雄島(福井県坂井郡三国町)の照葉樹林の森林構造と その動態
著者 橋本 将宏, 多田 雅充, 横山 俊一
雑誌名 福井大学地域環境研究教育センター研究紀要 「日
本海地域の自然と環境」
巻 9
ページ 1‑13
発行年 2002‑11‑01
URL http://hdl.handle.net/10098/7765
福井大学地域環境研究教育センター研究紀要
「日本海地域の自然と環境」
No.9,
1
‑13, 2∞2雄島(福井県坂井郡三国町)の照葉樹林の森林構造とその動態
S t
:mc t u r e and R e g e n e r a t i o n of Evergreen F o r e s t i n
Oshirna, Mikuni-cho, Sa k a i
Gun, Fukui Pr e f
.はじめに
橋本将宏*
(高浜中学校) 多田雅充**
(福井県福祉環境部自然保護課) 横山俊一日*
(福井大学教育地域科学部)
雄島(福井県坂井郡三国町)は,越前加賀海岸固定公園特別保護地区に指定された小さな島である。 この島には,神社 (大湊神社)の社叢林として保護されてきたために,本県の沿岸域および島のなか で,最もよく保存された照葉樹林が残存している. (福井県, 1999) 。
これまでに,雄島の植相については,ハマウド (Angelica
j a p o n i c a A .
G1可) ,ツワフ申キ (Farfugiumj a p o n i
ュcum Kitam
.),イソヤマテンツキ(丹imbristylisf e
I1u g i n e a Vahl v a
r. sieboldii Ohwi) ,キノクニスゲ(Carexmatsumurae
Franch.) ,ヤブニッケイ (Cinnamomumsieboldii Meisn.) ,トベラ(日ttosporumt o b i r a ) A i
t.) ,マル パアキグミ (Elaeagnusm a c r o p h y l l a T h u n b . v a r .
roω'fldifolia Makino) ,マ Jレパシャリンパイ (Rhaphiolepisu m b e l l a t e Makino
v紅. integerrima) など北限域に近い要素が認められ,雄島は区系地理学的に貴重な島 慎であることが明らかにされている(香室・横山 1976) 。また,雄島における植生については,中央台地を中心とする照葉樹林,島の南東および北西斜面に おけるススキ・ササ草原,磯海岸・海岸断崖荒原 3 群落帯からなっていること (香室・横山 1976) な どが明らかになっている。 雄島の中央台地では主にタブノキ (Machilus 的unbergii
S i e b
. et Zucc.) が優占 しており,一部分には全国的にも珍しいと言われるヤブニッケイの純林があり,また,その林床全域 にわたって,雄島が北限であると考えられるキノクニスゲが著しく優占していることも注目すべきこ とである(香室・横山 1976 ;福井県 1999) 。これまでに,雄島の植相および植生に関しては,このように多くの研究がなされてきている。 しかし,向島の照葉樹林の詳細な森林構造やその更新過程などについての報告はまだなされていな
U ミ。
照葉樹林の更新過程に関しては,タプノキ林(森田・田川 1981) ,コジイ (Castanopsis cuspidate Schottky) ・ツクパネガシ (Quercussessiliflia Bulume)林(Naka
1 9 8 2 : Naka
& YodaI984) ,アカガシ (Quercus acuta Thunb.)林 (磯谷 ・奥富 1991) ,スダジイ (Castanopsiscuspidate va
r. sl鋹boldii Nakai) ・タブノキ 林(上条 1993, 1997) ,などの研究がなされている。しかし,照葉樹林の更新過程に関する研究は日本海側のものは少なく,福井県での報告は,まだなされていない。
そこで本研究は,雄島の照葉樹林の森林構造とその動態を明らかにすることを試みた。 (キーワード:照葉樹林,森林の構造,遷移,萌芽更新,ギャップ)
*Mas油 iro
HASHIMOTO
(Takahama
Lower S e c o n d a r y
School,919-2225Takahama-cho,J a p a n )
料 Masamichi
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ADA(Nature
C o n s e r v a t i o n
Division 、 Depaロmento f W e l f a r e
andt h e E
nvironment FukuiP r e f e c t u r a l Government
91 0-8580Fukui,J a p a n )
***Shunichi
YOKOY AMA
(Department
o f
R巴gional Environm巴nt Studi巴s,F u k u i University
,91O-8507Fukui, Ja p a n )
-1 一
橋本将宏 ・ 多国雅充 ・横山 俊一
1 .調査地概要
図 1 雄島の位置
雄島(北緯360
1 5 '
,東経約 1360 07') は,福井県坂井郡三国町の東北端,安島地区の沖合に位 置している(図 1 )。観光名所で有名な東尋坊からは,北北西に約1. 5km のところにある。 島の周囲は 約 2.1km ,面積10.2haの無人島で,越前海岸の島で一番大きい。 安島地区とは,長さ 224m の雄島橋に よって結ぼれている。 1997年 1 月 2 日に起こったロシア船籍タンカー「ナホトカ号」による重油流出 事故では,ナホトカ号の船首部が雄島から東に約800m の距離に漂流し,多量の重油が漂着した(多 国・横山 1998) 。雄島は,約1200~1300万年前に噴出した溶岩から形成されており,厚さ 50cm ほどの土壌の下は,全 部,流紋岩から成り立っている。島を形成した溶岩が南東から北西に傾きながら流れたと考えられて おり,南東側では東尋坊にあるものと同じような柱状節理,西海岸から北海岸にかけては板状節理が 見られる。中央の丘稜性台地の最も高いところで,標高約36.8m を示す。 周囲は日本海の強い風や波
によって浸食された海食崖となっている(福井県 1990 , 2000; 三浦1955)。
雄島の林内には,タブノキ,スダジイ,ヤブニッケイ等の暖地性照葉樹林の原生林がよく茂ってい て,人家に近い島でありながら,原生自然の姿をよくとどめる自然度の高い景観である。島は大湊神 社の神域として,古くより人々の出入りが禁じられてきたので,原生自然をとどめるこのような杜叢 が,今日に伝えられたのである。 雄島,東尋坊を含むこの地区の海岸一帯の自然景観は,すこぶる景 勝に富むもので,越前加賀海岸固定公園の中でも,最も重要な景観を持つ地域の一つである(福井県
雄島(福井県坂井郡三国町)の照葉樹林の森林構造とその動態
1999) 。
ll. 調査方法
( 1
)本研究は1998年 4 月中旬より 2001年 1 月下旬にわたって行った。
( 2
)森林構造の調査雄島の照葉樹林において, コンパスを用いて 水平距離で'10mX10mのコ ドラー ト (方形区)
を67個設置し調査区を設けた(図 2 )。 この調 査区内で胸高直径 5
c m
以上の全立木の胸高直径,高さを計測した。各個体について全萌芽幹の数 を数え,状態を観察した。各コドラー トでキノ クニスゲの被度率を計測した。 12個のコドラー トでは, 高さ50cm以上のすべての樹木について,
高さ,状態を調べた。
( 3
)土壌調査雄島のヤブニッケイ林, タブノキ林, スダジ イ林,ケヤキ林, エノキ林の土壌調査を行った。
各林の数箇所ずつで, 土壌表面に堆積している
図 2 調査区 (・が調査箇所)
落ち葉の層を取り除いたあ と, 深さlOcm~20cmの土壌試料を採取し研究室に持ち帰った。各林の土壌 について,水分含有率,灼熱減量, pHを測定した。水分含有率は,乾燥前の土壌と乾燥後の土壌を 計測することにより測定した。灼熱減量は,風乾した土壌1 9 を1050C で恒量に達するまで乾燥した後, マッフル炉(ヤマ ト科学株式会社Muffle
Fum a c e
FM28) で試料を完全に燃焼させることにより測定し た (鈴木1 9 7 4 )
0 pHは,土壌(風乾) 試料をふるい(株式会社マリ ス孔径 2 mm) にかけた後, 蒸留 水50g に土壌試料 5g を入れ撹枠し, pH7lU定器(東亜電波工業株式会社HM‑3 0V pH
METER) で測定した。
( 4 )年輪調査
1998年10 月 に日本に上陸した台風によって数本の樹木が倒れたので それらのうちのヤブニッケイ 7 個体,タフノキ l個体, スダジイ l 個体を切断した。切断面の年輪を数えることにより,年平均肥 大速度を求めた。 また,この年平均肥大速度から, 調査区内のタブノキ,ヤブニッケイの最大胸高直 径の樹齢をそれぞれ推定した。
m. 結果と考察
1 )森林構造島の南東を内側とすれば,外側カ、ら風衝草原,ヤブニッケイ林, タブノキ林,スダジイ林が帯状に 分布している。中央台地はタブノキ, ヤブニッケイ, スダジイ,ヤプツバキ (Camel1iajaponica
L i n n . )
などの常緑広葉樹の林冠による照葉樹林が大部分を占め, エノキ (CelÚs sinensis Pers. var. japonica Nakai) ,ケヤキ (Zelkova sen仰 Makino) などの落葉樹が占める面積は少ない。 照葉樹林相のうち,特に 林冠被率では,タブノキ林およびヤブニッケイ林が,他に比較して著しく優占している。 雄島の大部 分はイノデータプノキ群集のキノクニスゲ変群集を構成する(藤原 1981)。
調査区内で胸高直径 5
c m
以上のものが存在する樹種はタブノキ, ヤブニッケイ,スダジイ,エノキ,カラスザンショウ (Zanthoxylum ailanhtoides
S l e b . E t
Zucc.) ,シロダモ (Neo!itsea sericea Koidzよフジ (Wisterヘa fIoribunda) , ケヤキ,モチノキ, トベラ,ヤブツバキの11種で、あった。 表l は,全コドラー ト を総合した樹木構成である。 タプノキが優占し,全胸高断面積の 44.69% を占め, ついでヤブニッ ケイが16.34% ,スダジイが11.48% を占めた。 また, ヤブニッケイには大型萌芽幹(胸高直径 5 cm 以一 3
橋本将宏 ・多国雅充・検山俊一
上)が1. 19個 /100m'と多く見られた。 他の樹種の大型萌芽幹が見られることは稀であった。
胸高直径 5 cm以上の主幹の密度,すなわち個体密度では,ヤプニッケイが4.06個体/100m'と最も 多く,タブノキの2.24個体/100m2と比べても多いが,胸高断面積合計比ではタプノキにおよばなか った。
全調査区内での各樹種の胸高直径階分布 (図3) をみると,個体数ではヤブニッケイが圧倒的に他 の樹種と比べて多い。 ヤプニッケイは胸高直径 5cm~ 10cmの主幹 (親木) が137個体/ha,萌芽が61 個体/ha,胸高直径10cm~20cmの主幹が188個体/ha,萌芽が49個体/ha と非常に多い。 ほとんどの 個体が胸高直径40cm以内で,それを超えるものはごくわずかであった。 最大のものはお.Ocm で、あった。
表 1 全体の樹木構成 (胸高 5cm 以上)
樹橿 個体密度(個1100m) 萌芽密度(個1100m) 胸iIi断面積 (cm/l00m) 胸高断面積比(%)
I
タブノキ 2.24 0.00 2859.8 44.69
ヤブーツケイ 4.06 1.19 1045.4 16.341
エノキ 0.63 0.04 585.1 9.14
力フスザンショウ 0.06 0.001‑ 107.6 1.68
シロダモ 1.22 0.03 218.5 3.41
モチノキ 1.04 0.09 335.3 5.24
トペフ 0.15 0.01 15.2 0.24
ヤブツバキ 0.88 0.13 173.0 2.70
スダジイ 0.09 0.03 734.8 11.48
フジ 0.36 0.00 77.4 1.21
ケヤキ 0.12 0.00 246.5 3.85
合計 10.75 1.64 6398.8 100.00
表 2 タブノキ林の樹木構成 (胸高 5cm 以上)
術橿 (個/1∞01') 萌芽密度(個/1∞01') 絢高断面積 (co1'll0001') 胸iIi断面積比(%)
タブノキ 2.64 0.00 福76.7 69.05
ヤブニッケイ 4.16 1.04 944.7 13.38
エノキ 0.28 0.00 401.5 5.681
カフスザンショウ 0.08 0.00 116.6 1.65
シロダモ 1.56 0.04 139.1 1.97
モチノキ 1.40 0.12 232.6 3.29
トペフ 0.04 0.00 1.3 0.02
ヤブツバキ 0.24 0.00 16.4 0.23
スダジイ 0.08 0.08 330.5 4.68
フジ 0.04 0.00 2.9 0.04
ケヤキ O.∞ 0.00 0.0 0.00
合計 」ーー 10.52 1.28 7062.3 100.00
表 3 ヤブニッケイ林の樹木構成 (胸高 5cm 以上)
衝複 個停密度(信1100m) 萌芽密度{個1100m) 胸高断面積 (cm/l00m) 胸高断面積比(%)
9ブノキ 1.33 0.00 686.9 12.86
ヤブーツケイ 9.50 3.17 3396.4 63.58
エノキ 0.67 0.00 1143.8 21.41
カラスザンショウ 0.00 0.00 0.0 0.00
シロダモ 0.17 0.00 30.6 0.57
モチノキ 0.00 0.00 0.0 0.00
トペフ 0.83 0.00 73
. 7
1.38ヤブツバキ 0.17 0.00 10.4 0.19
スダジイ 0.00 0.00 。 。 0.00
フジ 0.00 0.00 0.0 0.00
ケヤキ 0.00 0.00 0.0 0.00
|合計 12.67 3.17 5341.7 100.00
雄島 (福井県坂井郡三国町) の照葉樹林の森林構造とその動態
シロダモ
100 80 E 長 60
2恩
4021 日円~
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胸高直径(cm)
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ヤブニッケイ
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胸iIi直径 (cm)
図 3 各樹種の胸高直径階級分
タプノキは胸高直径 5cm~ 10cm の主幹が少ない。 胸高直径50cm を超える個体が75個体/haあり,最大 のものは 94.5cm であった。 シロダモ,モチノキ,ヤブツバキは胸高直径 5 cm~ 10cm の個体が多く , 胸 高直径20cm を超える個体はわずかであった。 最大のものはシロダモが59.6cm ,モチノキが68.8cm ,ヤ プツバキが6 1.8cm で、あった。エノキは胸高直径 5cm~10cm の個体が全くなかった。最大のものは 73.2cm であった。
全調査区内での各樹種の胸高直径と高さの関係を見ると, いずれの樹種も樹高20m前後で、頭打ちに なっていた。 タブノキの胸高直径が50cm 以上ある個体でも,その樹高は 20m前後で、あった。 伊豆諸島 三宅島におけるスダジイ・タプノキ林で,スダジイ,タブノキは林冠に達した後,樹冠拡大をし続け ているものが多く見られている(上条隆志, 1997)。 雄島においても樹冠まで達した後は, それ以上 樹高を伸ばすことは少なく , 樹冠拡大をしているものと思われる。
‑ 5 一
俊一
海岸からの距離とタブノキ,ヤブニッケイ,キノクニスゲの構成に関係があるか調べるため,南北 方向に 16個のコドラートを選択し(図 4) ,タブノキの胸高断面積,ヤブニッケイの胸高断面積,キ ノクニスゲの被度率の南北での変化を表した(図 5 )。 調査区内には,タブノキの大径木が多数分布 しているが,海岸近くの北部では胸高断面積が小さく,森林の中心部に向かうにつれて大きくなって いた。 逆に,ヤブニッケイは海岸近くの北部で胸高断面積が大きく,森林中心部に向かうにつれて小 さくなっていた。
タブノキの胸高直径と海岸からの距離との関係は,海岸に近いほど胸高直径が小さく,森林中心部 に行くほど胸高直径が大きくなるという,正の相関 r=0.59が得られた(図 6 )。 ヤブニッケイの胸高 直径と海岸からの距離との関係は,ほとんど相関は得られなかった。
雅充・横山 将宏-多国
橋本
ω
卜・ータブ「
70 ト←ヤブ|
ω L 杢ノ| (40)持制緩白川判明剖
20 10 00:0
旧制問側側側側
(℃」OOF\いと0)終阻盗極量
いヘ.川
(-、、、
flーノ/六
/
/ c(
~l
。
65 15 25 35 45 55 海岸(北)→森林中心部(南) 5
。
タブノキーヤブニッケイの胸高直径,
キノクニスゲの被度率と海岸からの距離との関係 選択したコドラー卜 図 5
図 4
相関 r= .58602 90
。
。
。 。
。
。
。
8
。
。 .,・・
。
‑‑
oz・‑
80
50
20 40
30 70
60
(E)組組同時EE
'0-..回帰直線 95弛信頼区間
。
110
。
30 50 70
海岸(北)特森林中心部(南)
図 6 タブノキの胸高直径と海岸からの距離
10 90 10
O ‑10
雄島(福井県坂井郡三国町)の照葉樹林の森林構造とその動態
、。、回帰直線 95覧信頼区間
110
相関 r = ー .6746
10 90 22
10
6 18
(主8H\u肯)削司自噂亀
ヤブニッケイの幹密度と海岸からの距離
タブノキの幹密度と海岸からの距離との関係は, 相闘が得られなかった。 ヤブニッケイの幹密度と海 岸からの距離との関係は,海岸に近いほど幹密度が高く,森林中心部に行くほど幹密度が低いという 負の相関r=-0.67が得られた(図 7)。 タブノキは胸高直径と海岸からの距離に相闘があり,ヤブニ
ッケイは幹密度と海岸からの距離に相闘があった。タブノキは海岸に近いほど胸高直径が小さくなっ ていることから,海岸に近いほどタブノキにとって l
の生育環境が悪くなっていると考えられる。 ヤブニ ッケイは海岸に近いほど幹密度が高くなっているこ とから,海岸に近いほどタブノキの生育が悪い分,
ヤブニッケイが優占できると考えられる。 その原因 としては,海から吹きつける 日本海特有の北西の季 節風が考えられる。 タブノキよりもヤブニッケイの ほうが耐塩性が高い(服部1992
;
1993) とされてお り,海から飛来してくる塩分がこのような森林組成 の変化に影響していると考えられる。 また,キノク ニスゲの存在も原因の一つに考えられる。キノクニ スゲの被度率が高くなるに従い,全樹種の合計本数 が制限されている(図 8)。キノクニスゲの被度率の高いところではヤブニッケイが優占しており,海岸近くではキノクニスゲ によって林床がほとんど被われているため, 実生から育つタプノキよりも萌芽更新をするヤブニッケ イの方が生育に有利であると考えられる。 萌芽性クローン群の生育する立地は, 破壊されたり撹乱さ れたりすることのない非常に安定した森林である(渡漣
1 9 9 4 )
,という報告もあるが, 雄島では強 い潮風を受ける海岸に近い場所で,ヤブニッケイの萌芽林が特によく発達している。森林組成の変化は土壌の違いにもあるかどうか調べるため, 土壌調査を行った。 雄島のエノキ林, ヤブニッケイ林,タブノキ林,スダジイ林,ケヤキ林での水分含有率(%) ,灼熱減量 (%), pHを
‑ 7 一
10 20 30
全樹種の合計本数
r-一 0.43
図 8
40
高さ 25cm 以上の全樹種の合計本数とキ ノクニスギ被度率の関係
nu
nunununUハUハUnunununUngo口マIGUEd凋斗nJ勺L41(宰)制緩krd門川ふ\什
図 7
橋本将宏・多国雅充・横山 俊一
求めた結果を示した(表 4 )。 灼熱減量 (有機物含有量)と水分含有率には大き な正の相関 (rニ 0.97) が得られた (図 15) 。水分を多く含み湿った土壌には有 機物が多いことが分かる。また, pHと 灼熱減量には負の相関 (r=
‑0 .
58) が得られた(図 10) 。このことから, 水分 含有量,灼熱減量が多いほど酸性側に傾
く。 pHが上昇することは, 有機物中の腐植酸が酸性の主因と考えてよく(鈴木和子, 1971) ,土壌が 酸性に傾くほど土壌が肥えているといえる。
灼熱減量は,ヤブニッケイ林が最も低く,ケヤキ林で最も高くなっていた。ヤプニッケイ林では有 機物含有量が少なく , ケヤキ林で有機物含有量が多いと言える。
pHは,エノキ林が5.99,ヤプニッケイ林平均が5.89,タブノキ林平均が5.29,スダジイ林平均が 5.27,ケヤキ林平均が5.09であり,各林によって違いがあった。 土壌が酸性側に傾くほど土壌が肥え ていることから,ケヤキ林の土壌が最も よ く肥えていて,エノキ林,ヤブニッケイ林の土壌がやせて いると言える。エノキ林,ヤプニッケイ林はともに海岸近くに分布しており,タプノキがエノキ林,
ヤプニッケイ林で胸高直径が小さいことは土壌の影響も考えられる。
表 4 森林ごとの水分含有率,灼熱減量, pH
森林 水分含有率円も) 灼熱減量(%) pH エノキ林 43.0 33.2 5.99 ヤフ‘ニッケイ林 44.9
: t
3.1 27.2土 2.9 5.89: t
0.17 タブノキ林 48.4: t
4.6 33.7: t
6.3 5.29: t
0.15 スダジイ林 60.8: t
12.3 55.9: t
23.0 5.07: t
0.29 ケヤキ林 59.7: t
7.7 61.1: t
16.0 5.09: t
0.26 全体の平均 53.0: t
10.4 43.9: t
20.0 5.37: t
0.41田 白 羽
‑ : . 0 0 0
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4田
4∞
加羽田却 水分含有量(%) r = 0.97
。 泊<<)
0 0 r o
1∞灼熱減量(%) r = ‑0. 58
.図 9 灼熱損失と水分含有量 図 10 pH と灼熱損失
2
)森林の動態①タブノキ林の更新
雄島のタブノキ林では, タブノキの大径木が数多く生育している。 胸高直径30cm~40cm のものが60 本/haと最も多く存在し,胸高直径50cm以上のものは, 88本/haで、あった。 しかし,その一方で胸高 直径 5αn~10cm のタプノキが 4 本/haと非常に少ない (図11)。実際,タプノキ林内を歩くと,幹の 太い立派なタプノキは数多く目にするが,胸高直径の小さいタプノキはほとんど自にすることがない。 特に森林中心部のタブノキ林では胸高直径 5cm~ 10cmのタブノキが全く存在していない。 さらに,林 床を観察するとヤプニッケイの l 年生実生は非常に数多く目にするが,タブノキの l 年生実生を目に することはほとんどない。 タブノキは,高木層では他の樹種に比べて著しく優占しているが,亜高木 屑,低木!晋,革本暦にはほとんど見られず, ヤブニッケイやシロダモ,ヤプツバキが優占している。 つまりタプノキの若い後継樹がないということになる。
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雄島 (福井県坂井郡三国町) の照葉樹林の森林構造とその動態
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雄島のタブノキ林での胸高直径階級分布
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三宅島のスダジイ・タブノキ林での 胸高直径階級分布(上条隆志,
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図 12
‑ 9 一
橋本将宏 ・ 多国雅充・横山俊一
ため (しかし,林冠木が落葉樹のため林床に適度の光がさす), 林床の樹木が陰生のものになる。 陰 樹であるタブノキは陽樹の倒れるのを じっ と耐えながら生長し, 陽樹が倒れると, それに変わって優 占林を形成する(浅川ら 2001)。 陽樹林が枯死しなくても陽樹よりも陰樹が高くなり, 樹冠を形成 すると光を浴びられなくなった陽樹が枯死し, 陰樹林が形成されるということも考えられる。 l度陰 樹林になるとその林床はさらに暗く,他の陽樹は進入できず, 長い陰樹林が続くと考えられる。
②ヤブニッケイの萌芽更新
高さ50cm以上の孤立木(萌芽を持たない)のヤブニ ッケイの樹高階分布を表した(図13)。 孤立木
は実生から生長したものと考えられる。 ヤブニッケイの孤立木は,高さ 200cm以上のものが少ない。 高き 50cm~200cmにおいては,幹密度は大きいものの枯れ木の割合が大きい。 過去に枯れてしま った 木のなかには, すで、に腐ってしまったのものあると思われ, 枯れ木の割合は実際にはもっと多いと考 えられる。 4 つのコドラー トでヤプニッケイの l 年生実生の数を数えたところ 54000本/haとなった。 このことから考えると高さ 50cm~100cmの幹が約1500本 /ha というのはかなり少ない。 ヤブニッケイ の実生は非常に多いが,ほとんどが高さ 50cmになるまでに枯死している と考えられる。さらに, 高さ
200cm 以上まで生育できるものは,ごくわずかである。 以上のことから実生起源の孤立木は,樹木本
来の寿命まで生き続けられるものはほとんどない。 周りの林冠に達している樹木などに光を遮られて しまうために光合成によるエネルギーが得られないからであると推定できる。
各樹種の萌芽数を調べたと ころ, ヤブニッケイが最も多く , 1 個体当たり平均6.4本あり,個体当 たりの最大萌芽幹の数は99本であった。 モチノキは 1個体当たりの平均は 3.1本, 個体当たりの最大 萌芽幹の数は 51本であった。
上条(1 997) によると,スダ ジイは林冠ギャップが形成され た場合, ギャップ形成木あるい はギャップ隣接木の萌芽幹が生 長して林冠を埋めることが多い と考えられ, 大型のギャップが 形成された場合のみ,実生起源 のスダジイが林冠木となる可能 性があるとしている。 雄島のヤ ブニッケイについても, 実生は 非常に多いがそのほとんどが育 たないということ, 1個体あた りの萌芽幹数が6.4本と非常に 多く,胸高直径 5 cm 以上の大型 萌芽幹も多いということから,
萌芽更新をしていると思われる。
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700~8∞
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100~2∞
50~1 ∞
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幹密度(本/hω 図 13 ヤブニッケイ孤立木の樹高階分布
1500
図14 にヤブニッケイの萌芽更 (適当なコ ドラー卜 12個を選び その中の高さ50cm以上のヤフニッケイ孤立
新の模式図を示した。 まず,実 木から求めた. 途中で折れているために計測できないものは除いた.) 生起源による個体の生長が行わ
れる。 ほとんどが 2mの高さになるまでに枯れてしまうが, 林冠にギャップが発生していると, わず かの個体が生長する。 そして, ある程度の大きさにまで生長すると萌芽が発生する。 発生した萌芽は,
ここでも厳しい競争ーがあり,ほとんどが枯れてしまうが,
1
, 2 本の萌芽が林冠に達するくらいに生 長する。 やがて,親木が枯れたり倒れたりすると,その萌芽が親木となる。 世代交代である。 新しい 親木にも萌芽がすでにあるので,それらが生長し,いずれ親木になる。 親木が枯死または倒壊したと きにできるギャ ップが大きい場合のみ, 実生からの生長が行われる (浅川・ 橋本 ・ 津崎 ・ 横山 2001) 。雄島(福井県坂井郡三国町)の照葉樹林の森林構造とその動態
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親木の枯死・ 倒i裏による親木の交代
図 14 ヤブニッケイの萌芽更新モデル
① 実生起源による個体の生長
② 萌芽の発生
③ 萌芽の生長
④ 親木の枯死・倒壊による親木の交代 通常は
①→②→③→④→②→①→④→②→③→④→② ・・ ・と萌芽による 更新を行う.
④の時,親木が倒れたことで発生する Gapが非常に大きな場合 実生が育つのに十分な日光が得られれば④→①と実生起源による生 長を行う .
3
)樹齢調査区内のタブノキ,ヤプニッケイ,スダジイの年輪数を数え,年平均肥大速度を求めた。 ヤブニ ッケイの年平均肥大速度は 2.
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3mm/年で、あった。 森林中心部にある直径63.7cmのヤブニッケイ (1998年,台風により倒壊)の肥大速度は 2.7mm/年で、あり,それよりもやや海岸に近い場所にある ヤブニッケイの肥大速度は1.3~1. 8mm/ 年で、あった。 タプノキ林内のヤブニッケイの方が,ヤプニッ ケイ林内のものよりも肥大速度は速いと考えられる。タブノキとスダジイについては, ・それぞれl個体ずつしか調査できなかったため信頼性は薄いが,
参考として記載するとタプノキが1.7mm/ 年,スダジイが2.5nilll/ 年で、あった。 調査区内の最大胸高直 径は,ヤブニッケイが86.0α1,タブノキが94.5cm ,スダジイが168.8cm で、ある。 これらの樹齢を年平 均肥大速度から推定すると,胸高直径約85Cll1のヤブニッケイは樹齢約200年,胸高直径約95α11 のタブ
‑ 11 一
機本将宏-多田雅充 ・横山俊一
ノキは樹齢約 300年,胸高直径170cm のスダジイは樹齢約350年である。 ヤブニッケイの胸高直径は 20 cm~30cmが中心で、あり,胸高直径が40cm を超えることは稀であるから,平均的な樹齢を推定すると 50
~70年になる。これまで,ヤブニッケイの純林におけるヤブニッケイは樹齢約300年とも推定されて いたが(榎本1992) ,今回の調査でそれほど古くないことが確認された。 上条(1997) の調査による と,伊豆諸島三宅島におけるタブノキの年平均肥大速度は 3.9mm/年となっている。 雄島と伊豆諸島 三宅島と比較すると雄島の樹木の生長速度は伊豆諸島三宅島の半分にも達しないということになる。 この理由として,気候の違いが考えられる。 日本海側に位置する雄島(三国町)の年平均気温13.80C , 年降水量2032mm に対して,太平洋側に位置する三宅島では年平均気温17.40C ,年降水量2872聞となっ ており,三宅島の方が雄島よりもタブノキ,ヤブニッケイといった照葉樹林の生育環境が優れている と思われる。 また,三宅島におけるタプノキの最大胸高直径は105.6cm (推定樹齢約145年)と雄島の
9 4 . 5 c m
(推定樹齢300年)であり ,樹木のサイズはそれほど変わらないが,雄島の照葉樹林の更新サ イクルは三宅島のものよりもかな り遅いといえる。まとめ
1.雄島の照葉樹林において,森林構造の調査,土壌調査,植生図の作成,年輪の調査,植物相の調 査を行った。
2. 雄島の森林の大部分をタブノキ林が占め,北東部にヤブニッケイ林がある。 その他に,スダジイ 林,エノキ林, ヤブツバキ林,モチノキ林,ケヤキ林があるが,いずれも小面積であった。
3. タブノキは海岸に近いほど胸高直径が小さく,ヤブニッケイは海岸に近いほど幹密度が高くなっ ていた。 この原因として,季節風の影響,海岸近くで高密度に出現するキノクニスゲの存在,土壌の 違いの 3 つが考えられる。
4. ヤブニッケイの孤立木(萌芽を持たない木)は育っていない。 また,ヤブニ ッケイは l個体あた りの萌芽幹数が6 .4本と非常に多く,胸高直径 5 cm以上の大型萌芽幹も多いことから萌芽更新をして いる。萌芽更新の模式図を作成した。
5 . 雄島のタブノキ林内には後継樹となる胸高直径10cm 以下のタプノキがほとんど生育していないこ とが明らかになった。 タプノキ林の更新については,以下のように推論した。 小さなギャップは隣接 木が枝を伸ばし,ギャップをうめる。 大きなギャップができた場合は,まず生長速度の速い陽樹(カ ラスザンショウなど)が生長し,やがて陽樹林を形成する。 陽樹林になると,林床は暗くなるため,
林床の樹木が陰生のものになる。 陰樹は陽樹の倒れるのをじっと耐えながら生長し,陽樹が倒れると,
それに変わって優占林を形成する。 陽樹よりも陰樹が高くなり,樹冠を形成すると光を浴びられなく なった陽樹が枯死し,陰樹林が形成される。
6. 大湊神社周辺部の森林は,ケヤキやカラスザンショウの巨木が多いことから,神社建設の際にタ ブノキ,スダジイが伐採され,その後にできた二次林であると考えられる。
7. 年輪を調査し,年平均肥大速度を求めた結果から推定すると,胸高直径約85cm のヤブニッケイは 樹齢約 200年,胸高直径約 95cm のタプノキは樹齢約300年,胸高直径約170cm のスダジイは樹齢約350年 となった。 なお,非常に珍しいとされているヤブニッケイの純林の樹木構成は約 50~70年である(雄 島の看板には 200年と記されている)。
8 . 今回の調査で確認できた植物は 60科 162種であった(省略)。
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