中央部における圧延方向(長手方向)の磁束波形を 正弦波とすることを前提とした。 V 脚とヨーク間の接合部近傍における磁束密度ベクトルの軌跡を Fig. 12 に示す。V 脚およびヨークの内部では磁束密度はほぼ圧延 方向成分のみをもつのに対し,V 脚とヨークとの接合部の近傍では 圧延直角方向成分が発生し,回転磁束を生じることがよく再現され ている。同一箇所における磁束密度の圧延直角方向成分を比較する と,RGH の方が NewRGH よりも大きい値を示す。これは,圧延直 角方向の透磁率が NewRGH よりも RGH の方が大きいことに起因 2T 2TFig. 7 Distribution of flux density loci measured in the T-joint simulation model Iron loss (W/kg) 2.0 1.8 1.7 1.6 1.5 1.4 1.2 1.0 0.0
Fig. 8 Estimated rotation iron loss distribution in the T-joint part
Time, t (ms) f e d 0 5 10 15 20 d e f
Local flux density,
BL (T) 2.0 1.0 0.0 1.0 2.0
すると考えられる。 各要素における磁束波形を Fig. 13 に示す。どの箇所でも磁束波 形は正弦波から歪んでおり,台形波に近い形状を示すことが分かる。 この現象は,前記の回り込み磁束の発生を反映したものであると解 釈される。RGH と NewRGH とを比較すると,NewRGH の方がよ り台形波に近く,波形の歪が大きい。これは,NewRGH の方が圧 延方向の透磁率と圧延直角方向の透磁率との比が大きく,回り込み 磁束の影響がより強く現れるためであると考えられる。 上述の要因を同時に考慮して,鉄心全体の鉄損を計算した。まず 各要素の圧延方向および圧延直角方向の鉄損成分を式 (4),(5) によ ってそれぞれ計算し,その和 (6) を要素の全鉄損とした。さらに各 要素の体積で重み付けした加重平均を求め,鉄心全体の鉄損とした。 WL W(BL)
h e k 2 / 100 · · · (4) 1.11 WC W(BC)h e k 2 / 100 · · · (5) 1.11 Wtotal WL WC· · · (6) ここで,W(BL),W(BC) はあらかじめ交番磁界下で求めた最大磁束 密度 鉄損曲線から求めた鉄損値である。また,ヒステリシス損 比率 h と渦電流損比率 e は,ともに 50% 一定と仮定した。k は, 磁束密度微分波形 dB/dt に相当する 2 次電圧波形の波形率である。 この方法によって鉄心全体の鉄損から BF を計算した結果,とも に 1.4 の値を得た。実測においては,RGH と NewRGH の BF は同 程度,もしくは NewRGH の方がやや大きな値を示すことが報告さ れており19),相対的には妥当な結果と言える。この値は T 接合部シ ミュレーションモデルによる値より大きいが,それぞれの評価方法 の前提条件・精度に由来するものと考えられる。 このように,少数の要素分割を用いた積分要素法でも相対的には 妥当な結果が得られたことは,3 相積鉄心の鉄損評価におけるこの 方法の有効性を示していると考えられる。ただし,方向性電磁鋼板 における磁気異方性(圧延方向から55° 付近に磁化困難軸が存在す る)や,回転磁束下での鉄損の挙動などを正確に計算に反映するこ とは今後の課題である21)。5 3 相積変圧器鉄心における騒音の局所解析
積変圧器においては,鉄損・励磁特性などの磁気的性能に優れる こととともに,鉄心から発生する騒音が小さいことが重視される3,4)。 3 相積鉄心における騒音と鉄心材料の磁気特性との関係について は,すでに多くの知見があるが,鉄心における騒音の発生機構につ いては十分明確になっているとは言いがたい。このような騒音発生 機構に関する新たな知見を得るために,鉄心各部における局所的な 振動分布や鉄心近傍の騒音を解析した例を以下に述べる。5.1 振動・騒音の局所測定の方法
鉄 心 全 体 の 騒 音 は , コ ン デ ン サ マ イ ク ロ フ ォ ン を 各 脚 直 上 300 mm の位置に設置し,JIS 規定の A スケール補正回路を用いた 精密騒音計によって測定し22),エネルギー平均を測定値として用い Bx ( T ) Rolling direction 2 1.0 0 1 2 By (T) 2 1 0 1 2 Bx ( T ) Rolling direction 2 1.0 0 1 2 By (T) 2 1 0 1 2 Bx ( T ) Rolling direction 2 1.0 0 1 2 By (T) 2 1 0 1 2 Bx ( T ) Rolling direction New RGH RGH 2 1.0 0 1 2 By (T) 2 1 0 1 2 Bx ( T ) Rolling direction 2 1.0 0 1 2 By (T) 2 1 0 1 2 Bx ( T ) Rolling direction 2 1.0 0 1 2 By (T) 2 1 0 1 2Fig. 12 Loci of rotational flux density around T-joint part of 3-phase stacked core
y//Rolling direction
x//Rolling direction
75 mm
y x
Fig. 11 Mesh structure of analysis model for stacked 3-phase transformer core
Acceleration level 75 70 65 60 dB Conventional lap joint
New RGH RGH Step-lap joint New RGH RGH
Fig. 14 Distribution of normal vibration acceleration level mea-sured in the surface of a 3-phase stacked core using 0.30 mm thick material た。測定時の暗騒音レベルは最大 31 dB であった。また,ヨーク表 面の漏洩磁界はホール素子を使用したガウスメータを用いて検出し た。騒音調波成分は磁歪信号出力をスペクトルアナライザにより周 波数解析して求めた。鉄心に締め付け力を与える場合には,バネの 伸縮によってヨーク部に一様な面圧を印加できる機構を設置し,最 大 0.2 MPa の締め付け圧を印加した。
5.2 3 相積鉄心ヨークにおける振動の分布
16,17) 1.7 T,50 Hz で励磁した無加圧状態の 3 相積鉄心ヨーク部におけ る面垂直方向の振動加速度レベルの分布を Fig. 14 に示す。試料は 板厚 0.30 mm の 30RGH と 30NewRGH を用いた。振動加速度レベ ルは鉄心の接合部分近傍で増大する傾向があり,接合部分間の振動 が小さい部分と比較すると 10 dB 程度大きい。鉄心材料間で比較す ると,全体に NewRGH の方が RGH よりも振動加速度が小さいが, その差異はステップラップ接合の場合に明確に現れる。 1.7 T,50 Hz で励磁した無加圧状態の 3 相積鉄心ヨークエッジ部 における面垂直方向の音圧調波成分の分布を Fig. 15 に示す。試料 は 30NewRGH を用いた。300∼400 Hz の成分はヨーク長手方向に ほぼ一様に広がっているが,1 600 Hz の成分はヨーク両端 (A, E) と 中央部 (C) の接合箇所,2 000 Hz の成分はヨーク中央部 (C) の接合 箇所の近傍に強く現れている。人間の聴覚がより敏感となる数 100 ∼2 000 Hz の成分は,主として鉄心接合箇所から発生している。 30NewRGH をステップラップ接合により積層し,1.7 T,50 Hz で励磁した 3 相積鉄心ヨーク部における漏洩磁界の分布を Fig. 16 に示す。明らかに鉄心接合箇所に沿って磁界が漏洩しており,Fig. 14 の振動加速度レベルおよび Fig. 15 の音圧調波成分の分布とよく 一致していることが分かる。漏洩磁界は接合箇所近傍に発生した磁 極による磁界が鉄心外部に漏洩したものと見られるため,鉄心を加 圧しない状態においては,接合箇所に発生した磁極間の磁気的吸引 力の周期的変化による振動が鉄心から発生する騒音に強く影響して いることが示唆される。 Time (s) Rolling direction 0 0.001 0.02 BL (T) 2 1 0 1 2 Time (s) Rolling direction 0 0.001 0.02 BL (T) 2 1 0 1 2 Time (s) Rolling direction 0 0.001 0.02 BL (T) 2 1 0 1 2 Time (s) Rolling direction 0 0.001 0.02 BL (T) 2 1 0 1 2 Time (s) Rolling direction 0 0.001 0.02 BL (T) 2 1 0 1 2 Time (s) Rolling direction 0 0.001 0.02 BL (T) 2 1 0 1 2 New RGH RGH Noise level (dB) 80 70 60 50 40 Position (mm) 0 100 200 300 400 500 600 700 Frequency (Hz) 2 000 1 800 1 600 1 400 1 200 1 000 800 600 400 200 A B C D EFig. 15 Distribution of noise level harmonic intensity measured in the slit side of the yoke part
Fig. 13 Flux density waveforms around T-joint part of 3-phase stacked core
5.3 磁束高調波重畳時における騒音の分布
1.7 T,50 Hz の基本波に 5 次および 7 次の磁束高調波を重畳した 励磁状態における 3 相積鉄心ヨークのエッジ部の騒音レベル(側面 から測定)分布を Fig. 17 に示す。鉄心材料には 30NewRGH を用 い,鉄心ヨーク部には 0.2 MPa の締め付け圧を加えた。重畳した磁 束高調波の位相差は 0° とし,最大磁束密度が増大する条件とした。 正弦波からなる基本波のみの場合にはヨーク両端 (A, E) と中央部 (C) の接合箇所に騒音レベルが 1 dB 程度増加した部分が見られる が,5 次調波重畳時には C の部分で騒音レベルが 2∼3 dB 増加し, 7 次調波重畳時には C の両側に騒音レベルが増加した部分が広がっ ている。このような現象は,高調波重畳によって接合箇所近傍に磁 束密度が集中し,磁歪振動強度が強くなったためと考えられる。6 おわりに
3 相積変圧器鉄心における磁気特性および振動・騒音レベルを局 所的に測定・評価する方法を開発した。この方法により鉄心材料と 鉄心構造がこれらの特性に及ぼす影響を調査し,以下の知見を得た。 ( 1 ) 探針法による3相積鉄心の局所磁気特性分布測定法を開発し, 鉄心接合箇所近傍における回転磁束と回り込み磁束の不均一分 布とそれによる局所鉄損分布の発生状況を定量的に明らかにし た。 ( 2 ) 3 相積鉄心 T 接合部シミュレーションモデルによる測定法を 開発し,回転磁束と回り込み磁束によるビルディングファクタ 増大の定量評価に適用した。 ( 3 ) 積分要素法を用いた磁界解析により,3 相積鉄心における回 転磁束,磁束波形歪みを鉄心材料に応じた再現と,ビルディン グファクタの評価が可能であることを明らかにした。 ( 4 ) 3 相積鉄心における振動と騒音レベルを局所的に測定し,鉄 心接合部近傍における振動・騒音の分布に及ぼす鉄心材料と鉄 心構造の影響を定量的に明らかにした。 Hx Hy Hz y z x 100 10 1 H (Oe)Fig. 16 Distribution of normal vibration acceleration level mea-sured in the surface of a 3-phase stacked core using 0.30 mm thick material 参 考 文 献 01) 資源エネルギー庁監修:「1999/2000 資源エネルギー年鑑」,(1999) 02) 電気学会省エネルギー機器用磁性材料調査専門委員会編:「省エネル ギー化機器用鉄心材料の現状と問題点」,電気学会技術報告,(II 部) 第 276 号,(1988) 03) 電気学会変圧器環境適合技術調査専門委員会編:「変圧器の環境適合 技術の現状とその動向」,電気学会技術報告,第 575 号,(1995) 04) 電気学会静止器騒音対策技術調査専門委員会編:「静止器の騒音対策 技術の現状とその動向」,電気学会技術報告,第 575 号,(1996) 05) 電気学会磁性材料常置専門委員会編:「けい素鋼板の進歩と使用上の 諸問題」,電気学会技術報告,(II 部)第 85 号,(1979)
06) B. Thomas: IEEE Trans. Magn., 11(1975), 65
07) B. Fukuda, K. Sato, Y. Shimizu, and Y. Ito: J. Appl. Phys., 55(1984), 2130
08) 佐々木 堂,今村正明,鈴木康之:電気学会研究会資料, MAG-83-54, (1983) 09) 山口俊尚,今村正明,千田邦浩,石田昌義,佐藤圭司,本田厚人, 山本孝明:電気学会論文誌 A, 115(1995), 50 10) 千田邦浩,石田昌義,佐藤圭司,小松原道郎,山口俊尚:電気学会 論文誌 A, 117(1997), 942 11) 千田邦浩,高宮俊人,石田昌義,小松原道郎:電気学会マグネティ ックス研究会資料,MAG-96-115,(1996) 12) 岡部誠司,石田昌義,黒沢光正: 電気学会マグネティックス研究会 資料,MAG-97-84,(1997) 13) 岡部誠司,石田昌義,黒沢光正:日本応用磁気学会誌,22(1998), 713 14) 定廣健一,志賀信勇,石田昌義:川崎製鉄技報,33(2001)3, 103 15) 石田昌義,佐藤圭司: 電気学会マグネティックス研究会資料,MAG-93-187,(1993) 16) 石田昌義,佐藤圭司,小松原道郎: 電気学会マグネティックス研究 会資料,MAG-95-20,(1995) 17) 石田昌義,岡部誠司,佐藤圭司:川崎製鉄技報,29(1997)3, 164 18) JIS C 2550,「電磁鋼帯試験方法」,(1996) 19) 小松原道郎,日名英司,中野 恒:川崎製鉄技報,29(1997)3, 177 20) (株)エルフ資料:「ELF/MAGIC ユーザーズガイド」 21) 高橋則雄:平成 9 年電気学会全国大会概要集,S19-5,(1997) 22) JIS C 1505,「精密騒音計」,(1988) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 A B C D E 7th superposed 1.7 T, 50Hz 5th superposed Sinusoidal Position Noise level (dB) Microphone Precision Sound level meter
Alternate lap; clamping pressure 0.2 MPa 75 70 65 60 55 50 A B C D E
Fig. 17 Distribution of local noise level measured in a stacked core using 30RG