平成 26 年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業
産後の早期訪問でママに安心をプラス事業
報告書
特定非営利活動法人
東京コミュニティミッドワイフ活動推進協議会
目 次
はじめに
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事業概要
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1.目的
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2.事業の実施体制及び経過
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3.事業内容
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事業の実施状況
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1.利用者数
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2.質問紙による調査
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早期訪問事業に参加した助産師の感想と評価
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産後のケアの必要性
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今後の課題
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参考資料
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1はじめに
「産後の早期訪問でママに安心をプラス事業」は、平成 26 年度独立行政福祉医療機
構助成(地域連携活動支援事業)に採択され、特定非営利活動法人東京コミュニティ
ミッドワイフ活動推進協議会が実施したものです。
当法人は平成 20 年 3 月に地域で活動する助産師たちが「地域における子育て支援」
「妊娠・出産から育児に至るまでのトータルケア」「リプロダクティブヘルスの推進」「助産
師活動の活発化」などを大きな柱に練馬区を拠点に活動を続けてきました。同年 12 月
には、日 本 で初 めて特 定 非 営 利 活 動 法 人 が開 設 者 となって助 産 所 として届 け出 し、
『助産所ねりじょはうす Luna』は助産師によるケアを特色とし、地域の子育て支援、女性
とその家族の健康を守るために活動をしています。
産後まもない時期の育児不安、産後うつを予防することは虐待予防につながると考え
られています。また母乳育児、授乳によるホルモン分泌に関連した生理的反応は母子
の愛着形成につながります。練馬区では虐待予防のために 2007 年度から生後 4 か月
までの乳児がいるすべての家庭を訪問する全戸家庭訪問事業(こんにちは赤ちゃん事
業)が始まっていますが生後 28 日未満に訪問しているケースは、全体の 1 割にとどまっ
ているのが現状です。母親の不安のピークは産後 1 ヶ月前後と言われていますが、その
時期に必要な支援がされにくい状況があります。
当法人では平成 23 年度に「助産師といっしょ…産後デイサービス事業」を行いました。
退院直後にデイサービスを利用することで母親が「お母さん」になるための知識・技術を
習得し、そのプロセスを助産師が支えることで虐待のきっかけとなりうる育児不安を軽減
できたと考えます。しかし、産後まもない母子が家から出ることはそれなりに負担があるこ
と、生活する場での支援を望む声も多く聞かれました。家庭での助産師による具体的な
支援が母親の安心を導き、子どもとのよい関係を築いていくための土台作りを助け虐待
防止につながると考えます。そこで、今回は、安心して子育てをスタートすることを目的
に「お母さんになる過程の支援をするために産後 1 か月未満の母子を対象に助産師が
早期訪問」を実施する事業を行いました。
本報告書は「産後の早期訪問でママに安心をプラス事業」で行った内容と成果をまと
めたものです。多くの地域で参考にしていただければ幸いです。
3事業概要
1.目的
最近、出産できる施設の減少などもあり、産後4日目で医療機関から母子は退院となる。医 学的には問題はないかもしれないが、産後の疲労、慣れない育児に母親は心身ともに疲弊し ている。母親は産んですぐに「お母さん」になれるわけではない。育児を通じ、赤ちゃんとの相 互関係を築いていくことで「お母さん」になっていくのであり、その大変な時期を支えるサービス は当地域には現在はまだない状況である。 また少子化により、乳幼児に接する機会がないまま、初めて自分の子どもをもって子育ての 難しさに直面する女性が増えている。さらに、核家族化が進み、産後の世話や子育てを家族の 支援だけで担うのは難しくなってきている。頼りにしたい祖父母も高齢であり、育児方法の違い から衝突が生じ、双方にとってストレスになることもある。 一方、育児に関する書籍、雑誌、インターネットによる情報は簡単に手に入るが、それらは個 別に対応されるものではなくかえって母親の不安をあおるものとなっている。 そのような状況のもと、周囲から孤立し不安をかかえたままの育児は、母親をさらに追いつめ、 マタニティブルーから産後うつの発症、児童虐待の一因になることが指摘されている。 そのため、自宅へ産褥早期に助産師が訪問し、母親が「お母さん」になるためのより実践的 な知識や技術を伝え、母親によりそい「お母さん」になるプロセスを支えることを目的とした訪問 事業を行った。 出産できる病院の減少 早期退院傾向 親も高齢 孤独で不安な子育て 氾濫するネット情報 気軽に相談できる 場所、人材の不足 産後うつ 虐待 安 心 して子 どもを 産 み 育てられない社会 妊娠・出産をする 女性の減少 52.事業の実施体制および経過
事業を訪問希望者のニーズに応え、内容を充実したものにするために、実行委員会を設置 した。公益社団法人東京都助産師会練馬地区分会と連携し、実行委員会、実際の訪問事業 へ参加を依頼した。 毎月 1 回、実行委員会を開催、事業実施に向けての計画、訪問マニュアル作成、事業評価 のための質問紙内容の検討を行った。また訪問事業が開始されてからは訪問ケースの事例検 討を行い、情報共有行った。 練馬区内保 健相談所、近隣の病産院、助産所にはチラシを持参し事業目的を伝え、退院 後にケアの必要な母親に訪問利用をすすめてもらうなど地域の連携をはかった。3.事業内容
今回の事業では訪問対象者を産後 1 か月未満の母子とした。訪問可能な練馬区、練馬区 近隣在住者、里帰りしている方への訪問を行った。訪問でのケアの内容は ・母 乳 分 泌 状 況 の確 認 、乳 房 ケア、母 乳 育 児 に関 する保 健 指 導 ・児 の発 育 状 況 の確 認 ・沐 浴 などを母 親 と一 緒 に行 うなど、育 児 技 術 習 得 のための援 助 ・不 安 、疑 問 への対 応 であり、対 象 者 の特 性 を知 るために質 問 紙 による調 査 を行 った。 これまでの 研 究 で育 児 にまつわる否 定 的 、 消 極 的 な 意識は、育児そのものや子どもた ちに対する否定的感情ではなく、母親が育児を中心とした自己の生活にどの程度の肯定的 感情をもっているかということにも関係があると報告されている。今回は島田らの「育児生活 肯定感尺度」を指標として使用することにした。訪問時、訪問後の変化を測定するために 2 回、調査を行った。2 回目は 1 ヶ月健診が終わったころを目安に郵送を依頼した。 訪 問 利 用 料 は2,000円 とした。事業の実施状況
1.利用者数
135 名のべ 206 回の訪問を行った。利用者の年齢は 22 歳から 43 歳まで、平均 33.6 歳で あった。30 歳未満が 15 人(11%)、30 歳以上 35 歳未満 59 人(44%)、35 歳以上 40 歳未満 43 人(32%)、40 歳以上が 18 人(13%)であった。初産婦 107(79.3%)、経産婦 28 人(20.7%) と圧倒的に初産婦の利用が多かった(図1)。 6図 1 訪問利用者の年齢 訪問依頼を受け、訪問までに要した日数は当日、翌日で 75%を占めていた。訪問依頼者の 年齢と訪問回数、訪問依頼日(出産後何日目で訪問を依頼したか)と訪問回数には特に関係 はみられなかった。訪問依頼から訪問までの日数が 1 週間以上の 4 件の訪問については依頼 者の希望の日程であった(図 2)。 図 2 訪問依頼から訪問までの日数 15人 11% 59人 44% 43人 32% 18人13% 30歳未満 30から35未満 35から40未満 40以上 23人22.0% 39人37.1% 23人22.0% 16人15.1% 4人3.8% 当日 翌日 翌々日 1週間以内 1週間以上 7
訪問回数は 1 回が 87 人(64.4%)、2 回が 33 人(24.4%)、3 回 9 人(6.7%)、4 回 4 人 (3.0%)、5 回 2 人(1.5%)であった。30 歳未満の人は訪問依頼の数は少ないが、2 回目率は 46.7%であり、30 から 35 歳未満 25.4%、35 歳から 40 歳未満 18.6%、40 歳以上 16.7%と他の年 齢層より高いことがわかる。また出産後 5 日以内、つまり退院してすぐより 5 日過ぎると確実に 2 回 目以上の訪問希望が多くなっていた(図 3.4)。 図 3 訪問依頼者の年齢と訪問回数 図 4 訪問依頼日と訪問回数
2.質問紙による調査
訪問時の質問紙調査は早産で児が入院中など、質問紙を依頼する状況ではないと助産師 が判断した以外の 120 人から回答を得た。訪問後のアンケートについては 65 名から回答を得 た(回収率 54.2%)。 質 問 紙 は育 児 生 活 肯 定 感 尺 度を用 いた。育 児 生 活 肯 定 感 尺 度は「親 としての自 信(5 項 目)」「自己肯定感(7 項目)」「生活適応(5 項目)」「夫のサポートに対する認識(2 項目)」の 4 因子 19 項目から構成される 5 段階のリッカート尺度であり、肯定感情が高いほど得点も高くな るように構成されている。 年齢別にみた各因子の得点は表1のとおりである。年齢による差はほとんど見られなかった が、40 歳以上の母親は他の年齢層に比べると「親としての自信」得点は高いが、「自己肯 定感」得点の差はない。また各因子の得点は「夫のサポートに対する認識」以外は高くない。 30歳未満 30歳以上 35未満 35歳以上 40未満 40歳以上 5回 0 1 1 0 4回 0 2 0 2 3回 2 2 4 1 2回 7 15 8 3 1回 6 39 30 12 0% 20% 40% 60% 80% 100% 出産後 5日以 内 10日以 内 2週間 以内 3週間 以内 それ以 上 5回 1 1 0 0 0 4回 2 2 0 0 0 3回 2 2 2 0 3 2回 4 12 8 6 3 1回 10 11 16 25 25 0% 20% 40% 60% 80% 100% 8訪問依頼日別に各因子の得点にも大きな差はみられなかった。訪問後、1 か月健診を目安に質 問紙による回答を依頼した。結果は訪問時とあまり変化はみられなかった。「生活適応」がわず かに低下していた。 表 1 年齢別にみた各因子の得点 年齢 親としての自信 自己肯定感 生活適応 夫のサポート に対する認識 全体の点数 30 歳未満 12.9 21.3 14.3 8.4 56.9 30 から 35 未満 14.3 21.4 14.4 8.3 58.4 35 から 40 未満 13.4 22 14.4 8.6 58.4 40 以上 15.8 21 14.8 8 59.7 親としての自信 自己肯定感 生活適応 夫に対する認識 全体の点数 30歳未満 30から35未満 35から40未満 40以上 親としての自信 自己肯定感 生活適応 夫に対する認識 全体の点数 出産後5日以内 10日以内 2週間以内 3週間以内 それ以上 図5 年齢別育児生活肯定感情 図6 訪問依頼日別育児生活肯定感情 9
産後間もない母親が記述した内容は「自分自身の状況」と「助産師の対応」に大きく分けるこ とができ、「自分自身の状況」は「身体的」「精神的」「環境」に分類できた。「助産師の対応」は 「対応」「気持ちによりそう」「自分の力に気付く」「肯定的な関わり」「専門的なケア」に分類した。 カッコ内は語られた数である。 表 2 自分自身(母親)の状況 分類 記述の内容 身体的 (1) 乳房が張りすぎてつらかった 精神的 (17) 退院して経験する不安、困りごと、疑問がいっぱい、試行錯誤(5) 新生児期の育児は孤独、何が正しいかわからず不安も多い まったく何もわからず不安だらけで退院 家にこもりがちで自由にならない生活がストレスになっていた(3) すぐに相談できる知り合いもいない 母乳の出が悪いと思っていてすべてがうまくいかないような気分になっていた 1 か月健診までは不安な状態で過ごすしかないと思っていた(2) 入院中に看護師に言われたことがプレッシャーになり子育てが不安になっていた 環境 (6) 頼れる人が近くにいない 退院してから疑問があっても聞く相手がいなかった(2) もっとサポートがほしい 両親におっぱい足りてる?と言われてうつうつとしていた(2) 親としての自信 自己肯定感 生活適応 夫に対する認識 全体の点数 訪問時 1か月健診以降 図 7 訪問前後による育児生活肯定感情 10
表3 助産師の対応 分類 対応 (16) すぐに助産師が来てくれた(9) 翌日に来てくれて不安を解消できた 自宅にきてもらい安心できた(2) 退院後すぐの訪問で育児のスタートがスムーズだった 産後すぐにきてもらったのでミルクをたさずに済むようになった 継続的にきてもらうことで母乳育児に自信がもてた 継続的に来てもらい悩み、問題が少しずつ解決していった 気持ちによりそう 親身になって話を聞いてくれ気持ちも体もホッと楽になった (24) 家の中で話す人もなく孤独感をすごく感じていた時期だったので心から救われた 不安なこと、疑問に思うことも答えてもらえてすっきりした いろいろ話を聞いてもらって安心した、スッキリした(10) 励まされたり話を聞いてもらえてありがたかった 母乳 育児に追いつめられているときの訪問は、そのことを理解してもらえるだけ でありがたかった 乳房ケアを受け母乳分泌もよく児の体重も増えていることを一緒に喜んでくれた 身体だけでなく気持ちも楽になった 小さなこと、いろいろな相談にのってもらい安心できた(7) 自分の力に気付く 不安に思っていたことに大丈夫ですよと言ってもらえたことで、すごく安心できた (7) 不安が解消されて子育てって楽しい、子どもがかわいいなと思えるようになった 困 ったら助 けてもらえると思 うだけで気 持 ちが楽 になり子 どもとの接 し方 も穏 や かになった 疑問点を聞くことができ不安なく育児に取り組む気持ちになった 他のママや赤ちゃんのようすも知ることができ、自分のやり方にも自信がもてた 経験談、よくある話など教えてもらい共感・確認できたり役にたった 気持ちの余裕がもてた 肯定的な関わり 子どもの特性をきちんとみて対応してくれたことが感じられ嬉しかった (8) 私だけでなく母にもしっかり「大丈夫ですよ」と伝えてくれて安心できてよかった あたたかい言葉で励ましてくださり本 当 に苦しかったとき、大きなサポートになっ た。育児の支えを得たようでうれしかった 自分を肯定してもらえたようでうれしかった この子なりに大きくなっていけばいいということを教えてもらった アドバイスをもらい、育児、こうするといいのかな、と前向きに感じることができた 悩みはつきないけれど、赤ちゃんと自分にとっても合うような育児をしていきたい 救われた気持ち 専門的なケア 具体的なアドバイスで授乳が楽になった (13) 乳房マッサージで胸の張りが楽になり、気持ちも楽になった(5) 乳房ケアを受け、授乳についての自信もついた(3) ケアをうけて母乳の出が悪くストレスに感じていたことが解消された 母乳ケアをしてもらい楽になり、育児が楽しくなった 乳房ケアは気持ちがよかった プロにアドバイスしてもらうことで気持ちが楽になった 11
早期訪問事業に参加した助産師の感想と評価
練馬区には「こんにちは赤ちゃん訪問事業」として、生後5か月未満の乳児のいる家庭を全戸訪問す る行政サービスがあるが、新生児期(生後1ヶ月未満)に訪問することは少ない。今回この事業にどれ ほどの利用者があるか不安もあったが、実際には 8 か月でのべ 200 人を超える利用があり、ニーズの 多さに驚いた。産後の訪問は、通常の助産師ケアとしてもやってはいるが、一般的に1回 6,000 円以 上するので、乳腺炎などよほどの人でないと利用しない。今回、助成金事業として 2,000 円で訪問が 受けられる・・ということで“ちょっとした不安”での利用者も多かった。 “ちょっとした不安”でも積もり積もれば大きな不安になる。病産院を退院すると、自分で赤ちゃん を守りお世話しないといけない重圧、ちょっとした不安を相談できる人が近くにいない環境、赤ちゃん を連れて気軽に外出できない状況など母親は不安と孤独を感じやすい。今回の訪問事業を利用していた だいた方々からは、不安が軽減した、救われたという感想を多くいただき、訪問してよかったと嬉しく 感じた。一方で、このSOSすら出せない人はどこで救われるのか、気にかかる。利用者の中にも“知 らない人を家に入れるのは不安”“連絡するのに勇気がいる”といった壁を乗り越えて連絡してきてくれ た方がいて、必要としている人が気軽に利用できるような地域の助産師としてのあり方を、保健所や病 産院とも連携して考えていかなくてはならないと強く感じた。 産後早期の訪問は“すぐに来てほしい”という切迫した依頼も多い。今回、地域の助産師が一丸とな って協力したことで、7割近くが依頼のあった当日もしくは翌日までに訪問することができた。また、 気になるケースや対応が難しかったケースなどは、みんなで振り返りを行うことで、別の視点でみるこ とができたり、自分の足りなかった部分に気づけたりなど、いい学びとなった。リピート利用も多かっ たので、前回の訪問で利用者がどう変化したのかとか、自分の伝えたいことがちゃんと伝わっていたの かなど、ケアの確認・評価ができたのもこの事業だからこその収穫であった。 今後も産後ケアは続けていくが、利用しやすい料金設定やシステム作り、関わる助産師のスキルアッ プ、助産師同士の協力、保健所や病産院との連携など様々な課題を乗り越え、一人でも多くの母親が“一 人じゃない”という安心感をもって子育てできるよう関わっていきたい。 病院勤務をしていたころから退院した後の母子を心配していました。お産後退院されるまで数日とい う短い間に、帰ってからの赤ちゃんのお世話のことや母親自身の体のことを伝えることは必要最低限に 留まるからです。特に母乳育児のことは乳房の状態から母乳育児を軌道に乗せる状況にはない時期に退 院となるので帰った後の母乳相談は多くの母親に必要になるのではないかと感じていました。ねりじょ はうすLunaスタッフになり地域で母子支援に関わるようになってから、まさに自分が心配していた 退院して間もない母親からのSOSが多くあることを知り、このような母親をサポートしていける地域 12に根付いた助産師であり続けさらに深められたらとの思いでおります。 今回の助成金での早期訪問は実際生活されているご自宅での母子支援でした。家庭の雰囲気やご家族 の様子など母親を取り巻く背景も含め支援できるよさがあります。実際、普段使っている椅子やソファ での授乳の様子、家庭の中での赤ちゃんの扱われ方など実際の場面で母親に寄り添った支援を提供でき ることは自宅での母子支援を行うことでの大きなメリットだと思います。 そして支援に伺った後“退院して間もないこの時期”“今”助産師支援を頼ってくれて本当によかったな と感じることが多くありました。お会いしたての母親の表情は硬くくもり、児への扱いも不慣れなのに 加え緊張感からか柔らかく抱きかかえるといった動きが感じられず児もそれを感じ取ってかグズグズと 落ち着きなく啼泣を繰り返す様子があります。そんな母親が支援を受けることなくこのまま育児をする としたら、どうなることでしょうか。考えただけでも悲しいことが予想されます。退院しできるだけ早 い段階で依頼を受け支援していける体制が母親にとっても私たち助産師にとっても求められていた支援 だと強く感じました。 この事業を始めることで近隣の病院や区内保健相談所などへ案内チラシを掲示、配布したことで妊娠時 期から案内でき産後すぐ頼れる先があるということは大きな安心感にもつながっていたかと思います。 そして何より助産師支援を受けたいと思う母親が料金的に負担がないということはとても大きな支援に なったのではないかと思います。分娩費用で負担を負っているにも関わらずその後にまた金銭的な負担 を考えると助産師支援を受けたいとの希望はあっても躊躇してしまうのではとの心配が残りました。実 際 2000 円ほどの訪問ならまた受けたいとのアンケート結果が多くありました。今後もこのようにニ ーズも高い早期の助産師支援を提供できるよう活動を続けていきたいです。また同時に母親ができるだ け負担なく助産師支援を受けられるよう今後の手だてを見つけていく必要があります。 大きな不安心配を抱えて退院しその不安心配が解消されないまま育児をスタートされている母親が多く いることを改めて知る機会となりました。お産後安心して地域で子育てスタートできるよう地域の頼れ る助産師となれるようこれからも邁進していきたいです。 今回、この早期訪問事業を行って、需要の高さを実感しました。 訪問の依頼は早ければ、出産の為の入院中に“明日、退院なので、その直後に来てほしい”といったこ とも何度かありました。多くは授乳に関する依頼でした。 正常分娩の場合、現在、多くの病院では、入院期間が4~5日間です。 その期間では育児技術、特に授乳に関しては、抱き方、吸わせ方が十分獲得出来ない、乳汁分泌が増加 途中である、それゆえに退院後の授乳の方向性がはっきりみえない、どのくらい母乳を飲んでいるのか がわからない、ミルクをどのくらい足せば良いのかがわからない、張りが強くてどう対処して良いかわ からない、など様々です。 13
依頼を受けて、私たち助産師が訪問し、毎日の育児に関しての労をねぎらい、認め、方向性を提示し ました。それにより、訪問時と訪問を終了した時の依頼者の表情の違いは明らかで、早期訪問の手応え を感じるものでもありました。 生後1ヶ月前後の訪問後のアンケートの自由記載欄では多くの方が肯定的な評価をして下さっていま す。それはこの事業の必要性を感じるものでもあります。 中には“自分から依頼の電話をするのは勇気がいるので、自動的に来てくれると嬉しい”というご意 見もありました。 また、料金については、助産師が自宅に訪問して行う事業に関しては、“いくらでも、という気持ちで はあるが、低料金であれば助かる”という意見が大半でした。 これらの意見から、今後、妊娠、出産、育児を控えている女性が、安心してそれに臨めるような環境 が必須だと思われます。できれば、行政とタイアップしていけると良いと思っています。 最後に・・・助産師として、女性たちと、そのご家族を地域で支えていく存在でありたいと考えてい ます。 ほとんどの女性たちは出産で傷ついた身体の不調と母乳育児の困難さに苦しみ、上手くいかない・で きない自分を責め、不安だと涙を流していた。夫や祖父母に「大丈夫」と言われても、慰めにならない という。 そんなとき私たち助産師が訪問し、まずは出産と入院中の出来事を傾聴し、そして今、具体的に困っ ていることを訊ね、乳房や身体の一部に直接手を添えてケアをする。最後に「あなたのおっぱいはこう だから、こんなふうにやるといいのよ」「あなたの赤ちゃんはこうだから、今泣いている理由はこういう ことですよ」と、目の前の女性と赤ちゃんに向けた個別のメッセージを伝えると、たいていは安心する。 出産時の年齢が高く医療介入が多い現代の出産は、女性が出産時に受けた心身のダメージが大きく、 病院から自宅に退院しても自らの生理的欲求を満たすこともままならない状態である。そのため、新生 児の欲求に応じることができないのは客観的みて致し方ない。これまで病気などしたことがないであろ う女性が初めて遭遇する身体的な苦痛に耐え、子育てという役割を十分に果たすことができないことで 生じる自責の念にかられる状態から、できるだけ早く解放されるには、助産師として何ができるだろう か。 今回の早期訪問事業では、身体の回復には時間の経過が必要であるが、心の回復には出産やその後の 大変さを具体的に理解できる私たち助産師の傾聴する姿勢が大いに役立つということがわかった。たっ た一回の傾聴で安心し、身体的苦痛を抱えながらも目の前の新生児の世話に積極的にあたることができ る女性もいれば、その時は良くても一人になると不安が再燃し、また訪問を繰り返し、そのうち身体の 回復とともに育児が軌道に乗る女性もいる。中には 24 時間継続的にそばにいて、必要なときにいつで 14
も話を聞く場が必要と思われるほど重症の女性もいる。 ケース検討など助産師間の情報交換する機会が定期的に設けられたことは、助産師ケアの効果について 評価し、個々の助産師の知識や技術の向上に役立つ貴重な機会であった。さらに、訪問ケースの評価全 体を取りまとめることで、早期訪問ケア事業そのものの全体像が明らかになり、地域における母子支援 対策の中で助産師の果たすべき役割と課題を見出すことができた。それは私たちが次の産後ケア入院事 業に取り組む原動力となり、今後も引き続き母子を地域で支えていきたい。 今回の早期訪問では、一か月までの退院後早期に家庭訪問したことで、①産後のママ達の退院後の現 状を知ることが出来た ②退院後早期に助産師が関わることで不安を軽減できることを知れた。の2点 が大きな学びです。 ①については、これまでも1か月未満の訪問依頼はありましたが、今回の事業の広告で、依頼件数は増 えました。そのことで、病院での4~5日間の入院期間は、出産からの体調の回復で精一杯ななか、退 院指導や調乳指導、面会への対応であわただしく終わり、十分休養をとれずに終わっており、退院後の 育児生活の準備が不十分な状況でした。「病院でもっとゆっくりしたかった」「あっという間に退院で、 その後の生活がイメージできずに終わった」という話も聞きました。病院入院中に、「退院後なるべく早 めに訪問に来てほしい」という電話依頼があったケースもありました。退院後1週間健診を設定してい る病院もありますが、病院に行くのも大変な様子で、助産師が訪問して経過フォローできたら通院の負 担もなく個別フォローも十分できるという効果を感じました。 ②については、とくに初産のママは、産後の手伝いや里帰りで実家の支援があっても、自分がやってい る育児で大丈夫なのか、具体的には「哺乳量は足りているのか?多すぎないか?」「母乳は出ているのだ ろうか?」「赤ちゃんが思ったより泣くし寝ない」「睡眠不足で大変」「自分の関わり方で大丈夫なのか自 信がない」などの不安を抱えていました。助産師が家庭訪問して退院後の家庭状況をふまえてアドバイ スしたり、一つ一つ丁寧に答えることでママの表情がやわらいだり、支えている家族も安心する場面が 多くありました。助産師という母子ケアの専門職が「大丈夫ですよ」と伝えたり、不安に感じているこ とに具体的にアドバイスすることで、不安が軽減できたのだと思います。また、一回の訪問で終わるケ ースもありましたが、3~4回訪問希望されたケースもあり、1週間~10日ごとに訪問してフォロー しました。「来週また助産師さんが来てくれると思うだけで心強かった」という発言もあり、不安が強い ママにとっては日々の育児の支えになっていたことを感じました。3~4回訪問したケースは、訪問回 数を重ねるごとに、不安が徐々に解消されたり、自分や家族で解決する能力が高まっていたり、赤ちゃ んへの声掛けや関わりに余裕が出ていたりと、ママ達の変化を助産師も知ることが出来ました。 今後の課題:①不安が強く、複数回フォローしたママは、「今回は 2,000 円の料金だったので利用しや すかった」という意見がありました。通常の訪問料金では頼りたくてもなかなか希望回数の利用は難し 15
かったようです。これについては、今後、自治体との連携を取るなどして、ママ達の負担を軽減できる ような対策の必要性を感じました。 ②地域で活動する助産師(マンパワー)の充実:退院早期の家庭訪問でのフォローの必要性や効果、そ こでの助産師の役割の重要性を感じましたが、対応できる助産師が地域にはまだ不足しています。また、 助産師の能力も高いものが求められます。今後は、地域で活動する助産師の育成や、産後早期のママ達 に対応できる助産師の育成も課題であると感じました。 今回の事業は「産後 1 か月未満で産院を退院したばかりの母親と新生児の助産師ケア」でした。産後 1か月未満は新生児と呼ばれ、ある程度特別な観察とケアが必要になります。母親の乳房や骨盤、子宮 の状態も未だ分娩時の損傷を引きずっている状態です。 また、産褥早期の母親は分娩時から、授乳期のホルモンレベルに急激に変化している段階ですので心 が不安定になりやすく、マタニティブルーから産後うつという精神疾患を発症しやすい時期であります。 母子の観察や保健指導を含む非常に専門性の高い助産師ケアとなります。場合によっては医療機関との 連携も必要になり、緊急の処置対応もありうるものです。実際に出産した病院に連絡をするようにアド バイスしたケース、受診が必要だったケースもありました。 不安の大きい産褥早期の母と新生児を対象に助成事業として利用者負担が少ない訪問ケアを行うこと ができました。産後早期に訪問することで子育ての不安を軽減することができ、虐待予防にもつながっ たと考えられます。産後ケアのひとつの方法として医療機関や行政との連携を図り、体制を整えていき たいと考えています。
産後のケアの必要性
子ども虐待における加害者の約半数は母親である。また虐待により死亡した子どもの年齢は 平成15年から報告されている「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」の第1次 報告から一貫して0歳児が多い。第10次報告(平成26年9月)では虐待により死亡した51人のう ち0歳が22人(43.1%)と最も多く、0歳児の虐待死に占める0日・0か月児の割合は4割、 0日・ 0か月児事例の中では日齢0日児が8割以上という結果が報告されている。 日齢 0 日児の加害の動機は「子どもの存在の拒否」が最も多かった。背景として実母の妊 娠期・周産期の問題 をとりあげているが、産後うつや育児不安などの母親の精神状 態 が子 ども虐 待 の 原 因 であることも明 らかになっている。「子ども虐待による死亡事例等の検証結 果等について」においても養育者のうつ状態や育児不安が指摘されている。 体調が戻らないまま育児・家事で疲労し、行き場のなくなった母親のストレスは子どもへの虐待 という形で家族に向けられるケースが多い。このような周産期医療の現状や社会的背景から産 後退院後からの母親への支援の重要度は高いといえる。虐待に至ってしまう前に、まずは小さ 16な育児不安の芽から摘み取っていき、虐待の発生を予防することが重要である。この時期の小 さな育児不安、育児ストレスを解消し、子育てを前向きに楽 しめるような子育て支援を行うことが大 切だと考える。 現在、行われている支援としては、出産した病産院での助産師による産後 2 週間健診など があるが全ての施設で標準的に行われているわけではない。国の事業としては、2007 年から 始まった「こんにちは赤ちゃん事業(乳児家庭全戸訪問事業)」がある。しかし、対象者は生後 4 ヶ月 までの新 生 児 ・乳 児 であり、退 院 直 後 の母 子 を対 象 にしているのではなく、実 施 率 も 100%に至ってはいない。 妊娠から出産、産後のサービスとケアの場所は図 8 のように変化していく。図からもわかるよ うに退院から 1 か月健診までに大きな空白部分がある。 今回の事業はこの空白を埋めて継続的な切れ目ないケアを提供することであった。実際の 訪問ケースは予想を上回る件数となり、ニーズがあることが明らかとなった。国の少子化対策 として「地域における切れ目ない妊娠・出産支援の強化」が提言されており、産後ケア施設が できはじめているが、施設で母子を収容できる人数は限られており、自宅への早期訪問ケア と合わせて幅広い選択 肢を用意できるとよいと考える。育児肯定 感情 尺度については訪問 回数、年齢による差は認められなかった。それは誰にでも産後早期にケアが必要であるとい うことだともいえる。 継続的な訪問によるケアでは 1 回目に伝えられたことを、自分で少しの間やってみる。 少しの間やってみることで自分の自信にもなり工夫もできていた。そして、わからないこ と、うまくいかなかったことを次の訪問で聞けば大丈夫という母親の安心感につながって いた。また、訪問する助産師が情報を共有することで電話による相談、訪問助産師がかわ っても同じ姿勢での対応ができたことは母親の安心を大きくしたと考える。 今回は 1 か月未満の母子を対象におこなった。産後早期から利用できた人は継続的に支 援を求めることができた。もちろん1か月以上の母子へも訪問は可能であるが、費用の面 で利用することは少ない。また家から出ることができる時期になるため、訪問ではなく来 所することを勧め、気分転換、地域とのつながりをつくるようにも働きかけている。 今回、質問紙調査の自由記述をみると母親たちは自分の身体的な状況については「乳房 が張ってつらい」という記述が 1 件あったのみである。産後の疲労、マイナートラブルなどかか え体調も不十分な中、子どものことを第一に考え心配をしている姿が見えてくる。母親の状況 に関する訴えとしては精神的なのが多く、そのため助産師が訪問で気持ちによりそった対応 を行ったことがとても効果的であった。また、乳房ケアなどの専門的なケアに対する評価が高 く、助産師による産後早期の訪問は効果的であった。 助産師の訪問により育児不安の相談、育児技術を教わること、乳房ケアや授乳の方法の 17
アドバイスを受けることで授乳がうまくいくことで安心できる環境ができあがる。今回、複数回、 訪問したケースでは授乳に関する心配事が共通していた。 家 庭訪 問による助 産 師 のような専門 職の支 援 は家 庭 内の環 境における生活や育 児の状 況を具体的 に把握することができるため、母親にとってはこれまで培ってきた生活環境に合 った支援を受けることができる。また、不安の大きな部分をしめる、母乳、授乳について相談、 身体的なケアを受けることで身体が楽になり、精神的にも楽になることが記述内容 から判 断 できる。 出典:乳幼児期の健康診査と保健指導に関する標準的な考え方 平成 25 年度厚生労働科学研究 図 8 妊娠・出産・産後のサービスとケアの場所
今後の課題
少子化対策の中で、産後ケア施設の整備の方針が打ち出され、厚生労働省は 2014 年度 予算に“地域における切れ目ない妊娠・出産支援強化”の中で産後ケア事業を設けている。産 後ケアの重要性は認知されている。また、自治体においても 2013 年 10 月から産後母子ケアモ デル事業を助産院に委託し、産後の母子にデイケアおよびショートステイサービスの提供を行 う動きがある。しかし事業を実施する施設としてショートステイでは 6 床以上、デイケアは 20 人以 上を収容できるスペースを確保することが要件になっている。東京都助産師会所属の入院設 18備をもつ助産院 36 か所のなかでもこれらの要件をみたす施設は 3 から 4 施設にすぎない。さ らに、それらの助産所は分娩を取り扱っており、産後入院を常に受け入れることができる 状況ではない。
宿泊型にこだわらず、生活の場である家庭へ訪問して行う産後ケアの効果も伝えていくことが 大切だと考える。
Maternity Nursing Todayの中でClausen.J.Pが「母親のエネルギー」と題した図がある。私 たち助産師は専門家として保健師、保育士、栄養士などと連携をはかり、これに「地域のサポ ート」として地域住民の力を活用、民間団体支援、世代間交流、育児支援サポーター、など、 さまざまな人たちと一緒に地域全体の育児力アップを図っていきたい。
家族のサポート
愛・保護・サポート・理解専門家のケア
関心・配慮・支持・ケアの提供 尊敬・理解母親のエネルギー
家 族 の あ た た か い サ ポ ー ト と 専 門 家 ケ ア を 受 け て 母 親 の エ ネ ル ギーが満ちあふれる。それが子ど もをケアする源となる。地域の力
19参考資料
ケース1 訪問記録
ケース 2 電話相談から訪問につながったケース
ケース 2 訪問記録
ケース 3