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冷え込む韓国のシニア消費

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≪韓国経済の今後を展望するシリーズ⑮≫

2018 年 8 月 30 日

No.2018-027

冷え込む韓国のシニア消費

― 高齢社会を迎え消費全体の大きな足枷に ―

調査部 副主任研究員 成瀬道紀

《要 点》

 韓国のシニア層(60 歳~)の消費不振が深刻である。日本と比較すると、韓国で は勤労シニア世帯の消費支出が大きく落ち込んでいる。この背景には、所得水準は 全年代にわたって日本に遜色ないものの、高齢になるほど消費性向が低下すること がある。  韓国の勤労シニア世帯の消費性向が低いのは、公的年金の給付水準が著しく低いた め、退職後の収入に対する不安が大きいことが主因である。韓国の公的老齢年金支 給額の対GDP比率は、OECDで最下位である。1人あたり平均月額も日本円換 算で数万円程度に過ぎない。さらに、所得代替率の引き下げと支給開始年齢の引き 上げが行われているほか、子どもからの支援も期待しにくくなっている。このため、 退職後の収入不安は一層高まり、勤労シニア世帯の消費性向は低下傾向にある。  勤労シニア世帯の消費不振は、韓国経済に深刻な影響を与えている。消費性向が仮 に日本並みの高さであった場合、2016 年の個人消費は 3.3%上振れる計算となる。 さらに、今後の高齢化により、個人消費の押し下げ圧力は一層高まる見込みである。 韓国では、内需主導型経済への転換が課題となっているが、消費を抑制するシニア 層の急増により、実現は一段と困難になっている。財政支出の拡大による社会保障 の充実も1つの選択肢となろう。

本件に関するご照会は、調査部・副主任研究員・成瀬道紀宛にお願いいたします。

Tel:03-6833-8388

Mail:[email protected]

本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、 作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するも のではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがありますので、ご了承ください。

Research Focus

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1.はじめに

韓国のシニア層(60 歳~)の消費不振が深 刻である。日本の「家計調査」と韓国の「家 計動向調査」を用いて、勤労者世帯の消費支 出を比較1すると、韓国では高齢になるほど消 費水準が低下し、とりわけ世帯主の年齢が 60 歳以上の世帯で消費支出が大きく落ち込んで いる(図表1)。消費支出は、可処分所得と消 費性向という二つの要因に左右される。そこ で、まず可処分所得をみると、日韓ともに、 50 歳代をピークとして 60 歳代に入ると大幅 に低下するカーブとなっており、ほぼ同じ構 造である(図表2)。一方、消費性向の構造は 日韓で大きく異なる(図表3)。世帯主の年齢 が 60 歳以上の消費性向は、日本では若い世代 よりも大幅に高いのに対して、韓国では逆に若い世代よりも低くなっている。以上から、韓国のシ ニア層の消費支出が大幅に落ち込んでいるのは、消費性向が極端に低いことが主因であることが分 かる。 一般に、可処分所得が小さいと、貯蓄する余裕がなく消費に使う割合が高くなることから、消費 性向が高くなるのが自然な姿である。それにもかかわらず、可処分所得が小さいシニア層で、消費 性向が低くなっている韓国の状況は異例といえる。 1 日本の家計調査と韓国の家計動向調査では、移転支出(贈与金+仕送り金)の取り扱いが異なる。日本では、移転支出を可処分 所得から控除せず消費支出に含めているのに対して、韓国では移転支出を可処分所得から控除し消費支出に含めていない。本稿で は、日本の家計調査の可処分所得、消費支出及び消費性向(消費支出/可処分所得)を韓国側の基準にあわせて修正している。 60 65 70 75 80 85 90 ~39歳 40~49歳 50~59歳 60歳~ (%) 日本 韓国 (資料)総務省、韓国統計庁 (注)日本は~39歳は30~39歳、60歳~は60~69歳。 (図表3)世帯主の年齢別の消費性向 (二人以上の勤労者世帯・2016年) 15 20 25 30 35 15 20 25 30 35 ~39歳 40~49歳 50~59歳 60歳~ (万円) 日本 韓国(右目盛) (十万ウォン) (資料)総務省、韓国統計庁 (注)日本は~39歳は30~39歳、60歳~は60~69歳。 (図表1)世帯主の年齢別の消費支出 (二人以上の勤労者世帯・2016年) 25 30 35 40 45 50 25 30 35 40 45 50 ~39歳 40~49歳 50~59歳 60歳~ (万円) 日本 韓国(右目盛) (図表2)世帯主の年齢別の可処分所得 (二人以上の勤労者世帯・2016年) (十万ウォン) (資料)総務省、韓国統計庁 (注)日本は~39歳は30~39歳、60歳~は60~69歳。

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2.消費不振の背景

韓国の勤労シニア世帯の消費性向が低いのは、老後の生活の支えとなる公的年金に対する不安が 大きいことが主因である。 まず、マクロ全体でみると、韓国の公的年金支給額の対GDP比率は、国際的にみて極めて低い 水準である。実際、2013 年現在の韓国の公的老齢年金の対GDP比率は 1.8%に過ぎない(図表4)。 これは、日本の約5分の1の水準で、OECDにデータを提供している 32 カ国中最下位である。 また、1人あたりの平均支給額をみても、際立った低さである。日本では公的年金は2階建てと なっており、一般的な勤労者(サラリーマン)は、国民年金に上乗せして厚生年金を受給すること ができる。2016 年度の平均月額は、それぞれ 5.5 万円、14.8 万円となっており、合計 20.3 万円受 け取れる計算である(図表5)。一方、韓国の公 的年金の基本構造は国民年金2のみの1階建て であり、その平均月額は 32 万ウォン(約 3.2 万円)に過ぎない。なお、韓国では低所得の高 齢者の救済を目的とした基礎年金制度があり、 所得下位 70%以下の高齢者に最大 25 万ウォン (約 2.5 万円)支給される。しかし、それを加 味しても、生活保護の基準所得3並みで、最低限 の生活を維持していくのも困難な状況である。 韓国の公的年金の支給金額が小さい要因とし ては、以下の3点が指摘できる。第1に、現役 時代に払う保険料率が低いことである。日本の 厚生年金の保険料率が収入の 18.3%なのに対 2 国民年金の他に、公務員年金、軍人年金、私学教職員年金などがあるが、加入者数が少ないため割愛する。 3 2018 年の生活保護の基準所得は、単身世帯で 50 万ウォン、2 人世帯で 85 万ウォンである。 0 2 4 6 8 10 12 フ ラ ン ス ポ ル ト ガ ル イタ リ ア オ ー ス ト リ ア フ ィ ン ラ ン ド 日本 ベ ル ギ ー デ ン マ ー ク ス ペ イン ド イ ツ ハ ン ガ リ ー チェ コ ラ ト ビ ア ス ウ ェ ー デ ン ス ロ ベ ニア O E C D 平均 ト ル コ ア メ リ カ ス ロ バ キ ア ス イ ス ノ ル ウ ェ ー オ ラ ン ダ イギ リ ス ニュ ー ジ ー ラ ン ド エ ス ト ニア ルク セ ン ブ ルク ア イルラ ン ド カ ナ ダ オ ー ス ト ラ リ ア チリ イス ラ エ ル ア イ ス ラ ン ド 韓国 (%) (資料)OECD (図表4)公的老齢年金の対GDP比率(2013年) 0 5 10 15 20 日本 韓国 国民年金 厚生年金 (資料)厚生労働省年金局、韓国保健福祉部 (注1)日本は老齢年金のみ。韓国はその他(遺族年金、障害 年金)を含む。 (注2)為替レートは、1円=約10ウォン。 (万円、十万ウォン) (図表5)公的年金の平均月額(2016年度)

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4 して、韓国の国民年金では 9%である。第2に、韓国では国民年金への税金投入がないことである。 日本では国民年金の財源の半分を税金から補填している。第3に、韓国では国民年金の制度ができ たのが遅いため、加入期間が短い受給者が多く、満額を受給することができないことである。韓国 の国民年金制度は 1988 年に導入(日本は 1961 年)されたが、導入当初は対象が従業員 10 人以上の 事業所などに限られていた。その後、自営業者、零細事業者、臨時職・日雇い勤労者などにも対象 が広げられ、現行の国民皆年金のかたちが整ったのは 1999 年のことである。国民年金は加入期間 40 年で満額支給となるが、そもそも国民年金の制度ができてからまだ 40 年経っていないのである。 このように公的年金が老後の生活保障として機能していない韓国の状況は、高齢者の貧困という 深刻な社会問題を生み出すに至っている。66 歳以上の相対的貧困率(世帯の等価可処分所得4が全 体の中央値の半分未満となる世帯員の割合)をみると、韓国では 0.457 と、2位以下を大きく引き 離して著しく高い水準となっている(図表6)。 さらに、韓国では 65 歳以上の高齢者自殺率 がOECDの平均の3倍以上の水準となって いる(図表7)。ここからも、高齢者の貧困問 題の深刻さを窺い知ることができる。 このように、公的年金の給付水準が極めて 低く、高齢者の貧困問題が深刻化しているな かでは、現役で働いているシニア層も目前に 迫った退職後の生活に備え、少ない所得のな かでも消費を切り詰め、少しでも多くを貯蓄 に回そうとするのである。これが、韓国の勤 労シニア世帯の消費性向が極めて低い原因と なっている。 4 世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割った値。 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 オ ー ス ト ラ リ ア オ ー ス ト リ ア ベ ル ギ ー ブ ラ ジ ル カ ナ ダ チリ コ ス タ リ カ チェ コ デ ン マ ー ク エ ス ト ニア フ ィ ン ラ ン ド フ ラ ン ス ド イツ ギ リ シ ャ ハン ガ リ ー ア イス ラ ン ド ア イルラ ン ド イス ラ エ ル イ タ リ ア 韓国 ラ ト ビ ア リ ト ア ニア ル ク セン ブ ル ク メ キ シ コ オ ラ ン ダ ニュ ー ジ ー ラ ン ド ノ ル ウ ェ ー ポ ー ラ ン ド ポ ルト ガ ル ス ロ バキ ア ス ロ ベ ニア 南 ア フ リ カ ス ペ イン ス ウ ェ ー デ ン ス イ ス ト ル コ イギ リ ス ア メ リ カ (図表6)相対的貧困率 全体 17歳以下 66歳以上 (資料)OECD (注1)各国の値はOECDホームページへのアクセス時点(2018/8/14)における最新値(2013年~2017年)。 (注2)日本はデータを提供していない。 0 10 20 30 40 50 60 70 80 (人) 15~34歳 35~64歳 65歳~ (資料)OECD (図表7)十万人当たり自殺率(2010年)

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3.高まる老後不安

以上のように、韓国の勤労シニア世帯の低い消費性向は、退職後の収入不安に根ざしている。さ らに悪いことに、以下2点を背景に、退職後の収入に対する不安感はますます高まっているとみら れる。 第1に、急速な少子高齢化を受けて、国民年金の所得代替率の引き下げと支給開始年齢の引き上 げが行われていることである(図表8)。所得代替率は、2008 年に 60%から 50%に引き下げられ、 その後も 2028 年に 40%になるまで毎年 0.5%ポイントずつ引き下げられている。また、支給開始年 齢は、当初の 60 歳から 2013 年に 61 歳に引き上げられ、65 歳に達するまで5年ごとに1歳ずつ引 き上げられている最中である5 第2に、社会風習の変化や少子高齢化により、子どもからの財政的支援を期待しにくくなってい ることである。かつて韓国では、儒教の精神に基づき年老いた親の面倒は子どもがみるのが当然と されたが、都市化や核家族化が進むなかでこういった考え方にも変化がみられる。そのうえ、1980 年代前半に出生率が2を下回った後も低下に歯止めがかからず(2017 年は 1.05)、より少ない子ど も世代で高齢の親世代を支えていかなければならなくなっており、子どもの側にも支援する余力が なくなっている。 この結果、韓国の勤労シニア世帯の消費性向は、水準が低いだけでなく、方向性としても低下傾 向にある(図表9)。 5 韓国の財政推計算委員会の推計(2018 年 8 月)によれば、現行の計画通り所得代替率の引き下げ・支給開始年齢の引き上げを 行っても、国民年金の積立金は2057 年に枯渇するとしている。保険料率の引き上げか税金の投入をしない限り、現行の計画以上 に所得代替率の引き下げ・支給開始年齢の引き上げが必要になる。 59 60 61 62 63 64 65 66 35 40 45 50 55 60 65 70 75 1990 95 2000 05 10 15 20 25 30 35 (歳) (%) (年) 所得代替率(左目盛) 支給開始年齢(右目盛) (資料)韓国保健福祉部 (図表8)韓国の国民年金の所得 代替率と支給開始年齢 60 62 64 66 68 70 72 74 76 2005 10 15 (年) ~59歳 60歳~ (%) (資料)韓国統計庁 (図表9)韓国の消費性向 (二人以上の勤労者世帯)

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4.おわりに

勤労シニア世帯の消費不振は際立っており、 それだけで韓国経済に無視できないインパクト を与えている。仮に韓国の勤労シニア世帯の消 費性向が日本並みに高かったと想定すると(韓 国 62.0%に対して日本は 89.7%)、2016 年時点 のマクロの個人消費は 3.3%上振れる計算6にな る。 さらに、人口動態の変化による消費押し下げ 圧力が強まっていく。足元でベビーブーム世代 (1955~1963 年生)が 60 歳代に入りつつあり、 60 歳以上の世帯数が急速に増加している状況 にある(図表 10)。このため、勤労シニア世帯 の消費性向の低下に歯止めがかかると想定して も、こうした高齢化要因だけで、2030 年の個人 消費は現在よりも▲1.1%押し下げられる計算7になる。60 歳以上のシニア層の消費不振を改善でき なければ、マクロの個人消費に対する押し下げ圧力は一層強まることになる。 韓国では近年、財閥企業を中心とした輸出主導型成長から、家計の所得増加を起点とした内需主 導型成長への軌道修正を目指す動きが進んでいる。もっとも、退職後の収入に不安を持つシニア層 が急増していく限り、内需主導型成長の実現はますます困難になっていくと予想される。 現状、国民年金に税金を投入していないこともあり、わが国と違って財政収支は黒字基調で推移 している。政府債務残高の対GDP比率も4割弱と健全である。高齢社会を迎え、内需主導型成長 を目指すには、財政支出の拡大による社会保障の充実も1つの選択肢となろう。 以 上 6 韓国の「家計動向調査」は単身世帯と農業世帯は対象外である。今回の試算ではこれらの世帯を考慮に入れていない。なお、勤 労シニア世帯以外の消費性向は変化させていない。 7 世帯主の年齢が60 歳以上と 60 歳未満のそれぞれの世代において、2030 年の全世帯に占める勤労者世帯の割合を 2016 年と同 一と仮定して試算した。 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 2000 05 10 15 20 25 30 35 40 45 (%) (年) (資料)韓国統計庁 (注)2017年4月時点の予測。 (図表10)世帯主が60歳以上の 世帯の比率

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