平成 22 年度 修士論文
気晴らしに関する臨床心理学的研究
弘前大学大学院 教育学研究科
学校教育専攻 学校教育専修 臨床心理学分野 09GP107
寺澤 三和
目 次
はじめに
第1章 問題と目的
第1節 予防的介入としてのストレス・マネジメント・・・・・・・・・・・・・・1 第2節 ストレスの概念・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 第3節 認知的評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第4節 コーピング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
第5節 気晴らし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 第6節 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 第2章 研究1:回避型コーピングの有効性の再検証と気晴らしの認知に関する情報収集 第1節 問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 第2節 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 第3節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 第4節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 第5節 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 第3章 研究2:気晴らしの認知に関する探索的研究
第1節 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 第2節 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 第3節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 第4節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 第5節 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 第4章 研究3:認知的要因が気晴らしに及ぼす影響
第1節 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 第2節 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 第3節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 第4節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 第5節 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 第5章 総合的考察
第1節 本研究のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57 第2節 気晴らしの 実行につながるプロセスについて・・・・・・・・・・・・・・
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第3節 ラザルスらのストレス理論への示唆・・・・・・・・・・・・・・・・・59 第4節 臨床的示唆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59 第5節 本研究の意義と今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60 引用・参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
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第1章 問題と目的
はじめに
近年、心理教育における予防の観点から、ストレス・マネジメントが注目されている。
ストレスという言葉は、今や日常的に用いられるようになり、われわれ現代人にとって切 り離すことのできない身近な存在ともいえる。それだけに、ストレスをすべて解消して生 活することは難しい。また、困難に立ち向かうことによって成長が促されるという点を考 慮すると、ストレスが必ずしも有害な面ばかりをもっているとは言い難く、ストレスを排 除するというよりはむしろ、いかにストレスと共存して生活していけるかに着目し、現実 に即した援助の方法を考えることの方が有益であると思われる。臨床心理士として、スト レスに直面している一人一人に目を向け、避けることのできないストレスという問題につ いて研究すること、そこから得られた知見をストレス・マネジメントとして予防的介入に 役立てることは、ストレスのもたらす悪影響を最低限におさえ心身の健康維持を支えるう えにおいて意義のあることだと考える。
第1節 予防的介入としてのストレス・マネジメント
ストレスに対する予防的介入として、近年ストレス・マネジメントに対する関心が高ま っている。ストレス・マネジメントとは、ストレスの成立を阻止するための予防策を意味 し、個人が日常的に行い、その結果、健康の維持、適応の促進をもたらすことにつながる ことを目的とする活動を意味する(竹内,1997)。精神疾患の治療よりもむしろ予防を重視 するコミュニティ心理学における予防の観点からも、職場ストレスにおける精神疾患を予 防したり、児童・生徒のメンタルヘルス向上を目的とした心理教育の導入など、ストレス・
マネジメントに対する役割、期待は年々大きくなっているといえるだろう。
坂野(2004)によれば、学校、職場、地域などにも多くのカウンセラーが配置されるよ うになり、身近な場所でカウンセリングが受けられる環境が整ってきた。しかし、相談に 訪れる人はまだ限られており、カウンセリングを受けるほどではないが日々の生活でスト レスを感じている人が多いことも事実であり、心身の健康を維持・増進していくためには 心の問題をかかえた人へのサポート体制を整えるだけでなく、心の問題を予防する、ある いは早期に発見して対処するという発想をもつことが大切であると述べている。カウンセ リングを受ける環境が以前に増して整ってきたとはいえ、カウンセリングを受けることへ の抵抗があったり、周囲の理解が十分得られなかったり、あるいは目の前のことに追われ て時間が取れない場合があることなども、実際は考えられる。そうした個々がおかれてい る状況を考えると、ストレスを完全に取り除くことは不可能に近く、むしろストレスをセ ルフ・コントロールできる能力を身につけ、ストレスと共存し、うまく付き合っていく方 が現実的であると思われる。ストレス社会と呼ばれる現代社会においてこそ、深刻なスト
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レスに陥る前に、いかにして予防に取り組んでいくかという、コミュニティ心理学におけ る予防的介入の視点が、重要であると考える。
第2節 ストレスの概念
ストレスマネジメントの多くは Lazarus&Folkman(1984)の心理学的ストレス理論を 概念的枠組みとして実践されている(堀,2007)。Lazarus&Folkman(1984)は、人間と 環境との間の関係に注目し、心理的ストレスについて、「人的資源に負担を負わせたり個人 の資源を越えたり、また個人の安寧を危険にさらしたりするものとして、個人が評価する 人間と環境の関係から生じるもの」をストレスと定義した。Lazarus ら(1984)は、日常 生活の中で起こりうる、慢性的持続的な日常の苛立ち事(daily hassles)が重大なストレッ サーになることに注目し、人々に心理的ストレスを生じさせるものは何かについて、人間 と環境の関係を媒介する「認知的評価」と「対処」という2つの重要な過程の検討を通し てアプローチしている。認知的評価とは、「人間と環境との間の特定の相互作用、または一 連の相互作用が、なぜ、そしてどの程度ストレスフルであるかを決定する評価的な過程」
のことである。対処とは、「個人がストレスフルであると評価する、人間―環境の関係から 起 こ る 要 求 と 、 そ こ か ら 生 じ る 感 情 を 、 個 人 が 処 理 し て い く 過 程 」 の こ と で あ る
(Lazarus&Folkman,1984)。
ラザルスらによって提唱された心理社会的ストレスモデルについて、山中・冨永(2000)
は次のように説明している。私たちが日常生活で遭遇するさまざまな刺激や出来事が、ス トレッサーになるか否かは、生活全般に対する個人の構えやその刺激や出来事に対する個 人の受け止め方による。ラザルスらはその構えや刺激に対する受け止め方を認知的評価と よんでいる。この認知的評価には第1次的評価と第2次的評価がある。刺激や出来事が個 人にとってどのくらい脅威的であるかとどうかの判断が、第 1 次的評価とよばれるもので ある。一方、刺激場面に対処できるかどうかの判断が、第 2 次的評価とよばれるものであ る。こうした出来事に対するそれぞれの受け止め方、すなわち認知的評価によってストレ ス反応を表出させるか否かに影響を及ぼすとされている。
たとえば、試験で悪い点数をとったとしても、勉強に無頓着で関心の薄い生徒であれば、
それはストレッサーにはならない。一方、試験でよい点数をとることだけを目標に努力を 続けてきた生徒にとっては、気分が落ち込み、不安やイライラを感じるなど、ストレッサ ーになりうる。同じ出来事を経験したとしても、それがストレスと感じるかどうかには個 人差がある。このような個人差には、「認知的評価」とよばれる出来事のとらえ方の違いが 大きく作用している(坂野,2004)。
認知的評価と同様に、ストレス反応の表出の個人差を説明するもうひとつの重要な要因 として、Lazarus&Folkman(1984)は経験したストレッサーに対してどのように対処する かという「コーピング(対処行動)」をあげている。認知された脅威に対しどのようなコー ピングを選択するかによって反応が決定され、その反応が不適応に結びついた場合、その
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コーピングに問題があったことになる(竹中,1997)。Lazarusらの心理社会的ストレスモ デルによれば、私たちは、困難な場面に遭遇した際に、何らかの対処法によってうまく解 決を図ろうと試みる。しかし、そうした対処法が見つからない場合や、対処は試みたもの の思うとおりの解決に至らない場合、私たちはストレス反応を表出するのである。
Lazarusら(1984)の心理社会的ストレス過程のモデルを図1-1に示した。このストレ
スモデルは、ストレス・マネジメントの観点からも、その過程のどの部分に対してどのよ うにはたらかきかけ、ストレス成立の回路を分断したらよいかの手がかりを明らかにして くれる(竹内,1997)。そこで本研究でも、Lazarus らの心理学的ストレスモデルを基に、
認知的評価とコーピングとの関連に注目し、認知的評価がコーピングの実行にどのような 影響を与えているかについて検討を行っていく。
図1-1 ラザルスとフォルクマンの心理社会的ストレスモデル(1984)
第3節 認知的評価
前述したように、Lazarus ら(1984)によれば、認知的評価とは、「人間と環境との間の特 定の相互作用、または一連の相互作用が、なぜ、そしてどの程度ストレスフルであるかを 決定する評価的な過程」と定義され、ストレッサーに対する脅威性、関係性、ストレス場 面への対処可能性の評価などが含まれている(鈴木・陳・奈良・坂野,1998)。
認知的評価とコーピングの関連については、さまざまな認知的側面がコーピング選択に 影響を及ぼしていることが明らかにされている。たとえば、鈴木・陳・奈良・坂野(1998)
は、職場ストレス場面において個人がどのような認知的評価と対処行動を採用する傾向が あるかを明らかにし、そうした個人差が心理的ストレス反応にどのような影響を及ぼして
ストレッサー
コーピング 認知的評価
(一次的評価・二次的評価)
ストレス反応
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いるかを検討した。その結果、ストレス場面において、「関与・統制型」の認知的評価をし た者は、ストレス軽減に有効なコーピングを採用する可能性が高く、情緒的に安定した状 態を維持することができると考えられるが、「脅威・非統制型」や「無関与型」の認知的評 価をした者は、ストレス反応を高めるような対処行動を採用する傾向が高いことから、結 果的にストレス反応を引き起こしやすい状態にあることを明らかにしている。認知的評価 とストレス反応について、坂野(1995)は、ストレスを感じるかもしれない場面(ストレ ス刺激が存在する場面や状況)を個人がどの程度脅威的であると考えるか、あるいは、個 人がそうした場面でどのような対処ができると考えているかが、その人のストレス反応の 発生に決定的な意味をもっていると述べている。認知的評価がストレス反応に及ぼす影響 についての研究において、ストレッサーに対して脅威性を高く、かつ統制感を低く評価す る者は、強い心理的ストレス反応を表出する傾向にあることが、これまでの先行研究で明 らかにされている(三浦・坂野,1995;鈴木ら,1998)。
このように、認知的評価はどのコーピングを選択するかに影響を与えるとともに、スト レスをどのように認知するかによって、ストレス反応が異なることがこれまでの研究で示 されてきた。坂野(1995)は、認知的側面への介入として、認知の歪みを修正する介入や、
自分の対処法に関する効力感を高め、これまでの失敗経験に対する原因帰属スタイルを修 正する介入が有効であると指摘している。このように認知的評価に着目することは、スト レス・マネジメントにおける具体的な方法についての示唆を与え、ストレスのセルフ・コ ントロールを考えるうえでも大変意義があるものと考えられる。
第4節 コーピング
臨床心理学におけるストレス研究は、心理学的ストレスモデルの鍵概念であるコーピン グを中心に展開されてきた(島津,2009)。加藤・今田(2001)は、Lazarusら(1984)の心 理学的ストレス理論における、コーピングの定義の特徴として以下の3点をあげている。
1.コーピングはコーピング行使の結果にかかわらず、ストレスフルな状況を処理しよう とする努力を意味する。すなわちコーピングには、ストレスフルな状況に対して適応的で あった方略だけでなく、適応的でなかった方略も含まれる。2.コーピングはストレスフ ルな状況に対する意識的努力を意味する。つまり防衛機制のような無意識的な反応や、自 動化された反応はコーピングには含まれない。3.コーピングはプロセスである。コーピ ングは次々と移り変わるプロセスの中で起こる現象であり、そのプロセスのある段階では、
ある特定のコーピング方略を使用するが、他の段階では別のコーピング方略を用いる。コ ーピングは特性ではなく、状況によって変化するプロセスであると仮定されている。
Lazarus&Folkman(1984)は、コーピングを問題焦点型コーピング、情動焦点型コーピ ングの二つに大きく分けて説明している。前者は問題解決行動に代表されるように、直接 ストレスフルな状況に働きかけてそれを変化させようとするものであり、後者はストレス フルな状況そのものを変化させるのではなく、それに対する見方を変えるという認知的再
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評価の過程と同等の機能をもつもので、ストレッサーへの情動的反応を調節するものであ る。これら2つのコーピングに加え、その後のコーピング研究では、嫌悪的な状況から回 避することに焦点をあてた回避型コーピング(Holahan&Moos,1985)についての検討もな され、今日のコーピングに関する研究では、研究者の立場によって分類の仕方もさまざま である。
コーピングとストレス反応との関連を検討した研究では、問題焦点型コーピングが有効 であるのに対し、諦めや思考回避等を行う回避型コーピングは否定的に捉えられることが 多い(三浦・上里,1999;尾関・原口・津田,1991a;神藤,1998)。清水・米山・松尾(2006)
の小学校教師を対象にした研究では、教師のストレスの特徴について調べた結果、逃避し たり回避したりするコーピングスタイルをもつ者はストレス反応の表出が高いという結果 が示された。このように、ストレスへのコーピングとして、回避型コーピングが非適応的 であるという知見が多くみられる。
一方、回避型コーピングの有効性を示している知見も複数ある。加藤(2001)は対人スト レスに関する研究を行い、対人ストレス場面においては、いわゆる「何もしない」にあた る「解決先送りコーピング」によってストレス反応が低減することを明らかしている。ま た、森田(2008)は、ストレス場面を課題場面と対人場面に分けて調査し、対人場面にお いては、回避型コーピングを行うことでストレス反応が低減されたことを示している。さ らに森田(2008)はコーピングの用いられ方に着目し、回避型コーピングは息抜きを意図 して主体的に用いられた時に効果があることも明らかにしている。また、及川(2005)は、
回避的な方略が非適応的だという命題を批判的に検討したうえで、同じ回避方略であって も、目標・意図レベルの回避と行動レベルの回避を分けて検討し、たとえ行動レベルで回 避的な方略であっても、目標レベルで回避的でなければ非適応的にならないことを明らか にしている。
このように、回避型コーピングの有効性に関する知見は一貫していない。少なくとも、
先行研究の結果から言えることは、場面の違いやコーピングを用いる意図によっては回避 型コーピングの有効性が認められる場合があることである。個々の現実場面に即した援助 について考えるとき、1つのコーピングの有効性のみを取り上げることは有益とはいいが たく、場面や状況に応じてコーピングを使いわけることも必要であろう。つまり、より多 くのコーピングの中から、その状況に応じて最適なコーピングを選択し、柔軟に使い分け ることが、ストレスと共存するという視点からみて必要であると考える。実際の臨床場面 を考えると、たとえ問題焦点型コーピングの有効性を認めていても、一人の力では問題に 直面できないほどの深刻なストレスを抱え、回避することでかろうじて毎日をやり過ごし ている人もいる。したがって、先行研究の知見に基づき回避型コーピングの有効性につい て再検証し、効果的なコーピングとしての役割を見出すことは意義のあることと考える。
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第5節 気晴らし
不快な気分を経験している際、他の活動によって不快な気分を紛らわす試みは、スト レス対処研究の文脈において気晴らし(distraction)と呼ばれる(及川,2005)。気晴らし は「他のことを考える、または何かの活動に従事することにより、問題から注意をそらす こと」(Stone&Neale,1984)と定義され、コーピングの一つとして位置づけられている。
さらに気晴らしは、不快な情動に注意を焦点化する考え込み方略に比べ、抑うつに対して 効果的なコーピングであると述べられている(Fennell&Teasdale,1984)。気晴らしは、
日常的に行われている身近なコーピングであると考えられるだけに、効果的な活用に関す る具体的な示唆を得ることは、ストレス・マネジメントの予防的介入としても有用である し、やがては個人レベルでのストレス・マネジメントの一つとして可能性が期待される点 においても、意義があると考える。
Shimazu&Shaufeli(2007)は、問題焦点型コーピングと気晴らしを組み合わせて用いるこ とによって、その後のストレス反応程度がどのように異なるか、1年間の縦断研究によって 検討した。その結果、気晴らしを行うことなく問題解決だけに努力している場合には、そ の後の精神的健康が低下するのに対して、問題解決への努力と気晴らしを組み合わせた場 合には、長期的な精神的健康に結びつくことを明らかにした。
及川(2002)は、適応的な対処方略の使用を促進する介入の示唆を得るために、「どのよ うに気晴らしを行うか」という視点から、気晴らしの意図と結果の多様性に焦点を当てて 研究を行った。(a)気晴らしに集中できないほど気晴らしの結果は悪く、結果が悪いほど 気晴らしへの依存は強まる、(b)気分調節の自信が低いほど気晴らしに集中できず、気晴 らしの結果も悪い、(c)気晴らしの意図には多様性があり、どのような意図をもつかが気晴 らしへの集中や結果に影響する、という仮説を検討するために、気晴らしのプロセスを測 定する質問紙の作成と尺度構成を行い、仮説に基づいたモデル(図 1-2)の構成と共分散 構造分析による検討を行った。その結果、(a)気晴らしに集中できないほど気分悪化が強 まり、気分悪化が強まるほど気晴らしへの依存が強まること、(b)気分調節の自信は気晴 らしへの集中を高め、気分悪化を弱めること、(c)気晴らしの意図には目標明確化志向、気 分緩和志向、無目標という多様性があり、どのような意図で気晴らしを行うかが集中の程 度や結果に影響を及ぼすことが示唆された。プロセスの視点から検討することにより、気 晴らしの依存に至らずに効果的な気晴らしを行うためには、気分調節の自信と集中、目標 明確化志向に注目した介入が有効であることを明らかにした。
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図1-2 気晴らし方略のプロセスに関する因果モデル(及川,2002)
さらに及川(2004)は、情動調節に対する有効性認知に注目し、有効性認知と抑うつと の関連に依存状態の程度がどのような影響を及ぼすかについて検討した。その結果、有効 性認知と抑うつとの関連は依存状態の程度により異なることが示唆され、依存状態の程度 が強まるほど、有効性認知が抑うつの低減を予測する程度が弱まることが示唆された。つ まり、気晴らしに対して有効性を認知していることが効果的な気晴らしへ繋がること、有 効性を高く評価して活用しても、気晴らしへの依存状態が高ければ抑うつが強まる可能性 があることから、効果的な気晴らしを行うためには、有効性認知の程度と依存状態という 両側面からの介入を考えることが重要であることを指摘している。
及川(2002、2004)は、効果的な気晴らしのあり方について、気晴らしの意図、気分調 節の自信、気晴らしへの集中、気晴らしの結果、気晴らしへの依存、有効性認知といった 変数を用いて検討を行った。その結果、気分調節の自信と集中、目標明確化志向に注目し た介入が有効であること、有効性認知の程度と依存状態という両側面からの介入を考える ことが重要であることを明らかにしている。しかし、これまでの先行研究では、気晴らし の有効性や効果的なあり方については示されているが、実際に気晴らし実行にいたってい るか否か、実際にどのような変数が気晴らし実行に影響を与えているかについての検討は 行われていない。いかに気晴らしの効果的なあり方が明らかになったとしても、誰もがど のような状況においても気晴らしを実行するとは限らない。なぜなら、気晴らしは、直接 ストレス状況を改善する方略ではないため、ストレス状況自体に対する対処の必要性が高 い状況では、効果とともに弊害も多いと考えられる(及川,2004)。また、「自分の不快な 気分やその原因から注意をそらすために、他のことをしたり考えたりすること」という気
目標明確化 志向
無目標
気分緩和 志向
気分調節の 自信
気晴らし への集中
目標明確化
気分緩和 気分悪化
気晴らし への依存
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晴らしの定義に従えば、問題から逃げることや解決を諦めることと言いかえることもでき る。例えば、気晴らしをすること自体が問題からの逃避ととらえ、逃避する自分が許せな いという認知を抱く場合、あるいは自分が気晴らしをすることによって何らかの形で周囲 へ悪影響を及ぼすと考えられる場合は、どんなに気晴らしの有効的な活用の仕方を理解し ていたとしても気晴らしを行うかどうかは意見が分かれるところであろう。したがって、
ストレス・コーピングの一つとして気晴らしを活用するために、単に気晴らしの有効性に ついて検証するだけでは十分といえず、気晴らし実行に至る要因、あるいは気晴らし実行 を妨げる要因に関する検討を行うことにより、気晴らし実行についてのプロセスを明らか にしてこそ、実行可能で意義のある示唆を得たといえるのではないだろうか。
第6節 本研究の目的
前述の通り、これまで、気晴らしの有効性や効果的な活用のあり方についての検討がな されてきた。気晴らしは、予防的介入の視点からみても有効なコーピングであると考えら れる。ただ、心理臨床の立場から考えると、有効性を示しただけでは援助として十分とは いえず、気晴らしを「どうしたら活用できるのか」「どうして使えないのか」を明らかにし てこそ、より臨床の場に生かす知見を与えられるものと考える。コーピングについては、
これまで健康心理学や教育心理学の分野において多くの検討がなされてきたが、臨床心理 学の分野でも最近は取り上げられるようになってきた(島津,20009;堀・島津,2007)。
鈴木・神村(2001)は、コーピングの心身に及ぼす効果には、コーピング選択にかかわる 認知的側面が密接に関与すると指摘している。また、コーピングの選択にはさまざまな要 因が関わっており、認知的側面が関与していることも示唆されている(鈴木,2006)。気晴 らしというコーピングの実行に関しても、何らかの認知的要因が関連していることが予想 される。
そこで本研究では、研究1として、ストレス反応とコーピングに関する再検証および気 晴らしへの認知に関する情報を収集すること、研究2では、研究1で得られた結果をもと に、気晴らし実行に関連すると思われる変数を投入したストレス状況場面を設定し、気晴 らし実行に影響を与えている認知について探索すること、研究3では、先行研究および研 究1、2から得られた認知的要因が気晴らし実行に影響を与えているかについての仮説モ デルの検証を通して、気晴らし実行に影響を与える認知について明らかにすること、以上 を検討することを目的とする。及川(2002、2004)は、気晴らしの非効果的な側面として 気晴らしによる依存の状態に着目している。気晴らしへの集中や目標を明確にもって気晴 らしに取り組むことで効果があることなどが明らかにされているが、気晴らし実行に関連 する要因や気晴らし実行の妨害要因については触れられていない。そこで本研究では、効 果的な気晴らしに至る前段階として、どうしたら気晴らしを実行できるのか、逆にどのよ うな要因が気晴らし実行を妨げるのか、気晴らし実行につながるプロセスについて焦点化 して検討を行っていくものとする。
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第2章
研究1 回避型コーピングの有効性の再検証と
気晴らしの認知に関する探索的研究
第1節 問題と目的
臨床心理学におけるストレス研究は、心理学的ストレスモデルの鍵概念であるコーピン グを中心に展開されてきた(島津,2009)。コーピングは、問題や状況を解決するコーピン グ(問題焦点型コーピング)と生じた問題そのものよりは自らの情動を調節するコーピン グ(情動焦点型コーピング)などのいわゆる積極的な方略、そして、問題から逃げたりあ きらめたりするコーピング(回避・逃避型コーピング)のどちらかといえば消極的な方略 に類型化できる(尾関・原口・津田,1991b)。中でも回避的なコーピングは否定的に捉え られることが多く、回避型コーピングを用いるほどストレス反応を増強させる可能性があ ることがこれまでの先行研究で示されている(Carver&Scheier,1994;三浦・上里,1999;
尾関ら,1991b)。
近年、回避型コーピングへの関心が増している。森田(2008)によれば、回避型コーピ ングとは、諦めや思考回避等を行うことをいう。森田(2008)は、回避型コーピングがど のように用いられれば個人の心理的健康を促進し得るかについて、①問題焦点型コーピン グとの組合わせ、②一時的な息抜きを意図して用いられた場合の効果、③積極的取り組み の有害性・無効性の認知をもって回避型コーピングを用いた場合の効果について、それぞ れストレス場面の違いに注目して研究を行っている。そして、「回避型コーピング」「問題 焦点型コーピング」のコーピング尺度、「情動的反応」「認知・行動的反応」のストレス反 応の変化、「息抜きの意図」「積極的取り組みの無効性の認知」からなる「回避型コーピン グの用いられ方」尺度を用いて調査した。その結果、①回避型コーピングは対人場面にお いてはストレス反応を弱めること、②対人場面において、息抜きの意図をもって回避型コ ーピングと問題焦点型コーピングを組み合わせるとストレス反応が低減され、また課題場 面では息抜きの意図は回避型コーピングのみでも効果を発揮すること、③息抜きを意図し て主体的に用いた時に効果があり、積極的取り組みの無効性を認知してどちらかというと 消極的に用いられた場合はストレス反応を増加させうることが明らかになった。また Shimazu & Schaufeli(2007)は、回避型コーピングに含まれるとされる気晴らしに注目 して研究を行っている。気晴らしとは「ストレス経験時に、自分の不快な気分やその原因 から注意をそらすために、他のことをしたり考えたりすること」と定義される(Stone &
Neale, 1984;Nolen-Hoeksema & Morrow, 1991)。気晴らしを行うことなく問題解決だけに 努力している場合、その後の精神的健康が低下するのに対して、問題解決への努力と気晴
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らしとを組み合わせた場合には、長期的な健康に結びついていたとの研究結果を報告して いる。さらに、気晴らしに関する研究として及川(2002)は、気晴らしのプロセスを考慮 することが、介入に際してより具体的な示唆を与えることに繋がると述べている。そして、
気晴らしの意図と結果の多様性に焦点を当て、実際の気晴らしのプロセスについて情報収 集をしたうえで質問紙を作成、実施し、気晴らしのプロセスに関するモデルを構成し、共 分散構造分析による検討を行った。その結果、気晴らしに集中できるほど肯定的な結果が 強まること、気分調節の自信が高いほど結果的によりよい状態で悩みに向き合えること、
どのような意図を持つかが集中の程度や結果に影響することを明らかにした。
以上の先行研究から、①回避型コーピングはストレス反応を弱めるが、ストレッサーの 種類による可能性がある、②回避型コーピングは意図、すなわち「どのように用いられる か」が効果に影響を及ぼす、③コーピングの効果には組み合わせが関係していることが明 らかになったといえる。また、及川(2002)の研究は、単に気晴らしを行うか否か、何の 気晴らしが効果的かに止まらず「どのように気晴らしを行うのが効果的か」に着目し、気 分調節の自信、気晴らしの集中、気晴らしの意図など複数の変数を用い、気晴らしのプロ セスについて示唆を与えた点で意義があるといえる。
しかし、いかにコーピングの有効性を理解できたとしても、それを適切な場面で有効に 活用できるとは限らない。知識として理解することと活用できることとは必ずしも一致し ないことが実際の臨床場面では考えられるからだ。実際ストレス・マネジメントや心理臨 床の立場から考えると、有効性を示しただけでは十分とは言えず、どのように活用するの かまで提示できなければ、介入に際して本当に役立つ示唆を充分に与えているとはいえな い。及川(2002)の先行研究では、効果的に気晴らしできるいくつかの変数について検討 をしているが、介入に際しての示唆は与えていない。回避型コーピングや気晴らしを「ど うしたら活用できるのか」「どうして使えないのか」を明らかにしてこそ、より臨床の場に 生かす知見を与えられるものと考える。例えば、気晴らしに対して「怠けること」「逃げる こと」という認知を抱いていれば、たとえ気晴らしの有効性を理解しどのような意図をも って行ったとしても、罪悪感や後悔の念をいだき、かえってストレス反応を高めるかもし れない。もし、気晴らしに対して、あるいは気晴らしを行う自分に対して否定的な認知を 抱いていたならば、どんなにその有効性が示されたとしても活用にはつながらない。つま り、コーピングを選択する際、及川が指摘した「どのように用いるか」の前に「どのよう なイメージをもっているか」、すなわちコーピングに対してどのような認知を持っているか について検討していくことが必要であり、臨床的な立場から、森田(2008)も同様の指摘 をしている。
以上のことから、本研究では、よりよいストレス・マネジメントを実践していくために、
コーピングの基礎的研究を行い、特に回避型コーピングに含まれるとされる気晴らしに着 目した研究をすすめていく。まず回避型コーピングの有効性を再検証するとともに、回避 型コーピングのうち気晴らしに着目し、気晴らしに対する認知について、探索的に検討す
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ることを目的とする。気晴らしは、誰もが日常的に行っているものであり、それだけに効 果的か否かによっては、良い影響も、逆に悪影響をも与えかねないため、気晴らしに着目 することは意義があると考える。本研究では、先行研究を概観したうえで、①コーピング とストレス反応との関係、②気晴らしの頻度とストレス反応および気晴らしに対する認知 との関連、③気晴らしの意図とストレス反応および気晴らしの頻度との関連、④気晴らし に対する考えの分類、以上4点の検討を通し、回避型コーピングの有効性を検証すること、
回避型コーピングの中でも気晴らしに焦点を当て、気晴らしへの認知に関する情報を収集 すること、以上2つを目的とする。
第2節 方 法
1.調査対象
大学生44名に質問紙を実施した。そのうち有効回答は37名(男性13名、女性24名。
19歳~23歳)であった。
2.手続き
2010年5月中旬、メンタルヘルスに関する講義開始時に質問紙を配布して集団的に実 施し、即時回答、即時回収で行った。
3.質問紙の構成 ①ストレス反応
尾関(1993)の「情動的反応(抑うつ、不安、怒り)」(15 項目)、「認知・行動的 反応(情緒的混乱、引きこもり)」(10項目)、「身体的反応(身体的疲労感、自律神経 系の活動性亢進)」(10項目)を用い、ここ1週間の心と身体の状態や行動を振り返り
「0:あてはまらない」から「3:非常にあてはまる」の4段階で回答を求めた。
②ストレッサー
「現在最もストレスを感じていること」について、1つだけ自由記述を求めた。
③気晴らしの頻度
「気晴らしとはストレス経験時に、自分の不快な気分やその原因から注意をそらす ために、他のことをしたり考えたりすること」と定義を示したのち、最もストレスを 感じていることに対して、“気晴らし”をどの程度行っているかをたずねた。「0:まっ たくしない」から「5:非常によくする」まで6段階で回答を求めた。
④気晴らしの意図
及川(2002)の気晴らしの意図に関する項目(14 項目)について、「0:全くあて はまらない」から「5:非常にあてはまる」まで6件法で評定してもらった。
⑤気晴らしに対する認知
筆者が独自に作成した、気晴らしに対する考え方8項目について、「0:あてはまら ない」から「3:非常にあてはまる」まで4件法で回答を求めた。
⑥コーピング
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森田(2008)の「問題焦点型コーピング」および「回避型コーピング」に相当する 31項目を提示した。「0:全くやらなかった」から「3:いつもしていた」の4段階で 回答を求めた。
⑦気晴らしに関する自由記述
「気晴らしについて、あなたの考えを自由にお書きください」という教示に基づき、
気晴らしについて自由記述を求めた。
④、⑤については、③で「0:まったくしない」と答えた人には回答を求めなかった。他は 全対象者に実施。なお、⑤については、全員に回答を求めるはずが教示の誤りにより一部 を対象に行ってしまった。
第3節 結果
1.ストレッサーの内訳
「強くストレスを感じていたこと」という質問に対する記述内容について分類した結果、
「学業」が16 名(43.2%)、「対人関係」が10 名(27.0%)、「自分の内面について」が 5 名(13.5%)、「その他」が6名(16.2%)であった。
2. コーピングとストレス反応との関連
回避型コーピングと問題焦点型コーピングについて、それぞれ中央値 0.94、1.13 を基準と して高低群に、各群のストレス反応得点を表2-1に示した。問題焦点型コーピング(高・低)
と回避型コーピング(高・低)を独立変数、ストレス反応(情動的反応、認知・行動的反応、
身体的反応)を従属変数とする2要因分散分析を行った。その結果、すべての従属変数に関し て、問題焦点型コーピング、回避型コーピングどちらも主効果は認められなかった(問題焦点 型コーピング F(1,33)=1.26, ns;F(1,33)=1.64, ns; F(1,33)=0.16, ns; 回避型コーピング F(1,33)= 2.32 ,ns;F (1,33)= 0.58, ns;F(1,33)=1.32, ns )。また、問題焦点型コーピングと回 避 型 コ ー ピ ン グ の 交 互 作 用 は 有 意 で な か っ た (F(1,33)=0.09, ns;F(1,33)= 1.62 ,ns; F(1,33)=1.19, ns)。
表2-1 コーピングの種類ごとのストレス反応得点の平均値(標準偏差)
コーピング
N ストレス反応
情動 認知・行動 身体
問題焦点型 高群
回避型 高群 10 0.79(0.79) 0.68(0.80) 0.39(0.48)
回避型 低群 8 1.22(0.89) 1.19(0.84) 0.93(1.09) 問題焦点型 低群
回避型 高群 9 0.59(0.68) 0.68(0.88) 0.56(0.78) 回避型 低群 10 0.88(0.46) 0.55(0.46) 0.57(0.48) 得点範囲は0~3
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さらに、データ数は少ないが、ストレッサーの「学業」を課題場面、「対人関係」を対人 場面とし、ストレス場面ごとのコーピングとストレス反応との関連を表 2-2 に整理した。
データの数が少ないため、統計的な検討は行わないが、課題場面においては、問題焦点型 コーピング高群・回避型コーピング低群はストレス反応の情動的反応、認知・行動的反応、
身体的反応のいずれも相対的に高く、対人場面においては、問題焦点型コーピング高群・
回避型コーピング高群で、同じくいずれのストレス反応も高いという特徴がみられた。
表2-2 ストレス場面別のコーピング種類ごとのストレス反応得点の平均値(標準偏差)
コーピング N ストレス反応
情動 認知・行動 身体
課 題 場 面
問題焦点型 高群
回避型 高群 5 0.44(0.55) 0.40(0.35) 0.32(0.47) 回避型 低群 6 0.94(0.86) 0.97(0.82) 0.68(0.81) 問題焦点型 低群
回避型 高群 4 0.33(0.24) 0.30(0.16) 0.23(0.17) 回避型 低群 1 0.40(0.00) 0.00(0.00) 0.00(0.00)
対 人 場 面
問題焦点型 高群
回避型 高群 2 1.40(1.41) 1.40(1.84) 0.90(0.71)
回避型 低群 0 - - -
問題焦点型 低群
回避型 高群 2 0.37(0.14) 0.35(0.35) 0.30(0.42) 回避型 低群 6 0.73(0.40) 0.65(0.48) 0.63(0.55) 得点範囲は0~3
3.気晴らしの頻度とストレス反応および気晴らしに対する認知との関連
○ストレス反応との関連
気晴らしの頻度とストレス反応との関連を明らかにするために、気晴らしの頻度につい て、中央値2.0を基準として気晴らし頻度0,1,2を低群、3,4,5を高群として分析を行 った。それぞれのストレス反応得点を表2-3に示した。高群の気晴らしの頻度の平均値は 3.94(SD=0.80)、低群の気晴らしの頻度の平均値は1.32(SD=0.82)であった。その後、
それぞれのストレス反応得点を比較検討した。結果、情動的反応、身体的反応において気 晴らし高群が低群よりも有意に低く(t(35)=3.12,p<.01;t(23.80)=2.49,p<.05)、
認知・行動的反応において気晴らし高群が低群よりも低い傾向がみられた(t(27.96)
=1.84,p<.10)。
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表2-3 気晴らしの頻度によるストレス反応の平均値(標準偏差)
気晴らし頻度 N ストレス反応
情動 認知・行動 身体
高 群 18 0.52(0.48) 0.53(0.49) 0.32(0.35) 低 群 19 1.18(0.77) 0.97(0.91) 0.86(0.88) 得点範囲は0~3
○認知との関連
気晴らしの頻度と気晴らしに対する認知との関連を明らかにするために、まず気晴らし の認知に関する8項目それぞれについての度数分布、平均値および標準偏差を求めた(表2
-4)。なお、この分析では、教示の誤りにより回答が得られなかった、気晴らし頻度 0 と 回答した4名は除外し、残りの33名について分析を行った。表2-4を見てわかるように、
項目1は、一つの回答に95%以上が集まり、回答に偏りが見られたため、以下の分析から 除外し、残りの質問項目2から8までの7項目を分析対象とした。
表2-4 気晴らしの認知に関する質問項目の度数分布(%)、平均値、標準偏差
質問項目
度 数 平均値 0 1 2 3 N=33 標準偏差
1. 気晴らしは、怠け者のすることだ 97.0 0.0 3.0 0.0 0.00 0.35 2. 気晴らしは、問題解決にならない 54.5 30.3 9.1 6.1 0.67 0.89 3. 気晴らしは、逃げているだけだ 57.6 33.3 3.0 6.1 0.58 0.83 4. 気晴らしは、気休めに過ぎない 54.5 27.3 6.1 12.1 0.76 1.03 5. 気晴らしをすることは、リフレッシュになる 9.1 15.2 30.3 45.5 2.12 0.99 6. 気晴らしをすることは、負けではない 9.1 15.2 39.4 36.4 2.03 0.95 7. 気晴らしは、無駄だ 87.9 9.1 0.0 3.0 0.18 0.58 8. 気晴らしは、あきらめと同じだ 81.8 15.2 0.0 3.0 0.24 0.61
得点範囲は0~3
筆者が独自に作成した「気晴らしの認知」に関する項目群が、尺度として適切であるか どうかを調べるため、各項目の評定値を項目得点として与え、以下の分析に用いた。まず、
質問項目2から8までの7項目に対して、主因子法、プロマックス回転による因子分析を 行った。質問項目7および8が、第1因子、第2因子両方に高い負荷量を示していたため、
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2つの項目を削除して再び因子分析を行った結果、固有値1以上の因子からなる2因子構造 が得られた(表2-5)。第1因子は、気晴らしは「問題解決にならない」、「逃げているだけ だ」、「気休めに過ぎない」の 3 項目からなり、気晴らしを否定的にとらえる項目によって 構成されており、『否定的認知』と命名した。第2因子は、気晴らしをすることは「負けで はない」、「リフレッシュになる」の 2 項目からなり、気晴らしに関して肯定的にとらえる 項目によって構成されており、『肯定的認知』と命名した。以上の2因子による累積寄与率
は65.76%であった。各尺度と因子負荷量およびα係数を表2-5に示した。各因子のα係
数はそれぞれ.80、.82と高い値が得られ、内部一貫性が高い尺度が得られたといえる。
表2-5 気晴らしに関する項目の因子分析結果回転後の因子パターン
因子 項目 因子負荷量 α
係数 F1 F2
否定的認知
2.問題解決にならない .865 .028
3.逃げているだけだ .802 .105 .80
4.気休めに過ぎない .573 -.287
肯定的認知
6.負けではない .056 .967
5.リフレッシュになる -.014 .725 .82
因子間相関 F1 1
F2 -.423 1
気晴らしの頻度について、中央値(2.0)を基準として気晴らし頻度0,1,2を低群、3,
4,5を高群とし、因子分析の結果得られた2因子それぞれの認知得点を比較検討し、その 結果を表2-6に示した。その結果、否定的認知に関しては、気晴らし高群と低群の間に有 意な差は見られなかったが(t(31)=.14,p<ns)、肯定的認知においては、気晴らし高 群が低群よりも有意に高いという結果が見られた(t(17.85)=2.95,p<.01)。
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表2-6 気晴らし認知因子ごとの
気晴らし頻度高低群間の平均値(標準偏差)の比較
気晴らし頻度 N 否定的認知 肯定的認知
高群 18 0.65(0.74) 2.47(0.44)
低群 15 0.69(0.85) 1.60(1.07)
全体 33 0.67(0.78) 2.08(0.89)
得点範囲は0~3
4.気晴らしの意図とストレス反応および気晴らしの頻度との関連
気晴らしの意図(明確化、無目標、気分緩和)とストレス反応との関連を明らかにする ために、気晴らしの意図について、中央値(3.00,4.00,4.33)を基準として高低群に分け た。その後、それぞれのストレス反応得点を比較した(表2-7)。その結果、無目標とスト レス反応の認知・行動的反応において気晴らし低群が高群より有意に低い傾向が見られた
(t (31)=1.83, p<.10)。また、気晴らしの意図と気晴らしの頻度との関連を検討したとこ ろ、いずれも有意ではなかった(F(1,31)= 0.14 ,ns;F (1,31)= 0.45, ns;F(1,31)=0.07, ns )。
表2-7 気晴らしの意図によるストレス反応および気晴らし頻度の平均値(標準偏差)
得点範囲 ストレス反応:0~3 気晴らし頻度:0~5
5.気晴らしに対する考えの分類
各調査対象者が挙げた気晴らしに対する考えについての自由記述を、1つの内容につき1 枚の紙に転記したところ、全部で52 項目が抽出された。この項目について、KJ法(川喜 田,1967)を用いて分類を行った。その結果、52 項目は、“肯定的評価”、“気分転換への 期待”、“否定的評価”、“問題解決への期待”、“使用法への考え”、“実行妨害要因”、“事後
意図 N ストレス反応 気晴らしの
頻度 情動 認知・行動 身体
明確化 高群 17 0.76(0.65) 0.71(0.66) 0.61(0.77) 2.94(1.30) 低群 16 0.81(0.72) 0.66(0.72) 0.51(0.71) 2.88(1.41) 無目標 高群 19 0.79(0.71) 0.98(0.85) 0.66(0.83) 3.00(1.41) 低群 14 0.79(0.65) 0.50(0.58) 0.42(0.56) 2.79(1.25) 気分緩和 高群 19 0.85(0.73) 0.73(0.80) 0.70(0.89) 2.89(1.24) 低群 14 0.71(0.61) 0.63(0.51) 0.37(0.40) 2.93(1.49)
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評価”の 7 つのカテゴリに分類された。各カテゴリの記述具体例、全体および気晴らし高 低群別の記述数および割合を表 2-8 に示した。大カテゴリでは、A「肯定的評価」が 15 個(28.85%)と最も多く、次にB「気分転換への期待」が13個(25.00%)、C「否定的評 価」8個(15.38%)と続いている。
表2-8 気晴らしに対する考えの各カテゴリと全体
および気晴らし高低群別の記述数・割合
カテゴリ名 記述具体例
記述数(割 合%)
気晴らしの 高低 高群 低群
A 肯定的評価 15(28.85) 9 6
A-1 必要性・有用性 “絶対に必要なもの” 13(25.00) 8 5
A-2 肯定的意味付け “有意義な娯楽” 2(3.85) 1 1
B 気分転換への期待 13(25.00) 6 7
B-1 肯定的気分の獲得 “明るい気持ちをもたせてくれる” 7(13.46) 3 4
B-2 否定的感情の除去 “不安な気持ちを取り除ける” 6(11.54) 3 3
C 否定的評価 8 (15.38) 3 5
C-1 一時的な気休め “問題から逃げる一時的なもの” 5(9.62) 2 3
C-2 解決手段としての不適切性 “問題に向き合うことでのみ解決” 3(5.77) 1 2
D 問題解決への期待 7 (13.46) 4 3
D-1 考え方の変化への期待 “問題解決への勇気が湧いてくる” 5(9.62) 4 1
D-2 状況・行動の変化への期待 “悪い方向に考える状況を変える” 2(3.85) 0 2
E 使用法への考え 4 (7.69) 1 3
E-1 頻度 “適度に行うべきもの” 3(5.77) 1 2
E-2 内容 “熱中できるものなら何でもよい” 1(1.92) 0 1
F 実行妨害要因 3 (5.77) 1 2
F-1 方法 “どうやって気晴らしすればよいかわからない” 1(1.92) 0 1
F-2 時間 “気晴らしの時間すら与えられていない人もいる” 1(1.92) 0 1
F-3 状況 “気晴らしできないほど悩んで苦しんでいる人もいる” 1(1.92) 1 0
G 事後評価 “気晴らしのあと後悔することがある” 2 (3.85) 1 1
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第4節 考察
1. コーピングとストレス反応との関連
本研究では、問題焦点型コーピングと回避型コーピングについて、中央値を基準とし て高低群に分け、回避型コーピング(高・低)と問題焦点型コーピング(高・低)を独立 変数、ストレス反応を従属変数とする 2 要因分散分析を行った。その結果、主効果、交互 作用ともに認められず、コーピングの種類とストレス反応との関連は明確でなかった。
次に、データ数は少ないが、「学業」を課題場面、「対人関係」を対人場面とし、ストレ ス場面ごとのコーピングとストレス反応との関連について調べた。まず、ストレス場面と コーピングとの関連に注目すると、問題焦点型コーピング高群は課題場面をストレッサー として回答している人が多いのに対し、問題焦点型コーピング低群は、対人場面をストレ ッサーとしてあげている人が多かった。このことから、課題場面をストレスと感じる人は 問題焦点型コーピングを選択し、対人場面をストレスと感じる人は問題焦点型コーピング を選択していない可能性が考えられる。また、ストレス場面ごとのコーピングとストレス 反応との関連について森田(2008)と本研究とを比較すると、森田(2008)は、課題場面 では回避型コーピングがストレス反応を増加させ、対人場面では回避型コーピングがスト レス反応の低減に有効であることを示したのに対し、本研究では課題場面では問題焦点型 コーピング高群・回避型コーピング低群のストレス反応がいずれも相対的に高く、対人場 面では、問題焦点型コーピング高群・回避型コーピング高群で同じくいずれのストレス反 応も高いという特徴がみられた。森田(2008)は回避型コーピング低群については分析対 象としていないので課題場面については比較できないが、対人場面に関しては異なる結果 が示されたといえる。少なくとも、ここでは場面によって有効なコーピングが異なること が示唆されたと言えるだろう。
さらに、森田(2008)の先行研究では、対人場面に関して、認知・行動的反応の変化を 従属変数とする分析で、回避型コーピングと問題焦点型コーピングの交互作用に有意な傾 向が見られたが、課題場面では有意な差は見られなかった。本研究では、主効果、交互作 用ともに認められず、対人場面では異なる結果であったが課題場面では森田と同様の結果 であった。データの内訳を見ると、対人場面では、問題焦点型コーピング高群に属する人 が2名に対し、問題焦点型コーピング低群に属するものが8 名と偏りが見られた。また、
課題場面をストレッサーと回答する人が多かったことも有意な差が見られなかった要因と いえるだろう。
コーピングとストレス反応との関連については、回避型コーピングがストレス反応に影 響を与えているという見方だけではなく、ストレス反応が高いからこそ問題に向き合うこ とができずに回避型コーピングを選択している可能性も考えられ、双方向の視点からとら える必要があると思われる。また、森田(2008)は一時点のストレス反応ではなく、コー ピングを用いる前後でストレス反応がどのように変化したかに着目しているが、森田のよ うにコーピングを用いたことによるストレス反応の変化という視点で捉えることも必要で