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第13回 欧州大腸肛門病学会(ESCP)研修報告記 第72巻03号0140頁

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Academic year: 2021

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Travelling Fellowship レポート

第 13 回 欧州大腸肛門病学会(ESCP)研修報告記

 

渡邉  純        横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター外科

 今回,フランスのニースで開催された ESCP の Travelling Fellowship に選出していただき,約 3 週 間の欧州訪問をさせていただきました.このような貴重な機会を与えてくださった日本大腸肛門病学 会ならびに ESCP の関係者の皆様に深く感謝申し上げます.2018 年の 2 月に ESCP Travelling Fel-lowship に選出していただき期待に胸を膨らませながら,希望する訪問先の選定に入りました.今回 の訪問では,結腸癌領域では欧州発祥の概念である complete mesocolic excision(CME)を,また, 直腸癌領域では transanal total mesorectal excision(taTME)を見学したいと考えていました.以前 の欧州大腸肛門病学会(ESCP)研修報告記を参考に英国の Imperial College(St. Mary’s Hospital), スウェーデン Karolinska 医科大学,スペインの Barcelona 大学(Hospital Clinic Barcelona)を希望 しました.昨年から ESCP の秘書さんが変わり,メールをしてから返事が来るまで 1 週間以上あくな どでスケジュールがなかなか決まらず,最終的に飛行機のチケットがメールで送られてきたのが出発 の 10 日前,宿泊先が送られてきたのが 6 日前という,かなりぎりぎりの様相で一抹の不安を覚えて旅 立つこととなりました.また,スペインのバルセロナ大学(Hospital Clinic Barcelona)は Dr. Lacy が夏休みということで残念ながら,施設の変更となり,ESCP の秘書さんの推薦でフランスのマルセ イユにある Dr. Lelong の施設(Institut Paoli Calmettes)に見学に行くこととなりました.今回の秘 書さんは,こちらから問い合わせないと,訪問先のアテンドしていただく先生の連絡先などは教えて くれないため,早めに連絡先を聞いて訪問する施設に連絡をする必要がありました.

 最初に訪れたのは,英国ロンドンの Imperial College(St. Mary’s Hospital)でしたが,滞在期間に手 術がないとのことで,関連病院である St Mark’s Hospital に行くこととなりました.St Mark’s Hospi-tal はロンドンから地下鉄で 30 分ほどの郊外に位置する病院で,非常に歴史のある病院です.

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 最初に案内してくれたのは,コンサルタント(独立したスタッフポジション)の Dr. Janindra で IBD を専門とする先生でした.イギリスの手術で日本と大きく異なることが2つあり,1 つは腹腔鏡 の手術を 2 人で行うことです.助手による視野展開が不十分なまま(助手は片手に scope,もう一方 に鉗子を持っているため基本的には鉗子 1 本での視野展開です),大胆な鈍的剥離を加えながら超音波 などのエネルギーデバイスで切り進むというものでした.剥離層の認識が難しく,レジデントがかな り難渋して術者を担当していました.もう1つは,教育姿勢の違いです.日本では指導医がかなり熱 の入った指導をすることが多いと思いますが,コンサルタントは非常に紳士的で,レジデントが難渋 していても,あまりとやかく言わず暖かく見守っていました.言い方を変えれば,術中にあまり教え ないということです.コンサルタントによる違いかとも思いましたが,St Mark’s Hospital での見学 中,一貫してそのような状況でしたので,イギリスの個人主義を垣間見た気がしました.手術は taTME,ストマ閉鎖,痔ろう根治術などを見学させていただき,非常に有意義に過ごしました.  見学後は,本場でのオペラ座の怪人を鑑賞し,フィッシュアンドチップスを堪能したりしてロンド ンの街を満喫しました.続いての案内役は,コンサルタントの Dr. Miskovic でした.ESCP の CME educational course の講師を務めるなど,CME に精通した医師で,術前 CT をどう読んでいるか, strategy をどう立てているかなどに加え,CME の概念を基本から教えてくれました.日本の医師か

写真 3  Dr. Miskovic(左)と St Mark’s Hospital にて 写真 2  Dr. Janindra(左)と St Mark’s Hospital にて

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らの話も積極的に聞いているようで,中枢郭清は SMA の左側縁で,動脈の根部を処理する D3 郭清, 間膜は CME の概念でかなり広くとるといった手術を行っていました.しかし,イギリスでは CME が 普及するにつれ,十二指腸損傷や膵液瘻などの合併症が増えて問題となっており,すべての症例に CME を行うべきではないという意見で,その解決策として,ロボット手術に期待していると話して いました.当日見学したのは,直腸ポリープに対する TAMIS と Da Vinci による結腸右半切除でし た.結腸右半切除症例は日本では見たこともない,脂肪の上に脂肪がのるような高度な内臓肥満であ り,日本人は内臓肥満が少ないといわれるのも納得できるような症例でした.イギリスでは先述の通 り,腹腔鏡手術の体制は視野展開に限界があるため,ロボット手術は結腸癌に対しても非常に有用で あると感じると同時に,非常に勉強になる見学となりました.また,Leeds 大学を中心に開始されて いた INTACT study(ICG 蛍光法血流評価のランダム化比較試験)などに関してもいろいろと教えて いただきました.  次に訪れたのは,スウェーデン Karolinska 医科大学です.ノーベル医学生理学賞の選定にもかかわ る欧州最大級の名門医科大学であり,特に大腸外科では,大腸癌拡大手術に習熟した施設であり,レ ベルの高い手術がなされている施設です.

 案内してくれたのは Dr. Anna で女性外科医でした.Extralevator APE で有名な Prof. Holm が率い る大腸外科のコンサルタントの半数は女性外科医であり,女性外科医の比率の多さに驚きました. Dr. Anna に聞いてみると,「夫の協力があるからできるのよ」と,私には耳の痛い言葉であり,夫婦 間の協力の重要性を再認識しました.また,当直明けの医師は朝のカンファレンスが終わり次第帰宅 するなど,勤務時間の管理も徹底されていました.病院到着後早々に朝のカンファレンスに出ました が,再発直腸癌や激しい進行直腸癌症例がカンファに出ており,レベルの高い議論が展開され非常に 興味深いものでした.スウェーデン中からそのような症例が集まってくる関係で,通常の結腸癌は他 の施設に送っていると聞き非常に驚きました.そのため,手術は開腹手術が多く,腹腔鏡率は 50%程 度とのことでした.当日の症例は膀胱,右骨盤壁に浸潤する超進行巨大直腸癌で,開腹で Dr. Anna が TPE を行いました.左内腸骨動静脈を根部で腫瘍と en bloc に切除する手術でしたが,大きな出血 もなく手際よく手術は進み,レベルの高さを実感させられる手術でした.また,チームワークが非常 写真 4 大腸外科の医局があるヘリコプタータワー,Karolinska 医科大学

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に良いのも印象的でした.翌日は直腸腫瘍に対する TAMIS などを見学することができました.夜は Holm 教授と,カロリンスカの放射線科で consultant をしている放射線科の鈴木先生にシーフード料 理の dinner に招待していただき,ワインを飲みながら直腸癌の MRI 診断(ヨーロッパには MRI の 3 つの派閥がある…)などの話で盛り上がり,非常に楽しい時間を過ごすことができました.

 最後に訪れたのは,フランスのマルセイユにある Institut Paoli Calmettes です.フランスで TME と taTME の RCT を行っている Dr. Lelong の手術を見学しに行きました.ESCP の秘書さんから連絡 先を聞き,あらかじめメールをしていたのですが,前日の夜まで Dr. Lelong から全く返事がなく見学 できるか心配でした.また病院のホームページもフランス語で全く分からず電話もかけられなかった ため,ESCP の秘書さんにメールをして,集合場所もわからぬままとりあえず朝病院に向かいました. ようやく朝,ESCP の秘書さんから集合場所の連絡が入り,何とかたどり着くことができました.当 日はイギリスとルーマニアからの見学の先生も来ており,Dr. Lelong から現在行っている taTME の 写真 5  Holm 教授(中央),放射線科の鈴木先生(左)と,Karolinska 医 科大学にて 写真 6  見学に来ていたメンバーと,Dr. Lelong(中央),留学中の後輩の諏訪雄 亮医師(左から 1 番目),Institut Paoli Calmettes にて

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臨床試験,自施設の taTME の成績,投稿論文などの講義を受けた後,開腹の Hartmann 手術や TPE などを見学しました.彼の電気メスさばきは見事で非常に有意義な見学となりました.  最後に,ESCP に参加するために,学会会場であるニースへ行きました.ニースはリゾート地であ り非常に気候も良く素晴らしい街です.学会での発表は近赤外光観察を用いた脾湾曲部癌のリンパ流 に関する発表をさせていただきました.メインホールでかなり広い素晴らしい会場で発表させていた だき,非常にいい経験になりました.会場には日本から参加の先生や,Karolinska 医科大学でお世話 になった Prof. Holm などが聴講しに来ていただきました.また発表後は,韓国の Seon-Hahn Kim 先 生など各国の先生に個別に質問され,有意義な discussion をすることができました.まだまだ,ヨー ロッパに滞在したいと後ろ髪をひかれながら,帰国の途につくほど,楽しく有意義な研修であったと 思います.  今回の欧州訪問では,実際に現地に行かないとわからないリアルな医療を,各国の外科医と実際に 交流し,現場での手術手技を見学することによって体験することができ,大変貴重な時間を過ごすこ とができました.また手術手技のみならず,外科医のチームワークの良さ,効率化された診療システ ム,疾患概念のとらえ方,コンセプトの創造とその発信力など,さまざまな点で参考にすべきものが 多くあり,間違いなく今後の貴重な財産となる経験であったと実感しています.最後になりましたが, このような素晴らしいプログラムを提供いただいた日本大腸肛門病学会の国際委員長の宮島伸宜先生 をはじめとした関係者の皆様,ESCP の関係者の皆様,また,快く送り出していただき不在中に診療 にあたっていただいた横浜市立大学附属市民総合医療センターの皆様には,改めて深く感謝申し上げ ます. 写真 7  発表の風景,ESCP 会場のメインホールにて

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