博 士 ( 水 産 学 ) 小 岡 孝 治 学 位 論 文 題 名
北部日本海中層に生息するスケトウダラ成魚の 成 長 停 滞 と そ の 要 因 に 関 す る 研 究
学位論文内容の要旨
スケトウダラTheragra chalcogramma は北海道周辺において非常に重要な漁業 資源であり,日本海側の漁獲量は北海道全体の約20 %を占めている(北海道水産 部,1996) 。1994 年,日本は国連海洋法条約に批准し,本種にもTAC (総可能漁獲 量)が設定され,その資源量を推定することが必要となった。さらに,本種資源を 有効かつ持続的に利用し続けるためには個体群豊度の変動機構を明らかにし,将来 の資源量予測と適正な資源管理を行う必要があろう。年齢査定は魚類の生態や資源 量変動を解明する上で最も基本的な研究の1 つであり,資源解析に成長式の推定が 必要となることも多い。しかしながら,北部日本海では生活史初期の成長式が報告 されているに過ぎない(NishimuraandYamada , 1988 )。また,個体の成長は環境 要因と密接な関連をもっと考えられるが,こうした観点から本種の成長を論じた研 究は行われていない。以上の背景から,本研究ではまず,北部日本海個体群の成長 パターンを明らかにした。次にスケトウダラ成魚の食性,餌のカロリ一価,魚群と 餌生物の鉛直分布および物理・化学的環境を検討した。以上の結果をもとに北部日 本 海 個 体 群 成 魚 の 成 長 パ タ ― ン に 影 響 を 与 え る 要 因 を 論 じ た 。 1995 年の産卵期前である10 月に北海道積丹半島から青森県までの日本海沖合で 中層トロールによる調査を行った結果,魚群は熊石周辺海域に集中していることが 明らかとなり,過去の知見を含めると北部日本海個体群の大部分が熊石周辺海域に 産卵回遊を行うものと考えられた。
1991 年から1996 年までの10 月に中層トロールおよび着底卜ロールにより採集
し たスケト ウダラの 耳石を用いて年齢査定を行い,von Bertalanffyの成長式に当て はめたところ以下のパラメ一夕一が推定された。
雌:K= 0.23,Linf 491.9,t0 ‑0.73;雄:K=0.26,Linf−−447.5,t0ー−‑0.72 1991年 か ら1996年 ま で の10月 に 中 層 ト ロ ー ル お よ び 著 底 ト ロ ― ル によ っ て 採 集 し た 標本 と ,1997年 の10月 か ら12月 にか け ま わし 網 によ っ て 採集 し た標 本 に 関 し ,体 長 と 成熟 個 体の 割合と の関係を ロジステ ィック曲線 に当ては めたとこ ろ , 成 熟 体長 が 雌で354.0 mm, 雄 で327.1 mmと 推 定さ れ た。 体 サ イズ に 関 する 性 的 二 型は 近 接 要因 と して は雌雄 の成熟過 程の差異 が関与して いるもの と推察さ れた。
本 個体 群 の 成長 は これ ま でに報告 されてい る他海域 の個体群と 比較して 年齢別 の 平 均 体長 が 最 も小 さ かっ た。ま た,底層 付近に生 息するオホ ーツク海 南西部と 東 部 ベ ーリ ン グ 陸棚 で は高 齢にな っても成 長し続け るが,中層 に生息す る北部日 本 海 , オ ホ― ツ ク海 中 央 部, ア リュ ー シ ャン 海 盆 の3個 体 群 はお よ そ7‑8歳 以 降 に成長が停滞することが明らかとなった。
1993年 か ら1996年 ま で の4月 と10月 に 中 層 ト ロ ― ル で 採 集 し た ス ケ ト ウ ダ ラ 成 魚 の胃 内 容 物を 解 析し た。ス ケトウダ ラの豊度 が最も高い 地点の体 重当たり の 胃内容物 重量(% )は4月の 方が10月よ りも高い 値を示した ことから ,春季には 産 卵 活 動に よ り 消耗 し たエ ネルギ ―を回復 させるた めに摂餌強 度が高く なり,産 卵 期 前 の秋 季 に は摂 餌 活動 が不活 発になっ たものと 思われる。 春季には オキアミ 類 , 毛 顎類 , 端 脚類 , 夏季 にはオ キアミ類 および端 脚類が主要 餌生物で あると考 え ら れ るが , 秋 季に は オキ アミ類 の重要性 が低下し ,端脚類の 重要性が 高くなっ た 。 種 レ ベ ル で は 春 季 に は オ キ ア ミ 類Thysanoessa longipes, 毛 顎類Sagitta elegans, 端 脚 類Themisto japonicaの 重要 性 が高 く , 夏季 に は毛 顎 類Sagitta elegansの か わり に ,端 脚 類Primno abyssalisの 重 要 性が 高くなっ た。秋季 には 端 脚類丁japonitー ´aおよび戸abyssalisが重要であることがわかった。また,体長 階 級 別 に胃 内 容 物を 検 討し た結果 ,当海域 では成熟 後の体サイ ズの増加 に伴う大 型 の 餌 生物 へ の 転換 は 認め られず ,大型の 動物プラ ンクトンに 依存し続 けること
が明らかとなった。
1995 年10 月に熊石沖,1998 年3 月に噴火湾外東方でビ―ムトロールネットに より採集した動物プランクトンと, 1996 年および1998 年6 月に噴火湾で着底卜 ロ―ルにより採集したスケ卜ウダラ稚魚の熱量を燃研式熱量計で測定した。その 結果,当海域における主要餌生物の端脚類丁japonica と毛顎類S .elegans は,オ キアミ類丁Iongipes や魚類マイクロネクトンよりもカロリ一価が低いことが明ら かとなった。
1994 年 から 1996 年の4 月 と10 月に魚 群探知機による観察と中層トロ―ルに よる採集からスケトウダラの鉛直分布を,MTD ネッ卜の各層水平曳により餌生物 の鉛直分布を,CTD により水温・塩分・溶存酸素を検討した。スケトウダラの主 分 布層は 春季には水深 150‑250m に,秋季には400‑500m となるが,この深層へ の移動は水温,塩分および溶存酸素量には影響されず,主要餌生物のオキアミ類 F Iongipes を摂餌するためである可能性が示唆された。しかしながら,10 月の主 要餌生物の鉛直分布はスケトウダラの鉛直分布と完全には重複しておらず,中層 に生息するスケトウダラの餌の利用可能度は底層付近に生息するスケトウダラに 比べて低い可能性がある。
以上の知見から,北部日本海の中層域は動物プランクトンの豊度が低いために
摂餌量が少ないこと,マイクロネクトンの豊度が低いために大型の餌生物への転
換が不可能なこと,底層付近に生息するスケトウダラに比べて動物プランクトン
に遭遇する機会が少ないことにより,高齢魚の成長に必要なエネルギーを得るこ
とができないものと推察された。さらに,カロリ一価の低い端脚類丁japonica や
毛顎類S . elegans が主要餌生物になっていることも成魚の成長が停滞する要因の
1 つであると推察された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
北部日本海中層に生息するスケトウダラ成魚の 成長停滞とその要因に関する研究
年齢査定は魚類の生態や資源量変動を解明する上で最も基本的な研究であり、資源解析 に成長式の推定が必要となることも多い。しかし、北部日本海に分布するスケトウダラに 関しては、生活初期の成長式が報告されているに過ぎない。また、個体の成長は環境要因 と密接な関連をもっと考えられるが、こうした観点から本種の成長を論じた研究はない。
本研 究は、1991年 から1997年 までの期間、北部日本海個体群の成長パ夕一ン、成魚の食 性、餌のカ口リー価、魚群と餌生物の鉛直分布、物理・化学的環境を検討し、北部日本海 個 体 群 成 魚 の 成 長 パ タ ー ン に 影 響 を 与 え る 要 因 を 論 じ た も の で あ る 。 本研究において評価される点は次の通りである。
1) 10月に行った中層トロ―ル調査の結果と既往の知見から、北部日本海個体群の大部 分が熊石周辺海域に産卵回遊を行うことを推定した。
2)耳石に よる年齢 査定を 行い、次のvon Bertalanffyの成長パラメータを推定した。
雌:K〓 0.23,k。f二ニ491.9,to〓‑ 0.73;雄:K〓0.26,Linf二ニ447.5;to=‑ 0.72 本個体群の成長はこれまで報告されている他海域のものと比較して年齢別の平均体長が 最も小さいことを明らかにした。また、底層付近に生息するオホー`ソク海南西部と東部ベ ーリング海陸棚では高齢魚になっても成長し続けるが、中層に生息する北部日本海、オホ ーツ ク海中央部、アリューシャン海盆ではおよそ7‑8歳以降に成長が停滞することを指摘 した。
3)スケトウダラ成魚の胃内容物を調ベ、摂餌強度は春季に高く秋季に低いことを明ら かに した。主 要餌生物 は春季 にはオキ アミ類 .Thysanoessa longipes、毛顎類Sagitta eleoaans.端脚類Themisto japonica、 夏季には オキア ミ類Zlonaaipes丶 端脚類Primno abyssalisであり、秋季にはオキアミ類の重要性が低下し、端脚類ZjaponicaとPabyssalis の重要性が高くなることを明らかにした。また、当海域では成熟後の体サイズの増加に伴 なう大型の餌生物への転換は認められず、大型の動物プランクトンに依存し続けることを 明らかにした。
4)当海域 における 主要餌 生物の端 脚類Z japonicaと 毛顎類Selegansは、オキアミ類 Z longipesや 魚 類 マ イ ク ロ ネ ク ト ン よ り も カ 口 リ ー 価 が 低 い こ と を 指 摘 し た 。
美 次
邦
豊 泰
敏
橋 野
谷
高 菅
中
授 授
授
教
教 教
助
査 査
査
主 副
副
5) スケ トウ ダラ の主 分 布水 深は 春季 には 水深150‑250mに、秋季には400‑500mとな ることを明らかにした。この深層への移動は、水温、塩分、溶存酸素量には影響されず、
オキアミ類ア10ngipesを摂 餌するためである可能性を示唆した。しかし、10月の主要餌 生物の鉛直分布はスケトウダラの鉛直分布と完全には一致しておらず、中層に生息するス ケトウダラの餌の利用可能度は底層付近に生息するスケトウダラに比べて低い可能性を指 摘した。
6)北部日本海の中層域は動物プランクトンの豊度が低いために摂餌量が少ないこと、
マイクロネクトンの豊度が低いために大型の餌生物への転換が不可能なこと、底層付近に 生息するスケトウダラに比べて、動物プランクトンに遭遇する機会が少ないことにより、
高齢魚の成長に必要なエネルギーを得ることができないことを推察した。さらに、カロリ ー価の低い端脚類Z japonicaや毛顎類Selegansが主要餌生物になっていることも成魚の 成長が停滞する要因の1っであることを推察した。
本研究は、北部日本海におけるスケトウダラの成長停滞を餌生物環境との関連から詳細 に言及し、その資源特性について重要な新知見を提供したものとして、審査員一同は、本 研 究の 申請 者が 博士 (水 産学)の学位を授与される十分な資格を有すると判定し た。
なお、平成11年2月22日の研究科委員会最終審査にお いて、投票の結果、総投票数35 票、可とするもの35票で研 究科委員全員が合格と判定した。
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