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星 順 子

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(1)

ー横浜市家庭保育福祉員への聴き取り調査より一

I.はじめに

II.家庭的保育の推移と現状 1.制度としての成立と発展 2.家庭的保育の特徴

(1)ボランティア精神に基づいた保育 (2)家庭における個別型保育

III. 家庭的保育における子どもの人間関係

ー横浜市家庭保育福祉員への聴き取り調査一 1.調査目的

2.調査対象 3.調査方法 4.結果と考察

(1)子どもと保育者・保育者と保護者との関わり (2)子ども同士の関わり一きょうだいのような関係 (3)子ども同士の関わり一末子・中間子・長子経験 (4)子どもと保育者の家族との関わり

(5)子どもと近隣の人々との関わり 5.聴き取り調査のまとめ

IV.結論

星 順 子

(2)

I.は じ め に

班者は、実子S男の保育を民間の家庭的保育に16ヶ月間依頼した経験を持つ。未熟児であっ S男は、保育所での0歳児クラスでの生活に体力的に適応できなかったために、 13ヶ月時 から家庭的保育に変更したのである。家庭的保育では、生活リズムをS男に合わせてもらった ため、彼の体力はめざましく回復していった。保育を受ける中で筆者は、保育先での子どもの 人間関係の多様さに驚きを感じた。保育者を中心として、その家族、離れて住んでいる保育者 の両親、保育者の実子(女児・小学1年生)を中心とする団地の子ども達(男児・女児が入り 交じり、年齢も1歳児から小学校中学年くらいまで)、 S男以外の受託児との交流、また、その 子どもたちの親との関係、といったようなものである。それらの人間関係は主に保育者の保育 日誌の記述から読みとることが出来たが、 S男の送迎をしている内に、筆者にも周囲の人々が 声を掛けるようになった。また、保育者と筆者との関係も、保育を提供する側と受ける側といっ た枠にとらわれない関係であった。夕方子どもを迎えに行った折に、保育者と交わす会話は筆 者にとって非常にほっとする時間であったことが印象的である。また、急に保育時間の延長を、

しかも保育終了時の直前に申し込んでも柔軟に対応してくれる保育者は、非常に頼もしい存在 であった。

家庭的保育の経験の中で、筆者は、一昔前の社会で、子育てをする場合にそれを支援してい た地縁・血縁関係が、家庭的保育の保育者とその家族との間の関係に似たものであったのでは ないだろうかと感じていたのである。現在、家庭の育児能力の低下、人間関係の希薄化が社会 問題とされているが、これらの問題を克服する一つの方法として、家庭的保育が挙げられるの ではないだろうか。 15年ほど前に原りは、「家族は崩壊ー消滅の危機に瀕しているのか?家族 はいずれ消滅するのか?」といったテーマで、世界の様々な地域のフィールドワークを通して、

家族のあり方の多様性を紹介した。筆者は、家庭的保育の中に疑似家族を感じ、育児能力の低 下と人間関係の希薄化の叫ばれる現代においては、これも多様な家族のあり方への一つの方向 性といえるのではないかと考えたのである。

そこで兼者は、地方自治体による家庭的保育の制度的な経過を概観し、家庭的保育の実態及 びそこにおける子どもの人間関係を調査するために、横浜市の家庭的保育に従事している家庭 保育福祉員対象に聴き取り調査を行った。

II.家庭的保育の推移と現状 1.制度としての成立と発展

家庭的保育は、発足当時、国による昼間里親制度であった。この制度は、 1948(昭和23)年 3月厚生省事務次官通知として「家庭養育運営要綱」の中で、児童福祉法に規定されている里 親制度の一部門として「乳児又は幼児等を昼間預かる里親」として制定されている。「里親」と

70 

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位置づけたのには、集団保育としての児童養護施設に対して個別対応の里親があり、同じよう に保育所に対して昼間里親を設けて、国レベルで「保育に欠ける」子どもに対して形態の異な 2種類の保育制度で対応しようとしていたことが考えられる見

また、翌1949(昭和24)年6月には、児童福祉法の第三次改正が行われ、第24条の但し書 き「付近に保育所がないなどやむを得ない事由があるときは、その他の適切な保護を加えなけ ればならない。」に昼間里親が該当するとし、保護措置の一つとしての位置づけがなされたので ある3)

しかし、国としての昼間里親制度には経費的裏付けがなく、保育労働に対して報酬面での制 約をもうけ、昼間里親自体をボランティアとして位置づけた。このことが制度の普及に歯止め をかけ、 1987(昭和62)10月、「家庭養育運営要綱」が改正されると、昼間里親に関する 規定は削除されたのである。

国の昼間里親制度とは別に、 1950年代から大都市周辺の自治体はそれぞれに条例・規則・要 綱などで条件を規定して、家庭的保育制度を独自に開始している。主な自治体がそれぞれの要 綱等の中で家庭的保育制度の目的を明らかにしているが、児童福祉法第24条但し書きの保育所 の地域的偏在によって保育を受けられない理由以外に、注目すべきいくつかの目的が掲げられ ている。

神戸市や大阪市における家庭的保育制度の要綱には、児童福祉法に基づく保育所の機能を補 ぃ、特に1歳未満児の健康で安全な保育をはかること、保護者の病気や突発の急用によって臨 時に看護に欠ける子どもの保育をはかること等が盛り込まれている。家庭的保育制度の目的は、

保育所の地域的偏在を補うこと以外に、低年齢児保育・緊急一時保育等のニーズに応えるもの であったことが考えられるのである丸

また、各自治体の要綱等では、預かる側の条件等が決められている。それらの内容は、おお むね以下の通りである。すなわち、年齢 (20 60歳)、資格(教員・保育士・看護婦・助産婦・

保健婦等)・子育て経験(しかし、預かる時点では乳幼児がいないこと)の必要性、 6畳程度の 保育室の確保、受託人数や年齢 (3歳未満児の場合3人まで可)、保育料等である。

各自治体による補助・助成も全国を通して一律ではないが、家庭的保育を児童福祉法第24 但し書きによる措置制度とするか単なる補助事業にするかによって大きく異なる。東京都の場 合は、措置制度を希望したが、通らずに、認定という形になった経緯がある。全国的には1 円未満から3万円代の助成額が平均的なものであった。

東京都を例に取れば、この制度はボランティア精神に支えられた保育という考え方を基本と していた。保育料金は、補助金がなかったために保育所より高く、保育者の収入は保育所保育 士より安いものであった。家庭的保育の保育者をボランティアとして位置づけることは、東京 都だけにとどまらず、全国的に多くみられていた。

(4)

家庭的保育制度の実施状況の推移については、福川らが1998年に調壺を行っている5)1 参照)。家庭的保育制度を実施する自治体は、保育所不足が深刻化する1960年代から徐々に増 え始めている。

1.家庭的保育制度の推移

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_ 制 度 創 設

―....ー_•[保育望新規募年集停些—本一制度廃止・保育者現員無し

(上村康子、福川須美、 1998年より)

1963年の中央児童福祉審議会保育制度特別部会における「『保育問題をこう考える』ー中間 発表」では、両親による家庭保育や母親の保育責任などが強調されていた。この時点から、保 育所不足問題は大きな社会問題と発展していった。しかし、 1967年に革新都政が誕生し、その 翌年に保育所増設とともに全国に先駆けて無認可保育所対策・保育時間延長対策・零歳児保育 対策の実施が掲げられ、全国レベルでも保育所緊急整備五か年計画も立てられたのである。こ の五か年計画には、それまで認可保育所の乳児保育等の補完的役割を果たしてきた小規模(定 員60名以下)無認可保育所をある程度認可する方向性が打ち出されるようになってきたのであ る。家庭的保育は1970年代が最盛期であるが、保育所を増設するよりも安価に多様な保育ニー ズに応えるものとしてこの制度を実施する自治体が増えたものと考えられる。家庭的保育の認 可保育所の補完としての位置づけは、各自治体の制度創設以来脈々と息づいており、福川らの 1998年の全国調壺でも、「低年齢児保育の補完」が68.3%、「認可保育所の数的補足」が13.4

%を占めている見

72 

(5)

1975年に石油ショックが起こり、高度経済成長に転機が訪れ、各地の保育所の定員割れや、

それに伴う保育所の適正配置が問題となった。 1980年代に入ると都市部を中心に多様な保育 ニーズに対応するベビーホテルが急増し、社会問題を引き起こしていた。しかし家庭的保育制 度では、新規募集停止や制度廃止を行う自治体が急速に増えているのである。

1990年には、東京都児童福祉審議会が次のような答申を出した。「複雑化・多様化する保育 需要に対応する新しい社会的保育の展開において、現在の保育室・家庭福祉員を認可保育所と 並ぶ選択肢の一つとして将来も位置づけることは望ましくないと考えられる」。この答申を受け て、家庭的保育を利用している親たちが、制度の存続と発展を求める嘆願を都議会に提出する 等の運動が展開された。また、保育者同士の連携もとられるようになり I全国家庭的保育ネッ トワーク」が1992年に結成された。これらの運動により、全国で家庭的保育制度は新規募集 や入所児募集広告の広報掲載、保育者の欠員補充等、制度の再開、改善の道が開けたのである。

その後も、マスコミに取り上げられ、家庭的保育を紹介する本「応援します働くお母さん一 我が家は地域の子育てパートナー7)」が出版されるなかで、全国的に大きな反響を呼び、自分 の居住地域にこの制度があるのかについて、また、新しくこの制度を開設したい自治体からの 問い合わせが相次いだのである見

一方、 1989年に、全国の合計特殊出生率は丙午の年 (1966年)を下回り 1.57となった。こ のことは「1.57ショック」として少子化への社会の関心が急激に高まることになった。その 後、この少子化傾向に歯止めをかけようと、 1994年のエンゼルプランに基づいて、「緊急保育 対策等5か年事業」等の子育て支援施策が行われるようになってきた。同じく 1994年厚生省 は、「児童関連サービス研究会報告書」の中で認可外保育施設に関して「保育ニーズが多様化、

高度化する中で、その仕組みや現状から公的サービスが対応していない多様かつ個別的なニー ズに対応する形で、成長してきている」と評価し、その振典策に着手している。かつては劣悪 であると評価されがちであった認可外保育施設であったが、 1990年代には転換期を迎えたと い え よ う 叫

その後、 199912月には、「緊急保育対策等5カ年事業」を拡充発展させた「重点的に推進 すべき少子化対策の具体的実施計画」(新エンゼルプラン)が策定された。「保育サービス等子 育て支援サービスの充実」に始まる8つの施策目標の中で、家庭的保育は応急的暫定策として の入所待機対策と位置づけられている。そして、家庭的保育には「個々の保育者による質のバ ラッキなどのデメリット」があるために、保育者の資格や保育所との連携についての要件を定 める、としている。保育所との連携に置いては、地域の保育所が家庭的保育の保育者の斡旋や 巡回指導を行うこととし、保育所入所待機児には、保育所が家庭的保育を斡旋するのである。

エンゼルプラン以降、保育所以外の保育や育児支援事業にも肯定的な意味合いを持たせる動き

(労働省によるファミリーサポートセンターなど)がみられるようになってくる中、家庭的保育

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に関する評価の低さが注目されるところである。

2.家庭的保育の特徴

(1)ポランティア精神に基づいた保育

大阪市における家庭的保育に関する規定「大阪市政要覧 (1963年版)」において、家庭的 保育の保育者が「篤志家の家庭」と記述されていることで推察し得るように、各地方自治体 ごとに実施されている家庭的保育では、ボランティア精神に基づいた保育という精神に支え られている場合が非常に多いのである10)。家庭的保育は特にそのニーズが乳児保育において 高いが、乳児の場合、乳幼児突然死症候群 (SIDS)等予測のつかない危険性を芋んでお り、ボランティアといった位置づけとその実務内容の責任の差があまりに大きいのではない かと考えられる。

また、福川らによる地方自治体へのアンケート (1992)結果から、家庭的保育の今後の方向 性に関する質問について、「乳児保育の需要は高まっているので、認可保育所の補完としての存 在意義がある」とする自治体が全体の53%、「認可保育の拡充で必要なくなる」が13%であっ た。これは、家庭的保育が独自の保育制度・形態としてではなく、あくまで保育所を補うため のものとして認識されている傾向が強いことを示している11)。しかしその一方で、家庭的保育 では、保育所保育士よりも保育時間が長く、乳児や病児の保育を行うといった場合もあるため に、労働的に過酷で危険と隣り合わせの条件の下におかれており、ボランティア精神によって 行われる、認可保育所の補完的・過渡的な存在、という認識とはかけ離れた実態である、と福 川らは指摘している。

(2)家庭における個別型保育

保育所側の家庭的保育に関する認識については、網野らの行った調査12)から明らかになっ ている。それによると、保育所が家庭的保育に対して「同じ保育者として保育を共に担ってい く必要がある」と認識している割合は69.7%であった。また「保育所の果たせない役割を持つ ことが重要」とする割合は62.6%、「保育所の役割を補完することが重要」の割合が49.5%

「公的に助成や補助が行われることは望ましい」が59.6%、「このような保育が広がることは、

子育て支援につながる」が60.3%を占めている。しかし、「個別的保育の密室性の弊害がある」

33.7%、「個別保育に関する専門家、エキスパートが多い」についてそう思わないと答えた 割合が43%台となっている13)

以上のことから、保育所は家庭的保育をおおむね肯定的に受け止めていることが推測される。

62.6%を占める「保育所の果たせない役割を持つことが重要」と49.5%の「保育所の役割を補 完することが重要」については重複回答が考えられるものの、最低でも13.1%の回答者が保育

74 

(7)

所の補完以外の役割が家庭的保育にはあると認識していることが推測できる。しかし、「個別的 保育の密室性の弊害」や「個別保育に関する専門家」の問題については懸念していることが窺 われ、家庭的保育の専門性を確立し、その保育の形態上避けて通ることのできない密室性の問 題についても、軽減できる何らかの方策を採る必要性に迫られていることが明らかである。保 育所は「同じ保育者として保育を共に担っていく必要がある」と 7割近くが考えており、保育 所・家庭的保育が連携する事により、交流保育・オープン保育などによって密室性の問題を軽 減していく可能性を示しているのである。

前述したとおり、家庭的保育は歴史的に保育所の補完的役割をボランティア精神で果たす、

といった位置づけがなされてきた。家庭的保育の保育者がその専門性を確立することにより、

ボランティア的位置づけから家庭における個別保育という独自の位置づけを獲得することは非 常に重要な意味を持つのである。すなわち保育所保育は、保育所という施設で子どもの集団を 対象に行われる保育である。そこでは、存在する子どもの数が多いことから、子ども同士の人 間関係ダイナミクスが個々の子どもの育ちに大きく影響するし、活動もグループ単位、クラス 単位といった大人数で行える活動を多く盛り込むけとができる。家庭にいるだけでは出会うこ とのできない人数の子ども同士の出会いも、そこでのダイナミックな活動や気の合う仲間同士 の密度の濃い関わりも期待することができる。しかし一方、個々の子ども達が保育所での生活 に自分を合わせていかなければならない性質を持っている。また、入所したての時期の、特に 低年齢児では、次々に感染症を経験する可能性が高いといった点も避けて通ることのできない 側面である。

一方、家庭的保育を考えると、少人数保育のため感染症の心配はそれほど深刻ではない。保 育者の家庭に子どもがいる場合であれば(子どもが7歳以上でないと保育できない場合が多い が)、子ども間にきょうだいのような関係が生まれ、単なる異年齢の友達以上の深い人間関係を 経験することができる。また、保育者と親の間の信頼関係も深く強いものになる可能性が高く、

昔の地縁関係を思わせるようなつき合いにつながることもあるといえる。しかし、保育者の家 庭に子どもがいない場合や、公園や地区センター、図書館などが地理的に利用しにくい状況に ある場合、おもちゃや遊具の確保、また、子どもの加齢に伴う遊び友達の確保は深刻な問題に なりかねない側面も持つ。

このように、当然ではあるが保育所保育と家庭的保育は共にメリットとデメリットを持ち合 わせる。家庭的保育がその保育において独自の専門性を確立することは、どちらかがもう片方 の補完としての位置づけではなく、双方が対等な補完し合う関係を作りだすのに有効なのでは ないかと考えられるのである。それは、子育てしながら就労する親を支援するばかりでなく、

子どもの生活経験を広げる意味で、大いに効果があると考えられるのである。

ブルーナーはその著書14)の中て、イギリスの家庭的保育の保育者に当たるチャイルドマイ

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ンダーがその専門性等の問題を克服するために、チームを組んで保育をサポートける体制を提 案している。このチームは3つのレベルに分かれている。第一のレベルは、よりよく"子ども

を感受 する仕方で子どもを世話するマインダーの存在するレベルである。第二のレベルは、

「監督レベル」としてマインダーの経験者が各マインダーの家庭を訪問して、遊びの技術や子 どもとの相互交渉の方法のしかた、発達度を示す目安等についてマインダーと話し合いをする 訪問マインダーのレベルである。第三のレベルは、 10 15人の訪問マインダーが保健婦、精 神科医、児童心理学者、ソーシャルワーカーからサービスを受ける相談と紹介サービスを受け るレベルである。このように3つのレベルに関わる人々、すなわちチャイルドマインダー、訪 問マインダー、診断治療専門家がマインデイングチームを構成して、子ども達の保育に責任を 持つ体制を組むことが、マインデイング自体の質の向上や、マインダーがよりよき職業観を持 ち、自分の仕事を誇るべき職業として見なすことができるような効果を生み出す可能性がある というものである15)。このようにマインデイングチームを組んで保育にあたるという提案は、

日本の家庭的保育にとっても大いに参考になるものと考えられる。それは、保育の質、保育者 の職業観を向上させることに役立ち、他の保育機関との連携をはかる際にも、プラスに働くで あろう。

また、保育機関相互の連携に関する問題は、単に保育所と家庭的保育だけのものではなく、

民間非営利団体・民間企業・ボランティア等、さまざまな保育サービスと相互に連携をとるよ うな事態になった場合にも有効なものとして機能するであろう。また、それぞれの保育サービ スを享受している子ども達ふ相互の連携によりその生活経験の幅を広げることが可能となり、

単に家庭的保育の密室性の問題を軽減するといった事態のみに止まらないことが考えられるの である。

皿 家 庭 的 保 育 に お け る 子 ど も の 人 間 関 係

ー 横 浜 市 家 庭 保 育 福 社 員 へ の 聴 き 取 り 調 査 一 1.謂査目的

s

男の事例から家庭的保育における子どもの人間関係は、施設型保育に比べて多様性を含む のではないかと仮説を立てることができる。本稿では、横浜市の家庭的保育の実態を把握し、

子どもの人間関係の多様さについての実態を明らかにすることを目的とする。

2.調査対象

横浜市家庭保育福祉員全体のうち依頼可能な10名を無作為に選択した。その年齢構成は、 30 代後半から60代に及び、概ねが保母資格、もしくは保母資格と幼稚園教諭二級免許を有してい

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る。家庭保育福祉員としての経験年数は、 7ヶ月から21年に及ぶが、 1年に満たない者は1 18年・21年が1名ずつで、その他は3年から9年ほどである。また、対象者の殆どは、家庭保 育福祉員になる以前に5年から18年に渡り保育所もしくは幼稚園に勤務した経験を有する。対 象者の受託児数は、受託児3人が2 4人が1 6人が7名である。

3.調査方法

調査日時: 20007 8月中に、各1時間から 1時間30分ずつ行った。

調査場所:各家庭保育福祉員の保育場所(自宅と保育場所の異なる者を含む)

調査は、質問面接法により行われ、下記のような項目毎に質問した。

①各家庭保育福祉貝の取得資格・保育経験・受託児数等と一日の流れについて。

②「家庭的保育における遊び」について: (少人数保育であること、異年齢混合であること、保 育の場が家庭であること等が遊びにどのような影響を与えていると思われるかについて。)

③「家庭的保育における生活」について:(家庭で保育することが子どもの生活面に与える影響、

子どもが家事的な活動を行っているか等について。)

④「慣らし保育と子ども一保育者関係」について: (慣らし保育の実態、少人数保育であること が子どもと保育者の関係に与える影響、保育所保育士と家庭保育福祉員との役割的な違い等 について。)

⑤子どもの人間関係について: (少人数保育であること、異年齢保育であることが子ども同士 の人間関係にどのような影響を与えるか、保育時間中に家庭的保育を受けていない子どもと の接触の有無やその実態などについて。)

⑥家庭的保育の保育内容全般におけるプラス面と今後の課題について。

横浜市の家庭的保育注1)の概要を把握するため、聴き取り調査の回答は出来るだけ自由な形で 行った。家庭保育福祉員の回答は、筆者のメモと同時にテープレコーダーによって録音された。

本稿では、回答の中から家庭的保育における子どもの人間関係に関するものを抽出し、整理 した。

4.結果と考察

(1) 子どもと保育者・保育者と保護者との関わり

これ以降の通し番号に続く小さい文字による記述は、保育者の報告である。

1‑a

子ども達がこの保育に慣れるのが早いですね。保育開始後に、子どもが泣いたとしても殆ど一週間で泣きやみ ますよ。子ども達にしてみれば、「家から家に来る」っていう感覚なんで、早く慣れるんだろうって思っています。

(10)

それに、泣く子の方が稀なんで、泣いている子は「何で自分だけ泣いているんだろー」ってなるみたいなんです よ。みんながみんな泣いているとつられてしまうんですけどね。

3月の契約更新時に、ママと何度も遊びに来てもらうようにしてるんですよ、 1時間とか2時間とか。その時に は、他の子どもたちも一緒に仲良くしているんで、それがいいのかもしれませんけど。

保育開始時に、子ども達が不安を覚えて泣き出すことは、いかなる保育施設でも非常によく 見られる現象である。そのため、保育が開始されてから一定の期間(特に保育所では、親の就 労条件により、入所前に実施する場合もある)、保育時間をごく短時間から徐々に延長していく 等、子どもを保育機関での生活に慣らす「恨らし保育」を実施している。子どもが保育現場と いう新奇場面に遭遇し、不安を覚える要因としては、親・養育者との分離、見知らぬ大人と子 どもの存在とその数の多さ、そして、建物・おもちゃ・絵本などが子どもにとって見慣れてい ない等の物質的要囚があげられる。

慣らし保育として、子どもが母親と一緒に保育開始前の3月中にできるだけ多く遊びに来る という方法は、他の保育者からも聞かれるやり方であった。保育の時間を徐々に延ばしていく 方法では、時間は短くても最初から母親と切り離す形で子どもを慣らしていく。付子が共に保 育の場に遊びに来る方法では、子どもたちは、犀親が保育者や他児に対してどのように行動し ているのかを参照しながら、自分の行為を決定している。舟親が安心して、周囲の人々と友好 的に関わっている場合、子どもも周囲の環境をスムーズに受け入れ、関わりを持つことが出来 るのである。この方法は、子どもにとって負担が少ないといえる。

また、《1‑a》で「家から家に来る感覚」と言われているように、特に低年齢児の場合は、

その建物に威圧されてしまう可能性もあるのである。保育の場が家庭であることは、子どもに とって不安を軽減することに繋がると考えられる。

1‑b

子どもたちとの関係が親密ですね。ずっと一緒なので。第二のお母さんみたいな感じですよ。保育所に行って いる頃は感じられなかったような、自分の子どもに対する様な愛情が感じられますね。とっても強いと思います。

だから卒業するときは、とっても辛いんですよ。「大丈夫、あの子はやっていかれる」と思うんですけど、気になっ ちゃって、気になっちゃって。保育時間に子どもたちみんなを連れて、卒業生の入所した保育園に見に行っちゃっ たりするくらいです。本当に、 3月は辛い時期です。

子どもとの関係が非常に親密になり、母親により近いような感情を抱くことは他の保育者か らも一様に聞かれることであった。

水津は、生後8ヶ月の家庭的保育の受託児と保育所入所児を対象に、観察を行った。その結 果、特定の保育者が視界から去ったための不安による泣きについて、家庭的保育の受託児の方 が保育所入所児よりも顕著に多いことを明らかにした。また、家庭的保育の保育者の方が子ど

78 

(11)

もの要求によく応えていることも多いことから、家庭的保育では、乳児が不快感情や欲求表出 である泣きを自由に表出し、保育者もこれに適切に応答していること、そのためには、少人数 保育であることが望ましいことを明らかにした16)

家庭的保育では、低年齢児を少人数保育しており、保育者が勤務時間による交代制を取らず に、保育時間中を一貫して保育するために、保育者との応答が密になり、子どもとの繋がりを より強めていると考えられる。

1‑c

子どもが急病になったので休むって電話かかってきたんだけど、お母さんおろおろしているのよ。「口の中にブ ツブツができちゃってて、何食べさせたらいいのか分からないんです」って言うから、気になるよね。そのお母 さん電話ですごく不安そうなのよ。ご主人は出張だって言うし、冷蔵庫の中身について聞いても答えられないの。

「これじやあ子どもが死んじゃう」って思ったから、「とりあえず水分だけは取らせてね」って言って、子どもた ちと笹飾りもって、散歩がてら、その子の家に行っちゃったわよ。途中でスーパーによって、口内炎でも食べら れそうなもの買ってね。

保育者と子どもとの関係だけではなく、その背景にある親との繋がりの強さを示すエピソー ドである。現代、家庭における育児力の低下が問題視されているが、それは、ただ単に親の育 児力の低下だけではなく、その親を支える地縁血縁の繋がりが激減していることも影響してい ることが考えられる。子どもの発病という親にとって非常に緊張する場面で、昔ならば心配す る親の背後に祖父母や、近所の知り合いの存在があり、様々な形で親を支えることが可能で あった。現代では、かつての地縁血縁集団が担っていた支援を家庭的保育の保育者が担ってこ

とを示している。

また、このような緊急時に散歩を病児訪問に当てることができるのは、家庭的保育のカリ キュラムが非常に柔軟なものであることに由来する。この訪問により、病児以外の子どもは保 育者の援助行動を体験的に学び取ることができるのである。集団保育の場では、このような経 験を子どもにさせることは大変難しいと思われる。母親の電話に、とっさの判断でこのような 活動を保育に盛り込むことができたのは、保育者と子どもやその親との関係、保育者の力量、

そして、柔軟なカリキュラムをくむことが可能である家庭的保育ならでは、ということができ るの、である。

1‑ d

家庭的保育では、子どもとの距離が近いように、お母さんとも近いんです。各お家の深い部分に入り込んでい くことが多くて、いろいろな問題があるとストレートに話に来られますね。子どものことだけじゃあなくって、自 分のこととか、会社での人間関係とか、夫婦げんかの話まで。ママ帰ってくると、言いたいこといっぱい抱えて

(12)

帰ってくるから、そこでね、ウワーと吐き出して帰る感じ。ここに捨てていくんです。みーんな、お母さん方そ うですね。そして、すっきりして帰れるんですよ。それが子どもにもいいし、お家の中もいいって、ホントにそ んななんです。もう、「よろず相談」、ホントに「子育て支援」なんですよ。

夕方子どもを迎えに行く時間は、親にとって勤務から開放されてリラックスした時である。

そのような時に気になっている問題を話してみたり、グチを漏らしたりすることのできる対象 が身近に存在することは、心強いことである。「夫婦げんかのことまで話題にする」という毅の 気軽さの一方、保育者はこれを「よろず相談」「子育て支援」と意識している。親達が気軽に間 題を相談できるような人間関係を意識して作ろうとしているのである。また、他の保育者から は、親が持ち込む話題からその家の現状が分かり、それが子ども理解や子どもとの関係性を作 る上で非常に菫要な情報となるということも報告された。

保育士が子どもに対して母親により近い感情を抱くと感じている背景には、保育者が子ども だけでなく、その親をも強力に支えていることも関係しているようである。

1‑e

うちから卒業した5歳になる女の子の在籍するH保育所から、人形劇の劇団が来るんで招待されたんです。そ こで子ども達を連れて行こうと思ったんです。そのうちの1人が、その卒業生と仲良しだったんです。卒業する 前は、いつも 2人くつついて、家中を走り回っていたんです。「お姉ちゃんに会いに行くよ」って言ったら、大喜 びで、その両親の方も喜んでくださったんですよ。ところが、当日の天気予報が雨だったんですね。雨だったら 保育所までどうやって子ども達を連れて行くのかってその子の両親も心配しているんですよ。私も心配している と話したんですよ。そうしたらその子のお父さんが、ご自分が車で皆を保育所まで連れて行くつて仰るんですよ。

やはり自分の子が楽しみにしていることでは協力を惜しまないという感じなんですね。そういう交流はすごく嬉 しいんです。

「子育て支援」と聞くと、支援する側とされる側の役割が固定しているような印象を受ける。

しかし、家庭的保育では全ての環境が必ずしも保育専用ではないために、上記のように保育者 サイドだけでは解決のつかない問題も起こるのである。そのような時には、親が協力を申し出 ることもあるようだ。このように、役割を固定化せずに、支援する、される関係が入れ替わる 関係は、親との間に「共に子どもを育てている」といった意識を生んでいる。子ども達が持っ てくる弁当を見ると、「お母さん、忙しいのに頑張っているなぁ」と共に子育てを担うものと して共感することを述べた保育者もいたのである。子どもとの強く深い関係の背景には、親た ちを強力に支援しているという保育者の意識と、その一方で子育てを共有しているという意識 も存在している。

80 

(13)

(2) 子ども同士の関わり一きょうだいのような関係

2‑a

きょうだい注2)関係が育っていきますね。今殆どの子が一人っ子ですから、そういう関係っていうのは、家庭 の中でもないですよね。家庭的保育ではそれが育っています。まあ、ちっちゃい子は何でもかんでも取り上げら れちゃう。それも、マイナスではないと思うんです。そうやって揉まれていくんですよね。だから決してマイナ スではないと思うんだけど、何でも取られちゃったり、ポカポカぶたれたりもするんですよ。そういうのが当然 あるんですよね。だけど、かといってホントにいじめているわけでもない。やっぱりいざという時にはもう、か ばい合って、上の子が下の子を守ってあげてるから、やっぱりけんかしながらも育っていってるっていうのがきょ うだい関係なんでしょうね。

2‑b

本当のきょうだいになっちゃってるんですよ。親しすぎると全然遠慮がないんですね。きょうだいげんかって すごいんですよ。引っ張ってみたり、蹴ったり。でもこの年齢だと全然尾を引かないんです。一回わ一つと泣い 、 2人でゴメンネして、ダメでしょ、って言われて、それでもう解決しちゃうようなものなので、またすぐくつ ついて遊ぶ。

人数がいっぱいいると、嫌だったらその子と遊ばないで済むんですよ。だからそうやって他のお友達を渡り歩 いちゃえばいいんだっていうこともあるし。それに、大きいところだと、本当に仲のいい子に行き着くまでに時 間がかかりますでしょ。

けんかイコール悪いなんていうことはないんですよ。謝って許すことが分かるとか、どれくらいのことをした ら相手が怒って危ないとか…。一応どういう風になるのか、こちらが始めから見ていますよ。危なくない限りは 止めませんし。結構派手にやってます。でもいいんですよ。皆さん一人っ子なんですから。貴重な経験だと思っ ています。

2‑c

同じ年月齢の男の子が=人いた時は、大変でした。派手に、派手にやり合っていたんですよ。そして、 3歳に なってうちから出ていって保育園に行ったら、「けんかできるお友達がいない」って言ってました。何か、遠慮し ちゃってできない。それがとってもストレスだったみたいで、「そこまで自分を出し切れない」って言って、ママ たちがよく家に連れて来ていました。

2‑a》に見られるように、年下の子どもは時として年上の子どもから不当な圧力をかけら れることがある。異年齢児混合保育にすると、この様な理不尽な事態の発生が多発するのであ る。一つ一つの理不尽な事態に子ども達は様々な形で反応していく。ある子どもはやられても きょとんとしている間に事態が終了してしまったり、やられて激しく泣き出したり、やり返し たり、大人に言いつけてみたり、といった様子が見られるだろう。はじめは無自覚な反応であっ た子どもが、経験を積み重ねながらトラブル対処の方策を身につけそれを克服していくことも

(14)

ある17)

近年における子どもの育ちに関する問題の一つに、人間関係の希薄さが挙げられる。他人と の関係が深いものになるには、直面する葛藤やぶつかり合いを避けずに、克服していく過程が 必要になってくる。しかし、核家族や一人っ子のために日常的に関わる人数が少なくなり、対 人的な癌藤を経験をする機会は減少しているのである。また、大人の側にけんかは悪いもので 他人とは仲良く暮らさなければならない、という思いが強いために、子ども同士のけんかに大 人が介入して制止してしまう場合も多い様である。子どものけんかは社会性や協調性の発達に 重要である。 3歳未満児による引っ張る、叩く、蹴る等の体を使ったけんかは、特に周囲にい る大人をはらはらさせる。しかし、けんかの意味を理解している保育者が、子ども達のけんか の様子を見守ることができるのは重要なことである。

また、《2‑b》では、子ども達がけんかをしたために緊張関係になっても、少人数のために 他の子どもとの関係に逃げ込むことができないという特徴が、逆に子ども同士の関係を強く深 いものにしていることが報告されている。家庭的保育では、子ども同士の関わりがまさにきょ

うだい関係のようになっているといえる。

2‑d

この前、あるお母さんに「うちの子バイバイってするのおかしいですか?」って聞かれたんですよ。そのご主人 が子どもを迎えに来た時に自分の子がバイバイしたら、丁度同じ時間に迎えに来ていた他の子の両親が「あっ、 Y ちゃんのバイバイだ」と言って笑ったって言うんですよ。それで、その奥さんが心配して聞いてきたんですけどね。

だから説明したんですよ。「女の子のNちゃんは、バイバイの時、両手を合わせてこういう風に『ま・た・ね』っ てするんですよ、 Aちゃんのバイバイは丁寧に座って、三つ指をつくんです。それでYちゃんは一番月齢が低くつ て、最近になってようやく手を縦に振ることが出来るようになって、みんなでYちゃんバイバイできた一つて言っ て。それで、それぞれが帰るときにはそれぞれのバイバイを子どもたちが自然にするようになっているんです ょ」ってね。どうやら、 Aちゃんは家に帰ってそれぞれのバイバイをお母さんに教えてあげていたらしいんです ょ。それで、その日はYちゃんにはYちゃんのバイバイをお母さんが合わせてやってくれていたらしいんですよ。

家庭的保育を受けている子ども達は、それぞれに自分の言い分を強烈にぶつけ合っている一 方、それぞれに違う個人のあり方を受け入れ、ある時はそれに自分の行動を沿わせて互いに尊 重している様である。ここに登場する子ども達の別れの挨拶は33様である。保育者も、彼 らの独自の動作を画ー的な動作に統一することよりもむしろ、彼らの個性としてバラバラのま まにしておくことを選択している。少人数保育の場合、子ども達が一斉に同じ活動をするとい うことが極めて少なく、子ども達が相互に関心を持ち合い、個々の違いを楽しみながら尊重す る行動が起こりやすいといえる。

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(15)

(3) 子ども同士の関わり一末子・中間子・長子経験

3‑a

今、きょうだいの人数が少ないじゃあないですか。うちにいる上の 2人の男の子たちも一人っ子なんですよ。だ から赤ちゃんが来たときにはすごく珍しいみたいでしたよ。それで段々大きくなってくるのを一緒に見てるわけ ですよね。「ほ乳瓶、もう止めちゃったね」とか「おむつまだしてるの?」とかね。自分たちもおむつをまだして るのに…。それでね、お家に帰ると人形をタオル掛けて寝かせてるって。「よしよし、なんてやってるんですよ」っ てお母さん仰るんですけどね、見てるんだな一つて思うんですよ。昔だったら、きょうだいいっぱいいたから、そ んなことはどうっていうことないことだったのかもしれないけども、今はそんな経験稀でしょう。貴重ですよね。

私はきょうだい3人の一番末っ子だったんですけど、やっぱり一番下の子ってちっちゃい子が好きじゃないです か。だから近所の子どもを常に遊んであげたり、おんぶさせてもらったりして歩いていた記憶があるって。今そ ういう姿ってあんまり見ないですもんね。

3‑b

異年齢ですので、大きい子のすることを小さい子が真似をしたり、逆に小さい子がやっていることを大きい子 が見て、繰り返してやってみるんですよ。大きい子は小さい子のすることと同じようにやってはいるけど、やっ ぱり同じにはならないんですよ。そんな面白さもあります。同じ年齢の子どもだけですと、遊びにあんまり発展 性がないんですけれど、年齢が違う子がいると、その点は格段に違います。疑似きょうだいみたいな感じで、お 互いが刺激し合っているかな。

甘えでも、一人っ子だと、自分から甘えなくても親がかわいがっているんだけど。ここに来て、自分より小さ い子の様子を見て、「黙っていてもやってもらえる」ではなくて、自分から甘えに行くという様子が見られるんで すね。だから、最初に0歳で入って来て、一番下、その次に上と下といるようになって、そして一番上のお兄さ ん役をするようになって、一人っ子でも、末っ子や一番上の子の経験も出来るわけですよ。

子どもは通常1歳半ころから、日常生活で見聞きしたことを身振りや言葉などによって表現 し、遊びとして組み立て始める。特に食事作り、育児行動などはこの遊びの主要な材料になる。

しかし、両親が就業している核家族においては、遊びのモデルとなる大人の生活にふれる機会 が少なくなってしまう。子ども達は、自身の加齢に従って順番に人ってくる年下の子どもの成 長を身近に経験しながら、保育者やその家族を遊びの材料とすることができるのである。

柴田は、幼稚園の年少児を対象に、年上の子どもとの関係のある子どもと、そのような関係 のない子どもを比較した。すると、年上の子どもとの交友関係のある子どもは、砂場での同年 齢の子どもとの関係において、一人遊びが少なく、会話が多く、連合遊びや協同遊びも多い傾 向にあることを報告している18)

また、人間関係の面で年下の子どもの登場は年上の子どもにとって新しい行為のモデルを見 せられる機会ともなるという。甘えるために自分から行動することを体得した子どもは、年下 の子どもに対して競争意識を感じるところからスタートしていると考えられるのである。

(16)

3‑c

前にうちにいた子で、保育園に慣れなくて来た子がいたんです。それが、こっちにば慣れちゃってね。やっぱ り子どもによって合う環境って違うじゃない。あんなに出来ないことが多かった子なんだけど、結構本人も張り 切っちゃって、私たちもあの子に対していろいろ頼んじゃったりしていたのよ。そういう子が幼稚園に行ったん ですけど、幼稚圏に入ったらリーダーシップを取ってるんですって。自分で劇を作って、役割をみんなに与え ちゃって…。で、自分はいい役取ってないのよ。やっぱり 3歳で一回区切りをつけるのって、いいと思う。そこ で、「年長」としてリーダーを経験するから。

3‑d

卒園生もよく遊びに来ますよ。ずっと前にいたお兄ちゃん、お姉ちゃんていうことになりますよね。それに、遠 足とかクリスマス会とか年に何回か割と大きな行事をやる時には、私は必ず卒園生も一緒に呼ぶんですよ。今、一 番年上の卒業生が小学校3年生ぐらいなんですけど、それくらいから0歳まで一緒に遊ばせるんですよ。おもし ろいですよ。昔、ガキ大将がいてくつついてよく遊んだけども、あんな感じなんですよ。小学生のお兄ちゃんお 姉ちゃんは、下の子ども達を仕切りたくて。親も私も出番がない。全部やってくれて。縦の関係っていいなあっ て思いますよね。そういうの見てるとね。

これら二つの回答には、《3‑b》でも語られていたきょうだい関係が固定化せず順番に立場 が変わっていくことについて言及されている。幼稚園の3歳児クラスは「年少」であり、小学 校の3年生は「中学年」である。年齢によって構成されているクラスの中では、なかなかクラ スのリーダーのような中心的存在になることは難しい。中心的な存在になるためには、競争を しなければならない。競争の勝利者は、クラスの中で段々と固定化していくので、中心になれ ない子どもにとっては、それが劣等感につながりやすい。

少人数で異年齢混合保育を行っていると、やがて自分が他児を引っ張っていかなければなら ない立場になることができる。同年齢の子どもが複数いる場合でも、年下の子どももいるため に皆「お兄さん」「お姉さん」的な立場を経験することができるのである。ある子どもにとって は、それがその後、所属する集団の中で友達をリードすることへつながるかもしれないし、そ の時点で所属する集団内で中心的役割を担わなくても、そのような役割を担うことのできる

「古巣」を持っていることは、その子どもの自信につながるのではないだろうか。

(4) 子どもと保育者の家族との関わり

4‑ a

うちは片親家庭が割合に多くて、 6世帯中5世帯だった年もあったんです。でもそういう環境の中でも、家庭的 保育ならば、お兄ちゃん•お姉ちゃんがいるとか、おじいちゃんもおばあちゃんもいますし、うちの子ども達も いるわけなんですよ。自分にパパがいなくてもうちの主人がいて「チャーチャンパパ(チャーチャンは保育者の

84 

(17)

愛称)」がいて、自分にママのいない子も、「ママがいなくてもチャーチャンがいる」とか、そういうお家の雰囲 気はたっぷりと味わえるかな一つて感じています。

4‑b

朝一番にくる子なんかは「おじいちゃん、おばあちゃんと一緒におやつ食べる」って言って、奥に入って行っ ちゃって、テレビの方でおしゃべりしながら過ごしているんですよ。夕方、一番最後まで残っちゃった子も、そ んな風にしてます。結構、おじいちゃんとおばあちゃんが魅力的らしくて、「朝はおじいちゃん、おばあちゃんと」

と決めて来ているようなんですよ。

4‑c

子どもたちは、お年寄りや、お兄ちゃんたちに抵抗がないんですよ。自営で、昼間うちにいる主人も子どもた ちの中に入ってきてくれて、「オジチャン」と呼ばれています。おばあちゃんに対しても朝「バーバ、おはよう」っ ていうし。お兄ちゃんたちが学校から帰ってくると「ニーニは?ニーニは?」とかいって、必ず抱っこしてもら いに行くんです。荒っぽい遊びも、男の人の役割なんですよ。壁やドアにぶつかるようなおいかけっこや天井に 放り投げて抱っこするような遊びもやってくれるんですよ。こういうのは、女性にとっては「危ない」という思 いが先立ってしまって、なかなか出来ないでしょう。だけれども、家庭で普通にやっている遊びだし、「危ない」っ て言って何でも止めてしまうと恐怖感の必要以上に強い子どもになってしまうでしょう。

4‑d

大家族って感じで生活できるでしょ。土曜日とか、夏休みとか春休みとか、全部お父さんはいるし、浪人生だっ たお兄ちゃんたちも、朝晩は全部手伝ってくれたんですよ。だから子ども達も、自然にこのうちにとけ込んでい く。もう大きくなって出ていった卒業した子たちだって、「T M S男(保育者の3人の息子の愛称)」っ て言って遊びに来るの。もう自分のきょうだいみたいに「お兄ちゃん」って…。卒業児の親も「うちの子が将来 悪くなったらT夫君の所につれてくるからね」なんて言うんですよ。うちの息子たちに「話聞いてやってね。一 人っ子だからね」とかっていう様な感じで、やっぱりすごい身近な存在なんですよ。だからこの仕事って、家族 がすごく協力してくれないとできない。家族のちょっとした協力がすごく助かる。

前にいた子どもがね、バギーの中でゆれてなくっちゃ眠れなかったのよ。で、うちの浪人中の長男が近くを一 時間半バギー押して歩いてくれた。あのときす一ごい助かったよねーえ。で、その子はその後、朝来てうちの子 ども達がいるとする一つと抱っこされにそばに行くの。ご飯食べていると「ちょうだい」とやってくる。最初の 頃は他人行儀だったけれども、だんだんに変わっていって、出ていく頃には本当に自分のうちと同じような感覚 になるのよ。

参照

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