氏 名 窪田
ク ボ タ陸
リ ク所
属 都市環境科学研究科都市環境科学専攻 分子応用化学域 学 位 の 種 類 博士(工学)
学 位 記 番 号 都市環境博 第
179号 学位授与の日付 平成
28年
3月
25日 課程・論文の別 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 名
論 文 審 査 委 員
Antioxidant ability of water-soluble Mn-porphyrin complex with multielectron redox activities
(多電子酸化還元特性を有する水 溶性
Mn-ポルフィリン錯体の抗酸化能)
主査 教 授 川上 浩良 委員 教 授 高木 慎介 委員 准教授 朝山 章一郎
【論文の内容の要旨】
生体内で産生する活性酸素は、細胞内シグナル伝達等に関与する一方、過剰に蓄積する と様々な疾患の原因となる。活性酸素種の中でも、ミトコンドリアで産生するスーパーオ キシド
(O2・-
)は、連鎖反応を介した様々な活性酸素種の発生源である。パーオキシナイ トライト
(ONOO-
)は、
O2・-と一酸化窒素
(NO)との反応により産生し、タンパク質のニ トロ化を引き起こす。過酸化水素
(H2O2)は、
O2・-の不均化により産生し、シグナル伝達 を介したアポトーシスや、高毒性なヒドロキシラジカル
(OH・
)を産生する。生体内での毒性 が低く、活性酸素種との相互作用が期待できるカチオン性
Mn-ポルフィリン錯体を基本骨 格として、
SOD活性
(2O2・-
+ 2H+→
H2O2 + O2)と、
ONOO-還元活性
(ONOO-
+ e-→
NO2)を有し、 かつカタラーゼ活性
(2H2O2→
2H2O+O2)を有する新しい抗酸化剤が
創製できれば、活性酸素種が原因で惹起される様々な疾患に対して有効な治療法を提案す
ることになる。活性酸素種の中でも特にカタラーゼ活性を高めるアプローチとして、反応
補助基の導入や、二核錯体が報告されてきたが、これら金属錯体は
SOD活性や
ONOO-
還元活性を持たず、かつ水溶性を示さない、合成が複雑であるといった問題があった。ま
た、天然酵素には、基質特異性が高いため、複数の活性酸素種を高効率で消去することが
困難であるといった問題もある。従って、複数の活性酸素種を消去する機能、即ち多電子
酸化還元特性を有する水溶性金属錯体を人工的に創製することは学術的に重要であると同
時に、抗酸化剤として酸化ストレス障害による疾患治療に繋がるため、社会的意義も大き
い。本研究では、高分子化学や超分子化学を導入した新規アプローチにより、水系で多電
子酸化還元特性を示す新規
Mn-ポルフィリン錯体の創製を行った。
本論文は全六章から構成される。
第一章では、
Mn-ポルフィリン錯体の特性、これまでのカタラーゼ活性を有する金属錯体や、超分子化学を用いた人工酵素に関する先行研究を挙げ、さらに本研究における新規ア プローチ及び研究指針を述べた。
第二章では、天然
Mn-カタラーゼの構造に着目し、二つのポルフィリン環を
m-xyleneで 架橋した、
m-xylene架橋型
Mn-ポルフィリンダイマー
(MnPD)を合成した。
MnPDは水溶 性を有し、
SOD活性、
ONOO-還元活性に加え、二つのポルフィリン環が協奏的に機能す ることで、水中で有意なカタラーゼ活性を示した。反応メカニズム解析により、
MnPDの カタラーゼ活性が
MnIII価⇔
MnIV価を経由した機構であることを明らかにした。 さらに、
予備的な動物実験ではあるが、
MnPDは動物実験においても有意な抗酸化効果を示した。
MnPD
は水中で初めて安定的にカタラーゼ活性を示しただけでなく、動物実験でも薬理効 果を示すなど、薬剤応用可能な
Mn-ポルフィリン二核錯体の合成に初めて成功した。
第三章では、カタラーゼ活性をさらに高めるため、ヘムカタラーゼに着目した。天然ヘ ムカタラーゼの活性中心には、単核鉄ポルフィリン錯体と遠位ヒスチジン残基由来のイミ ダゾール基が存在する。イミダゾール基の酸塩基触媒的機能は、カタラーゼ反応において 重要な役割を担っている。本章では、イミダゾール基の機能を模倣するために、カチオン 性
Mn-ポルフィリン
/イミダゾール基含有両性高分子複合体
(Mn-ポルフィリン
/CM-PVIm)を合成した。得られた高分子複合体は、優れた
SOD活性と
ONOO-還元活性を有し、さ らにイミダゾール基の酸塩基触媒的効果により、
MnPDよりも著しく高いカタラーゼ活性 を示した。
Stopped-flow法による反応メカニズム解析により、複合体のカタラーゼ反応は、
MnV
オキソ錯体を経由した機構であることが明らかとなった。さらに、
CM-PVImの分子 量及び
Mn-ポルフィリンの化学構造がカタラーゼ活性に与える影響を検討した。その結果、
そのカタラーゼ活性は人工カタラーゼとしては世界最高値
(kCAT=103 M-1-s-1以上
)を得る ことに成功した。
第四章では、
Mn-ポルフィリン錯体のカタラーゼ活性の付与と、生体環境下におけるキャ リア化を同時に行うことを目指し、
Cucurbit[10]uril (CB[10])に着目した。本章では、
第三章で得た、イミダゾールがカタラーゼ活性に有利であるという知見を活かし、水中で 安定な
3元超分子錯体
(Mn-ポルフィリン
/CB[10]/イミダゾール
)を形成させ、その抗酸化 能を検討した。興味深いことに、得られた
3元超分子錯体は、水中で有意なカタラーゼ活 性を示した。一方、
Mn-ポルフィリン錯体を薬剤として用いるには、血清タンパク質存在下 における凝集や低い細胞内取り込みが課題として残されている。興味深いことに、
CB[10]との複合化は、カタラーゼ活性を高めるだけでなく、
Mn-ポルフィリンと血清タンパク質と の非特異的相互作用の抑制や、
Mn-ポルフィリンの細胞内取り込みを高めることを見出した。
CB[10]
を用いた抗酸化剤のアプローチは、カタラーゼ活性の付与と、
Mn-ポルフィリン錯
体のキャリア化も行えることを初めて実証した。
第五章では、第二章で得た、金属二核錯体がカタラーゼ活性を示すという知見を活かし、
CB[10]の内部環境を利用した、水溶性超分子金属二核錯体の形成を目指した。CB[10]内部