• 検索結果がありません。

著者 大橋 昭一

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "著者 大橋 昭一"

Copied!
21
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

コラボレーション一般理論とコラボレーション優位 : 観光経営理論の基礎概念の研究

その他のタイトル General Theories of Collaboration and Collaborative Advantage

著者 大橋 昭一

雑誌名 關西大學商學論集

巻 53

号 6

ページ 63‑82

発行年 2009‑02‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/785

(2)

関西大学商学論集 第53巻第6 (20092 63 

コラボレーション一般理論とコラボレーション優位

―観光経営理論の基礎概念の研究ー一—

大 橋 昭 一

I .

はじめに

観光地戦略では、その戦略主体をどのように形成するかが大きな問題である。国際的にも広 く論議が行われているテーマであるが、ソーシャル・キャピタルの考えにたってコミュニティ 基盤コラボレーション体制として構築するのが、現在のところ有力な方向であると思われる。

ソーシャル・キャピタルの概要、および、コラボレーション論が集合戦略論から発展、生成 してきた事情については、それぞれ別稿で論じた(参照文献q,r,  s)。本稿は、そのうえにたって、

コラボレーション一般を対象に理論的および実践的な諸問題を考察することを課題とする。

ちなみに、コラボレーションという言葉が経営学上有意ある概念として使用されたのは、少 なくとも1972年のグレイナー (Greiner,L.  E.)の論文(参照文献e)にまで遡る。それは企業など組 織体に限定したものであったが、そこでグレイナーは、組織の規模 (scale)と成熟度 (mature) により組織体の発展段階には、①創造性 (creativity)による成長→②直接的指揮 (direction)に よる成長→③委譲 (delegation)による成長→④調整 (coordination)による成長→⑤コラボレー ション (collaboration)による成長、の5つの段階があるとし、第5のコラボレーションの段階 では、それまでとは異なって、マネジメントでは自発性 (spontaneity)の発揮が大きな特色と なり、人間同士のコラポレーション、自己規律性 (selfdiscipline)、相互的コントロールなどが 特徴的メルクマールになると論じている。

コラボレーションという言葉自体についていえば、もとよりそれはかなり一般的な広い意味 の言葉で、英米等においても統一的見解があるのではない。それ故コラボレーション理論も多 様で、統一的なものがあるのではない。

さらに、コラポレーションには同様な意味の言葉として、 networking、coordination、co operation、partnership、allianceなどがあり、それらは必ずしも明確に区別されているのでは ない。強いていえば、 partnershipは公私協同的協働の場合に用いられることが多い。これら の言葉については、例えばファイオール (Fyall,,A.)/ギャロッド (Garrod,B.)のように、これ らすべては基本的には同意語であって、特別に区別する必要はないとし、これらを総称する言

(3)

64  関西大学商学論集 53巻第6 (20092

葉としてcollaborationを使うとしている者もある (c,pp.132, 152)

他方、ヒンメルマン (Himmelman,A. T.)によると、コラボレーションという言葉は、第2次 世界大戦時には敵方に協力する行為をさすものであった (f,p.22)。このため、現在でもコラボ レーションという言葉を用いず、その代りにパートナーシップとよぶことをよしとする者もあ る。本稿でもコラボレーションとパートナーシップとは特に区別せずに用いる。

しかし、本稿の問題意識からは、ごく一般的にコラボレーションという場合と、厳密にコラ ボレーション論でいうコラボレーションとは区別していただきたい。後者の厳密な意味でのコ ラボレーションは、別稿(参照文鼠)で明らかにしているように、一言でいえば、当該問題領域 の利害関係者によって問題解決案が作り出される (invent)プロセスをいうのであって、単な る協力や調整とも違い、コラボレーション一般とも異なるものである。本稿で対象にするのは、

コラボレーション一般であって、厳密な意味でのコラボレーションではない。

また、コラボレーション優位 (collaborativeadvantage)は、コラボレーション的協働のシナジ ー効果をいうものである。この概念は、ハクスハム (Huxham,C.)の1996年の論文によると、

かれらが5年間にわたって行ったイギリスの地域経済発展に関する実証的研究で作り出された ものであるが (i,p.141)collaborativeadvantageという言葉自体は、カンター (Kanter,R. M.) 1994年の論文において論文タイトルとなっているものである(参照文献j)

そこでカンターは、コラボレーションを「新しい価値を共同で作り出すこと」 (creatingnew  value together)と規定し、それにより生まれるコラボレーション優位は、結局、 5つのレベル の統合、すなわち戦略的統合、戦術的統合、実務上の統合、人間間の統合、文化的統合によっ て可能になると論じている。

なお、参照文献は末尾に記載し、典拠個所は文献記号により文中で示した。

II.  コ ラ ボ レ ー シ ョ ン 一 般 理 論 の 概 要

コラポレーション論は、組織間関係論の1つの発展形態として主として1980年代あたりから 注目されるものとなってきた。それ故コラボレーションは、今日でも一般的に用いられる場合 には、組織間関係の問題として、例えば、地域活性化のための地域関係者協働体をいうような 場合もあれば、企業同士の連携や協働などをいうような場合もある。ちなみに、ファイオール

/ ギ ャ ロ ッ ド に よ れ ば 、 そ れ は 端 的 に は 組 織 間 関 係 コ ラ ボ レ ー シ ョ ン (interorganisational collaboration)一般をいうものである (c,p.  viii)

そこで、こうした意味において、例えば企業の水平的協同関係や垂直的協同関係、あるいは 航空会社同士の提携やホテル同士のそれがコラボレーションであるとされたりしているが(例

えばC,part 4)。そうしたものも含めて、コラボレーションのタイプは、一般的にはさしあたり、

次の4点で区別されることができる (c,p. 163)

(4)

コラボレーション一般理論とコラボレーション優位(大橋) 65 

①範囲 (coverage):コラボレーションが対象とする範囲の違いによる区別で、例えば企業間の 提携では企業活動の種類、商品別や地域別による対象範囲の違いをいい、そもそもどの範囲 の企業・団体・個人を対象にするかの違いである。

②形式 (form):コラボレーションがとる法的ないし慣例的な形式の違いによる区別で、形式 的な契約ないしは協定という形をとるのか、非形式的な実質的実際的な形だけのものである かの違いである。

③モード (mode):コラボレーション的繋がりの性格の違いによる区別で、人的側面と文化的 側面とがある。前者ではどのようなランクの人間まで関与するかで違いがあり、後者では組 織文化の融合に志向したものか、その遮断に志向したものかの違いなどがある。

④動機 (motive):コラボレーションに加入する、もしくは結成する動機の違いによる区別で、

例えば一般企業では、販売領域に関連したものか、生産領域に関連したものか、あるいは財 務領域に関連したものかなどの違いがある。

一般的には資源獲得動機とされる場合が多 い。

次に、コラボレーションの発展段階 (stages: collaboration life  cycle)では、別稿(参照文献r)で 紹介しているグレー (Gray,B.)の提示した3

階(問題設定、方向設定、実行(構造化)) (d,  p.57)が 古典的なものとして知られているが、その後 1995年、ゼリン(Selin.S.)/シャヴェッツ(Chavez. D.)により (1.p.848)3段階の前に「前段階」

(antecedents)3段階の後に「結果」 (outcomes) を付け加えた5段階説が提示された(図表1)

この5段階説で注目されることは、最終段 階の結果が最初の段階にフィードバックされ るものとなっていることである。これによっ てコラボレーションの目的の再評価などが可 能になり、コラボレーションの一層の発展・

展開ができるという図式になった。

ところで、コラボレーションの成功は容易 ではない。実はデータによると、コラボレー ションの試みの半数近くが不成功に終わって いる (c.p.188)。コラボレーション成功の要件に ついても研究が盛んであるが、コラボレーシ

図表1:ツーリズム・パートナーシップの段階

1段階:前段階

・難局の発生

・仲介者

・指令

・一般的見解

・現存ネットワーク

.刺激集団

2段階:問題設定

・相互関係の認識

・正当利害関係者についてのコンセンサス

・共通問題の定義

•利害関係者が知覚している便益

•利害関係者で知覚されている卓越性

3段階:方向設定

・目標設定

・基本)レールの設定

・情報の共同的収集

•選択肢探求

・サプグループの組織化

4段階:構造設定(実行)

•関係の定式化

・役割の割り当て

・課業の規定

・システムのモニタリングとコントロール

5段階:結果

・プログラム

・インパクト

・便益創出 出所:I,p,818, 

(5)

66  関西大学商学論集 53巻第6 (20092

ョン一般としては、スパイリアデイス (Spyriadis.A.)の提示している下記の9条件が適当と考 えられる(参照文献n.cited in c,  p.190)

①コラボレーション形成過程において中心となる政策関連的問題について充分に理解が行われ ていること。

②ネットワークレベルについてコンセプトが形成されていること。

③コラボレーションのすべての段階が成功裏に実施されること。特にパートナーの選択で誤ら ないこと。

④コラボレーションの複雑性について承知していること。

⑤各参加者の参加目的と期待がはっきりしていること。

⑥コラボレーションのガバナンス方法について承知していること。

⑦参加者の数も問題となること。

⑧戦略レベル、戦術レベル、実務レベル、人間間レベル、文化的レベルで統合がなされること。

⑨変化に順応しうるコラボレーションであること。

さらに、コラボレーションでは、一般的には、特に以下の問題について充分考慮し、必要な 検討をしておくことが望ましいし、必要といわれる (c.pp.202208)

1に、パートナーの選択にあたっては、例えば、パートナーそれぞれにおいて優秀な能力 をもつこと、重要性や相互依存性や統合の必要性を充分に認識していること、および、必要に 応じて資源の提供の用意があることなどが検討されるべきである。提携等では、結局、同じよ うな強さの経営体同士のコラボレーションにおいて成功率が高い。弱い経営体が一員であると、

コラボレーション自体の強さが減じることがあるからである。ただし、経営体相互で熟練など について人的資源の補足性があることはプラス条件である。

2に、不確実性についてみると、もともと不確実性軽減がコラボレーション形成の主たる 要因である場合が多いが、コラボレーションによって不確実性が全くなくなるわけではない。

例えば、内部的にはパートナーが期待された能力を有しないこともあるし、能力を充分に発揮 しないこともある。パートナー間で改めてコンフリクトがおきることもある。外部的には、経 済的環境が思わぬ方向に変わることもあるし、政治的状況が変化することもある。

3に、ガバナンス機構についていえば、上記の戦略レベル以下の5つのレベルの統合を可 能にする機構が必要であるが、運営の中心となる主宰者 (convener)については次の能力が必 要とされる。各参加者の考えや関心事を理解できる能力、専門外のことであってもそれを評価 できる能力、重要な案件とそうでない案件とを区別できる能力、コラボレーションの目的であ る成果を達成するよう運営する能力、公平性があること、不当な圧力に屈しない精神力がある こと、ボトムアップとトップダウンのバランス感覚があること、コラボレーション内部で適当 なリーダーシップ勢力が現れた場合それを認める寛容さがあること、等々。

コラボレーションで必要とされる機関(役割)については、前記の主宰者を含めて次のよう

(6)

コラボレーション一般理論とコラポレーション優位(大橋) 67 

なものがある (f,p.3537)。ただし、主宰者以外はあらかじめ決めておく必要がなく、その時々 の状況で適宜登場したり、実質的に機能をするものであったりする。

①主宰者。

②触媒的な役割をする者 (catalyst):コラボレーションでの審議などにおいて議論を促進した り刺激したりする者。特に長期的案件では有用といわれる。

③外部資金導入の役割の者 (conduit):外部資金導入の場合、主としてその担当となる者。

④代弁者 (advocate):特定グループの利害等の代弁者となる者。

⑤グループ組織者 (organizer):それぞれの集団のまとめ役の者。

⑥資金提供者 (funder):広く資金を集める場合特に重要となる。

⑦技術的支援者 (technicalassistance provider):技術的専門的知識や熟練を必要とする場合重要 となる。

⑧能力形成支援者 (capacitybuilder):コラボレーションに必要な能力の形成・確保にあたる者。

⑨促進者 (facilitator):専門的観点からコラボレーションに関与する者。例えば大学関係者等。

⑩単なる参加者 (partner):コラボレーターといわれることもある。

以上のようなコラボレーション一般についてどのような理論的整理が行われ、考察が試みら れてきたかについて、次に、 1996年のハクスハムの所論をレビューする。これはコラポレーシ

ョンの類型化を行い、コラボレーション優位についてまとまった考察を試みたものである。

皿 コ ラ ボ レ ー シ ョ ン の 類 型 と コ ラ ボ レ ー シ ョ ン 優 位

ハクスハムによると、コラボレーションは要するに「共同で活動をすること」 (working together)である。ただしそれは、本来、個人相互間の協働ではなく、組織間の協働をいい、

少なくともある組織の個人と他の組織の個人との協働をいう。この意味では、端的には、組織 間関係コラボレーションをいうものである。

これまで行われてきたコラボレーションにいての種々なる規定や論究をみると、コラボレー ションを1つの組織化的形態 (organizationalform)とするものと、構造化的形態 (strucuralform)  とするものとがあるが、ハクスハムは、何故協働するかの問題意識からこれを論じるのが最も 肝要として、コラボレーション論はさしあたり次の対照軸で分けてとらえることができるとし ている。ただしこれは、コラボレーション論者たちの主張に立脚して分類を試みたもので、論 理的観点による分類ではない。類型提示というべきものである。それによると、コラボレーシ ョン論は各論者の問題意識の次元がどこにあるかによって、まず 4者に分かれ、さらにそれぞ れにおいてとらえ方の違いにより 2 3のアプローチに分かれる (h.pp,913)

(A)全般的な問題のたて方に焦点をおいた分類

①何らかの道徳的理想(moralideal)の追求を理念とするもの(ideological)と、自己利益(selfinterest)

(7)

68  関西大学商学論集 53巻第6 (20092

の追求の用具と考えるもの (instrumental)。これは最も包括的なとらえ方の違いによる分類 である。前者は例えば弱者団結やコンフリクト克服などに志向したもので、協働による活性 化追求論 (collaborativeempowment)などもこれに属す。後者は実益追求の観点から協働を行 うもので、通常の組織間関係論で論じられている協力、協同、連携、結合等の多くはこれに 属す。

② 参 加 追 求 的 な も の (participation) と 、 単 な る 協 働 組 織 的 な も の (organizationsworking  together)。協働を参加の観点からとらえたもので、①の変形的なものといえる。前者はドイ

ツなどで盛んな共同決定・経営参加志向のものをいい、単なる協働組織型は参加を特に前提 にせず、とにかく協同労働の形成に志向したものである。

(B) 力関係に焦点をおいた分類

③カ関係の変化に志向したもの (changingpower relationships)と、仕事基盤的変化の実現に志向 したもの (effectingtaaskbased change)。①の包括的な違いによる分類を力関係に絞ってとら え直したものである。具体的には前者の力関係変化志向型は、例えば弱者団結、それによる 力関係変化に志向したものなどをいい、①の道徳的理想追求型の一部である。後者の仕事基 盤変化志向型は①の実益追求型の一部である。次の④は、力関係の変化をさらに前面におい

たものである。

④弱者の活性化に志向したもの(empowerthe weak)と、自己の力の強化に志向したもの(increase own power)

(C) コンフリクト対応に焦点をおいた分類

⑤コンフリクトの解決に志向したもの (resolving)と、ビジョン共有の進展に志向したもの (advancing a shared vision)。これはグレーの1989年の著(参照文献d)で提起された観点であるが、

コンフリクトの解決は力関係の変化を伴う場合が多いことを考えると、③の力関係変化志向 型と仕事基盤変化志向型との区別に概ね照応したものである。コンフリクト対応を念頭にお いたものでは、さらに次の⑥のような対照軸もある。

⑥ 連 合 形 成 志 向 の も の (coalisionforming)と、関係者全員の協働に志向したもの (allparty collaboration) 

(D) コラポレーションの結果(成果)に焦点をおいた分類

⑦単なる情報交換に志向したもの (exchangeof information)と、何らかの協定締結を志向したも の (jointagreements)。これをさらに推し進め、他人の能力向上をも志向したものが次の⑧で あるが、コミュニティ基盤コラボレーション等ではここまで志向したものでないと、結局う まくゆかないと思われる。

⑧情報交換に志向したものと、他人の能力向上に志向したもの (enhancinganother's capacity)。 以上の対照軸をみると、コラボレーションは、結局、一般には①の何らかの道徳的理想など 理念追求的なものと、実益追求的なものとに大別されうる。ただし、後者の実益追求的なもの

(8)

コラポレーション一般理論とコラポレーション優位(大橋) 69 

もコラボレーション内の他者を犠牲にして自己利益の追求を図るものではない。コラボレーシ ョン全体の利益向上があり、そのなかで自己利益追求を求めるものである。

こうしたコラボレーション全体の利益向上が可能になる(かもわからない)根拠は究極的には ハクスハムらがいうコラボレーション優位が生まれるかもしれないところにある。コラボレー ション優位は、一言でいえば、コラボレーション的協働によるシナジー効果をいうが、ハクス ハムは次のように規定している (h,p.14)

「コラボレーション優位は、ある単独の組織が自分だけでは生み出しえないところの、通常 ではない創造的で、かつ目的適合的なものが生み出されるときに、およぴ、各組織体がコラボ レーションすることによって、単独では達成できない目的を達成できるときに、獲得されるも のである。参加組織だけではできないが、コラボレーション体全体によってレベルのより高い 目的達成が可能になることをいう」。

これをみると、コラボレーション優位は、単独では創り出しえない創造的なものが生み出さ れるところと、協働により各組織において組織目的の達成がより高度なものとなるところとに ある。

もとより、両者は一体である。というのは、コラポレーションで生み出される前者の成果は、

どこかの組織に帰着せざるをえないからである。しかし、組織によってそれが帰着する程度に 違いがあるかもしれない。少なくとも、組織によって成果を享受できる程度に違いのないこと が必要ならば、そのようにする方策が必要になる。これはコラボレーションはじめ集合体の宿 命的な問題である。こうした方策が講じられないと、コラボレーション内で格差深化がおき、

遂にはコラボレーションの崩壊を招きかねない。

さらに、コラボレーションでの協働の効率という問題がある。コラボレーション優位を獲得 し、確保するにはコラボレーションにより効率を向上させることが、不可欠ではないとしても、

望ましいことは否定できない。少なくとも効率低下がつづけば、コラボレーションはいずれ崩 壊する。

この点をハクスハムは、コラボレーション不効率 (inertia)と名づけ、それを招かないよう 戒めている。この点は、複数人による協働のプラス効果とマイナス効果の問題として、すでに 1880年代ごろから究明されてきたものである。マイナスの協働効果もフランスのランジェルマ ン(Ringelman,M.)が当時行った実験で実証されている。その後、複数人協働のマイナス効果は、

協働参加者による手抜き、協働成果へのタダ乗りというフリーライダーあるいはソーシアル・

ローフィング (socialloafing)の問題と、複数人協働によるやむをえざる作業遅延などの調整ミ スに分けて論究されるようになっている(詳しくは参照文献pをみられたい)。ハクスハムでは、単な る複数人協働ではなく、コラボレーションであるが故におこるであろう不効率として、次の4 点のあることが指摘されている。

1は、コラボレーション参加組織間において、目的、言語、文化、処理方法、知覚されて

(9)

70  関 西 大 学 商 学 論 集 第53巻第6 (20092

いる力について差異があることである。第2は、コラボレーションに代表として派遣されてい る者の自律性と、派遣元組織への忠誠心とが両立せず、コラボレーションが不効率をよぎなく されることである。第 3は、これら代表たちはコラボレーション体では上下関係にはならない 場合が多いから、合意成立などに時間がかかることが多いことである。これはコラボレーショ ンでは、通常の企業や組織では考えられないマネジメントが必要であることを意味しているが、

ある単独の組織によりこれらのコラボレーション参加組織を吸収する動き(内部化)が生まれ るゆえんであるし、コラボレーションが必ずしも成功裏に進まないゆえんである。

そこでハクスハムは、コラボレーションにおいて順守されるのが望ましい原則として 4点を 挙げている (i,pp.146147)。第1は、コラボレーションについて充分知ることなく、反対する者 がいたりするから、コラボレーションについてよく周知させることである。第2は、コラボレ ーションをめぐる緊張をよく知り、そのバランスを図ることである。第 3は、それでもコラボ レーションを無視したり、反対したりする者がいるが、これらの者にも丁重な態度をとり、説 得することである。第 4は、コラボレーションそのものには反対であっても、それについて議 論することまでは反対でない人が少なからずあるから、そういう議論はこれをつづけ、参加者 全員のコミットメント深化に役立てることである。

IV. 道徳的理想追求的コラボレーション論

ハクスハムが道徳的理想追求的コラボレーション論として挙げた典型的なものの1つに、ヒ ンメルマンの主張がある(参照文献f)。それは直接的にはアメリカのNPONGOの運動などを念 頭においたもので、他国にはそのままでは適用しがたいかもわからないと、ヒンメルマンは断 っている。ヒンメルマンは、まず、かれのいうコラボレーションがネットワーク等と次の点で 異なるという。

①ネットワーキング:相互利益のために情報を交換することをいう。最もインフォーマルなも ので、多くの場合、組織間でなされるよりも、個人相互間でなされるものである。

②調整:相互利益のために情報交換し、かつ、相互利益と共通目的達成のために活動を変える ことをいう。ネットワーキングよりも組織間でなされることが多いが、例えば2つの組織が 共通の顧客サービス増進のために活動内容 (content)などを変えたりすることである。

③協力:相互利益のために情報交換し、かつ、相互利益と共通目的達成のために活動を変え、

そして資源を共有することをいう。資源の共有とは、例えば建物や施設などを共同使用する ことである。

以上に対していえば、コラボレーションは、さしあたり最も広義には、相互利益のために情 報交換し、かつ、相互利益と共通目的達成のために活動を変え、そして、資源を共有し、もっ て相互の能力増進を図ることをいう。それにはリスクや責任の共有も含まれるし、スタッフの

(10)

コラボレーション一般理論とコラボレーション優位(大橋) 71 

共同訓練などもこれに入る。ただしヒンメルマンは、第2次世界大戦時の経緯もあり、コラボ レーション参加者をパートナーとよぶものとしている。

しかし、以上の意味でのコラボレーションは、広義のものであって、ヒンメルマンがこの論 文で対象にしているのは、これではない。もっと厳密な意味でのそれであって、それはかれに よると、「コミュニティとシステムの変化に志向したコラボレーション」 (communityand  systems change collaboration)  (f.  p.19)であり、社会の「力関係の変化 (transformingpower relations)  に志向したもの」であって、一言でいえば、「変化志向的コラボレーション」 (tranformational collaboration)」(.pfp.26,31)である。その理念は、「用役のよりよき提供」から「社会正義の実現」

への移行 (bridgingfrom social service to social justice)を図るところにある。

この変換・転換の原点になるものは、「意思決定力」 (powerto make decision)と「社会的変化 過程の所有のいかん」 (ownershipof any social change process)である。この場合、実質的には後 者が中心的問題となるが、これには、ヒルマンによると、 2側面がある。

1つは、「協働により事態の改善がもたらされる側面」 (collaborativebetterment)で、通常、

提供される用役がさらに改善されることをいう。ここではそれ故、例えば専門家の意見を尊重 することなどが重要課題となる。

1つは、「協働により力の向上がもたらされる側面」 (collaborativeempowerment)である。

力は、ここでは「コミュニティの自己決定性を向上させるのに必須な資源の使用についての優 先度の決定やコントロールをなしうる力」と定義されるが、それには、さしあたり、①当該コ ミュニティの内部的な組織化を進める活動と、②目的達成にむけて外部組織との統合を促進す る活動との2者がある。ソーシャル・キャピタル論でいう内部結束機能 (bonding)と外部橋わ たし機能 (bridging)である(ソーシャル・キャピタルについて詳しくは参照文献qをみられたい)。この力向 上側面こそ、ヒンメルマンが強調するもので、それに必要とされる原理、すなわち力向上原理 には次のようなものがある。

①このプロセスは、コミュニティ基盤組織によって始められ, コミュニティ組織化によって 促進されるものであること。

②コミュニティの発議は、データ基盤分析および住民の叙述的実際例から生まれるものである こと。

③コミュニティ優先性がコラボレーション使命のなかで確定されていること。

④外部機関との交渉は、当該コラボレーション使命に基づき協定の形で進められること。

⑤コラボレーションのガバナンスと運営は政策協議会、執行委員会、実行機関およびスタッフ を支えるものであること。

⑥コラボレーションの運営・管理はコミュニティ参加を閉ざさない形で行われること。

⑦財務的および非財務的な出捐が行われること。

⑧当該コラボレーションの実行過程と実行結果についてモニタリングする機会があること。

(11)

72  関西大学商学論集 53巻第6 (20092

⑨資源はコラボレーション終了後も重要性をもつから、この観点でコミュニティのコントロー ルが可能なこと。

以上のヒンメルマンの所論で注意されるべきことは、事態改善側面と力向上的側面とが別々 のものではなく、基本的には事態改善的側面が先導的なもので、それが力向上的側面につなが

り、それを促進するものととらえられていることである。「事態改善的コラポレーションはカ 向上的コラボレーションに移行する」 (f,p.31)。力関係の変化はこうして可能になる。そのとき には、考え方や価値観にも変化がおきる。時には、コラボレーション計画の再編成 (redesign) が必要になる。そして、社会的力関係の変化をもたらすこともある。

以上の変化志向的コラボレーションについて、ヒンメルマンは、特徴的な諸点として下記を 挙げている。これは、ヒンメルマンの結論的主張といえるものである (f,pp.3235)

1に、パラダイム変化の中心性である。ヒンメルマンによると、現在、情報技術などの進 歩により精神的、文化的、社会的な領域でパラダイム変化がおきているが、コラポレーション こそ中心的役割を果たすものである。というのは、そうした技術進歩による成果、特に経済的 成果を充分に享受できるのは一部の者だけであるため、経済的格差が深化し、それに応じてカ 関係の格差も拡大している。他方、技術進歩により低コスト生産が可能になっているが、それ は、多くの者にとってはコスト削減の要請となって現れ、経済格差・カ関係格差進行に資する ものとなっている。協働体制のあり方の変化が必要なのでる。

2に、力関係の変化、階層格差の是正、民主主義のリニューアルの必要性である。技術進 歩による力関係変化は、階層格差の深化をもたらしており、それを是正し、民主主義の徹底を 図るためにはコラボレーション体制が必須である。

第 3に、人種間および文化においての多様性が進んでいるが、それは他方において包括性を 必要としており、このためにもコラボレーションは有用である。

第 4に、性差の克服にもコラポレーションは有用である。旧来の男性的文化はオーソリティ 志向的で、人的資源活用についても視野が狭いものであったが、コラボレーションにより女性 的文化の拡大が図られ、資源活用の道が大きくなった。

5に、コラボレーションは公的部門、私的営利部門、非営利部門等の参加しているものが 多いから、これらの部門の役割や責任の明確化に有用である。

6に、組織内関係と多数組織間関係のプロセスとダイナミズムが進展する。組織の官僚制 打破が叫ばれているが、官僚制克服はコラボレーション導入により進むであろう。

7に、促進的な (facilitative)リーダーシップ、グループ過程、問題解決が進展する。コラ ボレーションはもともとグループ的問題解決プロセスである。

8に、成人的行動の展開 (adultdevelopment)に役立つ。コラボレーションは本来利己主義 的なものではなく、他人の発展にも尽くすことを1つの重要視点としている。

9に、芸術・文化・祭典的なものへの志向性が強化される。コラボレーションでこそこう

(12)

コラポレーション一般理論とコラポレーション優位(大橋) 73 

した観点からの活動が可能になる。

V.

経 営 力 向 上 志 向 的 コ ラ ボ レ ー シ ョ ン 論

ハ ク ス ハ ム が 実 益 追 求 的 コ ラ ボ レ ー シ ョ ン と し て 挙 げ た も の の 1つに、 2007年 ワ ン グ (Wang,Y.)/フェセェンマイアー (Fesenmaier,D. R.)により提起されたものがある(参照文献o)。 これはアメリカ・インデイアナ州北部エルクハルト郡について、同郡の観光局 (Conventionand  Visitors Bureau: CVB)と関連する独立観光事業者とのコラボレーション体制を基盤とし、独立 観光事業者によるコラボレーション的マーケティング体制に焦点をおいたものである。ワング

/フェセェンマイアーは、それを端的に「観光地マーケティング・コラポレーション的連携」

(collaborative destination marketing alliance)の理論とよんでいる。

このコラボレーション論の何よりの特徴は、独立事業者を参加者とするものであることもあ り、各参加者すなわち各事業体の競争力の向上・強化に視点をおいているところにある。一般 にコラボレーション論といわれるものとはかなり意味が異なる。

このケースでも、コラポレーションそのものは1989年グレーが提示した「問題となるドメイ ンの将来について、当該ドメインの主要利害関係者間において共同の意思決定を行うプロセス」

(d.  p.11)という定義をそのまま引き継ぐものであるが、しかし1つのドメインにおける問題解 決案を共同で見出すという点は妥当しないものとされている。

もとより、コラボレーションのなかで事業体コラボレーション (businesscollaboration)  (k,  p.317)は有力な分野の1つであり、これはその代表例である。本稿冒頭で述べているように、コ ラボレーションという言葉は、最初、企業内における協働という意味で用いられたものである し、中小企業などのコラボレーションは、本来、このようなものである。さらに、ワング/フ ェセェンマイアーによれば、観光地マーケティングについてのこのようなコラボレーションの 試みは、それまでほとんど研究がなされてこなかったものである (o,p.873)。コラボレーション 論の1類型として注目されるべきものである。

ワング/フェセェンマイアーの実証的研究は、 2003年 エルクハルト郡の観光局職員5名、 同郡観光関係事業者 (B&Bなどの事業者) 32名について行われた。この調査にあたり、かれらは コ ラ ボ レ ー シ ョ ン の 理 論 的 研 究 に 基 づ き 、 こ う し た コ ラ ボ レ ー シ ョ ン は ① 前 提 条 件 (preconditions)、②動機 (motivation)、③実行段階 (stages)、④成果 (outcomes)に分けてとらえ るのが有用な方法であるとするが、この理論的フレームワークがエルクハルト郡の実証的研究 で検証されたのである。そこでこれをふまえて、この4段階のそれぞれについて、次の諸点が コラボレーション活動の一般的具体的内容として提示されている。これらが競争力向上志向的 コラポレーションの実際的内容をなすものである。

①コラボレーション前提条件の段階においてコラボレーション形成の要因となるものは、主と

(13)

74  関 西 大 学 商 学 論 集 第53巻第6 (20092

して下記のような事柄である。

Rなんらかの危機 (crisis)の発生もしくは激化。

⑥競争の激化。

R人員不足に対する対応など組織上の措置についての支援の必要性。

④情報技術など技術上の措置についての支援の必要性。

②コラボレーション参加の動機は、次のようなものである。

R戦略上の動機(市場拡大、競争力向上、財務条件の改善など)。

⑥取引費用上の動機(能率向上、有効性向上など)。

R学習上の動機(技能習得、知識ベースの拡大など)。

④クラスター競争力向上の動機(ポーターのクラスター戦略論でいうクラスター的協力体制への参加 希望をいう)。

Rコミュニティ責任上の動機(地域・コミュニティの発展などの責任を果たす必要性など)。

③コラボレーションの実行段階は、次の5段階により内容が異なる。

R初会合段階 (assembling):この段階ではパートナーの選択、 ドメイン・コンセンサスの形成、

共通価値の認識、コミットメントの確認、コラポレーション使命の確定、使命遂行方法の 検討などが課題になる。

⑥初動段階(ordering):目標設定、資源の割り当て、実行可能性の検討、基準やルールの確定、

情報伝達方法の設定、活動評価方法の設定などが課題になる。

R実行段階 (implementation):担当課題や責任の明確化とその遂行、コストと便益について の考慮、相互的コミュニケーション等が重要課題になる。

⑥評価段階 (evaluation):目標との照合、期待についてのチェック等が課題になる。

R再形成段階 (transformation):評価に基づき必要に応じてコラボレーション体制の見直しを 行う段階で、一般的には選択肢として、これまでと同様な形での継続、形を変えての継続、

協力体制の一層の強化、他のプロジェクトヘの転換、完全な終結等がある。

④コラボレーションの成果としては、次の 3者がある。

R戦略関連成果:マーケティング・コストの分担、顧客サービスの向上、商品ポートフォリ オの拡大、資源の有効利用、地域競争力の向上、地域イメージの強化、共同プランドの確 立、コミュニティの活性化等。

⑥組織的学習関連成果:組織変革、組織イノベーション、地域観光事業の認識、コミュニケ ーション技能の向上、問題解決技能の向上、知識ベースの拡大等。

Rソーシャル・キャピタル関連成果:相互関係の樹立、相互信頼の形成、事業ネットワーク 価値の形成、将来の機会拡大、学習機会の拡大等。

ワング/フェセェンマイアーの提示する「観光地マーケティング・コラボレーション連携」

の大要は以上である。これをみると、コラボレーション一般に属す要素・契機が多く含まれて

参照

関連したドキュメント

TRIP : Transformation induced plasticity HTSS : High tensile strength steel DP : Dual phase.. ERW : Electric resistance welding HAZ : Heat

[r]

[r]

[r]

第四章では、APNP による OATP2B1 発現抑制における、高分子の関与を示す事を目 的とした。APNP による OATP2B1 発現抑制は OATP2B1 遺伝子の 3’UTR

 基本波を用いる近似はピクセル単位の時間放射能曲線に対しては用いることができる

[r]