北部ラガの人生儀礼における贈与交換
著者 吉岡 政?
雑誌名 国立民族学博物館研究報告
巻 20
号 4
ページ 671‑717
発行年 1996‑03‑29
URL http://doi.org/10.15021/00004177
吉岡 北部 ラガの人生儀 礼におけ る贈与交換
北 部 ラガの人 生儀 礼 に おけ る贈 与 交 換 吉 岡 政 徳*
On Gift-Exchange in the Life-Cycle Rituals of North Raga
Masanori YOSHIOKA
The aim of this article is to clarify the system of gift-exchange found in the life-cycle rituals of North Raga, the northern part of Raga (Pentecost) Island in Vanuatu in Melanesia. Although ethnographical data on North Raga were collected by Codrington and Rivers, they were sporadic and the details of the life-cycle rituals in North Raga have not previously been described. In this article, I present ethnographical data on birth rites, marriage rites, as well as on funeral rites, based on my field research. I was engaged in field work in North Raga in 1974, from 1981 to 1982, in 1985, in 1991 and in 1992.
In North Raga life-cycle rituals, we find various forms of gift-ex- change which can be broadly classified into three categories, tabeana, vuro, and mwemwearuvwa. Tabeana is a gift such that a counter-gift is, people say explicitly, not-necessary. We are able to assert that the thing which is given as tabeana does not have the "hau" in the sense of Mauss' thesis. In other words, the tabeana gift does not produce a debt-feeling on the side of the gift-receiver.
In contrast to tabeana, vuro seems to have the opposite character.
Vuro is a gift which is given voluntarily and is regarded as a kind of aid.
However the literal meaning of vuro is "debt" and it is said to be obligatory for a vuro-receiver to give back something of the same value as vuro to the vuro-giver at some time.
Mwemwearuvwa is the medial concept between tabeana and vuro.
For something given as mwemwearuvwa, people expect a counter-gift.
It is "expected" but not demanded. People say that a man had better give back something of the same value to the giver if he remembers it
神戸大学,国 立民族学博物館併任Key Words : North Raga, life-cycle ritual, gift-exchange, counter-gift, reciprocity キ ー ワ ー ド:北 部 ラ ガ,人 生 儀 礼,贈 与 交 換,お 返 しの 贈 与,互 酬 性
国立民族学博物館研究報告 20巻4号
after several years. In actual life, some people who receive mwemwearuvwa think of it as vuro, while others receive it as tabeana.
These three concepts of gift in North Raga are obviously related to Sahlins' generalized reciprocity and balanced reciprocity. In this article, I discuss the system of gift-exchange and clarify the North Raga concept of gift in due consideration of Sahlins' concepts of reciprocity.
は じめ に 1北 部 ラガ 2 誕 生 と誕 生 儀 礼 3婚 姻 儀 礼前 日 4 婚 姻 儀 礼 当 日
5 死 と葬 送 儀 礼
6 親 族 間 の 贈 与 交 換一 分 析 7 お返 しが 期 待 され るマ ッ トの贈 与 8 お返 しが 期 待 され る豚 の贈 与 お わ りに
は じ め に
本 論 の 目的 は,ヴ ァ ヌ ア ツ 共 和 国 ・北 部 ラ ガ 社 会 の 人 生 儀 礼 に 関 す る 民 族 誌 的 デ ー タ を 提 示 し,そ こ に 見 られ る 交 換 の あ り方 を 分 析 す る こ と に あ るi)。北 部 ラ ガ に 関 す る 民 族 誌 的 デ ー タ は,コ ド リン トンや リ ヴ ァ ー ズ に よ っ て そ の 一 部 が 提 示 さ れ て い る [CODR‑NGTON 1885,1891;RIVERS 1914】。 し か し,こ れ ら 先 駆 者 達 の 記 述 は 断 片 的 で あ り,北 部 ラ ガ に お け る 人 生 儀 礼 の 詳 細 な 姿 は 現 在 に 至 る ま で 明 ら か に は な っ て い な い 。 こ う した 状 況 を 踏 ま え,本 論 で は,筆 者 自 身 の フ ィ ー ル ド ・ワ ー ク に よ っ て 収 集 した 北 部 ラ ガ の 誕 生 儀 礼,婚 姻 儀 礼,葬 送 儀 礼 に 関 す る 民 族 誌 的 デ ー タ を 提 示 す る。
筆 者 の フ ィ ー ル ド ・ワ ー ク は,1974年 か ら1992年 の 間 に5次 に 渡 っ て 実 施 さ れ た2)0 そ の18年 間 の 間 に,人 々 の 生 活 は 多 大 な 変 化 を 被 っ て い る 。 政 治 的 に は,1980年 の 独 立 が 最 も大 き な 変 化 で あ った 。 ま た,こ の18年 の 間 に,北 部 ラ ガ に は 新 た に 空 港 が 建 設 さ れ,セ カン ダ リ ー ・ス ク ー ル が 開 校 され,そ して,行 政 庁 の 建 物 が 建 設 さ れ た 。
1) 本論 は,1994年 に東 京 都 立 大 学 に 提 出 した博 士 論 文 『メ ラ ネ シ アの 位階 階 梯 制 社 会一 北 部 ラ ガに お け る親 族 ・交 換 ・リー ダ ー シ ップ』 の第2章 第4節 及 び 第5節 を修 正 した うえ, 加 筆 した もの であ る。
2)筆 者 の ヴ ァ ヌア ツで の フ ィー ル ド ・ワ ー クの 実施 期 間 は 以 下 の通 りであ る。第1次 調 査 は, 1974年8月 か ら12月 にか け て,第2次 調 査 は,1981年4月 か ら1982年3月V'か け て,第3次 調 査 は1985年8月 か ら10月 にか け て,第4次 調 査 は1991年7月 か ら9月 に かけ て,第5次 調 査 は1992年7月 か ら10月 に か け てで あ る。北 部 ラガ の村 落 に は,通 算17ケ 月滞 在 し,そ れ 以 外 の期 間 は,基 本 的Y'都 市部 在 住 の北 部 ラガ 出 身老 を 対 象 に 調 査 を行 って い る。
吉岡 北部 ラガの人生儀礼V̀ け る贈与交換
北 部 ラ ガ以外 の地 域 か ら人hが 流 入 す る よ うに な り,1974年 当時 と較 べ る と,1992年 では 人 々を取 り巻 く世 界 に対 す る認 識 が大 き く変 化 して い る。 日常 生 活 に お いて も, 確 か に,国 家,学 校,教 会,貨 幣 な どの 占め る位 置 が,よ りは っ き りと意 識 され る よ
うに な って きて い る。 と ころが,そ うした 変 化 に もか かわ らず,親 族 ・婚 姻 関 係 や 儀 礼 な ど,人 々 が カス トム(kastom)と 呼 ぶ 「伝 統 的 慣 習 」 に 関 して は,こ の18年 の 間 に ほ とん ど変 化 を 見 せ て い ない3)0例 えぽ,儀 礼 の 中で 使 用 され る物,そ の 意 味 付 け,交 換 され る物,さ らに は,交 換 され る場 合 の レー トさえ も,変 化 を 見 せ てい ない の であ る。
筆 者 の フ ィール ド ・ワー クが最 も長期 に渡 った の は1981年 か ら1982年 に かけ て の調 査 であ り,こ の時 点 の デ ー タが 最 も豊 富 に蓄 積 され て い る。そ こで,本 論 では 「現在 」
と表 記 した 場 合,基 本 的 に は1981年 一82年現 在 を意 味 す るが,そ の状 況 は1974年 か ら 1992年 まで共 通 に 見 い だ せ る も ので もあ る と理 解 して い た だ きた い。 た だ し,そ れ ぞ れ の デ ー タが 食 い違 い を 見 せ る場 合 は,そ れ に年 号 を 付 して 区分 す る こ とにす る。 ま た,「 現 在 」 と対 比 す る形 で 「かつ て」 とい う表 記 が しぽ しば 登 場 す る。 これ は,北 部 ラ ガの 人 々 自身 が 「か つ て」 あ るい は 「昔 」 と考 えて い る時 点 を示 す もの であ る。
さ て,北 部 ラガ にお け る誕 生儀 礼,婚 姻 儀 礼,葬 送 儀 礼 に お い ては,特 定 の親 族 の 間 で様 々な贈 与 交 換 が 展 開 され る。 本論 で は,こ れ らの儀 礼 に おけ る親族 間 での 交 換 を,人 が生 まれ てか ら死 ぬ まで の間 に 見 い だせ る連 続 した贈 与 交 換 と捉 え,そ の や り 取 りの あ り方 を抽 出す る。また,そ れ らの贈 与 交換 は,「お返 しの必 要 の な い贈 与 」「お 返 しが必 要 な贈 与 」 「お 返 しが 期待 され る贈 与 」 に 区分 され る。 これ らは,サ ー リソ ズ の提 示 した三 つ の交 換 の あ り方,す なわ ち,一 般 的 互 酬 性,均 衡 的 互 酬 性,否 定 的 互 酬 性 の うち,一 般 的 互 酬 性 と均 衡 的 互 酬 性 に 関 す る もの で あ る[SAHLINS 1972】。 本 論 では,こ う した 点 に 留 意 しなが ら,特 に 「お返 しが 期待 され る贈 与 」 とは ど の よ
うな もの か,そ れ は,他 の 二 つ の形 態 と ど う重 な り,ま た異 な るの か を考 察 してい く。
1北 部 ラ ガ
北 部 ラ ガ と い うの は,メ ラ ネ シ ア の ヴ ァ ヌ ア ツ共 和 国 に 属 す る ペ ソ テ コ ス ト島(ラ 3) カ ス トム とい うの は,ヴ ァ ヌア ツ共 和 国 の 国 語 とな っ て い る ピジ ソ語 で,「 伝 統 的 な慣 習, 伝 統 的 な世 界 」 を 指す 。 もち ろ ん,人 々が 「伝 統 的 」 と考 えて い る もの は,必 ず し もそれ が 西洋 世 界 との 接触 以前 の歴 史 的 な 出来 事 を 指 す とは 限 ら な い。 しか し,カ ス トム とい うの は, 西洋 世 界 との 接 触 以後 入 って き た 国家,学 校,教 会,貨 幣 経 済 な ど 「新 しい 世 界 」 の対 立 概 念 と して用 い られ て お り,人 々 は意 識 の 中 で は,伝 統的 な世 界 と新 しい 世 界 とが バ イ ・カ ル チ ュラ ルに 対 処 され てい る とい え よ う。
国立民族学博物館研究報告 20巻4号 ガ 島)北 部 を 指 す 。 メ ラ ネ シ ア は 言 語 単 位 の 小 さ な と こ ろ で あ る が,ペ ソ テ コ ス ト島 内 で も 北 部,中 部,南 部 で 言 語 が 異 な り,北 部 で は ラ ガ 語 が 話 され て い る。 人 口 は 約 3000人 で,ほ と ん どが キ リスF 徒 で あ る4)0人hは,焼 畑 農 耕 に よ っ て ヤ ム イ モ や タ ロイ モ な ど を 生 産 す る 農 耕 民 で あ り,家 畜 と し て は,豚,鶏 を 飼 育 して い る。 西 洋 と の 接 触 以 降 に 入 っ て き た 牛 の 放 牧 を 行 っ て い る者 も比 較 的 多 く,牛 肉 が 饗 宴 で 食 さ れ る こ と は しば しば あ る 。 ま た,コ シ ョ ウ科 の 灌 木 で あ る カ ヴ ァ{malogu)の 樹 液
が,嗜 好 品 と し て 飲 用 さ れ て い る 。
北 部 ラ ガ の 社 会 組 織 は,そ の 分 節 構 造 に 特 徴 が あ る 。 人hは,ま ず タ ビ(Tabi), 及 び プ レ(Bute)と 名 付 け ら れ た 外 婚 的 な 母 系 半 族 に 区 分 され る 。 これ ら の 半 族 は,
そ れ ぞ れ さ ら に 四 つ の 名 付 け ら れ て い な い 下 位 集 団 に 分 か れ る 。 こ こ で は,こ れ ら の 集 団 を ク ラ ス タ ー と呼 ぶ 。 ク ラ ス タ ー は 全 部 で 八 つ 存 在 す る こ と に な る が,こ れ ら の 集 団 は 帰 属 の 点 で は 母 系 で あ る 。 各 ク ラ ス タ ー は,さ らに,た く さ ん の 名 付 け ら れ た 親 族 集 団 か ら 構 成 され て い る 。 帰 属 の 点 で 母 系 の これ ら の 親 族 集 団 は,北 部 ラ ガ の 社 会 組 織 に お け る 最 小 の 単 位 で あ り,土 地 所 有 の 単 位 と もな っ て い る 。 各 ク ラ ス タ ー に 含 ま れ る 複 数 の 親 族 集 団 は,神 話 の 中 で そ の 関 連 性 が 語 ら れ て お り,人 々 の 意 識 で は, 同 じ ク ラ ス タ ー に 属 す る こ れ ら 親 族 集 団 は,互 い に 「同 じ」 で あ る と 見 な され て い る 。 そ し て,あ る 親 族 集 団 の 成 員 は,同 一 の ク ラ ス タ ー に 帰 属 して い る 他 の 親 族 集 団 の 土 地 を,自 由 に 利 用 す る こ とが 出 来 る の で あ る[吉 岡 1985,1988】 。
親 族 名 称 は,参 考 の た め,そ れ ぞ れ の 名 称 が 指 し示 す 系 譜 的 関 係 と並 べ て 表1に 示 し て あ る 。 参 考 の た め と述 べ た の は,北 部 ラ ガ の 名 称 体 系 の 特 徴 は,各 名 称 が 系 譜 関 係 に よ っ て で は な く,社 会 組 織 に よ っ て 規 定 さ れ て い る か ら で あ る。 図1は,親 族 名 称 と社 会 組 織 の 関 係 を 示 して い る が,そ こ か ら,自 己 の 半 族 の 人 々 は 半 族 単 位 で 名 称 が 適 用 され る の に 対 し て,反 対 半 族 の 人 々 は ク ラ ス タ ー単 位 で 名 称 が 適 用 さ れ る と い う こ と が 分 か る 。 例 え ぽ,チ チ(ta〃1Qは,実 の 父 が 帰 属 す る ク ラ ス タ ー の 男 性 成 員 全 員 に 適 用 され る 名 称 で あ り,母 方 オ ジ(tarabe)は,自 己 の 半 族 で 自 己 よ り1, な い し は3世 代 上 の 男 性 全 員 に 適 用 さ れ る 名 称 で あ る。 しか し,こ こ で 注 意 せ ね ば な ら な い の は,こ の 母 方 オ ジ と分 類 さ れ る男 性 が 帰 属 し て い る ク ラ ス タ ー に よ っ て,反 対 半 族 に 属 す る そ の 息 子 が,自 己 の チ チ(to〃1R)と 分 類 され た り,シ ビ(sibi)と 分 類 さ れ た り,コ ドモ(nitu)と 分 類 さ れ た り,マ ソ ビ(mabi)と 分 類 さ れ た りす る と い う こ と で あ る 。 表1か ら は,自 己 の 「母 方 オ ジ の 息 子 」 は 自 己 の コ ドモ に な る と い う結 論 が 導 き 出 せ る が,そ れ は,母 方 オ ジ が,自 己 と 同 じ ク ラス タ ー に 帰 属 して い る
4) 1989年 の国 勢 調 査 に よる。
吉岡 北部 ラガの人生儀礼 におけ る贈与交換
表1 親族 名称
親族名称 日本語訳 系譜 的関係
tama チ チ F,FZS, FZDS, DH(w.$)
vwavwa 父 方 オ バ FZ, FZD, FZDD, DHZ(w.$)
●
nitu コ ドモ C,MBC, MMBC, WMB, WM
ratahi ノ 、 ノ 、 M,MMM
tarabe 母 方 オ ジ MB, MMMB
aloa シ マ イ の コ ドモ ZC(m.$)
tua キ ョ ウ ダ イ,シ マ イ** B(m.$),Z(w.$)
hogosi シ マ イ,キ ョ ウ ダ イ** B(w.s),Z(w.s)
tuaga 年 長 の キ ョ ウ ダ イ シ マ イ eB, eZ, MMB, MM tihi 年 少 の キ ョ ウ ダ イ シ マ イ yB, yZ, SC(m.$)
sibi シ ビ MF, MFZ, MFZC, MFZDC, ZH, ZHZ, H, HB
mabi マ ソ ビ DC(m.$),MBDC, MMBDC, WB, W, MBWB,
MBW bwaliga ノミ リ ガ 噛 WF, DH(m.$)
whoa 夫 H
tasala 妻 W
*(w .s.)は話者が女性 である場合を示 し,(m.s.)は 話 者 が 男性 であ る場 合 を示 す 。
**話 者 が 男 性 の場 合 は 左 側 の 訳 を ,女 性の場 合には右側 の訳を適用す る。
場 合 だ け で あ る5)。
こ の 様 な 親 族 名 称 体 系 は さ ら に,ユ ニ ー ク な 婚 姻 規 制 と連 動 して,北 部 ラ ガ 社 会 を 独 自 の 存 在 に して い る。 婚 姻 規 制 と は,「 男 子 は そ の マ ソ ビ と 結 婚 せ ね ぽ な ら な い 」 と い う も の で あ る 。 こ の 社 会 は 規 定 婚 の 社 会 で あ り,少 な く と も ル ー ル の 上 で は,男 性 は マ ン ビ と分 類 さ れ る 女 性 の 誰 か と し か 結 婚 で き な い 。 そ の 意 味 で,男 性 に と っ て
の マ ン ビ は 潜 在 的 配 偶 者 と い う こ と に な る。 しか し,こ の 婚 姻 規 制 は,ク ラ ス タ ー と の 関 連 で 考 え る と お も しろ い 現 象 を 生 み 出 す 。 あ る 男 性 の 潜 在 的 配 偶 者 ・マ ソ ビは, そ の 男 性 と 反 対 側 の 半 族 に 帰 属 し て お り,彼 女 の 父 親 は,そ の 男 性 と 同 じ半 族 に 帰 属 し て い る こ と に な る 。つ ま り北 部 ラ ガ で は,男 性 に と っ て,同 じ半 族 の 別 の ク ラ ス タ ー の 男 性 の 娘 が マ ソ ビ で あ り,そ の 内 の 誰 か と 結 婚 す る の で あ る 。 一 方,後 者 の 男 性 は 前 者 の 男 性 の 娘 を マ ソ ビ と分 類 す る。 従 っ て,こ こ に 同 じ半 族 の 男 性 同 士 の 間 で の 娘 交 換 が 成 立 す る こ とY'な る の で あ る 。 こ の 男 性 両 者 の 関 係 が,バ リガ(bwaliga)と い う親 族 名 称 で 表 さ れ て い る(図2)。
と こ ろ で,北 部 ラ ガ で は 系 譜 的 な 関 係 と類 別 的 な 関 係 を 区 別 す る 限 定 的 表 現 が 存 在 す る 。そ れ は,「 本 当 の,実 の(〃twasin)」 と い う表 現 で,例 え ば 〃i wasin tarabeku(私
5) 親 族 関 係 に つ い て の詳 細 は,拙 稿1985年,1988年 参 照。
国立民族学博物館研究報告 20巻4号
図1 親 族 名 称 と ク ラス タ ーの 関 係
の 実 の 母 方 オ ジ)と い っ た 場 合 は,こ れ は 明 確 に 母 の 兄 弟 と い う系 譜 関 係 に あ る 人 物 を 意 味 し て い る 。 こ れ に 対 し て,類 別 的 な 関 係 を 示 し た い と き は,親 族 を 意 味 す る Navaが 用 い ら れ る 。 Navaと い う の は,同 じ半 族 の 成 員 を 指 す 場 合 も あ る が,多 く の 場 合 は 同 じ ク ラ ス タ ー の 成 員 を 指 す 。 例 え ば,havan tarabeku(私 の 母 方 オ ジ の 親 族)
図2 バ リガ関 係
と い え ば,「 実 の 母 の 兄 弟 以 外 で,私 の ク ラ ス タ ー に 属 す る1世 代 か3世 代 上 の 男 性 」 を 意 味 す る の で あ る。 本 稿 で は,こ う した 北 部 ラ ガ 自身 の 用 法 に 従 い,以 下 で は,「 本 当 の 」 親 族 関 係 と 「類 別 的 」 親 族 関 係 を 区 別 して 用 い る 。 つ ま り,「(私 の)実 の 父 」
と い った 場 合 は,〃awasin to〃to(gu)の こ と で あ り,
「(私 の)類 別 的 父 」 と い っ た 場 合 は,havan tama(gu)を 意 味 す る 。 ま た,本 当 の 関 係 と類 別 的 関 係 を 区 別 す る 必 要 の な い 場 合 の 親 族 関 係 は,表1 で 示 した 親 族 名 称 の 訳 を 用 い る こ とに す る。つ ま り,
吉岡 北部 ラガの人生儀礼における贈与交換
「実 の 父 」 と 「類 別 的 父 」 の 区 別 を す る必 要 の な い と き は,チ チ と 表 現 す る と い う こ と で あ る 。
さ て,北 部 ラ ガ社 会 に お け る 伝 統 的 政 治 体 系 は,位 階 階 梯 制 と い うべ き も の で あ る。
位 階 階 梯 制 と い うの は,一 定 の 功 績 を あ げ る こ とに よ っ て 階 梯 を 登 っ て い く シ ス テ ム で,北 部 ラ ガ の 場 合,ボ ロ ロ リ(bolololi}と 呼 ぼ れ る儀 礼 で,豚 を 殺 し,様 々 な エ ン ブ レ ム を 豚 を 支 払 っ て 購 二入 し て い く こ と に よ り,階 梯 を 登 っ て い く。 階 梯 が 上 に い け ぽ い く ほ ど,よ り価 値 の 高 い 豚 を よ り多 く殺 す こ とが 要 求 され る 。 ま た,そ れ ぞ れ の 階 梯 に い る 間 に 購 入 せ ね ば な ら な い と され る 各 種 の エ ソ ブ レム も,階 梯 が 高 く な る と,そ の 支 払 い は 大 き な も の と な る 。 し か し,こ れ ら を 克 服 し て 最 上 階 梯 に 到 達 し た 者 は,ラ タ ヒ ギ(ratahigi)と 呼 ぼ れ る 伝 統 的 な 政 治 的 リ ー ダ ー と な る 。 国 家 行 政 が 完 成 しつ つ あ る 現 在 で も,彼 ら は 伝 統 的 慣 習 に 関 し て 大 き な 発 言 力 を も っ て い る の で あ る 【吉 岡 1983a,1983b,1984,1993,1995】 。
位 階 階 梯 制 で 重 要 な 役 割 を 演 じ る 豚 は,北 部 ラ ガ 社 会 に お け る 最 も 貴 重 な 伝 統 的 交 換 財 で あ る。 近 年 は 貨 幣 経 済 の 浸 透 か ら現 金 の 流 通 が 目だ っ て き た が,そ れ で も村 落 内 部 で は,現 金 と平 行 し て,豚 が 様 々 な支 払 い に 用 い ら れ て い る 。 雄 豚 に は 牙 が 生 え る が,そ の 牙 が 大 き い ほ ど 価 値 は 高 い 。 主 要 な 豚 の 種 類 と 等 級 は 表2に 示 して あ る 。
「種 類 と 名 称 」 の 欄 に は 番 号 付 き の 名 前 を 挙 げ て あ る が,番 号 が 大 き い ほ ど 牙 の 大 き な 豚 を 示 し て い る 。 「等 級 」 と い うの は,同 等 の 価 値 が あ る と 見 な さ れ る い く つ か の 種 類 を ま と め た 通 称 で,例 え ぽ,種 類9の ボ リ ヴ ォ ア も,10の ボ ヘ ー レ も,11の ボ ビ ビ ア も,「 こ れ は ボ ビ ビ ア で あ る 」 と い う こ と が 出 来 る し,交 換 で ボ ビ ピ ア が 要 求 さ れ た と き は,こ れ ら三 つ の 種 類 の ど れ か を 提 供 す れ ぽ よい の で あ る。
豚 と 並 ん で,も う一 つ の 伝 統 的 交 換 財 を 構 成 す る の が パ ソ ダ ナ ス 製 の マ ッ トで あ る 。 そ れ は,白 っ ぽ い マ ッ トと そ れ を 赤 く染 め た マ ッ トに 区 分 で き る 。 交 換 財 と して 重 要 な の は 後 者 の 方 で,そ れ は さ ら に 長 さ4m,幅lmも あ る 大 き な 赤 大 マ ッ ト(bwan me〃zea)と,長 さ150 cm,幅25 cm程 の 小 さ な 赤 小 マ ッ ト(bari me〃zea)Yこ 区 分 さ れ
る 。 こ れ ら の 赤 く染 め た マ ッ トは,豚 と共 に 日 常 や 儀 礼 で の 支 払 い に 用 い ら れ る 。 例 え ぽ,家 を 建 て て も ら っ た とす る と,そ の お 礼 は,豚 か マ ッ トで 行 う こ と に な る 。 豚 に な る か マ ッ トに な る か は,家 の 建 築 を 請 け 負 っ た 人 物 の 希 望 に 応 じて 変 わ る 。 赤 大 マ ッ ト1枚 は,赤 小 マ ッ ト10枚 と 交 換 可 能 で あ る と され て い る が ,こ れ らマ ッ トと豚 も 交 換 可 能 で あ る 。 婚 姻 儀 礼 の 中 に,リ ソ ギ リ ソ ギ ア ー ナ(liniliniana)と 呼 ぼ れ る 場 面 が あ る が,こ こ で 豚 と マ ッ トが 交 換 さ れ る6)。 そ の と き の だ い た い の 目安 を 表2
6) ラ ガ 語 を 表 記 す る場 合 に は,実 際 に 用 い ら れ て い る 綴 り字 を 採 用 し て い る 。 な お,/
国立民族学博物館研究報告 20巻4号
表2豚 の種類 と等級
等級 と通称 種類 と名称 名称 の意味 等 価 の マ ッ ト
Aウ ドウル グ 1ラ ホ ア(lahoa:lahoa=睾 丸) 生 まれたぼか りの睾丸のあ
(udurugu) る豚
2ボ ト ゥ グ ア ー ナ(botuguana:bo=豚, ロ ー プでつ ない で 飼 育 す る
tugu=・ 一 ブ で つ な ぐ) 豚 赤 大 マ ッ ト1
3ウ ド ゥル グ(udurugu:duru=塞 ぐ) ど こへ で も うろつ く豚 4ウ ド ゥル バ シ ガ(udurubasiga: バ シ ンナ(basina)の 生 え
basina=上 顎 か ら牙 状 に 生 え る歯) て きた豚
Bボ ロ ル フ ァ ガ 5ボ ロ ル フ ァ ガ(bololvaga:lol vana= 牙が 口の中にある豚 (bololvaga) 口 の 中)
6ラ ン フ ォ ノ シ ア (lanvonosia:lano= ハ エ が 留 ま る と見xな くな 赤 大 マ ッ ト2+
ハ エ,vonosia=そ れ に 留 ま る) る程牙の小さな豚 赤 小 マ ッ ト5又 は10
7ボ ガ ン ニ(bogani:gani=食 べ る) エサを食べると牙が見xる
豚
Cタ フ シ リ 8タ フ シ リ(tavsiri:tai=切 る, siri= 牙が上唇を突 き破 る豚 赤 大 マ ッ ト3+
(taysiri) 引 っか く) 赤 小 マ ッ ト10
Dボ ビ ビア 9ボ リ ヴ ォア (bolivoa:livo二 牙) 牙のあ る豚
(bobibia) 10ボ ヘ ー レ(bahere:here=風 が吹 い て 何か がゆ れ る)
11ボ ビ ビア(bobibia:bibia=到 着 す
風が吹 くと頬髪 が当た る程 延びた牙を もつ豚 牙が曲が って頬 に到達 した
赤 大 マ ッ ト4+
赤 小 マ ッ ト10
る) 豚
Eマ ン ブ ー 12リ フバ ンバ ン ナ(livbwanbwana: 不 明
(mabu} bwana=赤 大 マ ッ ト) 赤 大 マ ッ ト5+
13マ ン ブ ー(mabu:mabu二 休 む) 牙が 曲が って下顎 の骨 で止 赤 小 マ ッ ト10 まる豚
Fリ ヴ ォア ラ 14ブ イ モ シ(hujmosi:hui=骨, mosi= 牙が下顎の骨の中に入 った
(livoala) 突 き破 る) 豚
15ン ゴ ー レ テ ィ リギ(goletirigi:gole= 再 び骨か ら牙が少 し出てき赤 大 マ ッ ト6+
準備 す る,tirigi=小 さい) た豚 赤 小 マ ッ ト10
16ン ゴ ー レ ラ ヴ ォ ア(golelavoa: 再び骨か ら牙が大き く出て
lavoa=大 き い) きた豚
に 示 して あ る。 そ の と き の 交 渉 次 第 で は 交 換 レ ー トも 変 化 す る が,基 本 的 に 表2で 示 し た もの に 沿 っ て 交 換 が 行 わ れ る 。 そ して,日 常 生 活 の 支 払 い で も ほ ぼ 表2の 相 場 に 則 っ て 行 わ れ る。
豚 とマ ッ ト と い う二 種 類 の 交 換 財 が,様 々 な 儀 礼 で 様 々 な や り方 で 贈 与 さ れ る の で あ る が,「 は じめ に 」 の と こ ろ で 述 べ た よ う に,そ れ ら は 「お 返 し の 必 要 の な い 贈 与 」
\linilinianaに お け るriは 回 と発 音 す る。 また,後 に登 場 す るが, gは 【og]と発 音 す る。
吉岡 北部 ラガの人生儀礼 におけ る贈与交換
「お 返 し が 必 要 な 贈 与 」 そ して 「お 返 しが 期 待 さ れ る贈 与 」 に 区 分 され る 。 そ れ ぞ れ タ ベ ア ナ(tabeana),プ ロ(vuro),メ メ ア ル フ ァ(〃z we〃iwearuvwa)と 呼 ば れ て い る が,こ こ で 簡 単 に そ れ ら の 概 念 を 紹 介 して お こ う。
タ ベ ア ナ と い う の は,モ ー ス の い う よ う な 「返 礼 の 義 務 」 を 伴 う贈 与 で は な く
【MAuss 1968:159】,人 々 が 明 確 に 意 識 し て 「お 返 し が 必 要 な い 」 と捉 え て い る 贈 与 で あ る 。 何 か を タ ベ ア ナ と して も ら っ た な ら ぽ,お 礼 の 言 葉 を い うだ け で よ い 。 そ の お 礼 の 言 葉,す な わ ち,「 あ りが と う」 を 意 味 す る ラ ガ 語 も,タ ベ ア ナ な の で あ る 。 タ ベ ア ナ と し て も ら っ た 物 は,そ れ 自 体 が モ ー ス の い うハ ウ を も っ て い る(負 債 を 生 み 出 す)と は い い 難 い 。つ ま り,タ ベ ア ナ は,そ の 物 に 見 合 っ た 物 を お 返 しす る とか, 物 を も ら っ た か ら 別 の 形 で 何 等 か の こ と を せ ね ぽ な ら な い,と い う意 識 を 生 み 出 さ な い と い え ば よ い か も 知 れ な い 。 も ち ろ ん,タ ベ ア ナ を も ら っ た 人 は,そ の 与 え 手 に 何 等 か の 機 会 を 見 つ け て 何 か を 贈 る こ と は あ る 。 し か し,そ れ は,タ ベ ア ナ に 対 す る 返 礼 で は な く新 た な タ ベ ア ナ の 開 始 な の で あ る。
プ ロ と い うの は,「 借 財 」 とい う意 味 を もつ 贈 物 で あ る。 「借 財 」 で は あ る が,そ れ は,受 け 手 が 「貸 し て くれ 」 と頼 ん で 借 り る も の で は な く,あ く ま で も与 え 手 が 自 発 的 に 贈 与 す る も の で あ る 。 しか し,そ の 贈 物 に 対 し て,返 却 が 義 務 づ け られ て い る の で あ る 。 つ ま り,あ る 物 を プ ロ と し て も ら う と,す ぐに と い うわ け で は な い が,い ず れ そ れ と 同 じ物 か 等 価 の 物 を お 返 し と し て 贈 与 す る 義 務 を 負 う こ と に な る の で あ る 。 プ ロに よ る や り取 りは,ボ ロ ロ リ儀 礼 の 場 合 に 最 も 頻 繁 に 見 い だ さ れ る 。 そ こ で は, 儀 礼 で 豚 を 殺 しエ ン ブ レム を 購 入 し よ う とす る 主 人 公 に,大 勢 の 人 々 が フ ロ と し て 豚
を 与 え る 。 彼 は,こ れ ら の 豚 を 用 い て 儀 礼 を 行 うが,豚 を 与 え て くれ た 人 物 が ボ ロ ロ リを す る 場 合 に は,も ら っ た 豚 と 全 く 同 等 級 の 豚 を お 返 し に 贈 る 。 そ の と き に お 返 し が 出 来 な い 場 合 で も,い つ か は,お 返 し を せ ね ぽ な ら な い 。 フ ロ と して も ら っ た 物 と 等 価 の 物 を お 返 し に 贈 る場 合 は,特 に ソベ ソベ(sobwesobwe)と い う概 念 が 準 備 さ れ て い る。 これ は,本 来 は 豚 の や り取 りの 場 合 に 適 用 さ れ る概 念 で あ る が,フ ロ/ソ ベ ソベ は,広 く ,「 お返 しが必 要 な贈 物 」/「 そ れ に 対 す る 反 対 給 付 の 贈 物 」 と し て 用 い ら れ る こ と も あ る 。 フRは,こ の 様 に,お 返 し が 必 要 な い と さ れ る タ ベ ア ナ と対 照 を な し て い る の で あ る 。
メ メ ア ル フ ァ は フ ロ に よ る や り取 り,つ ま り,「 お 返 し が 必 要 な 」 や り取 り と,タ ベ ア ナ の 様 に 「お 返 し が 必 要 な い 」 や り取 りの 中 間 を 構 成 して い る 概 念 で あ り,メ メ ア ル フ ァ と し て 与 え ら れ た も の は,「 お 返 し が 期 待 さ れ る 」 の で あ る 。 メ メ ア ル フ ァ は 「お 返 しが 期 待 され る 」 も の で あ る と表 現 した が,そ れ は,与 え た も の を 返 して く
国立民族学博物館研究報告 20巻4号 れ と請 求 す る こ とは 出来 な いに もか か わ らず,そ れ を 返す な らぽ これ これ の機 会 に 返 す,と い う具 合 い に 与 え返 す 状 況 が設 定 され てい るか らで あ る。 しか し,メ メアル フ ァとい うの は あ る程 度振 幅 を も った概 念 で あ る。 「お 返 しが 期 待 され る」 とい うの は そ の典型 的 な部 分 で あ り,そ の周 辺 に 「た だ与 え るだ け 」 の部 分 か ら 「お返 しを す る 必 要 が あ る」と人hが 考 え る部 分 まで を含 んで い る。人 に よ って もそ の解 釈 は異 な る。
た だ,メ メアル フ ァと して与 えた もの に 対 しては 「お 返 しをす る必 要 が あ る」 といわ れ て い て も,現 実 に は 与 え た も のが 必 ず 戻 って くるわ け で は な い。 そ して戻 って こな く とも,誰 も文 句 は い わ な い の で あ る。 そ の場 合 に は 「た だ与xる だ け 」 の意 味 あい が 前 面 に 出 る。 また,「 何 年 か た って覚 え て いれ ぽ 返 せ ぽ よい 」 の で あ り,戻 っ て き た 場 合 に は,以 前 与 え た もの のお 返 しだ と判 断 され る。 それ 故,メ メ アル フ ァと して 与 え られ た 場 合 に は,「 お返 しが 出来 る場 合 には お返 しを す る こ とが 望 ま しい 」 と考 xる の が適 切 であ ろ う。
以 上 の交 換 概 念 を 念 頭 に お きなが ら,以 下 では,北 部 ラガ にお け る人 生 儀礼 の詳 細 を見 て 行 く こ とに しよ う。
2誕 生 と誕生儀 礼
か つ て は,妊 娠 と 同 時 に 様 々 な こ と が 行 わ れ た 。 こ れ を 図3を 用 い て 説 明 し よ う。
ま ず 妊 娠 が 分 か る と,か つ て は 妊 婦Bの 父 方 オ バ の う ち 小 さ な 男 の 子 を も つ 人 物D が,彼 女 に 赤 大 マ ッ トか 仔 豚 を 与 え る 慣 習 が あ っ た 。 こ れ は,「 彼 女 は 豚 か 赤 大 マ ッ
トで シ マ ン ゴ を 切 る(mwa dai simano gin boe sa bwana)」 と い わ れ る行 為 で あ る7も これ を す れ ば,も しBが 女 の 子Cを 出 産 す れ ぽ,Dは 息 子 のEとCを 将 来 結 婚 さ せ る こ と が 出 来 た 。CはEの 潜 在 的 配 偶 者 の カ テ ゴ リー(マ ン ビ)に あ た る の で あ る。
Bは,Dか ら提 供 さ れ た 豚 や 赤 マ ッ トを 拒 否 す る こ とは 出 来 な か っ た 。
男 の 子 が 生 まれ た 場 合 は,赤 大 マ ッ トが そ の 子 の 頭 に 載 せ られ,そ の 子 の 父 方 オ バ に 与 え ら れ た 。 女 の 子 の 場 合 に は,同 様 に して,赤 小 マ ッ トが 父 方 オ バ に 与 え ら れ た 。 男 の 子 が 生 ま れ た 場 合 は,Dか ら の 「申 し 出 」 は 御 破 算 に な る が,も し女 の 子 が 生 ま れ れ ば,Dは 次 の 行 動 に 移 っ た 。 つ ま り彼 女 は, Bが 食 べ る 食 事 と して ヤ ム イ モ と 鶏 で 石 蒸 焼 き料 理 を つ く り,彼 女 に 与 え た の で あ る 。 こ れ は マ ハ レイ(〃zahatei)と
7) シ マ ン ゴ(simano)と は,ま だ 果 肉 が 出 来 て い な い 若 い コ コ ヤ シ の 実 の こ と 。 「シ マ ン ゴ を 切 る 」 と い うの は,実 際Yyコ コ ヤ シ の 実 を 切 る こ とを 意 味 して い る の で は な く,こ の 場 合 に 豚 や マ ッ トを 与 え る こ と を 指 す 慣 用 句 で あ る 。
吉岡 北部 ラガの人生儀礼における贈与交換
呼 ば れ,こ れ で,Dの 息 子 とBの 娘 の 婚 約 が 成 立 した の で あ る 。
出 産 は,今 日 で は 病 院 で 行 わ れ る こ とが 多 くな っ て い る が,か つ て は 夫 婦 の 小 屋 で 出 産 す る の が 通 例 で あ り,特 別 な 産 屋 を 設 け る こ と は な か っ た 。 妊 娠(ros atatu:文 字 通 りに は 「人 間 を 担 ぐ」)は 月 経(harov non vaivne:文 字 通 りに は 「女 性 の 病 気 」) が 停 止 した と き に 認 知 さ れ る 。か つ て は,妊 娠 は 様hな 食 物 制 限 を 妊 婦 に 課 し た 。 鳥, 魚,オ オ コ ウ モ リ,タ コ,ヤ ドカ リな どが 食 べ て は い け な い も の と され た が,こ の 間, 夫 の 側 に は 食 物 制 限 は な か っ た と い わ れ て い る 。 し か し コ ド リ ン ト ンに よ る と,出 産 後,夫 は 子 ど も に 腫 れ 物 が 出 来 る と い け な い か ら と い う こ と で,ヤ ドカ リな ど の 海 産 物 は 食 べ な か っ た と い う 【CoDRINGToN 1891:229】 。 ま た,逆 子(〃twaborahantai), 双 子(〃zalavの の 場 合 に も 特 別 な 儀 礼 を 行 わ な か っ た 。 出 産 に は 産 婆(gitagoro)が 立 ち 会 った が,出 産 の 間 は,夫 は 村 の 集 会 所 に い な け れ ぽ な ら な か っ た 。 か つ て は,子 ど もが 生 ま れ た 夜 に 命 名 儀 礼 を 行 っ た 。 実 の 父 は 一 本 の トウ(ariu) に 火 を つ け,そ れ で 子 ど も の 顔 を 照 ら し な が ら 名 前 を 告 げ た と い わ れ て い る。 子 ど も の 父 方 オ バ 達 は}子 ど も の 食 べ 物 と して(実 際 に は 産 婦 の 食 べ 物 と して)ヤ ム イ モ を
も っ て き た と い う。 次 の 日,産 婦 は 産 婆 達 に 赤 大 マ ッ トか 仔 豚 で 支 払 い(tavwe)を した 。
子 ど もが 誕 生 す る と,バ ラ イ トア(bwalaitoa)が 行 わ れ る 。 こ れ は,冗 談 行 為 と で も 呼 べ る も の で,様 々 な 儀 礼 に 登 場 す る。 例 え ぽ,ボ ロ ロ リ儀 礼 の 場 合 に は ふ ざ け た 踊 り と し て,婚 姻 儀 礼 の 場 合 に は,ヘ ビ の つ か み 合 い な ど の 形 で 出 現 す る。 これ ら の 冗 談 行 為 の 総 称 が パ ラ イ トア で あ る が,誕 生 の 折 に 行 わ れ る バ ラ イ トア は,ト ゴ ト ゴ イ(togotogoi)及 び ゴ イ ゴ イ'(noinoi)と 呼 ば れ る 。 か つ て は,子 ど も の 父 方 オ
図3 妊 娠 と出産 に ま つ わ る親 族 関 係
国立民族学博物館研究報告 20巻4号 バ だ け が こ う し た 行 為 を した と さ れ て い る が ,今 日で は,子 ど も の 類 別 的 父 も こ う し た 行 為 に 加 わ っ て い る 。 ト ゴ ト ゴイ と い う の は,子 ど も の 類 別 的 父 や 父 方 オ バ が 子 ど も の 実 の 父 の 物(鶏 な ど の ち ょ っ と した 物)を 盗 み 取 る こ と で あ り,ゴ イ ゴ イ と は, 前 者 が 後 者 の 畑 へ 行 き,ヤ ム,タ ロ,カ ヴ ァ な ど に セ ソ ネ ン ボ クの 葉 を 置 く こ と に よ
っ て そ れ ら の 収 穫 を 禁 止 す る こ と で あ る 。"収 穫 の 禁 止"を 示 す た め に 用 い る セ ソ ネ ソ ボ ク の 葉 は,男 子 が 誕 生 した 場 合 は 鍵 結 び に し て ヤ ム イ モ な ど の 上 に 置 き,女 子 が 誕 生 した と き は 葉 の 先 端 が 結 び 目の 中 に 入 った 様 な 形 に 結 ん で 置 く。
こ う し た 行 為 は,子 ど も の 類 別 的 父 や 父 方 オ パ で あ っ て も}ご く身 近 に い る 少 数 の 人 物 が 行 う の が 普 通 で,そ れ も,基 本 的 に は 最 初 の 子 ど も(tuagai)が 生 ま れ た と き に 行 う。 しか し と き に はTき わ め て 多 くの"盗 み"が 行 わ れ る こ と も あ る 。 あ る 男 性 の 例 を あ げ よ う。 彼 は,男 の 子 が 欲 し くて た ま ら な か っ た が,生 ま れ る の は 女 の 子 ば か りだ っ た 。 しか し,5人 目に して よ うや く男 子 が 誕 生 し,彼 は 大 喜 び で あ っ た が, 彼 の キ ョ ウ ダ イ や シ マ イ,つ ま り,子 ど もか ら 見 れ ば 類 別 的 父 や 父 方 オ バ も大 喜 び と な り,多 数 の 人hが"盗 み"を した の で あ る 。
出 産 後,子 ど も と 母 親 は10日 間 小 屋 の 中 に い る の が 原 則 で あ る 。10日 目 に,子 ど も の 母 方 オ ジ の1人 が 仔 豚 か 赤 大 マ ヅ トを も っ て き て 小 屋 の 前 に 置 き,「 私 は こ の マ ッ トで お 前 を 脱 出 さ せ る 」 と い い,産 婦 は 子 ど も を 抱 き,2人 は こ の 人 物 の 周 りを2回 回 る 。 赤 大 マ ッ トあ る い は 仔 豚 は,母 方 オ ジ か ら 子 ど も へ の タ ベ ア ナ(お 返 し の 必 要 の な い 贈 与)で あ り,そ れ は,子 ど も の も の と な る 。 そ し て,こ の 行 為 に よ っ て,母
も 子 ど も も 小 屋 の 外 に 出 る こ とが 出 来 た と い う。 しか し,こ う した 慣 習 は 現 在 で は 消 滅 し た よ う で あ る 。 現 在 で も,病 院 で は な く 自 分 の 小 屋 で 出 産 す る こ と が あ る が,こ の 場 合 は10日 間 こ も る と い うか つ て の 慣 習 は な く,体 力 が 回 復 した 産 婦 は3日 も す る
と 村 の 中 を 歩 き 回 る こ と が あ る 。
さ て,出 産 後10日 経 つ と母 も 子 も 自 由 に 行 動 で き る よ うに な り,そ の 後 フ ン フ ニ ア ー ナ(hunhuniana)と 呼 ぽ れ る 儀 礼 が 行 わ れ る 。 コ ド リ ソ ト ンは,こ の 儀 礼 を 記 述 し て い る が,彼 に よ る と,長 男 が 生 ま れ て か ら10日 目に フ ン フ ニ ア ー ナ(彼 の 記 述 で は huhuni)が 行 わ れ た と い う。 こ の 子 ど も は,生 ま れ て か ら10日 間 は 生 ま れ た 小 屋 に と ど ま る が,そ の 間 父 の 親 族 達 が 母 親(mother)に 食 料 を 提 供 す る 。10日 目,彼 ら は 何 も も っ て こ な い が,今 度 は,子 ど も の 父 親(father)が こ れ ら の 人hに で き る だ け た く さ ん の マ ッ トと食 料 を 与xる 。 こ れ に 対 して 彼 ら は,子 ど も の 頭 に た く さ ん の マ ッ ト と豚 を つ な い だ 紐 を 載 せ て ,子 ど もの父 親 に与 え る。 これ が フ ン フニ ア ー ナで あ る。 コ ド リ ソ ト ソに よれ ぽ,こ れ ら の マ ッ トと 豚 は,今 後 彼 ら が こ の 子 ど も を 助 け
吉岡 北部 ラガの人生儀礼における贈 与交換
た り 面 倒 を 見 た り す る こ と の 証 と し て 与 え ら れ る と い うICoDRINGToN 1891:
234‑231]0
コ ド リ ン トン の 記 述 は,北 部 ラ ガ の 親 族 名 称 を 踏 ま え た 上 で の 記 述 で は な い の で, こ の 儀 礼 で 最 も重 要 な 役 割 を 演 じて い る 「父 の 親 族 達 」 が 何 で あ る の か は 特 定 す る の が 難 しい 。 し か し,も し北 部 ラ ガ社 会 の 人 々 が 「父 の 親 族 達 」 と い っ た とす れ ば,そ れ は ほ ぼ 間 違 い な くhavan tamana(彼 の チ チ の 親 族)を 意 味 し て い た と考 え ら れ る。
既 に 述 べ た よ うにNavaは 実 の 父 と 同 じ ク ラ ス タ ー の メ ソバ ー を 指 す た め,親 族 名 称 で い え ば,類 別 的 父 と父 方 オ バ を 意 味 す る こ と に な る 。 こ の こ とを 踏 ま え て,筆 者 自 身 の フ ソ フ ニ ア ー ナ に つ い て の 記 述 に 移 ろ う。
筆 者 が 得 た 情 報 は 以 下 の も の で あ る 。 か つ て は,子 ど も の 実 の 父 は フ ソ フ ニ ア ー ナ の 日 を 子 ど も の シ ビ(母 の 父 な ど)に 告 げ た 。 彼 ら は フ ソ フ ニ ア ー ナ 当 日 薪 を 切 り出 し,料 理 の 準 備 を す る 。 一 方 子 ど も の 親 族(Nava)達,つ ま り,子 ど も の ク ラ ス タ ー の 成 員(親 族 名 称 で い え ぽ,ハ ハ,母 方 オ ジ,キ ョ ウ ダ イ,シ マ イ な ど)は,仔 豚, 赤 大 マ ッ ト,赤 小 マ ッ トを も っ て や っ て くる 。 彼 ら は も っ て き た 赤 大 マ ッ トを 広 げ て 子 ど も の 頭 に 載 せ る 。 子 ど も は,そ の 赤 マ ッ トを 彼 の 類 別 的 父 や 父 方 オ バ に 与xる の で あ る 。 マ ッ トを 与 え ら れ た 類 別 的 父 や 父 方 オ パ は,子 ど も に 二 種 類 の ブ レス レ ッ ト を 与 え た 。 一 つ は,マ ソ ゴ マ ン ゴ(〃tagomago)と 呼 ぼ れ る も の で,サ ゴ ヤ シ の 実 を ほ って,丸 く巻 い た 豚 の 牙 の 様 に 作 り上 げ た ブ レス レ ッ トで あ る 。他 の 一 つ は,ゴ ム ・ ム タ イ(gomu mutai)と 呼 ぼ れ る も の で,貝(golと い う 白 い ボ タ ソ 貝 の 一 種)で つ く られ た 長 い ビ ー ズ(こ れ も ゴ ム ・ム タ イ と 呼 ば れ る)を 適 当 な 大 き さ に 切 っ て 作 ら れ る ブ レ ス レ ッ トで あ る 。 サ ゴ ヤ シ の 実 の ブ レス レ ッ トは 一 方 の 腕 に 一 つ 通 し,貝 の ブ レス レ ッ トは 二 つ 反 対 側 の 腕 に 通 し た と い う。
今 日 で も フ ン フ ニ ア ー ナ を 行 う こ と は あ る が,長 子 誕 生 の 場 合 と は 限 らず,あ る 事 例 で は,第1子,第2子 の 場 合 に は 行 わ ず,第3子 が 誕 生 し た と き に 行 っ て い る8)0 ち な み に,そ の と き に 子 ど も の 頭 に マ ッ トを 載 せ た の は 子 ど も の 実 の 母 で あ り,マ ッ
トを 与 え られ た の は,子 ど も の 類 別 的 父 が3人,父 方 オ バ が3人 で あ っ た 。 な お,子 ど も の 親 族 達 が も っ て き た 仔 豚,赤 大 マ ッ ト,赤 小 マ ッ トな ど は,す べ て,子 ど も と そ の 母 の プ ロ(お 返 し の 必 要 な 贈 与)と し て も っ て こ ら れ た と い わ れ る 。
さ て,コ ド リ ン ト ン の 記 述 と筆 者 の 記 述 は,フ ソ フ ニ ア ー ナ で は 生 ま れ た ぽ か りの 子 ど もが 頭 に マ ッ トを 載 せ て,そ れ を 彼 の 親 族 に 与 え る とい う行 為 が 主 と した 内 容 で 8) こ の場 合,第1子 は 女,第2子 は 男,第3子 も男 で あ る。 なお,筆 者 は フ ン フ ニア ー ナ を 実際 に 観 察 した こ とは な い。
国立民族学博物館研究報告 20巻4号
あ る とす る 点 で 共 通 し て い る 。 ま た そ の 中 で,子 ど も の 類 別 的 父 と 父 方 オ バ が 重 要 な 役 割 を 演 じ る と し て い る 点 で も 共 通 し て い る 。 しか し,筆 者 は,彼 ら は 頭 に 載 せ ら れ た マ ッ トの 受 け 手 で あ る と して い る の に 対 し,コ ド リ ン ト ン は,与 え 手 で あ る と して い る 点 が,大 き な 相 違 点 と な っ て い る。 こ の 点 に 関 し て,追 加 説 明 し て お こ う。 まず,
フ ソ フ ニ ア ー ナ と い う儀 礼 の 名 前 に 関 し て で あ る 。 フ ニ(huni)あ る い は フ ソ(hun) と い う の は,「(マ ッ トの 一 方 の 端 を)頭 に 載 せ て 与 え る」 と い う意 味 の 動 詞 的 な 語 で あ り,フ ソ フ ニ ア ー ナ は そ の 名 詞 形 で あ る 。 従 っ て,マ ッ トな ど を 頭 に 載 せ て そ れ を 親 族 に 与 え る こ と こ そ フ ン フ ニ ア ー ナ な の で あ る 。 しか し,こ れ は 誕 生 の 場 合 に だ け 見 られ る も の で は な い 。 後 述 す る 様 に,婚 姻 儀 礼 で も,ま た,ボ ロ ロ リ儀 礼 で も 登 場 す る の で あ る 。 そ れ らの 場 合 は フ ン フ ニ ア ー ナ と は い わ ず に フ ソ フ ン ニ(hunhuni)
と 呼 ぶ9)0両 者 に 共 通 して 見 ら れ る 要 素 は,頭 に 載 せ ら れ た マ ッ トは,そ れ を 被 っ て い る人 物 の 類 別 的 父 か 父 方 オ バ に 与 え られ る と い う こ と で あ る 。
こ れ に は 理 由 が あ る 。 北 部 ラ ガ で は,ロ ロ ン ゴ(rorono)と 呼 ば れ る 超 自然 的 な 力 の 存 在 が 信 じ られ て き た が,そ れ は,無 生 物 で は 特 定 の 石 や 大 き な 岩 に 宿 っ て お り, 動 物 で は そ の 頭 に 宿 っ て い る と さ れ て い た 。頭 は,こ の ロ ロ ソ ゴ の 宿 る場 所 と し て 「侵 す べ か ら ざ る も の(gogona)」 と 考 え ら れ て き た 。 そ の 頭 に マ ッ トを 直 に 接 触 させ る の で あ る 。 従 っ て,こ の マ ッ トは 通 常 の マ ッ トと は 異 な り,霊 的 な 意 味 を も つ こ と に な る 。 人hの 説 明 で は,そ れ を 受 け 取 る 者 は,マ ッ トを 頭 に 載 せ た 者 の 庇 護 者 に な る と い うの で あ る。 類 別 的 父 は 実 の 父 に 代 わ る 存 在 で あ り,父 方 オ バ は 女 の 父 と し て 位 置 づ け ら れ て い る が,彼 ら の 中 で も,こ う して マ ッ トを 受 け 取 っ た 者 は,そ れ 以 後, 実 の 父 と 同 じ よ う に 責 任 を も つ こ と に な る 。 コ ド リ ソ ト ン 自 身 も ロ ロ ン ゴ(彼 の 表 現 で は マ ナ)の 存 在 を 報 告 して い る が,こ う した 霊 的 な 力 との 関 連 で フ ン フ ニ ア ー ナ を 考 え る と,コ ド リ ン トン が い う よ うに 子 ど も の 頭 に マ ッ トな ど を 載 せ る こ と が 庇 護 者 と し て の 証 で あ る と 考 え る よ り も,そ の マ ッ トを 受 け 取 る こ と こ そ が 庇 護 者 と し て の 証 で あ る と 考 え た 方 が 筋 が 通 りそ うで あ る 。
さ て,子 ど も は 表3に 示 し て あ る よ う な 区 分 を 経 て 成 長 す る 。 生 ま れ て す ぐ は,ナ ト ゥ リ メ メ ア(naturi〃ze〃iea:文 字 通 りに は 「赤 い 子 ど も 」)と 呼 ぼ れ る が,そ れ も 2〜3年 の 内 に ナ ト ゥ リギ(naturigi)と 呼 ば れ る よ うに な る 。 男 子 は 変 声 期 に 入 る と マ ヒ ウ ボ ア(mwahiuboa:彼 の 声 が が ら が らす る)と 呼 ば れ,女 子 は 乳 房 が 膨 らん で く る と フ フ ガ ス ボ ー ラ(huhugasbora:乳 房 が 大 き く な る)と 呼 ば れ る 。 そ の 後, 男 子 は マ ラ ソ ゲ ロ(mwalagelo),女 子 は ダ ウ ラ ト(daulato)と 呼 ば れ る が,こ れ は
9) これ が,コ ドリ ン トンの い うhuhuniで あ る。
吉岡 北部 ラガの人生儀礼におけ る贈与交換
表3 成 長 に伴 う男 女 カテ ゴ リー の変 化
男 の カ テ ゴ リ ー 女 の カ テ ゴ リー 特徴
naturi memea 赤ん坊
naturigi 子 ど も
mwahiuboa huhugasbora 男 子 は,声 が変 わ り女 子 は 胸 が 大 き くな る mwalagelo daulato 男 の 子,女 の子
mwalagelo tuturu tabwalugu 男 子 は 髭 を 生 や しは じめ,女 子 は 月経 が始 ま る
atatu vavine 既婚男子,既 婚女性
bwatave 髪 が 白 くな る
tamalagai 長生 きの老人
少 年 と 少 女 と い う概 念 に 相 当 す る 。 か つ て は,男 の 子 が あ る 程 度 大 き く な る と,彼 の 父 方 オ バ は 彼 の 腰 に 長 い 貝 製 の ビ ー ズ(先 述 の ゴ ム ・ム タ イ)を 巻 き つ け た 。 彼 の チ チ は,彼 女 が 食 べ る た め の 豚 を 殺 し,赤 大 マ ッ トを 用 意 す る。 子 ど もは そ の 父 方 オ バ に,こ の マ ッ トを 頭 に 載 せ て 与 え た と い わ れ て い る 。 ま た,女 子 の ハ ハ は,こ の 頃 に な る と,マ ハ レ イ を した 自 ら の 父 方 オ バ に 対 し て 赤 大 マ ッ トを 与 え た と い う。男 子 は, 髭 が 生 え 出 す 頃 に は マ ラ ソ ゲ ロ ト ゥ ト ゥ ー ル(〃twalagelo tuturu:滴 り落 ち る様 な 少 年)と も 呼 ぼ れ る が,通 常 は そ の 頃 で も 単 に マ ラ ソ ゲ ロ と呼 ぼ れ る 。 こ の 場 合,こ の カ テ ゴ リー は 青 年 層 を 指 す 。 女 子 は 月 経 が 始 ま る 頃 か ら タ バ ル グ(tabwalugu)と 呼 ば れ る 。 そ して,青 年 と な っ た 男 子 ・マ ラ ン ゲ ロ と娘 に な っ た 女 子 ・タ バ ル グ は,い
よ い よ結 婚 の 時 期 を 迎 え る の で あ る。
3婚 姻儀礼前 日
婚 姻 儀 礼(lagiana)は,誕 生 儀 礼 と 異 な り今 日最 も し ば しば 観 察 が 可 能 な 人 生 儀 礼 で あ る 。 か つ て の も の と比 較 す る と,大 筋 で は 一 致 す るが 細 部 は 変 化 し て お り,ま た,や り取 りさ れ る マ ッ トの 量 が は る か に 増 大 し て い る。 以 下 で は 今 日行 わ れ て い る 儀 礼 を 中 心 に 記 述 し,か つ て の も の と の 相 違 を 付 加 的 に 説 明 す る 。
儀 礼 は,ま ず 花 嫁 の 村 で 行 わ れ,そ の 後 同 じ 日 の 内 に 移 動 して 花 婿 の 村 で 行 わ れ る 。 従 っ て 婚 姻 儀 礼 当 日は,花 嫁 の 側(atalun vavine),花 婿 の 側(atalun m walagelo)双 方 が 花 婿 の 村 で 宴 会 を も つ こ と に な る 。 花 婿 の 側 の 人 々 と は,花 婿 の チ チ 達,父 方 オ バ 達,そ れ に 彼 の ク ラ ス タ ー の 人 々 ,及 び(花 嫁 の チ チ,父 方 オパ に 当た ら ない)同
国立民族学博物館研究報告 20巻4号 一 半 族 の 人 々で あ り,花 嫁 の 側 の 人hも 同様 で あ る。 宴 会 の た め の 準備 は,花 婿 の 実
の 父 が き りも りす る。宴 は,誕 生 儀 礼 の と ころ で も登 場 した 石蒸 焼 き料 理 で 行 われ る。
この料 理 は,地 面 を掘 っ て作 った穴 を オ ー ヴ ン と して利 用 す る。 まず,そ の穴 に 薪 を 入 れ て火 を 起 こす。 そ の上 に石 を 幾 つ も置 いて お く。 薪 が 燃 え 尽 き る頃 には 石 が 熱 く焼 け て お り,そ の石 を取 り出す 。穴 の底 に 熱 が あ る 内 にそ の 中 にバ シ ョ ウ(〃zagao) の 葉 な どを敷 き,同 じ葉 で くる んだ イ モ類r肉 類 を い れ,さ らに そ の 上 か らバ シ ョウ の 葉 等 を かぶ せ,そ の上 に先 ほ ど取 り出 した焼 け た 石 を載 せ る こ とに よ り,蒸 焼 き に す るの で あ る。 そ のた め,大 量 の薪,石 な どを 準 備 す る必 要 が あ る。 宴 会 のた め の準 備 は か な り前 か ら始 め られ,様hな 準 備作 業 は,花 婿 の 類別 的 父 及 び 父 方 オバ に依 頼 され る。依 頼 され た者 は,各hの 属 す る村 人 の協 力を 得 て,こ う した作 業 を遂 行 す る。
例 え ば,Aと い う村 で婚 姻 儀 礼 が行 わ れ, B村 の男 性 が石 蒸 焼 き料 理 用 の薪 を切 り 出す よ うに依 頼 され た とす る。 儀 礼 が 行 わ れ る数 日前 のあ る 日が 指 定 され,そ の 日に B村 の人 々は依 頼 を受 け た 男性 と共 に木 を 切 り出 しにゆ く。 木 は,B村 の 人hの 土 地 か ら切 り出 され る こ とに な る。 特 定 の人 物 の土 地 が 選 ぽ れ る とい う よ りも,薪 に な る 木 が た く さん あ って,A村 に近 い土 地 が い くつ か選 ぼ れ るの で あ る。 朝 か ら人 々 は 働 き始 め る。 昼 に な る と,A村 で昼 食 が用 意 さ れ て い る。 通 常 は,薪 を切 り出す 作 業 や バ シ ョウ等 の葉 を切 り出 す 作業,石 を 集 め る作 業 な どは,こ の指 定 され た 日に 同 時 に行 わ れ る。 従 って,北 部 ラ ガの各 地 の 村 か ら人 々 が集 ま る こ とに な り,昼 食 は, それ ぞれ 村 ご とに 分 け て配 られ る。 食 後,再 び 木 を切 り出 し,村 まで運 ぶ とい う作 業 が続 く。 夕 方 に な る と,仕 事 を 終 え た 人hがA村 の集 会 所 に 集 ま る。 こ こで は カ ヴ ァ と夕食 が作 られ て お り,こ れ らの 準 備 はA村 の人 々が 行 う。 カ ヴ ァを 順 に 何 杯 か 飲 み終 え る と,手 下 げ の籠 に詰 め た 夕食 が 各 人 に 配 られ,人hは そ れ を も って 村 落 単 位 で 自分 の村 へ 引 き上 げ て行 く。
薪 や葉 な どを 切 り出す 作 業 を 依 頼 され た 男 性 は,婚 姻 儀 礼 の前 日,花 婿 か ら頭 に 載 せ た赤 大 マ ッ ト1枚 を受 け取 る。 労働 を手 伝 った 村 人 に は マ ッ トは 与 え られ な い。 彼 ら に は,労 働 した 日の昼 食,夕 食,カ ヴ ァが お 礼 な い しは 支 払 い(tavwe)と な る の で あ る。 しか し,通 常 は これ らの食 事 の た め の イ モ は 各 自あ らか じめA村 の 人 々 に 渡 して あ る。A村 では それ に 肉類 を 添 え て料 理 し,返 す の で あ る。
婚 姻儀 礼 の前 日,花 婿 の村 に人 々が 再 び集 ま る。 彼 らは花 婿 の側 の人hで あ る。 こ の 日は フ ソ フ ソニの 日,す なわ ち花 婿 が マ ッ トを 頭 に 載 せ て彼 の類 別 的 父 や父 方 オバ に与 え る 日で あ るが,今 日,冗 談 行 為 で あ るバ ライ トアが行 わ れ る こ と もあ る。 これ は ヘ ビ(teltele)と 関 連 した も ので あ る。 集 会 所 の 中 で は花 婿 の類 別 的母 達 が サ ヴ ァ