間接侵害を取り巻く日本の現状
2009.9.28
青和特許法律事務所
弁護士 山口健司
目 次
1.間接侵害とは?
2.間接侵害の類型
① 「のみ」侵害(1号、4号)
② 故意侵害(2号、5号)
③ 所持侵害(3号、6号)
3.直接侵害が存在しない場合
① 個人的・家庭的実施
② 試験研究のための実施
③ ライセンシーの実施
④ 直接侵害が海外で行われる場合
※ 日本の特許権侵害を海外で積極的に誘導する行為の責任
4.部品の交換、譲渡等と間接侵害の成否
1.「間接侵害」とは?
特許権の侵害は、本来、クレームの全ての構
成要件を充足した場合に成立するのが原則
(直接侵害)
特許法101条(間接侵害)は、一定の予備的・
幇助的行為を特許権の侵害と「みなす」
特許権の実効性を確保
1.「間接侵害」とは?
効果
{差止請求
{損害賠償請求
{刑事罰(特許法196条の2)
5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又は併科
Cf.共同不法行為(民法719条)
{損害賠償請求のみ
2.間接侵害の類型
※ 1~6号までの行為を規定(1~3号が「物の発明」、4・5
号が「方法の発明」、6号が「物を生産する方法の発明」に
対する規定)
① 「のみ」侵害(1号、4号)
② 故意侵害(2号、5号)
※ 平成14年改正で導入
③ 所持侵害(3号、6号)
※ 平成18年改正で導入
特許法101条 (侵害とみなす行為)
次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害す
るものとみなす。
2-①「のみ」侵害(1号、4号)
一 特許が物の発明についてされている場合において、
業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、
譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
四 特許が方法の発明についてされている場合におい
て、業として、その方法の使用にのみ用いる物の
生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をす
る行為
2-①「のみ」侵害(1号、4号)
「のみ」の意義
{その物に社会通念上経済的、商業的又は
実用的と認められる他の用途がないこと(東
京地判昭和56.2.25〔交換レンズ事件〕等)
⇒
専用品に限定
2-①「のみ」侵害(1号、4号)
多機能品は?
{裁判例は、基本的に「のみ」要件を厳格に解釈
Ex.東京地判昭和56.2.25〔交換レンズ事件〕
ソフトウェア関連発明は?
{プログラムのモジュールが専用性をもつことは少ない
(参考文献1の8頁の図より)2-②故意侵害(2号、5号)
二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用い る物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてそ の発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明で あること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業 として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為 五 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に 用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつ てその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発 明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、 業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為 ※ 平成14改正により導入2-②故意侵害(2号、5号)
「その物の生産に用いる物」(2号)
「その方法の使用に用いる物」(5号)
{「のみ」要件の撤廃
⇒ 「多機能品」も対象に
{「 (日本国内において広く一般に流通しているもの
を除く。)」
⇒ 「汎用品」は対象外
2-②故意侵害(2号、5号)
知財高判平成17.9.30〔一太郎事件控訴審〕
{ 「情報処理装置」(クレーム1,2)及び「情報処理方法」(クレーム3)の発明 { 「Y製品(ソフトウェア)をインストールしたパソコン」は、クレーム1及び2の構 成要件を全て充足し、同パソコンの使用は、クレーム3の構成要件を全て 充足する。 { Y製品(ソフトウェア)の製造、譲渡等は、クレーム1,2に係る「情報処理装 置」の発明について、間接侵害(2号)を構成する。 { クレーム3に係る「情報処理方法」の発明については、 「Y製品(ソフトウェ ア)をインストールしたパソコン」の製造、譲渡等であれば、間接侵害(現5 号)を構成するが、Y製品(ソフトウェア)の製造、譲渡等は、間接侵害(現5 号)を構成しない。 { 「同号(現5号)は、その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施する ことが可能である物についてこれを生産、譲渡等する行為を特許権侵害と みなすものであって、そのような物の生産に用いられる物を製造、譲渡等 する行為を特許権侵害とみなしているものではない。」2-②故意侵害(2号、5号)
知財高判平成17.9.30〔一太郎事件控訴審〕
ソフトウェアα
の製造、販売
パソコンにαを
インストール
同パソコンを
使用
ユーザー ユーザー Y社 Claim 1, 2 (情報処理装置) Claim 3 (情報処理方法) (直説侵害) (直説侵害) 「使用に用いる 物」(5号) 「生産に用いる 物」(2号)?
2-②故意侵害(2号、5号)
間接的に「生産」又は「使用」に「用いる物」も対
象となるのか?
{「方法の発明」の間接侵害(4号、5号)の場合
「使用」に直接「用いる物」のみ(
知財高判平成17.9.30〔一
太郎事件控訴審〕
)
{「物の発明」の間接侵害(1号、2号)の場合は?
「『生産』に『用いる物』」(1、2号)と、「『使用』に『用いる
物』」(4、5号)との語義の差異
東京地判昭和51.1.28〔パチンコ機事件〕
{ 「計数機」 ⇒ 「電還機」 ⇒ パチンコ機「生産」に間接的に「用いる物」も含まれる?
2-②故意侵害(2号、5号)
「発明による課題の解決に不可欠なもの」
{その意義は?
東京地判平成16.4.23〔プリント基板メッキ用治具事件〕 { それを用いることにより初めて『発明の解決しようとする課題』が解 決されるような部品、道具、原料等が『発明による課題の解決に不 可欠なもの』に該当する { 発明の構成要素以外の物でも含まれ得る一方、発明の構成要素で あっても課題とは無関係に従来から必要とされていたものは含まれ ない。Ex.「消しゴムで消せるボールペンの発明」
○ そのインキに用いるボールペンの顔料 × 通常のボールペンと変わらない軸やキャップ2-②故意侵害(2号、5号)
「その発明が特許発明であること及びその物が
その発明の実施に用いられることを知りながら」
{警告状の送付又は訴訟の提起により、この要件は
満たされる。
差止請求については、この要件は事実上問題とならない。 損害賠償請求については、警告上の到達時が損害額算定の起算 点となる。 {警告状の送付は、侵害物件の特定まで必要
一太郎事件判決では、XはYへの仮処分の申立書の送達をもって Yは悪意と主張したが、当該仮処分は異なる物を対象とするもの であるから主張自体失当と判示している。2-③所持侵害(3号、6号)
三
特許が物の発明についてされている場合において、
その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持
する行為
六
特許が物を生産する方法の発明についてされてい
る場合において、その方法により生産した物を業と
しての譲渡等又は輸出のために所持する行為
※ 平成18改正により導入2-③所持侵害(3号、6号)
導入の意義
{模倣品対策
従前は、模倣品の所持を証明できても、譲渡等の事実を立証で きない限り取り締まれなかった。Cf. 「輸出」規制の導入(平成18年改正)
あくまで「直接侵害品」の所持が対象
{間接侵害品を輸出又は譲渡等の目的で所持する行
為は対象外
3.直接侵害行為が存在しない場合
日本の特許権を直接侵害する行為が存在しな
い場合に、間接侵害は成立するのか?
<典型的な場合>
①家庭的・個人的実施(「業として」でない場合)
②試験・研究のための実施
③ライセンシーの実施
④直接侵害行為が海外で行われる場合
3.直接侵害行為が存在しない場合
特許法に明文の規定なし
{
独立説と従属説の対立
3-① 家庭的・個人的実施の場合
裁判例
{東京地判昭和56.2.25〔交換レンズ事件〕
:肯定説
{大阪地判平成12.10.24〔製パン器事件〕:
肯定説
{知財高判平成17.9.30〔一太郎事件控訴審〕
:留保
学説
{間接侵害肯定説が支配的。
比較法
{ドイツ特許法は、この場合の間接侵害を明文で認めている。
3- ②試験・研究のための実施の場合
裁判例
{該当なし。
学説
{見解は分かれているが、否定説が有力との評価
(参考文献5・ 208頁参照) スクリーニング方法専用の装置・ソフトウェアが間接侵害の適用 を免れてよいのかとの問題意識から、「方法の発明」については 間接侵害を肯定すべきとの見解あり(参考文献5・208頁) 比較法
{ドイツ特許法は、この場合の間接侵害を明文で認めている。
3- ③ ライセンシーの実施の場合
裁判例
{該当なし。
学説
{否定説が支配的
(参考文献5・ 209頁参照)<理由>
特許権者は実施について対価を得ている 間接侵害を認めると実施権を不当に阻害する結果を招く {「実際には、このような類型で特許権侵害訴訟が提起されるこ
とはあまり考えられない。」(吉川・116頁)
果たしてそうだろうか? 包括クロスライセンスの場合は?3- ③ ライセンシーの実施の場合
参考
{ライセンシーの製造委託(have-made)先による、完成品又は
部品の製造、当該ライセンシーへの納入行為は、そもそも非
侵害
特許権者の自己実施として評価される。 { 共有者の製造委託先の実施行為を当該共有者の実施行為と評価 する一連の裁判例(最判平成9.10.28〔ナット事件上告審〕、東京地 判平成20.2.26〔NECトーキン職務発明対価請求事件〕など)参照 {ライセンス契約において、ライセンシーが用いる部品・原料等
の購入先を制限することは可能
但し、その違反は債務不履行を構成するが、特許権侵害とはな らない(参考文献4・227頁、大阪高判平成15.5.27〔育苗ポット事 件〕参照)3- ④直接侵害行為が海外で行われる場合
(日本国内) (海外) A社:完成品βの部品αを日本で製造、 海外に輸出 β B社:完成品βを海外で製造・販売間接侵害?
日本でなら直接侵害 比較法
α α3- ④直接侵害行為が海外で行われる場合
裁判例
{否定説で一貫している。
大阪地判平成12.10.24〔製パン器事件〕 大阪地判平成12.12.21〔ポリオレフィン組成物事件〕 東京地判平成19.2.27〔基盤搬送装置事件〕 { 「『その物の生産にのみ使用する物』(1号)という要件が予定する『生 産』は、日本国内における生産を意味するものと解釈すべきである。」 学説
{否定説でほぼ異論なし。
但し、ノックダウン方式の場合は、「直接侵害」として侵害を肯定する 見解が多い(参考文献3・117頁参照) 東京地判平成19.2.27によれば、ノックダウン方式による特許権侵 害品の生産は特許権の侵害とならないことになるとの評価あり(参3-参考:日本の特許権侵害を海外で積極
的に誘導する行為の責任
(日本国内) (海外) A社:完成品βが日本特許を侵害することを知りな がら、完成品βを作成するための部品であると売り 込んだ上で、部品αを日本のB社に輸出・販売 β B社:完成品βを日本で製造・販売直接侵害
特許権侵害? 共同不法行為?
比較法
α α3-参考:日本の特許権侵害を海外で積極
的に誘導する行為の責任
特許権侵害行為とは評価できない。
{ 属地主義の原則に反する(最判平成14.9.26〔FM信号復調装置事 件〕参照) 共同不法行為は成立するか?
{ 否定説:最判平成14.9.26 〔FM信号復調装置事件〕 「特許権の効力が及ばない、登録国の領域外において特許権侵害を積 極的に誘導する行為について、違法ということはできず、不法行為の成 立要件を具備するものと解することはできない。」 ただし、藤井裁判官の反対意見は共同不法行為の成立を肯定。 { 肯定説?:
東京地判平成19.11.28〔ADSLモデム用チップセット事件〕 民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して国際裁判管轄 の有無を判断する前提として、被告の海外での活動を、第三者の不法行 為(特許権侵害行為)の幇助ないし教唆行為と認定 「違法性」を度外視しただけか? { ①不法行為の客観的事実の存在、②実行行為地又は結果発生地が日本であ4.部品の交換、譲渡等と間接侵害の成否
特許製品の交換・補修用部品を第三者が製
造・販売する行為に間接侵害は成立するか?
特許権者等による部品(間接侵害品)の譲渡に
よって、方法の発明に係る特許権又は完成品
の特許権は消尽するか?
4-①第三者による交換部品の製造・販売
βの特許権者 特許製品βを業とし て使用 Y社製の交換部品α´ を用いて交換、再使用 交換部品α´を製造・販売 X社 Y社直接侵害? 消尽?
特許製品β、交換部品αを製造・販売 A社 α´ α α 特許製品β 交換部品α α´ α4-①第三者による交換部品の製造・販売
特許製品購入者による部品の交換行為と権利の消尽
{最判平成19.11.8〔インクカートリッジ事件上告審〕
「加工や部材の交換がされ、それにより当該特許製品と同一性を 欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるとき 「特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては、当該特 許製品の属性、特許発明の内容、加工及び部材の交換の態様 のほか、取引の実情等も考慮して判断するのが相当であ(る)」 第三者による交換部品の製造・販売と間接侵害の成否
{大阪地判平成1.4.24〔製砂機ハンマー事件〕
特許製品の交換部品の製造・販売行為を、間接侵害と認定 { 上記裁判例の結論に疑問を呈する見解あり(参考文献7・244頁参 照)4-②部品の譲渡と特許権の消尽
部品特許α 完成品特許β 方法特許γ 部品α´を製造・販売 X社 A社 Y社 部品特許αの ライセンス付与 α α 部品α´を用いて完成品βを製造・販売 方法γ β 方法γを使用して完成 品βを製造 方法特許γを侵害? α´ α´ α´ or4-②部品の譲渡と特許権の消尽
部品の譲渡と方法の発明に係る特許権の消尽
{知財高判平成18.1.31〔インクカートリッジ事件控訴審〕
特許権者又は実施権者が、方法の発明の間接侵害品(※)を譲 渡した場合、譲受人ないし転得者がその物を用いて当該方法の 発明に係る方法の使用をする行為については、特許権者等は、 特許権に基づく差止請求権等を行使できない。 (※)間接侵害品 { その方法の使用にのみ用いる物(特許法101条4号) { その方法の使用に用いる物(我が国の国内において広く一般に流通 しているものを除く。)であってその発明による課題の解決に不可欠 なもの(特許法101条5号)4-②部品の譲渡と特許権の消尽
部品の譲渡と完成品(物)の発明に係る特許権の消尽
{この場合に「消尽」を論じた裁判例なし。
{「黙示の許諾」理論で処理?
大阪地判平成13.12.13〔トレー包装体事件〕 { 原告は、部品特許(包装用トレー)と完成品特許(トレー包装体)を保 有 { A社に部品特許(包装用トレー)のみ実施許諾 { 裁判所は、被告の製造・販売するトレー包装体(完成品)のうち、特 許権者が流通に置いた包装用トレー(部品)を用いたものについて は、黙示の許諾を認め、 実施権者A社が流通に置いた包装用トレー (部品)を用いたものについては、黙示の許諾を認めず。1.「特許法における間接侵害規定の在り方について」(産業構造審議会知的財産政策部会第4回 法制小委員会(H13.7.25)の配布資料の「資料2」) 2.岩原正文 「間接侵害における『発明の課題の解決に不可欠なもの』及び『方法の使用に用い る物』の意義」 パテント Vol. 60, No.8 (2007) 3.吉川泉 「4 間接侵害」 飯村敏明・設楽隆一編著『リーガル・プログレッシブシリーズ 知的財 産関係訴訟』(青林書院、2008) 4.松尾和子 「間接侵害(2)」 牧野利秋編『裁判実務体系(9)工業所有権法』(青林書院、2001) 5.窪田英一郎 「15 間接侵害について」 牧野・飯村・三村・末吉・大野編『知的財産権法の理論 と実務 第1巻 〔特許法[1]〕』(新日本法規、2007) 6.相澤英孝 「知的財産法判例の動き」 ジュリスト臨時増刊『平成19年度重要判例解説』(有斐 閣) 7.玉井克哉 「日本国内における特許権の消尽」 牧野利秋・飯村敏明編『新・裁判実務体系4知 的財産関係訴訟法』(青林書院、2001) 8.特許第2委員会第2小委員会(知財協)「日本における特許消尽の研究-Quanta事件米国最 高裁判決との対比-」 知財管理 Vol.59 No.9 (2009)