Title
現代日本語における状態・ 特性・関係を表す動調の連体
形
Author(s)
須田, 義治
Citation
国語と国文学, 86(11): 108-120
Issue Date
2009-11
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/20230
Rights
至文堂
現代日本語における状態・
特性・関係を表す動調の連体形
は じ め に ( こ 終 止 形 と 連 体 形 の シ タ と シ テ イ ル よく知られているように、変化を表す動詞は、文の終止の位置に おいては、シタとシテイルというアスペクト的な形が、変化の実現 ( l ) と、その結果的な状態というアスペクト的な意味の対立を示すが、 連体の位置においては、シタとシテイルが、どちらも結果的な状態 を表し、そのアスペクト的な意味に違いが認められない。 テレビがこわれたo
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テレビがこわれている。 こわれたテレビがある。 H こわれているテレビがある。 ただし、このように、どちらの形でも変わらないと言っても、実 際には、ほとんど、シタが使われているのだが、シテイルが使われ ることもある。そこで、どのようにシタとシテイルが使い分けられ須
義
治
田
ているのかを明らかにする必要があるが、それが本稿のおもな課題 で あ る 。 108 一 一 ) シ タ と シ テ イ ル が 対 立 す る も の ﹁結婚した人﹂と﹁結婚している人﹂とは、前者が、最近、その ような社会的な関係(状態)の変化があった人を表しているが、後 ( 2 ) 者は、そのような社会的な関係(状態)を持つ人を表している。こ のように、変化を表す動詞であっても、連体形のシタが結果的な状 態を表すことがなく、つねに、シタとシテイルとが、終止の場合と 同じく、変化の実現とその結果的な状態というアスペクト的な意味 の対立を一示すという動詞が、多くはないが、存在する。 ( 3 ) この種の動詞としては、相対的な変化を表す﹁1
なる﹂﹁増え る﹂﹁成長する﹂や、過程的な達成を表す﹁届く﹂﹁着く﹂﹁帰宅する ﹂ ﹁ 来 る ﹂ ﹁ 起 き 上 が る ﹂ ﹁ で き あ が る ﹂ ﹁ ほ ど け る ﹂ ﹁ 落 ち る ﹂ ﹁ 倒 ( 4 ) れる﹂﹁建つ﹂や、状態のきりかえを表す﹁就職する﹂﹁あらわれ る﹂﹁結婚する﹂﹁起きる﹂﹁だまる﹂﹁停止する﹂などがあげられる が、これらは、いずれも、シタで変化の実現を強く表す動詞であ る
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三原は、冷たくなった紅茶にやっと手を出して飲みおえ、 食堂を出た 。 ( 松 本 清 張 ・ 点 と 線 ) 凶井戸へ堕ちたおばさんは、片手にびしょびしょの風呂敷包 み を 抱 い て 上 っ て 来 た 。 ( 林 芙 美 子 ・ 風 琴 と 魚 の 町 ) 同彼女は、出来上がった着物を畳んで座布団の下に敷いた 。 ( 林 芙 美 子 ・ 魚 の 序 文 ) 凶音比古はプイと向こうを向いて、落ちている石なんか蹴っ て い る 。 ( 山 本 文 緒 ・ チ ェ リ ー プ ラ ツ サ ム ) 附 こ う し て 見 る と 、 今 も 、 こ の 電車と十 四番線についている 列車にさまたげられて、十五番線ホ l ムの見とおしはやっぱり で き な い の だ 。 i ( 松 本 清 張 ・ 点 と 線 ) 同お寺の脇に建っている永春さんの家に入ると、和尚さんの 奥さん、つまり永春さんのお母さんが台所から顔を出した 。 ( 山 本 文 緒 ・ チ ェ リ ー プ ラ ッ サ ム ) 以下では、こうした動詞ではなく、最初に述べたような、シタと シテイルで遠いが見られな い動詞について、それらを、状態、特 性、関係を表すものに分けて、順に見ていくことにする 。 状態を表す連体形 ( 一)シ空が使われる場合 ① シ タが結果的な状態を表す場合 次の例は、シタが変化の結果としての状態を表している 。 したが っ て 、これは、シテイルにかえることもできる 。 すなわち、シタで も、シテイルでも、結果的な状態であることに変わりはないのであ る 。 だが、実際の例では、シテイルが使われるより、シタが使われ る方が多い 。 間太一少年は、むずと兎ちゃんの両耳を掴んで箱の外に引き 出し、山羊さんのそばにあった空箱に、ぽんと兎ちゃんを投げ 込みました 。 それから、汚れた床藁を取り出し、小便臭い箱を 日向にほして行ってしまいました。(住井すゑ・わたしの童話) 側怒ってるんじゃないのよ、偶然だけど一昨日冷蔵庫の 一 番 下の棚開けたら腐ったレタスが出てきて : ; : 冷 蔵庫を開けるた びに厭な匂いするから何の匂いだろうと思ってたんだけどね 。 -109ー ( 逮 城 三 紀 彦 ・ 背 中 合 わ せ ) 川川駅にとまるたびに限をきまして、江藤は曇った窓硝子を指 でぬぐい、駅名をたしかめ、(あと何時間:::)という計算をしながら、煙草をすった。(石川達三・青春の嵯鉄) この場合、シタが使われることによって、変化の実現や、変化が 実現するまでの時間の経過などが、シテイルと比べると、多少強く ほのめかされていることもあるかもしれない。とくに、それが、そ の物の正常な、日常的な状態ではないとすれば、正常な、日常的な 状態からの変化がほのめかされることになるのだろう。 また、シタであれば、特徴づけという、規定語としての連体的な ( 5 ) 機能のなかに、状態がさしだされるとも言える。そして、一時的な ものではあっても、その物の特徴づけとして、特性の意味にも近く なっている。その場合、その状態自体が時間のなかに存在している のではなく、特徴づけをうけた、その物が、一時的な時間のなかに 存在していると解釈することもできる。 次の例は、時間的に長い期間におよぶ変化であり、そのため、特 性に、より近くなるのだが、あくまでも、変化の実現を前提として いる点において、特性とは区別される。 同彼は鍾の減った靴をひきずって出て行った。(松本清張・点 と線) 川北国人らしい血色のいい青年で、部屋の中には壁中、点身 と錆びた鋲で絵が止めであった。(林芙美子・耳輪のついた馬) 以上のような、シタとシテイルとが連体の位置でアスペクト的な 意味の対立を示さなくなる動詞においても、コンテクストによっ て、シタが、結果的な状態でなく、変化の実現を表すことがある。 たとえば、結果的な状態をもたらす変化が、その場面のなかで生じ たのを明示している場合、とくに、それが他の動作との条件づけの 関係にある場合などである。 同中身のカルピスがおばさんの膝の上に派手に揺が刻。 ﹁ ぁ 、 大 変 ﹂ 私はすばやくハンカチを出して、おばさんの濡れたスカートを 拭 い た 。 ( 山 本 文 緒 ・ チ ェ リ ー プ ラ ッ サ ム ) 同雑巾を左手に掛坂部い創出出、彼は創刊剖剖刊で私の頭を撫 で て く れ た 。 ( 山 本 文 緒 ・ チ ェ リ ー プ ラ ツ サ ム ) ②結果性が弱まったシタ 次にあげるシタの例は、一時的な状態ではあるが、変化の結果と いう側面が背景にしりぞいて、単なる状態に近くなっている。その ため、変化を前提としない特性にも、意味的に近くなっており、そ れとともに、特徴づけという連体的な機能もおびているようであ る。したがって、これは、シタの形をとることが、より多くなると 思われるが、実際には、やはり、シテイルになることもあるだろ 、 叶 ノ 。 同 (l~ 青く晴れた空にちぎれ雲が浮んでいる。(向田邦子全対談) 冷えた缶コーヒーをふたつ持って一民ってくると(宮部みゆ
き ・ 聞 こ え て い ま す か ) 同乾いたタオルで飛び散った水滴を拭き取りながら、でもも しかしたら、洗面台で測れる時間というものが、世の中には存 在しているのかもしれないと、僕は思った。(小川洋子・奇妙な 日 々 ) また、次の例のように、日常的に頻繁に交替する物のあり方の一 つをさしだすものも、結果性が弱い。 庖の中で片づけ物をしていた若者が、開いたガラス戸から顔を 調 明 か せ た 津 村 に そ う 一 言 っ た 。 ( 連 城 三 紀 彦 ・ 背 中 合 わ せ ) 岡 高 層 ビ ル に ま だ 瞬 が 叫 N m l 引川剖汁叶汁があった。(志水辰夫 ﹁ も う 閉 庖 だ よ ﹂ -行 き ず り の 街 ) 次の例は、他動詞のシタが、服装など、主体の様態を表すという 再帰的な用法である。この場合も、一時的な状態ではあるが、結果 性が弱まり、単なる状態のようになっている。 同私の前に原付ごと滑りこんできたのは、製郵出劃出利剖叫 ん だ っ た 。 ( 山 本 文 緒 ・ チ ェ リ ー プ ラ ッ サ ム ) 側いつもなら私ひとりで片づけるんだけど、今日は柑耐ポ矧 った永春さんが隣に立っていた。(山本文緒・チェリープラツサ ム ( 二 ) シ テ イ ル が 使 わ れ る 場 合 以上のような、状態を表すものは、シタでなく、シテイルをとる ことも少なからずある。それが、どんな場合かを、次に見ていく。 まず、シテイルの形が使われるのは、一時的な状態を明示的に表 す場合である。これは、持続性などのアスペクト的な意味を持つよ うになっており、文の成分として、規定語というより、述語として の性格が強くなっているのである。上にシタに関して述べたよう な、規定語となる形容詞のように、より規定語的なものの連体的な 機能を、かりに、﹁特徴づけ﹂と呼び、以下にあげるような、より ( 6 ) 述語的なものの連体的な機能を﹁叙述﹂と呼ぶことにする。 具体的には、たとえば、次にあげる例のように、﹁まだ﹂をとも ない、状態の、以前のままの継続を表すとき、シテイルが使われ ( 7 ) る 。 凶雲が切れ、薄い陽が、討が濡れている道路に、坂井の影を 作 っ た 。 ( 大 沢 在 日 目 ・ 湯 の 町 オ プ ) 同受話器のむこうに、記が日を伏せている男の顔が浮かん だ 。 ( 連 城 三 紀 彦 ・ 背 中 合 わ せ ) コンテクストに、それと相互作用しあう動作が存在する場合、そ れとの同時性という、シテイルの形のアスペクト的な機能をはたす ために、シテイルが使われていることもある。他の動作と、同時性 という関係を持つことは、文の述語的な成分の特徴である。この同
時性は、たとえば、次のように、おもに目撃性(知覚性)として現 れ る こ と が あ る 。 凶 彼 は こ の 湖 の の 深 さ を は、どこへ流れて行くのか 。 ( 石 川 達 三 ・ 青 春 の 嵯 鉄 ) 凶草地に寝転んでいる牛遠の背中に、陽がきらきらあたって 温 か そ う で あ っ た 。 ( 林 芙 美 子 ・ 山 中 歌 合 ) 次の例は、シテイルが、文のなかにさしだされている他の動作 (波線部分)を条件づけているようである。これも同時性の一種と言 えていた。この淀んでいる水 え る だ ろ 、 っ 。 また、それと関係して、修飾される名詞が個別的な特定のものを きしだしている場合のほうが、シテイルになりやすい。すなわち、 ﹁人﹂という名詞であれば﹁和服を着た人﹂となり、﹁太郎﹂という 名詞であれば﹁和服を着ている太郎﹂となるのである。 凶 和 服を劃引川副叫け叫が総同出倒的掛川射 同 長 引 同 ヮ
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封 引料同鎖骨材叫dQ
糾明、この夜の向田さんはかぎりなくやさ しかった 。 ( 向 田 邦 子 全 対 談 ) 凶横坐りになって、浴衣の襟元をはだけている女の細い眼 を、ちらちら額に感じながら、廊 創 出 出 劇 以 り 動 問 問 問 バ 対 新 ぷ 吠ぽ副部甘ボじ科叫的 。 ( 林 芙 美 子 ・ 牡 蝋 ) 制呆然と矧寸到寸引川副引に気づき、私は列べ巧州地校対ザハ 穴り割賦以出科副割引司4
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。 ( 生 島 治 郎 ・ チ ャ イ ナ タ ウ ン ・ プ ル ス 次の例は、条件づけているというより、文のなかの他の動作の実 現を可能にする前提のようなものが、連体の位置にさしだされてい る 。 いI
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D I刑l ナし、! の て │ 夜 凶 男が、さらにネクタイを緩める 。鳩 は、片手で膝に押さえ つけられたまま、じっとしていた。剖川寸川副到叫剖刊が、脱 を 傑 ー り は じ め た び ( 北 方 謙 三 ・ 鳩 ) ( 8 ) 次の例は、条件づけなどの関係がなく、名詞がさしだすものと同 じ種類のもののなかから、その連体の位置の状態を持つものを、ほ かのもの ( そ う し た 状 態 を 持 た な い も の ) か ら 区 別 して、とりたてて いるようである 。 このように、シテイルは、とりたて的、対比的に 使われていることもある 。 側 ﹁全従業員と警備会社に、この脅迫状の件を知らせてくだ さ い 。 バレンタインデ l にかぎらず、不審な客、不審な物、パ ッ ケ ー ジの破れてる商品、売場に置いてないはずの商品、そう いうのをチェックするんです 。 二 月十四日前後は私服の署員が の 売 場 に 詰 め る よ う に 手 配 し ま す ﹂ ( 黒 川 博 行 ・ カ ウ ン ト ・ プ ラ ン ) 側 地 方 都市に講演に行く 。 近鉄球団など恐らく来たことはないだろうというようなところでも、あのマ l クの帽子をかぶっ て い る 子 が 目 に つ く 。 ( 岡 本 敏 子 ・ 岡 本 太 郎 に 乾 杯 ) 特 性 を 表 す 連 体 形 (一)シ宮が使われる場合 特性とは、かんたんに三 り、その物を、その一面から性格づけ、ほかのものから、それを区 別するものである。そうした、物の特性を表すシタには、以下のよ う な も の が あ る 。 ①特性しか表さない動詞 変化動詞ではないが、シタで、結果的な状態を表さず、特性しか 表さない動詞として、次のような、いわゆる脱動詞化した(形容詞 ( 9 ) 化した)ものがあげられる。これは、シテイルにかえられなくもな いが、ほとんどの場合、ふつう、シタの形をとる。 凶赤い西洋瓦の屋根を斜めに傾けた、しゃれた家だ。(宮部み ゆ き ・ 言 わ ず に お い て ) 同四件ともどうしょうもなく馬鹿げた話だったが、事件とし て は 筋 が 通 っ て い た 。 ( 宮 部 み ゆ き ・ 裏 切 ら な い で ) このようなものとしては、ほかにも、以下のような例がある。 ﹁間違った生き方﹂﹁ありふれた電車﹂﹁秘密めいた暗号文﹂﹁くぐ もった鈍い音﹂﹁角ばった眼鏡﹂﹁変わった子供﹂﹁偏った保護意 識﹂﹁天然素材でできた手作りの工芸品﹂﹁きちんとした服装﹂ ﹁堂キとした態度﹂﹁毅然としたしなやかさ﹂﹁ぎらぎらした光り 方﹂﹁こぢんまりした温室﹂﹁徹底した正確さ﹂ このような、シタで特性を表す動詞のなかには、以下のように、 シテイルにかえられず、シタしか使われないものもある。これら は、おもに、比ゆ的に使われた、その派生的な意味において、連体 形がシタに回定化したものである。たとえば、連体形において、﹁く たびれる﹂は、﹁くたびれた人﹂という基本的な意味であれば、﹁く たびれている人﹂と、シテイルにもなるが、﹁くたびれたス l ツ ﹂ という派生的な意味を表している場合は、シタの形しかない。 凶このくたびれたス l ツなら、気になさらんでください(宮 9d 部 み ゆ き ・ 返 事 は い ら な い ) 同こっちとしては、一千万円以上のまとまったお金を、あの 銀行から編し取ることができるってことを実証できれば、それ で い い の よ ( 宮 部 み ゆ き ・ 返 事 は い ら な い ) 同いずれ沖縄には行ってみたい、何か突っ込んだものが書け そうだという予感はあったし(岡本敏子・岡本太郎に乾杯) この種の例としては、ほかにも、以下のようなものがあげられ る 。 ﹁湿った曲﹂﹁思いきった提案﹂﹁気のきいた冗談﹂﹁落ち着いた色
合い﹂﹁かすれたレコードの音﹂﹁澄んだ瞳﹂﹁ちょっとしたトラブ ルト﹁決まった時間﹂﹁工芸品として完成したもの﹂ ②部 分・側面の特徴を表すもの 次の例は、変化を前提としておらず、物の部分・側面の特徴が、 その物全体の特性となっているものと言えるだろう 。 部分・側面を 表す名詞とシタとの組み合わせが、それがかかる名詞のさしだす全 体の特性を表しているのである 。 これも、シテイルにかえることが できなくはないが、ふ?っはシタが使われる。 彼は薄青色の水着を着て、手にホ l ス と 耐 ベ 似 つ い た プ ラ シ を持っていた 。 ( 小 川 洋 子 ・ ナ ポ レ オ ン フ イ ツ シ ユ と 泳 ぐ 日 ) 同 その建物は、傾山削剥利剖針剛の片隅に、ひっそりと建っ ていた 。 ( 小 川 洋 子 ・ バ ル セ ロ ナ の 夜 )
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③ 身体的な特徴を表すもの 人の身体的な特徴の変化をさしだす動詞の場合、変化の生じる時 聞が長いため、その結果的な状態をもたらした変化を明示的に表す ことができず、シテイルとシタとの意味的な違いが生じにくくな る 。 そして、やはり、シテイルでなく、シタが使われることが多く な っ ている 。 また、人の身体的な特徴は、変化によってもたらされるものでは あるが、その人を特徴づける代表的な特性でもある。そのため、シ タの形によって、時間のなかで生じる状態ではなく、時間的な面を きりすてられた特性として、表されることが多くなっているとも言 え る 。 小柄な太った女が、赤い馬穴をさげて立っていた 。 ( 林 芙 美 子 (3司 牡 蝋 同たるんだ腹の肉は、ずぶずぶと沈み込んでいくようなやわ らかさしか伝えてこない。(重松清・ビタミン F ) ④感 情を表すもの 次の例は、人の感情や感情的な態度などをさししめす動詞のシタ 4 9 が、人の体の部分・側面をさししめす名詞を修飾する場合である 。 この連体形のシタは、変化を表す動詞とは 言 えないが、修飾される 名詞のさしだす人の体の部分・側面の特性を表している 。 人の感情 や感情的な態度がおもてにあらわれた、人の体の部分・側面を、そ の感情や感情的な態度によって特徴づけているのである。その感情 自体は一時的なものであるが、体の部分・側面を特徴づけていると いう面において、時間的な特徴がきりすてられているとも言える。 これも、シテイルでなく、基本的にシタでなければならない 。 また、例を見ても分かるように、これは、動作の仕方などをさし だす、文の特殊な成分であり、名詞にとって、その逮体修飾 ( シ タの部分)が必須となっているものである 。 刷 勇輝も骨川剖刑判 U 、まっすぐ修 一 を 見 つ め て い た 。 ( 重 松 清 ・ ビ タ ミ ン F ) 同 刑事は落ちついた手つきで机の摘出じから中型の封筒をと り出した 。 (石 川 逮 三 ・ 背 春 の 陵 鉄 ) 同 キヨトンとすると、永春さんは呆れた顔して私の額をつつ く 。 ( 山 本 文 緒 ・ チ ェ リ ー プ ラ ツ サ ム ) 同 そんな怒った目するなよ 。 ( 速 竣 三 紀 彦 ・ 背 中 合 わ せ ) 次の例は、感情をさししめす動詞とは言えないが、シタが必須の ものとなっている例闘は、特性を表し 、 それではない例酬は、状態 を 表 すと 言 える 。 これは、後者の場合、名詞のまえに﹁自分の ﹂ が 入れられる、つまり 、 ﹁ こ わ ば っ た自分の頬を﹂とできるが、前者 の場合は、﹁こわばった自分の顔の陽 子 に﹂とはできないというと ころにも、その違いが現れている 。 同 家 に帰ると、こわばった顔の陽子に迎えられた 。 ( 重 松 清 ・ ビ タ ミ ン F ) 同 ﹁緊張して、頭の中が真っ白になっちゃったんだ﹂ 歩きながら一言った。﹁俺もよくあったよ、ガキの頃﹂と付け 加えて、こわばった頬を必死にゆるめた 0 ( 重 松 清 ・ ビ タ ミ ン F ) ⑤ 現象・状態を表す動詞 次の例は、変化ではなく、現象や状態を表す動詞だが、シタが使 われ、特性(あるいは状態 ) を表している 。 このような動詞の場合も シタが使われるのは、シタが、特徴づけという 一 般的な機能を持つ ということを示しているのだろう 。 だが、これは歴史的な問題でも あ る 。 {47} 生きたしろうおをたらいに入れて、網杓子ですくって酢じ ようゆで食べると、プルブル ツ としてのどごしがうまいって言 う ん で す が ね 。 ( 向 田 邦 子 全 対 談 ) 凶 丸顔に後退した髪、てかてか光った広い額の父の顔が何故 だか笑 っ ている 。 ( 山 本 文 緒 ・ チ ェ リ ー プ ラ ッ サ ム ) 同 渋 滞した街なかを抜けて、川にぶつかる 一 本道に入ったと き 、 雄介は言 っ た 。 ( 重 松 消 ・ ビ タ ミ ン F ) 会 乙 シ テ イ ル が 使 わ れ る 場 合 特性の場合、ほとんどシタが使われるのだが、シテイルが使われ ているのは、﹁の﹂や﹁ゃっ﹂など、形式的な意味を持つものにつ く場合が多いようである。これは、それらが会話文であることとも 関係しているかもしれないが、それとともに、それらが、とりたて 的 、 対比的に働いていることとも関係しているだろう。 洋食堂がついているのは東京発で言うと、 剛 一 列 車 の﹁富
士﹂、一一列車の﹁つばめ﹂、あと七列車の下関行き急行ね。和 食 堂 が つ い て る の は 特 急 で 一 言 、 っ と ﹁ さ く ら ﹂ 。 ( 向 田 邦 子 全 対 談 ) 刷﹁オレ、メロンのついてるやつね、メロンメロン、メロー ン﹂と、俊介の甲高い声が聞こえる。(重松清・ビタミンF) 同黒猫も、爪が懐中汁粉みたいな色をしてるやっとか、ちょ っ と 紫 色 だ と か 。 ( 向 田 邦 子 全 対 談 ) 倒そういうお顔をしてるかたが照れ屋だということは、私も おぼろげながらわかります。(向田邦子全対談) 同帳場では、まだ然将棋が続いて、自炊部屋に春からいると 云う彫刻家が茶を飲んでいた。左の耳采がもげている男で、若 くはあったが枯木の様にしなびている。(林芙美子・山中歌合) 四 関 係 を 表 す 連 体 形 特性は、それが﹁どんなものか﹂ということを表すが、ここで言 う関係は、おもに帰属関係とでも一言うべきものであり、ほかのもの に関係づけられ、それとの関係において、それが﹁どれか﹂という ことを表している。 ( ご シ タ が 使 わ れ る 場 合 次の例のように、配置関係を表す場合、それほど多くはないが、 シタの形が使われることもある。このシタは、すべて、シテイルに かえることができる。また、以下の例のなかには、一時的なものも あるが、一時的に成り立つ関係であっても、関係自体は、その一時 的なものの、時間的でない一面を、切りとっているのである。
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劃 州 叶 剖 ω 制をむしり取って、カーテンをひきちぎる。 ( 重 松 清 ・ ビ タ ミ ン F ) 同彼は耐難事吠駁同ついた土を払い、立ち上がった。(小川洋 子 ・ 誰 か が 君 の ド ア を 叩 い て い る ) 同蟹は員削桜U
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引 州 叶 出 汁 叶 刈 斗 ィ オ 斗 リ 刈 叫 削 に は い あ が ろ う と し て い た 。 ( 松 本 清 張 ・ 点 と 線 ) 次の例は、もともと関係をさししめす動詞であるが、シタの形を とっている。これも、シテイルにかえることができるだろう。 同 ボ l イフレンドは海からずっと遠く離れた高原で、サッカ ー の 合 宿 を し て い た 。 ( 小 川 洋 子 ・ ナ ポ レ オ ン フ イ ツ シ ユ と 泳 ぐ 日 ) 剛鳥飼は三原を逮れて、一昨日ゃったとおり、国鉄香椎駅と の間を、三つの異なった速度で歩いた。(松本清張・点と線) 側向いあった席で、窓に頭をもたせかけて、大橋登美子が眠 っ て い た 。 ( 石 川 達 三 ・ 青 春 の 嵯 鉄 ) ( 二 ) シ テ イ ル が 使 わ れ る 場 合 関係を表すものは、以下のように、シタでなく、シテイルが使わ れることが多い。この点において、状態や特性を表すものとは、はっ き り と 異 な る 。 たとえば、次の例に見られるように、﹁酒瓶の並んだ棚﹂(﹁(部 分)シタ(全体)﹂)は特性であるが、それに対して、﹁棚に並んでい る 酒 瓶 ﹂ ( ﹁ ( 全 体 ) シ テ イ ル ( 部 分 ) ﹂ ) は 関 係 を 表 す 。 部 分 が 全 体 を 特 徴づけるため、それが連体修飾の要素となると、動詞がシタの形を とる。逆に、部分が、その帰属という面から、全体と関係づけられ ( 叩 ) ると、それが叙述として働き、シテイルが使われる。 刷はじめて入ったバアのカウンターに坐って面販制劃州出捌 を一目見るなり、くるりと後ろを向いて﹁一番上の棚は右か ら、ブラック・アンド・ホワイト、シヴァス・リ l ガル、ホワ イト・ホ l ス:::﹂と並んでいるラベルの名を全部当てるとい う 芸 当 を す る 男 が い る 。 ( 向 田 邦 子 全 対 談 ) 関係を表すものとしては、まず、次のような、配置関係や存在を 表すものがあげられる。これらは、登場人物などにより知覚されて いる場合が、ほとんどであり、いくつかの例は、他の動作の実現の 前提のように働いてもいるようである。 同一晩中消えない街灯のおかげで、報
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判削判州叶引川副汁 レl トの文字も、読むことができた。(小川洋子・誰かが君のドア を 叩 い て い る ) 同背丈ぐらいしかない屋根の、めくれ、そりかえった赤く焼 け た 民 話2
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をやりながら、砧はためらい、足を停めた。(平井和正・憎しみ の 畏 ) 刷コ一原は、ぼんやり尉おかかっている静物の油絵を眺めてい た 。 ( 松 本 清 張 ・ 点 と 線 ) 同あの時はもう暗かったが、写真はきわめて明るく写ってい て、封州艇川い剖判引川副制判の一本一本まではっきりと早えて い た 。 ( 石 川 達 三 ・ 青 春 の 嵯 鉄 ) 倒そう言って、電献横倒訟料叫劃引叫川引川刻、あの不可解 な 小 箱 を 見 せ る 。 ( 宮 部 み ゆ き ・ 聞 こ え て い ま す か ) 制寝具もそっくり残っているし、越川吋附掲載概阿川寸引川 る衣類も掻き回されているもののほとんど残っている。(志水辰 夫 ・ 行 き ず り の 街 ) 同先に入って明かりをつけ、記販制山垂れ下がっているアコ ー デ オ ン シ ャ ッ タ ー を 開 け た 。 ( 志 水 辰 夫 ・ 行 き ず り の 街 ) また、次の例は、再帰的な用法の他動詞の場合である。主体を、 修 飾 さ れ る 名 詞 が さ し だ す 場 合 は ( ﹁ ビ ニ ー ル 袋 を さ げ た 聡 美 ﹂ ) 、 状 態 や特性を表すことになり、シタが使われるが、それが対象をさしだ す 場 合 は ( ﹁ 聡 美 の さ げ て い る ビ ニ ー ル 袋 ﹂ ) 、 主 体 と の 関 係 に お い て 、 そのもののありかを示して、関係を表すことになり、シテイルが使 ( 日 ) わ れ る 。 これらの多くは、文の主語のさしだす主体と、連体形のさしだす( ロ ) 動作の主体とが異なる。 側嘗宜叫臨類似ザげているビニール袋を指差した。(宮部みゆ き ・ 一 言 わ ず に お い て ) 同どこかで見た顔だと思いながらすぐにはわからなかったの ですが記が謝司川刻叶リ外叫にはただちに記憶が戻りました。 ( 連 城 コ 一 紀 彦 ・ 背 中 合 わ せ ) 同立ちあがった拍子に、対新制膝の上に姻えこんでいる赤い 削 に 気 づ い た 。 ( 連 城 コ 一 紀 彦 ・ 背 中 合 わ せ ) 同対五が同川引川刻その叶川寸外は、先代の大玉が若ものだ ったころの或る日、たまたま大王が棲む沼へ水泳ぎにきた人間 の子供から、そーっと盗みとったものだった。(住井すゑ・わた し の 童 話 ) 次のような自動詞の場合も、同様である。これも、主体との関係 において、その存在のありかを示している。 同もっとも、もしベルが鳴ったとしても、候型判寸寸川刻瑚 瑚からは、おばさんが邪魔になって受話器に手が届かなかっ た 。 ( 小 川 洋 子 ・ 奇 妙 な 日 々 ) 同賢一郎は腕を組み眼を閉じて、石のように動かなかった。 到寸叫川刻欄瑚叶叫刷はつめたくて、体温がだんだん下がって 行き、頭がしびれてくるのが解るようだつた。(石川達三・青春 の 嵯 鉄 ) 同いくら大木だからといっても、生えている場所で木の質は 違 い ま す か ら ね 。 ( 永 六 輔 ・ 職 人 と 語 る ) 一般的に、関係を表すものは、次のように、シテイルの形をとる こ と が 多 い 。 同あなたと私は共通しているところや似ているところもある けれど、違うところも多いわけね。(向田邦子全対談) ) ス ル が 使 わ れ る 場 合 配置関係や存在など、関係を表すものは、スルの形をとるという 特 徴 も 持 つ 。 同起眠りむ凶剖制剛側叶割引叫剖捌は灯が消えて、おしだまっ て黒い側面を向け、暖昧な灰色の色調の溶けたどすぐろい夜空 を 載 っ て い た 。 ( 平 井 和 正 ・ 憎 し み の 畏 ) 同八時十八分、再面川 U U 劃剖引什叶汁川叶叶の駅にさしかか ったとき、上方からヘッドライトが近づいてきた。(黒川博行・ 118 カウント・ダウン) 同まばらな街灯の光の届くかぎり、運河に沿った耕顧問肘榔 以劃利回対叫創闘叫副酬が黙々とうずくまり、あとは無人の聞 に 溶 け こ ん で い た 。 ( 平 井 和 正 ・ 憎 し み の 畏 ) 側 わ ず か な 出
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剤州訓剖叶則叫則剖叫副叶酬はみじめな狼狽 と 隠 し き れ ぬ 恐 怖 に ゆ が ん で い た 。 ( 平 井 和 正 ・ 憎 し み の 民 )に白#しく建物の正 へ帰った 0 ( 平 井 和 正 ・ 憎 し み の 良 ) ﹁建つ﹂という動詞は、シタの形( ﹁ 建 っ た﹂)であれば、変化の 実 現を表すが 、 配置関係を表す場合は、スルの形もとる 。 側 ﹁ドム﹂は、旅館街の頂 上 から 一 本奥まった脱出同劃引則刺 広だ っ た 。 ( 大 沢 在 日 同 ・ 湯 の 町 オ プ ) 砧は警察署を出ると、ほの白んだ冷気と静寂の中を、すで に点る赤い灯りを後に、歩いてアパート 五 お わ り に 以上に述べてきた、動詞の連体形の意味的なタイプと、シタとシ テイルとの関係をまとめると、次のようになる 。 状態の場合は、シ タが多いがシテイルもあり、特性の場合は、おもにシタとなり、関 係の場合は、シタよりもシテイルが多いが、スルもとる 。 そ し て 、 これらは、文の成分として、シタの形をとるものは、特徴づけとし て機能しており、シテイルの形をとるものは、叙述として機能して い る 。 この意味と機能は、意味を土台としながらも、相互作用しあ う関係にある 。 また、このような、連体の位置の文法的な形は、終止の位置の文 法的な形に対して、その意味・用法に、歴史的に古い姿(シタのも との形のなごり)を残しているとも考えられ、終止の位置と連休の位 置との、文法的な形の体系の違いは、文法的な形の発展の歴史的な 過程を反映しているとみることができる 。 そして、対談などの話し 言 葉的なテクストでは、シテイルが多く出てくることから、シテイ ルという新しい形が、連体の位置においても、徐々に使われるよう になり、終止の述語にあわせる方向へ連体形の体系が変化しつつあ るようにも思われるのである 。 ︹ 注 ︺ ( 1 ) 表わされる現実の事態は同じであるが、その表現の重点の置かれ方 は 、 シ タ か シ テ イ ル か で 、 異 な っ て い る 。 ( 2 ) ただし、終止の場合と同様に、前者も、後続する時点に、結果として の状態が存在するので、事実としては 、 後者と同じことになる 。 そ の た め 、 両 者 の 区 別 が 難 し い 場 合 も あ る 。 ( 3 ) こ の 動 詞 は 、 次 の よ う に 、 シ タ で 結 果 的 な 状 態 を 表 す こ と も あ る 。 ・ 重 太 郎 は 、 袋 の く し ゃ く し ゃ に な っ た ﹁ 新 生 ﹂ を取り出して火を つ け た 。 ( 松 本 滑 強 点 と 線 ) ( 4 ) ﹁ 建 つ ﹂ の シ テ イ ル の 形 は 、 あ と に 述 べ る﹁関係﹂の意味を表すとみ る こ と も で き る 。 ( 5 ) ﹁ 特 徴 づ け ﹂ に つ い て は 、 ま た 、 あ と で 述 べ る 。 ( 6 ) ﹁ 特 徴 づ け ﹂ ﹁ 叙 述 ﹂ と 、 い わ ゆ る ﹁ 制 限 的 ﹂ ﹁ 非 制 限 的 ﹂ と の 関 係 が 問 題 と な る だ ろ う が 、 こ こ で 、 そ れ に つ い て 論 じ る 準 備 は で き て い な い ( 高 僑 一 九 七 九 参 照 ) 。 ( 7 ) 例 闘 の よ う に 、 ﹁ ま だ ﹂ が つ い た 文 だ が 、 シ タ が 使われている場合も あ る 。 これは、シテイルとの対立におけるシタの無標性によって説明でき る だ ろ う 。 -119一
( 8 ) 例制には、目撃性もあるだろう 。 ( 9 ) この種の単語について、富島一九九四には、﹁状態調﹂という用語の もとに、くわしい説明がある