望ましい事故原因観の形成とその事故抑止効果 :仮説
-交通事故防止への心理学的アプローチ-長
塚
康
弘
要 旨 関係者 による多角的かつ積極的な事故防止対策の推進 にもかかわ らずわが国の交通事故 は増 加 し続 けている。 筆者 ら交通心理学研究者 も交通事故問題の解決 に寄与すべ く、運転者等の教 育 ・指導の研究 を続 けているが事故 は減少 しない。なぜだろうか。 多要因が関与 し構造的 と評 される交通事故原因を解明することは容易ではないが、心理学的 にみれば、事故が減少 しない理由は運転者 などの交通参加者の問題行動 に求め られる。 さらに その理由を尋ね られれば、 「行動的環境」論 による心理学的考察 に基づ き、問題交通行動の成 因 としての交通事故原因についての見方、すなわち「交通事故原因観」(AccidentCauseConcept: ACC)に偏 りがあるためである、 とい う仮説が出されることとなる。 統計 に明 らかなように、わが国の交通事故の主原因は筆者が 「知覚不全」 と呼ぶ脇見や前方 不注意お よびこれに密接 に関連す る一時不停止等の問題交通行動である。 しか し多 くの人々は そ うは考 えず、ス ピー ドの出 しす ぎや飲酒運転 を主原因にあげる。筆者 はこの統計的事実 と人々 の原因認知のズ レを事故原因観の偏俺 と呼び (長塚、1990)、それが講習や研修 における、ある いはメディアによる偏俸 した情報の伝達 によって形成 されていると想定 した。逆 に言 えば、正 しい情報の伝達 によって事故原因観 を 「望 ましい方向に」、すなわち、 「事故 の実態 に即 した認 知 に」
変化形成 させ ることがで きれば問題交通行動 を減少 させ ることがで き、それが事故抑止 に効果 を及ぼす と考 えるのである。図 1は筆者の仮説 を 「事故抑止モデル」
として図示 した も のである。 望 ましい交通行動 (運転行動、運転者教育行動)の実行 望 ましい事故原因観の形成 事故実態の伝達 ・教育 ), 図1 事故抑止モデル (長塚) 筆者 はこの想定 を実証する2つの試みを続けている。1つは事故原 因観の偏倍の調査お よび研 修 によるこの偏俺の望 ま しい変化 についての調査である。第2は望 ま しい事故原 因観の形成 をはかるキャンペーンの事故抑止効果の評価研究である。本稿ではこれらの試みの結果を示す。 目標 とする 「事故抑止
」
は、運転者が一時停止 ・確認を実行 し、管理者が一時停止 ・確認の 意義を指導するなどの 「望ましい交通行動」
を実行することによって図られる。そのためには 運転者 ・管理者が 「わが国の事故多発原因は脇兄等の知覚不全 と一時不停止である」という 「実 態に即 した事故原因観」
を形成することが必要であ り、それは事故の実態を的確 に伝 える研修 ・講習 ・交通キャンペーン等による教育 ・啓発活動を通 じてなされることを仮説 として示す。1
交通事故の実態一多発傾向が続 くわが国の交通事故一
平成15中のわが 国の交通事発生故 の実態 をみ る と、図2に示 され る ように、事故発生件 数 は約95万件 、負傷者数 は約118万人、死者数 は約8,000人であ る。 メディアが 「交通事故 の多発傾 向その もの には、 まだ歯止 めがかか った とは言 えない状況 であ る」 と述べ てい る (月刊 自動車管理 が2004年 3月号、14ペ ー ジ) ように、わが 国の交通事故 は漸増 ・続発傾 向 にあ る。 (人) 11,000 10,000 9,000 8,000 7,000 平6 7 8 9 10 11 12 13 14 15(辛) 図 2 日本における最近の交通事故発生状況の推移 (月刊自動車管理2004年3月号より)2
事故防止対策の現状一型 にはまった、抽象的内容の くり返
し-2- 1
行政機 関 において行 われてい る事故防止対策 この ような状 況 においてわが国で は、現在 どの ような対 策が取 られてい るだろ うか。 ま ず交通事故 防止対 策 の重要 な役割 を演 じる交通教育 の最近 の内容 を知 るため に、交通安全 -2-望 ましい事故原因観の形成 とその事故抑止効果 :仮説 (長塚) 白書 (平成
1
5
年版)の第3
章の うち 「交通安全思想の普及徹底」と題する第2
節 を参照 し てみる。 そこでは(1)生涯 にわたる交通安全教育 として幼稚 園 ・保育所 における家庭 ・地域 と連 携 した教育か ら、成人、運転者教育 と地域活動、高齢者対象交通教室、交通安全 シンポジ ウム等が推進 されたこと、 (2)広報活動 として全国交通安全運動お よびマスメディアによ る広報の充実 をはか った こと、 (3)民 間交通安全 関係団体等が、特 に参加 ・体験 ・実践型 の安全教育活動 を多角的に広範囲に推進 した ことが述べ られている。 次 に新潟県の状況 を県警交通年鑑 (平成1
5
年版)によってみる。講習会、座談会、交通 教室、 自転車教室、バ イク教室が安全運転管理者、運輸業者使用者、運転者、高齢者、婦 人、小 中高校生、幼児等 を対象 に延べ4,
61
1
回3
4
万人余 の受講者 を対象 に実施 されている。 その外、高齢者家庭訪問、交通安全教育車 「ゆ きつば き号」及び運転適性検査車 「かがや き号」の活用、ヘ リコプターの小学校訪問、警察音楽隊活用の交通安全 イベ ン トが行 われ た。マスメディアによる事故発生情報の放送 ・報道のほか、春、夏、秋、年末の各種安全 運動、特別対策キャンペーン、交通死亡事故抑止特別対策、地域交通安全活動推進委月の 活用、長寿社会交通安全 ア ドバ イザーの運用、シー トベル ト・チ ャイル ドシー ト着用 ・使 用強調週間の設定、い きい きクラブ交通安全 コンクールの実施、交通安全指導者育成、安 全運転 ・チ ャレンジ1
0
0
の実施 な ど、全 国の場合 と同様 に多様 な活動が活発 に行 われたこ とが知 られる。 また対策 として重要な役割 を果たす道路交通法違反取締 りも総取締 り件数1
7
7,
5
9
3
件 を数 え、違反別取締 り件数は上位か ら最高速度違反が5
7
,
5
8
9
件、一時停止違反 が2
0,
7
7
0
件、駐停車違反が1
1
,
1
6
3
件 とな り、いずれ も平成1
4
年 を上回っていることが報 じ られている。2-2
民間において行われている事故防止対策 民間 レベルでの交通事故対策は前記の行政機関等 による活動 と重複 して実施 されている 場合が多 く詳 らかにす ることは困難であるが、月刊誌 「シグナル」の 「街の交通安全ニュ ース」 らんの記事 を参考 に して各地で頻繁 に行われている事故防止対策 をみるとほぼ次の ようになる。 安全運動月間等のキャンペーン、法定外の各種の安全講演 ・講習 ・教習等 による運転者 の指導 (助言 ・ア ドイス等)、社内安全大会、地域安全教室等の各種のイベ ン ト、緊急宣言、 広告塔 ・看板 ・立て看板 ・のぼ り旗 ・横断幕 ・垂れ幕、折 り込みチラシ、安全月刊誌 ・新 聞など、など極めて多種多様で枚挙 に暇がない。 上 に列挙 した諸対策の うち、最高速度違反、一時停止違反、駐停車違反などの各取締 り はいずれ も発生 した事故の実態 にもとづ き、重大性お よび危険性あるいは迷惑性等の観点 か ら見 て排除すべ き違反 と考 えられるので適切 な継続が期待 される。 しか しその他の多 く の対策は、 ともすれば関係者 によ?て経験的に有効であると考 えられた ものが、恒例 により窓意的に導入 されている場合が多いように思われる。 2- 3企業等において行われている事故防止対策 トラック、ハ イヤー ・タクシーお よびバス等の事業者関連では、運行管理者 を対象 とす る各種講習会がそれぞれの協会によって実施 されているほか、 自動車事故対策機構 による 体系化 された各種講習 と運転適性診断が継続的に実施 されている。その他の事業者 につい ては安全運転管理者 を対象 とする法定講習等が多数回各地協会の主導の もとに開催 されて いる。 実施 されている講習等の シラバス等の内容 を知 ることはで きないが、運行管理者 を置 く 企業等の現場 において どの ような事故対策が実行 されているかを知るために長塚 (2004) は自動車事故対策機構主催の 「特別講習」(平成
1
6
年2
月) に出席 した運行管理者3
9
人を対 象 に質問紙調査 により事故対策の現状 について予備的調査 を実施 した。その結果、 ① 「運転者 ・乗務貞教育 を徹底 している」
という主旨の回答が最 も多 く、次いで (参 「運転手 との対話 を図る」 ③ 「具体的方法 を挙 げて指導する」 ④ 「疲労防止、休憩 に留意する」
⑤ 「運行管理計画 をたてている」
⑥ 「個人技量の見極め と指導」 等 を主 旨とす る回答が続いた。 この うち、(丑では、各個人の技量の見定め、乗務員個人個 人の レベルアップを図る運転者 ・乗務貞教育の実施 と回答 した人が1
6
人で、以下各個人に 対する安全指導 (定期的/毎月1
回の/事故防止 を常 に意識 させる)の徹底 (6
人)、道交 法 ・労基法遵守指導の徹底 (3人)が複数回答 として示 され、 さらに点呼の徹底、安全運 転励行の呼びかけ、指示 に従 わせ る、真剣 に取 り組み継続 させ る、安全運転 を人に注意 さ れるより自分で考 え実行 させ る、社員教育 ・社会人教育の徹底、教育 システムの構築、弱 者保護運転の徹底 などがあげられた。 ここでは企業等 における交通安全教育の一端 を知るにとどまったが、 「運転者 ・乗務員 教育の徹底」とい うような抽象的な レベルのマ ンネリ化 した内容の回答が圧倒的に多かっ たのである。3
今後推進すべ き事故防止対策 とは何 か-各種対策の問題点 をふまえて考 える-この ように 「思いつ くままに」、「あれ もこれ も」と窓意的に導入 される交通事故防止対 策は費用対効果の視点か らみて問題 はないのか、あるいはそれを実行する意義、価値が認 め られるのか否か を明 らかに しなければならない ように思われる。全国で長年継続的に登 場する多種多様 な対策はその効果評価が適切.に行 われないままスローガン等 として頻回登 -4-望 ましい事故原因観の形成 とその事故抑止効果 :仮説 (長塚) 場す る。その結果、耳 目を引 くものが見 かけ上体系化 された意味 のある対策であ るかの よ うに受 け止め られ、ほか に有効 な対策があって も、有効 であるかの ように見 える対 策の中 に埋没 して しまい、見失 われる結果 を招 く場合がある と思 われる。
3- 1
事故防止 の基本的 な考 え方 :事故親和行動の排除 上 に多発傾向が続 くわが国の交通事故発生 の現状 とその状況 において行 われている各種 の事故 防止対策 を概観 して きたが、 この ような状況 において真 に推進すべ き事故 防止対策 は何 か。 われわれは、越 (1
9
9
5
)
が「(交通)戦争 に勝つ には弾 を敵 に狙 い を定めて撃 ち込 まなけ ればな らない (括弧 内は長塚)
」と述べ て交通事故対策 における 「索敵」
の重要性 を指摘 し た ように、事故抑止 の基本 的 な方法 は、病 因の除去 によって病気 の治療が行 われ るように、 「事故原 因の除去」である と考 える。 これは当然の こ とであるが、問題 は事故の原 因の とらえ方である。 われわれは心理学の 立場 か ら交通参加者、 と くに運転者 の行動 に注 目す るが、工学、人間工学領域 で もた とえ ば越 (1
9
8
5
)
は 「今後 の一層 の事故抑止 のために残 されたわれわれの取 るべ き唯一の対策 は運転者の `行動 'の改善 である」(
下線 は筆者) と述べ 、片平 (1
9
9
8
)
も人間工学的視点 か ら、事故絶滅 をめ ざすための運転者対 策 として徹底 した交通安全教育 システムの開発 と 体系化 の必要性がある」
と論 じてい る ように人間の行動 に注 目 した発言 を してい る。 さら に村 田(
2
0
02)
も 「ほ とん どの交通事故 は、人が事故 につ なが る行動 (下線 は筆者) をと ることか ら生 じる・--本 当 に交通事故 をな くす には、交通参加者が、交通事故 を起 こさな い行動 をとらなければな らない (下線 は筆者)・-・・これは事故防止対 策 を立 てる うえでの 基本認識 としなければな らない ことであろう」
と述べ 、事故 につ なが る行動 の除去、事故 を起 こさない行動 の遂行 の必要性 を示 した。 事故防止対策策定 における索敵 お よび運転者行動重視の必要性 を併せ て考 える と、人間 行動の中での事故親和行動す なわち 「事故 につ なが る行動」
とは何 か、その特定が次 の課 題 となる。3-2
事故親和行動の特定3-2- 1
統計的検討 事故親和行動 を特定す る上で まず参考 に したいのは交通教育専 門誌 「交通安全教育」誌 の指摘 である。同誌 (平成16年3月号52頁) は平成15年 中の全 国の交通事故発生状況 に-つ いて運転者の行動 (違反) に注 目 し、 「安全不確認 ・脇見運転 の割合が高 く、かつ増加」、 「最高速度違反 は減少」
「飲 酒運転 による交通事故が大幅 に減少」と伝 え、今後の課題 は「安 全不確藷 ・脇見運転 な どに よる追突事故 の抑止」、「飲酒運転 ・最高速度違反 による事故減 少 の定着」である と伝 えてい る。 「安全不確認 ・脇見運転 の割合が高い」とい う説明 と 「課 題 は "安全不確認 ・脇見運転" な どによる、・・-・事故の抑止」とある部分 とを併せ て考 えると "安全不確認 ・脇見運転''が排除すべ き事故親和行動であることが明 らか になる。 この認識 に基づ き全国お よび新潟県の交通事故統計 (新潟県警交通部統計分析係提供) を違反内容別 に検討 した。その結果 を示 したのが表
1
である。 ここでは第一当事者の違反 別事故発生件数 を多発違反内容順 に配列 してある。運転操作不適当お よび一時不停止以外 の違反は 「環境の知覚 に直接 に関連す る違反行動」す なわち筆者が知覚不全 と呼ぶ行動で ある。 さらに一時停止の 目的が知覚の十全 を期す ることにあることを考 える と、全 国的 に 表1 平成15年中の自動車等 (原付以上)運転者の違反別交通事故件数 (第1当事者) 違 反 内 容 事故件数 (%) ・知覚不全 ((1)+
(2)+
(3)+
(4)) 52663,0,937 (509 (62.28.9)7) (内訳) (1) 安全不確認 (2) わき見運転 153,383 (17.0) (3) 動静不注視 93,757 (10.4) (4) 漫然運転 ■ 56,290(6.3) ・一時不停止 45,212 (4.77) ・信号無視 32,982(3.65) ・最高速度違反 6,918 (0.73) ・酒酔い運転 688 (0.10) 全 体 (全事故) 947,993 出典 :「交通統計」平成13年版((財)交通事故総合分析センターITA RDA)、58-59頁による。 「知覚不全」
は、長塚の呼称である。 も新潟県内で も 「知覚不全 、す なわち、環境 をよ く知覚確認 しないための事故 と、一時不 停止事故が多発 しているこ と」が明 らか になる。 図3
は違反別第一当事者の新潟県 における事故発生率の年次経過 を示 した ものである。 この図か らも今述べ た傾向 を読み とることがで きるが、同時 に違反行動 としての知覚不全 が増加傾向 を示 していること並 びに一時不停止の占める割合が知覚不全 による事故 に次 い で高い ことが知 られる。 これ らのデー タによって も、排 除 しなければな らない 「事故親和 行動」
は、知覚不全 と一時不停止であることが明 らかになる。Brown(2002)は、英国ではLBFrS (Lookedbutfailedtotosee「見 るべ き対象 の方向に 顔 (冒) を向けていなが ら、その対象 (衝突 した人や車) を見落 とす」 こと) を原 因 とす る事故が不注意、速度超過 についで第
3
位 にランクされる と報告 している。 これは知覚不全 のカテゴリーに入れ られ る事故 車考 えられるので、英国で も日本の場合 と類似 の傾 向が 生 じつつあることが想定 される。
-6-望 ましい事故原因観の形成 とその事故抑止効果 :仮説 (長塚) 全 事 故 件 数 に 占 め る 各 違 反 の 事 故 発 生 率
%
70 0 0 0 0 6 5 4 3 0 0 2 1 ∼75 -80 -85 -90 -95 -00 -03 年 次 図3 主な違反行動 (第一当事者)による事故発生率の経年経過 (新潟県の場合)3-2-2
企業現場の事故の実態に基づ く検討 企業等の現場 における事故発生の実態はどうだろうか。先 に引用 した自動車事故対策機 構主催の特別講習で運行管理者(39人)に 「あなたの会社 では どんな事故が多いのですか」 と質問 した。その結果 によれば、接触事故が多い と回答 した人が1
5
人、バ ック時の接触事 故10人、追突事故3人、脇見事故2人、静止物衝突事故2人、速度超過 による事故 (以下 各1人ずつ)、荷崩れ、無信号交差点での 「出合い頭」事故、居眠 り、物損、ジャックナイ フ事故、 自爆事故の順序であった。 企業内の交通事故 はその多 くは、メディアをにぎわす ような大事故ではな く、 自社内を 主 とし他社 を含 む 「構内での小事故の頻発」であることが実態のように思われる。 以上の 検討か ら運転 における交通環境知覚 (まわ りをしっか り見 ること)の重要性が知 られ、 こ の点に焦点づけられた対策の必要性が浮かび上がる。3-2-3
心理学的検討 知覚は行動の門 と言われる。 環境 (事態) を的確 に知覚す ることが行動の基本的要件で ある。 暗闇の中で ライ トを消 してクルマを進めることはで きない。知覚 な しには 「行動で きない」
のである。 知覚不全事故が多発 している事実 は環境 を正確 に知覚 しないで運転 し て事故 を起 こす運転者が多いことを物語 るO 知覚不全が心理学的にみて も事故親和行動で あることが知 られ、排除すべ き事故親和行動 は知覚不全であることが明 らかである。3-2-4
専門家の考 え方に基づ く模討 交通心理学者や交通実務専門家が運転 をどの ようにとらえ運転事故抑止対策の基本的な 要件 をどう考 えているか をみ よう。 ①長山 (1979)は 「自動車運転 にとって一番必要 なことは何か と聞かれれば、"正 しく見 る ことだ 'と梼跨 な く答 えたい」と述べて運転 における見 ることの重要性 を説いている. ②shinar(1985)は、アメリカ ・インディアナ大学での大規模 な事故分析研究 をもとに、 「事故直前の運転者行動の 1位 は、不適切注視 (improperlookout)である。 事故は交差 す る路地や私道か ら街路へ出 ようとす る時 に "他の車の動 きに適切 な注意 を払 わない'' ために起 こっている。運転者は、 "目を向けてはいたが、見 ていなかっだ 'のである。 単 に視野 を見回 して も見 たことにはならない。見 るためには、運転者は目を向けるだけ ではな く、注意 を払 わなければならない」(野 口 ・山下訳 「交通心理学入門」)と述べ てい る (図 4)0
事 故 率 (%) 10 15 20 25 30 1.不適切注視 徹底分析現場分析 2.過度 なスピード 徹底分析現場分析 3.不注意 徹底分析現場分析 4.不適切な回避動作
徹底分析現場分析 図4 事故直前の運転者行動 (shinar,1985) ③Brown(1986)は、運転者訓練のための新 しいアプローチの基礎 は、事故原因 と関連の ある行動上の欠陥の矯正 に置 くべ きであ り、 とくに認知的能力 (cognitive skills)の習 得 をはかる集中的訓練が必要である、 と述べた。 図5 運転が前頭葉によってコン トロール されることを示す模式図 (Ergonomicsvol.31,
NQ4,1988の表紙絵)-8-望 ま しい事故原因観の形成 とその事故抑止効果 :仮説 (長塚) 図
5
はBrownのアイデアに基 くもので運転が大脳 とくに前頭葉 に よって コン トロー ルされる認知的性格の強い ものであることを示 している。 ④滝沢 (1991)は、交通問題の実務家 として発言 し、 「事故多発の原因は、運転 に必要な 情報の取 り方 を体系的に十分 に教 えていないことにあるのではないか」(日本交通心理学 会4
3
回大会 シンポジウム発言) と述べている。 ⑤ 中島は元Flドライバー としての経験 をもとに「"よく観る" ことが、安全運転の基本中 の基本だ と考 えている」
と述べた (新聞報道)。 専門家の記述や発言は 「運転の基本は周 りをよく見 ることである」 とい う点で一致 し、 この条件 を欠 く知覚不全が運転の危険 に結びつ くことを示唆 している。 ここで も知覚不全 を排除する対策の必要性が浮かび上がる。4 事故親和行動 を排除するための具体策-その理論 と方法一
事故多発傾向のある現状で一般 に実施 されている事故防止対策の例 を行政機関、民間お よび企業 における事例 を参照 して検討 し、事故 につながる問題交通行動、すなわち 「事故 親和行動」 とは何かを検討 した結果 を総合す ると、それは知覚不全 と一時不停止であるこ とが知 られる。従 ってわれわれはこれ らの不安全行動の排除を図ることになるが、 どのよ うな方法 によってこれを進めるかが次の課遺 となる。 上に企業関係者 に事故防止対策について尋ねた時、 「安全教育の徹底」を挙げる人が多 いにもかかわらず、 「具体的な方法 は分か らない」とする回答が多 く、事故の実態 に即 し た具体的対応 は示 されなかったことを述べた。 この ような事情 を考慮すると、 「運行 ・安 全運転」関係管理者、教習関係者等の交通教育関係者 には、わが国の事故発生因が脇兄 と 一時不停止であるとい う事実 と交差点等での停止 による知覚 ・確認の徹底がわが国の事故 抑止 に不可欠で有効であることを的確 に学習 させ、認識 を深め させ る必要があるように思 われる。 「運転者教育の重要性」を反復唱道するだけでは無意味 なのである。4-1
人の行動 を規定する行動的環境 :心理学的基本原理 筆者は 「知覚不全」
と 「一時不停止」が事故親和行動であることを行動者 (運転者や指 導者) に的確 に認知 させ ることが極めて重要であると考 える。それは次の理由による。 古 くKoffka(1935)が人の行動 を規定す る行動的環境 の意義 を強調 し、北村 (1965) が、 「人の行動 は、例外 な しに、その行動者 によって認知 され、感 じられている状況に-よ って規定 される」 と述べた ように、現実 に人の行動 を規定するのは行動的環境、すなわち 認知 された内容であるか らである。 この心理学的原理 に基づいて事故防止活動 を考 えると、 「運転」や 「安全指導」等の行 動 は、事故原因についての運転者や指導者_の認知内容 (行動的環境)によって規定 される ことになる。今 日運転者や安全指導者の多 くには交通事故の原因をス ピー ドの出 しす ぎや飲酒 と考 える (認知す る)強い傾向がある。そのため、運転者は 「ス ピー ドさえ出 さなけ ればよい」と考 えて運転 し、指導者は運転者等 に「ス ピー ドを出すな
」
「飲酒運転 をす るな」とい う指導 を行 う傾向が強い (長塚、1990)。交通事故原因を" どの ように認知するが '、す なわち事故原因についての概念
(
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t:ACC)
(筆者はこれを事故原因に ついての観方 とい う意味で、事故原因観 と呼ぶ)によって 「運転者の路上での交通行動」 お よび指導者等の教室等での 「交通教育 とい う行動」
には差異が生 じると考 えられるので ある。 事故の実態 と事故防止対策のズ レをな くして実態 に即 した対策 を実行す るためには交通 参加者が交通事故の行動的原因を適切 に理解することが重要である。事故の実情 に即 した 事故原因観 を持たなければならないのである。 4- 2 望 ま しい事故原因観の形成 :研修 ・教育の意義 運転者が一時停止すべ き交差点で一時停止する (とい う行動 を行 う) ようにな り、 また 管理 ・指導担当者が運転者 に一時停止 ・確認の重要性 を教育す る (とい う行動 を行 う) よ うになるためには、彼 らが 「交通事故原因を的確 に認知 している」(正 しい事故原因観 を持 っている) ことが基本的条件 になる。 交通事故 を抑止するために欠 くことがで きないのは、運転者やその指導者が 「交通事故 は安全不確認 を主 とし、わ き見運転、動静不注視、漫然運転等<周 りをよく見 ないこと、 知覚不全 >を原因 として発生 している。この ような問題交通行動 をな くす ことが重要であ る。 そのためには一時停止交差点 における一時停止の実行 と停止状態での周 りの確認が有 効である」 という事故原因観 を明確 に有 していなければならない。 0 しか しなが ら本稿の初めに述べた通 り、多 くの人々はそうは考 えず、ス ピー ドの出 しす ぎや飲酒運転 を主原因にあげるのであ り、事故原因観 には偏倍が生 じているのである。 長塚 (1990)は運行管理者お よびその代務者421名 (バス関係42名、 トラック関係320名、 ハ イ ・タク関係59名) に次の4間について回答 を求めた。 自動車事故対策センター主催の 基礎講習 (新潟、長野、山形の3
市) において、 1間 ごとに筆者が設問 を読み、記入 して もらった。設問1.
「最近多発 している交通事故の原因 として、最 も多い と思 うものを2
つあげて下 さい」、2.
「運行管理上、あなたが今いちばん困っていることはどんなことで すか」、3.
「あなたの会社で今いちばん多いのはどんな事故ですか」、4.
「事故防止のた めにあなたが運転者 にいつ も注意 しているのは どんなことですか」
この結果 を図 6、図 7、図 8に示す。図 6か ら、運行管理者が 「事故の原因 と考 えてい る もの」の 1位 はス ピー ドで,-回答者全員の75%を占め、これに運転者の不注意、飲酒、 居眠 り ・疲労が続 くことがわかる。 一時不停止 をあげた者は5%程度 と低かった. この結果 との関連 において興味深いのが設問4への回答で,ある (図8)。いつ も与 えてい る注意は 「ス ピー ドを出すな」、「注意 して運転せ よ」、「余裕 をもって出かけ よ」、「休養 ・ - 10-望 ましい事故原因観の形成 とその事故抑止効果 :仮説 (長塚) 休憩 をよ くとれ
」
の順序である。事故原因についての認知内容 (事故原 因観)が ほ とん ど その まま運転者指導 とい う行動 に反映 されている。認知が行動 を規定 しているのである。 ここで問題 になるのは、事故原 因認知お 不注意 居眠疲労 環境不備 一時不停止 運転未熟 図 6"事故の原因''と考えているもの スピード抑制 余裕 自覚 状況に即せ 注意せよ 休黄体急 一般的注意基本守れ 指差餅 その他 図8 運転者に与えている注意の内容 よび指導内容が事故発生の現実 (図 7の内 容) とマ ッチ していない点である。本報告 の冒頭 に記 した発生原 因の うち、確か に最 高速度違反 との関係では原因 としての指摘 お よび指導は当たっているが、その他の点 では具体性 を欠 き、事故原因認知のかた よ りとそのために生 じる指導のかた よ りとを 問題点 として指摘 しなければならない。事 故原因の認知が実情 に即 していない ことは、 図 7の結果 との関係か らも明 らか になる。 ス ピー ドと関連する事故 は少 な く、む しろ 確認 とそれに基づ く実行行動の欠陥が原 因 となる事故が身近 に発生 しているのにそれ らとはかけ離れた認知が なされているので ある。 知覚不全 の各違反が事故親和行動である ことはすでに記 した事故統計 に も明 らかで あるが、 この事実 を研修等 を通 じて的確 に 伝達 し適切 な事故原因観 を形成 させ ること が極めて重要である。それは可能 だろうか か。 またその事故抑止効果 はあるのだろう か。4- 3
望 ま しい事故原因観の形成 を意図 した研修 ・教育 とその効果 に関する研究 長塚 はこの点 について付表 (1
8
ペ ージ) に示す一時停止 ・確認 キ ャンペー ン用マニ ュアルに従 って研修 を実施 し、その効果 を 検討 した。4- 3- 1
大学生 を対象 とする予備的研 究 長塚 (1993a)は、まず大学生 を対象 として、事故原因認知の偏 りが事故原因についての的確 な情報提示 によって変化 ・修正 される ことを示 した。 被験者は新潟市 内2大学 の学生で、筆者の心理学講義 の聴講者である。 一方 を実験群 (E)(38人) とし、他方 を対照群 (C)(97人) として調査 を実施 した。
4
月の第1
回授業の際に事故原因認知 に関する調査 を実施 した。1
8
項 目の運転者の違反 行動 を列挙印刷 した調査用紙 を配布 し、 「事故増加の原因 となる運転者の違反 として重大 と考 えるもの」
5項 目を順位 をつけて回答 させた。 E群 には翌週の授業で各 自の回答用紙 を返 し、調査結果 と新潟県内交通事故違反別発生 状況 (プ リン ト) を配布 して説明 「結果の知識(
KR)
・指導」
を加 えた。配布資料 は後 日まで保存す るように指示 した。C群 には調査 に関す る情報 を全 く与 えなかった。E群 に は夏休み前 に第2回調査 を前回 と同 じ方法で実施 し、翌週 に結果等 を知 らせた。第1回調 査か らの変化の有無 を明かにするための調査 を5
カ月あ とに行 った。1
位か ら5
位 までの回答 に各5
、4
、3
、2
、1
点 を与 えて重みづけ し、回答率の高い 8項 目の加重得点 (合計点/回答者数) を図 9に示 した。図か ら次の 2点が示 される。 (1)第1回調査 (前)で は、両群 共 に、「
3.
ス ピー ドの出 しす ぎ」が1
位、「
11.酒酔い」
が2
位 にあげ られている。 その後、「
KR
・指導」を実施 したE
群 では得点が顕著 に減少 し、 C群ではほと んど変化 な しあるいは上昇の傾向を示 し た。(
2)「9
.交差点安全不確認」
「
1
0.-時 不停止」「16.安全不確認」の
3項目は第 1回調査では低位に ラン
ク
された。しか しその後、E群で は上昇 の、 C群 で は下 降の傾向が示 された 。第
1回調査の結果 に見 られるように、 本稿の冒頭 に述べた 「交通事故の原因 と なる問題交通行動」 についての、事実 と かけ離れた認知傾向は今 回 も示 された。 この結果 を被験者 に知 らせ る と共 に、 交通事故資料 に基づ く説明指導 を行 うと、 認知の偏 りは変容、修正 され望 ま しい事 故原因観が形成 されることが明 らかにさ違
反
内
容項
目
番 号 ■ ○前曲丁
後 前中
後「十
L 「十
L1
3
得点 (加重得点) 1.5 2 2.5 3 3.5 ● rKR・指導」井姑群 1.信 号無視 ○対照群 9‡芸./'o Ll
9・ ・o‡芸d・・?
\
交差点安全不確認 10.-時不停止 1.I芸/
1・酒酔 い〇
、
、
・
、
b 14.前方不注意ヽ 1
6
・ ′ 一 ノ 安全 不確認0
l
I
.
18.居眠 りI
a 図 9 事故原因認知内容の変化: 「違反内容項 目番 号」脇の寸前中後」は、実験群の3回の調査 と 、対照群の 2回の調査 時点 を示す。●-●は実験 群、0--0 は対照群の得 点経 過を示す. - 12-望 ましい事故原因観の形成 とその事故抑止効果 :仮説 (長塚) れた。
4-3-2
運転 者 ・及 び安全 運転 管理 者等 を対象 とす る研 究 つ いで長塚(
2
0
0
2)
は、運転 者 を対 象 と して同様 の調査 を実施 した。 運転者及 び安全 運転管理 者 に表1 (2ペ ー ジ) に示 した事故統計 お よび事故 防止 に関係 のあ る資料 (図10、 図11に示 す よ うな中心視 ・周辺視 の資料 、瞬 間視 にお け る情 報処 理 の 限界等 の知覚 ・認 知心理学 的知識 ) を示 したほか一時停止交差 点 におい て通行 車両 の一時 停止 の有無 を収録 した ビデ オ映像 の短 時 間視 聴 を含 んだ研修 を行 い、望 ま しい事故原 因観 の形成 とその事故抑 止 に及 ぼす影響 を検討 したので あ る。 研修 に よる事 故原 因観 の変化 を 知 るため に、研 修 の前後 に事故原 因観 しらべ (表2
) を実施 した。 7 6 5 4 0 0 0 0 視 力の
相対
値
0.3 0.2 0.1 0.025 70o60050040o300200一ooOo10020030040050060o 鼻側 盲点 こめかみ側 中心宵よりの度数 図10 網膜上の位置 と視力の関係 (wertheim、1894による)」
)
B
Bo
Y一
P
0H・
::I:・〇<
L;
1.I
L
P
K
C
F
Y
図11中心点 を凝視 したとき、どの周辺視野上の どの文字も等 しく読める文字チャー ト例 (Anstis、1974による)表
2
「事故原因観 しらべ」
用紙アンケー ト
(説明 され るまで書 かないで くだ さい) 1認知 ア 信号無視 イ 無理 な追い越 し り 優先妨害 工 歩行者妨害 オ 動静不注視 力 右左折 の悪 さ キ ー時不停止 ク ハ ン ドル操作不適 当 A l番 ( ) 2番 ( ) 3番 ( ) ケ 駐車違反 コ スゼ - ドの出 しす ぎ B サ 酒酔 い運転 シ 安全不確認 ス 居眠 り セ 疲労 ソ その他 ( 2理解 1番 ( ) 2番 ( ) ) 3番 ( ) 年齢 ( )性別 ( )その他 注)調査 目的 を示 さないため に、 「ア ンケー ト」
と遺 し、B5版 用紙 に 印刷 されてい る。 1の認知 、2の理解 の意味 は口頭 で示 した。 「この紙 にはみな さんが よ く知 ってい る交通違反の名前 が書 いて あ りま す。相変わ らず事故が多 く、 なか なか な くな りませ んが、あ なたは どの違 反が問題 だ と思 い ますか。 いいかえれば、 この ような違反 を運転者 が しな ければ事故 はな くなる と思 うもの は この うち どれで しょうか。1の ところ に認知 と書 いてあ りますが、 これはみ な さんが交通事故 の原 因 を どの よう に認知 してい るか、 とい う意味 で書 いてあ ります。 まず 3つ選 んで○印 を つ けて下 さい。 (少 し間 をおい てか ら)で は今度 は今 の 3つ に順番 をつ け て くだ さい。重大 だ と思 うものか ら順 に右側 の上半分 Aの 1番、 2番 、 3 番 の カ ッコの中に各違反項 目の カ タカナ を書 いて下 さい」 と教示 して回答 を求めた。 - 14-望ましい事故原因観の形成 とその事故抑止効果 :仮説 (長塚) 約
1
時間 もしくは2
時間の研修 の終了直前 の約5
分 間に再 び 「今 の時点で最初 と同 じ質 問 に答 えて下 さい」
と記入 を求め、今度 はア ンケー トの右下のBらんに記入 して もらった。 そのあ とに、「
2
の理解 の らんに今 日の講習 について理解 で きたか どうか、 な どの感想 を自由に書 いて下 さい」
と述べ て回収 した。 回収後各違反項 目毎 に第 1順位か ら第3
順位 までの回答者数 を集計 し、1
位 、2
位 の各 回答者数 をそれぞれ3
倍 、2
倍 し (1
位 はその まま)、各項 目毎 に重みづ け られた得点 を加 算 し、回答者数で除 した数値 を相対比較値 とした。3
回の研修会場 で実施 した結果 を表3
か ら表5に示す。 これ らの表 に示 した結果 によれば、研修前 に受講者が抱 えていた事故原因観が 「ス ピー ド超過」
や 「酒酔 い運転」
に偏倍 しているの に対 して、研修後 にはそれが変化 し、 「一時 不停止」や 「安全確認」、「信号無視」
な どを事故原 因 と認知す る望 ま しい事故原 因観が形 成 された と考 え られる。 表・3 研修前後 の事故原 因観 の偏 りと変化 (事例1) 安全教 育研 修会 の場合 (n-36) 研 修前 1位 ス ピー ド超過 2位 酒酔 い運転 . 3位 動静不注視 4位 安全不確認 5位 無理 な追越 し (数値 は相対比較値 :本文参照) 研 修後 1.53 0.91 安全不確認 1.58 0.67 動静不注視 1.22 0.64J 居眠 り 0.72 0.50 ス ピー ド超過 0.41 表4 研修 前後 の事故原 因観 の偏 りと変化 (例2) 安全運転管理者法定講習の場合 (n-172) 研 修前 研修後 1位 ス ピー ド超過 1.29 2位 酒酔 い運転 ,1.24 安全不確認 1.57 3位 信号無視 1.23 動静不注視 1.03 4,位 安全不確認 0.52 ス ピー ド超過 0.60 5位 0.48 信号無視 0.33表 5 研修前後の事故原因観の偏 りと変化 (事例3) トラック運転者事故防止講習会の場合 (n-92&194) 研修前 研修後 1位 酒酔い運転 1.17 2位 居眠 り 1.02 信号無視 1.13 3位 安全不確認 0.99 ス ピー ド超過 1.05 4位 信号無視 0.63 安全不確認 0.77 5位 0.52 酒酔い運転 0.74 この例では研修前調査実施運転者群と研修後調査実施群は別グループである。 与えられた講習時間に制約があったので研修の前または後に実施する形 を とった。 今 回の ように短 時 間に見 られた事故原 因観 の望 ま しい変化が どう持続 し、事故対 策 とし て効果 を示すか否 か については検討 を継続 しなければな らないが、心理 学的原理 に基づ く 研修 の有効性 は明 らかであ る。
5
一 時 停 止 ・確 認 キ ャ ンペ ー ンの 効 果5- 1
一時停止 ・確 認 キ ャンペ ー ンのマニ ュアル 真 に事故抑止効 果の期待 で きる事故対 策 とは何 か、 をテーマ とす る調査研 究 をわれわれ が 開始 したのは1
9
8
8
年 であ る (長塚、1
9
8
8、1
9
9
3b
;長塚 ・武井、1
9
9
0)
。約2
年 の準備期 間 を経 て具体的 に 「一時停止 ・確認」
に照準 を合 わせ たキ ャンペ ー ンが第一 タクシーで開 始 されたのは1
9
91
年2
月であ る。第一 タクシーで は最多2
3
人 を1
グループ とす る小集 団活 動 を延べ1
0
回実施 した。 その時 に用意 したマニ ュアル を附表 に示 す。 われわれは青森市 で 実施 した 日本交通心理学会主唱の一時停止 ・確認 キ ャンペ ー ンの5
年 間の経験 を経 て現在 は改訂 されたマニ ュアル を用意 してい る (太 田 ・長塚、2
0
03
)
が、基本 的 な内容 と構成 に 大 きな変化 はない。今 回の調査研 究 もこの附表 のマニ ュアル を基準 と して実施 した。5-2
」 時停止 ・確認 キ ャンペ ー ンの有効性 を示 す最近の事例5-2- 1
第- タクシーの事例1
9
91
年 の われわれのキ ャンペ ー ン開始 時か ら協 力者 とな り、その後 も今 日まで 自発 的 に 取 り組 み を継続 してい る第一 タクシーの事例 は このキ ャンペ ー ンの有効性 を如実 に示 して い る ように思 われ る。図1
2
はチ ャンベ ー ン開始後約8
年 間の同社運転者 に よる責任事故発 生件数 を示 してい るが、キ ャンペ ー ン開始後 の事故減少 は顕著 である。 図1
2
に示 した年次 以 降の最近 のデー タによれば、2
0
00
年 か ら2
0
04
年 までの最近4
年 間の毎 月の平均事故発生 件 数 は、1.
0,0.
9
2,
1.
5
8,
1.
3
(件 )で、毎 月平均1T2
件 'の少数件 数で経過 してお り、-1
6-望 ましい事故原因観の形成 とその事故抑止効果 :仮説(長塚) 事故抑止傾向は定着 しているもの と判断 される。 同社 の指導部長 はこの実績 によ り
2
0
0
3
年 度か ら自動車事故対策機構外部講師 に委嘱 されている。 0 0 2 1 責 任 事 故の
発 生 件 数 1988 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 年次 図12 第 1当事者の違反別事故発生件数の年次経過 (寡- タクシーの場合)5-2-2
青森市の事例 太 田(
2
0
0
3
)
は平成1
5
年秋の 日本交通心理学会6
8
回大会 において青森市 における5
年間 の 「一時停止 ・確認 キャンペー ン」について報告講演 を行い、理論的背景の考察お よび交 通教育方法の実践的検討の結果 を報告 した。 さらに実験教育 を行 うな ど検討課題が残 され ている もののキ ャンペー ンにおける教育 の効果 を市職員の意識 と行動の変化 について検討 した結果、キ ャンペー ン後 に一時不停止-の危険度評価が有意 に高 まったこと、完全 な一 時停止行動 には至 らなかった ものの一時停止交差点の通過速度 には有意の低下が認め られ たことお よび一般車両 との比較 において市有公用車の安全行動への変化が認め られている と述べ た。 青森市の佐 々木市長 は同 じ大会での記念講演 において 日本交通心理学会 によるキ ャンペ ーンの展 開に賛同 して青森市での実施 に協力 を申 し出た経過 を説明 し、青森市役所 におけ る5
年 間のキ ャンペー ンの肯定的成果 を今後市民 に対する実効 ある交通教育の推進 に活用 したい と述べ た。5-2-3
運輸業等にお ける最近の取 り組み事例 このキ ャンペー ンに賛同 している多 くの 自治体や交通 ・運輸業関係者 の うち、最近の取 り組み として注 目されているのは大栄交通の事例である。同社でのキ ャンペー ンで指導的 立場 にある熊谷(
2
0
0
3
)
は 日本交通心理学会6
8
回大会 において同社が平成1
3
年4
月に開始 し たキャンぺ,- ンの結果、キ ャンペー ン開始2
年後 に重大事故、物損事故費用等が減少 し始 めたことを報告 した。 これ迄 に新潟県内では、サ ンユーサービス㈱ 、新潟 タクシー、田上 自動車学校が、県外 ではアル ピコタクシー (長野)、熊本交通 (熊本)、横須賀 ドライビング スクール及 び山形県交通安全対策協議会等が積極的なキャンペー ン実施 を申 し出てい る。5-2-4
海外研究者の コメン ト 【 英国運輸省 (D汀)のRead (2003)は、筆者の同省への訪問 ・面談の際、筆者が問題 と してい る 「知覚不全」
事故 とBrown (2003)が報告 した英 国 にお けるLBFTS (6ペ ー ジ 参照)事故 との共通性 を指摘 し、 「LBFrS事故対策 に一時停止 ・確認 キ ャンペ ー ンが有 効か も知れない」と述べ筆者の研究 に肯定的 にコメン トした。5-2-5
国内にお ける 「一時停止 ・確認」
の重要性 に対 する関心の高 まり 交通事故防止 を 「一時停止義務のある無信号交差点」 における 「一時停止の実行」
の視 点か ら図ることが必要かつ有効であると考 える研究報告が最近漸増 しつつある (梅崎外19 98、1999a、1999b;太 田外2000;神 田外2000;古賀外1998;小森外1996;志堂寺外1998,
1999;長塚外2000;藤 田外1998a,1998b;松永2000)。この動向は交通教育 ・指導上、あ るいは事故防止のためには運転者 に一時停止 を実行 させ ることが不可欠である との認識が 日本交通心理学会関係者 に も漸増 していることを示 している。今後 この関心の拡大が期待 されるが、筆者 は これ らの研究 には課題が残 されている と考 える。す なわち各研 究は 「一 時停止交差点」
での出合頭事故が多発 し、その原 因は一時停止 を実行 しないで通過す る運 転者が多いことにあることを示唆 しているが、一時停止の必要性 についての心理学的理 由 及 び一時停止実行 の具体策 にはほ とん ど言及 していない か らである6
考察 本研究の骨子 は、多発 し続 ける交通事故の抑止 を図るための第一歩 は、運転者 を始め交 通 に参加す る人々が事故多発の原 因 を、 「わ き見 な どの知覚不全」
と 「一時不停止」であ ると理解 して交通行動 を行 うことであるとい う点である。 最大の理 由は、 これ らがわが国 の交通事故の2大原 因であるか らである。 第2の理由はこれ らの事故親和行動 の排 除を狙 い として発案 し、 「しっか り止 まって、はっきり確認」
をスローガンとして継続 した 「一 時停止 ・確認 キ ャンペー ン」
が事故抑止 に有効である とい うデー タが各地で示 され、 この キ ャンペー ン-の参加者が増 えつつあるか らである。第3
の理 由は、人間行動 の基本条件 である環境の知覚の十全 を図る上で重要 な認識であるか らである。筆者 はかねて よ り、事 故の実態 を踏 まえた原因の理解 を 「望 ま しい事故原因観」と呼 び、交通教育 による正 しい 事故原因観 を形成す ることが事故抑止-の第一歩である と考 えて きた。人間行動がその人 の認知内容 によって規定 されると考 え られるか らである。 望 ま しい事故原 因観 は基本的 に事故実態の的確 な伝達 ・教育 によって形成 される。 望 ま しい事故原因観 は人の交通行動 を望 ま しい方向に導 くので、望 ま しい交通行動が実行 され る もの と期待 される。 実際、 日本交通心理学会が青森市 において5
年間に渡 って実施 した 一時停止 ・確認 キ ャンペー ン研究では、事故 の実態 を知 らせ 声教育後の運転者の一時停止 への危険度評価が有意 に高 ま り、 この ような意識面での変化 は一時停止線通過時間が有意 - 18-望ましい事故原因観の形成 とその事故抑止効果 :仮説 (長塚) に延長 す るな ど、運転行 動 に も影響 を及 ぼ してい る こ とは別 に報告 した通 りで あ る (太 田 ・長塚2004)。この考 え方 は楽観 的 で あ る と思 われ るが 、筆者 は これ を仮 説 と して示 し、事 故 実 態 の的確 な伝 達 を機 軸 とす るシ ラバ ス を用 意 す る こ とに よって望 ま しい事 故 原 因観 を 形成 す る教 育 ・指 導 を試 み た。本研 究 で示 された実験 的指導 に よるACCの変容 お よび フ ィール ド研 究 にお け る事 故 減少 の事 実 は、上述 の行動 面 で の変化 の事 実 と併 せ 、筆 者 の仮 説 を支持 してい る ように思 われ る。 附表 「一時停止 ・確認
」
キャンペーンマニュアル 1.簡単に自己紹介 をしたのち、講習の目的 を示す。 「交通事故が多発 しているがそれを減 ら すにはどうすればよいかをみなさんと一緒 に考えたい」
と述べ る。 2.「事故原因観 しらべ」
(
表2)を実施する。 アンケー トへの記入を求める。 3.交通事故多発の実態 を紹介する。 最近10年間の事故発生件数、死者数、傷者数 (図2)を示す。会場によっては最前列着席者 等 にクイズのように昨年の事故発生件数、死者数、傷者数を回答 させるの も有効である。 ここ では交通事故が多発 し続けていることを知 って もらうことに狙いがある。 4.事故多発にどう対処すればよいかを討論する。 は じめに最近の事故防止対策(
「交通安全」、交通3悪一速度、飲酒、一時停止-」
とか 「ス ピ ー ド出すな」等 と書かれたのぼ り旗や立て看板 などの写真)をOHPによって見せ、その有効 性 を尋ね、討論 させる (この場面で出席者を4-5人のグループに編成 し、バズセ ッシ ョンを 行わせる場合がある)0「あなたは事故 を起 こさないためにどんなことに注意 していますか」 と 質問 し、回答 して もらうことも有効である。 その上で 「今答えたあなたの方法で事故 を防 ぐこ とがで きるで しょうか」 と問いかける。時間的余裕のない場合には、討論時間は短時間に止め る。 5.事故の 「達反別」実態 を紹介する。 ここで出席者の日を交通事故が主にどんな原因で起 きているかに向け させ る。そのために新 潟県の第 1当事者の違反 (速度、飲酒、わ き見、一時不停止)の全事故 に占める各違反の発生 率 を示す。27年間の経年変化 (図3)を示す。そのあと図を見た感想 を書かせ、数人 に発言 さ せて約10分間討論する。知覚不全 と一時不停止による事故の発生率が速度超過、酒酔い運転 に よるものより格段 に高いことに気づかせる。 3で交通事故多発の実態を理解 して もらったこと を受け、ここでは多発 し続ける事故が 「運転者のどのような行動 (違反) によって生 じている か」 を考えさせることに目的がある。 6.人間行動における知覚の重要性 を述べる。・ 事故の違反別実態を見れば運転にとって正確 な知覚が重要であることが明 らかになるのでここで正確 な知覚の必要性 を、①知覚心理学の基本原理 (下記)、②運転時の知覚の重要性 を述べ た識者の記述及び③知覚情報取 り入れ能力教育の重要性 を述べ た専 門家の発言 (8ページを参 照) を紹介 して 自覚 させ る。併せて一時停止は 「正確 な知覚」 を達成す るために必要 な前提条 件であることを知 らせ る。 十全 な知覚 を達成す るためには以下 に記す ようなことが大切であることを知覚心理学の基本 原理 に基いて述べ る。 (∋ 見 ることに時間をかけること 短時間知覚条件下では 「瞬間視」 となるので誤認や失認が生 じる。 シナ-ルが述べ たように、 駐車場 などか ら表通 りに合流す るような時 に徐行 などクルマが動いた状態で さ一つと頭 を回 し て見 るのは 「瞬間視
」
となるので正確 な環境知覚がで きない。見 るものに目を向けている時間 を長 くす る必要がある.一時停止 により瞬間視 を避けることがで きる。一時停止の必要性お よ び有効性 はこの点 にある。 ② まっす ぐ前方で (目の中心で) ものをとらえること 視力検査では円図形 (ラン ドル ト環) にまっす ぐ顔 (目) を向けて見 る。 まっす ぐ前方で刺 激 をとらえる見方が中心視である。中心視の場合視力が最 もよい条件で もの を見 ることが出 き るのである。 これ とは逆 に、 まっす ぐ前 を見ている時 に左右両耳側 にある もの を見 ようとして も見 ることはで きない。 ③ 信号 ・標識 など、注意すべ きもの意味や重要性 を教育すること 大切だ、価値があるなどと認識す る対象 には自然 に目が向 くので、注意 されやす くなる。知 覚 に及ぼす知覚者要因の研究か ら明 らかにされた原理が働 く。 ④ 見やすい (視認度の高い)環境 をつ くる。 信号や標識、案内板 など環境内の 「もの」 に必要な工夫 を加 えて見やすい位置 に設置す る。 標識 を鮮明に塗 り替えた り、文字 な どは大 きく書 くことによって知覚が促進 されやすい条件 を 用意することが人間工学的対策 として不可欠である。7.
知覚不全 を回避する方法 を考 えさせ、討論 をする。 討論後筆者の 「一時停止 ・確認キャンペー ン」 を例示す る。 8.キャンペーンの効果が示 された例 (16ページ図12)を紹介 し、一時停止が事故防止の ため に有効であることを述べる。 9.事故原因観 と研修の評価 を記入 させた後回収する。 (これは研修後に整理 し、研修 による事故原因観の変化 を知るための参考資料 とす る。)-2
0
-望 ましい事故原因観の形成 とその事故抑止効果 :仮説 (長塚)
引用文献
Brown,I・D.2002 Reviewofthe'lookedbutfailedtosee'accidentcausationfactor.Roadsafety research: Compendium ofresearchprojects2001/2020 DepartmentforTransport,Local Govemmentandthe Regions. 藤田和男外 1998a 見通 しの良い交差点 にお ける出合頭事故 について 日本交通心理学会57回大 会発表論文集 (以下 日本交通心理学会各大会発表論 文集 は、 「日交心57回論文集
」
等 と略記) ; 1998b同一選 一事故要因の検討 一 日交心57回論文集 ;1999同一選 一高齢化 に伴 う視覚探索能力 の 変化 日交心59回論文集 神田直弥外 2㈱ なぜ一時停止 しないのか一詳細分析 日交心61回論文集 北村晴朗 1965心理学 における研究法の特質 文化 29巻 1号 24-46. 熊谷義明外 2003 知覚不全排除 をめ ざす安全第-宣言 の効果一公共交通機関 としての社会的貢献 への途 を探 る一 日交心68回論文集Koffka,K.1935Principlesofgestaltpsychology.
古賀 隆外 1998 高齢者の事故 防止法 (2)一時停止指導法の比較 日交心57回論文集 小森弘嗣外 1996-時停止の遵守状況 に関す る調査研究 日交心55回論文集
Koshi,M.1985RoadsafetymeasuresinJapan.InL.EvansandR.CSchwing (Eds.),Humanbehaviorand trafficsafety.PlenumPress,NewYork-London.
越 正毅 1995索敵 と戦果確認 人 と車 10月号 32-33. Read,L.2003Personalcommunication. 松永勝也外 2∝X)シ ミュレー タによる-停教育 ・訓練 の効果の持続性 日交心62回論文集 村 田隆裕 2∝)2 交通安全研究者 として 目指 した もの 人 と車 8月号 4-13. 長塚康弘 1988運転者の問題行動再考 交通科学 17巻 2号 5-ll. 長塚康弘 1990事故原 因認知のかたよ り 日交心41回論文集 長塚康弘 1993a 交通事故原 因認知の偏 りと指導 によるその修正 日交心48回論文集 長塚康弘 1993b 「一時停止 ・確認」 キャンペー ンー新潟県 にみるその効果 と展 開一 自動車学校 29巻12号通巻333号14-19. 長塚康弘 1998-時停止 ・確認キャンペー ンー しっか り止 まってはっき り確認 一効果があ りそ う、 第3の対策 人 と車 12月号 2-7. 長塚康弘 2002 研修 ・教育 による事故原 因観 (AccidentCauseConcept)の望 ま しい変化 一交通事 故防止のための基本的条件 一 日交心66回論文集 長塚康弘 武井模次 1990 地域 に根 ざした交通教育 プログラムの策定 に関す る行動科学的基礎研 究 一運転者の交通セ ンスア ップをめ ざす教育のために-佐川交通社会財 団交通安全対策振興助成 研究報告書 (地域研究)1,64-89. 長山泰久 1979 ドライバーの心理学 企業開発セ ンター
太 田博雄外