45-1 松吉 祐希 1. はじめに 蓄熱空調システムは電力負荷の平準化に寄与する有 効な手段であるが、蓄熱ロスや熱だまりなどが起こる ことも多く、能力を最大限に引き出した運用をしてい るケースは稀である。本研究が対象とする約 20 件の建 物では水蓄熱空調システムが採用されている。しかし、 基本的な制御用センサー以外は設置されておらず、場 当たり的な運用が行われている。 本研究の目的は、多くの水蓄熱システムに共通して 適用可能な、短期間の簡易な計測をもとにした蓄熱シ ステムの運用適正化手法を開発し、その効果を明らか にすることである。 2. 対象建物概要 対象とする 7 建物の概要を表 1 に示す。いずれも建 物用途は事務所ビルであり、空冷ヒートポンプチラー 熱源による水蓄熱方式が採用されている。 3. シミュレーションモデルの構築 3.1 シミュレーション概要 機器モデルを組み合わせて C 建物の空調システムに ついてシミュレーションモデルを構築した。シミュレ ーションの入力値と出力値を表 2 に、本研究のシミュ レーションフローを図 1 に示す。本モデルは水蓄熱槽 モデルと熱源モデル、運転制御モデルを組み合わせて 構築している。本シミュレーションの計算時間間隔は 10 分で、入力には 2014 年 7 月 30 日から 8 月 16 日 までの実測データを用いる。 3.2 シミュレーションによる運転方法の検討 三方弁制御と熱源機器の起動・停止温度条件値に関 するケース検討を行った。各検討ケースについて表 3 に示す。caseC は 2014 年度の C 建物の制御を再現して いる。各ケースは caseNa+Nb のように表し、Na には 三方弁の制御温度、Nb には夜間の熱源運転の設定温度 を記入する。その他の温度条件は Nb の値を基準に決 めている。図 2 に 1 次側積算消費電力量とピーク時消 費電力量の散布図を示す。これを見ると、case0+11、 case14+11 が最も 1 次側積算消費電力量が抑えられて いる。熱源の運転開始条件温度を高く設定することで 1 次側消費電力量が抑えられる。 表 1 対象建物一覧 表 2 シミュレーション入出力値 表 3 シミュレーションの検討ケース 調査項目 A建物 B建物 C建物 D建物 D建物 F建物 G建物 営業所名 東かがわ 伊予 坂出 鴨島 久万 西条 脇町 所在地 香川 愛媛 香川 徳島 愛媛 愛媛 徳島 延床面積(㎡) 926 740 3339 1089 978 2596 915 構造 RC造 RC造 RC造 RC造 RC造 RC造 RC造 冷房時チラ ー能力(kW) 63 19 79 77 25.6 78 77 チラ ー台数(台) 1 2 2 2 1 2 2 槽容量(㎥) 45 80 200 70 50 200 150 槽数 8槽 8槽 14槽 10槽 6槽 14槽 8槽
簡易実測による水蓄熱空調システムの運用適正化手法に関する研究
ファイル オープン ループ データ 読み込み 2次側負荷 読み込み 蓄熱槽 サブルーチン 冷凍機 サブルーチン データ 書き込み 計算終了 START END No Yes 入力値 熱源の定格流量,熱源の定格熱量, 熱源定格消費電力, 蓄熱槽各槽初期温度, 2次側流量,2次側処理熱量,外気温度 出力値 熱源往還温度,COP,負荷率, 部分負荷率,蓄熱槽各槽温度 図 1 シミュレーションフロー 熱源運転 開始条件 第2槽温度 [℃] 熱源運転 停止条件 第2槽温度 [℃] 熱源運転 開始条件 第13槽温度 [℃] 熱源運転 停止条件 第13槽温度 [℃] caseC (現状値) 第2槽 11 第2槽 8 第2槽 11 第13槽 10 15 case0+8 13 11 10 8 なし case0+9 13 11 11 9 なし case0+10 13 11 12 10 なし case0+11 13 11 13 11 なし case12+8 13 11 10 8 12 case12+9 13 11 11 9 12 case12+10 13 11 12 10 12 case12+11 13 11 13 11 12 case13+9 13 11 11 9 13 case13+10 13 11 12 10 13 case13+11 13 11 13 11 13 case14+10 13 11 12 10 14 case14+11 13 11 13 11 14 昼間追掛運転時 夜間蓄熱運転時 三方弁 制御温度[℃]45-2 4. 設定値適正化ツールの開発 4.1 ツール概要 建物仕様と空調システムの仕様を入力すると、各 設定値における計算結果が出力されるツールを開発 した。2 次側負荷は、NewHASP によって計算を行った 基準オフィスビルの夏季の負荷をもとに、延床面積で 補正を行っている。結果として期間積算の電力消費量、 電力料金を算出する。さらに任意の一週間を取り出し、 熱源機器や蓄熱槽内温度の挙動をグラフ化できる。こ こでは、B 建物の仕様を再現している。出力値について は、表 2 のものに加えて電力料金を出力する。 4.2 建物負荷と蓄熱槽サイズに関する検討 蓄熱槽の容量が異なる場合のケース検討を行った。 検討ケースは表 3 の三方弁の制御を行う 10 通りについ て行った。ツールの入力項目を表 4 に示す。図 3、図 4、 図 5 に異なる蓄熱槽容量について 5 か月の積算電力消 費量と積算電気料金、夜間移行率を示す。 図 3 を見ると、建物負荷に対して槽容量が小さい場 合、蓄熱量が大幅に不足していることが分かる。また夜 間移行率も全ケースにおいて低くなっている。これは 蓄熱量が大幅に足りていないため、蓄熱槽温度が夜間 の蓄熱開始条件温度まで下がらず、昼間の追掛運転の 条件のみで稼働することが原因である。この繰り返し により、ほとんど昼間に熱源が稼働し、夜間移行率が低 くなっている。よって制御設定値の通りの運転を行え ていない。図 4、図 5 を見ると、槽容量が大きくなるほ ど電力消費量が大きくなっている。蓄熱量が増えるこ とで熱損失が増えることが原因である。ケース別に見 ると、建物負荷に対して槽容量が十分な場合ではどの 槽容量でも case14+11 が最も省エネルギーな運転とな っている。これは、熱源の運転開始条件温度を高く設定 することで積算電力消費量が抑えられているためであ る。また、低い温度で蓄熱したときに高い夜間移行率と なり、電気料金が抑えられる。一方高い温度で蓄熱する と、ピーク時間帯以外の昼間の時間帯に冷熱が不足し、 図 2 1 次側積算消費電力量とピーク時消費電力量 表 4 ツール入力項目 図 3 積算消費電力と積算電気料金、夜間移行率 (100 ㎥~120 ㎥) 図 4 積算消費電力と積算電気料金、夜間移行率 (100 ㎥~500 ㎥) 図 5 積算消費電力と積算電気料金、夜間移行率 (500 ㎥~2000 ㎥) 10 15 20 25 30 35 250 255 260 265 270 275 280 ピー ク 時消費電力量 [k W h ] 1次側積算消費電力量[kWh]
case0+8 case0+9 case0+10 case0+11 case12+8 case12+9 case12+10 case12+11 case13+9 case13+10 case13+11 case14+10 case14+11
延床面積[㎡] 槽数 槽容量[㎥] 20 50 100 110 120 200 500 1000 2000 冷凍機定格流量[㎥/h] 1.34 3.35 6.7 7.37 8.04 13.4 33.5 67 134 冷凍機定格熱量[kW] 冷凍機定格消費電力[kW] 冷凍機台数[台] 昼間電気代[円/kWh] ピーク時電気代[円/kWh] 夜間電気代[円/kWh] 21.24 23.16 10.82 2596 14 78 27.4 2 0 20 40 60 80 100 31000 32000 33000 34000 35000 36000 夜間移行率 [% ] 積算電力消費量[kWh] casec case12+8 case12+9 case12+10 case12+11 case13+9 case13+10 case13+11 case14+10 case14+11 100㎥ 110㎥ 120㎥ 0 20 40 60 80 100 31000 32000 33000 34000 35000 36000 積算電気料金 [万円 ] 積算電力消費量[kWh] casec case12+8 case12+9 case12+10 case12+11 case13+9 case13+10 case13+11 case14+10 case14+11 100㎥ 110㎥ 120㎥ 0 20 40 60 80 100 33000 36000 39000 42000 45000 積算電気料金 [万円 ] 積算電力消費量[kWh] casec case12+8 case12+9 case12+10 case12+11 case13+9 case13+10 case13+11 case14+10 case14+11 100㎥ 200㎥ 500㎥ 0 20 40 60 80 100 33000 36000 39000 42000 45000 夜間移行率 [% ] 積算電力消費量[kWh] casec case12+8 case12+9 case12+10 case12+11 case13+9 case13+10 case13+11 case14+10 case14+11 100㎥ 200㎥ 500㎥ 0 20 40 60 80 100 32000 35600 39200 42800 46400 50000 積算電気料金 [万円 ] 積算電力消費量[kWh] casec case12+8 case12+9 case12+10 case12+11 case13+9 case13+10 case13+11 case14+10 case14+11 500㎥ 1000㎥ 2000㎥ 0 20 40 60 80 100 32000 35600 39200 42800 46400 50000 夜間移行率 [% ] 積算電力消費量[kWh] casec case12+8 case12+9 case12+10 case12+11 case13+9 case13+10 case13+11 case14+10 case14+11 500㎥ 1000㎥ 2000㎥
45-3 熱源が稼働するため積算電気料金が高くなる。 以上より、建物負荷に対して槽容量が十分な場合、省 エネルギーな運転を目指す場合、どの槽容量について も case14+11 を採用するのがよい。低コストの運転を目 指す場合、夜間移行率が 100%かつ蓄熱開始設定温度と 三方弁設定温度が高いケースを採用するのがよい。た だし、これは時間帯によって電気料金に大きな差が出 る料金設定の場合に限る。 5. 実システムへの適用 前項で述べたツールを実システムへ適用した。実験 としてまず 1 週間の簡易な計測を行った。4 章のツール において建物負荷を NewHASP ではなく蓄熱槽温度か ら計算した建物負荷を用いて、A、B 両建物についてケ ース検討を行った。図 6 にツールで求めた A、B 両建 物の積算電力消費量と積算電気料金を示す。caseC は A、 B 建物ともに 2015 年度実測の設定値を再現している。 省エネルギーかつ低コストのケースを選択し、A 建物 では case13+10、B 建物では case13+9 を選択した。どち らも変更前よりも熱源の運転開始条件温度が低くなる ケースとなった。ここで決定した 2 建物の変更前後の 設定値一覧を表 5 に示す。 5.1 A 建物の分析 図 7、図 8 に A 建物の設定値変更前後の蓄熱槽 各槽温度を示す。図 9 に C 建物の熱源と蓄熱効率 と夜間移行率を、図 10 に C 建物の熱源積算電力消 費量と積算電気料金を示す。設定値を変更し、熱源機器 の蓄熱開始条件温度を低く設定したことで、満蓄の時 間帯の蓄熱槽全体の温度レベルが下がっている。しか し、昼間の蓄熱槽内温度は変更前と比較して高くなっ ており、蓄熱槽内温度帯が広がっている(図 7、図 8)。 図 9、図 10 より熱源機器の蓄熱開始条件温度を低く設 定したことで、熱源機器の生産熱量と電力消費量が増 加したことがわかる。それにより、積算電気料金も増加 した。結果として、A 建物において変更前の運転より 熱源電力消費量、電気料金ともに増加した結果となっ た。これは、シミュレーション上では負荷が不足した場 合追掛運転が稼働するが、実測では昼間の追掛運転が 稼働しない。つまりシミュレーションにおける設定が 実態を捉えていなかったことに原因がある。 5.2 B 建物の分析 図 11、図 12 に B 建物の設定値変更前後の蓄熱槽各 槽温度を示す。図 13 に B 建物の蓄熱効率と夜間移行 率を、図 14 に B 建物の熱源積算電力消費量と積算電 気料金を示す図 11 を見ると、負荷が小さいことで熱源 の蓄熱開始条件温度に達さずに、蓄熱が行われていな い日があることが分かる。これは外気温度が低く 2 次 側負荷が抑えられた結果である。図 13、図 14 を見る と、熱源機器の蓄熱開始条件温度を低く設定したこと で、夜間に蓄熱が完了して夜間移行率が上がり、電気料 金が抑えられていることが分かる。結果として、B 建 物において前項のシミュレーション結果を反映させる ことで、変更前の運転より熱源電力消費量はわずかに 増加したが、電気料金はわずかに抑えられた運転とな った。熱源機器の電力消費量がわずかに増加した原因 としては 2 次側負荷の増加によるものと考えらえる。 6. まとめ 本論文では、水蓄熱空調システムを有する建物を対 象にシミュレーションツールの構築を行った。そして、 構築したモデルを用いて蓄熱運転設定値の検討や蓄熱 図 6 積算電力消費量と積算電気料金(計算値) (左:A 建物 右:B 建物) 表 5 変更前後の設定値一覧 1.10 1.20 1.30 1.40 1.50 3000 3250 3500 3750 4000 積算電気料金 [万円 ] 積算電力消費量[kWh] casec case12+8 case12+9 case12+10 case12+11 case13+9 case13+10 case13+11 case14+10 case14+11 0.80 0.90 1.00 1.10 1.20 2600 2800 3000 3200 3400 積算電気料金 [万円 ] 積算電力消費量[kWh] casec case12+8 case12+9 case12+10 case12+11 case13+9 case13+10 case13+11 case14+10 case14+11 A建物 B建物 第2槽 第7槽 11℃ 13℃ 第7槽 第7槽 11℃ 11℃ 第7槽 第2槽 - -第2槽 第2槽 - -三方弁制御 チラー入口温度設定 2015/ 8/30~9/5 2016/ 8/29~9/4 A建物 B建物 第7槽 第7槽 12℃ 11℃ 第7槽 第7槽 10℃ 9℃ 第2槽 第2槽 - -第2槽 第2槽 - -三方弁制御 チラー入口温度設定 2016/ 9/7~9/13 2016/ 9/6~9/12 13℃ 計測期間 ※「-」と示しているものは追掛運転を実施していないものである。 計測期間 調査項目 変更後設定値 蓄熱運転 開始条件 停止条件 停止条件 追掛運転 開始条件 停止条件 12℃ 追掛運転 開始条件 停止条件 調査項目 変更前設定値 蓄熱運転 開始条件
45-4 槽の不具合を検知する手法の提案を行った。そして、実 システムへ適用し実測にて確認を行った。ツールを用 いて、蓄熱槽と建物負荷のバランスにおいて、低コスト を目指す場合、省エネルギーを目指す場合それぞれに ついて採用するべき蓄熱運転の設定値を確認した。 今後は、引き続き実測調査を実施して、設定値変更に よる省エネ、低コスト効果を実測レベルで把握する必 要がある。 【参考文献】 1) 一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター:既設建物の蓄熱式空調システムのコ ミッショニングガイド,2010 2) 河路友也ら:外皮・躯体と設備・機器の総合エネルギーシミュレーションツール 「BEST」の開発(その 33),空気調和・衛生工学大会学術講演論文集(草津),p1133-1136,2008.8 3) 一般社団法人日本ビルエネルギー総合管理技術協会:建築物エネルギー消費量調 査報告【第36 報】,2014.4 図 7 A 建物蓄熱槽各槽温度(変更前) 図 8 A 建物蓄熱槽各槽温度(変更後) 図 9 A 建物の蓄熱効率と夜間移行率 図 10 A 建物の熱源積算電力消費量と積算電気料金 図 11 B 建物蓄熱槽各槽温度(変更前) 図 12 B 建物蓄熱槽各槽温度(変更後) 図 13 B 建物の蓄熱効率と夜間移行率 図 14 B 建物の熱源積算電力消費量と電気料金 0 5 10 15 20 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 温度 [℃ ] 時刻[時] 昼間 夜間 温度(2槽) 温度(7槽) 夜間起動温度 夜間停止温度 0 5 10 15 20 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 温度 [℃ ] 時刻[時] 昼間 夜間 温度(2槽) 温度(7槽) 夜間起動温度 夜間停止温度 0 30 60 90 120 0 100 200 300 400 変更前 変更後 蓄熱効率、夜間移行率 [% ] 負荷 、生 産熱 量 [kW h /日 ] 2次側積算負荷 熱源積算生産熱量 蓄熱効率 夜間移行率 0 1.5 3 0 200 400 600 800 変更前 変更後 積算電気料金 [万円 ] 積算電力消費量 [kW h ] 熱源積算電力消費量 積算電気料金 0 5 10 15 20 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 温度 [℃ ] 時刻[時] 昼間 夜間 温度(2槽) 温度(7槽) 夜間起動温度 夜間停止温度 0 5 10 15 20 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 0 12 温度 [℃ ] 時刻[時] 昼間 夜間 温度(2槽) 温度(7槽) 夜間起動温度 夜間停止温度 0 25 50 75 100 0 100 200 300 400 変更前 変更後 蓄熱効率、夜間移行率 [% ] 負荷、生産熱量 [kWh /日 ] 2次側積算負荷 熱源積算生産熱量 蓄熱効率 夜間移行率 0 1.5 3 0 200 400 600 800 変更前 変更後 積算電気料金 [万円 ] 積算電力消費量 [kW h ] 熱源積算電力消費量 積算電気料金[万円]