日本海域研究,第48号,63‑70ページ,2017
JAPANSEARESEARCH,vol.48,p、63‑70,2017日本海放射能調査および海洋研究への適用
一中央水産研究所「菅薦丸」調査航海を例にとって−
井上睦夫l*.藤本賢2聯*・森田貴己2
2016年9月7日受付,Received6September2016 2016年10月18日受理,Acceptedl80ctober2016
RadioactiveMonitoringontheR/VS"oMMJ〃〃ExpeditiOnintheSeaOf
JapanandItsApplicationstoResearchfOrGeochemiCalCyclesMutsuolNOUE'*,KenFUJIMOTO2**andTakamiMORITA2
Abstract
Asaresultofatmosphericnucleartestexplosions,theChernobylreactoraccident,radioactive emuentsfifomnuclearpowerplants,e/c.,andradioactivewastedisposal,anthropogenicradionuclides
( e . 9 . , ' 3 7 C s a n d ' 0 8 m A g ) h a v e s p r e a d w i d e l y i n t o t h e w o r l d ' s o c e a n s , i n c l u d i n g t h e S e a o f J a p a n .
Therefbre,aroundtheJapaneseArchipelago,radioactivitymonitoringofanthropogenicradionuclides hasbeencontinuallyconductedsincethel950susingvariousmarinesamples.ParticularlyintheSeaof Japan,radioactivewastedisposalbythefbrmerSovietUnionduringthel970sandl980sbecame apparentinl993.Therefbre,toassesstheeffectofthedisposalintheSeaofJapan,radioactive monitoringindeepseaenvironmentshasbeenconductedeveryyearsincel996ontheR/V(Research Vessel)SQyoMc"wexpedition(NationalResearchlnstituteofFisheriesScience),inadditiontothe previousconventionalsurface/coastalmonitoring.Inthepresentpaper,weexhibitthesampling techniquesibrseawater(CTD‑RMS),marinesediment(coresamplers),biota(deepseapodsandbenthosnets),andsinkingparticles(sedimenttraps)fbrdeep‑seaenvironmentalmonitoring.Wealso presenttheapplicationsofthesamplescollectedontheexpeditionstoresearchofgeochemicalcycles andoftheassessmentoflow‑levelcontaminationcausedbytheFukushimaDai‑ichiNuclearPower Plantaccident(March2011)withintheSeaofJapan.
KeyWords:radioactivemonitoring,anthropogenicradionuclide,R/VSbyoM"・zI,SeaofJapan
キーワード:放射能モニタリング,人工放射性核種,調査船蒼蘆丸,日本海'金沢大学環日本海域環境研究センター低レベル放射能実験施設〒923‑l224石川県能美市│]気オ24(LowLevel RadioactivityLaboratory,lnstituteofNatureandEnvironmentalTechnology,KanazawaUniversity,240,Wake,Nomi, 9 2 3 ‑ 1 2 2 4 J a p a n )
2水産研究・教育機構中央水産研究所海洋・生態系研究センター〒236‑8648神奈川県横浜市金沢区福浦2‑12‑4(National ResearchlnstituteofFiSheriesScience,JapanFisheriesResearchandEducationAgency,2‑12‑4Fukuura,Kanazawa‑ku, Y o k o h a m a , 2 3 6 ‑ 8 6 4 8 J a p a n )
燕連絡著者(Authorfbrcorrespondence)
*叢現在の所属(Presentaddress):水産庁増殖推進部研究指導課〒100‑8907東京都千代田区霞が関l‑2‑1(FiSheriesAgency,
M i n i s t r y o f A g r i c u l t u r e , F o r e s t r y a n d F i s h e r i e s o f J a p a n , 1 ‑ 2 ‑ 1 , K a s u m i g a s e k i , C h i y o d a ‑ k u , T o k y o , 1 0 0 ‑ 8 9 0 7 J a p a n )
− 6 3 −
l.はじめに−日本海と放射能一 主要な水産物のモニタリング調査はあったが,日本
海深海域では漁業が行われていなかったことから,深海域の調査は実施されてはいなかった。よって,
旧ソ連・ロシアによる深海投棄の長期影響を調べる
ため,1996年より,それまで北太平洋深海域で行っ
てきた海産生物放射能調査を日本海の深海域へ拡大 した(森田・藤本,2016)。これら日本海の海産生物,海水,堆積物の放射能モニタリングは,現在に至る
まで,毎年7〜8月に実施されている。さらに,日本 海は,その海岸に沿って多くの原子力発電所を抱え ることから原発事故の危機に常時直面しているほか,
その表層は絶えず海水循環に伴う太平洋,東シナ海 からの汚染物質の流入の危機にもさらされている。
そ れ ゆ え , 本 調 査 航 海 は , 通 常 時 の バ ッ ク グ ラ ン ド
調査も兼ねている。本稿では,中央水産研究所所属 の調査船蒼麿丸による一連の日本海放射能調査航海(深海及び近海海産生物等放射能調査)について紹
介する。こ の よ う な 平 常 時 の 放 射 能 モ ニ タ リ ン グ 調 査 に 加 え,本調査航海は関係研究機関や大学に研究用試料 を 提 供 す る な ど , 海 洋 分 野 の 学 術 研 究 へ の 適 用 も な されてきた。天然起源を含む放射性核穂は,海洋環
境における物質動態調査の有効な│、レーサーである。本稿では,同調査航海で採取された日本海海水試料 の,放射性核種を利用した研究への適用例について も報告する。
1950‑1970年代の大気圏内核実験,1986年のチェル ノブイリ原発事故,原子力関連施設からの放射能漏
洩,さらには放射性廃棄物の海洋投棄に起因する海 洋放射能汚染は,世界規模で広がった。それに対応す べ く , 世 界 的 海 洋 規 模 で の 海 洋 放 射 能 モ ニ タ リ ン
グもなされてきた(Povinec,2004)。我が国においても,1954年のビキニ環礁水爆実験による第五福竜丸 被爆事{牛をきっかけに,日本列島を取り巻く海洋で
もセシウム‑l37('37Cs;半減期30.2年)を中心とした モ ニ タ リ ン グ 調 査 が 継 続 し て 行 わ れ て き た (Ikeuchi,2003;及川ほか,2013;Kofijiandlnoue, 2013)(│xll)。これらに加え,日本海では,1985年旧
ソ連ウラジオストック港内軍港における原潜原子炉 事故による放射性廃棄物の,さらに1993年に過去20 年以上にわたる│日ソ連・ロシアによる日本海への放 射性廃莱物の投棄が明らかになった(Yablokov、
2001)。この問題に対応すべく,1993年に日本のグル ープによる調査航海が,さらに1994年,1995年に国 際共同洲査航海(日本,韓国,ロシア,国際原子力 機関(IAEA))が,日本海北部を中心に実施された
(天野ほか,1996)。太平洋側では我が国の低レベル 放射性廃棄物の海洋投棄が計画されていたことから,
国立研究開発法人水産研究・教育機構(旧水産総合 研 究 セ ン タ ー ) 中 央 水 産 研 究 所 は , そ の 事 前 調 査 と して深海域の調査を行っていた。一方,日本海では
60
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図1日本列島沿岸域表層海水における137Cs濃度の長期経時変動(Kofujiandlnoue,2013;福 島原発事故以前の値は当時の文部科学省(現原子力規制庁)公表データ).
F i g . 1 L o n g ‑ t e r m v a r i a t i o n o f ' 3 7 C s c o n c e n t r a t i o n i n c o a s t a l s e a w a t e r s a m p l e s a r o u n d t h e
JapaneseArchipelago(Kofujiandlnoue,2013).
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Ⅱ、海洋放射能調杏
1)調査航海
大気圏内核実験や原子力発電所事故などにより大
気中に放出された放射性物質は,降下物や降雨などにより地表や海表面に,海洋投棄の場合は,直接的
に海洋環境にもたらされる。これら放射性物質は,海水から直接,またはプランクトンなど食物連鎖を 介して餌から海洋生物中に取り込まれる他,海水中
の懸濁粒子とともに移動する。それゆえ海洋環境に
おける人工放射性核種の挙動調査には,海水,堆積 物,海洋生物など様々な試料採取,放射能測定に基づ く 総 括 的 な 議 論 が 必 要 と な る ‐ 日 本 海 に お け る
2010年7月の蒼麿丸放射能調査地点およびその調査項目を図2にまとめた。
125。 130° 45
40
35
30
25
135。
2)試料採取法
海 洋 モ ニ タ リ ン グ 試 料 の 代 表 的 な 採 取 法 と 機 材 を
図3にまとめた。蒼麿丸は,水産研究・教育機構中央 水産研究所所属の漁業調査船である(図3a)。船内には,簡便な化学処理なども行える実験室を完備して いる他(図3b),海洋調査のあらゆる試料採取に対応
しうる調査器材が備えられている(図3c〜j)。
2−1)海水試料
電気伝導度(塩分)・水温・水深計(Conductivity TemperatureDepthprofiler;CTD)を使用し,調査海 域の鉛直水塊構造を把握する。放射性核種の鉛直方 向への拡散状況を把握するため,CTDにロゼット採 水ボトル(RosetteMulti‑bottleSampler;RMS)を備え つけ,目的水深の海水試料を採取する(図3c)・表層 海水は,走行中にも船内で採取される。
140。 145。 45。
40。
35。
30。
剛 1 │ #
25。 125。 130。
繊令深海篭網調査
王ベントスネット●OR│ネット
1 3 5 。 1 4 0 。 1 4 5 .
k m 一
0 2 0 0 4 0 0
「 、セジメントトラップ
● 採 泥
★CTD多層採水 BcTD大量採水
表面採水(航路上にて適宜)
図2蒼麿丸調査航海における調査の一例(Legl‑Leg2;2010年7月12〜23B;横浜‑博多;平 成22年蒼蘆丸第4次調査航海深海及び近海海産生物等放能調査調査要項).
Fig.2SamplingsitesinLeglandLeg2onSoyoMaノuexpedition(Julyl2‑23,2010;
Yokohama‑Hakata).
− 6 5 −
0 5 0 ( ) a
、
10()0
ハ叩﹀ハ叩﹀ ハ叩﹀|ハ叩v 戸﹁︶ハⅧ﹀ 利11ヘノ﹄
︵日︶己Q⑪口
$
2500
479
|叩︑|
|一寺一
3 0 ( ) ( )
3500
1 . 5 2 2 . 5 0 0 . 5 1 . 5 2
2 2 6 R a ( m B q / L )
228Ra(mBq/L)図5日本海盆,大和海盆におけるa)226Raおよびb)228Ra濃度の鉛直分布
F i g 。 5 V e r t i c a l p r o f i l e s o f a ) 2 2 6 R a a n d b ) 2 2 8 R a c o n c e n t r a t i o n s o f s e a w a t e r s a m p l e s f r o m
theJapanBasin(SYO7)andtheYamatoBasin(SYO9A)withintheSeaofJapan ( I n o u e e t a / . , 2 0 1 5 ) .
0
4斜一一一#/圭一一テーア 竺一. デー‐Rグ ノ Q、
銅蜘妨沈め巫亦
一考寺幸寺号手
財掛II1−〆
0く↑
200
43
︵︒︒﹄助りつ︶uつコニ罵当 ︵日︶二己⑪口
400 137
Cs134Cs
(Ju1.2007‑2012M
− T − T T 一 ↑ 令 一 一 一 7
1 3 5 1 4 0 l 4 g L o n g i I u d c ( d e g r e e )
. ヘ ノ 30十二、
130 6()0
800
1 0 0 ( )
0 0 . 5 1 . 5 2
ConCentration(mBq/L)
図6日本海水深0‑1000mにお│ナる134Csおよび137Cs濃度の鉛直分布(2012年7月) F i g . 6 V e r t i c a l p r o f i l e s o f ' 3 4 C s a n d ' 3 7 C s c o n c e n t r a t i o n s a t O ‑ 1 0 0 0 m i n d e p t h s w i t h i n t h e
SeaofJapaninJuly2012(Inoueefa/.,2013).
水産研究所放射能調査グループの皆様,および蒼麿 丸同乗研究者,船長および乗組員の皆様に心より感
謝いたします。
謝 辞 : 本 稿 で , 適 用 例 と し て 挙 げ た 研 究 に 使 用 し
た海水試料は,平成21〜26年蒼麿丸調査航海において採取されたものである。金沢大学環日本海域環境 研 究 セ ン タ ー 低 レ ベ ル 放 射 能 実 験 施 設 所 属 の 学 部 4 年および博士前期課程l,2年の学生(計8名)は,平
成19〜28年にわたり調査航海への参加の機会をいた だき,非常に貴重な体験をさせていただいた。著者 の一名(井上)は,航海でお世話になりました中央文 献
天野光・薮内典明・松永武,1996:極東の放射性廃棄 物投棄海域における環境放射能調査‑第1回日韓露共同
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