542.3
可変周波電源装置の転流特性(第1報)
一誘導負荷時一
佐 藤 信 広*
(昭和49年9月26日受理)
The Commutation Characteristics of Variable Frequency Power Sources (lst Report)
一 lnductive Load 一
Nobuhiro SAT6
(Received September 26, 1974)
本報告は従来簡易的に導出されていた可変周波電源装置の転流特性を適確に把握するために負荷インダクタンス,
動作周波数など回路動作要素を用いた渦流特性式を導出し,転流パラメータとの関係を考察した。その結果,転流特 ユ ユ
性はT/teをパラメーータにとるとto/(LC)Yとto/(LIC)vとの関係として表わせることがわかった。さらに,この 理論値が実験結果とよく一致することもたしかめた。
1 ま え が き
最近,SCRならびにその回路技術のめざましい進歩によ って,可変周波電源装置はすでに実用毅階に入っている。
たとえばこの数年各産業分野における電子計算機の導入は 目ざましく,しかもオンラインで使用する例が広がってお り,このため,計算機用電源についても定周波数定電圧
(CVCF)であることが重要な要素の1つとして要求されて きているが,このサイリスタCVCF電源の一定周波数を 得る機能は可変周波電源装置がもっておりCVCFにとっ てこれは性能,信頼性を決定するもっとも重要な部分であ
る(1)。また,VVVF装置(可変周波数可変電圧装置)とし て使用する場合は主として交流電動機の速度制御に用いら れるが,この電源により制御するとモータの速度〜トルク 特性を維持したままの制御を行ない得る点で最良の方法と されている(2)。この可変周波電源装置を運転する際,負荷 の値が実用的な範囲で転流失敗を生じ回路動作不能となっ てしまうと効率,小型化,重量,価格保守,寿命などの 条件がいくら良くても全く意味がなくなってしまうので上 流特性を適確に把握することは重要なことの1つである。
従来,可変周波電源装置の誘導負荷時の転流特性は動作周
波数,負荷インダクタンス,転流要素などを用いないで,
簡易的に転流直前の負荷電流を主として表わされているの で(3)〜(10),転流時におけるそれらの関連性を把握できな
い。
本文では,転流直前の負荷電流を動作周波数,負荷イン ダクタンスなど回路動作要素で表わし,それを用いて転流 特性式を導出し,転流パラメータとの関係を考察してい
る。
2 転流特性式の導出 まず供試回路をFig.1に示す。
↑El ∠一/
D−1
▲TE l
C P−2
Fig. 1
s一一エ
乙乙
S−2
*電気工学科 記号の説明をすると,Eは直流電源, L1は誘導負荷, L
一23一
津山高専紀要 第12号(1974)
は転流リアクトル,Cは転流コンデンサ, S−1, S−2はサ イリスタ(SCR), D−1, D−2はダイオードである。この回 路の動作についてはすでに多くの文献にとりあげられてい るのでここでは概略を述べることにするとS−1,S−2を交 互にオンオフさせると負荷端子にEの方形波交流電圧を発 生するしくみになっている。
2−1転流直前の負荷電流■oの等式決定について Fig.1の回路は物理的な意味を考えるとFig.2のように 表わせ,これは先に報告したもの(11)と同じになるので負 荷電流波形はFig.3となり,
ET
io==一iitli Fzil−L (i)
となる。ただし7は電源周波数の半周期である。
→
3−1
E1 も P−1 ム
→ 乙
E
1 ρ一2 .S−a
Fig. 2
Il == ET
繋→
c一.
下策 /:も
しl十L
ET
て
12=
13=
Ll十L
ET
(1 一Tlt, Ll十L)
[1一
→ト(,→囹
Fig. 3 丁1=
一時ノ翫
Ll T
トT.→1
エ!
Ll 一t一 L
LI T (1−g, Ll十L)
ト蚤→
T2=
轟+( LlLl十L)2] ・・一
。浄。・(L吾L>2一(L暮し)3]・・一 五1+ゐ
L1丁
14=
Ll十L
ET [1一 Ll十LLI T
[ユー
Ll十L Ll十L
[1一
五会r+(五弁L>2]
。弁。・( LlLl十L)2一(轟)3]
2−2 転流特性式の導出
転流時の特性を求める方法としていろいろあるが,ここ ではS−2がターンオンした瞬間を時間の原点にとり,S−1 が逆バイアスされている時間を求める方法をとることにす
る。その時の等価回路はFig.4である。
t=十〇での初期条件は
転流リアクトルしに流れる電流i1(+0)=Io 負荷Llに流れる電流i2(+0)=lo
転流コンデンサCの電圧yo(+0)=・E
である。すると,転流過渡状態における微分方程式は次の ようになる6
・一・讐・告∫…結∫ ・dt (・)
・一L1留+告∫づ・dt+さ∫げr4 (3)
ム乙、
→i︹﹂
・ft
し2
Vc tt十 c
し,十しユ
←左
馳㍉
Fig. 4
←
ラプラス変換すると
;?s;EL+Llo == (L S 一t一 ts一)ll F tt 12
(4)
一24一
可変周波電源装置の転流特性(第1報) 佐 藤
書+Lll・「売11+(L・S+古)1・
この連立方程式よりllを求めると,
Il =
(箏・LT・)
(暮+L・1・)
1S C
( 1LIS十 cs)
(5)
( Ls +u6!k.gg )
⊥CS
+ユ︒ ㎜s
S
⊥S C
=loX [
(L・s+まs)
S2 + (te2+012)
gu2;sx.=ei2 n..+ giteg2TE
2E十
×=
LJo
S{S2+(ω2+ω12)} t iE−1×wtt s2+.2+.12)}
ラプラス逆変換しilを求めると
1
S2十(ω2十ω12)
im,}2+tni2))]
i・一・・×[。鰐、2・・Sl/・・+・・2 ・ 2E
(6)
ただし
×sinv−E」i,i一;Elto 2 t r一:;lil :IS一 :i+rrzJit6i l{#s.i22+E.i2)
・{ト訟。、…岬・2+・・2t}](・)
1 =to 1/L C
LIOゾω2+ω12 to12E
1 == tu1
ゾLiC
ここで(1)式を(7)式へ代入し,転流期間での転流リアク トルの端子電圧を求めると,
eL一・薯一…[一f・(2θ,。誰)鴇,+,、、
・…ゾ・・1 ・T・・[・一,(e12e2+e12)}・・s 1/・・+θ12
+2一iet2?ei2s2t2ei2] (s)
ここまでの解析から,S−1の逆バイアス時間が求めら れる。すなわちS−2がターンオンして後,転流リアクト ルの端子駈噌がEとなるまでの賄力・・一・への逆 バイアス時間teであるからtoは次のように求められる。
_・θ・2Vθ2+θ・2・inv・e2+θ、2 to(2e2+e12)
・( e121十 2e2)…V・・+・・2一去・ (・)
ただし ωto=θ,ω1 0=θ1
(9)式よりT/toをパラメ・・一一タにとると転流特性はte/(工 C)1/2とto/(LIC)1/2との関係として表わせることがわか
る。
3 実 験 方 法
T/tOをパラメータにとりtO/(LC)1/2とtO/(LIC)1/2と の関係を求めるのであるが,電源周波数を決定するとその 半周期Tも決まってくるのでLl, L, Cを変化させてT/to が定められた値になるようにtoをもっていく。今回はLは 100(μH)のみを使うことにしたのでL1とCを変化させる ことになる。また,負荷は60(H2)用のもので,特に可変 周波用に設計されたものではないので次章では60(H2)の 場合の結果のみについて述べることにする。なお,60(H2)
用の負荷を可変周波用として使用した場合については興味 ある現象があらわれたのでさらに検討を加え,別の機会に 報告することにする。
実際の測定についてはS−1のアノード,カソード間に プローブをとりつけ波形をシンクロスコープに描かせ,そ の波形より逆バイアス時聞toをよみとることにした。
4 結果と考察
Fig.5は(9)式の計算値と実測値とを比較したものであ る。両者はよく一致しており,理論式(9)はじゅうぶん実 用的であり,転流時に転流すべきサイリスタに加えられる 逆バイアス時間 oはT/toをパラメータにとるとto/(LC)1/2
とto/(LIC)1/2との関係として決まることがわかった。ま た,一般に使用されているサイリスタのターンオフ時間を toffとすると転流が成功するための条件は次式で与えられ
る(12)。
to}1:toff (10)
toffは実際に転流失敗を生じる限界であるのでtoff=
33.3(ILS)であるとすると,∫=60(H2)の場合, T/to=250 の時がこの回路の転流限界ということになり,その曲線よ
り上の範囲で転回成功するということもわかることにな
る。
︵てg瀞 。,oS
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40
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︵
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Fig.5
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津:山高専紀要 第12号(1974)
5 あ と が き
転流特性を回路動作要素を用いて表わし,検討を加えて きた。その結果を要約すると次のようである。
1.転流特性式(9)式の計算値と実測値とはよく一致し ており,この式は実用的である。
2.転流時に転流すべきサイリスタに加えられる逆バイ アス時間toはT/toをパラメータにとるとto/(LC)1/2 とto/(LIC)1/2との関係として決まる。
今後の問題点として
1.電源に一般性をもたせるため,電源を純直流だけで なく,整流電源の場合についても検討する(13)。
2.今回は転流条件の一番きびしい誘導負荷時について 検討したが(14),一般性をもたせた誘導性負荷時につ いても検討する。
ことがあげられる。
文 献
(1)菅原章吾,電気計算,VoL.40(1972)196
(2)梅津利治,電気計算,VoL.40(1972)207
(3) W. Mc Murray & D.P.Shattuck, Commun. and Elec−
tronics, No.57, (1961−11) 509
〔4)大野栄一他,三菱電機技報,No・6(昭39)
(5)佐藤則明,電学論誌,84−5(昭39)
(6)大野栄一,電学論誌,86−8(昭41)
(7)宮入庄太他,電学論誌,86−4(昭41)
(8)岡本弘他,電学論誌,93一 B(昭48−4)
(9)赤松昌彦他,電学論誌,93−B(昭48−7)
ao)和田英作他,電気学会全国大会(昭49)570 al)佐藤信広,津山高専紀要, No.11(1973)66 a2)東芝㈱訳, SCRマニュアル,(昭46)97 G3)佐藤信広,電気四学会中国支部連合大会(昭49)
aの佐藤信広,計測自動制御学会東北支部講演会(昭49)
最後になりましたが,研究費の一部を本研究にください ました本校福井佐市教授,討論いただきました岐阜大学工 学部村井由宏教官,常日頃よりお世話になりますとともに 激励いただきました大阪工業大学短期大学部小寺正暁学長 のみなさまに深く感謝致します。
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