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コリャード『羅西日辞書』諸本の異同

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(1)

1.はじめに

1632

年 ロ ー マ 刊 『 羅 西 日 辞 書 』( 原 題 :

Di cti onari um si uethesauril i ngua Iaponi cae compendi um

)は、ドミニコ会士ディエゴ・コリャード(Di

egoCol l ado

)によるラテン語・ス ペイン語・日本語の対訳辞書であり、『日本文典』(1632年ローマ刊)『懺悔録』(同)とあわ せて「コリャード三部作」と通称されるコリャードの著作群の一つである。日本ではなくロー マの布教聖省で発行されたという背景もあり、キリシタン版と呼ばれる印刷物の中では現存数 が非常に多い(1。イエズス会が日本で出版したキリシタン版に比べると希少性は低く、そのた めか、『日葡辞書』等に比べると、日本語資料としての研究や活用が盛んになされてきたとは 言い難い。『羅西日辞書』が広く活用されるためには、『日葡辞書』や『日本大文典』で既にな されているような日本語訳の刊行が必要であるが、まずそのためには、数多く存在する諸本の 中から最善本を見極め、翻訳の底本を定める必要がある。

『羅西日辞書』の諸本に関する研究としては、大塚光信氏が、『羅西日辞書』(勉誠社

1979

) の解題でマドリー本、亀井本、京大本の異同を、『抄物きりしたん資料私注』(清文堂

1996

) でマドリー本、亀井本、京大本、大阪府立中之島本、京大上野文庫本の異同を、それぞれ表に まとめている(2。これらの諸本の異同の状態はやや複雑であり、大塚氏は「やはりある一本を まとめてその先後を推定することは、この辞書のは(ママ)あいでも簡単にはきめられない問題である

コリャード『羅西日辞書』諸本の異同

- ローマ、ヴァチカンにおける調査を中心に - 川 口 敦 子

要旨:ドミニコ会士ディエゴ・コリャードによる『羅西日辞書』(1632年ローマ刊)について、

2011年のローマおよびヴァチカンでの調査を中心に、諸本の異同を検討する。『羅西日辞書』の 日本語訳は未だ公刊されていないが、翻訳のためにも、文献研究の基礎とも言うべき諸本の比較 と最善本の選定は重要である。『羅西日辞書』はイエズス会のキリシタン版に比べると現存する 数が多く、一部の諸本の異同については既に大塚光信氏による研究があるが、本稿はこれに加え て、アレッサンドリナ図書館、ウルバノ大学図書館、ヴァチカン図書館、ヴァリチェリアナ図書 館、ライデン大学図書館、東京大学総合図書館が所蔵する本の異同について検討し、諸本の成立 過程について考察した。正誤表に基づいて異同箇所を検討したところ、版の先後関係はやや複雑 で、単純に一方向を示してはいなかった。中には、改版前の古い折丁が改版後の製本段階で紛れ 込んだかと推測される例もある。また、『羅西日辞書』は正篇(補遺を含む)と続篇で構成され ているが、異同の状態から、正篇と続篇は別々に印刷されたものであることが推定できる。現存 する諸本は「正篇のみ」「正篇と続篇の合冊」「正篇と続篇の分冊」のいずれかの形で製本されて いるが、これは別々に印刷した正篇と続篇を組み合わせて製本した結果と言える。こうした複雑 な異同の状態を踏まえて、『羅西日辞書』を日本語資料として活用するためにも、ヨーロッパ各 地に多く現存する諸本の調査と研究が今後の課題である。

(2)

ということになる」(3と述べている。このように、『羅西日辞書』は諸本間に異同があるが、

それら諸本の先後関係も明確ではない部分がある。

筆者は近年、オランダ、イタリア、ヴァチカン等で『羅西日辞書』を何冊か閲覧する機会を 得たが、その際、大塚氏が挙げた諸本とまた異なる状態を示すものがあることに気づいた。

本稿は、2008年および

2011

年の現地調査を基に、『羅西日辞書』諸本の異同から、その印 刷過程と本文改訂の状態を考察するものである。

2.調査対象

コリャード『羅西日辞書』はクォート判(四つ折り判)の本で、以下のように、正篇(補遺 を含む)と続篇で構成されている。

正篇

扉(DICTIONARIVM SIVETHESAVRILINGV

・ IAPONIC ・ COMPENDIVM)

序文(PROLOGVSADLECTOREM Etaduertenti・

ci rcahui usdi cti onari jcl ari orem i ntel l i genti am.

)p.3-4

本文

p.3

-146

補遺(PR

・ TERMISSA.

)p.147-155 跋文(ADLECTOREM.)p.156

正誤表(ERRATASICCORRIGE.)p.157 続篇

扉(ADDITIONESADDICTIONARIVM IAPONICVM.) 序文(ADLECTOREM.)p.163

本文

p.165

-353

跋文(Al

i quai nueni enturvocabul al ati na,. . .

)p.353 正誤表(ERRATASICCORRIGE.)p.354-355

正篇と続篇は合冊されていることが多いが、正篇のみが所蔵されている場合や、正篇と続篇 をそれぞれ分けて製本した状態で所蔵されている場合もある。

本稿で取り上げる諸本は、以下の①~⑩である。複数の所蔵があるアレッサンドリナ図書館 およびヴァチカン図書館の諸本については、所蔵番号を基にコレクション名を付して区別した。

なお、所蔵番号等の情報は、①は

2008

9

月(於オランダ・ライデン)、②~⑨は

2011

9

月(於イタリア・ローマ、ヴァチカン)、⑩は

2011

10

月(於東京)の現地調査に基づく。

① ライデン大学本

ライデン大学図書館(Uni

versi tei tsbi bl i otheekLei den

)Gesl

otenMagazi j n860C26

正篇・続篇。

② アレッサンドリナ

Of

ローマ大学アレッサンドリナ図書館(Bi

bl i otecaUni versi tari aAl essandri na

)Of

- 30

『羅西日辞書』正篇・続篇(1)とコリャード『日本文典』(2)の合冊。

③ アレッサンドリナ

Oo

ローマ大学アレッサンドリナ図書館

Oo- 52

(3)

Stef anoPaol i ni , Di t t i onar i oGi or gi anoeIt al i ano ,Roma,1629

(1)、『羅西日辞書』(正篇のみ)

(2)、Davi

dHaex, Di c t i onar i vumMal ai c o- Lat i nvme tLat i no- Mal ai c vm ,Roma,1631

(3)との合 冊。

④ ウルバノ大学本

教皇庁立ウルバノ大学図書館(Ponti

f i caUni versi t

Urbani ana

(4

D- 22a- 12

『羅西日辞書』正篇・続篇(1)とコリャード『日本文典』(2)の合冊。

⑤ ヴァリチェリアナ本

ヴァリチェリアナ図書館(Bi

bl i otecaVal l i cel l i ana

)S.Borr.

- Q. I. - 255

(正篇)、

S.Borr. - Q. I.

- 256

(続篇)

正篇の扉余白にラテン語で「ExLegatoCardi

nal i sCol l oredi

」(Col

l oredus

枢機卿(5の遺 産より)の書き込み有り。

⑥ ヴァチカン

Barberi ni

ヴ ァ チ カ ン 図 書 館 (Bi

bl i oteca Apostol i ca Vati cana

Barberi ni - Y. V. - 13

( 正 篇 )、

Barberi ni - Y. V. - 14

(続篇)

⑦ ヴァチカン

Chi gi

ヴァチカン図書館

Chi gi - I V- 504

(正篇)、Chi

gi - I V- 505

(続篇)

⑧ ヴァチカン

Mai

ヴァチカン図書館

Mai . - X. D. V. - 49

コリャード『日本文典』(1)、『羅西日辞書』正篇(2)の合冊。

⑨ ヴァチカン

Racc.Gen.Ori ente本

ヴァチカン図書館

Racc.Gen. - Ori ente. - I V. - 766

正篇・続篇。

⑩ 東大本

東京大学総合図書館

A100- 10

正篇・続篇。

今回調査した①~⑩の諸本を製本の状態で分類すると、以下のようになる。

・正篇と続篇が合冊されている

ライデン大学本、アレッサンドリナ

Of

本、ウルバノ大学本、ヴァチカン

Racc.Gen.Ori ente

本、東大本

・正篇と続篇が分冊されている

ヴァリチェリアナ本、ヴァチカン

Barberi ni

本、ヴァチカン

Chi gi

・正篇のみ(続篇なし)

アレッサンドリナ

Oo

本、ヴァチカン

Mai

『羅西日辞書』は正篇と続篇が合冊されたものが多いが、合冊されてはいても正篇と続篇は 別々に印刷されたものである可能性がある。大塚氏は、

すなわち、文典・辞書(正篇・補遺のみ)にはその

ti tl e- page

にコリャードの「編纂」と いう意味のラテン語

compono

(の変化形)がみえるのに、懺悔録および辞書続篇には

(4)

auctor

(著者)という語が使用されており、また前二書にはスペイン語による稿本がそれ ぞれ現存しているのに、後二書には刊本以外存しないということである。(6

と述べ、続篇は正篇とは性格の異なる本であることを指摘している。また、氏は、

文典と辞書(正篇・補遺)とは最初からコリャードの胸中にあった企劃として、また懺悔 録と辞書(続篇)とは前二書が成立する過程であらたに作製されたものであり、それぞれ 別々に印刷されたと、わたくしは考える。そして、前三書はたしかに一六三二年中に印刷 されたが、辞書続篇のみはその蓋然性がかなり低いと考える。(7

とも述べている。今回の調査範囲に限っただけでも、正篇のみ、あるいは正篇と続篇を分けて 製本したものを所蔵する例が少なくないことは、大塚氏のこれらの見解を補強するものであろ う。したがって、『羅西日辞書』の諸本を比較する場合、まずは正篇と続篇を分けて考えるべ きである。

なお、大塚氏はマドリー本、亀井本、京大本の先後関係について、

正誤表の記述

265.c.1… l .22tresequi l ar,l .tresqui l ar

によると,(中略)マドリー本・

亀井本が後刷本となる。ところが,正誤表の

290.c.l .

1.23mucay,l .mucayec.2.l .26 cui oi ,l .curoi

などによると,(中略)京大本・亀井本が後刷本となる。したがって,正誤 表の形だけに基準をおけば,マドリー本と京大本の刷りの先後は一概には論断しがたいが,

少なくとも亀井本だけはもっとも後に刷られたものということができそうにみえる。とこ ろで(中略)

u

o

の交替例は当時めずらしくないから,f

i qu

と書いたものの後に

f ocu

(<f

uqu

)と訂正したものとも考えられる。(中略)正誤表に(224)c.2.l

.11nagucdaxi , l .naguedaxi

とあるところをみると,京大本のは正誤表が作製される以前の状態をみせて いるのかとも思われる。しかし,(1)(2)(3)(8はマドリー本・亀井本から京大本への方 向を考えた方がよさそうな例である。(9

と述べているが、氏はここで正篇と続篇を分けずに一本として比較している。正篇と続篇を分 けて比較すれば、また違った解釈も成り立つであろう。

3.諸本の異同

上記の①~⑩の諸本に、複製本で内容の確認が可能なマドリー本(大塚光信解題・索引『羅 西日辞典』臨川書店

1966

)と亀井本(大塚光信解題『羅西日辞書』勉誠書店

1979

)を加え、

大塚氏が『抄物きりしたん資料私注』で挙げている

23

項目に頁付けの異同

4

項目を加えた

27

項目について、正篇と続篇に分けてそれぞれ【表

1

】と【表

2

】に示す。正誤表等から誤りと 判断される箇所には網掛けを施した。なお、参考として、『抄物きりしたん資料私注』の表に 挙げられている京大本も併せて示す(10

正篇は以下の

3

系統に分けることができる(正篇

a

、正篇

b

、正篇

c

とする)。

正篇

a

:マドリー本、亀井本 正篇

b

:ライデン大学本

正篇

c

:アレッサンドリナ

Of

本、アレッサンドリナ

Oo

本、ヴァチカン

Barberi ni

本、ヴァ チカン

Chi gi

本、ヴァチカン

Mai

本、ヴァチカン

Racc.Gen.Ori ente

本、ヴァリ チェリアナ本、ウルバノ大学本、東大本、京大本

正誤表に記載のない箇所ではあるが、辞書項目の内容から判断すると、正篇

a

→正篇

b

→正

(5)

【表1】正篇の異同 続篇a続篇b-1続篇b-2続篇b-3続篇b-4続篇c正誤表 マドリー本**、ライ デン大学本、ヴァリ チェリアナ本

ヴァチカンChigi本ヴァチカンRacc. Gen.Oriente本、 東大本

ヴァチカンBarberini 本、ウルバノ大学本、 亀井本

アレッサンドリナ Of本京大本* 179左32fayi,u.faqi,u.faqi,u.faqi,u.faqi,u.faqi,u.- 216216202216216216- 217左36icgari,u.icgari,u.icgari,u.icgari,u.icgari,u.gari,u.icgari,l.iigari. 224右10voixda-xi,u.voixda-xi,u.voixda-xi,u.voixda-xi,u.voixda-xi,u.voxda-xi,u- 224右11nagucdaxi,u.nagucdaxi,u.nagucdaxi,u.nagucdaxi,u.nagucdaxi,u.nacgucdaxi,unagucdaxi,l.naguedaxi. 265左15cumi,u.cumi,u.cumi,u.cumi,u.cumi,u.cmicumi,ucmi;u. 265左22tresquilartresquilartresquilartresquilartresquilartresequilartresequilar,l.tresquilar. 265左34furui,.furui,.furui,.furui,.furui,.futui,futui,l.furui. 269左23fo-robxi,u.fo-robxi,u.fo-robxi,u.fo-robxi,u.fo-robxi,u.fo-rqxi,uroqxi,l.roboxi. 271269269269269271- 290左23mucaymucayemucayemucayemucayemucayemucay,l.mucaye. 290右20nioniiniiniiniiniinio,l.nri. 290右25ma-cuioi.ma-curoi.ma-curoi.ma-curoi.ma-curoi.ma-curoicuioi,l.curoi. 291左18ma-rxi,u.ma-vxi,u.ma-vxi,u.ma-vxi,u.ma-vxi,u.ma-vxi,u.rxi,l.vaxi. 291左34nozomunozominozominozominozominozominozomu,l.nozomi. 291右26amatqueamatgueamatgueamatgueamatgueamatgueamatque,l.amatgue. 294左37Coope-rimentuCoope-rimentumCoope-rimentumCoope-rimentumCoope-rimentumCoope-rimentum- 294右12OpipaxusOpiparusOpiparusOpiparusOpiparusOpiparusl.Opiparus. 294右32xiqinixichinixichinixichinixichinixichini- 295左05coryi,u.corxi,u.corxi,u.corxi,u.corxi,u.corxi,ucoryi,l.corxi. 295左21daijdaiji.daiji.daiji.daiji.daiji.l.daiji 295左39noynivanoynivanoynivanoynivanoynivanoyni- 324324324334324324- 328328328388328328-

【表2】続篇の異同 *京大本は大塚光信『抄物きりしたん資料私注』p.256-257の表による。 **マドリー本の続篇295左39「noyni」は、影印本では「noyni」と読めるが、他の「」の活字と比較して、この箇所は「」の開音記号の右半分が不鮮明なた めに「」のように見えているものと判断した。

正篇a正篇b正篇c正誤表

マドリー本、 亀井本

ライデン大学本アレッサンドリナOf本、アレッサンドリナOo本、ヴァチカンBarberini本、ヴァ チカンChigi本、ヴァチカンMai本、ヴァチカンRacc.Gen.Oriente本、ヴァリチェ リアナ本、ウルバノ大学本、東大本、京大本* 042左03zorcuzoycuzoycu- 047右29qen-zcunuqen-zcunoqen-zcuno- 149左36fqi,u.fqi,u.fiqi,u.-

(6)

c

の順で誤りが訂正されていると考えられる。したがって、印刷もこの順に改版が行われた ものと推定できる。

続篇の諸本の状態は正篇より複雑である。まず、頁付けを除く本文だけの異同を比較すると、

大きく

3

系統に分けられる(続篇

a

、続篇

b

、続篇

c

とする)。これに頁付けの異同を加えて みると、続篇

b

はさらに

4

系統に分けられる(続篇

b- 1

等とする)。

続篇

a

:マドリー本、ライデン大学本、ヴァリチェリアナ本 続篇

b- 1

:ヴァチカン

Chi gi

- 2

:ヴァチカン

Racc.Gen.Ori ente

本、東大本

- 3

:ヴァチカン

Barberi ni

本、ウルバノ大学本、亀井本

- 4

:アレッサンドリナ

Of

続篇

c

:京大本

正誤表などから判断すると、続篇

a

と続篇

b

については、続篇

a

→続篇

b

の順に改版された と考えられる。続篇

c

(京大本)の先後関係については、大塚氏が既に指摘しているように、

簡単には断定しがたい。

京大本の

p.217

36

gari ,u.

」および

p.224

11

「nac

g ucdaxi

,u

」は、続篇

a

、続篇

b

、 正誤表には現れない形である。これが正誤表に先行する誤植の例を示したものなのか、それと も続篇

a

および続篇

b

にあった誤植を訂正するつもりでさらに誤ってしまったものであるの か、断定しがたい。これと同様の例として、p.290右

20

の箇所は続篇

a

で「n

i o

」とあるも のが続篇

b

と続篇

c

では「n

i i

」となっているが、正誤表には「n

i o,l .n

ri .

」とあって、これ も「n

i i

」の形は正誤表には示されていない。続篇

b

は、この「n

i i

」以外で続篇

a

との異同 がある箇所は基本的に正誤表に従って改訂されており、続篇

a

→続篇

b

の順で改訂されたこと を示唆している。何らかの事情でこの箇所だけ正誤表以前の古いものが紛れ込んだという可能 性も否定はできないが、字形の類似性に注目してみると、正誤表で訂正後の形とする「n

ri

」 の「r」を「i」と見誤って、「n

i i

」と改訂してしまったと考えることもできよう。もしそうだ とすれば、京大本の「

gari ,u.

」と「nac

g ucdaxi

,u

」の例もそれと同様に、正誤表の後に、

何らかの錯誤によってさらに誤って改訂してしまった例と解釈することも不可能ではない。

京大本の

p.265

15

「c

micumi ,u

」、p.265左

22

「tresequi

l ar

」、p.265左

34

「f

utui , u

」、

p.269

23

「f

o- r

q

xi ,u

」の箇所は、正誤表によれば、正誤表で訂正される前の状態を示し ている。これらは続篇

a

および続篇

b

には現れないので、状態としては続篇

a

と続篇

b

に先 行するものと言えよう。先に述べたように、『羅西日辞書』はクォート判(四つ折り判)であ り、四つ折りにした

1

枚の紙(折丁)の表裏に

8

頁分が印刷されている。『羅西日辞書』で実 際に

1

つの折丁に何頁目から何頁目までが印刷され、どのように製本されているかは確認が難 しいが、p.265から

p.269

までは、クォート判で

1

つの折丁の範囲内に収めることができる。

他の誤植の例を見ても、すべて特定の頁やそれにごく近い頁に集中しており、折丁単位で誤植 が現れていると推測できる。このように、印刷の段階で折丁単位での改版を行ったとしても、

もし製本の段階でそこに改版前の古い折丁が残っていたとしたら、差し替えの際にそれと紛れ てしまうこともあり得たのではないか。つまり、京大本(続篇

c

)の

p.265

p.269

の誤りは、

正誤表および続篇

a

・続篇

b

に先行する古い版の折丁が製本の際に紛れ込んだために、ここに 現れたのではないだろうか。

続篇

b- 1

、続篇

b- 2

、続篇

b- 3

、続篇

b- 4

は、本文に異同はないが、頁付けに異同がある。頁

(7)

付けの訂正状態を見ると、(続篇

b- 1

、続篇

b- 2

)→続篇

b- 3

→続篇

b- 4

の順に改版されたと考 えられる。

続篇

b- 1

と続篇

b- 2

の先後関係はよくわからない。続篇

b- 1

で誤っていた頁付け「202」が 続篇

b- 2

では「216」と訂正されているが、続篇

b- 1

で正しく「324」「328」と頁付けされてい たものが続篇

b- 2

では「334」「388」と誤っているのである。p.216の頁付けを「202」と誤る 例(続篇

b- 1

)、p.324と

p.328

の頁付けを「334」「388」と誤る例(続篇

b- 2

)は、これらに 先行すると推定される続篇

a

には現れないものであり、改版の際の単純な誤植かもしれないが、

あるいは続篇

a

に先行する古い版の存在を示唆するものかもしれない。

正篇と続篇が合冊されている諸本の状態を見ると、例えばライデン大学本(正篇

b

+続篇

a

) は、正篇だけを見れば正篇

a

をもつ亀井本より後かと思われるが、続篇だけを見れば、続篇

b- 3

をもつ亀井本に先行するかと思われる。このように、正篇と続篇の組み合わせとその先後 関係は複雑であることが分かる。正篇と続篇を同時に印刷・製本したのならば、このように複 雑な組み合わせの諸本が成立することは考えにくい。先に述べたように、正篇と続篇は別々に 印刷されたのであり、それらを組み合わせて、合冊あるいは分冊したものと考えられる。

4.おわりに

『羅西日辞書』は現存する数が多く、特にヨーロッパでは図書館等に所蔵されている数が多 いために、かえってその全貌が明らかにされていない。これだけの異同と複雑な改版状態が明 らかであるのだから、印刷物であっても、諸本の比較調査は重要である。また、正篇に比べる と続篇は細かい改版を重ねているが、こうした改版の状態に関しても、さらなる諸本の調査に よって新たな側面が明らかになる可能性が高い。

『羅西日辞書』を日本語研究の資料として有効活用するためにも、まずはその基礎研究とな る、現存する多くの『羅西日辞書』諸本の調査とその全貌の解明が、今後の課題である。

付記:本稿は平成

23

-26年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金(若手研究(B))、

課題番号:23720228)による成果の一部である。

(1)日本国内だけでも、ラウレスキリシタン文庫データベース(LauresRareBookDatabase:http:// laures.cc.sophia.ac.jp/laures/html/index.html)に記載されている7カ所(上智大学キリシタン文庫、

東洋文庫、東京大学総合図書館、筑波大学附属図書館、京都大学図書館、天理大学図書館、大浦天主 堂)の他に、大阪府立中之島図書館などに所蔵がある。ヨーロッパの歴史的な図書館では所蔵例が多 く、また同一図書館に複数点所蔵されていることも珍しくない。

(2)大塚光信解題『羅西日辞書』の解題「羅西日辞書 ― 諸本とことば ―」(勉誠社1979)p.360-361、 大塚光信『抄物きりしたん資料私注』(清文堂1996)第六章「コリャードの日本語辞書」p.256-257。

(3)『羅西日辞書』(勉誠社1979)解題p.362。

(4)ウルバノ大学図書館の基礎となった初期のコレクションは、『羅西日辞書』の発行元でもある布教聖 省(SacraCongregazionedePropagandaFide)の蔵書を前身としており(ウルバノ大学図書館公式 サイトhttp://www.urbaniana.edu/biblio/it/biblioteca/storia.htmよ り )、 本 資 料 に も 「S.C.DE

(8)

PROPAGANDAFIDE/BIBLIOTECA」の蔵書印がある。

(5)ヴァリチェリアナ図書館の記録によれば、LeandroColloredo(1639-1709;1686年に枢機卿)のこと。

(6)大塚光信『きりしたん資料私注』p.260。

(7)大塚光信『きりしたん資料私注』p.264。

(8)(1) はp.13右16「purani」(マドリー本・亀井本) と 「puranni」(京大本)、(2) はp.42左3

「zoracu」(マドリー本・亀井本)と「zoyacu」(京大本)、(3)はp.47右29「qenzocunu」(マドリー 本・亀井本)と「qenzocuno」(京大本)。なお(1)の例は『抄物きりしたん資料私注』の表には記 載がない。

(9)『羅西日辞書』(勉誠社1979)p.361。

(10)筆者は京大本は未見のため(2011年10月末時点)、『抄物きりしたん資料私注』に挙げられていない 頁付けの異同については、本稿では割愛する。

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