高砂報第 172 号 平成 18 年 5 月 30 日 “葛飾高砂会”
第 96 回“葛飾高砂会”報告
加藤内科クリニック 糖尿病勉強会 真砂慶一郎・大越松司 担当 加藤院長・加藤管理栄養士 校正 平成 18 年 5 月 30 日(火)午後 1 時から同 2 時 30 分まで、クリニックB1集会 室にて開かれました。 5 月 25~27 日「日本糖尿病学会学術集会」が東京慈恵会医科大学、田嶼尚子 会長のもと東京国際フォーラムで開催されました。新たな発表形式が導入され、 プログラムにも工夫がなされ、非常に活気のある学会となりました。 なお当院からは共同研究も含め5題が発表されました。 1. 糖尿病・高血圧症の有無と、ウエストサイズ測定部位の検討 加藤則子 管理栄養士・糖尿病療養指導士 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の危険性を著しく上昇させる要因として、 メタボリックシンドロームという言葉をご存じと思います。要するに、おなか 周りが大きい人は、内臓脂肪が多い。そのような人の中では血圧・コレステロ ール・血糖が高めになりやすい。そのような危険因子が幾つか重なると、心筋 梗塞などになりやすいことが分かってきました。そのため当クリニックでは、 先ずは患者さんのおなか周りの測定を重視して診療を実施してきました。 一般的に日本では、お腹のCT(コンピュータ断層撮影)で、皮下脂肪か内臓 脂肪かをみるときにはおへそを基準にしてきました。腰の最も細くくびれた部 分の寸法を洋服ではウエストといいますが、おへそ周りはもう少し下の人が大 勢見受けられます。正しいウエスト周囲径の測定方法は、立位・軽呼気時、肥 満でない場合は臍部で測定します。また、脂肪蓄積が多く臍が下がっている場 合は、肋骨下縁と前上腸骨(骨盤上部の骨のでっぱり)の中点の高さで測定しま す。 BMI22kg/m2の標準タイプならば、その中点とお臍へその位置が殆んど同じでした。 しかし、中にはその位置が違う方もいます。そこで私達は男女、年齢別に、糖 尿病の人、高血圧症の人、糖尿病・高血圧症の両方を持っている人、どちらも 持っていない人の4つのグループに分けて調べました。その結果、糖尿病だけ よりも、糖尿病に高血圧症を持っている方はおなか周りの大きい人が多く、男 性も女性も中点とお臍の位置の違いも大きい。特に女性は顕著です。おなか周 りは少いほうが、血圧を下げる効果につながるでしょう。 ※(加藤院長) 血圧とおなか周りには関係があります。血圧と糖尿病には関 係が無いように思いますが、インスリンが効きにくくなると、たくさんの インスリンが分泌されて血管が硬くなり、血圧を高くするという作用があ ります。一見、高血圧症と糖尿病は無関係の病気のように思えますが、と もにメタボリックシンドロームという代謝異常の要素でもあるのです。 お臍の位置と中点でのおなか周りは、男性ではあまり変わりませんが女性は 大きく変わる方がいます。女性の場合肥満があると、お臍周りが大きく変わり ます。海外では、おなか周りを肋骨下縁と上前腸骨棘の中点で測るため、男性 の方が、おなか周りの大きい人が多くみられます。CTで仰向けに寝た状態で、お臍と中点の位置がどれくらい違うか測った場合、肥満度の高い人ほど、位置 がずれている例が多く見られました。このように世界と日本とでは、ずれが生 じています。 2. 大豆の栄養とその効果 松下麻紗子 管理栄養士 糖尿病療養指導士 (※ : 加藤院長・加藤管理栄養士のコメント) 大豆製品は体によいと言われますが、どんなところが良いのでしょうか。先 ず大豆の中に含まれる栄養素名を挙げ、その効用と、そのような栄養素を多く 含む食品を挙げてみました。 〇イソフラボン(ポリフェノールの一種)----女性ホルモンと同じような働きを するので、その結果、骨粗鬆症や更年期障害に有効です。前立腺がんや、乳が んの予防にもなります。--→大豆製品全般・「ざくろ」にも多く含まれます。 〇タンパク質----植物性で良質なものが多く、吸収されやすく、9種類の必須ア ミノ酸をバランス良く含みます。--→鶏卵、あじ、いわし、鮭、豚肉(ロース)、 鶏(もも)、牛乳に多く含まれます。 ○ リノール酸・オレイン酸・レシチン----これらはすべて脂質で、コレステロー ル値を下げてくれます。これらは油の中で 80%以上を占め、良質な脂質です。 ・ 特にリノール酸は動脈硬化・心筋梗塞を予防しますが、HDL(善玉)コレステロ ールの値も低下させ、また、酸化されやすいので過剰摂取は癌などの原因にな ります。--→豆腐・納豆・くるみ・ナッツ・ひまわり油・ごま油等に含まれま す。 ・ オレイン酸は動脈硬化・心筋梗塞・高血圧の予防をします。また、胃酸の分泌 調整をし、整腸作用もあります。--→大豆・松の実・オリーブ油・菜種油・マ カダミアナッツ等に含まれています。 ・ レシチンは血管に付着したコレステロールを溶かし血流を良くします。また、 脂質代謝機能・肝細胞の修復作用があり、記憶力・集中力を高めます。--→豆 乳・豆腐・納豆・うに・卵黄等に含まれます。 ○ サポニン(えぐみ・苦味・渋みの主成分。植物の根・茎・葉などに含まれてい る)----脂質の合成・吸収の抑制作用、分解促進があり、肥満防止に有効。更 に過酸化脂質の合成を予防し、がん・動脈硬化・老化予防などに有効。コレス テロール・中性脂肪の低下作用もあります。--→大豆製品全般・こんにゃくに 含まれます。 ○ オリゴ糖(人間の消化酵素では消化されにくいので、エネルギーはショ糖のお よそ 1/2)----腸内の善玉菌の栄養となるので、整腸作用・ビタミンの合成促 進作用などがあります。--→はちみつ・玉ねぎ・ごぼう等に含まれます。 ○ 亜鉛(細胞や組織の代謝などに不可欠なミネラル)----成長や発育の遅れ・肌荒 れ・抜け毛・味覚障害・肝臓の異常などを予防します。--→納豆・かき・牛(肩・ もも)・うなぎ・豚レバー・黒米などに含まれます。 ○葉酸(ビタミンB群で造血や細胞分裂に重要)----赤血球を造ったり細胞の分 裂促進作用があり、貧血や発育機能・腸管粘膜の修復などに有効です。--→大
豆・レバー・ほうれん草・春菊・菜の花・大根の葉・モロヘイヤ等の青菜に多 く含まれます。 ○ カリウム(血圧調整作用のあるミネラル)----高血圧・むくみなどに有効。ただ し、腎機能が低下していると排出されず、心停止を招くので注意が必要です。 --→果物・トマトジュース・ほうれん草・ひじき等に多く含まれます。 その他----カルシウム・ビタミンB1・ビタミンE・不溶性食物繊維・鉄分など が含まれています。日常の食事ではビタミンA・ビタミンC・含流アミノ酸な どが不足していますので、たっぷりの野菜とご飯を一緒に食べましょう。 ※ 今まで大豆の良い点を話していただきました。その中でイソフラボン (ポリフェノールの一種)がありますが、これは赤ワインブームのときに注 目されたものです。しかしポリフェノールはワインだけではなく、大豆・ 野菜類や日本茶にも含まれています。 動脈硬化の原因の一つに悪玉(LDL;低比重リポたんぱく)コレステロー ルの作用があります。ポリフェノールは抗酸化作用といって酸化を抑える 作用があるので、動脈硬化を進展させないためには非常に大事な成分です。 ざくろの、あの赤い色が抗酸化作用を持っています。 サポニンは、細胞膜の表面からコレステロールを溶かして引き抜きます。 コレステロール・中性脂肪を低下する作用があることが分かりました。 オリゴ糖は善玉菌がオリゴ糖を食べ栄養にして、どんどん増えます。ヨ ーグルトなどはそれを利用しています。 糖尿病になると尿糖と一緒にマグネシウムが体外に排出され、そのため に「こむら返り」(ふくらはぎの筋肉の痙攣)がおこることがあります。豆 乳にはその不足がちのミネラルであるマグネシウムが多く含まれていま す。 イソフラボンは乳がんの予防効果がありますが、女性ホルモンと同じ働 きをするので、妊婦の場合はイソフラボンの錠剤をあまり多く呑むのは避 けましょう。食品そのものに含まれている量では大丈夫ですが、食品の中 にある有効成分だけを取り出して摂取する場合は、余分な働きをしてしま うことがあります。したがって、自然の食物で不足した分を補う時に、初 めて錠剤等を利用するのが良いでしょう。 3. 大豆製品の製法と栄養 松下麻紗子 管理栄養士 糖尿病療養指導士 生大豆は消化吸収されにくいため、様々な加工法が工夫されてきました。大 豆製品の種類と製法及び、栄養素の特徴についてお話します。 ○ きな粉----炒った大豆を粉にしたものです。--→大豆の栄養がほぼそのまま。 ○ 豆乳----大豆を粉にして加熱し、それを濾過したものです。--→豆乳には調整 豆乳・無調整豆乳・豆乳飲料の3種類があります。大豆たんぱく・イソフラボ ンを多く含み、低脂肪・高たんぱくな飲料です。 ○ 豆腐----豆乳に凝固剤(にがり)を加えて加熱したものです。「にがり」に入っ ているマグネシュウムでタンパク質を凝固します。--→コレステロール値を下 げ、動脈硬化・心筋梗塞を予防します。しかし、HDL(善玉)コレステロール値 も低下させ、また、酸化されやすいので過剰摂取は「がん」などの原因にもな
ります。 ○ おから----豆乳の絞りかすです。--→LDL(悪玉)コレステロール値を低下させ、 動脈硬化・心筋梗塞・高血圧の予防効果があり、胃酸の分泌調整をし、整腸作 用もあります。 ※ 豆腐を作るには大豆を粉砕して加熱し、濾過します。そのときの濾液が豆 乳で、絞りかすが「おから」です。大豆飲料と豆乳飲料の違いについてお 話しましょう。大豆飲料は大豆を粉砕して加熱したものですから、豆乳と 「おから」が一緒になったものです。ですから大豆飲料には食物繊維があ り、豆乳飲料には食物繊維はありません。 ○ 湯葉----豆乳を加熱してできる表面の薄い膜です。--→大豆タンパク・イソフ ラボンを多く含む低脂肪・高たんぱく食品です。 ○ 高野豆腐(しみ豆腐)----豆腐を凍結乾燥させたものです。--→豆腐を凝縮させ たものなので、豆腐に比べ、グラム当たりの 栄養価が高い食品です。そのため、カロリー も高いので食べすぎには気をつけて下さい。 ○ 納豆----蒸し大豆に納豆菌をつけて発酵させ たものです。発酵によりタンパク質がアミノ 酸に分解され、旨みのもととなっています。 納豆菌によって、他の大豆製品に無い栄養素 が生成されています。種類としては、糸引き 納豆の他、五斗納豆(山形)・金山時納豆(熊 本)・寺納豆(関西)・干し納豆(茨城)などがあ ります。--→血液をサラサラにする効果があ り、発酵により大豆タンパクの約 10%がアミ ノ酸に分解されて旨みが増し、タンパク質の吸収率がアップします。 ○ てんぺ----吸水させた大豆をゆで、皮を除いて、やや酸性で発酵させたもので す。発酵菌の菌糸で、白くブロック状に固まっています。インドネシアで数百 年続く伝統的な無塩発酵食品です。--→成長や発育の遅れ・肌あれ・抜け毛・ 味覚障害・肝臓の異常などの予防効果があります。 ○ 豆腐よう----沖縄豆腐に塩をまぶし、泡盛と紅麹菌に 2~6 ヶ月間漬け込み発 酵させた沖縄地方独特の珍味です。--→大豆タンパクを多く受け継ぐが、塩分 も多い食品です。紅麹菌にはコレステロールを下げる効果があります。 ○ 豆腐ちくわ----木綿豆腐と魚のすり身を(2:1)で食塩と混ぜ、練り上げ調味し た鳥取県の特産物です。--→植物性タンパク質と、動物性タンパク質が同時に 摂れます。 ○ 味噌----大豆とでんぷん質(米・麦・豆)に塩と麹を加え、発酵・熟成させたも のです。--→発酵によりアミノ酸が豊富であり、大豆タンパクが吸収されやす く、消臭・殺菌効果があります。
○ 醤油----大豆と小麦に麹菌を加えて麹を作り、食塩を加え(もろみの生成)発酵 熟成し、圧搾(もろみから醤油を搾り出す)したものです。--→発酵によりアミ ノ酸が豊富であり、大豆タンパクが吸収されやすく、消臭・殺菌効果がありま す。香味成分によって胃液の分泌が促進されます。 4. 温泉療法の意義と糖尿病(その1) 加藤院長 日本温泉気候物理医学会という学会があり、伝統のある学会なのです。温泉の医学的な意義 を研究、学会発表されています。現在わたくしも会員になっています。 (1)全国の温泉と宿泊施設数 平成 15 年度の統計では、温泉の総数は 27,041 とのことです。その内、宿泊 施設のある温泉地は 3,102 ケ所です。過去には長期滞在による湯治という重要 な習慣がありました。現在は観光レクリエーションがポイントであり、急いで 入る効果を引き出そうとする入浴法が増えました。近年は、予防医学的に意義 が研究・注目されています。 (2)安全な温泉の利用法 温泉は、自然から日本人への素晴らしい贈り物です。しかし、全国では入浴 中の溺死や入浴直後の死亡を合わせると、年間約 1 万人にもなります。65 歳以 上の突然死の 1/4 は入浴中とされています。栃木県では交通事故で亡くなる方 よりも、温泉で亡くなる方のほうが多いのが現状です。死亡例の多くが、正し い入浴法の実行で防ぐことができたと考えられます。本日は、正しい温泉の楽 しみ方について学びましょう。 (3)温泉の定義・昭和 23 年による温泉法第2条 ○温泉とは地中から湧出する温水、鉱水、および水蒸気その他のガス(炭化水 素・天然ガスを除く)で、成分表にある温度または物質を有するものをいう。 ○よって温泉は温度が 250C以上、または規定量の物質を 1 種でも含有するもの とする。 (4)日本と欧州での成分の差 ○温泉は、火山性と非火山性の 2 つに分かれます。日本は火山性が多く、マグ マ成分を多く含むため熱く、硫黄を含む硫酸温泉などの刺激性酸性泉が多く 見られます。 ○非火山性の温泉は地殻変動で水が閉じ込められた化石海水、湖沼・河川が閉 じ込められた化石陸水などもあります。少なくとも 100 年以上が湧出には必 要です。 ○欧州では非火山性の炭酸温泉が多く見られます。 (5)安全な入浴法 : 高齢者の事故防止 ①一人で入浴しないこと。 ②浴槽の蓋を利用して家庭の事故防止 ③更衣室と浴室の温度管理 ④入浴前後に水分補給する ⑤420C以上の高温浴をしない ⑥水位は胸まで ⑦朝の入浴を避ける----朝は血圧が高くなりやすいので、高温の露天風呂などは特に避ける ⑧飲酒後の入浴はしない----お酒を飲むと血管が拡張して血圧が下がります。 そのうえ、お風呂に入ると更に血管が拡張し、血圧が下がり危険な状態にな ります。 ※この続きは「温泉療法の意義と糖尿病(その 2)」として、次の勉強会でお話 します。 (不許転載 患者教育使用可 加藤光敏、加藤則子)