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後期中英語における -able の生産性

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1.はじめに

 本論文の目的は、後期中英語(14世紀―15世紀)における -able 派生語に関して、いくつ かの資料から、そのデータを収集し、それらの観察に基づいて、その発達状況を明らかにす ることである。今回の調査対象としたのは下記の資料5点である。

    ① Ayenbite of Inwit   c. 1340     ② Revelation of Love   c. 1395     ③ Cloud of Unknowing  c. 1400     ④ The Donet     c. 1445     ⑤ Cely Letters    1472-1488

(上記資料の特徴等の詳細については、3節で述べることにする。)

2.-able 派生の特異性

 派生接辞 -able の発達が、歴史的に、かつ、言語学的に興味深い点を含むことについては 児馬(2013,2015)、Koma(2014)で詳しく論じられているが、それらの中で比較的本論と 関連のあるものを中心に、その概略を述べると次のようになる。

⑴ a.-able は外来接辞であるにもかかわらず、英語の「生産的な」接辞として発達したこ と(外来派生接辞の中で -able ほど「生産性」の高い例は他にない)

  b.借入された外来語に基づいて、新たな派生接辞 -able を英語話者が創出した、いわ ば -able を「英語化(Anglicization)」したこと(1)

  c.-able を含む混種語(hybrid)が出現したことで -able の英語化が確認できること   d.-able 派生の「透明性」が高まる下記の傾向で、同様に -able の英語化が確認できる

こと

      ①語基の強勢移動が派生語においてなくなる傾向

      ②語基の分節音が派生語において変化しなくなる傾向 ⅰ)異形態 ⅱ)切除

後期中英語における -able の生産性

児 馬   修

(2)

      ③意味の「透明性」が高まる傾向

   e.項の継承(inheritance of argument structure)によっても -able の英語化が確認で きること

 以下、上記 ⑴ のそれぞれについて、もう少し詳しく見ることにする。

 まず、(1a)については、派生接辞(derivational suffix-able が -ness, -ing, -ly, -ful, -er など と異なり英語本来の接辞ではなく(古英語(Old English, OE)に存在した接辞ではなく)中 英語(Middle English, ME)期以降にラテン語ないしは古フランス語(Old French, OF)か ら借入された外来接辞であるということである。ロマンス接辞から英語に取り入れられた派 生接辞には -ity, -tion, -ate, -ive, -ify, -ory, -ee, -ian, -ment など多数あるが、そのなかで広範な 語基に付き、造語力の高い接辞は -able の他にはない。いうまでもなく、生産性の高い接辞 は -er, -ness, -ing など本来接辞がほとんどであるので、その意味で -able は極めて特異な存在 である。

 現代英語の -able は主として、「他動詞に付いて、「~されうる」の意味を持つ形容詞を新 たに造ることのできる(2)、新造力(生産性)の強い派生接辞である」と言える(竝木(1987))。

 (1b)については、-able の借入といっても、OF の beef, pork, mutton のような語の単純な 借入の場合と異なることに注意せねばならない。ME 以降、同じく OF から借入された prof- itable,  changeable などの「語」に基づいて、英語話者が -able という派生接辞を分析して、

新たな派生接辞を創出したということである。さらに、その「創出」の際に、同じく OF か らの借入語である自由形態素 able と関連させたと考えられることも興味深い(3)。ME 期になっ て語末に -able,  -ible,  -uble を持つ語が多く借入されたが、借入された時点で、英語話者が必 ずしもそれらを派生接辞として瞬時に認識したわけではないということである。すなわち agreeable という OF 借入語が、すぐに agree  +  able と分析していたわけではないというこ とである。agree 自体が動詞としてすでに英語に定着しているのであれば、話は別であるが、

動詞 agree 自体も OF 借入語であることを忘れてはならない。その証拠に ME 期には durable,  semblable, legible, arable のように「分析不能(不透明)」な借入語が多く見つかるのである。

 (1c)については、派生接辞の生産性を考察するうえで、特に重要な視点である。外来接辞 を英語本来語基につける現象を混種語(hybrid)と呼ぶ。厳密にいうと派生の混種語には二 つのタイプがあり、一つは本来語基+外来接尾辞(外来接頭辞+本来語基)型で、もう一つ は外来語基+本来接尾辞(本来接頭辞+外来語基)型である。本論では、接尾辞 -able の生 産性が主題なので、もちろんのこと前者のタイプが重要となる。混種語の出現が接辞の生産 性の証拠となることについては従来から指摘されてきたことであるが、混種語の出現を精査

(3)

した研究はほとんど行われていない。(Dalton-Puffer(1994)のようなヘルシンキコーパスな どの電子コーパスを使った研究も一部あるが、その類の研究の問題点については Miller(1997),  Koma(2014)を参照されたい。)

 (1d)も -able の生産性の高まりを示す重要な証拠である。-able 派生語の史的発達にみられ るもう一つの特徴に透明性(transparency)の高まりがある。いわゆる語幹に基づく形態論

stem-based morphology)から語に基づく形態論(word-based morphology)への変化である

(Kastovsky(2006))。まず、(1d)①であるが、語基の強勢が -able を付けることによって移 動しなくなる(語基動詞の強勢が派生語においても移動しない)傾向が観察されること(例

えば、

ˈacceptable が acˈceptable に、comparable[kάmpərəbl]が comparable[kəmpέərəbl]

になる)。いわゆるⅠ類の接辞からⅡ類の接辞へと性質を変えていく現象である(Aronoff

(1974, 1979))。なお、この点に関しては、ME の強勢に関する音韻情報を得ることが、不可 能ということではないが、かなり困難なので今回は取り上げないことにする。

 次に、(1d)②ⅰであるが異形態(allomorph)が消失する傾向である(4)。この点も語基の強勢 変化の場合と同様に、Ⅰ類接辞からⅡ類接辞への変化と考えられる(Aronoff(1974, 1979))。

例えば、divisible が dividable に、derisible が deridable になるような変化である。これも歴 史的に観察される変化の1つである(児馬(2014: 62-63))。

 (1d)②ⅱは、切除(truncation)―X-ate の形式を持つ動詞に -able がつくと -ate- が削除さ れる現象―と呼ばれる現象がなくなる傾向で、例えば、educable が educatable に、demon- strable が demonstratable になるような変化が歴史的に観察される(Koma(2014: 59-60))。

 (1d)③は意味に関する -able の透明性の高まりの証拠である。[語基+派生接辞 -able]の構 造を持つ -able 派生語の意味が、意味の合成性(semantic compositionality)の原則に従わな い不透明な意味から、それに適う透明な意味に変化する傾向がある。(例えば、importable の 意が「耐えられない」から「輸入できる」の意味に、proportionable の意が「均整の取れた、

同等の」から「釣り合わせられる」に変化する。)

 最後に(1e)の項の継承であるが、これも「生産的な」接辞の重要な特徴の一つである。

例えば -ing,  -ness,  -er のような生産的な接辞は、次のような項の継承を示す。語基の動詞や 形容詞の下位範疇化の枠(項構造)が保持される現象である(島村(1990: 48))。

⑵ a.The scribbling of this foul message should be punishable.

  b.The scribbler of this foul message should be punished.

(V-NP: scribble this message)

  c.John

s weariness of Bill   (A-PP: weary of Bill)

(4)

  d.Mary

s eagerness to leave (A-to-VP: eager to leave)

(2a-b)は scribble という他動詞が派生名詞として用いたときにも、そのまま目的語が of を 伴って具現される現象である。(2c-d)も同様に weary という形容詞が派生名詞 weariness に なったときに、同様に目的語の of NP がそのまま具現される。興味深いことに、-able も現代 英語では ⑶ のように、項の継承に関して生産性の高い英語本来接辞と同様の振る舞いをする ことが知られている。

⑶ a)This paragraph will be recognizable as a distillation of many discussions on this  topic by Chomsky, . . . (V. . . PP: recognize. . .  as)

  b)This marker will be applicable to an animate actor such as 

John

,

(V-PP: apply to).

  c) While this is probably translatable into Japanese, I am not sure that the proposition  would be true.  (V. . . PP: translate. . .  into)

[竝木(1990:343)]

 ⑶ が示すように、-able 形容詞が語基動詞の下位範疇化枠 PP を継承していることがわか る。したがって、このような -able の振る舞いがいつ頃から出現したのかが歴史的に興味深 い問題となる。この点に関する歴史的な研究はほとんど行われてこなかったので、今回の調 査で、何か新しい事実の発見が期待される。

 また、-able 形容詞は ⑷ のように Agent を表す by 句との共起もみられる。

⑷ a)Mary is trustable by a ten-year-old.

  b)The comet was observable by anyone owning a powerful telescope. [同上]

 このような、下位範疇化枠の保持や Agent の by 句などの共起はおそらく歴史的には、-able がⅡ類の接辞として、英語化されてからのことだと推測される。というのも、現在でも、⑸ のように、不透明な -able 語(portable)と透明な -able 語(carriable)とで by 句との共起に 違いがみられるからである。portable は ME 期に OF から借入するが、「運ぶ」の意の動詞と しての port が英語として認識されるのはずっと後で、しかも現在ではほとんど使われていな いので、いわば語彙化された(lexicalized)形容詞 portable であるのに対し、carriable の方 は、語基 carry 自体はフランス語からの借入語であっても、動詞 carry が英語に定着してい

(5)

るので、透明な派生語なのであろう。

⑸ a.*The old TV was portable by six wrestlers.

  b. The old TV was carriable by six wrestlers.  [Miller(2006: 231)]

 ここで portable の -able はⅠ類、carriable のそれはⅡ類で、このように容認可能性が異な る。Miller は portable には Event の意味はなく、Agent と共起しないのに対し、carriable

(実際は、これも OF 起源であるが、Miller は生産的な -able 語と一言付言している)は受動 文の意味に近い、Event の意味を持っていると指摘している。

 以上、-able に関する歴史的、かつ言語学的に興味深い性質を概観したが、これらの視点を 踏まえながら、今回の資料調査を行った。

3.資料について

 ME の資料についてはノルマン征服(1066年)以降、特に13世紀以降、英語による文献が 量的にも増え、今回の調査対象はその意味でかなり小規模な調査であることを断っておかな ければならない。さらに量的な問題だけでなく、質的にも万全でないことも断っておかなけ ればならない。それは、資料の選択に、方言やテキストのジャンルなどの配慮を行っていな い点である。今回の調査対象テキストは宗教的な書き物が多く、また書簡資料についても、

筆者がすでに精査を済ました『パストン家書簡集』(児馬(2013); Koma(2014))とは異なり 商業取引に関する書簡という偏りもある。本研究の調査は、継続中の調査の一部であること をお断りしておく。

 調査に用いた資料の簡単な解説をしておく。

① Ayenbite of Inwit(Morris, R. ed.(1965)EETS O.S. 23 , Oxford University Press)

14世紀のアウグスティヌス会修道士が1340年頃にフランスの宗教書 Prick of Con- science『良心の痛み』を Kent 方言で訳したものである。散文で言語学的には貴重 だが、文学的価値は、誤訳も多く、低いと評価されている。

② Revelation of Love(Glasscoe, Marion ed.(1999)University of Exeter Press)

Julian of Norwich(1343年生)が30歳の時に啓示体験をした時の作品とされている。

女性による最古の、まとまった散文とされている。オリジナル写本は残っていない。

(6)

③  Cloud of Unknowing(Hodgson, Phyllis ed.(1981)EETS O.S. 218, Oxford University  Press)

14世紀後半の聖職者による East-Midland 方言による書き物。用いられている語彙の 3分の1が Old French という特徴がある。

④ The Donet(Hitchcock, E. V. ed.(1921)EETS O.S.156, Oxford University Press)

15世紀においてもっとも多作な散文家のひとりであったウェールズの神学者 Reginald  Pecock(1395?-1460?)の著作のひとつ。無批判な聖書主義を排したため異端者とさ れた。書かれたのは1445年頃とされる。ラテン系語彙を避けて、極力、英語語彙で 著そうとする姿勢が至る所に見られる作品である。

⑤  Cely Letters 1472-1488(Hanham, Alison ed.(1975)EETS O.S. 273, Oxford Univer- sity Press)

ロンドンの毛織物商人の16年間という短期間に書かれた書簡集という特徴がある。

裁判の証拠として用いられた手紙なので残ったとされている。

4.調査結果

 今回の調査では、原則として5テキストに含まれる -able(-ible, -uble)を含むすべての派生 語のデータを取り出し、それを含む文単位のデータをカードに書き込むなどして、採取した。

ただし、possible, probable のような「分析不能(不透明)」で、頻度の高い、「語彙化」され ていると考えられるものの一部については除外している。調査の結果を以下の表1で示す。

(なお、自由形態素 able とそれを語基とする派生語のデータについては、調査が完了してい ないため、今回は参考程度に表2として示すことにする。)

・  第1コラム見出しの -able 語は現代語つづりでアルファベット順に示しているが、接頭 辞(例えば、un-, in- のような)が付いている派生語の場合はそれを除いた頭文字で並 べている。資料における派生語の綴りが現代英語の綴りと異なる場合にのみ、第2コ ラムに原綴りを示す。

・  第3コラムの数字はトークン数(複数)を示すが、空白はすべて1トークンであること を示す(5)

・ 第4コラムの略号は以下のとおり出典を示す。

   ayen: Ayenbite of Inwit

(7)

   rev: Revelation of Love    cloud: Cloud of Unknowing    don: The Donet 

   cely: Cely Letters 

表1:後期中英語の5資料における -able 派生

-able 派生語 検出された綴り token 出典テキスト

abominable abhominal ayen

allowable 3 don

assignable 2 don

agreeable agreabell, agreabull, agreabyll, greabyll 3 cely

challengeable chalengeable 3 don

changeable chongeable, chongeabile, chaungeable 3 rev don

changeably chaungeabely cloud

unchangeable onchangable, vnchaungable 2 cloud rev

chargeable don

charitable ayen

charitably cloud

comfortable counfortable 5 rev cloud don

comprehensible cloud

incomprehensible 2 cloud

conable rev

customable 6 cloud

customably cloud

damnable dampnable 2 don

undeclarable vndeclarable don

delectable 5 rev don

delectablly rev

departable 2 cloud

undepartable 2 cloud

desirable cloud don

doable douable 7 don

undoubtable vndoutable don

drinkable drynkeable don

eatable etable don

unescapable vnscapeable don

unestimable onenestimable rev

favorable ffverebull, 2 cloud cely

feelable felable rev

fillable don

fleeable fleable don

groundable 2 don

hateable don

haveable haueable don

(8)

horrible orrible orible 3 cloud ayen

knowable knoweable 8 don cloud

unknowable vnknowable don

lettable don

loveable loueable don

measurable mesurable 3 don

unmeasurable vnmesurable 5 don rev

unmeasurably don

movable mouable 7 don

unmoveable vnmouable 6 don

immoveable immouable don

notable 15 don

unnumerable vnnumerable 2 cloud don

innumerable inumberable, 3 rev ayen don

obeyable obeiable don

unovercomeable vnouercomable don

passionable don

payable payabull, payabyll 35 cely

peaceable paysible, payzible 4 ayen

unperceivable rev

praisable 2 don

profitable 54 cloud ayen don

profitably don

profitableness don

unprofitable 2 don

profitabler 2 don

proportionable 2 don

punishable don

reasonable resonable, resenabyll, resnabyll, 47 cely cloud rev don reasonably resenabyley, resenably,vresonably, 5 don cely

unreasonable 3 don

unreasonably don

reasonableness resonablenesse, resonabilnesse 2 don

unrecoverable vnrecouerable don

unrecoverably vnrecouerabli don

refusable refuseable don

renable 2 ayen

reprovable reprouable don

rewardable 2 don

unrewardable vnrewardable don

unrulableness vnreuleablenes don

saveable sauable 2 don

sensible cloud

settable setteable 4 don

unspeakable vnspekable don cloud

unsufferable vnsuffrable don

takeable don

(9)

tarriable tariable don

teachable techeable don

temptable don

unthinkable vnÞenkable don

treatable tretable 2 cloud

troubleable don

visible cloud

weepable wepeable don

wilnable cloud

表2(参考):自由形態素 able とその派生語

able(a.) abil, abyl, abli, abyll, abbull 13 cely cloud don

able(v.) abliÞ, abel, 3 cely cloud

ability abylete, abylyte 2 cely

ableness abilnes, abylnes, 8 cloud don

unable vnable, 3 cloud don

unableness vnablenes don

5.調査結果に基づく考察 ・ 所見

5.1 Hybrid に関する新たな事実

 今回の調査で明らかにされた言語事実のなかで、特に注目に値することの1つは Hybrid に 関する事実である。Hybrid 一般に関しては Dalton-Puffer(1994)のヘルシンキコーパスに基 づく調査において、ME に関する限り、例が極めて少ないという結論が出されているが、

Miller(1997)がこれに異議を唱え、口語的な ME では -able も含めて他のロマンス接辞もす でに生産的であったと報告している。ただ、Miller もどのようなテキストでどのような hybrid が見つかっているのかを部分的にしか具体例を示していないので、今回のような調査で出典 を含めて正確な事実を示す必要がある。

 今回、収集できた Hybrid は表1の中から抜き出すと、下記のとおりである。

⑹ doable, drinkable, eatable, feelable, fillable, fleeable, groundable, hateable, haveable,   knowable, lettable, loveable, unovercomeable, settable, unspeakable, takeable, tarriable,  teachable, unthinkable, wilnable, weepable

タイプ数として21例も見つかった。この21例のうち17例は Pecock の The Donet に集中的に みられ、それは、彼独特の、大衆のために外来語を使わず、ひたすら英語を使って表現しよ

(10)

うとした文体のためとも考えられる。この時期にこれだけ -able の生産性が確かめられたの は意義深い。

 上記 ⑹ の例に関して、いくつか注釈が必要となる。

 まず、OED 記載の初例より早い時期の hybrid の例として見つかったものに次の例がある

(( )内は OED の初出の年代を示す)(6)

⑺ drinkable(1611), eatable(1483), fillable(1483), hateable(1611), haveable(1641), set- table(1657)

 fleeable は OED に記載がないが、MED に fleable として記載されており、Pecock の Rule  39 の例が

to be fled from or avoided

の意で引用されている。

 takeable は take が古北欧語(Old Norse, ON)からの借用語なので hybrid の例とみなすこ とができる。

 次の例にある二つの lettable と tarriable については注意すべき点がある。

⑻ or ellis he is tariable and lettable fro heuen into tyme Þilke synne be forʒouun, (Donet  193/23)

まず、tarriable(tarible)については OED に記載がない。おそらく動詞 tarry(=hinder)の 派生形容詞と思われる。tarry の初出が1340年であること、さらに後述の lettable と等位構造 をなしていることから、その推測にほぼ間違いない。lettable については ME letten(=hinder)

の派生形容詞 lettable であって、ME leten(=let)のそれではない。OED に記載されている lettable は let1(=let)の派生形容詞のみ(ちなみに初例は1611)であって、let2(=hinder)

の派生形容詞は記載がない。したがって、今回見つかった例が新たなエントリーの初例とし て記載されるべきものとなる。

 wilnable についてであるが、これは OE wilnan> ME wilnen の派生形容詞と思われるが、

OED に記載がない。そこには動詞として wilne(=desire)の記載があり、Cloud of Unknow- ing では desirable と同義で使われている。

5.2 項の継承に関する新たな事実

 もう一点、今回の調査で明らかにされた事実がある。それは2節で触れた項の継承 ・ Agent 句の具現に関するあらたな事実である。次の例を見てみよう。

(11)

⑼ a.lettable

    or  ellis  he  is  tariable  and lettablefro heuen into  tyme  Þilke  synne  be  forʒouun, 

(= ⑻)  (Donet 193/23)

  b.knowable

    bi lacking of whos circumstaunce Þis vice is in it silf a vice, and is knowable to be a

vice.  (Donet 180/29)

  c.knowable

    now so it is Þat Þere is no moral vice or moral viciose dede, neiÞir knoweable to be suche, saue for Þat he is contrarye or repugnaunt to a moral vertu or a moral ver-

tuose dede,  (Donet 179/35)

  d.knowable

    and so of oÞire Þingis knowable bi outward wittis.  (Donet 9/30)

  e.takeable

    y be so sobre Þat Þei ben anoon takeable of ʒoure vndirstonding, be it to ʒoure prof-

ite,  (Donet 82/33)

 (9a)は上記 ⑻ と同じ例であるが、ここで動詞 lettan(=hinder)の下位範疇化枠に含まれ る前置詞句 PP(fro heuen 

from heaven

)に注意したい。つまり、派生形容詞 lettable に項 の継承が見られる、極めて興味深い例である。ちなみに lettable と等位接続されている tarry の派生形容詞 tarible についても、letten 同様に ME において fra(from)と共起していたこ とがわかっているので(OED s.v. tarry v. 2. 参照)そこでも項の継承が起こっているといえ る点でも注目される。

 (9b)(9c)も同様で動詞 know の下位範疇枠 [__ NP to VP]が knowable の後ろに継承 されている例である。(9d)は know by NP(~によって理解する)という下位範疇化が継 承されて、「~によって理解されうる」という解釈になっている派生形容詞の例である。

 (9e)も同様に

capable of being taken from your understanding

の意で用いられている ので項の継承例と考えられる。

 上記の項の継承の新事実は、それだけでも -able の英語化の実証例となるが、さらに興味 深いのは ⑼ の例すべてが hybrid の例でもある点である。つまり、二重の意味で -able の生産 性の高まりを強く実証するデータである。

(12)

6.終わりに

 本調査は後期中英語のわずか5点の資料を対象としたものであるが、Pecock の作品のよう に、内容は宗教的なものであっても、大衆に向けた、おそらく当時の日常語に近い英語で書 かれた作品に -able の生産性を示す証拠となる事実が発見できたことは、今後の -able 派生の 研究にとって貴重な成果であると考える。今後はさらに -able 派生語に関する意味に関する 研究、とくに自由形態素である able との関係などについて13世紀以前の中英語の事実調査が 俟たれる。

*本稿は科学研究費基盤研究C(課題番号15K02615)の助成を受けて行われた研究の成果の一部で ある。その研究成果の一部については、津田塾大学言語文化研究所の招待講演(2016年7月)、北 京大学と対外貿易経済大学における招待講演(同年11月)、大塚英語教育研究会の招待講演(同年 12月)にて発表を行った。それぞれの招待講演で、お世話をいただき、かつ貴重なご助言をいた だいた津田塾大学の井川壽子教授、北京大学の王継輝教授、対外貿易経済大学の石小軍准教授、

藤原保明筑波大名誉教授に謝意を表したい。

(1)このように、最初は外来語として借入して、後になって英語話者がその語の一部(この場合、

語末の -able)を切り離して、母語の派生接辞とみなすようになる過程を、Burnley(1992)は母 語化(naturalization)と呼んでいる。ここではその過程を、英語の語形成の仕組みとして取り 込んでいるので「英語化」と呼ぶことにする。この英語化は、後述の hybrid の形成(この場合、

-able を英語本来語基、例えば、speak,  know に付けて speakable,  knowable などを形成するこ と)に関係する重要な過程であることに注意したい。

(2)この原則には下記の例外もあるが、その例外は決して数が多いわけではない。

   ⅰ)peaceable, marriageable, knowledgeable のように名詞語基につく例    ⅱ)changeable, perishable のように自動詞語基につく例

   ⅲ) readable, punishable, changeable のように、それぞれ「~する価値がある」、「~されるべ き」、「~しやすい」の意味を持つ例(竝木(1987: 50))

(3)形容詞の able と接辞の -able が語源的に異なるものであることは、意外に知られていない。形 容詞の able はラテン語の habilem(動詞から派生された形容詞)に由来し、接辞の -able はラテ ン語の形容詞派生の接辞に -bilis という形があって、それが語基の動詞によって、-ibilis,  -abilis と具現されていたのが由来とされている。

(4)異形態は、言い換えれば、語基に -able がつくと語基の分節音に変化が起こるということであ る。異形態はラテン語やフランス語起源の接辞の場合に多く、英語本来接辞には deriding, derider のように起こりにくいとされている。

(5)派生形態論では、1テキストに1例しか検出されないものを hapax legomenon と呼び、特に 重要視していることに注意せねばならない。

(6)OED の初例については、従来から指摘されていることではあるが、完全ではない。新たな初 例が発見されることは歴史言語学研究ではよくあることである。今回の調査においても、ここ で詳しく触れることはしないが、hybrid 以外の表1に記載されている -able 語の中にも、obey-

(13)

able(1676),  temptable(1628)のように、その OED 記載の初例が200年近く遅すぎるものがい くつか見つかる。

【参考文献】

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参照

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