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シトリン欠損症説明簡単患者用

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Academic year: 2021

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シトリン欠損症の治療:患者さんへの解説(2016-3-11) 病因 人は,健康を維持するために食物をとり,特に炭水化物(米,パンなど),蛋白質(肉, 魚,豆など),脂肪(動物脂肪,植物油など)は重要な栄養素です.栄養は,身体の形 成に,また身体機能を維持するエネルギーとして利用されます.図1に,食物からのエ ネルギー産生経路を示していますが,いずれも最終的にはクエン酸回路を介してエネル ギー(ATP)を産生します. 炭水化物は,主にグルコース(ブドウ糖)として消化・吸収され,クエン酸回路に入 りエネルギーを産生します.グルコースの利用においては,細胞質の NAD+が必要で,図 に示すように生成された NADH を NAD+に再生する経路(リンゴ酸̶アスパラギン酸シャ トル)が必要です.肝臓では,シトリンがこの経路を構成しており,シトリン欠損症で は,NAD+を再生できず,糖をうまく利用出来ません.結果として,肝臓が栄養不足とな り,新生児期には,肝内胆汁うっ滞症,成人期では成人発症 II 型シトルリン血症を起 こします.後者は,肝臓の長期の栄養不足に何らかの要因が関係し,アンモニアの処理 機構(アルギニノコハク酸合成酵素)が障害され,アンモニア脳症を起こします. 病因は,シトリンの遺伝子である SLC25A13 の異常です.劣性遺伝性疾患で,ご両親 から変異のある遺伝子をそれぞれ1個ずつ(計2個)受け取り病気になります.日本人 に多い病気で,変異遺伝子を2個持つ人は約 7,000 人に一人存在します.すなわち,毎 年約 140 人生まれているわけです.

蛋白質

(肉,魚,豆など)

炭水化物

(米,パンなど) (動物脂肪,植物油など)

脂肪

食物のエネルギー変換 アミノ酸 主にグルコース 消化・吸収 代謝 クエン酸回路 NADH NAD+ グリセロール 脂肪酸

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病態 1.炭水化物(ご飯,パンなど)を好まず,蛋白質や脂肪を好む. シトリン欠損症では,肝臓においてエネルギー(ATP)の生成に利用できる豆腐,肉, バター,チーズなどの蛋白質や脂肪を好み,順調に利用出来ないご飯やパンなどの炭水 化物を好まないと考えられます. 炭水化物の多くは,グルコース(ブドウ糖)に消化されますが,砂糖(蔗糖)はグル コース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)に消化されます.図に示すように,グルコ ース(ブドウ糖)の代謝にはダムのような調節システムがあり,一定以上にならないと 流れて行きません.一方,フルクトース(果糖)は,調節システムが無く,急速に流れ 込み,NAD+を必要とする段階でよどみ,容易に洪水を起こします.洪水とは,肝臓にと って有害な作用を持つ物質が貯まることを例えています.シトリン欠損症では,こうし た理由から多量の炭水化物の摂取や砂糖を含む甘い物を好まないのではないかと考え ます. 脳症や脳炎のときに,点滴で使用されるグリセオールは,シトリン欠損症に投与され ると生命の危険に曝されます.成分として,グリセロールとフルクトース(果糖)を多 量に含んでおります. グルコース (ブドウ糖) ATP クエン酸回路 NADH NAD+ フルクトース(果糖) ダムにより調節されている ので,ゆっくり流れれば洪 水は起こさない.しかし, 大量に流れれば洪水を起こ す. 調節されずに流れ込むため, 大量に流れれば危険! 糖代謝の概略

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2.シトリン欠損症の食事は,蛋白質や脂肪のみで充分か? シトリン欠損症の患者さんは,肝臓でエネルギーの生成に利用できる蛋白質や脂肪を 好みます.最近,蛋白質と脂肪を主とし,炭水化物を極端に制限する食事が,糖尿病の 治療やダイエット法として注目を浴びています.シトリン欠損症の患者さんも,こうし た食事で元気に過ごせるかと考えられるかもしれません.しかし,炭水化物に由来する グルコース(ブドウ糖)は脳などでは,必要な栄養分です.健康な人や糖尿病の人は, 肝臓や筋肉にグルコース(ブドウ糖)となるグリコーゲンを貯えており,また蛋白質や 脂肪からもグルコース(ブドウ糖)を体内で作ることが出来るので,こうした食事でも 低血糖を起こすことは少ないのです. 一方,シトリン欠損症の患者さんでは,痩せていてグリコーゲンや脂肪の貯えも少な く,更に体内でグルコース(ブドウ糖)を作る機能も低下しています.その為に,炭水 化物を極端に制限した食事では低血糖を起こしやすくなります.特に小児では,低血糖 になり易いので注意が必要です. 3.発病と寛解期 1) 新生児肝内胆汁うっ滞症 シトリン欠損症の一部は,新生児マス・スクリーニングの検査で血液中のガラクトー ス,メチオニンやフェニルアラニンが高いことで見つかります.多くは,生後1 4ヶ 月頃に黄疸,脂肪便,体重増加不良など新生児肝炎と類似した症状を呈し,検査では胆 汁うっ滞,脂肪肝,シトルリンを含めた血漿アミノ酸の上昇などが認められます.ガラ クトースが高い時には,白内障を合併することもあります.多くは,生後6か月以降に 徐々に回復し,おおよそ1歳までには肝機能が正常となります.しかし,ごく稀に重症 のため,肝臓移植を必要とすることがあります. 診断は,胆汁うっ滞など新生児肝炎様の症状と血漿シトルリン症の上昇があることか ら疑われ,SLC25A13 の遺伝子解析により確定されます. 治療には,中鎖脂肪酸を含み,乳糖(ガラクトース)を制限したミルクを投与します. 白内障を合併していない場合には,必須脂肪酸強化 MCT フォーミュラ(明治 721)を, 白内障を伴う場合には,蛋白質加水分解 MCT 乳(森永乳業 ML-3)を調乳し,100ml あた り中鎖脂肪酸(マクトンオイル)2 ml を添加したミルクを与えます.殆どは,治療に より速やかに症状も肝機能も改善します.なお,明治 721 および ML-3 は,主治医を介 し無償で提供されます.

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型を示します.疲れやすい,身長の伸びが悪い,低血糖を繰り返すなどの症状を認める 子供さんもいます.このような子供さんに対しては,中鎖脂肪酸の投与も試みられてい ます. 3)成人発症 II 型シトルリン血症 成人以降に,意識がハッキリしなくなり,場所や時間が分からなくなったり,失禁し たり,奇声を発したり,異常な行動をとったりなどが突然出現します.このような異常 行動は夕方 夜にかけてみられることが多く,朝には普通に戻るという症状が病気の初 期に認められます.状態が悪化すると,日中にも意識がハッキリしなくなります. 上記は,血液中のアンモニアが高くなり,脳症を起こしている状態です.通常,アン モニアは夕方 夜にかけて上昇し,朝には低下します.一般的に病院では,早朝に検査 することが多く,高アンモニア血症が気付かれないこともあり,精神病と誤診されるこ ともあります.アンモニアは,神経細胞に非常に有毒な物質で,脳症を繰り返したり, 脳症が長時間持続したりすると,神経細胞が損傷を受け回復が困難になります.早期の 診断と治療が重要なのです. 診断は,生来,豆類などの蛋白質が好きで,甘い物やお酒が嫌いという食の好み,高 アンモニア血症,アンモニア脳症,肝機能障害,血中シトルリンの上昇に基づき,最終 的には SLC25A13 遺伝子の解析により確定されます. 治療 肝移植のみが,有効な治療と報告されてきました.しかし,私達は,低炭水化物食の もと中鎖脂肪酸療法が非常に有効であることを見出しました.慢性期のみでなく,脳症 を起こしている患者さんに対しても効果(速効性)が認められます. 低炭水化物食は,成人男性であれば,総カロリー1800 Cal で蛋白:脂肪:炭水化物カ ロリーの比を 10-20:30-50:40-50 とします.中鎖脂肪酸として,マクトンオイルを 成人男性では 15ml,小柄な男性もしくは女性では 10 ml を食事毎に(一日3回)投与 します.料理用の計量スプーンを用いて正確に測り,摂取します.スープや牛乳,味噌 汁などにいれて全量摂取します.スプーンから直接食べる患者さんも多いようです. 中鎖脂肪酸は世界的に認められている健康食品でココナツオイルに沢山含まれていま す.最近では,アルツハイマーへの効果も考えられ,注目を浴びています.副作用とし ては,空腹時に摂取すると下痢をすることがありますが,健康上の問題は報告されてい ません. ラクツロースやポルトラックは,腸管におけるアンモニアの産生を抑える作用があり ますので,治療初期に投与することがあります. 炭水化物は,グリセミックインデックスの低い(食べても血糖値が余り上昇しない) 食べ物がお勧めです.米飯でも良いのですが,玄米などはインデックスが低い食べ物で

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す.果物は,特に甘い果物は果糖を多く含み,過剰な摂取は避けなければなりません. 禁忌薬物 グリセオールは,脳症時に使う注射製剤ですが,これは絶対に使用してはなりません. 生命の危険を招きます.成分の高濃度のフルクトース(果糖)の作用によるものと考え ております. ベサフィブラートは,高脂血症の薬剤ですが,中鎖脂肪酸の効果を打ち消してしまう 作用を持っていると考えています.患者さんでは,治療前や治療開始後に高脂血症とな ることが少なからずありますが,中鎖脂肪酸療法により改善しますので,薬物療法は不 要と考えています. 治療効果の指標 脳症を起こしている場合には,意識がハッキリ回復することで明らかになり,脳症を 起こしていない場合には,疲労感が減少し,元気になることで明らかになります.中長 期には,発病とともに減少した体重が回復(増加)してきます. 検査では,血中アンモニアは低下し,肝機能が徐々に改善してきます.血中アンモニ アは,時間帯により変動することから,評価には注意が必要です.中長期には,血漿シ トルリン値とフィッシャー比(血漿中の側鎖アミノ酸と環状アミノ酸との比)が一番重 要な指標です.フィッシャー比(正常値 2.43-4.40)は,数ヶ月かけて正常化し,血漿 シトルリンは,ゆっくり低下し,容易には正常化しません.フィッシャー比は肝機能の 重要な指標であり,血漿シトルリン(正常値 17.1-42.6µmol/L)は,アンモニアの解毒 機構の流れを反映し,低下してくれば,順調に流れ(処理)てきたこと意味します.血 漿シトルリンが正常化すれば,蛋白質の多い食事をしてもアンモニアは上昇しません. 長期的な検査では,超音波などにより,脂肪肝の改善が認められます. 何故,中鎖脂肪酸が効くのか? シトリン欠損症の肝臓では,食事の炭水化物から効果的にエネルギーを産生できず, 結果として肝臓を構成する肝細胞が栄養不足となります.このような状態が長期間続き, アンモニア処理機構が障害されると考えます. 一方,中鎖脂肪酸は,油の一種ですが,吸収も良く,ほぼ全て肝臓で利用され,肝細 胞にエネルギー(ATP)を沢山供給します.肝細胞にエネルギーが与えられると,グリ コーゲンや脂肪が作られ,結果としてもう一つの NADH シャトルであるリンゴ酸̶クエン 酸シャトルが作動し,細胞質の NAD+を再生します.細胞質の NAD+が増えれば,グルコー

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ニノコハク酸合成酵素)が増え,アンモニアを処理出来るようになることが推測されま す.中鎖脂肪酸は,油の一種ですが,長期的(1 2年後)には,脂肪肝も改善します. 中鎖脂肪酸療法の問題点 一番の問題点は,患者さんが元気になると,きちんと中鎖脂肪酸を摂取しなくなるこ とです.体調および検査も良くなると身体が元に戻り,治療を継続しなくても良いので はないかと誤解されることもあります.また,治療法が食品であるために,病気が自然 に治ってきたと誤解されるのかもしれません. 中鎖脂肪酸は,肝臓に栄養を与える食品です.毎日にきちんと中鎖脂肪酸を摂取し, 肝臓に栄養を与え続けなければなりません.勿論,摂取を止めて急に具合が悪くなるこ とはないのですが,毎日,肝臓に栄養を与えて,元気な生活を継続して欲しいと願って います. その他の治療法 一般的に用いられる治療法として,アルギニン,ラクツロース,ポルトラックなどが あります.アルギニンはアンモニア処理機構(尿素サイクル)を促進し,ラクツロース やポルトラックは,腸管におけるアンモニアの産生を抑える作用から,ある程度の効果 は期待されます.しかし,これらはアンモニアの上昇を抑制する治療法であり,肝臓自 体の機能を回復させる治療法ではないのです. また,ピルビン酸療法が試みられてきました.NADH シャトルの障害により,減少し シトリンಳ損症における糖代謝 グルコース(ブドウ糖) オキサロ酢酸 NADH NAD+ クエン酸回路 ピルビン酸 クエン酸 クエン酸 脂肪 中鎖脂肪酸 オキサロ酢酸 NADH NAD+ クエン酸回路 ピルビン酸 クエン酸 中鎖脂肪酸治療時における代謝 ① ② ①リンゴ酸ーアスパラギン酸シャトル ②リンゴ酸ークエン酸シャトル ATP ATP 脂肪ে成 細胞質NAD+ 脂肪ে成 細胞質NAD+ ATP ATP グルコース(ブドウ糖)

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た細胞質の NAD+を増やし代謝を改善することが期待されました.脳症を軽減した患者さ んもおりましたが,効果を認めず肝臓移植を必要とした患者さんもおりました.残念な ことに,一番重要な指標であるフィッシャー比と血漿シトルリンの改善は認められませ んでした.服用したピルビン酸が全て肝臓に届かないのか,肝臓に届いても作用は弱い ことが推測されます. 肝臓移植療法は,効果的な治療法です.しかし,ドナー,手術のリスク,経費などの 問題に加えて,生涯にわたり免疫抑制剤を服用しなければなりません.免疫抑制剤には, 感染症への抵抗力が低下することや癌発症のリスクが高まるなどの問題があります. 中鎖脂肪酸のメーカー:キッセイ食品(マクトンオイル),日清オイリオ(MCT オイル) 参考文献

1. Hayasaka K, Numakura C, Toyota K, Kimura T. Treatment with lactose (galactose)-restricted and medium-chain triglyceride-supplemented formula for neonatal intrahepatic cholestasis caused by citrin deficiency. JIMD Rep. 2:37-44, 2012

2. Hayasaka K, Numakura C et al. Medium-chain triglyceride supplementation under a low-carbohydrate formula is a promising therapy for adult-onset type II citrullinemia. Molecular Genetics and Metabolism Reports 1:42-50, 2014

3. 早坂 清,沼倉 周彦,渡邊 久剛 シトリン欠損症の治療および病態の考察 BRAIN and NERVE‐神経研究の進歩 67:739-747, 2015

2016 年3月 11 日

早坂 清(山形大学名誉教授)

沼倉周彦(山形大学医学部小児科講師)

参照

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