論 説
手形交換所 における手形の呈示の効力 ・増補
潅 木 慎 一
は しがき
私 は,先 に公表 した同表題 の論稿 (金融法事務情1231号20頁以下,平 成元年 9月) において,高度 に機械化,コンピュータ化が進展 したわが国 の今 日の手 形交換実務をふまえ,手形交換所 における手形 の呈示 の効力の再検討を試みた。
しか し,先の論稿 は,紙幅の関係上,手形法38条 2項 の考察 お よび いわゆ る 交換呈示 の効力を否定 した ことにともな う法的諸問題 の検討等 につ き,必 ず し も十分 な ものであ ったとは言 い難 い。 そ こで,改めて本稿 によって先 の論稿 を 補 うことに したい。
本稿中,第‑章,第二章第二節の一部 ,第三章第二節 の一部 お よび第 四章 の ほとん どの部分 は,ほぼ先の論稿 と垂復す る。 それ以外 について は,新 た に加 筆を行 なった ものである。
目 次 第一章 緒言
第二章 交換呈示の効力‑ 従来の議論 第‑節 手形法制定以前
第二節 手形法38条2項の考察
第三章 東京手形交換所の交換手続と若干の疑問点 第一節 東京手形交換所交換手続
第二節 疑問点の指摘 第四章 交換呈示の効力の再検討
第‑節 手形法38条2項の政策的意義 第二節 呈示の時期を画する意義 第三節 新たな指標の設定
〔79〕
80 商 学 討 究 第40巻 第3号 第五章 残 された法的諸問題の解決
第一節 当座預金の差押 と交換持帰手形の引落 との優劣 第二節 交換手形の滅失,穀損 と銀行の責任
第一章 緒言
わが国で流通 している手形 は,事実上すべてに支払場所 として銀行の店舗が 記載 されている。 これ らの手形 は,通常,所持人の取引銀行 によって取 り立 て られるわけであるが,その際,手形の支払呈示 は,手形交換所 において,いわ ゆる交換呈示 によってなされるものとされてきた。
手形法38条2項 は,明文を もって,手形交換所 における為替手形 の呈示が支 払のための呈示たる効力を有すると定めてお り,同条項 は,同法77条1項3号 により,約束手形 に準用 されている。わが国における手形交換実務 の歴史 は, もちろん現行手形法よりも長いわけであるが,現行手形法制定 に際 して は,上 の条文 は,交換実務の慣行を是認す るものとして好意的に受 け止め られたよ う である。
しか し,今 日の手形交換所 における交換手続 は,手形法制定当時 とは大幅 に その内容を異に している。すなわち,手形交換高の激増および交換参加地域 の 拡大等 により,円滑な実務処理を図 るべ く,̲事務の機械化が急速に進展 した.
これに ともない,夜 間交換制度 の採用,いわ ゆ るMICR (MagneticInk CharacterRecognition)方式の採用など,当時には考 え られなか った制度 の 整備が進んでいる。 とくに,東京手形交換所 は,昭和46年7月以降,ソータ一 ・
コンピュータを利用 した新交換方式を実施 し,交換事務 に関 しては,世界的 に 観て も最先端を歩んでいるといえよう。
このように,近時大 きな変化を経た実務の状況の中で,手形 の交換呈示 の効 力に関す る旧来の見解 は,今なおその意義を変えることな く通用するものであ ろうか。本稿 は,今 日の実務をふまえ,手形交換所 における手形 の支払呈示 の 効力を再検討 しようとす るものである。
手形交換所における手形の呈示の効力 ・増補 81
r第二章 交 換呈 示 の効 力‑ 従 来 の議 論 第一節 手形法制定以前
現行手形法制定前,明治44年改正商法533条 ノ3は
,
「小切手 ノ所持人 力支払 人 ノ加入 シタル手形交換所 二小切手 ヲ提出 シタル トキ‑支払地二於テ支払 ヲ求 メ之 ヲ呈示 シタル ト同一 ノ効力 ヲ有 ス」 と規定 し,小切手 についてのみ,手形 交換所における呈示の効力を認め,手形 に関 しては,同様の定めを設 けていな か った。それにもかかわ らず,手形 は,小切手 と同様に手形交換所 における交換手続 に付 されていたのであり,支払拒絶証書作成免除手形が不渡 とな った場合,辛 形を交換か ら持 ち帰 った銀行が これに不渡付等をつけることをもって,呈示 の 証明とす るとの慣行が確立 されていた。1)
かかる時代 に,手形交換所における手形 の呈示の効力が争点 となった判決 が ある。大阪地裁大正5年11月28日判決 (新聞1218号21頁)がそれである。
Ⅹは,訴外A銀行大阪支店を支払場所 とする為替手形を振 り出 し,自 ら引受 を して,受取人Bに交付 した。手形 は,Bか らCへ,Cか らY銀行へ と裏書 が な された。Y銀行 は当該手形 を大阪手形交換所 に持 ち出 したが,A銀行 は,
「引取な し」の理由で これを不渡 にした。 これを受 けてY銀行 は,大阪手形交 換所にⅩの不渡届を提出 した。Ⅹは,Y銀行の不渡届の提出が不当で あ り,こ れによって信用を失墜 したとして,Y銀行 に対 し,不法行為 に基づ く損害賠償 を請求 した ものである。
Ⅹは,Y銀行の不渡届の提出が不当であるとして,さまざまな主張 をな して いるが,ここでは,手形交換所 における手形の呈示の効力に関す る主張 のみを 取 り上げる。Ⅹは,以下のように主張 した。すなわち,当該手形 をYが交換所 に持ち出 したのは,支払場所 として指定 されたA銀行大阪支店 において支払 を 求めるためになされるべ き適法の呈示 にあた らないというものである。 これに 対 してYは,手形交換所 における手形の呈示 は,適法な支払呈示 に相当す るも
1)竹内恒吉 ・新手形法 (昭和7年)307頁。
82 商 学 討 究 第40巻 第 3号 のであると主張 した。
本件 につ き,裁判所 は以下のように判示 している。
「
(大阪)交換所 の契約 によれば同所 に対 し交換 の為提 出 した る手形 に付 て は交換差引計算行 はれたる後同所 に出張せ る右手形 の支払方銀行即支払場所 と 指定せ られたる銀行 の代理者 は該手形をば其銀行 に持帰 り調査の上若 し手形の 振出人又 は引受人 と取引な く又 は取引あるも預金の不足其他 の事由に依 り支払 を拒絶す るものなるときは一定の時間内に該手形 の提 出銀行 に対 し右支払拒絶 の旨を告知 して該手形 を返還す るの手続を履行す るものなること並 に右支払方 銀行出張員が交換所 に於て受取 りたる手形を其所属銀行 に持 ち帰 り其支払 をなママ すべ きや否やを調査す るは即 ち之れ手形提出銀行のために其手形を仕払場所な
る自己の銀行 に於て振出人又 は引受人 に対 し呈示す るの手続を行ふ もの と看倣 し得 ること実 に明かな り,故 に本件手形 に付て もA銀行大阪支店の出張 員 は同 交換所 に於てY銀行 よ り有手形 を受取 り之を自宅 に持 ち帰 りYの代理者 として 該手形を其支払場所 たる同店 に於て支払 を求む るため呈示す るの手続 を履践 し
たるもの と認 めざるべか らず」。
上 に示 したところによれば,この判決 は,手形交換所 における手形 の呈示 を 有効 な支払呈示 とみなす もの とは言 い難 いのではなかろ うか。手形 の呈示 の効 力 は,あ くまで もその支払場所 たる銀行の店舗 に手形が物理的に交付 され た時 に生 じるものと解 されているようである。それゆえ,支払銀行 ない し当該銀行 の交換方行員 は,交換所 において手形 を受領 した後 ,これを支払場所 た る支払 店舗 に呈示す るまでの間,持 出銀行 の代理人 となると解 されている。
この事件 は,結局 はY勝訴 とな った ものであるが,本判決 は,手形交 換 に付 された手形が,交換所 も型 三呈示 されるものではな く,交換所 を単 に̲墜負上 て,最終的には本来 の支払場所 たる銀行店舗 において呈示 され るもので あ ると の構成をとった もの と評価 しうる。
第二節 手形法38集 2項の考察
昭和7年 に制定 された現行手形法 は,38条2項 において,手形交換所 にお け
手形交換所における手形の呈示の効力 ・増補 83 る手形 の呈示 に支払呈示 としての効力を認 めた。当時の同条項 に関す る政府説 明によれば,「第二項 は現行法 は小切手 に付てのみ認 む る手形交換所 に於 ける 呈示 の規定 に して,実際の便宜 に基づ き為替手形 に付て も手形交換所 に於 け る 呈示 は支払の呈示たる効力を有す るものとせ り」2)と記 され てい る。 いかな る 施設を もって手形交換所 と認めるかについては,統一法制定条約 によ って各 国
に委ね られた。3)
手形法38条2項 に関 して,同条項 は,手形 の支払呈示が本来 これ に指定 され た支払場所でなされ るべ きであるのに対 し,手形交換所 とい う場所 にお いてな した呈示の効力を認 めた場所的な特則であ り,手形交換所を もって法定 の支払 場所 とす るものであると解す る立場がある。4)
これに対 して,わが国の従来の多数説 は次のよ うに述べ る。手形 の支 払呈示 は,所持人 と被呈示者 との合意 さえあれば,支払をなすべ き本来 の場 所以外 に おいて も,有効 にこれをな しうるのは当然であり,これを否定すべ き理 由 はな い。 その点か ら言えば,手形交換所 における手形 の呈示 は,参加銀行 の合意 に 基づ く交換所規則 によるものであるか ら,すなわち包括的な合意 に基づ いて定 めた場所 における呈示 にはかな らない。 したが って,手形交換所 にお け る手形 の呈示 は,合意上 の場所 における呈示 として,当然 に有効 な もので あ る。 この 意味で手形法38条2項 の規定 は,明確を期す るない しは疑義 をさけるとい う意 義を有す るにす ぎない。 5)それゆえ,法務大 臣の指定 を受 けて いない,いわゆ る未指定手形交換所 における手形 の呈示 に も,そ こが手形交換所 の実質 を有す ることが当事者 において立証 され るか ぎり,支払呈示 たる効力があるもの とさ れている。 6)
2)政府説明纂輯 ・改正手形法解説 (昭和7年)43頁。
3)同前43‑44頁。
4)伊滞孝平 「昭和9年民事判例の回顧 ・商法 (保険 ・手形法)」法学4巻8号 (昭和 10年)117頁,納富義光 ・手形法小切手法論 (昭和16年)165頁。
5)竹田省 「手形交換所に於ける手形及び小切手の呈示」民商法雑誌1巻1号 (昭和 10年)6‑7頁,西原寛一 ・手形交換法論 (昭和17年)19頁,鈴木竹雄 ・手形法 ・ 小切手法 (昭和32年)380頁,北樺正啓 「手形交換」手形法 ・小切手法講座第4巻 (昭和40年)226貢,大隅健一郎‑河本一郎 ・注釈手形法 ・小切手法 (昭和52年)295 頁,神崎克郎 「手形交換」金融取引法大系第2巻 (昭和58年)210貢。
6)服部栄三 ・為替 ・手形交換 (入門銀行取引法講座第2巻)(昭和44年)224貢,田中
84 商 学 討 究 第40巻 第3号
すなわち,交換呈示 とは,一般的に言えば,交換所の参加銀行 間 (所 持人 と 被呈示者) の集団的合意 によって,手形 の店頭呈示 を排除 し,呈示 の場 所 を各 銀行店舗か ら手形交換所 に変更 した もの と解 されているわけである。7)
もっとも,手形 の支払呈示 は,当事者 の合意があれば,支払地 内 にお け るそ の合意 の場所で呈示す ることがで きると解す る立場8)に立てば,手形交 換所 が 支払地外 に立地す る場合 には,手形法38条2項の規定が存在 しな いか ぎ り,た とえば東京9)など大都市部の交換所 における呈示の有効性 に疑義 が生 じよう。
そ うとすれば,38条2項 は,交換所が支払地内にあると否 とを問 わず,同所 に おける呈示が有効な ものであ る10)と規定 した点 に意義があることになろ う。
しか し,同条項の解釈 として,どのような手形であろうとも,支払呈 示期 間 内に手形交換所 において呈示があ りされすれば,すべて有効 な支払呈示 にな る というもので はない。手形交換所 における呈示が支払のための呈示 たる効力を 有す るとい う意味 は,手形交換所を もって手形呈示の相手方 とした もので はな く,ll)あ くまで もその交換所 において手形 を交付 されて持 ち帰 る銀行 に対 す る 呈示 として効力を有す るとい う意味であ る。12)したが って,手形 の呈示 は,支 払場所 として指定 されている銀行がその呈示 を受 ける適格 を有す ると諸 め られ ている手形交換所 においてなされなければな らないであろ う。
上 のよ うに解すれば,わが国 においては,支払場所 として銀行 の店舗 の記載 がない手形 については,手形法38条2項の適用 はないもの と考え られ る。 それ ゆえ,支払場所 の記載があるが どうかを問わず,手形交換所 にお け る呈示 が支 払呈示 としての効力を有す る13)と解す るのは,疑問である。
誠二 ・新版銀行取引法(3全訂版)(昭和59年)296貢,西原 ・注 (5) 前 掲26‑27 頁,北洋 ・注 (5)前掲 248頁。
7)高窪利一 ・現代手形 ・小切手法 (昭和54年)210貢。
8)鈴木 ・注 (5)前掲 278頁。
9)東京手形交換所は,東京都千代田区に立地するが,交換地域 は,東京都内のほか, 隣接3県の周辺地域をも含む首都圏を広く覆 っている。
10)大隅健一郎‑戸田修三‑河本一郎編 ・判例コンメンタール商法Ⅱ (手形法小切手法) (昭和52年)452貢。
ll)伊揮 ・注 (4)前掲 117頁。
12)後藤篤夫 「判例法手形交換」銀行研究13巻3号 (昭和11年)65頁。
13)服部栄三 ・手形 ・小切手法綱要 (昭和53年)109頁。
手形交換所における手形の呈示の効力 ・増補 85 手形交換所参加銀行で あ って,交換所 に届 け出た交換参加店 を支払場 所 とす る手形が正当 に交換所 に持 ち出 されたに もかかわ らず,支払銀行 が当 日の交 換 に欠席 した場合,それで もなお手形法38条2項 に従 って,有効な支払呈示があっ た もの と して扱 い うるで あろ うか。
往時 においては,昭和2年 (現行法制定前) の金融恐慌 に際 し,支 払銀行 の 交換方が手形交換 に欠席す るとい う事態が生 じ,手形交換所 が小切手 の支払 拒 絶証明を行 な った例 があ るよ うで あるが,14)手形 に関す る当時 の取 扱 いの資料 は,調 べたか ぎりで は見 出せない。手形交換所 における小切手 の呈示 も,交 換 所 に対 してで はな く,支払銀行 に対す る呈示 とい う意味で有効 である と解せば, 手形交換所 のな した上 の小切手 の支払拒絶証明 は,手形交換所 が,欠 席 した支 払銀行 に代理 して小切手 の呈示 を受 け,この呈示 に基づ いて支払拒絶 の事実 を 証 明 した もの と捉 え ることがで きる。15)そ うとす れ ば,交換 所 にお け る手形 の 呈示 につ いて も同様 に,交換所 は,欠席 した支払銀行 に代理 して有効 な手 形 の 支払呈示 を受 けることがで きる もの と解 しうるであろ う。不測 の事態 に は,参 加銀行 は,かか る権限を手形交換所 に付与 す ることを予定 してい るもの と考 え
られ る。16)
もっとも,現行実務上 は,交換所規則 において,17)または交換所 の理事会決議
14)井上俊雄 「手形交換制度の沿革と現状」金融法務事情980号 (昭和54年)74頁。
15)現行小切手法39条3号の交換所の宣言という規定の趣旨も,同様 に考えることがで きよう。
16)昭和29年秋,東京手形交換所において,参加銀行たる山梨中央銀行が,行員のス ト ライキのため交換方の出席が不可能となったことがある。この時,東京手形交換所 は,同銀行扱いの手形の交換事務の代行につき,理事会総会決議 に基づ く非常措置 を適用 している。このうち,支払呈示に関する主要な措置としては,手形交換所が 同行の事務を代行するとともに,同行のス トの発展如何によっては,小切手法39条 等の規定を参照 し,交換に付された同行の手形に,「支払呈示を行 ったがス トの為支 払を受けなかった」旨の付等を付 して返却することとするという体制を敷 いたよう である。上の措置は,東京手形交換所が,山梨中央銀行に代理 して,手形の支払呈 示を受けようとしたものと考えられよう。
同措置の申し合わせの概要については,金融法務事情51号 (昭和29年)11頁に掲 載の記事を参照。
17)たとえば,大阪手形交換所規則27条,桟浜手形交換所規則25条。
86 商 学 討 究 第40巻 第3号
に基づいて,18)当日交換に出席 した加盟銀行 は交換方 の出席不能銀行宛 の手形 を交換 に持 ち出す ことができないとの取決めがなされている例が多いよ うであ る。すなわち,交換所 に対す る欠席銀行の代理権付与を排除 しているわ けであ る。 もちろん,この場合,例外的に店頭呈示をなす ことは可能である。19)
手形法38条2項に関する従来の議論を拾 ってきたが,およそ以上のよ うな も のである。いずれにせよ,わが国においては,手形法制定以降,手形交換所 に おける手形の支払呈示の効力に関 して,同法38条2項の明文の規定が明確 を期 しているところか ら,議論の生 じる余地がないものとされてきた。 また,実務 において も,上の規定の効力を当然のこととして,交換手続がな されて きた も のと言いうるであろう。
しか し,38条2項 は,交換手続が手作業 に基づ く伝統的な立会交換方式 でな されていた時代の立法であり,同条項 に関す る従来の見解 も,同様 に立会交換 方式を前提 とす るものであった。すなわち,交換地域 にある銀行 が,相互 に取 り立てるべ き手形を,支払呈示期間内に,各銀行の交換方を して手形交換所 に 持参せ しめ,その場所で相互 に呈示,交換 して,その交換差額 を授受す るとい
う方式にのっとるものである。
わが国で流通する手形 は,事実上すべてが確定 日払であるといってよい。 し たが って,支払呈示をなすべ き日は,原則 として券面 に記載 された支払期 日で あり,これに次 ぐ2取引日が支払呈示期間に含め られる。交換呈示が支払呈示 としての効力を有するのは,当然 に上の支払呈示期間の交換呈示 に限 っての こ とである。それゆえ,伝統的な立会交換方式のもとでは,その日が銀行営業 日 であるかぎり,持出銀行 は,適法な支払呈示をなすために,手形 の支払期 日当 日の朝,この日を交換 日とす る手形交換 に当該手形を持ち出すか,あ るいは, 遅 くとも支払期 日に次 ぐ2取引 日以内の交換 日の朝に,これを持 ち出す とい う 手続をとっていた。
18)たとえば,小樽手形交換所昭和60年11月28日理事会決議 「緊急事態発生時における 手形交換手続の取扱要領」。
19)井上俊雄 「手形 ・小切手の支払呈示」手形研究413号 (昭和63年)415頁。
手形交換所における手形の呈示の効力 ・増補 β7 しか し,このような伝統的な立会交換方式が,近時,変 わ りつつ あ るわ けで ある。
第三章 東京手形交換所の交換手続と若干の疑問点
東京手形交換所 は,その規模 および扱 い高 においてわが国最大 を誇 り,手形 取引にとって重要 な地位 を占める交換所であ る。20)同交換所 は,昭和46年 か ら
ソーター ・コンピュータを利用 した新交換方式を完全実施 し,明治20年12月以 来続 いて きた立会交換方式 に終止符 を打 ってい る。21)この よ うな,同交換所 の 重要陛,先進性 に鑑み,以下では,同交換所 における手続 をふ まえて,立会交 換方式を脱却 した交換所 における,手形 の呈示 の今 日の効力を考察 してみよう。
第一節 東京手形交換所交換手続
まず,現在 の東京手形交換所の交換手続を要約 してみよう。22)
〔本交換手続 〕
(1)金融機関共同 コー ドの印字があ り,MICR方式 によって金額印字 を した 手形 (約束手形 は,用紙調製段階で共同 コー ドが印刷済で あ り,為替手形 は, 持 出銀行が集中保管 しているものについては,持出銀行で印字 しうる) は,交 換所分類手形 と称 され,相手銀行別 に分頬 され る ことな く,その まま300枚 な い し500枚 のバ ッチ (莱) にまとめ られ る。
(2)上 のバ ッチは,持出明細表,交換所分類手形持出票,交換所分類 手形補助 持 出票 とともに,交換 日の前営業 日午後4時30分か ら同 日夜間 (平常 日午後9
20)日本銀行の統計によれば,平成元年1月から同年6月に至る6カ月間の,わが国の 全国手形交換所における交換高は,枚数にして,約 1億8,632万枚,金額にして,約 2,129兆 6,296億円に上る。うち,東京手形交換所扱いのものは,枚数約6,885万枚, 金額約1,783兆5,897億円である (日本銀行調査統計局編 ・経済統計月報 509号 (辛 成元年)93頁による)。すなわち,この間,わが国における交換証券の,枚数にして 約36.95%,金額にして約83.75%が,東京手形交換所で扱われたことになる0 21)井上俊雄 ・手形交換 (新銀行実務総合講座第5巻)(昭和62年)84貢。
22)同前85‑100頁の記述を参照 しつつ,手続きを要約する。
ββ 商 学 討 究 第40巻 第3号
時,月末前 日午後9時30分,月末 日午後10時30分) までに,手形交換所 に持 ち 出される。
(3)コー ドの印字がない等,機械処理不能の手形 は,銀行分類手形 と称 され, 柏手銀行別 に分類 された後,交換 日の前営業 日か ら交換 日当日の午前8時 まで の持出が可能である。ただ し,交換所 に対す る銀行分類手形の計数報告 は,前 営業 日中に終了 しなければな らない。
(4)手形交換所 は,受領 した交換所分類手形をソータ一 ・コンピュータ処理 し, 加盟銀行別 (支払銀行別) に分類するとともに,翌営業 日を交換 日とす る交換 所分類手形の持帰明細表,交換総計票,交換尻振替請求書等を作成す る。 この 際,銀行分類手形の計数 も合せて入力 される。
(5)上の処理を経て,1バ ッチ最高 350枚程度 にまとめ られた交換所分類手形 および諸表 は,加盟銀行別のロッカーに収納保管 される。 これ らの作業 は,交 換所の閉扉時間たる持出日の翌 日午前 0時までに終了す る。
(6)加盟銀行 は,交換 日の午前8時か ら午前9時30分の間に,手形交換所 の金 庫室内にある自行 ロッカーか ら手形を持 ち帰 る。ただ し,希望する銀行 に対 し ては,手形の早持帰が認め られている。
(7)交換尻の決済 は,毎交換 日に,日本銀行 にある加盟銀行の当座勘定 の貸借 振替 によってなされる。
〔夜間 (準備)交換手続 〕
加盟銀行の うち,過去1年間の交換枚数が,持出,持帰 のいずれか一方 にお いて全交換枚数 の1パーセ ント以上を占める銀行であって,理事会の承認 を得 た銀行が参加 しうる。
夜間交換銀行 と他の加盟銀行 との問における手形の授受 は,先の交換所分類 手形 および銀行分類手形の交換手続 によるが,夜間交換銀行相互間の交換手続
は,以下 による。
(1)持出銀行 は,夜間交換手形を支払銀行別 に分類 し,コー ドの印字 のあ る手 形およびその他の手形別 にバ ッチ単位 に区分 した うえで,所定の帳票を添付 し, 交換袋 に封入す る。
手形交換所における手形の呈示の効力 ・増補 89 (2)夜間交換手形の受渡 しは,交換 日の前営業 日の夜 (平常 日午後9時,月末 前 日午後9時30分,月末 日午後10時30分) に行な う。相手銀行が出席 しておれ ば,この時間より前 に受 け渡す ことも可能である。
(3)持出手形の合計額 は,相手銀行別の銀行分類手形の一部 として,持 出合計 票記載計数 に含め られ,翌 日の交換決済の一部 として計数処理がなされる。
〔月末期 日手形準備交換手続 〕
月末 日を交換期 日とす る手形 につ き,交換事務の平準化を図 るべ く,支払期 日の数営業 日前 に手形の受渡 しを行ない,準備交換高を本来の交換 日の交換 に 組み入れて決済を行なうものである。
交換 日の3営業 日前の午前8時か ら午前9時30分 までが持出時間 となる。交 換所分類手形 に準 じて持ち出された機械処理可能な手形は,当日中にソータ一 ・
コンピュータ処理 により,持帰銀行別 に分類,集計をな し,各持帰銀行 の交換 所分類手形用 ロッカーに格納 される。持帰 は,交換決済 日の3営業 日前 の午後 4時30分か ら午後9時までの間に,自行のロッカーか ら持ち帰 ることによ って なされる。
第二節 疑問点の指摘
言 うまで もな く,手形の交換手続 は,手形 自体の授受 と手形金額 の授受 か ら なる手続であって,両者が一体 として 「手形交換」 と称 されているわけである.
前者 は,支払を受 けるための手続であ り,後者 は,計算手続 であ る。 支払 を受 けるための手続 とは,すなわち手形の支払呈示 にはかな らない。
わが国においては,手形交換実務が開始 された当時か ら,近時 に至 るまで両 手続 は同一営業 日すなわち交換 日に行 なわれていたものであ り,通常 は,支払 呈示期間 と手形 自体の授受が現実になされる日との間に不一致が生 じることは なか った。 これに対 して,現在の手続 によれば,手形 自体の授受 と手形金額 の 授受 は必ず しも同一営業 日になされるものではな く,手形 自体の授受手続 が, 必ず しも支払呈示期間と一致 してなされるものではな くなっているといえない であろうか。
90 商 学 討 究 第40巻 第3号
手形法38条2項 は,1項を受 けての規定であるか ら,繰 り返 し述べるように, 交換所における呈示が支払呈示たる効力を有するのは,1項の支払呈示期間内 における呈示 の場合のみである。満期前,正確 には 「支払 をなすべき日」 の前 になされた呈示 は,いず こでなされて も,当然 に支払呈示 としての効力 を持 た ない。23)
ところで,先 の手続 によれば,とくに月末期 日手形準備交換 に付 された手形 は,決 して手形の支払呈示期間に一致 して授受 されることはない。夜間交換手 形 も,多 くは事実上,支払呈示期間前の授受 となるであろう。 さ らに,本交換 手続 に関 して も,交換所規則44条2項 に基づ き,交換枚数 の多 い銀行 は,交換 日の前営業 日の夜間午後9時30分か ら11時30分頃にかけて手形を持ち帰 ってい るのであるか ら,24)かか る手形の多 くは,支払呈示期間前 にその授受が完了 し ていると言い うるであろう。
主たる手続たる本交換 において,本交換手形 は,原則 と して,交換 日の朝 に 持ち帰 られる。 しか し,これ らの手形 は,交換 日の前営業 日中 に,すで に加盟 銀行別に持帰銀行 (支払銀行)のロッカーに収納 されてお り,持出銀行 の交換 方か ら持帰銀行 の交換方への物理的な交付をともなわない。交換所規則44条1 項 は,支払銀行が 「自行のロッカーか ら手形を持帰 るものとす る」 と規定 して お り,ロッカーの開閉 は,所定の手続 (交換所細則54条) によ り,支払銀行 自 らが行な うものである。以上 に鑑みれば,この収納 ロッカーは,支払銀行 が交 換所か ら貸与 されている施設であり,ロッカー内の収納物 は,支払銀行 に占有 権があるものと解せ られる。すなわち,本交換手形 は,ロッカーへの収納以降, 支払銀行の占有下 に置かれるわけである。そ うとすれば,持出銀行か ら持帰銀 行への手形の授受 は,交換手形が持帰銀行のロッカーへ収納 された時点 で完了 するものとみな しうる。 ロッカーへの収納 は,必ず交換所の閉扉時間前 に行 な われるか ら,支払銀行 は,手形交換所 において,多 くは支払期 日前 に手形 の受 領を終えているということになる。25)
23)木内宜彦 ・手形法小切手法 (第2版)(昭和57年)245貢,服部 ・注 (13)前掲 108 頁。
24)東京銀行協会編 ・新手形交換所規則の解説 (昭和57年)72頁0
25)手形交換所が,本交換手形を分類して持帰銀行のロッカーへ収納する行為に関 して,
手形交換所における手形の呈示の効力 ・増補 91 東京以外の手形交換所 において も,夜間交換,あ るいは,10日,20日等 の支 払期 日手形 についての準備交換 は広 く実施 されて お り,26)今後,わが国 の手形 交換所 において,手形 自体 の授受 と手形金額 の授受 とが,必ず しも同一 営業 日 に行 なわれ るものでな くなるとい う傾向は,次第 に顕著 になるものと思われる。
・結局,東京手形交換所の現行手続 によれば,手形 自体 の授受 は,確 か に今 な お手形交換所 においてなされている。 しか し,交換手形 は,その多 くが,支払 呈示 をなすべ き日以前 に,支払銀行 に引 き渡 されているのである。 この よ うな 現行手続の もとで,手形法38条2項 は,今 なおその存在意義を有 す るので あろ
うか。
第 四章 交 換 呈 示 の効 力 の再 検 討 第一節 手形法38条2項の政策的意義
手形交換所 における手形 の呈示 に支払呈示 たる効力を認 めるという手形法38 条2項 の実際的意義 については,一般 に,以下のよ うに言 いうるであろう。
わが国 においては,先 に述べたよ うに,当初,小切手 に関 して のみ, この種 の規定が設 け られていた。小切手 に関 して,同旨の規定が設 け られたの は,小 切手 の場合 には呈示期間が短 いため,それが呈示期間の最終 日に手形交 換所 に 持ち出され ることが少 な くな く,したが って,手形交換所 におけ る呈示 に支払 呈示の効力を認 めないとすれば,不渡 になった場合 に,適法の期 間内 に正式 の 呈示 をなす余裕がない ことにな り,遡求権が失 なわれ る危険があるためで あ っ
た。27)
交換所と持帰銀行との間に呈示行為を委任する黙示の契約があると解 し,持出銀行 から呈示を委任された手形交換所が持帰銀行に手形の呈示を再委任するのであると 構成する見解があるが (大出義昭 「手形交換制度と今後の課題」金融法務事情602 号 (昭和46年)32頁),かかる契約を擬制せずに,手形交換所は,単に,持出銀行か
ら持帰銀行への手形の占有移転のための事務処理を行なっているにすぎないと見る のが素直であると考える。
26)井上 ・注 (21)前掲 103頁。
27)西原 ・注 (5)前掲18頁,北浮 ・注 (5)前掲 247頁。
92 商 学 討 究 第40巻 第3号
通信,交通,運送等 の手段が必ず しも満足 に整備 されてお らず,かつ,銀行 の店舗網や手形交換所網が未発達 であ った時代 には,取立業務 に関 して,上 の ような事態を考慮 しなければな らなか ったのは,無理か らぬ ことであ った と考 え られ る。
手形 について も同様 の ことが言 え るであろう。かか る時代 において,取立 の ために手形 を受 け入れた銀行 にとって,手形 の支払期 日の管理 (機械化 が進展 していない状況下),支払地 にあてた発送 (銀行 間 の通信網,店舗網 の整備 が 不十分であ り,国内の交通,運送体系が未成熟な状況下),手形交換所への持出 (交換所網 自体 もきめ細かい もので はない状況下),とい った一連 の手続 を実行 す るとい うことは,きわめて多大 な負担であったと思われ る。 したが って,敬 立銀行 にとっては,取立 のために受 け入れた手形 を,支払呈示期 間内 にか ろ う
じて手形交換所 に持 ち出すのが,いわば精 いっぱいであ った と考 え られ る。 し か も,不渡が生 じた場合 には,貧弱 な通信,交通,運送手段 によ って,取立依 頼人 に対す る連絡や不渡手形 の返還 を実施す る必要があ ったわけである。 この ような状況下で は,小切手法 と同様 に,手形法38条2項 を設 ける実質 的意義 が 大 きか ったと考え られよ う。
現行手形法施行 (昭和9年1月1日)以来,すでに半世紀 を超える歳 月 を経 た。 この間,わが国 における通信 ,交通 ,運送手段 の発達 には剖 目すべ き もの がある。加えて,きめ細かな銀行店舗網の充実がなされ,さらに手形 交換所 の 数 は,第二次大戟終了時 にわずか56カ所であった ものが,昭和62年3月末現在, 全国 に184カ所 を数 えるほどに急増 した。28)これ らはすべて,銀行の手形取立業 務の円滑化 に資す るものであ った。 この上 に,銀行業務 の機械化 の進展 が,辛 形 の取立業務 にも大 きな変化を もた らす ことにな った。 コンピュータによる取 立手形 の情報管理が可能 にな った ことにともない,手形量 の増大 にもかかわ ら ず,と くに手形 の支払期 日の管理,持出店舗 にあてた迅速 な送付等 が きわめて 容易 に行 なえ るようにな った。
上 のような変化 を経て,今 日で は,たとえ支払期 日以前 で あ って も,容易 に 28)井上 ・注 (21)前掲11頁。
手形交換所における手形の呈示の効力 ・増補 93 大量 の手形 を交換所 において授受 しうる環境が整 ったわけである。すなわ も, 交換手形 自体の授受手続 と手形金授受 のための計算手続 とを分離 して進 めるこ とが可能 にな り,前者 の手続 は後者 の手続 よりもかなり前に,時間的余裕をもっ てなされることにな った。支払銀行 にとって も,あ らか じめ交換手形 を受領 す
ることは,自行 の当座勘定事務処理 の円滑化 という恩恵 を もた らす ことにな っ た。 このため,前者 の手続 と後者 の手続 とが,手形交換所 において同一営業 日 に一括 してなされなければな らないとい う環境 は崩れ去 って しまったのである。
結局,手形交換手続 が,上 のような環境 の変化 にともな って,い っそ う合理 化 されて きたわが国において は,もはや手形法38条2項 の規定 は,少 な くと も 立法当初 の政策上の使命を終 え,この側面か ら観れば,その実質 的 な存在意義 を失 いつつあると言 い うるであろう。
第二節 呈示の時期を画する意義
手形 の取立が,事莱上,すべて手形交換制度を利用 してなされて きた とい う 状況 の下で,今 日まで手形法38条2項が果 た して きた もうひとつの役割 と して 考え られ るのが,一連 の手形交換手続 の中で,どの時点で手形 の呈示 が あ った のかを決定す る役乱 すなわち,客観抑 こ手形 の支払呈示時期を画す るとい う 役割である。
手形 の支払呈示があ った時点を客観的に画す ることは,とくに銀行 にとって, 次のような意義がある。
まず,持帰銀行 (支払銀行)か らの観点。手形 は呈示証券であ るか ら,有効 な支払呈示がないか ぎり,当座勘定契約上,支払銀行 は,当然 に これを支払 っ てはな らない。すなわち,支払銀行 は,手形 の支払呈示が ないか ぎ り,手形金 の支払 を当座取引先 の計算 に帰せ しめることがで きないわけである。 したが っ て,手形 の支払呈示 の時期 は,支払銀行が,当座勘定契約上,当座取 引先 の当 座預金 の引落を正当に権限づ け られ る時点を決定す る指標 として,用 い られ る
ことになる。
これに関連 して,上 の時点 は,支払銀行 と当座取引先のみな らず,当座預金
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を差 し押 さえた差押債権者 にとって も,重要 な利害関係を有す る。 す なわ ち, 上 の時点 は,当座取引先の当座預金 に対す る差押がなされた場合 に,手形 の支 払銀行が,交換持帰手形 の引落 と当該差押命令 のいずれを優先 して取 り扱 うべ
きか という問題の解決 に大 きくかかわ って くると思われ るか らである。
次 に手形 の持出銀行か ら見た場合,呈示 の時点 は,取立依頼人 に対 す る受任 義務 の履行,不履行を決す る分水嶺 となる。持出銀行 は,取立依頼人 との手形 の取立委任契約の中心的な内容 として,取立代 り金を受 け取 る前提手続 た る手 形の有効な支払呈示 をなす義務 を負 っているが,とくにこの義務 の履行 に関 し, 取立手形が交換手続中に滅失,穀損 した ことによって,取立依頼人 に損害 が生
じた場合,当該滅失,穀損が呈示前 に生 じたのか呈示後 に生 じたのかによって, 持 出銀行の損害賠償義務 の存否が左右 され ることになる.
このような法的諸問題が存在す る以上,手形 の呈示 の効力の発生 時期 は,客 観的かっ明確 に確定 されなけれ ばな らないわけである。 その意味で,手形 法38 条2項 は,手形交換 の一連 の手続 の中で,交換所 における参加銀行 間 の手形 の 相互授受があった時点を もって,手形 の支払呈示の効力が発生す ると認 め る こ とによって,客観的かつ明確な指標を提供 していた もの といえよう。
上 の指標 は,一連 の手形交換手続が‑営業 日,しか も多 くは支払期 日の うち に開始 され,その 日の うちに完結す るとい う時代 にあって は,容易 に受 け入 れ られ るものであったろう. しか し,今 日の手続 にあってはどうであろ うかっ 今 日わが国における手形交換手続 は,事実上,手形 の支払期 日の数 日前 に開始 さ れ,交換 日における計算手続 の終了 によって完結す るとい う形 に変わ って きて いる。すなわち,今 日の交換手続 は,以前 と異 な り,実質 的 な開始 時 間が交 換 日よ りも前 に向けて伸張 され,それに ともない,手形 の授受手続 の態 様 も,数 日にまたが って多様化 しつつあるわけである。 ここに至 って,すべての交換手 形 について一律 に,手形交換所 における相互 の手形交付の時期を もって支払呈 示の効力の発生時期 とす るとい う考え方 は,もはやかつての客観性,明確性 を 失 っているといえよう。支払期 日前 に授受 され る手形 を も含 めて,すべて上 の 指標で判断す ることは,とうてい不可能 といえるか らである。
手形交換所における手形の呈示の効力 ・増補 95 したが って,今 日の手続のもとでは,手形法38条2項 は,先 に挙 げた法的諸 問題を解決す る拠 り所 とな りえず,そのために,手形呈示の効力発生 時期 を画 する新たな指標が必要 となっているといえる。
第三節 新たな指榛の設定
ここまでの検討 により,手形法38条2項 は,立法当初の政策的意義 および銀 行取引法上の諸問題の解決 の拠 り所 としての呈示の時期を画する意義 のいずれ の側面か らも,近時の交換手続の中では,その実質的な存在意義 を失 いつつあ ると結論 しうる。
もちろん,実質的意義を有 さないか らといって,明文の規定であ る同条項 の 存在 自体を否定できるものではない。 しか し,少な くとも,今 日の交換手続 に おいては,多 くの交換手形が,同条項の適用要件を欠 くので はないか,との指 摘 は可能であろう。繰 り返 し述べ るように,交換手続の開始時点が交換 日よ り も前 に伸張 されることによって,交換所における手形の授受が,多 くは支払期 日前 になされるか らである。
今 日の交換手続 に同条項の適用がないとすれば,交換手続の中で,手形 の支 払呈示の効力は,どの時点で生 じるのであろうか。
言 うまで もな く,呈示の効力の発生時期 は,客観的かつ明確 に決定 されなけ ればな らない。先 に述べたように,この時点 は,取立依頼人 (手形所持人),拷 出銀行 (取立銀行),持帰銀行 (支払銀行),当座取引先 (手形債務者),当座預 金の差押債権者等の権利義務の判定 に大 きくかかわるものといえるか らである。
時間的にいえば,上の時点 は,当然 に手形の支払呈示期間内のいず れか に設 定 されなければな らない。 これは,手形交換 日中のある時点 ということになる,0
その時点 は,場所の問題を検討す ることによって決せ られるであろう。 原則 に立 ち帰れば,手形の支払呈示 は,手形 に記載 された支払場所 また は所持人 と 被呈示者 との合意の場所 においてなされるということになる。 しか し,今 日の 手形交換手続 において,従来の手形交換所 という場所 に代わる参加銀行 間 の合 意の場所 というものが,措定 しうるであろうか。交換 日の手形交換所開扉時に
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おいて,以前な らば必ず この後 に手形交換所を経由 していたはずの交換手形は, 今 日,さまざまな場所 に散在 している。 もちろん前 日中か ら引き続 いて交換所 の収納 ロッカーに留め置かれたもの,あるいは,開扉時以降に交換所 に持 ち出 されるものが存在す る。夜間交換参加銀行を支払場所 とする手形 は,早 ければ 前 日中に支払店舗 に到着 している。本交換手形のうち,早持帰を行なって いる 銀行では,前 日中に交換母店 または支払店舗 に到着 していた り,移送途上 の も の もある。 このような状況では,交換 日において一律 に,参加銀行 間の合意 の 場所を措定す るのは,とうてい不可能である。 このような措定がで きない以上, 手形の支払呈示 は,手形 に記載 された支払場所すなわち支払銀行の店舗 におい てなされることになる。
結局,今 日の交換手続の中で,手形 の支払呈示の効力は,交換 日にお け る交 換手形ゐ支払店舗への到達時に生 じると結論づけ られる。か りに支払期 日前 に 手形が支払店舗 に持ち込 まれておれば,商法 520条の規定の趣 旨に鑑 み,支払 期 日の営業開始時刻 に支払呈示があるものと扱いうるであろう。
第五章 残 された法的諸問題の解決
ここまでの検討 によって,今 日の手形交換手続 にあっては,手形 の支払呈示 の効力 は,手形が支払銀行の支払店舗 に到達 した時点で生 じるとの結論を得た。
以下では,この指標 に従 って,当座預金の差押 と交換持帰手形の引落 の優劣 の 問題および交換手形の滅失,穀損の場合 における銀行の責任に関す る問題 を考 察す ることとす る。
第一節 当座預金の差押 と交換持帰手形の引落 との優劣
当座取引先の当座預金 に対す る差押がなされた場合 に,手形の支払銀行 が, 手形交換 によって持ち帰 った手形の引落 と,当該差押のいずれを優先 して取 り 扱 うべきか という問題 は,今なお実務上困難 な課題のひとつ として残 されてい る。差押を優先すれば,当該当座預金を引当てとす る手形は,すべて不渡返還 されるべ きことにな り,手形決済を優先すれば,差押命令の実効を期す ことが
手形交換所における手形の呈示の効力 ・増補 97 できない。 したが って,手形所持人および差押債権者 の利害調整が急務 とな っ て くるわけである。
この問題 の解決 に関 しては,従来か らさまざまな説が交錯 し,まさに 「定説 な し」 といった観がある。従来主張 されてきた諸説の うち,以下 のような説が 有力なものであ るC
第一説.手W kf按 手続 において,銀行 は,授受 された手形の実質 的な堀症 を 調査す ることT.ご J・とまずすべての手形 について支払の効果を発生 させ るこ とを義務づ けら巧 ろわけであるか ら,個々の手形の支払の効果 は,支払銀行 が このように義務づVナられる時点,すなわち交換所 における手形の授受の時点 に 発生す ると説 く。そ して,交換所 における手形の交付時 と差押命令の送達 時の 先後 によ り,決済 と差押 との優劣を決定する。29)
これと同様の結論を とりつつ,以下のように解す るもの もある。当座預金残 高減少の効力 は,支払銀行が確定的に当座預金勘定を引 き落 とした時に生 じる
と解 され るが,差押 との関係では,銀行 は,交換決済 に基 づ く立替払 によ り当 座取引先 に対す る求償権を取得 し,これと当座預金債務 との相殺 によって差押 に対抗 しうる。かかる求償権の取得 は,交換所における手形の呈示,すなわち 交換所 において手形が授受 された時にその原因が生 じる ものである。30)この系 譜 に属す る説 として,交換所 における手形授受の時点で,持帰銀行 は,持 出銀 行に対す る支払義務の負担 と同時に,当座取引先 に対する資金請求権を獲得す るので,手形の饗受 11降の差押 には,かかる請求権 と当座預金債務 との相殺 を もって対抗 しう:,≡,,3】、と解するものもある.
第二説。交換 に付 された個々の手形の決済時期 は,原則 として,手形交換 自 体の成立の時期に一致す ると解 し,手形交換の成立時期を,不渡 を解除条件 と
29)西原寛一‑加藤一郎他 「当座預金の差押をめぐって」金融法務事情 273号 (昭和36 年)363貢 〔水田耕一)0
30)吉原省三 「当座預金の差押 と交換持帰 り手形の引落 し」金融法務事情 483号 (昭和 42年)7頁。
31)小西勝 「手形交換 と呈示 ・支払完了の時期」金融法務事情 689号 (昭和48年)49頁。