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9

章 流出の集中とその追跡計算

水文学的追跡計算法

水文学的追跡計算は流域面上で発生した流出を簡単な計算で対象地点まで追跡計 算する手段として古くから発達してきた.初期では斜面と河道を区別しない流域 追跡法が多くて提案された.大河川では上流端の流量を下流端へ追跡計算する河 道追跡法が提案された.Sherman(1932)の単位図法がその代表格でもっとも広く 知られており,今日でも一部では使われている.Hortonの浸透理論と組み合わせ ることにより,人類が始めて河川流量を定量的に計算できるようになった. これ らの方法は線形システム理論で説明できる線形追跡法と,貯留関係に基づく方法 に大別できる.この節ではこれらの方法とその基礎について述べる.なお,本章 では,特に断らない限り,河川流量の単位に流出量と同じ単位とする.

9.1

線形追跡法

単位図理論

ここでは,線形システムに関する基礎知識が必要であるが,記述を水文学に集 中されるために,付録Aで述べている.必要な場合に付録Aを参照されたい.

9.1.1 単位図法

単位図法は1932年にShermanが提案した方法である.流域に単位時間に単位量 の流出量によって生ずるハイドログラフを単位図という.流域からの河川流量は 以下の単位図の基本仮定に基づいて,流出量と単位図のたたみ込みで計算できる. 同一の流出量に対して常に同じ形状のハイドログラフが発生する. ハイドログラフにおける河川流量の大きさは流出量に比例する. 長い侍読時間を有する流出によるハイドログラフは各単位時間の流出による ハイドログラフの算術的足し会わせになる.

(2)

図9.1: 単位図の考え方と計算方法

これらの仮定により,流域からの河川流量Q

Q(j) = Σji=0UH(j − i)Re(i) (9.1)

で計算できる.ここで,Reは流域で発生した流出で,UHは単位図である.i, jは 単位時間∆tで分割したときのi番目,j番目の時間ステップを表す.なお,伝統 的に流出量の単位は10mmとすることが多い. 図9.1が単位図の考え方と計算方 法を示している. 式(9.1)から分かるように,流域は線形システムのように働き, 流出量を河川流量に変換している.単位図は離散形の応答関数となる.また,流 出量が全部河川流量になるために,単位図は ΣLi=0UH(i) = 1 (9.2) を満たさなければならない.河川流量が常に正であるために, UH(i) ≥ 1 (i = 0, 1, · · · , L − 1, L) (9.3) でなければならない.ここで,Lは単位図の最後の値の番号で,(L + 1)∆tが単位 図の持続時間となる. 式(9.1)を展開すると ⎛ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎝ Re(0) 0 · · · 0 0 Re(1) Re(0) · · · 0 0 Re(2) Re(1) · · · 0 0 .. . ... . .. ... ... 0 0 · · · Re(M) Re(M − 1) 0 0 · · · 0 Re(M) ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎠ ⎛ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎝ UH(0) UH(1) .. . .. . UH(L) ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎠ = ⎛ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎜ ⎝ Q(0) Q(1) .. . .. . Q(N) ⎞ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎟ ⎠ (9.4)

(3)

が得られる.ここで,Mは最後の流出データの番号,N が最後の流量データの

番号であり,N = M + Lである.ここで,番号が0から始まっていることに注

意.原理的にこの式を用いて,上からUH(0), UH(1), · · · , UH(L),あるいは下か

UH(L), UH(L − 1), · · · , UH(0)と順次求めていくことができるが,誤差がどん どん後ろの解に伝搬していくために,激しく振動する値となることがほとんどで あり,実用的には全く無意味である.Collins(1939)はこの問題を避けるために,初 期単位図を仮定し,最大流出量を抜いた流出量データとのたたみ込みを計算し,実 測流量との差を,最大流出量によるハイドログラフとして新しい単位図を求め,繰 り返し計算で単位図を求めるCollins法を提案した. 上式をマトリックス形式にすると, ReUH = Q (9.5) となる.ここでReが流出量からなる(M + 1, L + 1)のマトリックス,UHが単位 図を表すL + 1げ元の列ベクトル,Qが河川流量からなるM + L + 1元の列ベク トルである.ほとんどの場合に,この方程式はover-determinedで,つまり方程式 数が未知数(単位図のデータ数)より多く,最小自乗法で解を求めなければならな い.計算流量と流量データの誤差自乗和 SE = (Q − ReUH)T(Q − ReUH) (9.6) が最小にする単位図UHを以下の式で求めることができる. UH = (RT eRe)−1RTeQ (9.7) ここで,T はマトリックスの転置を表す.しかし, 式(9.7)で求めた単位図は 式 (9.2)と 式(9.3)を満たすことは保証されない.多くの場合に,単位図の値に負の 値がでたり,単位図の総和が1でなかったり,末尾に振動したりする.このよう な問題は主に流出量Reと流量データQの誤差と,線形性仮定によるものである. 式(9.2)と 式(9.3)を拘束条件として最適化する研究が多く行われてきた.詳し く知りたい方は,Bras (1990)を参照されたい.

9.1.2 S 曲線と異なる時間ステップの単位図の相互変換

実用上,単位図を異なる時間ステップ∆tに変換する必要がある.これを可能に しているのはいわゆるS曲線である.S 曲線は単位強度の流出が無限に続くとき のハイドログラフである.S ハイドログラフとも言う.単位図理論から,時間ス テップ∆tの単位図から,S曲線は S(j∆t) = ∆Σji=0UH(i) (9.8)

(4)

で得ることができる.ここで,∆tは流出の強度を 1 から1に変換している.S曲 線が求まれば,時間ステップ∆tの単位図は以下のように求めることができる. UH(0) = 1 ∆tS(0) (9.9) UH(i) = 1 ∆t(S(j∆t )− S((i − 1)∆t)) (i = 1, 2, · · · , L) (9.10) ここでは時間ステップ∆tを示している.∆t1∆t内の流出量を1にするため の係数である.

9.1.3 瞬間単位図

瞬間単位図は単位図の時間ステップ∆tが無限に小さくなったときの単位図で, 時間的に連続である.付録Aから分かるように,時間ステップ∆tが無限に小さい 場合に,時間ステップ内の流出ReDirac − delta関数となる.よって,瞬間単 位図は,流域という流出を河川流量に変換するシステムの応答関数になる.ここ で,瞬間単位図をIUH(t)と記す. 瞬間単位図から,S曲線を以下のように求められる. S(t) =  t 0 IUH(τ )dτ (9.11) また,時間ステップ∆tの単位図も UH(i) = 1 ∆t(S(i∆t) − S((i − 1)∆t)) =  i∆t (i−1)∆tIUH(τ )dτ (9.12) で得られる. このように,瞬間単位図の導入により,単位図を解析的に非常に簡単に扱うこ とができるようになる.

9.1.4 総合単位図

単位図法を,流量の観測されていない流域に適用するために,単位図の特性値 と流域の地理特性などと結び付ける総合化が行われた.それによって得られた単 位図を総合単位図と言う.単位図の総合化に関する研究は多数行われてきたが,

Synder(1938)の総合単位図とU.S. Soil Conservation Service(Mockus,1957)の無次 元単位図が代表的である.

(5)

表 9.1: U.S. Soil Conservation Serviceの無次元単位図 無次元時間 無次元流量 無次元時間 無次元流量 t/tp UH/Qp t/tp UH/Qp 0.0 0.000 1.5 0.660 0.1 0.015 1.6 0.560 0.2 0.075 1.8 0.420 0.3 0.160 2.0 0.320 0.4 0.280 2.2 0.240 0.5 0.430 2.4 0.180 0.6 0.600 2.6 0.130 0.7 0.770 2.8 0.098 0.8 0.890 3.0 0.075 0.9 0.970 3.5 0.036 1.0 1.000 4.0 0.018 1.1 0.980 4.5 0.009 1.2 0.920 5.0 0.004 1.3 0.840 0.000 1.4 0.750 Synderは流出の重心から単位図ピークまでの時間tp[hr],単位図のピーク流量 Qp[m3/s],単位図の時間ステップ∆t[hr]と単位図の継続時間tL[hr]をそれぞれ tp = Ct(LLc)0.3 (9.13) Qp = C pA tp (9.14) ∆t = tp 5.5 (9.15) tL = 72 + 3tp (9.16) で総合化した.ここでCtは流域勾配,貯留能力などを反映しており,2.4から2.9 までの値をとる.Cpは流域貯留能力などを表す係数で,18.8から37.6までの値を とる.Lは主河道の長さ[km],Lcは流域の幅[km]で,Aが流域面積[km2]である. これらの式が米国の河川から得られた経験式で,係数の値とその適用範囲に注意 しなければならない.たとえば,継続時間の式は大流域で得られたもので,応答 の比較的早い中小の流域に対してはtpの3から5倍が一般的である(Bras, 1990).

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と単位図ピーク流量Qp[m3/s]で無次元化した単位図をt/tp vs UH/Qpの数表の形 で示した.tpQpについては tp = D 2 + tl (9.17) Qp = 35.5A tp (9.18) で定式化する.ここで,Dは流出継続時間で,tlは流出の重心から単位図ピーク

までの時間で,Texasではtl= 2.55A0.6,Ohioではtl= 0.96A0.6と定式化されて

いる.また,流域の形状や勾配を考慮した一般化した式 tl= a  L Lc (i0) b (9.19) も提案されている.ここでi0は主河道の平均河床勾配である.

9.1.5 地形単位図

1945年に、定量地形学において、非常に重要な概念がHortonによって導入さ れた。それは河道位数の概念である。Hortonはその概念に基づく河道数則、河道 長則、河道勾配則を提案した。その位数化のルールを以下に示す。 1. 本川河道が最大河道位数を有する。 2. 支川河道がその合流する河道より一つ低い位数を有する。 3. 支川のない河道の河道位数が1である。 この位数化ルールは複雑な上、本川・支川という主観的な判断が必要である。しか も、位数が下流の河道の位数に依存することもある。1952年、Strahler (1952)が Horton位数化方法に改良を加え、客観的位数化方法を提案した。その位数化ルー ルは 1. 最上流河道の河道位数が1である。 2. 2本の同位数河道の合流によってできた河道の位数は合流前の河道の位数よ り一つ高い。 3. 低位数河道と高位数河道の合流によってできる河道の位数は高位数河道の位 数と等しい。

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となる.数式で表すと ωd = max(ω1u, ω2u+ 1) (9.20) となる.ここで,ωdが下流側の河道の位数, ωuが上流側の河道の位数で, ωu 1 ≥ ω2u である.現在使われているのはほとんどこの位数化方法である。陸ほか (1993)は DEMから得られる河道網に適用するためにこの位数化方法を ωd = max(ω1u, ω2u+ 1, · · · ωmu) (9.21) のように拡張した.ここでmは上流側の河道の本数で,ωu1 ≥ ωu2 ≥ · · · ≥ ωumで ある.地形則に関しては、この他にもマグニチュード理論など(藤田, 1975; 岩佐・ 小林, 1978; Scheidegger, 1965)があるが、ここでは、Horton-Strahlerの位数の 概念に基づくものについてのみ述べる. 両位数化システムにおいて、地形則は同じく形をし、いずれもHorton則と呼ば れている。ここでは、特に断わらない限り、位数、面積などがStrahlerの位数化 方法によるものである。 河道数則 Ni = RkB−i (9.22) 河道長則 Li = RiL−1× L1 (9.23) 集水面積則 Ai= Ri−1A × A1 (9.24) 河道勾配則 Si = R1−iS × S1 (9.25) ここで、kは流域の位数、iは位数、RB, RL, RA, RSはそれぞれ、分岐比、河道長 比、面積比、勾配比で、Ni, Li, Ai, Si は位数iの河道数、平均河道長、平均集水面 積、平均勾配である。これらの値は河道集中の場である河道システムの特性を表

している.Shreve (1966)がHortonの方法とStrahlerの方法での河道数の関係を

明かにした。また、246の流域において、Strahlerの方法に基づく河道数則の分

散がHortonのそれより全般的に小さいことも分かった。

Shreve (1966)の研究以来,これらの法則を水文学への応用は長らくなされなかっ た.Rodriguez-Iturbe and Valdes (1979)が河道システムの構造に基づく地形単位

図を提案した.彼らの理論では,位数iの河道から位数jの河道へ遷移する確率と 遷移にかかる時間から,瞬間単位図 IUH(t) = Σni=1pi(0) i(t) dt (9.26) を導出している.ここでnは最下流河道の位数,pi(0)は開始時の水の位数iの河 道そしてその集水面積にある確率,t時間後に位数iの河道の水が最下流河道出口

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まで遷移した確率である.Rodriguez-Iturbe and Valdes (1979)では位数3の流域 に対して φ1(t) = 1 + λ32− λ1q13) 2− λ1)(λ1− λ3)e −λ1t+ λ3λ1q12 2− λ1)(λ3− λ2e −λ2t + λ1λ2− λ1λ3q12 3− λ1)(λ2− λ3e −λ3t (9.27) φ2(t) = 1 + λ3 λ2− λ3e −λ2t+ λ2 λ3− λ2e −λ3t (9.28) φ3(t) = 1 − e−λ3t (9.29) p1(0) = R 2 B R2A (9.30) p2(0) = RB RA R3B + 2R2B − 2RB R2A(2Rb − 1) (9.31) p3(0) = 1−RB RA Rb(R2B− 3R2B + 2) R2A(2Rb− 1) (9.32) q12 = R 2 B + 2RB− 2 2R2B − RB (9.33) q13 = R 2 B − 3RB + 2 2R2B − RB (9.34) q23 = 1 (9.35) が導かれている.ここで,qij位数iの河道から位数jの河道へ遷移する確率で,位 数iの河道の内に位数jの河道に流入する河道の割合である.ここで示されていな い成分は0である.λiは位数iの河道の水の遷移にかかる時間の平均値の逆数で ある.

Rodriguez-Iturbe and Valdes (1979)はさらに,上記の地形単位図を,水の河道 システムでの移動速度,地図縮尺を表すファクター,分岐比、河道長比、面積比 を用いて総合化をしている.また,この論文が発表されてから,数多くの研究成 果(たとえば,Agnese, et al. (1988); Karlinger and Troutman (1985); Karlinger,

et al. (1987); Rodriguez-Iturbe, et al. (1979); Gupta, et al. (1980)) が発表された. 詳しくは原論文を参照されたい.

(9)

9.2

線形追跡法

線形貯水池理論

9.2.1 線形貯水池の支配方程式と解析解

線形貯水池は流量と貯水量の間に線形関係が存在する貯水池のことを指す。し たがって線形貯水池に以下の方程式が成り立つ。 dS dt = Re− Q (9.36) S = KQ (9.37) ここで、Sは貯水量(mm)Qは流量[mm/hr]、Reは流入[mm/hr]、Kはパラメー タ[hr]で時間の次元を持ち,線形貯水池の時定数とも言う.tは時間[hr]を表す。 これを整理すると、 KdQ dt = Re− Q (9.38) が得られる。この方程式の解析解は Q(t) = e−Kt  Re K/e −t Kdt (9.39) となる.入力がDirac-delta関数の場合に,流量Q(t)が線形システムの応答関数 h(t) となり, h(t) = 1 Ke −t K t ≥ 0 0 t < 0 (9.40) である.また,応答関数h(t)の一次モーメントµ1(h)µ1(h) =  0 t h(t)dt = K (9.41) で求められる. また,流入の無い場合に, 式(9.38)KdQ dt =−Q (9.42) となり,指数減水曲線 Q(t) = Q0e t K (9.43) が得られる.ここでQ0は減水開始時の流量である.

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9.2.2 線形貯水池の差分解法

(9.36)を差分すると、 KQ2− Q1 ∆t = Re− Q2+ Q1 2 (9.44) が得られる。ここで、Q2とQ1はそれぞれ時間ステップ∆tの終わりと始まりの時 刻での流量である。これからQ2を求めると、 Q2 = C0Q1+ C1Re (9.45) C0 = K − ∆t/2 K + ∆t/2 (9.46) C1 = ∆t K + ∆t/2 (9.47) となる。

9.2.3 線形貯水池の積分解法

ここで降雨強度が変化しない時間ステップ∆t内の流量の変化を考える. 式 (9.39)から、 Q(t) = e−Kt  Re K/e −t Kdt = Ce−Kt + Re (9.48) が得られる。ここで、C は積分定数である。時間ステップ∆tの始まり、つまり t = 0の時にQ = Q1であるので、 C = Q1− Re (9.49) である。これを上記の式に代入すると、 Q(t) = Q1e− t K + Re(1− e−Kt ) (9.50) が得られる。時間ステップ∆tの終わり、つまりt = ∆tの時の流出高Q2が Q2= Q1e−∆tK + Re(1− e−∆tK) (9.51) で得られる。第1項がQ1の減衰によるもので、第2項が降雨による貢献である。 cg = e− ∆t K は流量低減係数ともいう。これを用いると Q2 = Q1cg+ Re(1− cg) (9.52) が得られる。

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9.2.4 線形貯水池パラメータの決定

線形貯水池の積分解から分かるように、降雨のないときに、流出高が Q(t) = Q1e− t K (9.53) のように指数的に低減する。また、離散的に考える場合に、流出高が Q2 = Q1cg (9.54) のように幾何級数的に低減する。これを利用して線形貯水池のパラメータを決定 することができる。 一つ目の方法は、実測ハイドログラフから降雨のない低減部を選び、流出高の 対数と時間のプロットを作成し、その勾配からパラメータKを求める方法である。 もうひとつの方法は上記の低減部の流量を、各時間ステップ∆tの始まりの流出高 を横軸に、終わりの流出高を縦軸にプロットし、その勾配から、cgそしてKを求 めることができる。 もうひとつの方法として,流入と流量の一次モーメントから K = µ1(h) = µ1(Q) − µ1(Re) (9.55) 求めることもできる.

9.2.5 Nash モデル

Nashモデルは同じ線形貯水池をn個直列に繋いで流域での水の集中を表すのデ ルである.付録Aから分かるように,線形システムを繋いでできたシステムも線 形システムである.したがって,Nashモデルも線形システムである. 式(9.40) で示されている時定数Kの線形貯水池の応答関数(h(t))のラプラス変換が h(s) = L(h) = 1 s −K1 (9.56) であるため,Nashモデルの応答関数(hn(t))のラプラス変換は hn(s) = L(hn) = 1 (s − K1) n (9.57) となる.この式に対してラプラス逆変換を行えば,応答関数 hn(t) = 1 KΓ(n)  t K n−1 e−Kt (9.58)

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図9.2: 時間面積曲線 が得られる.ここでΓ(n)はガンマ関数で,nが正数の場合,Γ(n) = (n − 1)!で ある. Nashモデルは二つのパラメーター,線形貯水池の個数nと時定数Kである.こ れらのパラメーターはモーメント法から求めることができる.応答関数のラプラ ス変換から,応答関数の一次モーメントと二次中心モーメント µ1(hn) = nK (9.59) µ2(hn) = nK2 (9.60) が得られる.システムの入手力のモーメントと応答関数のモーメントの関係から nK = µ1(O) − µ1(I) (9.61) nK2 = µ2(O) − µ2(I) (9.62) が得られる.この方程式から,nKを求めることができる.

9.3

線形追跡法

時間面積曲線による追跡計算法

時間面積曲線法は流域面上の流出流域出口までたどり着くまでの時間の分布,つ まり流下時間曲線を考慮した流域追跡法である.この方法ではまず 図9.2に示す ように∆t2∆t· · ·n∆tで流域出口まで到達する点からなる等流下時間曲線を 描き,(i − 1)∆ti∆tとの間の面積Ai−1, (i = 1, 2, · · · , n)を求め,それぞれの面

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積を流域面積で割り,時間面積曲線 A(i) = Ai/A (i = 0, 1, n − 1)) (9.63) を得る.ここで,Aが流域面積で,0∆tの等流下時間曲線は流域出口の一点から なっている.等流下時間曲線の作成方法は,斜面流だけを考慮したり,河道流だ けを考慮したり,また両方を総合的に考慮したりするが,小流域では斜面流中心, 大流域では河道流中心に考慮することが一般的である.

9.3.1 時間面積曲線法

等流下時間の概念から,時刻t = j∆のときの河川流量は,(j − 1)∆tj∆tの 間にA0で発生した流出量Re(j)(j − 2)∆t(j − 1)∆tの間にA1で発生した流 出量Re(j − 1),...の和であることが分かる.時間面積曲線が分かっていれば,流 域面上発生した流出を次式 Q(j) = Σji=1A(j − i) Re(i) (9.64) で計算できる.上記の考え方と 式(9.64)から,時間面積曲線が単位図に相当する ことが明らかである.単位図理論から,時間面積曲線に対応するS曲線や応答関 数はを以下のように求めることができる. S(j∆t) = Σji=0A(i) (9.65) IUH(t) = dS(t) dt (9.66) となる. 最後に,時間面積法と単位図法の間に根本的な違いがあることを述べておこう. 単位図は河川流量と流出量の時系列から数学的に求まるもので,流出量から河川 流量までのありとあらゆる要素を含んでいるが,それらの物理的な役割を考慮し ていない.一方,時間面積法は流出の集中を極端に簡略化しているが,流下時間, 言い換えれば流下速度に注目しており,ある程度物理性を持ったモデルで,物理 概念に基づいて求めることができる.

9.3.2 合理式

合理式は,中小河川や下水道などの貯水能力のない施設のピーク流量を求める 方法である.ピーク流量が対象となる小規模施設の洪水設計,たとえば下水道シ

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ステムの排水設計に今日でも広く使われている.この方法では,等流下時間曲線 の間の面積が等しく,最遠点の流出が到達する間に流出が一定としている.これ らにより,S曲線と応答関数は S(t) = ⎧ ⎨ ⎩ t tL t < tL 1 t ≥ tL (9.67) IUH(t) = ⎧ ⎨ ⎩ 1 tL t < tL 1 t ≥ tL (9.68) となる.ここで,tLは最遠端の流出の流下時間である.tL時間続く流出Reがあっ た場合に,流域出口での河川流量が Q(t) =  t 0 IUH(t − τ )Re(τ )dτ = ⎧ ⎪ ⎪ ⎨ ⎪ ⎪ ⎩ t tLRe 0 < t ≤ tL 2tL−t tL Re tL ≤ t < 2tL 0 2tL < t (9.69) となる.当然のことではあるが,河川流量のピークQpが時間tLに現れ,流出Re と等しくなる.そういう意味でtLが洪水到達時間とも呼ぶ.この時に流域が入力 と出力が等しくなる平衡状態になる.ピーク流量の単位をm3/sに変換すると Qp = 1 3.6A Re (9.70) となる.さらに,合理式では,流出Reを雨量に流出係数f を乗じて求めている ので, Qp= 1 3.6f A Re (9.71) が得られる.これが一般に用いられている合理式である.この式は40km2以下の 流域に適用できるとされているが,流域と降雨が均一な場合に,より大きな流域に も適用できる.この式を実務で使用するに当たってもっとも重要なことは流出係数 f と洪水到達時間tLの決定である.流出計位数に関しては,過去の研究で様々な 土壌や土地利用の代表的な値がまとめられている.洪水到達時間に関しては,流 路長,勾配などを用いた経験式や理論式,たとえばKravenの式,建設省土木研究 所の式,石原・高棹の式が提案されている.詳しくは水理公式集(土木学会水理委 員会 (1985))を参照されたい.

9.3.3 Clark モデル

9.3.1でも述べているように,時間面積法は流出の集中を極端に簡略化しており, 流出量の水平方向の移動のみを表しており,移動途中の低減などを表現できない.

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図 9.3: 貯水池の追跡計算 1945年にClarkが時間面積曲線の結果を線形貯水池に入力し,河川流量を計算す る方法を提案した.時間面積法と線形貯水池はいずれも線形システムであるため, それを直列に繋いでできるClarkモデルもまた線形システムである.いままでの 時間面積法と線形貯水池理論から,時間面積法の出力Q(t)と実測流量を用いて, モーメント法で線形貯水池のパラメーターKを求めることができる.

9.4

貯留関係による追跡法

流域の水収支を考える場合に,流域の貯水量S の変化は入力となる流出と出力 となる河川流量の差に等しくなる.つまり,連続式 dS dt = Re− Q (9.72) が成り立つ.しかし,これだけでは,河川流量あるいは流域貯水量を知ることは できない.貯水量あるいは河川流量を知るためにはもうひとつの方程式が必要で ある.

9.4.1 貯水池の追跡計算

人工的な制御が既知の場合に,貯水池の放流量は貯水池の水位そして貯水量に よって決定される.貯留関係による追跡計算の典型である.しかし,貯水量と放

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流量の関係は,貯水池の貯水域の地形に大きく依存し,貯水池ごとに数表の形で 用意されることが多い. 式(9.72)を離散化すると, Sj+1− Sj ∆t = Re,j+1+ Re,j 2 Qj+1− Qj 2 (9.73) が得られる.ここで下つき添字は時間を表している.この式を整理すると, Sj+1 ∆t + Qj+1 2 = Sj ∆t+ Qj 2 + Re,j+1+ Re,j 2 − Qj (9.74) が得られる.予め作成したH ∼ ∆tS +Q2H ∼ Qの関係曲線を用いれば, 図9.3 に示す図解法で貯水池の水位と放流量を計算することができる.

9.4.2 貯留関数法

貯留関数法は土木研究所の木村(1961)によって提案されたもので,日本でもっ とも広く使われている方法と言っても過言ではない.この方法では,貯留関係を S = KQpl (9.75) とした.ここで,Ql(t) = Q(t + tl)である.つまり,流域貯留量Sは同時刻の流量 ではなく,tl時間後の流量との間に冪乗関数で表される関数関係があるとしてい る.tlは遅延時間と呼ばれる.この遅延時間を導入したことにより,時速資料から 求めた貯留量と同時刻流量とのプロットでのループを解消し,貯留関係を一価関 数化することが可能となった.なお,この遅延時間はループがもっとも小さく,貯 留関係がもっとも一価関数に近くなるように試行錯誤で定める.また,パラメー ターKpは遅延時間tlが決定されてから,ln Sln Ql(t)をプロットし,近似直 線の勾配と切片から求めることができる. また,パラメーターKptlを用いて,流出量Reから河川流量を求める場合 には,遅延時間無し,つまりtl= 0として,貯留関係を連続方程式に代入し, dQ dt = Re− Q KpQp−1 (9.76) を得,遅延なしの河川流量Q(t)を求め,tl時間遅らせて計算流量を得る.なお,こ の方程式は非線型方程式で,ほとんどの場合に解析解が得られない.Runge-Kutta 法などの数値解法で数値解を求めることになる.

図 9.1: 単位図の考え方と計算方法
表 9.1: U.S. Soil Conservation Service の無次元単位図 無次元時間 無次元流量 無次元時間 無次元流量 t/t p UH/Q p t/t p UH/Q p 0.0 0.000 1.5 0.660 0.1 0.015 1.6 0.560 0.2 0.075 1.8 0.420 0.3 0.160 2.0 0.320 0.4 0.280 2.2 0.240 0.5 0.430 2.4 0.180 0.6 0.600 2.6 0.130 0.7 0.770 2.8 0.098
図 9.2: 時間面積曲線 が得られる.ここで Γ(n) はガンマ関数で, n が正数の場合, Γ(n) = (n − 1)! で ある. Nash モデルは二つのパラメーター,線形貯水池の個数 n と時定数 K である.こ れらのパラメーターはモーメント法から求めることができる.応答関数のラプラ ス変換から,応答関数の一次モーメントと二次中心モーメント µ  1 (h n ) = nK (9.59) µ 2 (h n ) = nK 2 (9.60) が得られる.システムの入手力のモーメントと応答関数のモ
図 9.3: 貯水池の追跡計算 1945 年に Clark が時間面積曲線の結果を線形貯水池に入力し,河川流量を計算す る方法を提案した.時間面積法と線形貯水池はいずれも線形システムであるため, それを直列に繋いでできる Clark モデルもまた線形システムである.いままでの 時間面積法と線形貯水池理論から,時間面積法の出力 Q  (t) と実測流量を用いて, モーメント法で線形貯水池のパラメーター K を求めることができる. 9.4 貯留関係による追跡法 流域の水収支を考える場合に,流域の貯水量 S の

参照

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