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(1)

わが国における規制緩和の経済効果に関する一考察 : マクロ計量モデルによる暫定的政策シミュレーシ ョン(1)

その他のタイトル A Study on the Economic Effect of Deregulations in Japan : A Temporary Simulation by Macroeconometric Models

著者 秋岡 弘紀

雑誌名 關西大學經済論集

巻 48

号 4

ページ 423‑433

発行年 1999‑03‑15

URL http://hdl.handle.net/10112/13633

(2)

4 2 3  

論 文

わが国における規制緩和の経済効果に関する一考察

ーマクロ計量モデルによる暫定的政策シミュレーション一― ( 1 )

秋 岡

弘 紀

キーワード:規制緩和;政策シミュレーション;マクロ計量モデル;回帰分析;伴 ( 1 9 9 1 )のモデル;

3 S L S ;  Sachs‑McKibbin 型世界経済モデル 経済学文献季報分類番号: 0 2 ‑ 2 7  ;  0 2 ‑ 4 0  ;  0 7 ‑ 1 0  

1 .   序 論

わが国における規制緩和については, 1 9 8 0 年代後半にその必要性が指摘されて以来,国内での活 発な議論を経て,現在に至るまで具体的な諸施策が順次実施されている。

しかし,ここで問題となるのは,上記の議論の過程において,規制緩和の必要性が定性的に説明 されることはあっても,定量的に説明されることは少なかったということである。政策効果につい ての定量的な説明に乏しければ,画竜点睛を欠くとの観をぬぐえず,その政策の根拠が十分に提示 されているとは言い難い。

なお,ここで言う政策効果の定量的な説明とは,その対象期間によって次の 2 種類に区分される。

一つは,過去に実施された,あるいは現在も実施中の政策に関して,過去から現在までの政策効果 を説明するものである。そして,もう一つは,これから実施される政策に関して,将来の政策効果 を説明するものである。

前者は,「過去の実績」という面からの政策の説明である。すなわち,過去に実施された政策につ 本稿は,原稿容量の関係で,一編の論文を下記の通り二回に分割して掲載させて頂いたうちの前半部分で す。悪しからずご了承下さい。

・「わが国における規制緩和の経済効果に関する一考察 ( 1 ) 」 1 .   序論

2 .   過去の研究例およびその問題点 3 .   モデル

〔以上,本号(第4 8 巻第 4号)掲載分〕

・「わが国における規制緩和の経済効果に関する一考察 ( 2 ) 」 4 .   実証結果

5 .   結論および今後の課題

〔以上,次号(第4 9 巻第 1 号)掲載予定分〕

4 3  

(3)

4 2 4   関西大学『経済論集』第 4 8 巻第 4 号 ( 1 9 9 9 年 3 月 )

いては,その効果を評価するものとなり,現在も実施中の政策については,これを継続することの 可否を判断するための有力な材料となる。これに対し,後者は,「将来の予測」という面からの政策 の説明である。すなわち,これから実施あるいは継続が検討されている政策に関して,その可否を 判断するための材料を提示することになる。したがって,現在も実施中の政策に関しては,この 2 種類とも提示されることが望ましいわけである。

さて,ここで,規制緩和というわが国の政策に視点を戻すと,過去に実施された規制緩和の経済 効果の計測に関しては,経済企画庁調整局 (1996• 1 9 9 7 ) によって行なわれている。これについて は,秋岡 ( 1 9 9 9 ) において詳しく言及されているが, 1990 95 年度の 6 年間で,年平均で名目 GDP の 1.68%, 額にして 7 . 9 1 兆円に相当する需要喚起の効果があったとされた。

一方,将来の規制緩和の経済効果の予測については,種々の制約のため,過去の研究例が極めて 少ない。このことを踏まえて,秋岡 ( 1 9 9 9 ) においてその予測が試みられ, 1 9 9 7 年実績値より総額 3 2 . 2 兆円,率にして 6.73% の実質 GDP の増加が見込まれるとの結果が得られた。しかし,これはあ

くまでも試算であって,厳密な計量モデルにもとづくものではなかった。

したがって,本論文の目的は,マクロ計量モデルにもとづいて将来の規制緩和の経済効果を予測 することにより,同政策の定董的な説明のうち,「将来の政策効果」を提示することにある。

2 .   過去の研究例およびその問題点 2  • 1  過去の研究例

規制緩和の定性的な研究については,秋岡 ( 1 9 9 6 a• 1 9 9 6  b・1996  c• 1 9 9 9 ) において詳しく述 べられている。久しく人口に膳灸していることではあるが,規制緩和の本質を簡潔に表現すれば,

「競争原理の導入によって国内の経済を活性化させること」となる。

一方,定量的な研究については,中北 (1994) や,経済企画庁調整局 (1996•

1 9 9 7 ) ,   秋岡 ( 1 9 9 9 ) において行なわれている。これらの主旨を一言で表現すれば,上記競争原理導入の帰結を,物価水 準の低下とみなし,これによって国民所得 (GDP) がどれぐらい増加した(する)かを計測したも のである。

このうち経済企画庁調整局 (1996•

1 9 9 7 ) によるものは,第 1 章で触れたように,わが国におい て過去に実施された規制緩和の経済効果を計測したものである。

具体的には,近年需要増加の顕著な産業を抽出の上,「産業に対する消費•投資需要の実績額」と,

「規制緩和がなされなかった場合に想定される消費・投資需要のトレンド額」との差額を,「規制緩 和による需要効果」とみなし,これを各年度・各産業別にミクロ的に計測したものを積み上げ,最 終的な「マクロの需要効果」として算出したものである。念のため,ここでの規制緩和の需要効果

の概念を数式で表現すると,下記の通りとなる。

4 4  

(4)

わが国における規制緩和の経済効果に関する一考察(秋岡) 425 

(規制緩和の需要効果)

規制緩和による過去の需要効果(各産業別)=産業に対する過去の消費•投資需要の実績額 ー規制緩和がなされなかった場合に想定される,

過去の消費•投資需要のトレンド額

〔上式の左辺を対象全産業で合計したものが,「マクロの需要効果」となる〕

なお,その計測結果については,第 1 章で述べた通りである。これに対し,中北 ( 1 9 9 4 ) と秋岡 ( 1 9 9 9 ) は,上記のようなミクロ的な積み上げからの計測ではなく,物価水準の低下と実質国民所 得とのマクロ的な関係にもとづき,規制緩和の徹底によって将来の国民所得がどれくらい増加する かを予測した。ここで中北は,規制緩和により,将来の国民所得が 3 8 兆円,率にして約 8% 増加す ると予測した。秋岡 ( 1 9 9 9 ) の予測結果の概略については,第 1 章の通りである。

2 .   2  問題点

本論文の意図しているところは,規制緩和の将来の経済効果の予測である。その予測については,

2 .   1 に示したように,次の二通りの手法が考えられる。

一つは,経済企画庁調整局 (1996•

1 9 9 7 ) のような,個別産業の積み上げによるミクロ的な計測 方法を,予測においてもそのまま適用する手法である。もう一つは,中北 ( 1 9 9 4 )・秋岡 ( 1 9 9 9 ) の

ように,マクロ的な国民所得増加額を直接予測する手法である。

もし,前者・経済企画庁調整局と全く同じ手法を,規制緩和の将来の経済効果の予測にも適用し ようとすれば,次の三つの難点に直面することになる。

まず,「規制緩和の将来の需要効果」を予測するためには, 2 .   1 の通り,各産業別の「将来の消

費•投資需要の予想額」と「規制緩和がなされなかった場合に想定される,将来の消費•投資需要

のトレンド額」とをそれぞれ推定する必要が生じる。

計測する対象が「過去の規制緩和の需要効果」である場合は,「規制緩和がなされなかった場合に 想定される消費•投資需要のトレンド額」を推定しさえすれば,あとはこれを「過去の需要の実績 額」から差し引くことによって計測が可能となる。しかし,「将来の経済効果」を予測する場合には,

上記のように,この両方ともを将来にわたって推定しなければならない。したがって,将来の経済 効果の予測においては,推定すべき項目が過去の経済効果の計測の場合よりもさらに一つ増える。

次に,これらの項目を個別産業ごとに推定すること自体にも,データ収集の上で困難が伴う。さ らに,そもそも推定の対象産業をいかに特定化するかという問題も生じる。

2 .   3  本論文における分析手法

2.  2 に挙げた理由により,本論文における分析は,中北 ( 1 9 9 4 )・秋岡 ( 1 9 9 9 ) と同様,マクロ の経済効果を直接算定する方式とする。しかし,本論文においては,中北 ( 1 9 9 4 )・秋岡 ( 1 9 9 9 ) の

45 

(5)

426  関西大学『経済論集』第4 8 巻第 4 号 ( 1 9 9 9 年3 月 )

ように,単年度の規制産業の名目生産額と価格水準下落予想値から経済効果の予測値を算定すると いう方式ではなく,計量経済学的なマクロ同時方程式モデル(マクロ計量モデル)にもとづく政策 シミュレーションによって行なう。これは,秋岡 ( 1 9 9 9 ) においても指摘されているように,規制 緩和が海外取引や貨幣市場に与える影響も考慮に入れて包括的な分析を行うためである。

すなわち,本論文においては,まず,過去のデータより,日本経済のマクロ構造を記述するマク ロ同時方程式体系を推定する。〔マクロ計量モデルの推定〕

次に,これに政府支出や貨幣供給量などの外生変数の将来の予測値(仮想値)を代入して,この 同時方程式を解き,その解としての実質国民所得の予測値を求める。〔政策シミュレーション〕

なお,標本期間(データ期間)は, 1971 97 年の2 7 年間,予測期間は, 1998 2007 年の 1 0 年間で ある。

3 .   モデル

3  • 1  マクロ計量モデルの条件

マクロ計量モデルに要求される条件としては,「現実との整合性」・「モデルの簡潔性」・「モデルの 操作性」の三点が挙げられる。

第一の「現実との整合性」は,最も重要な性質である。モデルが現実を反映していなければ,後 に続くパラメターの推定やシミュレーションといった作業が全く無意味になることは論を侯たない であろう。しかし,この条件を追求すればするほど,モデルは大規模化・複雑化して行き,「現実を 一般化して,そこから何らかの含意を抽出する」という科学の目的と乖離して行くこともまた明ら かである。

第二の「モデルの簡潔性」と第三の「モデルの操作性」は,上記・「科学の目的」という観点から 要求される条件である。データの収集や,パラメターの推定・シミュレーションを適切に行なうた めには,これらの条件が満たされていなければならない。しかし,これらを追求し過ぎると,第一 の「現実との整合性」という条件と両立しなくなる。

3  • 2  マクロ計量モデルの沿革

わが国のマクロ経済を記述する最も包括的な計置モデルとしては,経済審議会計量委員会編 ( 1 9 9 6 ) の「中期多部門モデル」が挙げられる。これは数年に一度改編されるもので,国民経済計 算体系の諸勘定にもとづき,その勘定体系の枠組みに沿った年度半期データによって構造方程式体 系を推定し,現実の経済変動を追跡する多部門動学モデルである。

すなわち,財・サービス,金融・労働の三大市場を,それぞれ現状に即した多数の主体や部門に 分割し,それらの行動方程式の連立体系により,経済の動きを忠実に表現しようとしたものである。

しかし,当モデルは, 1 , 0 0 0 本を上回る式体系を持つ大型モデルであり,特定のテーマにもとづく シミュレーションのために,個人の研究者が手軽に利用できるようなものではない。また,方程式

46 

(6)

わが国における規制緩和の経済効果に関する一考察(秋岡) 4 2 7   体系が複雑なため,政策効果のトレースやシミュレーション結果の解釈も容易なことではない。っ

まり, 3 .   1 の第一の条件,「現実との整合性」を最重視したモデルであると言える。

一方,本論文が,「規制緩和」という貿易問題と直結するテーマを扱っている関連から言えば,経 済企画庁経済研究所編 ( 1 9 9 5 )の「第 5 次版 EPA 世界経済モデル」も重要である。これは,上記「中 期多部門モデル」をもとにして,わが国と主要国のマクロ計量モデルとを同一の方程式体系に統合 し,各国の経済事象や政策の相互の波及効果を分析しようとしたものである。ただ,当モデルも,

1 , 2 3 4 本の方程式と 2 9 7 個の外生変数から構成されているという膨大なもので,前述「中期多部門モ デル」と全く同様の難点を持つ。

これらの難点を軽減し, 3 .   1 の第二の条件「モデルの簡潔性」と第三の「モデルの操作性」を 重視したものが, Sachs‑McKibbin ( 1 9 8 5 ) の世界経済モデルである。これは,竹中・小川 ( 1 9 8 7 ) に詳述されているように, 1 9 8 0 年代前半の対外不均衡に焦点をあて,これを一般均衡のフレーム・

ワークで包括的に分析しようとしたものである。このモデルの特長は,先進国間におけるマクロ政 策の波及メカニズムの分析への適応をまず第一の目的とし,現実との整合性をできるだけ保ちつつ も,従来の世界経済モデルに較べてモデルの小規模化に成功したということで,方程式数は約1 2 0 本 に軽減されている。

本論文にて使用するマクロ同時方程式モデルは,この Sachs‑McKibbin ( 1 9 8 5 ) 型世界経済モデ ルを,日本一国の経済に適用するために伴 ( 1 9 9 1 ) が改良したものである。詳細は 3. 3 で説明す るが,当モデルは,方程式の数をさらに削減・簡略化して総計1 2 本とし,それにもかかわらず現実 経済との整合性を失わせないことを最大限考慮したものである。

すなわち,種々のモデルの利点および欠点を総合的に検討した結果,整合性・簡潔性・操作性,

この三つの条件を同時に成立させることのできるモデルとして,本論文においては,この伴 ( 1 9 9 1 ) のモデルを分析の基本に採用するものである。

3  • 3  伴 ( 1 9 9 1 ) のモデル(モデル 0)

本論文におけるモデルの基礎となるものは,以下に示す伴 (1991)•p203 のモデルであり,本論文 においては,これをモデル 0 とする。

なお,伴 ( 1 9 9 1 ) にも述べられている通り,このモデルは,元々,個々のパラメターが先験的に 与えられている非確率的マクロ・シミュレーションのために作成されたものである。したがって,

実際のデータから同時方程式モデルによりパラメターを推定し,引き続きそれにもとづいてシミュ レーションを行なうという,マクロ計量モデルによるシミュレーションに使用されることは想定さ れていない。

しかし,本論文においては,上記のような簡潔なモデルで,果たしてわが国のマクロ経済がうま く記述できるかどうかの検討も併せて行うため,敢えて後者のシミュレーションを試みるものであ る 。

4 7  

(7)

4 2 8   関西大学「経済論集』第 4 8 巻第 4 号 ( 1 9 9 9 年 3 月 )

〇伴 ( 1 9 9 1 ) のモデル(モデル 0)

〔推定式〕 (6 本 )

(国内民間最終支出関数) D

a,o+au(Q1‑T1) +a,2

凡 十

a,3wt —①

(貨幣需要関数) l o g ( M :   訊) =a20+ 叫 o g ( Q t ) + 叫 o g ( l 十 り ) 一②

(インフレ供給関数)

1 + 1=a3o+a3

t +  a  3 2 l o g  ( Q 1 /  Q/)  ―③ 

(輸入関数) l o g  UMt) =  a 4 0  +  a 4 i l o g   (D け G t )+a42Iog(Pus1・Etf  P 1 )   一④

(為替レート決定関数) l o g ( E t + i )  = a s o + a s , l o g ( E t )  +a52  (i05亡 i~) ―⑤ 

(租税関数) T1=a5o+a6,Qt  ―⑥ 

(国民所得決定式)

(名目利子率)

(財政収支)

(国債残高)

(民間純資産残高)

(物価水準)

〔定義式〕 (6 本 ) Q1=D 叶 G1+EX1‑IM1

炉 凡 十 冗

t + I BG1=G け i tW1‑T1 

W G 1 + 1  =  ( B G 1  + WG1)  I  ( I

十冗ぃ)

W1=WG1+WA1  p t + I  =P1(I

十冗

t + I )

⑫  

︱︱‑︳︳‑

但し,

a;; 

Dt  Q t   T 1   R t   Wt  Mt  P 1  

t . t

 

t

Q/ 

IMt  G t   p u s t   E t  

iUSt 

:実際のデータより推定するパラメター

: t 期の国内民間最終支出(実質:民間最終消費支出+民間最終投資支出)

:  t 期の国内総生産(実質 GDP) :  t 期の租税(実質:国税+地方税)

:  t 期の実質利子率

: t 期の民間純資産残高(実質)

:  t 期のマネー・サプライ(名目: M け CD) :  t 期の物価水準 (GDP デフレータ: 1 9 9 0 年基準)

:  t 期の名目利子率(コール・レート)

:  t 期の物価上昇率 ( = P t ! P t ‑ 1 ― 1)

: t 期の潜在生産水準(潜在実質 GDP) :  t 期の輸入(実質:サービス含む)

: t 期の政府支出(実質:政府投資支出+政府消費支出)

:  t 期の米国の物価水準 (GDP デフレータ: 1 9 9 0 年基準)

:  t 期の為替レート(円/ドル)

:  t 期の米国の名目利子率(フェデラル・ファンド・レート)

4 8  

(8)

わが国における規制緩和の経済効果に関する一考察(秋岡) 4 2 9   EX1  :  t 期の輸出(実質:サービス含む)

BG1  :  t 期の財政収支(実質)

WG1  :  t 期の国債残高(実質)

WA1  :  t 期の対外純資産残高(実質)

*  1  各データの出典については,本論文の末尾を参照。

*  2  特に国名の指定のないものは,わが国の変数とする。また,右欄に「実質」と記載されて いる変数は, 1 9 9 0 年基準の物価水準で実質化されている。

各式の簡単な説明については,下記の通りである。

〔推定式〕

①国内民間最終支出関数

国内民間最終消費支出 W1) と,可処分所得 (Q1-T1)•

実質利子率 ( R 1 ) および民間純資産残 高 ( W 1 ) との間の関係を推定する式である。なお,右辺第 4 項は,資産の残高効果を表現してい

る 。

②貨幣需要関数

貨幣市場の均衡を示す式であり,右辺第 2 項は貨幣の取引需要を,第 3 項は投機的需要を表現 している。

③インフレ供給関数

物価上昇率(叫と,国民所得の需給ギャップとの間の関係を推定する式である。なお,本論文 においては,各期の潜在生産水準 (Q/) は,各期の国民所得の実績値を各期のタイムトレンド(暦 年)に回帰させる方法で求めている。

④輸入関数

輸入需要 ( I M , ) と,国内最終支出 (D げ G , )・内外相対価格水準 (P 例 ・E1/P1) との間の関係を推定する式である。

⑤為替レート決定関数

来期の為替レート ( E , + 1 ) と,今期のレート ( E , )・今期の日米の金利差 ( i U S 1 ーん)との間の関係を推定する式である。

なお,伴 ( 1 9 9 1 ) の当初のモデルでは,

l o g   ( E 1 + 1 )   =  l o g   ( E , )   +  (iu¥‑ i , )  

と記述されている。すなわち,各期の為替レートは,上式の通り一意的に決定されるものとされ,

推定式ではなく定義式になっている。

しかし,現実には,為替レートの動きを一意的に決定することは困難で,通常は予測の対象と

4 9  

(9)

4 3 0   関西大学「経済論集』第4 8 巻第 4 号 ( 1 9 9 9 年 3 月 )

なっている。したがって,本論文においては,⑤式の通り推定式の一つに含めるものである。

⑥租税関数

租税の総額 ( T t ) と,国民所得 ( Q t ) との間の関係を示す式である。伴 ( 1 9 9 1 ) の当初のモデ ルでは, T t は外生変数とされているが,現実との整合性に鑑み,本論文においては,⑥式の通り 内生化し,その関係を推定するものである。

〔定義式〕

⑦国民所得決定式

支出面からの各期の国民所得 ( Q t ) の構成を示す式である。

⑧名目利子率

今期の名目利子率 C i 1 ) は,今期の実質利子率 ( R 1 ) に来期の物価上昇率

(か I : 期待インフレ率)を加えたものであるということを示す式である。

なお,本論文においては,過去の冗

t

のデータには,すべて実績値を使用している。

⑨財政収支

各期の財政収支 ( B G t )の構成を示す式である。なお右辺第 2 項 UtWt)は,政府の内外債務に 対する利払い額を表現している。

⑩国債残高

来期の国債残高 (WGt+l: 実質)は,今期の財政収支 (BGt:実質)と今期の国債残高 (WGt:

実質)とを加え,それを来期の物価上昇率(冗 t + l ) で除したものであることを示す式である。

⑪民間純資産残高

各期の民間純資産残高 ( W t )は,各期の国債残高 (WGt) に各期の民間対外純資産残高 (WAt) を加えたものであることを示す式である。

これは,国債が発行され,それが市中で消化されると,そのまま民間の資産となるという事実 を反映しているものである。

⑫物価上昇率

来期の物価水準 ( P t + ! ) と,今期の物価水準 ( P t ) および来期の物価上昇率

( 冗 t + l ) との関係を示す式である。

3 .   4  物価上昇率を外生変数化したモデル(モデル 1)

3 .   3 のモデルに現時点までの実際のデータを適用して各パラメターを推定し,それにもとづい て規制緩和の将来の経済効果を予測するシミュレーションを行なうためには,「規制緩和」という政 策自体が,シミュレーションの前に変数化されていなければならない。本論文においては,中北 ( 1 9 9 4 )・秋岡 ( 1 9 9 9 ) と同様にして,それを暫定的に「内外価格差の解消に伴う物価水準 ( P t ) の

5 0  

(10)

わが国における規制緩和の経済効果に関する一考察(秋岡) 4 3 1   下落」とみなす。その下落率(叫については, 4 .   2 .   2 に示す通りである。

しかし,ここで一つ問題が生じる。すなわち,本来,物価上昇率は実質国民所得とともにモデル の中で決定される内生変数であって,最初から外生的に与えることができないということである。

そこで本論文においては,規制緩和を暫定的に一種の「外的ショック」とみなし,その第一の効果 である「物価水準の下落」を,敢えて外生変数化するものである。

これに伴い,実証分析(モデルのパラメターの推定およびシミュレーション)に先立って, 3 .   3 に示した伴 ( 1 9 9 1 ) のモデル(モデル 0 ) を一部変更する必要が生じる。なぜならば,このモデ ル 0 においては,物価上昇率(叫が内生変数(③式)となっており,もしこのモデルのままでパラ メターを推定すれば,上記シミュレーションとの論理的整合性を失うからである。

変更後のモデルは下記の通りであり,これをモデル 1 とする。第 4 章においては,まずこのモデ ルにより実証分析を行う。なお,各変数の内容は 3 . 3 と同じである。

0 物価上昇率を外生変数化したモデル(モデル 1)

〔推定式〕 (5 本 )

(国内民間最終支出関数) D

a 1 o + a 1 1(Qt‑Tt) +a12 凡十 a 1 a W i  

(貨幣需要関数)

(輸入関数)

log(M 訊) = a 2 0 + a 2 1 l o g ( Q t )   + 叫 o g ( l + i t )

l o g ( I M t )  =a40+ 叫 ogWt+  G t )  +  a  4 2 l o g  

(P 例•

E t ! P t )  

(為替レート決定関数) l o g ( E t + 1 )  =as 。 十 a s 1 l o g ( E t )+as2 uust̲ i t )  

(租税関数) Tt=a6o+a51Qt 

⑥  

︳︳︳︳︳ 

(国民所得決定式)

(名目利子率)

(財政収支)

(国債残高)

(民間純資産残高)

(物価水準)

〔定義式〕 (6 本 ) Q1=D 叶 G1+EX1‑IM1 i1=R け冗 t + I

BG

G1+i1W1‑T1

WG1+1=(BG け WG1)/(l 十冗ぃ)

W1=WG1+WA1  P t + I  =P1(l  + 冗 t + l )

⑫  

3 .   3 のモデル 0 との違いは,物価上昇率(叫を外生変数とするため,モデルからインフレ供給 関数 (3. 3 の③式)を除外していることである。

なお,モデル間の比較を容易にするため,各方程式の式番号とパラメター名はモデル 0 と同じで ある。したがって,モデル 1 においては,式番号③は欠番となっている。

また,本論文においては.上記物価上昇率の外生変数化に加え, 3 .   3 で示したように,為替レ ート決定関数を推定し,租税を内生変数化するなど,モデル 0 の段階において,すでに伴 ( 1 9 9 1 )

5 1  

(11)

4 3 2  

関西大学

r

経済論集』第

48

巻第

4 ( 1 9 9 9 3

の当初のモデルを一部修正している。

*本研究は,平成 9 年度関西大学重点領域研究助成金によって行なった。

(データ出典)〔 ( 1 ) ・ ( 2 ) 統合分〕

• 国内民間最終支出(名目),輸入(名目:サービス含む),

政府支出(名目),輸出(名目:サービス含む),

米国の物価水準 (GDP デフレータ: 1990 年基準),

米国の名目利子率(フェデラルファンド・レート)

:東洋経済新報社編 ( 1 9 9 8 ) 「経済統計年鑑 ' 9 8 」,東洋経済新報社

・租税(名目:国税+地方税),マネー・サプライ(名目: M2+CD),  物価水準 (GDP デフレータ: 1990 年基準),名目利子率(コール・レート),

為替レート(円/ドル),

:日本銀行調査統計局編 ( 1 9 9 8 ) 「経済統計年報(平成 9 年)」,日本銀行

・対外純資産残高(名目:民間)

(以下次号掲載予定)

:経済企画庁経済研究所編 ( 1 9 9 8 ) 「国民経済計算年報(平成 9 年版)」,大蔵省印刷局

*  1 :  データを収集した資料のうち,最新版の名称のみを,上記「出典名」として記載した。

*  2 :  モデル上の変数名との対応関係は, 3 . 3 の「モデル〇」の欄を参照。

*3:  上記のうち, 3.  3 の「モデル 0 」において「実質」と表記されている変数については,

上記の名目値を,同じく「物価水準」で除して算定した。

*  4 :  3 .   3 の「モデル 0 」において,定義式で規定される下記の変数は,各定義式にもとづき,

上記の変数より算定した。

国内総生産(実質),実質利子率,財政収支(実質),国債残高(実質),

民間純資産残高(実質),物価上昇率 (=Pt!P t ‑ I   ‑1) 

*  5 :  3 .   3 の「モデル〇」の「潜在生産水準」 (Q/)については,上記「国内総生産」をタイム・

トレンドに回帰させて算定した。

参考文献〔

(1)

(2)

統合分〕

秋岡弘紀

( 1 9 9 6

a)「規制と競争」,橋本介三編著『現代日本経済を考える』第

4

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秋岡弘紀

( 1 9 9 6b)

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( 1 )

」, 『関西大学経済論集』第

4 6

巻第

1

号,関西大学経済学会,

p p l ‑ 2 8

秋岡弘紀

( 1 9 9 6

C)「規制緩和と経済理論

( 2 )

」, 『関西大学経済論集』第

4 6

巻第

2

号,関西大学経済学会,

p p 3 9 ‑ 6 6

秋岡弘紀

( 1 9 9 9 )

「わが国における規制緩和ーその意義・現状および展望(試算)一」,『研究双書

J

(「グローバリゼー

ション・リスクの研究」:仮題),関西大学経済・政治研究所(掲載予定:

1 9 9 9

2

月現在分冊

N u

および掲載ページ

5 2  

(12)

わが国における規制緩和の経済効果に関する一考察(秋岡)

433 

未定)

伴金美

( 1 9 9 1 )

「マクロ計量モデル分析」,有斐閣

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「物価レポート

' 9 7

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経済企画庁調整局

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「近年の規制緩和の経済効果の暫定的試算ー主要分野における経済効果の

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‑ J ,  

(報告書)

経済企画庁調整局

( 1 9 9 7 )

「近年の規制緩和による経済効果の定量的試算」(報告書)

経済企画庁経済研究所編

( 1 9 9 5 )

「第

5

次版

EPA

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1 3 9

号,大 蔵省印刷局

経済審議会計量委員会編

( 1 9 9 6 )

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1 0

次報告ー」,大蔵省 印刷局

中北徹

( 1 9 9 4 )

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1 9 9 4

2

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日号,東洋経済新報社,

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( 1 9 8 7 )

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( 1 9 8 8 )

TSP

による経済データの分析」,東京大学出版会

和合肇・伴金美

( 1 9 9 6 )

TSP

による経済データの分析〔第

2

版〕」,東京大学出版会

Z e l l n e r  A .  and T h e i l  H .  ( 1 9 6 2 )  " T h r e e ‑ S t a g e  L e a s t  S q u a r e s :  S i m u l t a n e o u s  E s t i m a t i o n  o f  S i m u l t a n e o u s  E q u a ‑ t i o n s " ,  E c o n o m e t r i c a  3 0 ,   p p 5 4 ‑ 7 8  

5 3  

参照

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