Ⅰ.緒 言
厚生労働省人口動態調査1)によると、我が国で は 1975 年以降、病院死が在宅死を上回るようにな り、現在、約 8 割が病院での死を迎えている。近年、
自宅および高齢者施設などの地域で最期まで生活で きるような施策を講じてきたこともあり、わずかな がら在宅死は増えてはきているが、それでも全死因 別では 12.8%(2012 年)、がんに限っては、8.9%(2012 年)であり、依然として在宅死は少ない現状が続い ている。患者が最期まで地域で生活できるための施 策の一つとして国は在宅支援診療所を全国に増やし との結果、2011 年には 12,830 施設に増加した。し かし、そのうち在宅看取り数が年間 1 名以上であっ た診療所は 6,356 施設(49.5%)であり2)、その機 能が十分に発揮できていない現状が明らかとなって いる。これらのことから、最期まで地域での生活を 支えるための国の施策は思うようにはすすんでいな いのがわかる。
在宅死が増えていかない原因の一つとして、在宅 支援診療所の機能が十分に発揮できていないという ことがあげられる。具体的に述べると、24 時間体 制の不備や医療・福祉の連携ができていないなど ハード面の問題だけではなく、医療者の緩和ケアの 知識・技術不足、福祉職者の看取りケアに対する教 育の不備など、ソフト面でも医療・福祉が抱える問
題は様々なところから指摘されている3)4)。 一方で、在宅ケアを受ける患者や家族の要因も指 摘されている。亡くなる人の約 8 割が病院で亡くな る現代医療の中では、家族を看取った経験のない人 が多数を占めるようになった一方で、核家族化が進 行し家で介護してくれる家族の介護力不足も相まっ て一層家で看取ることが困難になってきている。他 方、厚生労働省「終末期医療に関する意識調査等検 討会報告書」(平成 26 年)5)によると、末期がんで はあるが症状コントロールが良好な場合、住み慣れ た家で過ごしたいと希望する人は 7 割を超えてお り、希望と現実のギャップが大きいとも言える。
本人が在宅での看取りを希望しても家族の協力が 得られず断念するケースは少なからず存在し、在宅で 看取るうえで家族の協力は不可欠6)である。在宅で 患者を看取るということは、家族にとって看取りに伴 う不安や介護に伴う困難など家族にかかる負担は大き いが、在宅で看取ったあと約 7 割の家族が満足感を 抱いている7)8)との調査もあり、介護中の困難感や不 安感を抱きながらも看取ることができたという達成感 をより強く感じることができる9)10)とも言われている。
さらに、在宅で患者を看取った主介護者の死別後の 成長感に関する調査によると、故人が在宅療養を希 望してそれを達成させられた介護者の成長感が高いと 報告されている11)。つまり、在宅で看取るという体験
帝京科学大学紀要 Vol.11(2015)pp.41-48
在宅で看取った家族の思いと看護への応用 大西奈保子
帝京科学大学 医療科学部 看護学科
Providing end-of-life care at home and thoughts of families providing such care
Naoko Onishi
Department of Nursing Faculty Medical Science, Teikyo University of Science
Abstract:This study investigated the effect of end-of-life care at home on thoughts of patients’ families. Semi-structured interviews were conducted with primary caregivers(N=16)with experience in giving end-of-life care at home, and of getting the cooperation from relevant organizations. The contents of interviews, which were mainly about reasons why they could provide end-of-life care at home, were recorded and documented, and analyzed through the Grounded Theory Approach. The results indicated that the families had the following four types of thoughts: satisfaction after giving end-of-life care, difficulties in providing care, regrets, and making good use of the experience in the future. It was indicated that the families had both negative and positive thoughts about end-of-life care at home. The importance of supporting such families is suggested so that satisfaction after giving end-of-life care would exceed the difficulties, as well as regrets about providing care.
キーワード:在宅ケア 看取りの結果 家族 思い 満足感 介護の大変さ 後悔
Keywords:Home care, results of end-of-life care, family, thoughts, satisfaction, difficulties in giving care, regrets
は、家族にとって負の側面だけではなく肯定的な側面 があるということがわかる。
今回、平成 25 年度帝京科学大学教育推進特別研 究費の助成を受け、帝京科学大学千住キャンパスの ある東京都東部地区で在宅での看取りの現状を調べ ることにより、都市部での在宅での看取りの実態の 一部が明らかにできると思い、関係機関の協力を得 て実際に在宅で看取った経験のある家族にインタ ビュー調査を行った。今回の報告では、在宅で患者 を看取った家族はどのような思いを抱いているのか に焦点を当て報告する。
Ⅱ.研究目的
在宅で看取ることはどのような結果を家族にもた らすのか、看取り後の家族の思いを明らかにし、看 護に応用するのを目的とした。
Ⅲ.研究方法
本研究では、在宅でがん患者を看取るという家族 にとって悲嘆を伴う複雑な事象を明らかにするため に質的帰納的研究方法を選択した。
1. 研究対象者の選択
本研究では、在宅で看取った経験のある家族を対 象にするため都内 X 区医師会の協力を得た。了解 が得られた会員の医療機関、もしくは関連する訪問 看護ステーションなどから研究対象者を紹介してもら う。看取り後悲嘆から立ち直るのは故人との関係や 年齢など個人差があり12)、インタビューを施行する適 当な時期は特定できず、また、グリーフケアの立場で は他者に話をすることは悲嘆からの立ち直りに寄与す る13)とも言われているので、研究の趣旨を紹介先で ある医療機関から説明を受けインタビューを了解した 主介護者を対象者とした。看取り後時間が経つと記 憶が曖昧になるため可能な限り看取った時期から時 間が経っていない対象者を依頼した。
2. データ収集の方法
1)データ収集期間:2013 年 10 月~ 2014 年 7 月 2)データ収集方法
インタビューを了解してくれた対象者の自宅、も しくは対象者から指定された場所に研究者が出向き インタビューを行った。インタビュー回数は、遺族 の心理的負担も考え、基本 1 回に設定し、1 回のイ ンタビュー時間は 60 分程度として依頼した。イン タビュー内容は許可を取り録音した。質問内容は、
①在宅ケアを始めたきっかけ、②なぜ、最期まで家 で看取ることができたのか、③看取るうえで大変な ことと支えになったこと、④看取ったことを今どの ように考えているかということを対象者の話の流れ に沿うように質問していった。
3. データ分析の方法
録音したインタビュー内容は、すべて文章にして データとした。Grounded Theory Approach14)を参 考に継続的比較分析を行った。得られたデータを熟 読しテーマに関連のある家族が在宅で患者を看取れ たと思われる事柄に注目しデータを意味のまとまりご とに切片化し類似性と差異性に着目しながらオープン コーディング、軸足コーディングを行った。データ分析 は、一人の分析が終わったら次の対象者のデータと 比較しながら分析し、カテゴリー間の関連性を確認 しながら最終的にサブカテゴリー、カテゴリーにまと めた。なお、データ分析と対象者の面接は同時並行 で行い、分析過程でキーとなる概念について次のイン タビューで詳しく聴くようにしていった。
4. 分析の信憑性
データ分析過程において、質的研究の研究者から のスーパーバイズを受ける機会を設けた。さらに コード化した 16 名(15 ケース)の分析結果につい て終末期患者の在宅看護の経験のある訪問看護師に スパーバイズを受ける機会を設け分析の信憑性を高 める努力をした。
5. 倫理的配慮
本研究は帝京科学大学「人を対象とする研究」
に関する倫理委員会の審査を受け承認(第 102 号)
を得た。対象者の権利を保護するために、研究へ の参加は自由意志であり、いつでも研究を辞退で き不利益を被らないこと、研究参加でもたらされ る利益・不利益、個人情報保護、研究結果の開示、
研究成果の公表、データの保管などについて文書 と口頭にて説明を行い承諾書を取得した。また、
面接に伴う悲嘆の増強等も考えられるため、話し たくないことは話さなくてよいことを対象者に伝 え、数日後に悲嘆の増強等がないかどうか連絡を 取った。さらに紹介先である医療機関には必要時 連絡を取り合う旨確認した。
Ⅳ.結 果
1. インタビュー対象者の概要
インタビューを行った対象者は 16 名、うち 2 名 は同じ患者の家族であり別々にインタビューを行っ た。また、2 人の家族員から同時にインタビューを 行ったのが 1 ケースあった。インタビュー回数は各 1 回で合計 15 ケースであった。15 ケース中、がん 患者を看取った家族は 14 ケース、1 ケースは難病 患者の家族であった。続柄は娘が 7 名、息子が 1 名、
妻が 2 名、夫が 5 名、嫁が 1 名であった。職業は、
主婦(自営業含む)は 7 名、無職は 5 名、会社員 1 名、
パート勤務 2 名、看護師 2 名であった(複数回答含 む)。在宅ケア期間は、半月から約 3 年(平均 6.5 か月)
であった。インタビューを行った時期は、看取った 日から約 1 ヶ月から約 2 年の時点(平均 12.5 か月)
であった。インタビュー時間は、40 分から 120 分、
平均約 62 分であった。
2. 在宅で看取った家族の思い(表 1)
患者を在宅で看取った家族の体験を分析した結 果、38 のコード、15 のサブカテゴリー、4 のカテ ゴリーが抽出された(表 2)。コード数はサブカテ ゴリーに記載されているケース番号の合計である。
また、文中のカテゴリーは≪≫、サブカテゴリーは
【】、実際のインタビュー内容は「 」で示す。
在宅での看取りの結果、家族は≪看取り後の満足 感≫、≪介護の大変さ≫、≪後悔≫、≪経験を今後 に生かす≫の 4 つの思いが明らかとなった。以下、
在宅で看取った家族の 4 つの思いについて家族の語 りを交えながら説明する。
1)看取りの満足感
在宅で父親を看取ったケース 2 は、「時間関係な く、(親せきや友人が)夜中に来てみたりとか。朝、
ちょっとそこ通ったから来てみたよとか。で、こっ ちでは子供たちもわいわいしながら。(本人意識が ないが)たぶん聞こえてたかなっていう」といった 語りに見られるように、親せきや友人たちが家に 寄ったり、患者の孫たちが患者の寝ているそばで普 段通りの生活をしたことは【患者に普通の生活がさ せられた】ことでもある。
妻を看取ったケース 3 は、「やりつくしたと言っ ちゃったほうがいいかなと思って」と語り、姑を看 取った専業主婦のケース 6-2 は、「自分ができるこ とは全部やったから、もうこれ以上は無理だなって いうか」といったように語った。また、夫を看取っ たケース 14 は、「私たちね、もう亡くなる数日前な んか、会話してね、これはどうする ? って私もはっ きり聞くの。何度も聞いて、ほんとのことを聞き出 してやらないと、本人が心残りがあっちゃいけない なと思ったから、私も、いろんなことを聞いて、い ろんなことに答えてもらって」と患者に心残りがな いように患者の死後のことについても聞いていった ということを語った。このように遺族は【やりきっ たという思い】を持っていることが明らかとなった。
夫を看取ったケース 5 は、「他の方が来てくださっ て、たわいのない話のなかで、笑顔であったり笑え てたりだとかっていうところで過ごせたっていうの はすごいことだなと思いましたよ。こういう最期で よかったと思って」と語り、自営の仕事を抱えなが ら在宅で実父を看取ったケース 12 は、「大往生で しょ。苦しみ、助けてくれ一切言わなかったから」
と【患者が苦しまずに亡くなることができた】こと に満足感を感じていた。
46 歳の母親を家で看取ったケース 8 は、一緒に インタビューに協力してくれた父親の顔を見なが ら「やっぱりみんなで一緒にいて、喜んでくれこと もいっぱいあったし、つらいこともあるけど、喜ん でくれたことのほうが多かったから、よかったのか なって思いますね」と語り、ケース 9 は、「食べた いって言ったものを作らないのはどうかって思った から、それだけは次の日に食べさせてあげるように
表 1 在宅で看取った家族の思い
カテゴリー サブカテゴリー
看取り後の 満足感
普通の生活をさせられた(2, 3, 5)
やりきったという思い(2, 3, 4, 6-2, 14)
患者が苦しまずに亡くなることができた
(1, 5, 11, 12)
好きなことをさせられた
(8, 9, 10, 13, 14)
介護が勉強できた(5)
介護の大変さ
介護と生活の両立の困難さ
(3, 4, 7, 9, 12)
気が休まる時がない (9)
排泄の世話 (6-2, 8)
夜寝れない(6-2, 9, 11, 12, 13)
お金がかかる (9)
良くなるわけではない虚しさ (9)
患者がわがままを言う (6-2)
後悔 苦しませてしまった (7)
もっとケアをしてあげたかった(1, 6-2)
経験を今後に
活かす この経験を仕事に生かす (7)
*表内の数字は、ケース番号である。
してた」と患者に好きなものを食べさせることがで きたと語った。このように遺族は在宅で過ごすこと により患者に【好きなことをさせられた】と語った。
8 年もの闘病の果てに、60 歳の夫を在宅で看取っ た妻であるケース 5 は、最期、患者の体の自由が利 かなくなり介護が必要になった時に「どういうふう にしたら漏れないかだとか、そんなこと教えても らったりとか、あとは洋服の着替えだとか。そんな のも日々ナースさんとかと話しながらなるほどなる ほどっていうところが多くて」といったように【介 護が勉強できた】と捉えていた。
これらの家族のインタビューから【患者に普通の 生活がさせられた】、【やりきったという思い】、【患 者が苦しまずに亡くなることができた】、【好きなこ とをさせられた】、【介護が勉強できた】といった≪
看取り後の満足感≫が明らかとなった。
2)介護の大変さ
家族を在宅で看取ることができた満足感を語った 家族であっても、在宅での看取りには様々な困難が あったことを語った。
父親を介護ののち看取ったケース 12 は、「私を 頼っちゃってるから、私がいないとだめなんです よ。それがだから最初は出れなかったから」と他 の家族では父親が納得せず、何かあると自分を呼 ぶ父親の介護に対して【介護と生活の両立の困難 さ】を訴えていた。
実の母親の面倒をみるために遠方から母親の家に 泊まり込んで介護にあたっていたケース 9 は、「買 い物行った間にお母ちゃん具合悪くなっちゃったら どうしようとか、そんなことばかり考えちゃうじゃ ない。だからやっぱりあれだよね。心休まるときが ないんだよね」と【気が休まる時がない】と語った。
【排泄の世話】も介護の経験のない家族にとって は困難な経験であった。姑を看取ったケース 6-2 は
「大便のほうは、やっぱりそれは持ち上げて、本人、
身体がほぼ動かなくて、持ち上げて綺麗にするって いうのがすごく大変、体力的にも大変だった」と語 り、46 歳の母親を看取ったケース 8 は、「便、出るっ ていうから、やったけど出なかった時とか」と語っ た。このように患者が最期、思うように身体が動か なくなるような寝たきり状態になる中で【排泄の世 話】を行うことは負担が大きいことを語っていた。
また、排泄の世話以上に、家族は【夜寝れない】
ことが身体的にも苦痛の大きな経験であったことを 語った。ケース 9 は「やっぱり睡眠不足かな」、ケー ス 12 の「昼と夜が逆になっているから」と語り、ケー
ス 13 は、実父を通いで看取ったが「昼夜が逆転父 親してたもんですから、結局、夜、私対応、泊りが けであるんですけど、私は眠れなかったですね」と 語った。
経済的なことに関して、ケース 9 は、「私も結局 無収入(仕事ができない)、大変なんだよね、結構。
経費はかかるもん」と述べているように、飲食業 を営んでいたが、実母を在宅で看取るために遠方 から泊まり込みで介護にあたっていたため、半年 以上、店を閉めなければならなかった。そのため 在宅で看取るためには【お金がかかる】というこ とを語っていた。
さらにケース 9 は、「何がつらいって、看ていて よくなるわけじゃあないじゃあない ?」といったよ うに、がん末期の患者を家でケアするという【よく なるわけではない虚しさ】を語っていた。
姑を看取ったケース 6-2 は、「本人が頭がしっか りしていて、これも嫌だ、あれも嫌だっていうふう に言っちゃうと、本当はできることもできない」と
【患者がわがままを言う】ために、介護力を増やそ うと介護保険を使ってサービスを増やそうとした が、患者の好き嫌いでサービスを入れることがまま ならなかった。そのため嫁である自分に負担がすべ てかかってしまったことを語った。
これら家族のインタビューから【介護と生活の両 立の困難さ】【気が休まる時がない】【排泄の世話】【夜 寝れない】【お金がかかる】【よくなるわけではない 虚しさ】【患者がわがままを言う】といった≪介護 の大変さ≫が明らかとなった。
3)後悔
ケース 7 は、自身は訪問看護師であるが実母を通 いで在宅で看取った。患者は難病で体の自由が利か なくなり飲み込みもできなくなっていったが、本人 の強い希望で胃ろうなどの経管栄養は一切せずに口 から食べることにこだわった患者でもあり、家族も 本人の意思を尊重し最期は誤嚥を繰り返し呼吸苦と 難病による身体の痛みを訴えていた。そのため自身 が訪問看護師でもあるケース 7 は、医師に相談して 張り薬の麻薬を使用したが、麻薬の量が多すぎたた めに呼吸抑制を起こしてしまい、苦しませてしまっ た結果、それ以降、母親は身体の痛みがあっても一 切、痛みどめを使おうとはしなかった。そのため亡 くなる最期の晩は「最期のひと晩私も本当に辛いく らいひと晩中苦しんでいましたから、あれを多分一 般の家族の人がああいう姿を見たら、多分トラウマ になるじゃないですけど、何でしょうね、とてもそ
れで最後まで見届けるなんてことはできないでしょ うし、亡くなった後もずっと悔いが残るんじゃない かなっていうのはすごく思いますよね。」と語り、「最 後に「もういいよ」って(母親に)言わせちゃった のはやっぱり後悔ですかね。言わせないであげられ るように、うまくしてあげたかったですよね」と自 身が医療者でありながら母親を【苦しませてしまっ た】という後悔を語った。
ケース 1 は、徒歩数分の近場であったが実母を約 1 年間通いで介護をして家で看取った。「私が分か らないうちに。本当に 30 分とかそこらの間に、「も う息がないですよ」って言われて、やっぱり何かもっ と話っていうか、声掛けももっとうんとしてあげた かったなって思いますよね」というように【もっと ケアしてあげたかった】と語った。患者自身は高齢 ということもありもともと意識レベルはよくはな かったが、もう少し声掛けをするなりもっとやって あげられたのではないかと語った。また、ケース 6-2 は、最期、息を引き取る時に連日の介護の疲れ からウトウトしている間に息を引きとってしまった ことを次のように語った。「不覚にも寝てしまって、
あって思ったときに、あれ、呼吸してる ? って思っ て見たときに、してなくて、そこが一番、ああ、完 全に看取ってあげられなかったっていうのかな。い つの間にかっていう、そこがすごく心残りで」とい うように【もっとケアしてあげたかった】という後 悔を語った。
このように対象者から【苦しませてしまった】、
【もっとケアしてあげたかった】といった≪後悔≫
が明らかとなった。
4)経験を今後に生かす
自身が医療従事者でありながら最期、母親を苦し めてしまったことの後悔を語ったケース 7 は、「今 度は訪問看護師として、やっぱり同じことはしちゃ いけないっていうとあれですけど、ご本人もそうだ し、何よりあの現場を見た家族の人たちに多分辛い 思いを残すんじゃないかなと思うので、そこはこれ からの(訪問看護師としての)課題だなっていうふ うにはすごく思うんですね」、「ちょうど母がこうい うことを宿題として置いていってくれたっていうの も、何かあるのかなっていう気がするので、やっぱ りもうちょっと、なんでしょうね、突き詰めて勉強 したいなって。たとえば麻薬のことについても」と
【この経験を仕事に生かす】ということを語った。
このように家族は、看取りの経験を≪経験を今後 に生かす≫と捉えていたことが明らかとなった。
Ⅴ.考 察
1. 在宅で看取りを行った家族の特徴
本研究の対象者は在宅で看取りを行った家族(遺 族)であるが、フルタイムで働いている家族は 2 名 のみであり、その他は主婦業や自営業、無職であり、
ある程度、時間が自由になる立場の家族が多かった と言える。ケース 9 は自営業を一旦休業しての介護 であり、ケース 10 は母親の介護のためにフルタイ ムの職を辞めて無職になった。ある程度、時間が自 由になる対象者が、インタビューという時間のかか る調査に協力してくれたとも考えられなくはない が、在宅ケアの制度が充実してきたといっても主介 護者がフルタイムで働きながら在宅で看取るという のは厳しい状況であると言わざるを得ない。
在宅ケア期間では、ケース 7 の場合は在宅で看 取ったのが難病患者であり 3 年と長期にわたった が、患者の身体の自由が利かなくなり病状も安定し なくなった死亡前数週間が通いで集中的に介護にあ たったという事情がある。がん患者の看取りの場合 は、数週間から数ヶ月と期間が短いのが特徴的で、
半年以上という場合は、患者が高齢者であったとい うことや在宅期間中に何度か入退院を繰り返してい たことも要因として挙げられる。がん患者の場合は、
高齢者の場合と比べて ADL が亡くなる数週間まで 保たれていることが多く15)、在宅ケアの期間が短 いのが特徴だと考える。
さらに今回の対象者には看護師が 2 名含まれてお り、患者のケアに不安が少なかったこと、患者の病 状の変化とそこで必要になるケアの見通しがつくとい うことは、在宅で看取るうえで重要な要因であるが、
それ以外の対象者は医療職でなくとも実際に在宅で 看取れているため、介護や看取ることに対する不安 に援助があったからこそ看取れたのだと考える。
2. 在宅での看取りの両義性
在宅で患者を看取った家族は、看取ることが出来 たという満足感とともに介護の大変さを経験したり後 悔の気持ちを抱いたりしていた。在宅で看取るとい う負担や不安の大きな仕事を成し遂げられたからこ そ【看取り後の満足感】が生まれるのであり、これ らは表裏の関係であると言える。先行研究16)17)か らも死別後の家族は、介護中の苦悩や困難を経験 しながらも、その苦難を乗り越えたという達成感を より強く感じると報告されていることから裏づけられ る。在宅で看取った家族が、介護の大変さよりもや りきったという満足感を感じられるためには、医療・
福祉職者といった専門職者から技術的にも情緒的に も適切な援助を受けられたと感じられることや、他 の家族員などから助けてもらったといった思いがなけ れば、介護の大変さや大切な家族が亡くなっていく 辛さやもっとやってあげられたのではないかという後 悔だけが際立ってしまい、結果として在宅での看取 りは悲惨な思いしか残らないといったことにもなりか ねない。そのためには、できるだけのことはやってあ げられたと家族が思えるような支援が必要であるが、
その前提条件として、症状コントロールが困難である がん患者に対して緩和ケアの技術を用いていくことが 重要である。特に身体的苦痛がコントロールできな ければ、せっかく在宅に戻ってきても苦しい思い出し か残らなくなってしまい、後悔だけを家族に残してし まう結果になりかねない。ケース 7 の場合は、看取っ た家族はがん患者ではなかったが難病患者特有の身 体の痛みに対して適切なペインコントロールがうまく いかず、その点において家族が後悔を残す結果となっ てしまった。そのため症状コントロールは、在宅で看 取ってよかったと家族に思わせるためには必須条件 であるばかりか、看取られる患者に対しても必要不 可欠な要因であることは間違いない。
看取りの経験は、家族にとって介護に対するスト レスや負担、愛する家族を失うという不安が大きい。
そのため介護負担や看取りに伴う不安を少しでも軽く しなければ在宅での看取りは実現しない18)19)と言 われている。そのため、今回、明らかになった【介 護と生活の両立の困難さ】【気が休まる時がない】【排 泄の世話】【夜寝れない】【お金がかかる】【よくなる わけではない虚しさ】【患者がわがままを言う】から 表された≪介護の大変さ≫の現実を医療・福祉職者 が認識して、その現実に援助の手が差し伸べられる ように支援していくことが大切である。
一方で、家族は看病の経験を自己の成長に結びつ け意味を見出す経験であるともとらえている20)21)。 家族が死別後に成長できたと思える経験であり、故 人の自宅療養の希望、看取りの覚悟、患者との絆の 深まり、亡くなる時の安らかさと関連が深いと指摘 されている22)。今回、明らかになった≪看取りの 満足感≫の中にも【患者が苦しまずに亡くなること ができた】というのは、亡くなる時の安らかさと同 様であると考える。また、故人の自宅療養の希望と いうのは、在宅で最期まで【患者に普通の生活がさ せられた】や【好きなことをさせられた】というこ とと関係しているとも考えられるため、家族が≪看 取りの満足感≫が持てるということは、看病の経験
を自己の成長に結びつけ意味を見いだす経験になる とも言える。
そのため、在宅で看取るという経験が≪介護の大 変さ≫や≪後悔≫よりも≪看取り後の満足感≫が勝 るように援助していくことが大切である。
3. 後悔を今後に生かしていく
今回、インタビューに協力してくれた家族の多くは、
もっと患者のためにやってあげられたのではないかと いった心残りがないわけではないが、それ以上にや るだけのことはやったという自己肯定感の発言が目 立った。それは、本研究が在宅で最期まで患者を看 取った家族を対象としているため、介護の大変さより も、その困難を乗り越えられたという達成感が≪看 取り後の満足感≫として表れているのだと考える。在 宅での看取りを経験した家族の 7 割は満足感を抱い
ている23)24)という報告からも裏付けられる。反対
に言えば、在宅で看取ったけれども看取りの満足感 よりも介護の大変さや辛さのほうが際立っている家 族は、紹介の段階で研究の対象からは自然と除外さ れている可能性があると考えたほうがよいのかもし れない。そして今回の対象者には含まれていないが、
在宅で最期まで看取れなかった家族の場合も、介護 の大変さや看取りの辛さのほうが達成感や満足感よ り勝ってしまっているケースが多いのではないかと考 えられる。つまり、最期まで在宅で看取れなかった というのは、介護の問題や看取りの辛さの問題など を抱え、在宅ケアの中では対処できなかったというこ とになるのではないかと考える。
しかし、まったく後悔も心残りもないような看取 りというのは現実にはないと言えるので、前述した ように在宅で看取るという経験が≪介護の大変さ≫
や≪後悔≫よりも≪看取り後の満足感≫が勝ること が大切なのではないかと考える。さらに、患者を看 取るという経験が家族の成長につながる25)26)ので あれば、看取りにもたらされる困難や心残り・後悔 といった負の側面が、家族の成長に貢献するとも言 える。そのように考えると、自身が訪問看護師でも あるケース 7 が、明確に看取りの≪経験を今後に生 かす≫と語っていたのは、自身が医療者であるにも 関わらず、最期、薬の調整がうまくいかず母親を苦 しめてしまった経験があったからこそ、「母親が宿 題として置いていった」ものを自身の仕事に生かし ていくという思いにつながっていったのだと考え る。自己のライフヒストリーの経験から同じ苦痛を 患者・家族に与えないということが、訪問看護師と
しての責務として捉えているのだと言える。さらに ケース 7 が、最期、身体的な苦痛で母親を苦しめて しまった後悔があったとしても、それまでの数年間、
自宅で母親が自分らしく好きなことをして過ごすこ とができた事実があるからこそ、後悔をバネにして 自らの仕事でもある在宅ケアを推し進めていこうと いう思いにつながっているのだと思われる。ここで も在宅で看取るという経験が≪介護の大変さ≫や≪
後悔≫よりも≪看取り後の満足感≫が勝ることが重 要であると考える。
4. 看護への応用
末期状態であっても症状が落ち着いていれば、住 み慣れた家で過ごしたいと考える人が多いという事実 があるにも関わらず、希望と実際の間にはギャップが あると言われている。その原因の一つとして、看取る 家族の介護負担や看取りに伴う不安感があると考え る。しかし、今回、明らかになったように在宅で看取 ることのできた家族の思いには、≪看取り後の満足感
≫があり≪介護の大変さ≫や≪後悔≫の思いより勝っ ていたと考える。そのため看護師は、家で看取ること に肯定的な側面があることを在宅ケアを開始する以 前や最中に家族に伝えることが必要だと考える。しか し、在宅で看取ることの肯定的な側面を看護師自身 が自信をもって伝えることができなければ、それはた だの理想論となり家族には伝わらない。家族に伝え るということは、何も言葉のみではなく看護師の態度 から滲み出るものでもあり、看護師の死生観や看護 観が現れるものであると言える。つまり、看護師自身 も在宅の看取りに意義を見出していないと、それはた だの表面的な言葉で終わり、家族や患者を支えるこ とはできない。在宅で看取るといったん決めたとして も終末期患者をケアする家族の思いはゆらぐ27)ので あり、そのゆらぎに寄り添いながらも在宅で看取ると いう意義を看護師がしっかりともっていないと、家族 のゆらぎに巻き込まれて結果的には在宅で看取れな いことにもつながってしまうと考える。そのため看護 師の死生観や看護観の構築が重要となる。
さらに、今回、家族の中に≪介護の大変さ≫や≪
後悔≫の思いがあるのが明らかとなった。明らかと なった≪介護の大変さ≫の中身に具体的に支援が行 き届くように配慮することや、できるだけ家族に≪後 悔≫させないためにも患者の症状コントロールをきち んとすることはとても重要である。さらに『もっとケア をしてあげたかった』という思いに寄り添いながらも 十分にやっていたということを家族に言葉で伝えてあ
げることも、一番辛い時期を一緒に過ごした看護師 だからこそできるグリーフケアであると言える。
5. 研究の限界と今後の課題
16 名(15 ケース)の対象者からのインタビュー 内容からの分析であり、1 名を除きがん患者を看 取った家族が対象であった。今後は、がん患者ばか りでなく難病患者や高齢者を在宅で看取った家族、
または、在宅でケアしていたが何らかの原因で看取 りは病院になったケースなど、対象者を増やしてい くのが課題である。
Ⅵ.結 論
在宅で看取った経験のある家族 16 名(15 ケース)
にインタビューを行い、その内容を分析したところ、
家族は≪看取り後の満足感≫、≪介護の大変さ≫、
≪後悔≫、≪経験を今後に生かす≫の 4 つの思いを もっていることが明らかとなった。在宅で看取った 家族は、看取ることができたという≪看取り後の満 足感≫とともに≪介護の大変さ≫や≪後悔≫の思い を抱いており、在宅での看取りには負の側面と肯定 的な側面の両方の思いがあることが明らかとなっ た。そのため≪看取り後の満足感≫が、≪介護の大 変さ≫や≪後悔≫より勝るように援助していくこと が必要であると考える。看護への応用として、在宅 での看取りの肯定的な側面を患者・家族に伝えるこ とができるような看護師の死生観・看護観を構築す ることが必要だと考える。
謝 辞
本研究を行うにあたり調査にご協力いただきまし た調査対象者の皆様 , 施設関係者の皆様に心より感 謝申し上げます。本研究は , 平成 25 年度帝京科学 大学教育推進特別研究費 , および平成 26 年度 JSPS 科研費 26463359 の助成を受けて実施しました。
文 献
1) 厚生労働省人口動態調査:5-21 表 . 死亡の場所 別にみた主な死因の性・年次別死亡数及び百 分率 , 平成 24 年度 , e-stat,http://www.e-stat.
go.jp(閲覧日 2015/2/20)
2) 厚生労働省:第一期医療費適正化計画の実績に 関する評価 , 平成 26 年 10 月 .
3) 大西奈保子(2010):在宅医療におけるホスピ スケア~実現に向けての教育とシステム構築の 提案 , 平山正実編著 , 死別の悲しみから立ち直
るために(臨床死生学研究叢書 2), 101-128, 聖 学院大学出版会 , 埼玉 .
4) 岡部 健(2013):家で死を迎えるということ , 奥野修司 , 看取り先生の遺言 , 130-170, 文藝春 秋 , 東京 .
5) 終末期医療に関する意識調査等検討会:終末期 医療に関する意識調査等検討会報告書、厚生労 働省 , 平成 26 年 3 月 .
6) 福井小紀子:入院中の末期がん患者の在宅療養 移行の実現と患者・家族の状況および看護支援・
他職種連携との関連性の検討 , 日本看護科学学 会誌 , 27(3): 48-56, 2007.
7) 島田千穂 , 近藤克則 , 樋口京子他:在宅療養高 齢者の看取りを終えた介護者の満足度の関連要 因−在宅ターミナルケアに関する全国訪問看護 ステーション調査から、厚生の指標 51(3):
18-24, 2004.
8) 桂 晶子、佐々木明子:在宅介護終了後の家族 介護者の達成感・満足感および空虚感と死別前 要因との関連、宮城大学看護学部紀要、9(1): 1-9, 2006.
9) Grbich C, Parker D, Maddocks I.:The Emotion and Coping Strategies of Caregivers of Family Member with a Terminal Cancer, Journal of Palliative care, 17(1): 30-36, 2001.
10) Koop PM., Strang VR.:The bereavement experience following home-based family caregiving for persons with advanced cancer, Clinical nursing research, 12(2): 127-144, 2003.
11) 佐野知美、草島悦子、白井由紀、他 7 名: 在 宅終末期がん患者家族介護者の死別後の成長 感と看取りに関する体験との関連 , Palliative Care Reserch 9(3):140-150, 2014.
12) Worden J.W. / 鳴澤實監訳:グリーフカウンセ リング―悲しみを癒すためのハンドブック , 川 島書店 , 東京 , 1991/1993.
13) Harvey J.H. / 安藤 清志監訳:悲しみに言葉を
―喪失とトラウマの心理学 , 誠信書房 , 東京 , 2000/2002.
14) Corbin J. & Strauss A. / 操 華 子 , 森 岡 崇 訳: 質的研究の基礎~グランデット・セオリー 開発の技法と手順 , 第 3 版 , 医学書院 , 東京 , 2008/2012.
15) 恒藤 暁:図 1-9 日常生活動作の障害の出現か らの生存期間(206 例), 最新緩和医療学 , 大阪 , 20, 1999.
16) 前掲 9)
17) 前掲 10)
18) 山口小百合 , 柳原清子:在宅ターミナルケアに おける家族の「死の看取りのプロセス」の構造 化 , 新潟大学医学部保健学科紀要 9(1):45-56, 2008.
19) 堀井たづ子 , 光木幸子 , 嶌田理佳他 1 名:在宅 療養中の終末期がん患者を看病する家族の心情 と療養支援に関する質的研究 , 京都府立医科大 学看護学科紀要 , 17:41-48, 2008.
20) 平 典子:終末期がん患者の家族が看病に見 いだす意味 , こころの看護学 , 3(4): 313-320, 1999.
21) 横田美智子 , 秋元典子:在宅で終末期癌患者を 介護した家族の体験 , 日本がん看護学会誌 , 22
(1):98-107, 2008.
22) 前掲 11)
23) 前掲 7)
24) 前掲 8)
25) 前掲 20)
26) 前掲 21)
27) 柳原清子:癌ターミナル期家族の認知の研究~
家族のゆらぎ , 日本赤十字武蔵野短期大学紀要 第 11:72-81, 1998.