‑ 農業労働需要関数 によるアプローチ *‑
本 間 正 義
1 .は じ め に
先進国の農業政策が国際的に熱 く議論 されている。
OECD( 経済協力開発機 檎)の閣僚理事会やサ ミット ( 先進国首脳会議)では農業が重要課題 として と
りあげ られ, また, ガ ッ トのウルグアイ ・ラウン ドにおいて も農業 は中心的課 題 とされている。一方,国内的にも
1986年 の米価据置措置やそれに続 く米国精 米業者協会のコメ市場開放要求 に端を発 し,各種 の農業批判や農政改革提案が 続出 している。
日本 に限 らず, 、農業を手厚 く保護す ることは先進国 に共通 して見 られる現象 であるが,農業保護 の実態やその構造 は必ず しも明 らかにされているわけでは ない。農業保護 の手段 は国境保護 による輸入競争か らの遮断や価格保証 など笹 よる支持政策か ら,各種の補助金や農家の資本形成助成 にみ られるような財政 政策 に至 るまで多岐 にわたっている
。農業保護 の程度を把握す るにはこれ らの 保護手段 の効果を総合的に分析す る必要があるが, しか し,それは容易な作業 ではない。
本報告では農業保護 の程度を測 る尺度 として内外価格差を用いて, まず先進 諸国の農業保護水準の国際比較 を試みる。国際的観点 に立つ とき, 日本農業の
*小稿 は第
25回計量経済学研究会議 ( 昭和
62年
7月
13日
‑15日 :琵琶湖 ラフォー レ) ̀で報告 された論文である。小稿の作成 にあた り船津秀樹氏 ( 小樽商科大学)およ び八田達夫氏 ( 大阪大学) より有益 な助言を得た。記 して謝意を表 します。 また本研 究の遂行 にあた り昭和
62年度文部省科学研究費補助金 ( 奨励研究
A)の助成を受 け
た 。
〔261〕
保護水準 はどのような位置付 けにあり, またそれは時間的 にどのように推移 し て きたのであろうか。国際比較および異時点間の保護水準 の比較 は,先進国に おける農業保護構造 について共通 な要因 と国によって異 なる要因を探 るのに有 益な情報を与えて くれる。
農業保護水準の引下げは国の内外か ら要求 されている政治的課題であるが, 保護水準の引下 げは必然的に農業か ら非農業への資源移動圧力を増加 させ る
。したが って,農業保護政策の見直 しは深 く産業調整問題 と関わ ることになる
。農業保護水準の国際比較をふまえたうえで,本報告ではこの産業調整問題を検 討 してみる。産業調整問題 の中心 は農業か ら非農業への労働移動であり, ここ では農業部門の労働需要の変化 に焦点を当てて考察 してみることにす る。
農業保護水準の変化 は農業労働需要 に影響 を与え,それは符号 を変えて,そ のまま農業か ら非農業への労働供琴 の変化 となる
。このような農業保護 と労働 市場 の リンケージを考慮 しなが ら,国際データによる農業労働の需要関数を計 測 し,農業保護水準の変化 に伴 う日本の農業 ・工業間の産業調整問題 にアプロ
ーチす る手掛 りを探 ってみることが ここでの課題である
。2. 農 業 保 護 水 準 の国 際比 較
農業保護水準の定量化 には多 くの困難 を伴い,国際間の比較や異時点間の比 較 は容易ではない。多種多様 な保護手段の効果を総合 した保護指標を作成す る 必要があるが,資料の制約や整合性 の欠如のた めに,実際にはい くつかの保護 手段に限定 し,その効果を比較検討す ることになる
。保護 の指標 として最 も多 く用い られ るのは国境保護や価格支持政策の結果 も
た らされ る内外の価格差である
。この内外価格差を尺度 として農業保護水準を
測定 しようとす る試みは
Nash [22]のイギ リスに関す る研究や, それを ヨー
ロッパ諸国 に拡張 した
McCrone [21]の先駆的な研究以来, 多 くの研究者 に
よって行なわれて きた1 ) 。 しか しなが ら, それ らの多 くは特定年度の分析であ
り, また価格の定義や対象 となる品 目数が異 なるため,相互 に比較す ることは
困難である
。本報告 では
,12品 目の農産物をとりあげ,生産者価格 と境界価格 とを比較 し その差を後者で除 した 「 名 目保護率」 を求 め, さらに境界価格評価 による生産 額 の シェアで ウエイ トした
12品 目の加重平均 を もって国全体 の保護 の程度 を 測 る尺度 とす る
。これによって農業保護水準の国際比較 と異時点間の比較 を行 なってみよ う
。この農産物
12品 目の加重平均 を以下で は農業の総合名 目保護 率 と呼ぶ ことにす る
2)。 農業保護の手段 と しての貿易制限や価格支持 は最 も一 般的な ものであ り,他の手段 による保護の程度 もこの総合名 目保護率 と高 い相 関を もつ ものと患われる3 ) . . したが って, ここでの総合名 目保護率 は多かれ少 なかれ一国の保護水準の代理変数 とみな しうるであろう
。内外の価格差 に基づ く保護指標 は概念 としては単純であるが,実際の測定 に は多 くの問題を含んでいる。特 に輸入国の場合,生産者価格 と境界価格 たる輸 入単価の比較可能性 には留意す る必要がある
。生産者価格 は通常農場渡 しの価 格が とられ, この生産者価格 を加工度の異 なる輸入品の価格 と比較 しなければ ∫ な らない。 このために,. 例えば牛乳 の輸入価格 はバ ターと脱脂粉乳か ら,甜菜 の輸入価格 は粗糖 の輸入価格か ら換算 された。 このよ うな調整 は誤差 を伴 う
し, また流通 コス トや加工費の国際間の差異 も誤差を大 きくす るであろう
。ま た,輸入品 と国産品の品質格差 は内外価格 の均等を競争価格の条件 とは しない か もしれない。 しか しなが ら, これ らの問題 は各国 に共通であ り,誤差の方向 も同 じと考え られ るので,多品 目にわたる加重平均 によって国際比較や異時点 間の変動 を観察す る場合,致命的な欠陥を生む ものではなかろう4 ) 。
農業の総合名 目保護率を
1955年か ら
1984年 までの
7時点 について,韓国 ・
1
)
例えば
GulbrandsenandLindbeck[7]
,LutzandScandizzo[19]
,Baleand Lutz[2]
,SampsonandYeats[25]等を参照。
2)
対象 とした農産物
12品目は以下の通 り。米,小麦,ライ麦,大麦,オー ト麦, コー ン,牛肉,豚肉, ・鶏肉,鶏卵,牛乳および甜菜。 これ らの品目に限 られたのはデー タの制約による。
3
)例えば日本の農業財政支出規模の変動 はここでの総合名 目保護率の推複 とほぼ一致 している。本間 [ 11 ]を参照。
4)
農産物の内外価格比較の問題点については本間
[10]を参照。
台
湾を含む先進工業国
15
ヶ国を対象 に計測 した結果が第 1表に掲げ られてい る
5)。第
1表 農業の総合名目保護率の国際比較
( %) 年
19 5
51 9 6 0 1 9 6 5 ・1 9 7 0 1 9 7 5 1 9 8 0 1 9 8 4
東 ァ日韓台フ西イオイ
C:
ラ ン ド イ タ リ ラ ン ギ リ
デ
ン マ ー
本 国 湾 ス ッ ア ダ ス ク
18 4
1 6 9 7 4 7 6 8 5 1 0 2
‑4
6‑1 5 ‑4 2 9 3 0 1 1 7 1 3 7
‑
17‑3 ‑1 2 2 0 5 2 4 3
357405
3 3 4
146 00 0 1 7 3 2
45 2 3 0 5 6 5 0 5 3 5 6 3 2 7 0 9 1 7 7 4 5 6 4 2 1 9 9 00 2 6 9 2 .3 3 3 1 0 4 7 7 5 5 3 4 5 2 3 2
非同
盟ヨーロッパ
ス
ウ ェ ‑ デ ン
34 44. 5 0 6 5 4 3 ' 5 9
ス
イ ス
606 4 7 3 9 6 9 6 1 2 6
新
大 陸 :
オ
ーストラリア
カ
ナ ダ
50
2 5 9 0 5 5 1 2 4 2 1 1 6 3 3 5日 リ
7 5 7 ‑5 ‑2
4 2 5 7 ‑3 ‑3
ニ
ュージーランド ‑ 2 0 ‑5 ‑4 2
ア
メ リ カ
21 9 1 1 4 0 6 症
)総合名目保護率は農産
物12品目 ( 米,小麦,大麦,ライ麦,とうもろこし,えん
ぱく,砂糖,牛肉,
豚肉,鶏肉,鶏卵,牛乳)の名目保護率を国際価格で評価し た生産額シェアでウ
エイトした加重平均。
資
料:Ande r s on, Ha yam
iandHo nma[1]および筆者推計。
第
1表で, まず近年 の
1984年時点での農業保護水準 をみると, スイス, 韓 国, そ して日本が最 も保護率の高 いグループを形成 し, それにイタ リア, ス ウェーデ ン,台湾が続 く。スイスは観光資源 としての山岳農業の維持およびス ウェーデ ンと並んで安全保障の見地か ら手厚 く農業を保護 していることで知 ら
5)
用 い られたデータおよび計測方法 については
Anderson,
Hayamiand H()nma[1
]およびその
Appendixに詳 しい。
れている6 ) 。 韓国, 台湾 は近年工業化 によってめざま しい成長を遂 げた中進国
(NICs)の一員であるが,両国が 日本 と並んで保護水準の高位 グループにある ことは注 目に値す る。一方,農業資源 に恵 まれた新大陸諸国 は一様 に保護水準 が低 くな っている。
第 1表の数値の差異 をそのまま保護水準格差 とす るわけにはいかないが,そ の序列 には示唆す るものが多 い。
EC諸国の保護水準 はお しなって 日本の保護 水準 より低位にあるが,
ECの域内諸国F P qF こも嘩護率に格差を生 じていること は興味深 いoJフランスやデ ンマーク等が保護水準の低 い地域であ り,西 ドイツ やイタ リアが比較的保護率の高 い地域である。
ECの共通農業政策に もかかわ らず, こうした域内格差が生 じるのは輸送費の差や,農産物 にのみ適用 される グリーン ・レー トと呼ばれる通貨交換比率の存在 などによるものであるが,結 果的 に通常 いわれている農業生産効率の序列 と対応 していることがわか る。
このような農業保護水準のスペク トルは,農業保護が農業の比較優位性 と関 わ っていることを示唆す る。 ′農業保護率の高 い国 はほとん どが農業 に比較優位 を もたない国である。 この仮説 を裏付 ける意味で注 目すべ きは東 アジア
3国の 保護水準 の時間的推移である。
日本の
1955年時の総合名 目保護率 は
18%にす ぎず, オランダ並みでデ ンマ ークを除 く他の ヨーロッパ諸国よりはるかに低いものであった。 しか し,経済 の高度成長 につれて 日本 の保護率 は急上昇 し
,1960年 には西 ドイツやスウェー デ ンの水準 に接近 し
,1965年 までにはこれ らの諸国を凌駕 し,一貫 して保護率 の高 いスイスに匹敵す るに至 った。
韓国および台湾の推移 はさらに ドラスチ ックである○両国p総合名 目保護率 は
1965年 まで負の値 を示 してお り,農産物価格 が国際価格 より低 く抑制 され ていた ことを意味す る。経済発展の初期段階の低所得国で とのよ うな負の農業 保護,すなわち農業搾取政策 は一般的な現象である7 ) 。しか しなが ら,日本 に遅
6)
スイスの農業政策については,例えば小倉
[24]第
2編を参照。
7)
経済発展の段階と農業政策の転換については速水
[9]第
5章を参照0
れ ること約
10年, その後 に急速 な経済成長 をみせた両国の農業保護率 は正 の 値 に転 じたばか りではな く,多 くの先進国の水準 を とび こえ,世界で最 も高 い 農業保護水準を示すまでにな っている
。日本,韓 国 および台湾 の経済 の高度成長 は,工業生産力 の飛躍 的 な向上 に よってもた らされた ものであ り,その過程で農業 は急速 に比較優位性 を失 って いった。 この比較優位 の シフ トは比較劣位化 した農業か ら非農業‑の資源移動 を促す ことになる。 しか しなが ら,農業 に投下 された資源 は土地 であれ資本で あれ,農業 に特殊化 された ものが多 く, また農業者 が持っ技術 も他産業で活用 で きる道 は限 られている。 したが って,農業資源 の産業間移動 は,農業の比較 劣位化 の速度 はど遠 くは行 なわれない。 その結果,農業 ・工業間の所得格差 は 拡大す ることになる。特 に急速 な経済発展 を遂 げた 日本や韓国 ・台湾での この 産業調整問題 は深刻である
。所得格差 の急激 な拡大 は放置すれば, 結局, 農 村 ・都市間の労働移動 を激化 させ,農村 の過疎,都市 の過密 を通 して社会的 ・ 政治的不安 を引起 こす ことにな ったであろ う
。東 ア ジアにおける高度成長期 に 示 された農業保護水準 の急上昇 は,国境保護 や価格支持 を通 して農業所得 を維 持す ることで このよ うな産業間調整問題 を軟化 させ るための費用であ ったと解 釈す ることがで きる
。ところで,農業資源 の他産業への移動 とい う調整問題 は,急速 な工業化 の過 程 において生 じるだけでな く,成熟 した先進国経済 において も存在 し続 けるこ
とになる
。成熟 した経済 の特徴のひとつは食料消費が飽和 に近 い ことである。
エ ンゲル法則 に従 い,所得が上昇す るほど消費支出に占める食料費 の割合 は低
下す る。 これは経済が成長す る限 り農業が他産業 に比 べて相対的 に縮小せざる
を得 ないことを意味す る。一方,先進国の農業 は技術進歩 と人的資本 の蓄積 を
通 じて絶 え間な く生産性 を向上 させている
。このよ うな需要 の停滞 と生産力の
増大 とい う需給 の不均等成長 の下 で,. 農業 の生産要素 の報酬率 を他産業のそれ
と同 じに維持 してい くためには,農業か ら非農業‑の資源移動が必要 となる
。このよ うに成熟 した経済 において も産業調整圧力が存在 し, それが農業保護へ
の誘因 とな っている
。工業部門 に比べて高 い農業 の労働生産性成長率 を示 し,
比較優位をむ しろ農業 に転 じているヨーロッパ諸国の農業保護水準が低下 しな い理 由が ここにある。
このように,農業保護水準 は農業の比較優位性や産業構造の変化 に伴 う産業 調整問題 と深 く関わ っているのである。実際,農業保護水準 は,労働生産性比 率で表わ した農業の上ヒ 較優位性指数や,経済 に占める農業の比重 と統計学的に 有意 に関係 していることを確 めることがで きる8 ) 。 産業調整の費用がどの程度 であるかを直接測定することはで きないが,農業保護が農業 ・非農業間労働移 動 にどのような影響 を与えるかを考察す ることで産業調整問題 における農業保 護の役割を探 ってみよう
。3.
農業 ・工 業 間労働 移 動 と農 業 保 護 ( I ) 農業の労働需要 と農業保護
労働移動 に関す る理論的実証的研究 は,経済発展 に伴 う農村か ら都市への人 口流出問題を重 しに展開 して きたが
9), 国内の地域間移動 に関す る研究蓄積 も 少な くない
10 ) 。 日本の農工間労働移動 に関 しては梅村
[27]の包括的な研究や 増井
[20 ]等があげ られるが,近年 の動向を対象 に した研究 としては黒田
[18]が農産物価格政策 と労働移動の関係を扱 っている
。本報告では,農業か ら非農業‑の労働移動 を農業の労働需要 の変化 として と らえ,労働市場 に与える影響を考察 してみる。すなわち,非農業部門‑の労働 供給 は総労働力か ら農業労働需要を差引いた残差であ り,農業労働需要の変化 は符号 を変えてそのまま非農業部門への労働供給 の変化 を表わす ことになる。
したが って,. 農業労働需要の分析 は農業か ら非農業への労働供給 の分析 と一体
8
)農業保護水準変動 を説明す る回帰分析を試みた
HonmaandHayami[12]および
[ 1 3 ] を参照。
9)
経済発展 と労働移動 に関す る包括的なサーベイとして
Todaro[26] を参照。
10)
アメ リカ国内の南北労働移動 の研究等が多 い
。Greenwood[6]を参照。 また日本
における労働移動 の研究 は,例 えば石田 ・他
[17] を参照。
をなす ものである。
まず,農業の労働需要関数 を導 いてお こう。農業部門では労働
L,資本
Kお よび土地 A を用 いて Yが生産 されるとしよう。
Y‑F(L,K,A)
(1)
この生産関数 は一次同次であ り,通常の
1階および
2階の条件を満たす もの とす る。 ここで土地 は農業 に特殊な要素であ り,その供給 は一定であると仮定
しよう。農業部門での生産物価格 および要素価格 は工業 ( 非農業)部門での生 産物を単位 として測 ることとし,利潤極大化行動を仮定す ると,労働 と資本 に 関 して次の限界条件が成立す る。
Wa‑P・Fl(L,K,A) (2) Ra‑P・Fk(L,K,A) (3)
ここで
Waと
Raは工業品で測 った農業賃金 と資本の レンタル料であり,
Pは農産物 と工業品の相対価格 ( 交易条件)である
。また
Fiは変数
/iに関す る
Fの偏微係数 を表わす。
(3)
式を
Kについて解 いて
(2)式 に代入 し,さらにそれを
Lについて解 けば農業の労働需要関数が得 られる。
L‑f(P
,
Wa,
Ra,
A) (4)ところで,農業部門か ら工業部門への労働移動 のメカニズムは次のように考 えることができる
。農業労働者 は,工業部門での彼の期待賃金が農業賃金を上 回れば工業部門 に移動す るし,そうでなければ農業にとどまる。農業労働者の 期待形成 は,現実の工業賃金 と,彼が工業部門で雇用 される可能性の強弱を表 わす失業率 に依存す ると想定 しよう1 1 ) 。
We‑g(W
, U)
(5)ここで
Weは農業者の期待工業賃金,
Wは実際の工業賃金
,U は失業率であ る。W と
Uに関す る偏微係数 はそれぞれ正 と負 となる
。l l ) このような想定 は工業部門での期待賃金 は実際の工業賃金 に雇用率
(1‑失業率)
を乗 じた ものであ るとす る
HarrisandTodaro [8] のモデルに準 じている
。したが って,次式 が成立す るとき労働移動 は止む ことになる。
We‑Wa (6)
さらに,農業部門の資本 の レンタル料 は必ず しも工業部門の レンタル料 と同 じではないか もしれないが,前者 の変動 は後者 の変動 に支配 され るもの と仮定 しよう
。Ra‑h( R)
(7)ここで R は工業部門での資本 レンタル料 であ り,偏微係数 は正である。
(4),(5)
,
(6),
(7)式 によって,農業の労働需要 はP,
W,
U,
Rおよ
びAの関数 として書 くことがで きる
。IL‑f(P
,
W,
U,
R,
A) (8)この関数 の偏微係数 は f p>
0,f w
<0,f u>
0,f r
<0,f a>
0と期待 され る
12)。 ここで
fiは変数
iに関す る偏微係数 である
。農業保護 は農産物 の相対価格,すなわち交易条件 を農業 に有利 に導 くことで 農業 での労働需要 を増加 させ,工業発展期 に上昇す る工業賃金効果 を相殺す る
よ うに作用す る。 したが って,農業保護 が労働力を農業内にとどめてお くこと でどの程度産業調整問題 を軟化 させたかを知 るためには
,(8)式 の労働需要関 数 の具体的な関数形 とパ ラメータの値 についての情報が必要である。
(2)
国際デ ータによる農業労働需要関数の計測
産業調整 との係わ りで農業保護 を考 え るとき,農業保護 がなか った場合の状
12)(6)
式の均衡条件にそれぞれの関係式を代入 し全微分すれば次の式を得ることがで
きる
。△dLニー(Fk・Flk/Fkk‑Fl)dP‑gw dW
‑gu dU
+
(Flk/Fkk)dR+P(Fla‑Flk・Fka/Fkk)dA
ここで
△ニーP(Fll・Fkk‑Flk・Fkl)/Fkk
生産関数に課 した通常の
2階の条件
(Fij>O if i≠j,Fij<
O if i‑j); と
.1次
同次の仮定から△は正であることがわかる
。したがって, 生産関数の
1階の条件
(Fi >
0),
2階の条件および
(5), (7)式に関する符号条件から
(8)式の偏微
係数の符号が本文にあるように決定される。
態をいかに想定す るかということが問題 となる。農工間労働移動 は農業労働の 人的資源が農業に特殊化 されている場合が多 く,世代交代を含むきわめて長 い 時間を要す る。短期の急激な外生的変化 に対 しては望むほどの反応を示 しえな いのが現実であろう
。したが って,短期の観察 によっては望 ま しい労働移動を 示すパ ラメータの値が得 られないかバイアスを もっ ことになる。実際,保護が ない場合の農業労働需要 は観察不能であ り,短期の観測 データか ら得たパ ラメ ータで外挿す るな らば大 きな誤差を招 くおそれがある
。農業保護効果の定量分析で利用可能 な資料 は,保護水準 に大 きく散 らば りの ある世界各国のデータである
。保護水準の低 い国の農業の生産構造 は,要素賦 存の違 いを考慮 に入れて観察すれば,保護 を引下 げた時の状態を知 る有益な情 報 となる。 このような観点か ら,小稿では,国際データを利用 した農業労働需 要関数の計測を試みる。
国際データを用 いた農業労働需要関数 はその背後 にあろ生産蘭数 として,各 国の農業生産関数の包絡線を想定す ることになる
。これは相対価格や要素賦存 が変化 したときに,採用 され る技術体系を も変化 させて生産点 を移動す ること を意味 し,世界中の農業技術が利用可能な時の潜在的な生産関数を表わ してい
る
13)0したが って, この農業労働需要関数 に基づいて外生的変化の効果をbJ るとき は,それ らの変化 に対す る調整が完了 した状態 との比較を行な うことになる
。これは外生的変化のために必要 となる産業調整の潜在的な圧力を議論す ること に等 しい。以上のような想定の下で
(8)式 の労働需要関数 を対数線形 に特定化 し,誤差項
eを加えると,回帰式 モデルは次のように表わされる。
lnL‑bO+bl・lnP+b2・lnW +b3・lnU+b4・lnR
+
b 5
・1nA+e (9)
ここで
Lは農業労働力
,Pは農業対工業の交易条件,
Wは工業賃金,
Uは失
13)
ここでの農業労働需要関数 は農業労働者の工業賃金の期待形成を含んでいるので,
この期待形成 のパ ター ンも各国で共通 であると仮定す ることになる。
業率,R は資本の レンタル,A は農業用地である
。ただ し, W と R は工業品価 格で測 られている。係数の符号 は
bl>0,b2<0,
b3・>0,
b4<0,
b5>0
である。
この労働需要回帰 モデルを第
1表で示 されている
15ヶ国 に適用 し,国際デ ータを
1960年か ら
1985年 までの
5時点 にわたってプールす ることで推定 して みよ う
。農業労働需要関数 の推定 に必要 なデータは以下のように入手 した。 まず,被 説明変数 の農業労働力
(L)には日本 は農林水産省
[23], その他の国 は
ILO[15]
および
FAO [5]の農業就業人口をとった
。ILOと
FAOのデータは林 業 ・漁業を含むノ ため部門別の
GDP比率を用 いて農業分を推計 した。
説明変数の うち交易条件 と工業賃金のデータに関 しては国際比較のための加 工が必要 となる。農業対工業の交易条件
(P)は,は じめに農産物の生産者価格指数を
FAO[5]で,工業品 ( 製造業製品)価格指数 を
UN[28]および
IMF[16
]で別々に求めた。( いずれ も
1980年
‑loo°)後者が得 られない場合 は,一 般卸売物価指数等を代用 した。 さて,交易条件を クロスセクションで比較す る ために次のように仮定 した
。1980年 における工業品の保護水準 は各国で同 じで あるとしよう。 そのとき,交易条件の国際間ゐ差 は農産物の保護水準で決 まる ことになる
。そ こで第
1表で示 した
1980年 の農産物保護水準 を
1980年の交易 条件の国際間格差 として用 いることにす る。したが って
,1980年 の農業保護係 数 ( 名 目保護率 + 1) を農産物価格指数 の系列 に乗 じて,それを工業品価格指 数で除 した ものを交易条件 とした。
工業賃金
(W)は,まず
ILO[14]で得 られ る
1980年 の
1時間当 り製造業賃 金を
UN [28]の購買力平価で U S ドルに換算 し, それを
IMF[16]の工業賃 金指数 の系列 に乗 じて名 目賃金のデータとした。購買力平価が得 られない国に ついては市場為替 レー トで換算 した。 この名 目賃金を先の交易条件の分母 に用 いた工業品価格指数で除 した ものが ここでの工業賃金 となる。
失業率
(U)は
ILO[14]で得 られる。各国で定義が必ず しも一致 しないが調
整せずにそのまま用 いた。失業率が得 られない場合 は失業者数 と有業者数か ら
推 計 したd
資 本 の レンタル
(R)の デ ー タ は直接 は得 られ な いが,こ こで変 数 とす べ き工 業 品価 格 で除 した資本 レンタル は, 資本 財価 格 の動 きが工 業 品価 格 と比 例 的 で あ る とす るな らば, 利 子 率 に置 換 え る ことが で きる。 したが って, 資本 レ ンタ ル変 数 と して利 子 率 を即 、 ,利 子 率 に は各 国 で整 合 的 な系列 が得 られ る公定 歩 合 を と りあ げ, 期 首 と期 末 の平 均 を年 間値 と した・ 。
農 業 用地
(A)に は
FAO [5] で得 られ る耕地 ( 永 年 作 物 用地 を含 む) と永 年 牧 草 地 の合 計 を用 い た。
なお,以 上 の国連 関係 の統 計 か らは台 湾 に関 す る情 報 が得 られ な い。 台 湾 の
第
2表 国際 データによる農業労働需要関数の計測結果
回帰式番号 (1)
(2) (3) (4) (5) (6)サ ンプル数
90 84 90 84 90 84・ 説 明 変 数 : 国 内 交 易 条 件
( I hp) 工 業 賃 金
(InW)
失 一 業 率
( I nU)
利 子 率
( I nR) 農 業 用 地
( I nA) 日 本 ダ ミ ー
( ∫) 新 大 陸 ダ ミー
(C)
定 数 項
2.604 2.768 2.44 5 2.582
(4.92) (5.36 ) (6.73) (7.49 )
‑1.384 ‑1.74 3 ‑ 1 ,375 ‑ 1.64 4
(‑8.96)
(
‑ 9.63)( ‑
12.96)( ‑
13.59)0.429 0.44 2 0.465 0.475
(4.45) (4.74 ) (7.01) (7.63 )
‑0.292 ‑ 0.151 ‑ 0.308 〜 ‑0 .206
(‑1.15)
(
‑0.61 )(
‑ 1.76 )(
‑1 .23 )0.532 0.536 0.549 0.55 7
(6.47) (6.70 ) (9.70) (10.43 )
2.651 2.54 3
(9.75 ) (9.94 )
‑5.263 ‑5.776 ‑4.712 ‑ 5.171
1.90 3 2.217
(4.75) (5.48)
‑ 1.292‑ ‑ i.547
(‑12.15) (‑ll.63) 0.380 01.420
・(5.36 ) (6.04)
‑ 0.20 2 ‑ 0.158
(
‑ 1.17)(
‑0.9 5) 0.636 0..612(10.12) (9.82) 2.54 5 2.501 (9.63) (9.84)
‑ 0.771 ‑ 0.483
(
‑ 2.77 )(
‑ 1.67)‑ 2.294 ‑ 3.572
決定係数 ( 豆
**
2) 0.533 0.593 0.779 0.81 9 0 .796 0.823‑回帰の標準誤差
0.928 0.891 0.637 0.594 0.613 0.587注 1) 被説明変数 は農業就業人口 ( I nL) 。
2)
回帰式
(1),(3),(5)は
15ヶ国の
6ヶ年 プー リングデータによる計測結果で あり,回帰式
(2),(4),(6)は台湾を除 く
14ヶ国の
6ヶ年プー リングデータ に よる計測結果。
3)藤定値の下のカッコの中は
ト ー値。
4)
決定係数 は自由度修正済決定係数。
データは別途
[3]および
[4]の台湾政府統計か ら収集 した。
以上 の手続 きによって得 た≠一夕を用 いて農業の労働需要関数 を通常 の最小
2
乗法
(OLS)によ って推計 した結果が第
2表 に要約 されている。 そ こでは
1960
年か ら
1985年 までの
6時点 にわた る
15‑ ヶ国 データをプール して得 た結 果 と, ●必 ず しも他国 データと整合的でない台湾を除 いた
14ヶ国のデータを用 いた結果 とが示 されている
。なお,農業用地 を除 く説明変数 は資料 の制約か ら
1985
年 に
1984年値 を代用 してある。回帰式 には
(9)式 の特定化 に加 えて,日 本 の農業労働需要 の特殊性 の有無 をテス トす るための日本 ダ ミー = ( J )と,さ ら に対象
15ヶ国の申せ必 ず しも生産関数が他 の諸 国 と同一 で はないか もしれな い新大陸諸国 ( オース トラ リア, ニュージーラン ド, カナダ, アメ リカ) につ いてのダ ミー
(C)とを導入 した場合 をとりあげてみた。
検討 された 6 本 の回帰式 はいずれ も期待 され る符号条件 を満 た し,利子率
(R)を除 くいずれの変数の係数 も統計的に高 い有意性 を示 している。変数 はダ
ミーを除 いて対数変換 されているので係数 は農業労働需要 の各変数 に対す る弾 力性を表わす ことになる
。弾力性 で注 目すべ きは交易条件 に対す る弾力性 の大 きさである。回帰式 の結 果 はほぼ
2.0‑2.8の値を示 し,例 えば農業保護 によって交易条件 を
1%改善 す るな らば労働需要 は
2%以上増加す ることを意味す る。これ は,交易条件が 変化 したとき,農業生産 に用 いる技術体系 も調整 され ることを前提 と している が,労働需要 の交易条件効果 はかな り大 きいと言え る。
労働需要 の工業賃金弾力性 は‑
1.3‑ ‑ 1.7の範囲 にあ り,工業賃金 の上昇 が農業賃金の上昇 を通 して労働需要 に影響す る強 さも比較的に大 きいことを示 している
。高度成長期 には工業賃金上昇率 も大 きく, したが って農業労働需要 への減少圧力 はそれだけ大 きくなる。
失巣率,利子率 および農業用地 に関す る労働需要 の弾力性 の絶対値 はいずれ
も
1よ り小 さ く
0.5前後かそれ以下 であると言 ってよい。 利子率 の係数 は統計
的に十分有意で はないが, これは農業部門の資本形成 が低金利融資政策 や公共
投資に依存す るなど,必ず しも市場金利 に反応 して行 なわれてはいないためで
あ ろ う。
ダ ミー変
数 の係 数 は 日本 が 正 , 新 大
陸諸国 が
負の
値を示 して いる。特 に, 日
本 の ダ ミーにつ t ̲ , 七 は係 数 の値 も大 き
く高い有
意性
をもって,他 の条件 を一定
にす る克 ら
ば, 農 業 労 働 需 要 が 他 国 に
比べて多
いこ
とを物語 って い る。 この結
果 につ いては い くつ か の解 釈 が可 能 で
あろう。‑
まず第一
は 日本 の農 業 生 産 技 術 が他
の先進 諸
国に
比べて よ り労働 使用的 で あ
る ことを反映 して い■ る と解 釈 で き る。
日本で は
従来
希少 な土地 の制約 を克服す
るために,土 地 生 産 性 向上 を 目指 し
た土地節 約
的・
労働使用 的 な技 術進歩 を進
めて きた。近 年 , 農 業 の機 械 化 が進
み労働節 約
的技
術も導入 され るよ うにな っ
たが,他 の先 進 国 に比 べ て 日本 農 業
はまだ労 働
多投的 なのか も しれ な い。
第 ・2の解
釈 は, こ こで推 定 され た
労働需要 関
数が工 業賃金 に関 す る期待形成
を含 ん で いるた め に, この期 待 形 成
が他国と異
なるか も しれ な い とい うこ‑ とで
あ る。例 えば 日本 の移 動 コス トが他
国より大 で
あれば
期待工 業賃金 はよ り低 く
評価 され るこ とに な り, 同 じ工 業 賃
金に対して
より多
い労働 力 を農業 に とどめ
る ことにな
る。
また,′別
の解 釈 と して は, この モ
デルに含ま
れてい
ない労働需要に 影響 す る
変数 の存在が考 え られ る。 こ こで は
農業保護を
内外価
格差 と して と らえて い る
が,実 際 には補 助 金 等 の財 政 政 策 に
よる保護も 見逃す
ことがセ きな い。例 えば
土地 改良投資 な どの資 本 形 成 補 助 金
は他国に比 べて日
本で は農業予算 の大 きな
比重 を 占めて い るが, この よ うな価
格補助以外 の保護
政策 の差異 が 日本 ダ ミー
を有意 に し
て い る原 因 か も しれ な い
。新大 陸 ダ
ミー の負 の値 は絶 対 値 で
みて日本ほど大き
くはな いが, ほぼ 日本 の
場 合 と逆 の解 釈 が成 り立 っ で あ ろ う
。いずれにしても
,ダ ミー変数 の有意性 の
解釈 に関 して は, 生 産 関数 の計 測 を
含む更に詳細な分
析を必要 とす る。
国際 デ ー
タに よ る この よ うな農 業
の労働需要関数は
,国際間 ・異 時点 間 の農
業就業人 口の変 動 の約 60%, ダ ミー
変数を導
入した場 合 に は 80% を超 え る説
明力 を もって い る。 そ こで, この推
定 された農 業労働
需要 関数 を用 いて, 日本
の 1960年 から 1985年 にか けて の農
業 ・工業間 の労働
移動 と農業保護 の関係 を
論 じてみよう。
(3)
日本の農業労働力変化の要因
回帰分析 の結果 を日本 の現実 に適用す るにあた って, まず は じめに,国際 デ ータによる農業労働需要 モデルが, 日本 の農業就業人 口変化 をどれ ほど追跡 で きるのかを調べてみよ う
。第
3表 は第
2表の回帰式
(6)の結果を用 いて, 日 本 の農業就業人 口を内挿で推定 してみたものである
。実際値 との誤差率 は絶対 値でみて
,1960年
,1965年
,1975年 で
10%を上回 ってやや大 きいが
,1970年,
1980
年 は
3‑ 4%
,1985年 は
1%以下 であ り,適合度 は高 いと言 える。
第
3表 回帰 モデルによる日本の農業労働需要の推定値
1000
人 年
1960 1965 1970 1975 1980 1985推定値
(Le) 12345 12881 9867 8854 6756 6417実際値
(L) 14542 11514 10252 7907 6973 6363推定誤差率
(Le/L
‑
1)(%) ‑15.1 11.9 ‑3.8 12.0 ‑3.1 0.8保護ゼロの場合
(Lo) 7728 6476 4805 4270 3074 2657保護効果
(Le/Lo‑1)(%) 60 99 105 107 120 142注
1)推定値 は第
2表の回帰式
(6)に基づ く。
2)
保護 ゼロの場合の推定値 は国内交易条件 に第
1表の
12品 目の農産物の保護率をゼ ロに した場合の値を用いて計算。ただ し,これ ら
12品 目の農業総生産額 に占める 割合 は
0.65(6時点平均)である。
さて,第
3表 には農業保護水準 をゼ ロと仮定 した場合 の予測値
(Lo)を掲 げ
てある
。これは第
1表 で示 した農業保護水準 をゼロと仮定 した時の交易条件 を
用 いて計算 した値である。第
1表で対象 とした農産物 は
12一 品 目であ り,これは
農業総生産額 の約
65%を占めている
(6時点の平均値)。 ここで他 の農産物価
格 は変化 しない もの と仮定 し,対象
12品 目の価格 だ けを境界価格水準 に引下
げた場合 の農業労働需要 の大 きさが
Loである1 4 ) 。 したが って, この値 と保護
がある場合 の推定値を比較すれば,農業保護 によって どれだけ農業労働需要関
数 が シフ トされているのかをみることがで きる
。これを保護効果 と呼んでお こ
う
。各時点 でtの保護効果 をみ ると,
1960年 には
12品 目の保護 は労働需要 を
60%
増加 させ る効果を もっていたが,その後 の保護水準の上昇 に伴 い この効果 も上昇 し
,1985年 の保護水準 は保護 のない場合 に比 べて
140%も多 くの労働 を とどめてお く効果 を もっていた ことがわか る
。この保護効果 は同時 に,保護 が 撤廃 された時 に必要 となる産業調整の大 きさを表わ してお り,近年 の大 きな数 値 はそれだけ自由化 にむけての調整費用が増大 していることを表 している。高 度成長期の農業保護 は社会的政治的不安 の回避 とい う意味でやむをえなか った 面 もあるが,第
1表でみたように低成長期へ移行 した後 も日本 のノ 保護水準 は上 昇 し続 けてお り,それだけ自立化 した農業の径路
(Lo)か ら遠 ざか って しまっているのであ る
。日本 の農業就業人 口の現実 の推移 は農業労働市場 に関わ る諸要因の変化の結 果であるが,労働需要の面か らみてどの要因が どれ ほどの貢献 を して きたか, 回帰分析の結果を用 いて数量的 に明 らかに してみよ う
。(9)式 の回帰式 は変数 を成長率の タームに変換 して考 え ると次 のよ うに変形で きる。
Gl‑blGp+b2Gw+b3Gu+b4Gr+b5Ga+E ヨHOE
ここで
Giは変数
iの成長率,b1‑b5 は回帰係数,E は残差である。
この
(10)式 に基づいて農業就業人 口の変化率 ( 年率) に与 え る労働需要変 数の貢献の大 きさをまとめたのが第
4表である。 そ こでは
1960年 ‑
1970年,
1970
年
‑1985年
,1960年
‑1985年 の
3通 りの期間について示 されている。日 本の農業労働力 は
1960年
‑1985年 で年平均
3.25%の率で減少 して きた。注 目 すべ きは,期間を高度成長期
(1960年 ‑
1970年) と低成長期
(1970年
‑1985年) とに分 けてみたとき,前者 の減少率 はやや大 きい ものの, さほど大 きな差
14)
この場合の農産物価格指数 は次式で置 き換え られ る。
pA'‑(wl/NPC+W2)束pA
ここで
PAと
PA'は保護 のある場合 とない場合の農産物価格指数であ り
,wlと
W 2はそれぞれ対象
12品 目とそれ以外 の農産物 の総生産額 に占め る割合 であ り,
NPC
は
12品 目の総合名 目保護係数 ( 総合名 目保護率
十1)である
。第 4 表 日本の農業労働力変化の成長会計分析
(%)
期間
1960‑70 1970‑85 1.960‑85農業労働力の年変化率
(Gl )
GL
‑の寄与 :
交 易 条 件
(blGp)工 業 賃 金
(b2Gw)失 業 率
(b3Gu)利 子 率
(b4Gr)農 業 用 地
(b5Ga)残 差 ( E)
3.44 ‑3.13 ‑3.25
13.30 15.84 0.00 0.24 0.31 0.83
439195495221272000一一一
農業保護成長 ゼロの場合 : 交易条件の寄与
(blGpo)保護効果
(blGp‑blGPo)農業労働カ年変化率
(Glo)10.60 1.30 4.97 2・70 1.14 1.75
‑6.14 ‑4.27 ‑5.00
労働移動速度の増加率
(Glo/Gl‑ 1)( %)
78 36 54注
1)Giは変数
iの成長年率を表わす。
2)
係数
bl〜b5は第
2表の回帰式
(6)め推定値を用いた。
3)
農業保護成長 ゼロの場合は農業保護率を対象期間の初期水準 に固定 した場合の結 果。ただ し, ここでの保護率 は第 1表の値を対象
12品目の農業総生産額 に占める 比率で調整 してある
。はないという事実である。 しか しなが ら,農業労働需要 に与える要因の変化 に は大 きな違 いがみ られる。高度成長期の工業賃金の寄与
(I)2Gw)は
116%に 達 し,農業労働力の大 きな減少圧力 となった。 これに対抗 し農業の交易条件杏 改善 し,労働力の流出を抑制す る圧力 もまた高 く,交易条件効果 は
13%を超え る。これは第
1表でみた
12品目の保護水準の上昇ばか りでな く,他の農産物価 格の上昇および工業品価格の相対的下落 にもよるものであるが,もし
,12品 目 の農業保護率 を
1960年 と同 じ水準 に保 っていたと した ら
15) ,第
4表 の̲ 下段 に あるように,交易条件 の寄与 は \
10%程度 にな り,農業労働力の減少圧力を年率
15)
すなわち
,1970年の
12品目総合名 目保護率を
74%ではな く
,1960年の
41%に置
き換 えて
1970年 の農業労働力を推定 した場合である。
6%
までに引上 げることにな ったであろう
。すなわち,産業調整 のス ピー ドを
80%
も増加 させ ることにな ったか もしれない。
低成長期 に移 ると工業賃金の寄与 は高度成長期 の半分の
‑ 8%に低下す る
。加えて失業率 の上昇等が農業労働需要 の増加要因 と して働 き,労働移動圧力 は かな り弱め られ ることになる。 に もかかわ らず,農業保護水準 は上昇 を続 け, 交易条件効果 は高度成長期 ほどではないに して も農業労働流 出を妨 げるよ うに 作用 し続 けている。実際, この期間の交易条件効果の半分以上 は第
4表の下段
にみるように
12品 目の農業保護水準 の上昇 によるものである。
(4)
賃金の変化を含む農業保護の効果
これまでは農業 の労働需要が農業保護水準 といかに係 わ っているかをみて き たが,実際 に農業保護水準 と産業調整 の関係 を論 ず るには,労働市場での均衡 点 が保護水準 の変化 によ って どれだ け影響 され るかを議論 しなければな らな い。 いま,総労働力 は一定であ り,農業 と工業 の
2部門で これを雇用す る経済 を考 えてみ ると,労働市場 は次の
3つの方程式で表わ され る。
OA
一 ・・一 ‑農業 工業 十 一
.OM第
1図 交易条件変化 と労働市場
LA‑LA(P,W) LM‑LM(W)
LA+LM‑LT
漫 i l D
(12)
匡iI聖E
ここで
LAと
LMはそれぞれ農業 と工業での労働需要,
LTは総労働力,
Pは交易条件,
Wは工業品で副 った賃金 であ る。他 の外生変数 は捨象 してある
。農業,工業それぞれの部門での労働供給 は総労働力か ら他部門の労働需要 を差 引いた残差 として とらえ ることになる。 この関係 は第 1図で説明 され る。横軸 は一定 の総労働力
LTを表わ し,農業 は
OAを原点 に,工業 は
OMを原点 にそ れぞれ中心 に向か って労働力を測 ることとす る
。、したが って,各部門 の労働需 要 曲線 はそれぞれの原点 を通 る縦軸か ら
LAと
LMのよ うに対峠 した形 で播 かれ る
。この場合,他部門の労働需要曲線 を当該部門の原点か らみればその部 門への労働供給 曲線 とな‑ っていることがわか る
。 LAと
LMの交点
EOが労働 市場 の均衡点 であ り,
LO‑OAが農業で,
LO‑ OMが工業で雇用 され るこ
とになる。 この時の賃金 は
W Oである
。いま, 農業保護水準 の引下 げによ って交易条件が
POか ら
Plに変化 したと す ると,農業の労働需要関数 は
LA (PO)か ら
LA (Pl)へ とシフ トす る
。こ の シフ トの大 きさは
EO'‑EOで表わ され るが, 新 しい均衡卓 は
写1となる
。農業労働需要関数 の シフ トが賃金 を
W O‑Wlだ け引 き下 げ, したが って労 働移動 の大 きさを
LO‑L1にとどめ ることになる
。すなわち, 農業保護政策 の変化 の効果 をみ るとき, それは農業労働需要関数 の シフ トを通 して賃金 の変 化 を伴 うため, この賃金変化 を含 めて労働移動 の大 きさを測 る必要がある。 ま ず,(
ll)式で交易条件変化 の効果を賃金変化 を入れて考え ると,その総合効果
は弾力性 で表わ して次 のよ うになる。
77‑bl+b2・W (14)