Title
「新常態」に入った中国の農産物貿易の新動向 --迫りつ
つある輸入農産物の脅威にどう対処すべきなのか--Author(s)
沈, 金虎
Citation
生物資源経済研究 = The Natural Resource Economics
Review (2017), 22: 13-40
Issue Date
2017-03-25
URL
http://hdl.handle.net/2433/219125
Right
Type
Departmental Bulletin Paper
Textversion
publisher
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1.はじめに
改革・開放政策を実施してから30数年、中国の経済成長には目を見張るものがあった。 1978年当初、225ドルだった1人当たりGDPは2015年に8000ドル近くとなり、18%だった 都市人口比率も55%に上がった。とりわけ、過去に著しく過剰状態にあった農村労働力は 数年前から供給不足となり、その影響で全国各地の賃金水準が急速な上昇傾向を示し始めた。 しかし急速な賃金上昇は一時「世界の工場」と称された中国の工業製品の輸出に負の影響 を与え、またリーマン・ショック後に景気刺激のために行われた大規模な財政投融資は多くJinhu Shen: Agricultural Trade of China under the “new normal” economy: how to Deal with Threat of Rapidly Growing Agricultural Productsʼ Import
In this paper, we first investigated change in agricultural trade, with a particular focus in the change of imports in China since the 1990's, by using statistical data from FAOSTAT and Chinese government. We then analyzed the fundamental economic background, and the influence of agricultural policy such as trade and domestic agricultural support policy. Followings were elucidated by our research:
Traditionally, China was a self-sufficient country for agricultural products. however, due to liberalizing soybean imports in 1996, and two times of significant tariff reduction on vegetable oil and cotton in 2002 following WTO accession, and again in 2005, imports of soybean, vegetable oil and cotton began to increase rapidly, while imports of other agricultural products did not increase so much then.
nevertheless, after the 2008 Beijing Olympic Games, importation of almost all agricultural products began to show rapid increases.
Four factors can be considered as the reasons of this change. The first factor is the sharp increased cost of the domestic agricultural production, mainly caused by rapid increase of labor and land cost; The second factor is the appreciation of RMB exchange rate; The third factor is the tariff rate determined at the time of WTO accession can no longer provide a sufficient border protection to many agricultural products; The last factor is that the governmentʼs price support policy since 2008 did not only fail to enhance the international competitiveness of domestic agricultural products, but may also give them fully counter effects.
迫りつつある輸入農産物の脅威にどう対処すべきなのか
沈 金虎
14 生物資源経済研究 の基礎産業で深刻な生産能力過剰を招いてしまったため、ここ数年、中国の経済成長は明ら かな減速傾向を示した1)。これを機に、近年よく聞こえてくる話題の一つは、中国の高度成 長期はもう過ぎ去り、これからは低成長の「新常態」、即ち、「ニュー・ノーマル」状態に入 るといったことである。 ところが、変化はこれに留まらず、農業分野でも様々な構造変化が起き、これまでとは性 質が全く異なる問題が現れ始めた。改革・開放後の30数年間、確かに中国農業は飛躍的な 発展を成し遂げた。農工間の所得格差や農村地域の環境汚染の問題は未解決のままだが、長 年の「食料不足問題」はほぼ解消され、一般国民の食生活は以前と比べられないほど改善し た。数年前までは、主要農産物の高い自給率を維持できたことで、中国政府や農経研究者ら はあのレスター・ブラン氏が危惧した「中国が国際市場から大量の穀物を輸入する」事態を 回避できたことを自慢さえしていた。しかし近年、その自慢話はもうできなくなるほどの情 勢変化が訪れてきた。 1996年に輸入自由化された大豆の輸入急増(2015年に輸入量は8000万トン超、自給率 は12%)は言うに及ばず、自由化されていない他の農産物の輸入も急増し始めたのである。 その典型は棉花。棉花について、2001年末中国がWTO加盟時に関税割当枠89万トン、二 次関税40%と決められたが、その後の実際輸入量は89万トンの枠を遥かに超え、ピーク時 (2012年)には513万トン(国内総仕向量の44%)をも輸入した。WTO加盟時に輸出拡大 が期待された畜産物でさえ、結局、輸出量は余りに伸びずに、2009年以降却って輸入量の方 が急増し始めた。更に、比較的に高い関税が設定された米と小麦などの穀物類ですら、近年、 輸入量が急速に拡大しているのである(表1~表5を参照)。 中国の農産物の大量輸入はもちろん中国政府と農業生産者にとって重大な問題だが、国際 社会にとっても大きな関心事である。20数年前、あのレスター・ブラン氏が「誰が中国を養 えるか」との警鐘を鳴らした時、中国政府はまだ農産物価格の引き上げにより、国内生産を 刺激して、結果的に農産物の輸入急増を阻止できたが、今回はそういう訳にはいかない。深 刻化する農工格差と農村環境汚染問題を抱え、その対処に迫れられ続けている中で、新たに 表面化してきた農産物の国際競争力の低下と輸入農産物急増の脅威にどう立ち向かうかは、 中国にとってこれまでにない大きな挑戦である。 以下、第2節ではまず1990年代以降、中国の農産物貿易の変化動向を振り返り、そのな かで近年の農産物貿易の構造変化と輸入の急増ぶりを確認し、第3節ではその変化の背景 要因としての中国農村の社会・経済環境や、政府の農産物価格政策の変化を紹介し、また 主要農産物の実際の内外価格差と内外生産費差の変化を明らかにする。また第4節ではも う一つの背景要因となる農産物関連の貿易政策、とくにWTO加盟後と近年諸外国とFTA、 ePA協定を締結後の農産物関税条件の変化、及び1990年代半ば以降中国の国内農業支持政 策とその政策効果を整理・紹介する。最後の第5節では、結論を纏め、若干の政策提言を行っ て結びとする。
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2.1990 年代以降、中国の農産物貿易の変化
まず農産物貿易の全体動向をその種目別の輸出入額の変化で確認し、そのうえ、近年顕著 な輸入増加傾向を見せたものについて、その詳細品目の輸出入量の変化を見ていく。 2.1 中国の農産物輸出入の全体動向 表1は、1990年以降、中国の主要農産物種目別の輸出額と輸入額の変化を示したものであ る。それによると、農産物の輸出は総額で増え続けているが、一部の種目(棉花、シルク) は1990年代から、多くの種目(穀物、油糧種子、肉類など)は2000年代後半から停滞か、 縮小傾向に転じた。とりわけ、2001年末WTO加盟時には中国が比較優位をもち、輸出拡大 が期待された畜産物の肉類の輸出は大きく伸びず、2005年以降は低迷状態に陥ったし、穀類 の輸出も2008年から大きく縮小した。辛うじて、輸出増加傾向を維持し続けているのは、 野菜・果物、お茶、砂糖と煙草の4種目だけで、しかも後の2種目は2005年頃から輸入も 急速に増え続けているので、現時点で中国が純輸出の状態を保ち、かつ輸出が増え続けてい るのは野菜・果物とお茶の2種目だけになった。 一方、農産物輸入額の方も増え続けているが、WTO加盟後の伸びはより顕著になった。 そのため、WTOに加盟して間もなく、中国が農産物の純輸入国となり、以来その貿易赤字 額は年々拡大し、2010年前後から赤字額は輸出額に匹敵、つまり、輸入額が輸出額の倍ほど に拡大した。ただ、種目によって、様子が大きく異なっている。中には金額規模が小さい上、 大きな傾向変化が見られないもの(卵類とシルク)があれば、年度によって輸入額が大きく 変動するもの(穀物と植物油)と明らかな増加傾向を示したもの(油糧種子、棉花、肉類など) もある。しかし、卵類とシルクを除ければ、他のすべての種目の輸入は増加傾向にあり、ま た増加の開始時期によって、2グループに分けられる。すなわち、第1グループは、2000年 以前から速度でも金額規模でも顕著な増加傾向を示したもので、油糧種子、植物油と棉花の 3種目がそれに該当する。この時期から油糧種子、植物油の輸入が急増し始めたのは、1996 年の大豆とWTO加盟後の菜種の輸入自由化と非常に低い関税、それに国内の旺盛な消費需 要に支えられたものであるが、輸入自由化していない棉花の輸入急増の背景には、WTO加 盟後に繊維製品の対外輸出が急増して、それによる棉花派生需要が急増したことに原因があ ると考えられる。 それに対して、第2グループは、2008年前後から顕著な輸入拡大がみられたもので、それ には多くの農産物種目が含まれた。輸入額の多い順でいうと、穀物、野菜・果物、肉類、乳 製品、それに砂糖、煙草がそのグループに入る。という訳で、先行した第1グループに、第 2グループが加わり、いま中国の主要農産物のほぼ全てが輸入急増、あるいは輸入増加傾向 にあるのである。16 生物資源経済研究 とりわけ、穀物、畜産物と油糧種子、棉花は中国農業において重要な位置付けを占めてい るので、以下、これらの種目について、より詳細な品目別の輸出入量の変化を見てみよう。 2.2 WTO 加盟前から増え始めた油糧種子、植物油と棉花の輸入 まず、輸入が先行して増え始めた第1グループから見ることにしよう。 周知のように、油糧種子には大豆、菜種のほか、落花生、棉実、ヒマワリ、ゴマなど多 くの品目があるが、ここでは最重要の大豆と菜種の2品目だけを取り上げる。表2による と、1990年代前半まで中国は菜種の輸出入をあまりしておらず、ほぼ自給自足の状態にあ り、大豆についても輸入量がほぼゼロ、年間数十万トンほど輸出するのみであった。しかし、 1996年に大豆の輸入自由化が決まってからは、その輸出は減り始め、逆に輸入の方が急速 に増え始めた。 出所:2013年まではFAOSTAT、2014、2015年は中国商業部「農産品貿易月度統計報告」による。 注:FAOSTATの農産物計の輸出入額には水産物が含められていない。統一のため、2014、2015年の中国商務部の 同数値も水産物を除外した。 表 1 1990 年以降、中国の農産物類別輸出入額の変化 年前後から赤字額は輸出額に匹敵、つまり、輸入額が輸出額の倍ほどに拡大した。ただ、種目によ って、様子が大きく異なっている。中には金額規模が小さい上、大きな傾向変化が見られないもの 表 㻝㻌 㻝㻥㻥㻜 年以降、中国の農産物類別輸出入額の変化 単位:億ドル 㻌 年次㻌 農産㻌 物計㻌 穀物㻌 油糧㻌 種子㻌 動植物 油脂㻌 肉類㻌 乳製品㻌 卵類㻌 野菜㻌 果物㻌 砂糖㻌 お茶㻌 煙草㻌 棉花㻌 シルク㻌 その他㻌 輸㻌 出㻌 額㻌 1990 84.0 5.4 6.2 1.6 7.9 0.3 0.3 17.6 3.2 4.1 1.7 3.2 4.5 27.9 1995 114.8 1.3 5.2 4.5 13.5 0.3 0.3 34.0 3.2 2.7 10.0 0.5 3.5 35.7 2000 121.1 16.9 4.2 1.1 12.4 0.5 0.3 33.5 2.6 3.5 3.0 3.1 3.3 36.7 2005 194.7 15.0 7.0 2.6 19.3 0.8 0.7 74.1 5.0 4.8 5.4 0.1 2.8 57.0 2006 213.5 11.4 5.7 3.6 20.2 0.9 0.8 89.8 5.6 5.5 5.7 0.3 2.4 61.7 2007 267.9 21.8 7.1 3.0 20.7 2.4 0.9 113.6 6.6 6.0 6.4 0.4 3.8 75.2 2008 291.5 7.5 10.0 5.7 19.1 3.0 1.3 124.5 8.2 6.8 7.4 0.4 3.7 93.6 2009 282.1 7.1 7.4 3.1 19.2 0.6 1.2 123.1 9.0 7.0 8.8 0.2 2.6 92.8 2010 348.9 6.6 7.1 3.4 24.4 0.4 1.4 161.1 12.4 7.8 10.2 0.1 3.7 110.3 2011 423.0 7.5 8.3 4.8 29.4 0.8 1.7 192.7 14.8 9.7 11.4 0.8 4.0 137.1 2012 435.1 5.9 10.1 5.0 31.3 1.3 1.3 185.7 14.6 10.4 12.6 0.4 4.0 152.3 2013 464.9 6.6 9.6 5.1 30.4 0.6 1.8 203.5 16.8 12.5 13.2 0.2 4.2 160.4 2014 504.5 4.5 - 6.4 38.4 - - 201.8 15.4 12.7 12.8 0.3 - - 2015 505.9 3.2 - 6.7 33.9 - - 215.8 15.6 13.8 13.5 0.5 - - 輸㻌 入㻌 額㻌 1990 55.5 23.4 0.2 9.8 0.5 0.8 0.0 0.8 3.9 0.1 1.3 7.2 0.0 7.4 1995 116.1 35.9 1.1 25.9 1.0 0.6 0.0 1.8 9.4 0.0 3.6 14.9 0.2 21.8 2000 99.1 5.9 29.4 9.5 6.4 2.1 0.0 5.2 1.8 0.0 2.0 1.4 0.1 35.1 2005 262.4 14.0 80.0 33.5 5.9 4.6 0.0 13.5 4.5 0.1 3.8 32.5 0.1 70.0 2006 305.4 8.3 79.5 39.1 6.9 5.6 0.0 17.0 6.2 0.1 4.6 49.7 0.1 88.3 2007 393.8 5.2 120.5 74.4 15.3 7.4 0.0 20.1 4.9 0.1 5.4 35.8 0.1 104.7 2008 570.8 7.1 228.8 106.1 23.1 8.6 0.0 21.5 4.2 0.2 7.9 35.6 0.0 127.7 2009 495.9 8.8 206.8 77.3 17.0 10.3 0.0 31.1 4.8 0.2 8.4 22.1 0.0 109.0 2010 709.5 15.1 265.4 89.4 22.3 19.7 0.0 41.6 10.4 0.5 7.9 58.5 0.1 178.7 2011 950.7 20.2 313.7 115.4 34.0 26.2 0.0 55.1 21.4 0.6 11.4 96.8 0.1 255.8 2012 1103.8 47.6 377.4 131.5 41.1 32.1 0.0 69.2 25.7 0.7 13.2 120.0 0.1 245.2 2013 1153.9 50.7 414.3 108.7 59.3 51.9 0.0 74.2 24.0 0.8 14.6 87.2 0.1 268.0 2014 1146.5 61.0 - 91.2 66.8 - - 85.0 17.8 - 20.9 49.9 - - 2015 1093.7 92.8 - 78.9 73.5 - - 73.3 23.6 - 18.6 25.7 - - 出所:2013 年までは FAOSTAT、2014、2015 年は中国商業部「農産品貿易月度統計報告」による。 注: FAOSTAT の農産物計の輸出入額には水産物が含められていない。統一のため、2014、2015 年の中国商務部の同 数値も水産物を除外した。 卵類とシルクがあれば、年度によって輸入額が大きく変動するもの(穀物と植物油)と明らかな 増加傾向(油糧種子、棉花、肉類など)を示したものもある。しかし、卵類とシルクを除ければ、 他のすべての種目の輸入は増加傾向にあり、また増加の開始時期によって、2グループに分けられ る。すなわち、第1グループは、 年以前から速度でも金額規模でも顕著な増加傾向を示したも ので、油糧種子、植物油と棉花の3種目がそれに該当する。この時期から油糧種子、植物油の輸入 が急増し始めたのは、 年の大豆と :72 加盟後の菜種の輸入自由化と非常に低い関税、それに国 内の旺盛な消費需要に支えられたものであるが、輸入自由化していない棉花の輸入急増の背景には、 :72 加盟後に繊維製品の対外輸出が急増して、それによる棉花派生需要が急増したことに原因があ ると考えられる。 それに対して、第2グループは、 年前後から顕著な輸入拡大がみられたもので、それには多 くの農産物種目が含まれた。輸入額の多い順でいうと、穀物、野菜・果物、肉類、乳製品、それに 単位:億ドル
17 沈 金虎:「新常態」に入った中国の農産物貿易の新動向 大豆の輸入量は早くも2000年に1000万トンの大台を突破し、その後もうなぎ登りのよう に拡大し続け、2015年の輸入量は8160万トンにも達した。ちなみに、同年の国内大豆生産 量が1100万トン強なので、この年の大豆自給率はすでに12%まで下がってしまったという 計算になる。1995年までまだ大豆の純輸出国だったのに、20年後の今は世界最大の大豆輸入 国となった激変ぶりだ。一方、菜種については、油形態の輸入がメインなので、菜種自身の 輸入量は大豆ほど増えていない。それでも、その輸入量は2008年に100万トン超、2013年 以降は300~500万トン台まで増加した。ちなみに、2015年に中国国家統計局が公表した菜 種の国内生産量は1493万トンで、別途81.4万トンの菜種油輸入(193万トンの菜種に相当) を考慮にいれると、その年に中国の菜種自給率も70%を割ったことになる。 種子形態の大豆と菜種のほか、中国はまた大量の植物油を輸入している。植物油の輸入は 大豆に遅れて2000年代に入ってから急速に増え始めた。背景には2001年WTO加盟後の関 税割当枠(年間252万トン~358万トン)と、2006年後の輸入自由化があると思われるが、 中身的には最大のシェアを占めているのはパーム油で、その次に多いのは大豆油と菜種油で ある。そのうち、パーム油の輸入量は2005年に400万トン、ピーク時の2012年には725万 トンに達し、全植物油輸入量の85%を占めた。近年、パーム油などの植物油の輸入は若干 減少気味、その減少分を埋め合わせる形で、大豆の輸入量が一段と拡大した。輸入大豆と輸 入菜種が全部搾油に使われると仮定して、その換算油輸入量を含めると、2012年の時点に中 国の植物油の自給率はすでに27.5%までに下がった。 一方、棉花の輸入は油糧種子や植物油と違って、今なお自由化されていない。2001年末に 中国がWTO加盟した際、89万トンの優遇関税割当枠を設定し、枠内の輸入品には非常に安 い関税(1%)、枠を超えた輸入品には40%の二次関税を課すと定められた。なのに、2005 年の輸入量は257万トン、そしてピーク時の2012年の輸入量は513万トンにも達し、その 出所:2013年まではFAOSTAT(但し、植物油と棉花の輸入量は各年とも国家統計局『中国農村統計年鑑』2014年版)、 2014、2015年は中国商業部「農産品貿易月度統計報告」による。 表 2 1990 年以降、中国の油糧種子、植物油と棉花の輸出入量の変化 砂糖、煙草がそのグループに入る。という訳で、先行した第1グループに、第2グループが加わり、 いま中国の主要農産物のほぼ全てが輸入急増、あるいは輸入増加傾向にあるのである。 とりわけ、穀物、畜産物と油糧種子、棉花は中国農業において重要な位置付けを占めているので、 以下、これらの種目について、より詳細な品目別の輸出入量の変化を見てみよう。 :72 加盟前から増え始めた油糧種子、植物油と棉花の輸入 まず、輸入が先行して増え始めた第1グループから見ることにしよう。 周知のように、油糧種子には大豆、菜種のほか、落花生、棉実、ヒマワリ、ゴマなど多くの品目 があるが、ここでは最重要の大豆と菜種の2品目だけを取り上げる。表2によると、 年代前半 まで中国は菜種の輸出入をあまりしておらず、ほぼ自給自足の状態にあり、大豆についても輸入量 がほぼゼロ、年間数十万トンほど輸出するのみであった。しかし、 年に大豆の輸入自由化が決 まってからは、その輸出は減り始め、逆に輸入の方が急速に増え始めた。 表 㻞㻌 㻝㻥㻥㻜 年以降、中国の油糧種子、植物油と棉花の輸出入量の変化
単位:万トン 年次 輸出 油糧種子 輸入 輸出 大豆 輸入 輸出 菜種 輸入 輸出 植物油 輸入 輸出 棉花 輸入 1990 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 156.3 96.8 80.4 110.1 93.6 99.4 95.4 81.7 60.2 64.8 76.3 64.1 - - 3.2 41.7 1340.4 2705.9 2933.4 3193.1 3902.5 4636.0 5706.2 5465.1 6230.1 6786.7 - - 94.0 37.5 21.1 39.6 37.9 45.6 46.5 34.7 16.4 20.8 32.0 20.9 21.0 13.0 0.1 29.4 1041.9 2659.0 2827.0 3081.7 3743.6 4255.2 5479.8 5245.3 5838.3 6337.8 7139.9 8168.4 0.6 0.1 0.1 0.0 0.0 0.1 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 9.2 296.9 29.6 73.8 83.3 130.3 328.6 160.0 126.2 293.0 366.3 508.0 447.0 25.0 55.8 14.6 25.9 43.7 21.6 30.6 17.9 17.8 20.5 18.8 21.0 14.6 15.1 112.3 213.0 179.0 621.0 669.0 838.0 816.0 816.0 687.0 657.0 845.0 810.0 650.0 676.0 19.6 3.0 29.9 0.8 1.6 2.5 2.4 1.0 0.7 2.8 2.3 0.8 1.4 2.9 41.7 74.0 4.7 257.0 364.0 246.0 211.0 153.0 284.0 336.0 513.0 415.0 243.9 147.5 出所:2013 年までは FAOSTAT(但し、植物油と棉花の輸入量は各年とも国家統計局『中国農村統計年鑑』2014 年版)、 2014、2015 年は中国商業部「農産品貿易月度統計報告」による。 大豆の輸入量は早くも 年に 万トンの大台を突破し、その後もうなぎ登りのように輸入 量が拡大し続け、 年の輸入量は 万トンにも達した。ちなみに、同年の国内大豆生産量が 万トン強なので、この年の大豆自給率はすでに %まで下がってしまったという計算になる。 年までまだ大豆の純輸出国だったのに、 年後の今は世界最大の大豆輸入国となった激変ぶり だ。一方、菜種については、油形態の輸入がメインなので、菜種自身の輸入量は大豆ほど増えてい ない。それでも、その輸入量は 年に 万トン超、 年以降は ~ 万トン台まで増加 した。ちなみに、 年に中国国家統計局が公表した菜種の国内生産量は 万トンで、別途 万トンの菜種油輸入(193 万トンの菜種に相当)を考慮にいれると、その年に中国の菜種自給率も %を割り切ったことになる。 種子形態の大豆と菜種のほか、中国はまた大量の植物油を輸入している。植物油の輸入は大豆に 遅れて 年代に入ってから急速に増え始めた。背景には 年 :72 加盟後の関税割当枠(年間 万トン~ 万トン)と、 年後の輸入自由化があると思われるが、中身的には最大のシェ アを占めているのはパーム油で、その次に多いのは大豆油と菜種油である。そのうち、パーム油の 輸入量は 年に 万トン、ピーク時の 年には 万トンに達し、全植物油輸入量の % 単位:万トン
18 生物資源経済研究 年の棉花自給率は54%まで下がった。ただ、近年、棉花の輸入量は大幅に減少した。2012 年までの輸入急増とここ数年間の輸入減少の背景と原因について、第4節で述べることに する。 2.3 2010年頃から急増し始めた穀物と畜産食品の輸入 輸入が先行した油糧種子、植物油と棉花に続いて、穀物類、肉類と乳製品類の輸入は 2010年前後から急速な増加傾向を見せ始めた。表3から表5までは、それぞれ穀物類と肉類、 乳製品類内部の品目別の輸出と輸入量の変化を示している。 まず表3により、主要穀物の輸出入量の変化をみると、2008年、2009年頃までは米、小麦 ととうもろこしの三 大穀物とも、輸出量と輸入量が増えたり、減ったりしていた。また輸 入量が多い年には輸出量が少なくなり、逆の年にはまた逆になるので、この時期まで中国の 穀物輸出入は国内の一時的な需給アンバランスを調整するために行われた性格が色濃く表れ た。また1990年から2009年までの間を通してみれば、輸入は減少、輸出は拡大傾向にある ので、中国政府が一時、あのレスター・ブラン氏が危惧した「中国が国際市場から大量の穀 物を輸入する」事態を回避できたことに自慢した根拠はまさにここにあると思う。 しかし、2008年、2009年以降、これまでとは全く違う変化が見られるようになった。三 大穀物とも、輸出量が急速に委縮し、逆に輸入量の方は急速に増加し始め、かつこれまでの ように増えたり、減ったりすることなく、同じ方向性が保たれているのである。直近2015 年の三大穀物の輸入量は、1990年代ピーク時の輸入量を下回り、或は若干超えるレベルに留 まっているが、そのコンスタントな増加傾向が中国における穀物貿易の性格的な変化(一時 的な国内需給アンバランスの調整➡構造的な供給不足の埋め合わせ)を表すものではないか と思われる。実際、表3の「その他穀類」の輸入量をみると、その増加幅と速度にもっと目 出所:表1と同じ。 表 3 1990 年以降、中国の主要穀物の輸出入量の変化 を占めた。近年、パーム油などの植物油の輸入は若干減少気味、その減少分を埋め合わせる形で、 大豆の輸入量が一段と拡大した。輸入大豆と輸入菜種が全部搾油に使われると仮定して、その換算 油輸入量を含めると、 年の時点に中国の植物油の自給率はすでに %までに下がった。 一方、棉花の輸入は油糧種子や植物油と違って、今なお自由化されていない。 年末に中国が :72 加盟した際、89 万tの優遇関税割当枠を設定し、枠内の輸入品には非常に安い関税(1%)、枠 を超えた輸入品には 40%の二次関税を課すと定められた。なのに、2005 年の輸入量は 257 万トン、 そしてピーク時の 年の輸入量は 万トンにも達し、その年の棉花自給率は %まで下がっ た。ただ、近年、棉花の輸入量は大幅に減少した。 年までの輸入急増とここ数年間の輸入減少 の背景と原因について、第4節で述べることにする。 年頃から急増し始めた穀物と畜産食品の輸入 輸入が先行した油糧種子、植物油と棉花に続いて、穀物類、肉類と乳製品類の輸入は 年前後 から急速な増加傾向を見せ始めた。表3から表5までは、それぞれ穀物類と肉類、乳製品類内部の 品目別の輸出と輸入量の変化を示している。 表3㻌 㻝㻥㻥㻜 年以降、中国の主要穀物の輸出入量の変化
単位:万トン 年次 輸出 穀 類 計 輸入 輸出 小麦 輸入 輸出 ともろこし 輸入 輸出 米 輸入 輸出 その他穀類 輸入 1990 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 412.2 70.8 1383.1 1022.0 615.4 1012.3 185.1 140.4 129.5 126.7 106.2 104.7 - - 1371.9 2033.2 315.3 627.1 357.6 154.3 150.7 313.0 568.6 542.6 1395.1 1455.6 1952.0 3270.0 0.3 1.6 0.3 26.0 111.4 233.7 12.6 0.8 0.0 4.0 0.0 0.3 0.1 0.1 1252.7 1159.0 87.6 351.0 58.4 8.3 3.2 89.4 121.9 124.9 368.9 550.7 290.7 300.0 340.4 11.3 1046.6 861.1 307.0 491.7 25.3 13.0 12.7 13.6 25.7 7.8 2.0 1.1 36.9 518.1 0.3 0.4 6.5 3.5 4.9 8.4 157.2 175.3 520.7 326.5 249.3 458.6 32.6 4.6 293.4 65.7 121.8 130.3 94.7 76.2 59.9 48.9 26.7 45.1 41.9 25.6 5.9 164.0 23.9 51.4 71.8 47.1 29.3 33.3 36.3 57.5 233.4 223.6 257.6 337.5 38.8 53.3 42.9 69.1 75.1 156.6 52.6 50.3 56.8 60.2 53.8 51.6 - - 76.4 192.1 203.5 224.3 220.9 95.4 113.3 182.0 253.2 185.0 272.1 354.9 1154.4 2173.9 出所:表 1 と同じ。 まず表3により、主要穀物の輸出入量の変化をみると、 年、 年頃までは米、小麦ととう もろこしの3大穀物とも、輸出量と輸入量が増えたり、減ったりしていた。また輸入量が多い年に は輸出量が少なくなり、逆の年にはまた逆になるので、この時期まで中国の穀物輸出入は国内の一 時的な需給アンバランスを調整するために行われた性格が色濃く表れた。また 年から 年 までの間を通してみれば、輸入は減少、輸出は拡大傾向にあるので、中国政府が一時、あのレスタ ー・ブラン氏が危惧した「中国が国際市場から大量の穀物を輸入する」事態を回避できたことに自 慢した根拠はまさにここにあると思う。 しかし、 年、 年以降は、これまでとは全く違う変化が見られるようになった。3大穀物 とも、輸出量が急速に委縮し、逆に輸入量の方は急速に増加し始め、かつこれまでのように増えた り、減ったりすることなく、同じ方向性が保たれているのである。直近 年の3大穀物の輸入量 は、 年代ピーク時の輸入量を下回り、或は若干超えるレベルに留まっているが、そのコンスタ ントな増加傾向が中国における穀物貿易の性格的な変化(一時的な国内需給アンバランスの調整➡ 構造的な供給不足の埋め合わせ)を表すものではないかと思われる。実際、表3中のその他穀類の 単位:万トン
19 を見張るものがある。「その他穀類」の輸入量は2013年に355万トン、2014年に1154万トン、 そして2015年には2174万トンへと急増し、その結果、2015年に穀物類全体の輸入量は90 年代ピーク時をも凌ぐ3270万トンに達した。三大穀物の輸入拡大が比較的に控えめで、他 の穀物の輸入増加が急激だったことの背景には、三大穀物には65%の輸入関税、他の穀物 には数パーセントの関税しかないことがある。 次に、表4と表5を使って、肉類、乳製品の品目別輸出入量の変化をみよう。 まず肉類について、中国では豚肉、家禽肉、牛肉と羊肉が四大品目に数えられるが、表4 によると、全体的に1995年頃まで中国は輸出が輸入を超過する純輸出国であったが、それ 以降、両者の関係は少しずつ逆転し、輸入が輸出を大きく上回る純輸入国となった。詳細を みると、輸出の方は、牛肉と羊肉が1990年代半ば頃から年間3万トン台以下と少なく、近 年更に縮小して数千トン規模となった。豚肉と家禽肉は2005年頃までそれぞれ25万トン、 15万トン前後であったが、同年以降家禽肉の輸出量は微増傾向にあり、豚肉のそれは大き く減少して6~9万トン台となった。因みに、豚肉輸出量の7、8割、禽肉輸出量のかなり 割合が香港、マカオに仕向けられている。 一方、四大肉類品目の輸入は1995年まで家禽肉が26万トンと比較的に多かったが、牛肉、 豚肉、羊肉のいずれも1万トン未満であった。その後、牛肉、豚肉、羊肉の輸入量は若干 増加し、2009年までに牛肉は1.76万トン、豚肉は52.8万トン、羊肉は6.6万トンに拡大した ものの、対国内生産量の比は0.2~1.7%範囲内に留まっていた。しかし、近年家禽肉の輸 入量はあまり大きく変動していないが、牛肉、豚肉、羊肉の輸入量は急増し始め、2015年の 輸入量は牛肉50万トン弱、豚肉155.5万トン、羊肉22.6万トンとなっている。現段階で国 内の生産量や総消費量に対する輸入量の割合はまだ1割以下であるが、この速度で増え続 出所:表1と同じ。 注:( )内の数値は、食べられる内臓などの副産物の輸入量。 表 4 1990 年以降、中国の家畜肉、家禽肉の輸出入量の変化 輸入量をみると、その増加幅と速度にもっと目を見張るものがある。その他穀類の輸入量は 年 に 万トン、 年に 万トン、そして 年には 万トンへと急増し、その結果、 年に穀物類全体の輸入量は 年代ピーク時をも凌ぐ 万トンに達した。三大穀物の輸入拡大が 比較的に控えめで、他の穀物の輸入増加が急激だったことの背景には、三大穀物には %の輸入関 税、他の穀物には数パーセントの関税しかないことがある。 次に、表4と表5を使って、肉類、乳製品の品目別輸出入量の変化をみよう。 まず肉類について、中国では豚肉、家禽肉、牛肉と羊肉が4大品目に数えられるが、表4による と、全体的に 年頃まで中国は輸出が輸入を超過する純輸出国であったが、それ以降、両者の関 係が少しずつ逆転し、輸入が輸出を大きく上回る純輸入国となった。詳細をみると、輸出の方は、 牛肉と羊肉が 年代半ば頃から年間3万トン台以下と少なく、近年更に縮小して数千トン規模と なった。豚肉と家禽肉は 年頃までそれぞれ 万トン、 万トン前後であったが、同年以降家 禽肉の輸出量は微増傾向にあり、豚肉のそれは大きく減少して ~ 万トン台となった。因みに、豚 肉輸出量の 、 割、禽肉輸出量のかなり割合が香港、マカオに仕向けられている。 表4㻌 㻝㻥㻥㻜 年以降、中国の家畜肉、家禽肉の輸出入量の変化
単位:万トン 年次 輸出 肉 類 計 輸入 輸出 牛肉 輸入 輸出 豚肉 輸入 輸出 羊肉 輸入 輸出 家禽肉 輸入 1990 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 27.31 45.92 47.97 45.76 46.64 34.97 28.80 28.47 35.23 32.21 27.82 29.41 - - 7.03 27.35 114.34 63.25 84.94 133.44 180.91 136.15 153.41 188.06 207.42 255.24 242.53 267.11 9.91 2.12 1.72 1.92 2.76 2.87 2.33 1.38 2.26 2.23 1.26 0.62 - - 0.26(0.3) 0.89(0.6) 3.83(3.2) 0.79(0.7) 0.53(0.4) 1.08(0.7) 0.71(0.3) 1.76(0.3) 3.28(0.9) 2.68(0.7) 7.05(0.9) 31.44(2.0) 31.71( - ) 49.49( - ) 12.71 15.45 5.38 25.09 26.95 13.36 8.22 8.75 11.03 8.08 6.66 8.16 9.15 7.15 0.0( 0.0) 0.2( 0.1) 23.7(10.1) 20.0(16.9) 21.9(19.5) 47.3(38.7) 91.4(54.0) 52.8(39.3) 90.2(70.1) 135.0(88.2) 135.8(83.6) 139.5(81.2) 137.8( - ) 155.5( - ) 0.30 0.14 0.42 3.00 3.34 2.22 1.46 0.95 1.35 0.81 0.50 0.32 - - 0.01 0.16 1.78 4.14 3.68 4.66 5.55 6.65 5.70 8.31 12.39 25.87 28.72 22.65 4.39 28.21 40.45 15.75 13.60 16.53 16.80 17.38 20.59 21.09 19.40 20.31 17.09 18.75 6.76 26.07 85.01 38.34 58.85 80.39 83.30 74.97 54.20 42.09 52.17 58.42 44.25 39.44 出所:表 1 と同じ。 注:( )内の数値は、食べられる内臓などの副産物の輸入量。 一方、4大肉類品目の輸入は 1995 年まで家禽肉が 26 万トンと比較的に多かったが、牛肉、豚肉、 羊肉のいずれも 1 万トン未満であった。その後、牛肉、豚肉、羊肉の輸入量が若干増加し、2009 年 までに牛肉は 1.76 万トン、豚肉は 52.8 万トン、羊肉は 6.6 万トンに拡大したものの、対国内生産 量の比は 0.2~1.7%範囲内に留まっていた。しかし、近年家禽肉の輸入量はあまり大きく変動して いないが、牛肉、豚肉、羊肉の輸入量は急増し始め、2015 年の輸入量は牛肉 50 万トン弱、豚肉 155.5 万トン、羊肉 22.6 万トンとなっている。現段階で国内の生産量や総消費量に対する輸入量の割合は まだ1割以下であるが、この速度で増え続けていけば、大きな問題になると思われる。 また酪農製品については、伝統的に中国が農耕国家であり、酪農業はあまり盛んではない。その ため、もともと酪農製品の生産は少なく、乳製品の輸出量は昔も今もごく僅かの量に留まっている (表5)。そのうち、飲用乳の輸出量は3万トン前後あるが、その殆どは香港、マカオ向けのもので ある。一方、乳製品の輸入の方も、1990 年代まで同商品の一般家庭での消費普及率の低さを反映し て、あまり多くはなかった。しかし、1990 年代後半以降、一般家庭での飲用乳と他の乳製品への消 単位:万トン
20 生物資源経済研究 けていけば、大きな問題になると思われる。 また酪農製品について、伝統的に中国は農耕国家であり、酪農業はあまり盛んではない。 そのため、もともと酪農製品の生産は少なく、乳製品の輸出量は昔も今もごく僅かの量に留 まっている(表5)。そのうち、飲用乳の輸出量は3万トン前後あるが、その殆どは香港、 マカオ向けのものである。一方、乳製品の輸入の方も、1990年代まで同商品の一般家庭での 消費普及率の低さを反映して、あまり多くはなかった。しかし、1990年代後半以降、一般家 庭での飲用乳と他の乳製品への消費需要の増加と国内の供給不足により、粉ミルクや乳清を 始め、バター、チーズの輸入も増え始めた。特に2008年に国産粉ミルクのメラミン混入事 件の発生で、一般国民が国産牛乳とその加工品への不信感が一気に広がったため、外国産乳 製品への需要は一段と拡大した。実際、表5に示すように2009年頃から粉ミルク、乳清と バター、チーズの輸入量が大きく増加し、2011年以降はほかの国ではあまり考えられない液 体の飲用乳輸入量も急増し始めた。2015年に中国が76万トンの粉ミルク、45万トン飲用乳 を輸入し、乳製品の輸入に費やしたお金は、穀物の輸入額に匹敵するほどである(表1を 参照)。
3.経済発展、賃金上昇と農産物生産費の高騰
さて、1980年代、90年代の一時的、かつ一部の農産物のみの輸入急増現象と違って、近年 中国のほぼ全ての農産物の輸入がコンスタントな増加傾向を示し始めたのは何を意味し、ま た何の背景要因があっただろうか。 言うまでもなく、経済発展に伴う農産物の国内需要の急増が背景の一つであるが、生産側 の国産農産物生産コストが急増して、その国際競争力が大きく低下していることも要因とし 出所:表1と同じ。 表 5 1990 年以降、中国の牛乳と乳製品の輸出入量の変化 費需要の増加と国内の供給不足により、粉ミルクや乳清を始め、バター、チーズの輸入も増え始め た。特に 2008 年に国産粉ミルクのメラミン混入事件の発生で、一般国民が国産牛乳とその加工品へ の不信感が一気に広がったため、外国産乳製品への需要は一段と拡大した。実際、表5に示すよう に 2009 年頃から粉ミルク、乳清とバター、チーズの輸入量が大きく増加し、2011 年以降はほかの 国ではあまり考えられない液体の飲用乳輸入量も急増し始めた。2015 年に中国が 76 万トンの粉ミ ルク、45 万トン飲用乳を輸入し、乳製品の輸入に費やしたお金は、穀物の輸入額に匹敵するほどで ある(表 1 を参照)。 表5㻌 㻝㻥㻥㻜 年以降、中国の牛乳と乳製品の輸出入量の変化単位:万トン 年次 輸出 粉ミルク 輸入 輸出 乳清 輸入 輸出 バター 輸入 輸出 チーズ 輸入 輸出 飲用乳 輸入 1990 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 0.10 0.45 1.02 1.78 2.06 6.20 6.38 0.97 0.30 0.93 0.97 0.33 - - 2.67 2.47 7.28 10.69 13.49 9.82 10.10 24.68 41.40 44.95 57.31 85.44 90.01 76.10 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.01 0.03 0.03 0.00 0.06 - - 1.25 3.42 12.28 18.75 18.45 16.66 21.13 28.75 26.30 34.18 37.60 43.06 - - 0.01 0.01 0.02 0.01 0.01 0.59 0.50 0.20 0.30 0.34 0.26 0.08 - - 0.50 0.12 0.31 1.28 1.28 1.40 1.36 2.84 2.34 3.57 4.83 5.23 - - 0.00 0.01 0.04 0.07 0.05 0.05 0.00 0.01 0.02 0.03 0.04 0.01 - - 0.02 0.19 0.20 0.72 0.99 1.32 1.39 1.70 2.29 2.86 3.88 4.73 - - 1.93 2.53 2.94 3.35 3.86 4.56 3.84 2.00 2.27 2.54 2.75 2.60 - - 0.18 0.74 1.49 0.38 0.38 0.41 0.74 1.28 1.68 4.19 9.65 18.78 29.63 44.61 出所:表 1 と同じ。 3.経済発展、賃金上昇と農産物生産費の高騰㻌 さて、1980 年代、90 年代の一時的、かつ一部の農産物のみの輸入急増現象と違って、近年中国の ほぼ全ての農産物の輸入がコンスタントな増加傾向を示し始めたのは何を意味し、また何の背景要 因があっただろうか。 言うまでもなく、経済発展に伴う農産物の国内需要の急増が背景の一つであるが、生産側の国産 農産物生産コストが急増して、その国際競争力が大きく低下していることも要因として挙げられる。 急速な経済発展と変化し続ける農業・農村経済環境 )*'3 の成長:人民元高の影響で名目成長率を大きく上回る米ドル評価の *'3 成長率 表6は、1990 年以降中国の GDP と1人当たり GDP の変化を示している。同表からも分かるように、 中国経済は 1980 年代に続き、90 年代以降も年率 10%前後のスピードで成長し続けた。特に 1995 年 から 2004 年までの 10 年間は対米ドルの為替レートが安定し、また 2005 年から 2014 年までの 10 年 間は同為替レートが 8.28 元/ドルから 6.14 元/ドルまで上昇したため、ドル表示の GDP は名目 GDP と同ペースか、それより速い速度で拡大し続けてきた。なお、2012 年以降、中国の実質 GDP 成長率 は従前の 10%前後から 7%台に減速したが、ドル表示の GDP 成長率は 2013 年までは 12%以上、2014 年にも 9.1%を維持していた。 同様なことは、1人当たり GDP に関しても言える。中国の 1 人当たり GDP は 1990 年に 346 ドル、 2000 年時点にもまだ 1,000 ドル未満であったが、2010 年に 4,500 ドル、そして 2015 年には 8,000 単位:万トン
21 て挙げられる。 3.1 急速な経済発展と変化し続ける農業・農村経済環境 ( 1 )GDP の成長 : 人民元高の影響で名目成長率を大きく上回る米ドル評価の GDP 成長率 表6は、1990年以降中国のGDPと1人当たりGDPの変化を示している。同表からも分 かるように、中国経済は1980年代に続き、90年代以降も年率10%前後のスピードで成長 し続けた。特に1995年から2004年までの10年間は対米ドルの為替レートが安定し、また 2005年から2014年までの10年間は同為替レートが8.28元 / ドルから6.14元 / ドルまで上 昇したため、ドル表示のGDPは名目GDPと同ペースか、それより速い速度で拡大し続け てきた。なお、2012年以降、中国の実質GDP成長率は従前の10%前後から7%台に減速し たが、ドル表示のGDP成長率は2013年までは12%以上、2014年にも9.1%を維持していた。 同様なことは、1人当たりGDPに関しても言える。中国の1人当たりGDPは1990年 に346ドル、2000年時点にもまだ1,000ドル未満であったが、2010年に4,500ドル、そして 2015年には8,000ドル近くまで急上昇してきた。ちなみに、世界銀行の定義では、1人当た りGnIが1,046~4,125ドルの国が下位中所得国、4,126~12,754ドルの国が上位中所得国 に分類されるが、その定義に従えば、中国は2000年前後に低所得国から下位中所得国に、 また2010年頃から上位中所得国に転身したことになる。 ( 2 )産業構造の変化 : 農村出生率と新規就労者の減少で大きく減り始めた農業就労者の比率 急速なGDP成長に伴って、国の産業構造も大きく変化した。1995年から2014までの約 20年間に、中国の農業GDPの割合は19.7%から9.2%に、農業就業者の比率は52.2%か 出所:国家統計局『中国統計年鑑』2015年版と同局hP(http://data.stats.gov.cn/easyquery.htm?cn=C01) のデータにより、筆者が作成。 注:上段行間の増加率は期間中の平均年増加率である。 表 6 1990 年代以降、中国の GDP 成長と為替レートの変化 ドル近くまで急上昇してきた。ちなみに、世界銀行の定義では、1 人当たり GNI が 1,046~4,125 ド ルの国が下位中所得国、4,126~12,754 ドルの国が上位中所得国に分類されるが、その定義に従え ば、中国は 2000 年前後に低所得国から下位中所得国に、また 2010 年頃から上位中所得国に転身し たことになる。 表6 年代以降、中国の *'3 成長と為替レートの変化 年次 人民元表示 (億元、%) 米ドル表示(億$、%) 1 人当たり GDP 為替レート (元/100$) 名目 GDP 名目 増加率 実質 増加率 名目 GDP 増加率 人民元 表示 米ドル 表示 1990 1995 2000 2005 18774 61130 99776 185896 26.6 10.3 13.3 12.3 8.6 9.8 3925 7320 12053 22693 13.3 10.5 13.5 1654 5074 7902 14259 346 608 955 1741 478.32 835.10 827.84 819.17 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 217657 268019 316752 345629 408903 484123 534123 588019 636139 680033 17.1 23.1 18.2 9.1 18.3 18.4 10.3 10.1 8.2 6.9 12.7 14.2 9.6 9.2 10.6 9.5 7.7 7.7 7.3 6.9 27303 35247 45608 50597 60404 74956 84614 94946 103558 109183 20.3 29.1 29.4 10.9 19.4 24.1 12.9 12.2 9.1 5.4 16602 20337 23912 25963 30567 36018 39544 43320 46629 49593 2083 2675 3443 3801 4515 5577 6264 6995 7591 7962 797.18 760.40 694.51 683.10 676.95 645.88 631.25 619.32 614.28 622.84 出所:国家統計局『中国統計年鑑』2015 年版と同局 HP(http://data.stats.gov.cn/easyquery.htm?cn=C01) のデータにより、筆者が作成。 注:上段行間の増加率は期間中の平均年増加率である。 )産業構造の変化:農村出生率と新規就労者の減少で大きく減り始めた農業就労者の比率 急速な GDP 成長に伴って、国の産業構造も大きく変化した。1995 年から 2014 までの約 20 年間に、 中国の農業 GDP の割合は 19.7%から 9.2%に、農業就業者の比率は 52.2%から 29.5%に下がった(表 7)。ただ、両者の変化速度は必ずしも比例的なものではなかった。例えば、1995~2005 年間に農業 GDP の割合は 19.7%から 11.7%へと 8 ポイント、60%弱下がったが、農業就業者比率は 52.2%から 46.9%に 5.3 ポイント、10%しか低下しなかった。それに比べて、2005~2014 年間には農業就業者 比率は 17.4 ポイント、37%下がったのに対して、農業 GDP の割合は 1.5 ポイント、12.8%しか減少 しなかった。つまり、前期には農業 GDP 率が大きく減少し、農業就業者の比率はあまり下がらなか ったが、後期になって状況が真逆となった。 上記の農業 GDP 率と農業就業者比率低下の相対速度の変化の背後には、経済発展が一定の段階に 達すると、農業 GDP 率自身の更なる縮小が難しくなることと、後期になってから農業・農村労働力 の農外移動に対する規制緩和が更に進んだことなどの要因もあったが、最大の原因は人口増加率の 大幅な低下とそれに伴う農村労働力市場の変化にあると思われる。つまり、中国が 1970 年代から「一 人子」政策などの人口抑制策を取り続けてきたので、その効果発揮で、農村地域を含む中国全体の 人口出生率と自然増加率は 1990 年代から低下し続けた結果、農村地域での出生人口数と新規就労人 口数も年々減っている。しかし 2005 年頃までは、農村新規就労人口が依然農外転出人口を上回って いたため、農村労働力の農外転出で他産業の労働人口は増えるが、農業就労人口はあまり減らず、 よって、農業就労者の比率もあまり減らなかった。それに対して、2005 年頃からは農村の新規就労 人口が農外転出人口を下回るようになり、結果として、農村から都市への出稼ぎ労働者や地元での
22 生物資源経済研究 ら29.5%に下がった(表7)。ただ、両者の変化速度は必ずしも比例的なものではなかった。 例えば、1995~2005年間に農業GDPの割合は19.7%から11.7%へと8ポイント、60%弱 下がったが、農業就業者比率は52.2%から46.9%に5.3ポイント、10%しか低下しなかった。 それに比べて、2005~2014年間には農業就業者比率は17.4ポイント、37%下がったのに対 して、農業GDPの割合は1.5ポイント、12.8%しか減少しなかった。つまり、前期には農 業GDP率が大きく減少し、農業就業者の比率はあまり下がらなかったが、後期になって状 況が真逆となった。 上記の農業GDP率と農業就業者比率低下の相対速度の変化の背後には、経済発展が一定 の段階に達すると、農業GDP率自身の更なる縮小が難しくなることと、後期になってから 農業・農村労働力の農外移動に対する規制緩和が更に進んだことなどの要因もあったが、最 大の原因は人口増加率の大幅な低下とそれに伴う農村労働力市場の変化にあると思われる。 つまり、中国が1970年代から「一人子」政策などの人口抑制策を取り続けてきたので、そ の効果発揮で、農村地域を含む中国全体の人口出生率と自然増加率は1990年代から低下し 続けた結果、農村地域での出生人口数と新規就労人口数も年々減っている。しかし2005年 頃までは、農村新規就労人口が依然農外転出人口を上回っていたため、農村労働力の農外転 出で他産業の労働人口は増えるが、農業就労人口はあまり減らず、よって、農業就労者の比 率もあまり減らなかった。それに対して、2005年頃からは農村の新規就労人口が農外転出人 口を下回るようになり、結果として、農村から都市への出稼ぎ労働者や地元での農外転出人 口の増加がよりストレートに農業就業人口の減少につながるようになったのである。 出所:国家統計局『中国統計年鑑』2015年版と同『全国農産品成本収益資料汇編』各年版より作成。 注:1.( )中の数値は、対前年増加率か、期間中の平均年増加率である。 2. 農村農業雇用労賃は米、小麦、とうもろこしの三大穀物の生産費調査中の雇用労賃である。 表 7 経済発展に伴う産業構造、都市人口と賃金水準の変化 農外転出人口の増加がよりストレートに農業就業人口の減少につながるようになったのである。 表7 経済発展に伴う産業構造、都市人口と賃金水準の変化 年次 農業 GDP 比率(%) 農業就業者 比率(%) 都市人口 比率(%) 都市就労者年間賃金水準(元/年) 農村農業雇用 労賃(元/日) 全産業 農林漁業 建築業 1995 2000 2005 19.7 14.7 11.7 52.2 50.0 46.9 29.04 36.22 42.99 5348 9333 18200 (11.8) (14.3) 3522 5184 8207 (8.0) (9.6) 5785 8735 14112 (8.6) (10.1) - 18.70 25.84 - (6.7) 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 10.7 10.4 10.3 9.9 9.6 9.5 9.5 9.4 9.2 42.6 40.8 39.6 38.1 36.7 34.8 33.6 31.4 29.5 44.34 45.89 46.99 48.34 49.95 51.27 52.57 53.73 54.77 20856 24721 28898 32244 36539 41799 46769 51483 56360 (14.6) (18.5) (16.8) (11.6) (13.3) (14.4) (11.9) (10.1) (9.5) 9296 10847 12560 14356 16717 19469 22687 25820 28356 (13.3) (16.7) (15.8) (14.3) (16.4) (16.5) (16.5) (13.8) (9.8) 16164 18482 21223 24161 27529 32103 36483 42072 45804 (14.5) (14.3) (14.8) (13.8) (13.9) (16.6) (13.6) (15.3) (8.9) 30.26 35.59 46.34 53.69 60.67 78.58 92.57 99.05 107.49 (17.1) (16.6) (20.2) (15.8) (13.0) (29.5) (17.8) ( 7.0) ( 8.5) 出所:国家統計局『中国統計年鑑』2015 年版と同『全国農産品成本収益資料汇編』各年版より作成。 注:1.( )中の数値は、対前年増加率か、期間中の平均年増加率である。 2.農村農業雇用労賃は米、小麦、とうもろこしの3大穀物の生産費調査中の雇用労賃である。 )賃金水準の上昇:労働力不足で、漸く平均賃金上昇率を上回った農村出稼ぎ労働者の賃金上昇 経済成長と産業構造の変化の中で、各産業とも労働者の賃金水準が上昇し続けている。しかし、 産業と産業との間には、要求する技能水準の違いや各産業内部特有の労働力需給状況により、労働 者の平均賃金水準のみならず、賃金の上昇速度にも大きな差が存在している。 表7の後半部分は、国家統計局『中国統計年鑑』にあった都市部の産業部門別就労者の年間賃金 水準のデータからピック・アップしたものである。同表によると、1995 年以降、全産業平均と各産 業とも労働者の賃金水準は上昇し続けている。名目ベースで全産業の平均賃金は 1995 年の 5348 元/ 年から、2014 年に 56360 元/年へと 10.5 倍にも上昇した。 しかし産業間の差に着目すると、農業労働者や農村出稼ぎ労働者との関連がつよい農林漁業と建 築業の平均賃金は、全産業平均に差を付けられていることと、同じ期間内に農林漁業と建築業の賃 金上昇倍率が全産業平均より小さいことが目に付きやすいが、ここではもう一つの差、或はその変 化に注目したい。それは、つまり、2008 年以前、農村出稼ぎ労働者と最も関係の深い農林漁業と建 築業の賃金上昇率は全産業平均を大きく下回っていたが、同年以降、両者の関係は真逆になったこ とである。 この逆転現象も、前記人口増加率の低下と農村新規就労人口数の減少による影響、つまり、2008 年前後に中国全体の労働力市場の需給バランスが大きく変わったことの影響だと思われる。 なぜなら、2008 年以前、農林漁業と建築業の賃金上昇率は全産業平均を大きく下回ったのは、農 村地域から顕在的、潜在的な出稼ぎ労働者の供給が多く、関連産業の労働市場が供給過剰状態にあ るからであり、また 2009 年以降農村地域での新規就労人口が減少し、農外、都市への出稼ぎ労働者 の供給が不足しがちになったから、彼らが都市部に出て最も多く就業する農林漁業や建築業などで の賃金水準が平均以上に上昇し始めたと解釈できるからである。 当然ながら、同様な影響は、農村地域の労働市場にも及ぼしている。政府公表の農産物生産費統 計にあった主要農産物生産の雇用労賃のデータからその一端を覗き見ることができる。表 7 の最右
23 (3)賃金水準の上昇 : 労働力不足で、漸く平均賃金上昇率を上回った農村出稼ぎ労働者の賃金上昇 経済成長と産業構造の変化の中で、各産業とも労働者の賃金水準が上昇し続けている。し かし、産業と産業との間には、要求する技能水準の違いや各産業内部特有の労働力需給状況 により、労働者の平均賃金水準のみならず、賃金の上昇速度にも大きな差が存在している。 表7の後半部分は、国家統計局『中国統計年鑑』にあった都市部の産業部門別就労者の 年間賃金水準のデータからピック・アップしたものである。同表によると、1995年以降、全 産業平均と各産業とも労働者の賃金水準は上昇し続けている。名目ベースで全産業の平均賃 金は1995年の5348元 / 年から、2014年に56360元 / 年へと10.5倍にも上昇した。 しかし産業間の差に着目すると、農業労働者や農村出稼ぎ労働者との関連がつよい農林漁 業と建築業の平均賃金は、全産業平均に差を付けられていることと、同じ期間内に農林漁業 と建築業の賃金上昇倍率が全産業平均より小さいことが目に付きやすいが、ここではもう一 つの差、或はその変化に注目したい。それは、つまり、2008年以前、農村出稼ぎ労働者と最 も関係の深い農林漁業と建築業の賃金上昇率は全産業平均を大きく下回っていたが、同年以 降、両者の関係は真逆になったことである。 この逆転現象も、前記人口増加率の低下と農村新規就労人口数の減少による影響、つまり、 2008年前後に中国全体の労働力市場の需給バランスが大きく変わったことの影響だと思わ れる。 なぜなら、2008年以前、農林漁業と建築業の賃金上昇率は全産業平均を大きく下回ったの は、農村地域から顕在的・潜在的な出稼ぎ労働者の供給が多く、関連産業の労働市場が供給 過剰状態にあるからであり、また2009年以降農村地域での新規就労人口が減少し、農外、都 市への出稼ぎ労働者の供給が不足しがちになったから、彼らが都市部に出て最も多く就業す る農林漁業や建築業などでの賃金水準が平均以上に上昇し始めたと解釈できるからである。 当然ながら、同様な影響は、農村地域の労働市場にも及ぼしている。政府公表の農産物生 産費統計にあった主要農産物生産の雇用労賃のデータからその一端を覗き見ることができ る。表7の最右欄には、同生産費統計の中の三 大穀物(米、小麦ととうもろこし)生産の 雇用労賃データを収録している。それによると、2005年まで同雇用労賃の上昇率は前記都市 部の農林漁業と建築業よりも低かったが、2006年、2007年は都市部の全産業平均並みに、そ して2008年以降は同全産業平均以上に大きく上昇し始めた。その結果、2005年から2014年 までの10年間に農村農業雇用労働の1日当たり労賃は25.8元から、107.5元まで4倍以上に も上がった。ちなみに、同時期に都市部就労者賃金の上昇倍率は、全産業平均3.1倍、農林 漁業3.5倍、建築業3.2倍であった。 3.2 表面化しつつある農産物の生産費上昇と国際競争力低下の問題 上記の経済環境の変化、特に人民元高の進展と賃金水準の上昇は、当然農産物の生産コス トに影響し、ひいては農産物の国際競争力に影響を及ぼすものと思われる。
24 生物資源経済研究 ( 1 )賃金、土地費用の高騰で急上昇し始めた農産物の生産費 表8では、米、小麦、とうもろこし、大豆、棉花と豚肉、六つの代表的な農畜産物を選んで、 1995年以降の単位面積・頭数当たり生産費の変化を示している。それによると、六 つの農 畜産物とも生産費は上昇し続けているが、増加速度に関して、2007年までは比較的緩やかで、 同年以降は明らかな速度上昇がみられた。そこで、1995~2007年間と2007~2014年間の 二つの時期に分けて、それぞれ期間中の生産費平均上昇率を計算してみた。結果は、各農畜 産物生産費表の下段に示された。 それについてみると、1995~2007年間は五 つの農産物の単位面積当たり生産費の年上昇 率は3%ないし4%台、豚肉のそれは2%台であった。同じ時期の農村消費者物価の年上 昇率は1.94%であったので2)、これらの農畜産物生産費の上昇率がそれを若干上回る程度 であった。また生産費の費目別の変化についてみると、期間中に年上昇率が比較的に高かっ たのは土地費と機械関連費である。土地費について、用地の少ない豚肉生産を除いて、他の 五つの農産物は年率7~13%も上昇し続けた。また機械関連費に関して、収穫作業を含め て農業機械化が進んでいる小麦、水稲、大豆は年7%台、収穫作業の機械化があまり進ん でいないとうもろこしと棉花は年5%台の速度で上昇してきた。一方、それ以外の費目(労 働費、種苗費、肥料・農薬、その他)の年上昇率は大体4%以下であった。 それに比べて、2007~2014年間は、豚肉の1頭当たり生産費の年上昇率は6.86%と比較的 に小さかったが、他の五つの農産物のそれは軒並みに10%を超えた。米と小麦が11%台、大 豆が12%台、とうもろこしと棉花は13%台であった。ちなみに、同時期の農村消費者物価の 上昇率は3.22%だったので3)、農産物生産費の上昇率がそれを大きく上回ったことが分かる。 では、原因はどこにあるのか。とりあえず、費目別の上昇率を検証してみよう。表8か ら分かるように、2007~2014年間に五 つの農産物の肥料防除費と豚肉の幼畜費の上昇率は あまり大きく飛び上がっていないが、他の費目のそれは前期より大きく上昇した。とりわけ、 大きなウェイトを占める労働費の年上昇率は2007年までの3%前後から、一気に13~16% に上がった。実は2007~2014年間にも単位農作物の生産と家畜の飼育に投入した労働量は 減り続けている。それなのに、労働費が大きく上昇したのは、第一 に農村労賃水準の全面 的な上昇、第二 に生産費の中の労働費算定の際、評価単価のより高い雇用労働の投入比率 が上昇し続けていることに原因を求めるしかない。 また労賃水準上昇の影響は、労働費の高騰に留まらない。機械関連費の高騰にも労賃上昇 の影響があると思う。というのは、農家経営規模の小さい中国において、1990年代後半以降 農業生産の機械化が急速に進展したが、それを実現できたのは2002年から政府が農業機械 購入補助金を実施したことのほか、大半の農家が農業機械を購入・所有するのではなく、他 人(機械サービス専業農家など)から提供した機械サービスを受ける形をとっているからで ある。他人提供の機械サービスを受ける際、その料金は当然農業機械や燃料代のほか、機械 の運搬、操作に係わる人件費も含まれるので、賃金水準が上昇すれば、機械サービス費も上
25 出 所 : 国 家 統 計 局 『 全 国 農 産 品 成 本 収 益 資 料 汇編 』 各 年 版 よ り 、 筆 者 作 成 。 注 : 1 ) 機 械 関 連 費 に は 農 業 機 械 ・ 蓄 力 費 の ほ か 、 機 械 作 業 委 託 費 も 含 ま れ て い る 。 2 ) 下 段 中 の 数 値 は 期 間 中 の 平 均 年 増 加 率 で あ る 。 表 8 主要農産物1ム、 1 頭当たり生産費の変化 米 ( 1 ム当た り 元 ) 年 次 生 産 費 計 土 地 費 用 労 働 費 種 苗 費 肥 料 防 除費 機 械 関 連 費 そ の 他 備考 税金 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 373. 4 383. 1 493. 2 518. 2 555. 2 665. 1 683. 1 766. 6 897. 0 1055 .1 1151 .1 1176 .6 37.2 50.0 66.3 76.7 84.9 109. 0 122. 5 141. 4 159. 7 175. 0 193. 3 206. 1 138. 7 152. 5 184. 5 186. 3 194. 4 214. 7 226. 8 266. 6 328. 0 426. 6 489. 3 500. 7 22.7 15.3 20.4 21.8 23.2 26.3 29.5 36.2 42.5 48.3 51.6 54.2 97.8 81.7 125. 7 129. 0 137. 2 178. 6 160. 4 162. 0 180. 7 195. 4 192. 8 183. 3 34.0 39.7 59.1 68.7 80.5 101. 6 106. 9 121. 4 142. 3 163. 1 173. 5 183. 9 43.0 43.9 37.2 35.7 35.1 35.0 37.0 39.1 43.9 46.7 50.7 48.4 18.0 18.6 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 1995 -2007 2007 -2014 3.36 11.3 3 7.12 13.5 1 2.85 14.4 7 0.18 12.8 9 2.86 4.23 7.45 12.5 3 -1.6 8 4.70 大豆 ( 1ム当 たり 元 ) 年 次 生 産 費 計 土 地 費 用 労 働 費 種 苗 費 肥 料 防 除費 機 械 関 連 費 そ の 他 備考 税金 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 178. 9 204. 0 270. 2 267. 5 291. 8 348. 0 378. 2 431. 2 488. 8 578. 2 625. 9 667. 3 24.4 43.2 75.2 76.0 87.3 106. 0 129. 8 150. 8 173. 0 196. 0 220. 7 247. 7 78.1 75.6 81.5 81.9 87.7 88.3 103. 5 115. 3 136. 4 177. 5 201. 0 216. 7 18.4 20.3 21.7 20.8 23.6 34.4 29.2 29.9 31.3 34.4 35.1 38.6 26.0 25.1 46.4 44.4 47.4 65.1 57.7 59.1 64.9 74.1 69.6 64.0 16.4 19.8 29.3 34.8 37.5 45.9 49.9 62.3 70.3 80.5 83.6 78.4 15.7 20.0 16.0 9.7 8.3 8.3 8.1 13.8 13.0 15.8 16.0 21.9 7.1 11.3 0.3 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 1995 -2007 2007 -2014 4.16 12.5 4 11.2 1 16.0 7 0.97 13.7 9 2.10 7.28 5.13 4.38 7.13 11.1 1 -5.1 7 14.8 7 出所: 国家統計局『全国農産品成本収益資料 汇 編』各年 注 : 下段中の数値は期間中の平均年増加率である 。 表8 主 要農 産物1 ム 、 頭 当たり 生産 費の変化 小麦 ( 1ム当 たり 元 ) 年 次 生 産 費 計 土 地 費 用 労 働 費 種 苗 費 肥 料 防 除費 機 械 関 連 費 そ の 他 備考 税金 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 270. 2 340. 7 388. 4 404. 8 438. 6 498. 6 567. 0 618. 6 712. 3 830. 4 914. 7 965. 1 23.8 40.4 51.9 54.6 68.9 86.7 103. 9 121. 5 129. 3 142. 4 153. 9 181. 3 92.7 83.1 121. 3 119. 6 124. 7 133. 2 145. 6 178. 8 225. 7 291. 4 343. 8 364. 8 25.7 28.7 29.8 31.2 32.6 37.0 39.3 44.7 51.3 55.8 59.5 64.0 68.7 78.8 104. 4 108. 6 111. 5 128. 9 155. 3 141. 4 154. 4 183. 0 187. 4 177. 6 28.6 55.4 54.1 63.4 70.4 85.5 87.6 95.8 104. 4 115. 5 123. 4 129. 8 30.6 54.3 26.9 27.4 30.6 27.3 35.2 36.4 47.2 42.4 46.8 47.7 11.5 11.8 1.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 1995 -2007 2007 -2014 4.12 11.9 3 9.26 14.8 2 2.50 16.5 7 2.00 10.1 2 4.12 6.88 7.80 9.13 0.00 6.55 棉 花 ( 1ム当 たり 元 ) 年 次 生 産 費 計 土 地 費 用 労 働 費 種 苗 費 肥 料 防 除費 機 械 関 連 費 そ の他 備考 税金 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 600. 1 605. 0 788. 7 870. 4 965. 6 1080 .0 1131 .4 1323 .9 1577 .5 1939 .7 2177 .5 2278 .6 39.2 65.6 98.6 104. 7 128. 7 149. 5 169. 6 175. 7 197. 1 227. 5 252. 3 274. 9 304. 4 299. 5 397. 4 442. 6 490. 7 527. 1 568. 2 728. 3 858. 2 1170 .7 1359 .8 1408 .4 15.4 18.9 30.0 35.8 37.7 40.1 41.1 44.6 51.8 54.0 56.6 57.6 174. 7 147. 0 189. 4 206. 7 222. 6 268. 9 243. 9 253. 4 291. 4 309. 8 308. 9 308. 5 22.0 20.3 31.7 37.3 41.8 50.5 51.9 60.6 94.7 93.6 98.2 104. 3 44.4 53.8 41.5 43.2 44.1 43.9 56.8 61.3 84.3 84.1 101. 7 124. 8 17.4 20.0 2.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 1995 -200 7 2007 -2014 4.04 13.0 5 10.4 1 11.4 5 4.06 16.2 6 7.75 6.24 2.04 4.77 5.49 13.9 5 -0.0 0 16.0 2 版 よ り、筆者作成 。 とうも ろこ し ( 1 ム当た り 元 ) 年 次 生 産 費 計 土 地 費 用 労 働 費 種 苗 費 肥 料 防 除費 機 械 関 連 費 そ の 他 備考 税金 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 284. 9 318. 6 391. 4 411. 8 449. 7 523. 5 551. 1 632. 6 764. 2 924. 2 1012 .0 1063 .9 21.0 45.3 67.8 73.5 91.2 103. 2 117. 4 137. 0 160. 3 181. 2 197. 0 224. 4 116. 8 126. 8 148. 4 149. 9 159. 8 177. 0 192. 6 235. 1 295. 5 398. 4 455. 4 474. 7 19.6 15.4 24.6 25.9 26.9 28.5 31.9 38.3 45.6 52.0 55.0 55.2 80.7 74.4 99.1 104. 2 107. 7 142. 7 130. 8 132. 6 157. 6 172. 8 173. 5 161. 4 22.4 25.4 32.1 38.4 43.2 53.4 57.1 67.2 79.1 92.5 103. 1 112. 7 24.4 31.4 19.4 20.0 21.0 18.7 21.3 22.4 26.3 27.3 28.1 35.5 7.3 11.9 0.9 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 1995 -2007 2007 -2014 3.88 13.0 9 13.0 2 13.7 3 2.65 16.8 3 2.67 10.8 1 2.43 5.95 5.63 14.6 8 -1.2 4 7.79 豚肉 ( 頭当た り 元 ) 年 次 生 産 費 計 土 地 費 用 労 働 費 幼 畜 費 飼 料 費 そ の他 備考 税金 1995 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 759. 3 553. 3 743. 8 728. 7 1000 .5 1263 .9 1118 .7 1169 .7 1470 .1 1587 .6 1616 .9 1592 .1 2.2 2.6 1.7 2.0 1.9 1.8 2.2 2.6 2.6 2.5 2.7 50.7 44.0 55.7 59.2 63.9 69.8 74.1 88.1 113. 8 138. 4 159. 2 168. 5 180. 2 135. 3 211. 3 169. 2 335. 9 477. 1 320. 3 290. 7 472. 9 493. 0 457. 4 406. 4 470. 0 318. 8 427. 2 449. 2 539. 8 653. 7 664. 0 727. 6 813. 9 886. 6 929. 9 945. 4 58.4 53.0 47.0 49.5 59.0 61.4 58.5 61.2 66.9 66.9 67.9 69.2 1.88 1.44 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 1995 -200 7 2007 -2014 2.36 6.86 4.38 1.95 14.8 6 5.33 2.7 6 1.16 8.33 0.0 1 2.3
26 生物資源経済研究 昇するわけである。 労働費や農業機械関連費だけでなく、もう一つウェイトの大きい土地費用も労働費並みの 速度(年率11~16%)で上昇し続けてきた。土地費用は前期にも比較的速いスピードで増 加したので、後期のスピード・アップは労働費ほどではなかったが、後期の総生産費上昇の スピード・アップに大きく貢献したことには変わらない。 こうして、労賃水準の急上昇による労働費や機械関連費の高騰と土地費用上昇の加速化が 主な原因で、そのうえ、さらに種苗費やその他生産費の高騰(石油など資源商品の国際市場 価格騰落の影響)が加わったため、2007~2014年間に五 大農産物の生産費が高騰し始めた と、解釈できる。そして、豚肉の場合は農業機械費や土地費用の比重が非常に低くて、事実 上労働費と飼料費の上昇からしか影響を受けないので、その分、総生産費の上昇率は五 大 農産物の半分ほどの6%台にとどまった。 では、2007年以降、労働費、機械関連費の高騰の背後には、出生率の低下と農村新規就労 人口の減少に起因した労働力不足と賃金水準の高騰に原因があるとすれば、土地費用高騰の 原因は何処にあるのだろうか。その問題について、以下の二つの要因が考えられる。 第一は、農地賃貸市場の形成とその後の賃借需要の増加である。中国の農地経営は1984 年の人民公社の解散で従来の集団経営から個々の農家経営に変わったが、農地の所有権は村 レベルの集団所有のまま、使用権のみを村のメンバーに請け負わせる形で個人農業経営を実 現した。農地の請負制を実施する当初、村から請け負った農地を第三者に貸すことができる かどうかさえ、法的な規定がなかったし、第三者に貸すなら、村に返させられるケースも少 なくなかった。そのため、1980年代、90年代半ば頃まで公な農地賃貸市場は成立せず、国家 統計局が行った農産物生産費調査の中でも借地面積と賃借料の項目さえ設けなかった。その 時期の土地費用は賃借料やその見積もり機会費用ではなく、農家が村から農地を請け負う代 わりに、村や郷鎮に納めなければならない集団上納金で計上した。国家統計局が農産物生産 費調査の中で漸く借地面積と賃借料の項目を設け始めたのは1998年からである。その前の 1997年に政府が農家の農地権益を保護するため、彼らに農地請負証書を発行し、また農地 の賃貸を通じて流動化と規模拡大を実現していく方針を定めた。しかし、農地の貸し借りは すぐに増える訳ではなく、全国定点農村調査村での調査結果によると、5年後の2002年に定 点調査対象村において全耕地面積に対する農家貸出し農地面積の割合は僅か2.6%に留まっ た4)。 賃貸による農地流動化と規模拡大を一層促進するため、政府は2002年8月に新たに「農 地請負法」を制定した。その中で、従来の土地所有権と使用権から分離独立して、新たに請 負権の概念を創設した。集団から農地の請負権を得た農家は、第三者への賃貸はもちろん、 その農地を持って農企業などに持ち株参加することもできるようになった5)。所有権と使用 権との間に新たな請負権の概念を創設したことで、農地の集団所有を堅持したまま、請負権 を集団のメンバーに分け与えて、その法的な権利を固定・保証する。請負権を受けた農家は、