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介護保険制度の地域格差問題

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Academic year: 2021

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- 1 -

介護保険制度の地域格差問題

―有料老人ホーム市場に見る参入規制効果―

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU09062 露久保 光平 1.はじめに

現行の介護保険制度では有料老人ホーム設立にあたり、

自治体からの許可が必要である。しかし、有料老人ホー ムの設立は介護サービスの一部が自治体の負担となる ことから、財政状況が悪化している自治体においては自 由な参入を認めないことが起こりうる。

本稿では、保険者の歳入に占める介護給付費準備基 金繰入金、財政安定化基金の割合が財政状況の悪化 を示す変数であることに注目し、保険者財政の悪化に伴 う参入規制効果が、利用料金に与える影響を、個別の 有料老人ホームのデータを用いて実証的に分析する。

分析の結果、保険者の財政状況の悪化は、有料老人 ホーム利用料金に最大で約17%の価格上昇をもたらす ことが観察された。これは、介護保険サービスについて 地域間に格差が生じている事を示している。この地域格 差解消のためには、国による制度運営、または保険者の 広域化などの運営規模の再検討が必要といえるだろう。

2.自治体が直面する介護保険の現状 2-1

介護保険制度の概要

2-1-1

保険者・被保険者

介護保険制度は急速な少子高齢化の進展に対応す るための、社会保障構造改革として打ち出され、国民だ れしもが、身近に必要な介護サービスが手に入れられる システムを構築していくことが必要であるとの理念に基づ き制度設計されたものである。

対象者は被保険者として年齢に応じて強制的に加入 することになる。保険者(市町村)は介護保険事業の主 体であり、加入手続きに始まる資格管理、保険料の徴収、

あわせて国・県からの負担金などを財源に介護保険特 別会計内にて財政の運営を行い、また運営全般に関わ ることでは条例、介護保険実施計画の策定をする。介護 保険事業を運営する保険者は住民の福祉の向上に対

する責務は最少の行政組織である自治体に帰属してい ること、サービス供給の管理と保険料徴収の地域性など の理由により地方自治体が行うこととされた。

2-1-2

財政と費用負担

介護保険制度では各保険者は特別会計を設けなけ ればならない(法第 3 条)。会計期間は年度ごとの会計と なっており、その財源は国、県、市町村、保険料で賄わ れることとなる(法第 121 条~法第 153 条)。(図 1 参照)

図 1:介護保険制度財源の仕組み

(出典)厚生労働省資料より筆者作成

制度開始以降、回避しがたい給付費不足に陥った場 合には保険料の増額、財政安定化基金(法第 147 条)の 利用。もしくは介護給付費準備基金繰入金を用いての 対応となる。

2-1-3 制度改正

逆選択による市場の非効率性を改善するための情報 整備。本稿の実証ではこの改正により整備された情報シ ステムを採用している。また、サービスの質の確保の観 点から、有料老人ホームの定義が見直された1

2-2

サービス利用状況と有料老人ホーム市場

2-2-1

認定者の現状

近年の傾向として目立つことに要介護度の比較的軽 度な認定者の割合が増していることがある。

1 介護保険法改正と同時に老人福祉法第29条の改正がなさ れた。

市町村

税金50%

第1号被保険者分 第2号被保険者分

約20% 約30% 保険料50%

介護給付費準備基金繰入金 12.5% 12.5% 25%

施設給付の場合は国20%、

都道府県17.5%

財政安定化基金

(2)

- 2 - 2-2-2 介護サービスの現状と有料老人ホーム

比較的軽度な認定者の割合が多くなっていること、有 料老人ホームがその受け皿となっていることも鑑みると 需要は増大している。(図2 参照)

図 2:施設数の推移

(出典)厚生労働省「社会福祉施設等調査報告」より筆者作成

3.介護保険制度にみる地域格差問題 3-1

市町村のインセンティブ

サービス利用の補助を各保険者(市町村)が担うこと で、保険者は給付費抑制に対して強いインセンティブを 持つようになる。財源確保のためには二つの方法がある。

一つに介護保険料の引き上げである。しかし域内被保 険者にとっては目に見える負担の増加がもたらされるた めに行いにくい。二つ目の方法として給付費増加の抑 制である。抑制段階では利用者の目に触れることがなく 保険者としては一つめの方法と比べると採用しやすい。

3-2

参入規制が生じる過程

有料老人ホーム開設には品質維持、域内の過剰な開 発をコントロールするため県による許可制度が存在あり、

それには市長村長の意見書が必要となる。許可の目安 として保険者が作成する事業実施計画があり、域内の需 要を見込んで計画期間内における施設予定数(目標)

が記載される。この計画数の設定には保険者による裁量 の余地がある。そうした目標値を理由に新規事業者に対 して事業を認めないという参入規制を保険者が行う。そ の傾向は、給付費抑制を果たしたい財政状況が悪化し ている市町村(保険者)ほど生じる。

3-3

老人ホーム市場の経済分析

現在有料老人ホームは参入障壁となる技術的要素は なく、事業が民間企にも認められてことにより参入の自由 な市場といえるであろう。また、価格が低くなったからと言

ってだれしもが利用への動機を持つ種類の財ではなく、

利用の必要がある人(利用者)の尽きない範囲内で需要 は非代替的であるといえる。

こうした性質を持つ市場に起こる参入規制の効果を、

図 3 八田(2008 97 項)のモデルを参考に検討する。縦 軸に有料老人ホーム利用価格、横軸に数量(床数)をと る。市場における供給曲線をS、需要曲線をDとする。最 適な均衡点は E 点とする。その際価格はPe、数量は Qe となる。参入規制が働くと、供給曲線は SfからSrへと変 化する(f は free、r は regulation の略)。数量は Qe から Qr へと変化し均衡点はRとなる。そして価格はPe から Pr へと上昇する。この上昇が財政悪化による価格プレミア ムと考えられる。(図 3 参照)

図 3:参入規制時の有料老人ホーム市場の供給変化

4.実証分析

4-1

推計方法と推計モデル

財政状況が悪化した保険者による参入規制効果が有料老 人ホーム市場の価格上昇をもたらしている、という仮説を実証 するためにまず、長期における企業の市場参入・退出の モデルを考える。

企業の総収入をTR、総費用をTCと表すと、企業は、

(TC>TR)であれば市場から退出する。両辺を生産量 Qで割ると(TC/Q>TR/Q)と書ける。TR/Qが平均収 入で価格Pと等しいこと。TC/Qは平均総費用ATCであ ることよりこの式は、(P>ATC)と変換できる。すなわち 企業は、財の価格が平均総費用より小さければ市場か ら退出し、大きければ市場に参入するということが言える。

つまり参入と退出は平均費用と価格が等しくなったとき のみ終了する。競争企業は価格と限界費用が等しくなる

0 500 1000 1500 2000 2500 3000

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

養護老人ホーム ケアハウス 有料老人ホーム

(出典)八田(2008)97項より作成

D 自由参入状態 S

参入規制時 S

価格

床数 E

R Pe=ATC

er

(3)

- 3 -

ように生産を行うため、価格が限界費用と平均総費用に 等しいのであれば、限界費用と平均総費用が等しいこと になる。その状態を満たすのは、企業が平均総費用の 最小値で操業しているときである。平均総費用の最小値 に対応した生産量は企業にとっての効率的規模である が、この効率的な規模は参入規制効果により妨げられ る。

価格の上昇は財政状況が悪化した保険者にて生じる ので、以下に示す財政状況は価格プレミアム(価格の上 昇)の代理変数として用いるのに有力な指標である。そ のほか平均総費用を説明する変数として地価、介護サ ービス体制、占有個室面積などを用いる。これら有料老 人ホーム価格を決める諸要件のクロスセクションデータ を用いて、最小2乗法(OLS)により推計を行った。

図4:推計式イメージ

4-2

説明変数・被説明変数説明 Y:被説明変数

価格:有料老人ホームにかかる 1 か月あたりの費用、入 居の際に必要となる一時金について抽出。

入居期間 5 年を想定した割引率20%を月額費用に勘 案し算出した。またこの設定は恣意的であるため推計結 果をより頑健なものにするために割引率を15%、10%と 設定した推計も行う。

入居一時金+(1 か月の費用/割引率)=費用 X1~X:説明変数

①財政状況:介護保険特別会計歳入中の介護給付費 準備基金繰入金と財政安定化基金貸付金の繰入れ割 合。数値が大きいと財政が悪化していることを表す。

②地価:平成 21 年公示地価より施設の最寄り地点。

③介護サービス体制:従業員あたりが対応する入居者数

を表した、サービス提供状況の指標。

④夜間介護対応体制:夜間の介護についても介護保険 制度を利用できるか否か。

⑤入居定員:施設の受け入れ可能数を表す。数値が大 きいほど施設そのものが大きく規模を示す指標。

⑥個室:個人が生活する居室の広さ。

⑦県ダミー:地域特性をコントロールするために調査対 象とした県を表すダミー変数を用いた。

データは千葉県、茨城県、埼玉県、群馬県、栃木県、

神奈川県、山梨県、長野県に所在する有料老人ホーム を対象とした。東京都、横浜市については保険者の状況 が全国的にも特異なため除いた。

4-3

データの基本統計量 表1

4-4

推計結果

2

P = ATC + 価格プレミアム

lnY =β+ β1+・・・ + β +e

地価、介護サービス体制、

夜間介護対応体制、

入居定員、個室、県ダミー

財政状況 有料老人

ホーム価格 理論式

推計式 変数

変数名 Obs Mean Std.Dev. Min Max

老人ホーム価格・割引率20%(円) 409 15300000 6355054 4462000 49100000 老人ホーム価格・割引率15%(円) 409 18800000 6829459 5616000 54500000 老人ホーム価格・割引率10%(円) 409 25800000 8020871 7924000 77600000 財政状況(基金繰入額+貸付金/歳入) 409 0.021 0.012 0.000 0.060

地価(円/㎡) 409 138708 85008 11100 542000

介護サービス体制(人) 409 2.213 0.599 0.130 5.59

夜間介護対応体制(ダミー) 409 0.050 0.500 0 1

入居可能者数(人) 409 69.868 63.458 10 490

住居個室面積(㎡) 409 20.041 9.641 8.37 63.66

県ダミー yes

注)2データは各県に設置される、介護サービス情報公表システムHPより抽出。千葉県(http://www.kaigo.pref.chiba.lg.jp/)埼玉県

(http://www.kohyo-saitama.net/kaigosip/Top.do)茨城県(http://ibaraki-kouhyou.as.wakwak.ne.jp/kouhyou/Top.do)群馬県

(http://www.kaigo-joho.pref.gunma.jp/)神奈川県(http://center.kaigo-kouhyou-kanagawa.jp/)栃木県(http://www.t- kjcenter.jp/kaigosip/Top.do)山梨県(http://www.kaigo-kouhyo-yamanashi.jp/kaigosip/Top.do)

基本統計量

OLS

ln価格(円) 係数 t値 係数 t値 係数 t値

財政状況 3.215 ** 2.43 2.880 ** 2.40 2.487 *** 2.32

地価 1.150 *** 5.19 9.980 *** 4.97 8.130 *** 4.51

介護サービス体制 -9.619 *** -3.87 -8.254 *** -3.67 -6.608 *** -3.27 夜間介護対応体制 4.308 *** 3.41 1.005 *** 3.77 1.007 *** 4.20 入居可能者数 9.309 *** 3.41 7.392 *** 2.99 4.879 *** 2.20 住居個室面積 1.332 *** 7.46 1.116 *** 6.91 8.454 *** 5.84

地域ダミー yes yes yes

定数項 16.095 *** 150.22 16.375 *** 168.91 16.780 *** 193.03

補正R2値 F値 サンプル数

(注1)***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%で統計的に有意であることを示す

推計結果

割引率20% 割引率15% 割引率10%

0.4159 0.3985 0.3601

(注2)財政状況は小数点第3位にて四捨五入、地価は1000000倍、介護サービス体制は100倍、夜間介護対応体制は 10000倍、入居可能者数は10000倍、住居可能面積は100倍して表示してある。

0.0000 0.0000 0.0000

409 409 409

(4)

- 4 -

各説明変数の符号は有意に仮説通りであり、割引率1 0%、15%、20%いずれの推計においても財政状況は 価格に対して有意に影響を与えているため結果は頑健 であるといえる。

4-5

考察

財政状況の違いによる価格差を把握する。 割引率 20%の結果に着目していく。価格プレミアムを算出する ために以下を計算。

clnprice=price-βx (c は counter factual の略)

財政状況が有料老人ホーム価格に与える影響を価格プ レアムとして算出する。

premium=exp(price)-exp(clnprice)

そして最終的に価格プレミアムが有料老人ホーム価格 に及ぼす影響を算出し分析を進める。(ir=increase rate) ir=premium/price*100

ir の基本統計量を示す。(表 3 参照)

表 3:ir の基本等軽量

Max に注目するとより財政が切迫している保険者では そうでない保険者と比べて約 17.66%、老人ホームが高 くなっていることを示している。価格プレミアムを具体的 に金額表示すると、その価格差の最大値は約 300 万円 を超える。(図 5 参照)

5:価格プレミアムと頻度(割引率 20%)

5.政策提言

介護保険制度は、最低限度の生活を営むことができ るようにそのリスクを社会的に保障し、所得の再分配を通 じて介護利用における機会の均等を保障している。本稿 では保険者(市町村)の財政状況の格差が、機会の均 等を目指した制度とは異なり、有料老人ホーム市場に おいて価格差として観察された。この地域格差を是正す るために以下の通り提言する。

国による一元的な制度運営

地域格差の解消に有効であり、福祉競争が回避でき るであろう。しかし、膨大な行政コストが生じる。この制度 が被保険者データ、地域特性を最もよく把握している地 方自治体であるからこそ成り立っていることも忘れてはな らない。また財源管理がないことによる、認定事務、保険 料徴収事務における市町村によるモラルハザードも懸念 される。

市町村が保険者であり財源は国で負担

国による財源管理は福祉競争回避に有効であり、か つ市町村保険者による運営は利用者本人のサービス供 給に有効であろう。しかし問題点として国による財源管 理が認定事務、介護保険料の徴収事務等にたずさわる 市町村のモラルハザードを引き起こす可能性はいまだ 否定できない。

保険者の広域化、最適な運営規模の検討

広域化により行政事務の効率化、近隣市町村におけ る財政規模の拡大による地域差の解消が期待できる。

しかし問題点として、地域特性が広域に及ぶ場合は やはりその地域と他地域との格差解消は果たし得ないで あろう。また、この広域化は市町村のモラルハザードを回 避することに絶対的な効力をもっているわけではなく、保 険者の最適な規模の把握は今後も検討課題である。少 なくとも本研究で実証した地域格差解消のためには、現 行の市町村=保険者という形を見直す必要がある。

Obs Mean Std.Dev. Min Max ir 409 6.35282 3.45965 0 17.6633

割引率20%

0 20 40 60 80 100 120 140

金額

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