首都大学東京 機関リポジトリ
Title
『荒地』草稿試論 : いくつかの仮説
Author(s)
三宅, 昭良
Citation
人文学報 表象文化論(431): 89‑131
Issue Date2010‑03‑30
URL
http://hdl.handle.net/10748/5334
RightsType
Departmental Bulletin Paper
Textversionpublisher
http://www.tmu.ac.jp/
『荒 地 』 草 稿 試,..い く つ か の 仮 説
三 宅 昭 良
1.『 荒 地 』 草稿 再 訪
久 しぶ りに 『 荒 地 』 とその 草稿 を読 み 返 し、 さて最 近 の研 究 状 況 は ど うな のか と 調 べ てみ る と、あ らた に二 つ の注 釈版 が 出て お り、あの ロー レン ス ・レイ ニ ー が 『慌 地 」再訪 』な る研 究 書 を書 い てい るこ とが わ か り、さっ そ く取 り寄せ 読 ん でみ た1。
彼 の 『 エ ズ ラ ・パ ウ ン ドと文化 のモ ニ ュ メ ン ト』(1991年)2はrマ ラテ ス タ詩 篇 」 を論 じた傑 作 だ った か らだ。
彼 の本 領 は徹 底 した 調査 と研 究動 向へ の批 判 な の だ が、そ れ は この 『慌 地 再 訪』
にお い て も変 わ って お らず 、圧倒 され た 。 だ が、 時 間 をお い て再 読 してみ る と、 い くっ か 疑 問 と異論 が生 じた。 本 論 は 、そ の 疑 問 を解決 す る〜 つ の試 論 で あ る。
そ の た め に、 以 下の 手 順 で進 め るこ とにす る。 ま ず 、発 表 され た 『荒 地』 草稿 が どん な テ ク ス トか確 認 ・復 習 し、次 に これ ま で の 『荒 地』 草 稿論 を概 観 して 、推 理 され て き た問題 含 み の 作成 順 序 を示 す 。 次 に レイ ニ ー の研 究 の到 達 点 を解 説 し、 そ の 欠 点 と疑 問 点 を指 摘 す る。 最 後 に 、そ れ らの疑 闘 点 を解 決 しなが ら 『 荒 地 』 の制 作 過 程 と構 想 につ い てい くつ かの仮 説 を提 出 す る。
2。 草 稿群 のテ クス ト
1971年 にエ リオ ッ トのasの 夫 人 ヴァ レリー が発 表 した草 稿 は 、 謝 辞 な どの儀 礼 的 部 分 を のぞ く と次 の よ うな構 成 で あ る。 本 体 の前 に22ペ ー ジ にわ た る編 者 ヴ
イン トほダクシ ョン
ァ レ リー に よ る 「序 文 」 が あ り(xi‑xx幻 、つづ い て 騙 集 方 針 」(xxxの が示 さ
れ て い る。 草稿 の 本 体 はす べ て見 開 き2ペ ー ジ で 一組 にな っ てお り、左 ペ ー ジ は草
稿 の 白黒 フ ァク シ ミ リで あ る。 タイ プ原 稿 あ り手 書 き原稿 あ り、 走 り書 きの よ うな
語 句 の修 正 、 コメ ン ト、波 線 な ど、 さま ざま な書 き 込み が な され て お り、興 味深 い
が読 み に くい。 パ ウ ン ドの 書 き込 み と削 除 に は鉛 筆 とイ ン ク と緑 の ク レ ヨンが使 わ
れ て い る との 注記 が あ る が、 区別 しに くい個 所 が あ る。 右 は それ らを編 者 が判 読 し
て すべ て タイ プ に打 ち直 した ペ ー ジ で あ る。 「 編 集 方針 」に は 、エ リオ ッ トの抹 消 か
パ ウ ン ドのそ れ か判 別 しに くい もの が あ る こ と、明 らか な タイ プ ミスは 黙 って右 ペ
ー ジに お いて 訂 正 した こ と 、単 語 の 一部 しか抹 消 線 が 引 かれ て い な い場 合 に も単語
907荒 地』草 稿試論 一い くつか の仮説
全 体 を 抹 消 表 記 し た こ と な ど に加 え 、 パ ウ ン ドの 書 き込 み と 削 除 は 赤 で 、 最 初 の 妻 ヴ ィ ヴ ィ ア ン の 書 き 込 み は イ タ リ ッ ク 体 で 、 彼 女 の 抹 消 線 は 破 線 で 右 ペ ー ジ に 区 別 した こ と を 記 して い る。 裏 返 せ ば 、 右 ペ ー ジ に 印 刷 され た そ れ 以 外 の 黒 い 文 字 と抹 消 線 は す べ て エ リオ ッ トの修 正 ・削 除e手 書 き 文 字 を あ ら わ して い る とい う こ とだ 。
そ して い よ い よ 草 稿 本 体 溺 は じま る の だ が 、 大 き く1)『 荒 地 』 の 草 稿 群 と2) 独 立 した 詩 とお ぼ し き 物 や 断 片 的 詩 行 群 と の2つ に 分 け られ て い る 。 草 稿 群 は セ ク
シ ョ ン ご とに ま と め られ て い る。 ま ず 、 タ イ トル ・ペ ー ジ の タ イ プ 原 稿 が 来 る(〔2ヨ
〜[3])3。THEWASTELAND.と ピ リオ ドが つ い て い る 。下 に は エ リオ ッ トの 名 前 、 そ し て エ ピ グ ラ フ と し て 『闇 の 奥 』 か ら の 引 用 が あ り、 コ ン ラ ッ ドの 名 前 が 、 こ こ の み 手 書 き で 書 き 込 ま れ て い る 。 パ ウ ン ドの 書 き 込 み は な い 。 っ つ い て 第 一 部([4]
〜[9]) 、 第 二 部([lol〜[21])。 と も に タイ プ 原 稿 の み だ が 、 第 二 部 に は カ ー ボ ン ・コ ピ ー 原 稿([16)〜[21])が あ る 。 つ ま り第 二 部 は 同 一 の 原 稿 が2つ あ る 。 そ して 第 一 部 に は 〔 死 者 の 埋Jと い う表 題 の 上 に さ ら に 「か れ は 色 々 な 声 で 警 官 た ち の 発 雷 を 読 み 上 げ る ん だ よ:パ ー ト1野 とい うタ イ プ 打 ち の タ イ トル が 斜 め に 走 っ て い る(以 下 、 「 か れ は 色 々 な 声 でLと 表 記)。 明 ら か に 後 か ら付 け 加 え た も の で あ る 。 ふ た つ の 表 題 を 残 して 、 後 の 詩 行 全 体(い わ ゆ るfボ ス トン の 夜 遊 び 」 の 場 面)を エ リ オ ッ ト自身 が 消 し て い る。 残 りの 二 ペ ー ジ に は パ ウ ン ドの 書 き 込 み が あ る が 、 多 く な い 。 第 二 部 に は 「カ ゴ の な か で 」 と い う表 題 を 消 して 手 書 き でrチ ェ ス 遊 び ユ と 書 い て あ り、 さ ら に そ の 上 に ギ か れ は 色 々 な 声 で 警 官 た ち の 発 言 を 読 み 上 げ る ん だ よ1パ ー トIIIと 、 こ ち らは 斜 め に な っ て い な い 。 リボ ン タ イ プ 原 稿 に は エ リオ ッ トの 訂 正 ・書 き 込 み 、 ヴ ィ ヴ ィ ア ン の 感 想 と訂 正 案 、 パ ウ ン ドの 添 削 が 加 え られ て い る 。 第 一 部 に 比 べ る とパ ウ ン ドの 書 き込 み は 少 し多 い 。 カ ー ボ ン ・コ ピ ー 原 稿 に は 妻 の 意 見 が エ リ オ ッ トの 手 で 転 写 され て い る の み で 、 パ ウ ン ドの 赤 は い っ さ い 入 っ て い な い 。
第 三 部 は も っ と複 雑 で あ る([22]〜[53】)。ま ず 、タ イ プ 原 稿([22]〜[35])と そ の カ ー
ボ ン ・コ ピー 原 稿(L38]〜[47])の 二 種 類 が あ り、 も ち ろ ん 同 一 原 稿 で あ る。 と こ ろ が
どち ら に も パ ウ ン ドが 諏 メ ン トや 削 除 を 相 当加 え て い る。 も っ と も赤 の 入 っ た パ ー
トで あ る 。 タ イ トル ・ペ ー ジ に は 灰 の 説 法 」 と の み 記 さ れ て お り、 上 記 の よ う な
総 合 的(?)タ イ トル も な け れ ば 、 第 何 部 に あ た る か も 記 さ れ て い な い 。 ま た 、 リ ボ ン
タ イ プ 原 稿 の1ペ ー ジ 霞の 裏 に は̀Theriverstentisbroken'で は じま る 手 書 き の
13行 が 走 り書 き され く[24]〜[25])、1ペ ー ジ 目 と2ペ ー ジ 目 の 間 に割 り込 む 形 で 差
し込 ま れ て い る に の13行 は 最 終 的 に 第 三 部 の 冒 頭 に 利 用 され る)。2ペ ー ジ 目 に
3萢地ご 草稿試 論 一い くつ かの仮 説91
は挿 入 個 所 の 指 示 が あ り、3ペ ー ジ 目の 前 に そ の 挿 入 す べ き 断 片 的 手 書 き 草 稿([28]
〜[2gl)が 掲 載 され て い る 。ま た 、タ イ プ 原 稿 とカ̀一/¥ン9ピ ー 原 稿 の 問 に̀℃City, Ci輸 …"で は じま る 断 片 と"Londontheswarminglife…"で は じ ま る 断 片 と が 書 か れ た 一 枚 の シ ー トが は い っ て い る([36]〜[371)。 そ して 最 後 に 三 枚 の 手 書 き原 稿 ([48}γ[531)が 添 え られ て お り、 こ れ ら は 最 終 的 に 第 三 部 の 最 後 の45行 に ほ ぼ そ の ま ま 利 用 さ れ る 。第 四 部 と 第 五 部 は そ れ ぞ れ 手 書 き の 清 書 原 稿 と タ イ プ 原 稿 が あ る。
そ の 他 の 詩 編 ・断 片 群 は 今 回 の 議 論 に 深 く 関 わ ら な い の で 、 な か に はX1914年 か そ れ よ り前 に 」 〈[13◎1)書 か れ た と推 測 さ れ る も の が 含 ま れ て い る こ と を 確 認 し て 、 こ
こ で は 省 略 す る 。
草 稿 本 体 に っ つ い て 編 者 が 注 釈 を 付 して い て 、 な か に は 貴 重 な 情 報 も あ る 。 そ し て 最 後 に1922年12月1日 に 本 形 式 で 出 版 され た 、 自 注 付 き の 『荒 地 』5が 掲 載 さ れ て い る 。
以 上 が 、 『荒 地 』 草 稿 の あ ら ま しで あ る 。 つ ま り、 『サ テ ユ リ コ ン 』 か ら の 引 用 を エ ピ グ ラ フ に し た 現 行 の タ イ トル ・ペ ー ジ の 原 稿 は な い し 、 第 一 部 と第 二 部 作 成 の た め に 書 か れ た 断 片 的 下 書 き 原 稿 や 手 書 き の 清 書 原 稿 は な い 。 第 三 部 も タ イ プ 打 ち
に い た る 前 段 階 の 手 書 き原 稿 は ほ とん ど含 ま れ て い な い 。"London ,theswarming life…"([36]〜X37])で は じま る 断 片 が 第 三 部 タ イ プ 原 稿 に 活 用 され て い る の み で
あ る([3◎1〜[31]/[42]〜[43])6。 第 四 部 、 第 五 部 も清 書 原 稿 を 作 成 す る 前 に い か な る 推 敲 が な され た か 、 現 草 稿 か らは 分 か ら な い 。 そ うい っ た も の は ど こか の 段 階 で エ リオ ッ トが 処 分 した と 考 え られ て い る7。 こ れ が 、 エ リオ ッ トが 弁 護 士 ジ ョ ン ・ク ィ ン に 贈 呈 してs、 そ の 後 行 方 不 明 だ っ た も の の す べ て だ と理 解 さ れ て い る 。
以 上 で 草 稿 自体 に っ い て 十 分 確 認 ・復 習 で き た の で 、 つ ぎ に レイ ニ ー 「以 前 」 の
研 究者 た ちが 草稿 群 か ら何 を読 み とった か 、彼 の説 明 を参 考 に しな が ら簡 潔 に整理 して お こ う。
3.草 稿 論 概観:レ イ ニ ー 似 前 」
前 節 で 述 べ た とお り、 『 荒 地 』 は お そ ら く膨 大 な手 書 き原 稿 か ら清 書 が な され 、 タイ プ原 稿 の作成 が な され た はず な のだ が 、用 済 み に な った 下書 きな どの ほ とん ど はエ リオ ッ ト自身 が処 分 して しま っ た ため に失 わ れ 、 われ わ れ に残 され た 草稿 テ ク ス トの 大部 分 は 詩 の形 が 見 え は じめ る一 歩 手前 当た りか らの もので あ る。だか ら、
当初 研 究 者 た ち の意 見 は 分 かれ た。 ヒュー ・ケ ナ ー9と グmヴ ァ ー‑eス ミス は第
三部 が 最 初 に書 かれ た と推理 し、 ヘ レン ・ガ ー ドナ.‑10は じつ に控 え めな調 子 な が
927荒 地 』華稿 試諭 〜い くつか の仮説
ら、 暗 に 第 一 部 、 第 二 部 が 第 三 部 よ り先 に 作 成 され た の で は な い か と示 唆 した 。 ケ ナ ー の 推 理 は こ うで あ る 。 彼 は タ イ プ ラ イ タ ー に 注 目す る 。 第 四 部 と 第 五 部 は 草 稿 編 者 が は っ き り と 「パ ウ ン ドの 使 っ た 青 紫 色 の リ ボ ン で タ イ プ され て 」 い る と 特 定 して い る 。 し た が っ て22年1月 に パ リ で 作 成 され た こ と は 確 実 で あ る。 草 稿 は ほ か に2種 類 の タ イ プ ラ イ タ ー で 打 た れ て お り、 タ イ トル ・ペ ー ジ と第 三 部 が 同 じ タイ プ ラ イ タ ー で 、 第 一 部 、 第 二 部 、 雑 編 群 の うち 「 公 爵 夫 人 の 死 」 が も う一 つ の タ イ プ ラ イ タ ー で 作 成 さ れ て い る と判 別 で き る 。 ケ ナ ー は そ れ ぞ れA、Bと 名 付 け 、 タイ プ ラ イ タmは ロ ン ドン で 使 用 され 、Bは エ リオ ッ トが 心 理 療 養 の た め に 21年 末 に ロ ー ザ ン ヌ を 訪 れ た 間 に 使 用 され た と 考 え る11。 そ して21年5月9日 の 手 紙 に あ る 「一 部 は 紙 に 書 い て 」 あ る と い うエ リ オ ッ トの 言 葉 を指 して 、 これ は 第 三 部 タ イ プ 原 稿 で あ る と推 理 す る 。そ して マ ー ゲ イ トで は 無 為 の 時 間 を 過 ご し た が 、
ロー ザ ン ヌ で 上 記 の 三 作 を タ イ プ ラ イ タ ーBを 使 っ て 生 み だ し、 第 四 部 、 第 五 部 の 清 書 原 稿 と い っ し ょ に そ れ ら を 携 え て パ リへ 向 か い 、パ ウ ン ドの 添 削 を 受 け た あ と、
ロ ン ドン で タ イ プ ラ イ タ ーAを 使 っ て タ イ トル ・ペ ー ジ を 作 成 した 。 これ が ケ ナ ー の 考 え る 作 成 順 序 で あ る。
Rザ ン ヌ で は ま ず 、 第 一 部 を 打 ち あ げ た 。 そ の あ と、 「か れ は 色hな 声 で 」 の タ イ トル を 思 い っ き 、 上 部 に っ け 加 え た 。 タ イ プ 文 字 が 下 の 詩 行 とそ ろ っ て い な い の は そ う い う理 由 だ。 第 二 部 は そ の あ と に 打 っ た 。 だ か ら こ ち ら は 「 か れ は 色 々 な 声 で 」 と以 下 の 詩 行 が そ ろ っ て い る 。 ケ ナ ー は 第 三 部 作 成 当 時 、 エ リオ ッ トが ドラ イ デ ン 論 を 発 表 して い る こ と に 注 目 し、 当 初 「 驚 異 の 年 」 に 倣 っ た ロ ン ドン の 詩 を 構 想 して い た と考 え る の だ が(25・38)、 第 一 部 、 第 二 部 に は 『ア エ ネ ー ア ス 』 第 六 巻 との 照 応 が 多 々 見 られ る と して 、ロ ン ドン とmマ(そ れ に ア ウ グ ス チ ヌ ス の 「 カ ル タ ゴJ)の 重 層 化 な らび に 黄 泉 降 りの モ チ ー フ を 読 み と る 。第 三 部 に 挿 入 予 定 の 断 片[29]は ア エ ネ ー ア ス が 中 心 の挿 話 で あ る(38‑41)。 地 下 世 界 の テ ー マ は 第 四部 も 支 配 し て お り、第 五 部 以 前 の 詩 の 下 敷 き に あ る の は 『ア エ ネ ー ア ス 』第 六 巻 で あ る(43)。
こ れ が ケ ナ ー の 読 み で あ る 。
グ ロー ヴ ァ ー ・ス ミス12も ま た 、 ケ ナ ー と 考 え 方 は ち が う も の の 彼 と ほ ぼ 同 じ結 論 に 達 した 。 彼 が 作 成 順 序 を 推 理 す る 上 で 重 要 視 す る の は 、 第 一 部 に 出 て く る 「マ ダ ム ・ソ ソ ス ト リス 」の 由 来 で あ る 。 これ は オ ル ダ ス ・ハ ッ ク ス レ ー の 『ク ロ ー ム ・ イ エ ロ ー 』 か らの 借 用 な の だ が 、 この 小 説 は21年11月 発 表 だ か ら、 第 一 部 を そ れ
よ り早 く作 成 す る こ と は 不 可 能 で あ る 。 ま た[7]の 「 マ リー の 挿 話 」 は ロ ー ザ ン ヌ で
エ リオ ッ トが 偶 然 耳 に した も の を利 用 した の だ とい うパ ウ ン ドの 証 言 が あ る 。ま た 、
第 二 部 の ヴ ィ ヴ ィ ア ン の コ メ ン トは 彼 女 が 詩 を は じめ て 読 ん だ と き の 驚 き を 示 し て
r荒地2薙 稿試 論 一い くつ かの仮 説93
い る 。 ス ミス は ど う も 、 そ れ は1922年1月 の パ リ以 外 に は な い だ ろ う と考 え て い る よ うだ 。 そ して 第 三 部 は 第 一 部 、 第 二 部 と は ち が う タイ プ ラ イ タ ー で 作 成 され て い る か ら 、 結 局 、 彼 もま た5月 に 作 成 され た と推 測 す る 。
っ ぎ に 推 理 した の は 伝 記 作 者 リ ン ダ ル ・ゴ ー ドン13で あ る。 彼 女 は 出 版 され た フ ァ ク シ ミ リ版 で は な く 、 草 稿 の オ リジ ナ ル を検 証 した 最 初 の 研 究 者 で あ る 。 ま ず 、 い くっ か の 手 書 き原 稿 が ヂヒ エ ラ テ ィ カ ・ボ ン ド」 と い う 同 じ用 紙 を 使 っ て い る こ と を発 見 し、 こ れ を詩 の 内 容 と形 式 的 特 徴 か ら1918年 の 作 成 と判 断 し た 。 ま た 第 一 部 と第 二 部 は1921年 春 に
、 つ ま り第 三 部 よ り早 く 書 か れ た の で は な い か と推 測 した 。 そ の 根 拠 と して 、 第 二 部 に 書 き込 ま れ た ヴ ィ ヴ ィ ア ン の コ メ ン トは 、 こ の パ ー トが 彼 女 の 不 在 時 に 書 か れ た こ と を 示 し て お り 、 彼 女 は 五 月 に 海 辺 に 転 地 療 養 に 出 か け て い た こ と を あ げ る 。 ま た 、 第 一 部 に は21年4月 に 発 表 され た 「ソ ン グ 」 と 同 じ人 名(Krutzsch)が 出 て く る し 、 冒 頭 の ボ ス トン の 夜 の 挿 話 は5月 に 回 覧 さ れ た 『ユ リ シ ー ズ 』rキ ル ケ ー 」 の 影 響 が 推 察 され る こ と も 指 摘 して い る 。 し か し、
エ リオ ッ ト と頻 繁 に 会 っ て い た パ ウ ン ドが 同 年10月 半 ば に お い て さ え 彼 の 詩 に つ い て 何 も言 っ て い な い こ と、 ス ミ ス の 指 摘 した 「ソ ソ ス ト リ ス 」 な ど の 矛 盾 点 に 突 き 当 た り 、結 局 、解 決 不 能 と匙 を 投 げ た(Gozdon197,141‑6)。 本 文 で は 、 マ ー ゲ イ トに 向 か うま え に は どの セ ク ジ ョ ン も 完 成 して い な か っ た の で は な い か と 記 して い る(105)。
レイ ニ ー に よれ ば 、 最 後 に 『荒 地 』 作 成 を 意 識 し て 論 じた の は ロ ナ ル ド ・ブ ッ シ ュ14だ と い う(R融ey2005,2)。 ブ ッ シ ュ は 『荒 地 』 に い た る エ リオ ッ トの 詩 を 彼 の 心 が 抱 え る 統 合 失 調 症 的 不 安 、 妻 との 関 係 、 母 親 と の 関 係 、 父 の 死 な ど 私 生 活 上 の ス トレ ス との 関 係 へ と還 元 しな が ら 、 詩 人 の 想 像 力 が そ こ か ら豊 か な イ メ ー ジ を 引 き 出 し て き た プ ロ セ ス を 読 み 解 い て ゆ く。 そ う した 読 解 の 一 環 と して 、『荒 地 』は 21年10月 か ら12月 末 、 す な わ ち エ リオ ッ トが 精 神 に 変 調 を き た し 、 療 養 を す る な か で 書 か れ た とす る 。 ケ ナ ー や ス ミ ス の 推 論 を 追 認 して 、 第 三 部 灰 の 説 法Jが 最 初 に 書 か れ は じ め た と考 え る 。 そ の 元 と な っ た も っ と も 重 要 な 一 節 は 、 ゴ ー ドン
に よ っ て1918年 の 作 成 と推 定 され た"Lo磁o捻theswarminglife…"t37]だ と し て 、 こ こ に 『荒 地 』 の 二 大 要 素 、 ロ ン ドン の 群 衆 とス ピ リチ ュ ア ル な 「暗 号 」 が す で に あ る と 主 張 す る(Bush,56・57)。 そ してr半 ば か ら11月 に お け る マ ー ゲ イ ト 滞 在 中 と そ の 直 後 に お い て 第 三 部 、 第 一 部 、 第 二 部 が 作 成 され 、 第 四 部 、 第 五 部 が mザ ン ヌ で 作 成 さ れ た 。 これ が ブ ッ シ ュ の推 理 で あ る(7◎)。
だ が 、 第 三 部 が 最 初 に 書 か れ た とす る推 論 に は 、 い く つ か 問 題 点 が あ る 。 ま ず 、
第 三 部 を 打 っ た タ イ プ ラ イ タ ーAの ほ うが 新 し く 印 宇 が き れ い で あ る こ と 。 こ れ に
94r荒 地2華 稿試 論 一い くつ かの仮 説
対 し 、 第 一 部 、 第 二 部 に 使 用 され た タ イ プ ラ イ タ ーBは 古 ぼ け た 感 じ で あ る15。 ま た ロー ザ ン ヌ で 第 一 部 、 第 二 部 を 作 成 ・タ イ プ 打 ち し た の な ら 、 な ぜ 同 じ ロ ー ザ ン ヌ で 書 い た は ず の 第 四 部 、 第 五 部 は 手 書 き で 清 書 さ れ 、 パ リで パ ウ ン ドの タ イ プ ラ イ タ ー を 使 っ て タ イ プ 打 ち され た の か1G。
レイ ニ ー に よ る と 、1985年 以 降 、 『荒 地 』 の 成 立 過 程 を め ぐ る 議 論 は 途 絶 え て し ま っ た 。 そ し て ク リ ス テ ィ ー ン ・フ ロ ー ラ が 代 表 す る よ う に 草 稿 テ ク ス ト(1921 text)と 完 成 版 『荒 地 』(1922text)の あ い だ を 自在 に往 還 しな が ら抽 象 的 な 読 解 を 提 供 す る 傾 向 に 転 じた と い う。 彼 は そ れ を 嘆 か わ しい こ と だ と苦 言 を 呈 す る 。 制 作 過 程 で エ リオ ッ トは オ リ ジ ナ ル ・プ ロ グ ラ ム を持 っ て い た の か 。 そ れ は 達 成 さ れ た の か 、 途 中 で 瓦 解 した の か 。 あ る い は 、 は じめ か らそ ん な 物 は な か っ た の か 。 フ ァ ク シ ミ リ版 草 稿 の 後 半 に ま と め られ て い る 詩 群 は 独 立 した 詩 の っ も りだ っ た の か 、 そ れ と も 『荒 地 』 の 一 部 に す る予 定 だ っ た の か 。 こ う した こ と に っ い て 、 一 定 の 見 解 を踏 ま え ず し て 「121test」 と し て ヂ ー 枚 岩 」 の よ うに 扱 う こ と に 不 満 を 表 明 す
る 。 ま ず は も う一 度 草 稿 に 立 ち返 る べ き で あ る 、 と{Rainey20◎5,2‑3)。
で は 、 レイ ニ ー は ど の よ うな 調 査 を お こ な い 、 ど うい う結 論 を導 き 出 し た か 。 次 に 彼 の 議 論 を検 討 す る と し よ う。
3.レ イ ニ ー の 「 到 達 点 」 と 問 題 点
ロ ー レ ン ス ・レイ ニ ー は 草 稿 に 使 わ れ た 用 紙 の 物 理 的 特 徴 を 綿 密 に 洗 い 出 し、 そ れ を エ リオ ッ トの 書 い た1898年 か ら1922年 に わ た る す べ て の 手 紙 と照 ら し合 わ せ る こ と で 、 さ ら に は 手 紙 に お け る 詩 へ の 言 及 、 詩 人 の 伝 記 的 事 実 な どか ら 、 フ ァ ク シ ミ リ版 で 発 表 され た(タ イ プ 原 稿 の み な らず 手 書 き の 断 片 的 草 稿 を 含 め て)す べ て の 草 稿 の 作 成 時 期 を 週 単 位 で 特 定 した 。す な わ ち 次 の よ うに 結 論 づ け た 。第 一 部 、 第 二 部 の タ イ プ 原 稿 は1921年5月9目 か ら22日 の 問 に ロ ン ドン で 作 成 さ れ 、第 三 部 の タ イ プ 原 稿 は 同 年11月12β か ら18日 の 間 にRン ドン で 作 成 さ れ た 。第 四 部 、 第 五 部 は 同 年11月22日 か ら12月31日 の 間 に 静 養 先 の ロ ー ザ ン ヌ で 作 成 され 、清 書 され た 。 そ し て22年1月2日 か ら5日 に か け て パ リの パ ウ ン ド宅 で 第 四 部 、 第 五 部 の タイ プ 原 稿 を 作 成 し 、 パ ウ ン ドの 添 削 を 受 け た 。 そ し て エ リオ ッ トは ロ ン ド ンへ 帰 り、 タ イ トル と エ ピ グ ラ フ を1月17日 か ら22日 の 間 に 作 成 し、詩 を 完 成 さ せ た17。
レイ ニ ー に よ れ ば 、これ ま で の 研 究 者 た ち を 混 乱 させ て い た の は 主 と し て ふ た っ 、
タ イ プ ラ イ タ ー と ソ ソ ス トリ ス で あ る 。 草 稿 に は 三 種 類 の タ イ プ ラ イ タ ー が 使 わ れ
て お り、 一 つ は パ ウ ン ドの 物 で あ る こ とが 分 か っ て い た 。 残 り二 つ は 別 の 場 所 で 使
7荒地』 藁稿試 論 一い くつ かの仮説95
わ れ た は ず だ と い う思 い こ み が ケ ナ ー に も ス ミス に も あ り 、 これ が 間 違 い の も と で あ る と レイ ニ ー は 指 摘 す る 。 も う一 つ は 第 一 部 に 登 場 す る ソ ソ ス ト リス で あ る 。 グ ロ ー ヴ ァ ー ・ス ミス が こ れ は オ ル ダ ス ・ハ ッ ク ス レー の 『ク ロ ー ム ・イ エ ロ ー 』(21 年11月 発 表)に 出 て く る マ ダ ム ・セ ソ ス ト リス を 下 敷 き に して い る と 指 摘 して 以 来 、 ほ と ん ど の 研 究 者 は こ の 説 明 を 信 じて き た の で 、 第 一 部 タ イ プ 原 稿 は そ れ よ り 後 に っ く られ た は ず だ と考 え て し ま っ た 。 ゴ ー ドン が 匙 を 投 げ た 原 因 の 一 っ も こ の 点 に あ っ た18。
こ れ ら に 対 し 、 レイ ニ ー は 以 下 の こ とを 突 き 止 め る 。 第 一 部 と 第 二 部 の タ イ プ 原 稿 は 、 エ リオ ッ トが 学 生 時 代 か ら手 紙 、 レ ポ ー ト、 論 文 な ど に 使 っ て き た タ イ プ ラ イ タ ー で 作 成 され て い る こ と。第 三 部 の タ イ プ 原 稿 は6月10日 か ら8月20霞 に か け て ロ ン ドン に 滞 在 した エ リオ ッ トの 兄 が 、 弟 の 古 び た タ イ プ ラ イ ター の 代 わ りに プ レゼ ン ト した 新 しい タ イ プ ラ イ タ ー で 作 成 さ れ て い る こ と19。 そ して そ れ ら は い ず れ も ロ ン ドン で 使 用 され た の で あ り、mザ ン ヌ に は 持 参 して い な い こ と。 こ れ で は じ め て 、 な ぜ 第 四 部 と第 五 部 は 手 書 き で 清 書 され 、 第 四 部 冒 頭 に 「と も か く タ イ プ に 打 っ て み て くれ 」 と パ ウ ン ドの 指 示 が 書 き 込 ま れ 、 パ ウ ン ドの タ イ プ ラ イ タ ー を 使 っ て 最 後 の 二 部 の タ イ プ 原 稿 が 作 成 され て い る の か が 、 矛 盾 な く説 明 で き る 20 。 そ し て ソ ソ ス ト リス に つ い て は 、 ハ ッ ク ス レ ー の 小 説 と は 無 関 係 にsosoと い う英 語 の 常 套 表 現 か ら、 曖 昧 な 表 現 を 駆 使 す る 占 い 師 に ふ さ わ しい 名 前 を創 作 し た に す ぎ な い と 考 え る の が 妥 当 で 、 草 稿 の 作 成 時 期 を 決 定 す る 要 素 に は な らな い と 結 論 づ け る 。
レイ ニ ー は こ う し て タ イ プ 原 稿 の 作 成 時 期 を 特 定 し た わ け だ が 、 さ ら に 重 要 な 推 定 と特 定 を い く っ か お こ な っ て い る。 ま ず 、 第 一 部 の 下 書 き の ほ とん ど は21年1 月 末 か ら2月5臼 の 問 に お こ な い 、第 二 部 の 下 書 き は2月6日 か ら5月9欝 の 間 に お こ な う。 と こ ろ が ジ 黛イ ス の 『ユ リシ ー ズ 』 「キ ル ケ ー 」 の 草 稿 を 読 み 、第 一 部 の 冒 頭 に さ ら に ボ ス トン で の 夜 遊 び の 詩 行 を5A21霞 ご ろ に つ け 足 し た と推 定 す る。
ま た 、の ち に 第 三 部 に 組 み 込 ま れ る こ と と な る 手 書 き の 断 片 群 は す べ て 同 じ用 紙rヒ エ ラ テ ィ カ ・ボ ン ド」 に 書 か れ て お り、 こ れ を 手 紙 と照 合 し た 結 果 、21年10月31
臼か ら11月11日 の 間 に 静 養 先 の マ ー ゲ イ トで 書 か れ た と突 き 止 め る 。
これ らの 手 書 き の 断 片 の う ち10行 ほ どが 第 三 部 の タ イ プ 原 稿 に 組 み 込 ま れ て い
る の だ か ら 、 第 三 部 タ イ プ 原 稿 は 先 に 示 した6β 間 に ロ ン ドン で 慌 て て 打 ち 込 ん だ
と考 え る 以 外 に な い 。 時 間 が な く て マ ー ゲ イ トで 作 成 した 手 書 き原 稿 は ほ と ん ど タ
イ プ で き な か っ た 。 か く し て 「 火 の 説 法 」 タ イ プ 原 稿 は 未 完 成 の ま ま エ リオ ッ トは
パ リへ 、 そ して ロ ー ザ ン ヌ へ 向 か っ た 。 こ う レイ ニ ー は 考 え る 。
96r荒 地毒草 稿試 論一い くつ かの 仮説
こ れ が 正 しい とす る と 、 ロ ン ドン で タ イ プ 打 ち され た 原 稿 の ほ と ん ど は 、 マ ー ゲ イ ト以 前 に 下 書 き され た こ と に な る が 、 い つ な さ れ た の か 。 レイ ニ ー は 二 つ の 時 期 を 比 較 し て 、6月10潭 か ら8月2◎ 賃 と推 定 す る 。
さ らに(と りわ け レイ ニ ー に と っ て)重 要 な 特 定 は 、 第 三 部 タ イ プ 原 稿 の1ペ ー ジ 目 の 裏 に 書 か れ た"Theriverstentisbroken"}さ は じま る手 書 き の 草 稿 は 、パ リ で パ ウ ン ドに よ っ て 第 三 部 冒 頭 を ば っ さ り削 除 さ れ た 結 果 、 書 か れ た も の で あ り 、 タイ トル とエ ピ グ ラ フ を の ぞ い た 詩 の 本 体 の う ち 、 最 後 に 書 か れ た 詩 行 で あ る 、 と い うこ とで あ る 。
そ して 第 三 部 の た め に 書 か れ た 現 存 の 手 書 き 原 稿 の 行 数 は 全 部 で96行 あ る が 、 そ こ か ら最 終 的 に完 成 版 『荒 地 』に 利 用 され た の は63行 で あ る こ と か ら推 測 し て 、 48枚 か ら55枚 の 下 書 き 断 片 群 が 存 在 した と計 算 す る。 こ の 断 片 群 の 数 、 作 成 の 過 程 、細 部 に お け る表 現 の 推 敲 な ど か ら、 レ イ ニ ー は 、『荒 地 』 は 一 貫 し た プ ラ ン の も と に 書 か れ た 詩 な の で は な く 、 つ ね に さま ざ ま な 断 片 の 組 み 合 わ せ に 整 合 性 を つ け な が ら 、 あ る 時 は遠 く の 、 あ る 時 は 近 く の 断 片 的 パ ッ セ ー ジ に 相 互 の 関 連 性 を付 加 して ゆ き 、 有 り体 に い え ば 辻 褄 合 わ せ を しな が らっ く り上 げ て い っ た 詩 で あ る と評 価 す る 。彼 自身 の 表 現 を 引 用 して お こ う。 詩 の 秩 序 は 「 基 本 的 に 偶 発 的 で 遡 及 的 で 」 あ り、「 何 か あ ら か じ め 決 め られ た 神 話 的 構 造 と か 儀 式 の パ タ ー ン とい う構 想 に よ っ て 支 配 され て は お らず 」、「 『荒 地 』が 達 成 した こ とは 、つ ね に 一 貫 性 の 秩 序 を 相 対 的 ・ 増 殖 的 に つ く り あ げ る こ とで あ り、 そ れ は 部 分 的 、 偶 発 的 、 遡 及 的 性 質 の も の で あ る 」(R滋 葺ey20◎5,43)。
以 上 が 、レイ ニ ー の 『荒 地 』の 制 作 過 程 論 とそ こ か ら 導 き 出 さ れ る 結 論 な の だ が 、 筆 者 は い く っ か 問題 点 と疑 問 を 感 じ る。 そ れ を 列 挙 して み よ う。
ま ず 、rボ ス トン の 夜 遊 び 」 を 書 い た 期 問 が 短 す ぎ る 。 影 響 を 受 け た と され る の は 「 キ ル ケ 門 だ が 、 エ リオ ッ トは 「太 陽 神 の 牛 」、rキ ル ケ ー 」、 「 エ ウ マ イ ウ ス 」 の 三 挿 話 を5月21β に ジ おイ ス に 返 し て い る(Valerie198,455)。 レイ ニ ー は 、 エ リオ ッ トは5A10日 以 後 に ジ ョイ ス の 草 稿 を パ ウ ン ドか ら転 送 され た と い う の が 最 も 可 能 性 が 高 い と推 定 す る 。 つ ま りエ リオ ッ トは10目 あ ま りの 間 に 大 急 ぎ で3 つ の挿 話 を 読 ん で 、5月21瞬 前 後 に は 問 題 の54行 を 書 い て タ イ プ 打 ち ま で した と い うの で あ る。返 却 時 に 、ジ ョイ ス に 対 し 「 賞 賛 の こ と ば 以 外 に あ りま せ ん 。実 際 、 自分 自身 の た め に は 読 ま な い ほ う が よ か っ た と思 っ て い ま す 」 とい う有 名 な 手 紙 を 添 え て い る 。 そ の 前 後 に 彼 の 真 似 を す る こ と を 思 い 立 ち 、 し よ う!と 決 断 し 、54行
も書 い た こ とに な る が 、 これ が 真 相 だ ろ うか 。
そ して こ のr;ス トン の 夜 遊 び 」 は エ リオ ッ ト自 身 が 消 し て い る の だ が 、 こ れ は
折 荒 地ご 草稿試 論一 い くつ かの 仮説97
い つ 消 した の か。 早 い 殺 階 か、 それ とも相 当遅 くか。パ リでパ ウン ドの助言を受 け 入 れ て 自分 で 消 した の か。 レイ ニ ー は問 題 に して い な い。
次 に 、先 述 の とお り、第 一 部 の タイ プ 原稿 は1部 しか な く、第 二 部 の それ は2部 あ る。 第 二 部 の い っぽ うに は、妻 の感 想 や ら詩 行 の 変 更案 や らが 書 き 込 んで あ り、
最 終 ペ ー ジの裏 に は 「 この ゴ ピー を送 り返 して 、 私 に所持 させ て 」と書 いて ある[15]。
郵 便 でや りと りした こ とが 明 らか で あ る。 レイ ニ ー は この こ とを作 成期 目特 定 に ま った く生 か して い な い。そ して5月9霞 付 け の あ る手紙 を根拠 に第 一 部 も第 二 部 も そ の 日以 降 に作成 され た とす る。 だ か らゴー ドンが 一 時 的 に推 測 して 見せ た 日付 と 一 致 す る の は偶然 で あ る
。 だが 、 それ な ら第 一部 に妻 とのや り と りの 痕跡 がな い の はなぜ か 、説 明 しな くて は な らな いだ ろ う。 また 、 上述 の 「 ボ ス トンの夜 遊 び」 作 成 とも相 当 目数 重 な って しま うが 、 これ は 無理 で は な い か。
ま た 、r火の説 法 」タイ プ原 稿 の 下 書 きは21年6月10日 か ら8月2D目 の 間 に作 成 れ た と推 定 す るが、 そ れ が正 しい だ ろ うか。
未 完 成 タイ プ原 稿 のr火 の説 法 」 も同 じもの が2部 あ る。 そ してパ ウン ドは両方 に 霞を 通 し、添 削 を ほ ど こ してい る。 この 点 を レイ ニ ー は無 視 してい る。 だが 、 そ れ で 良 い のだ ろ うか。 パ ウン ドは どち らを先 に読 ん だ の か。 時 間 は連続 してい た の か。 それ ともた とえ ば1ヶ 月 空 い て いた の か。 そ もそ もなぜ 同 じ内容 の原 稿 に も う rを 通 した の か。 第 三部 には まだ ふ た っ不 思 議 な こ とが ある。カーボン ・コピ ー 原稿 の ほ うの ノン ブル をパ ウ ン ドが手 書 き で直 して い る ので あ る
。 あた か も2ペ ー ジ 目 と3ペ ー ジ 目の 問 に も う一 枚 原稿 が あ った か の よ うに
、 オ リジナ ル の数 宇3, 4,5が それ ぞれ4,5,6に 書 き換 え られ て い るの だ[39ト[護7粋 。 これ は何 を意 味 す るの か。そ して リボ ン タイ プ原 稿 の 方 にだ け 、挿 入 の 指 示 が あ る[27]。カー ボ ン ・
識 ピー の方 には な い。 これ はなにを意味す るのか。
ま た 、[53]に は数 字 の計 算 が して あ る。 これ は編 者 に よって 第 一 部 、第 二 部 、第 五 部 の行 数 を足 し算 した もの だ と説 明 が あ るが 、そ うだ ろ うか。 偶 然 に も、最後 の 数 字133は 「 火 の説 法 」 リボ ン タイ プ原 稿 で パ ウン ドの抹 消 か ら生 き残 っ た行 数 と も一 致 す る。 どち らが正 し く、い つエ リオ ッ トは 、 ど うして行数 計 算 を した のだ ろ うか 。 レイ ニー は この 点 もま った く問題 に してい ない 。
以 上 、7点 の 疑 問 ない し聞題 点 を列 挙 した が 、 レイ ニ ー の反 論 は予 想 が つ く。 自
分 の 意 図 は 、『荒 地』作成 は辻褄 合 わせ の連 続 で あ って、あ らか じめ どの よ うな プ ラ
ン もプ ログ ラ ム も持 ち合 わせ て はい な か った こ とを各 草稿 の制 作順 序 と時 期 の特 定
に よ って 証 明す る こ とに あ り、 そ れ に必 要 な検 討 で 十分 だ った のだ 、とい うだ ろ う。
98r荒 地』草 稿試 論一い くつ かの仮説
そ して 検 討 の 結 果 、『荒 地 』 は 辻 棲 合 わ せ に 十 分 成 功 して い な い と彼 は 断 罪 す る 。 レ イ ニ ー の 分 析 に よ れ ば 、 エ リオ ッ トは 断 片 を 連 結 し よ う と二 っ の こ と を お こ な っ て い る 。 ひ とつ は く り返 し とパ ター ン 化 に よ る 象 徴 的 深 み の 創 造 、 も うひ と つ は 論 理 と因 果 関 係 、空 間 的 関 連 性 の 創 作 で あ る が 、『荒 地 』で は こ の 二 つ の や り方 が 互 い を 相 殺 し合 っ て い る とい う。 た と え ば 、 咽 月 は 最 も 残 酷 な 月 だ 」で は じ ま る 有 名 な 冒 頭 の18行 を と り あ げ 、breeding,""澱 愛 灘g,"stirring"と い っ た 分 詞 構 文 の く り返 し 、"癒ec黙 醗e就 通 ◎鑛h,"thedeadland,""⑳ 雛聡 麟 ガ と い っ た 形 容 詞+名 詞 の く り返 しに よ っ て 、4つ の ヂ ー 貫 性 の ゾ ー ン 」 が 前 後 の ゾ ー ン とオ ー バ ー ラ ッ プ し な が ら展 開 す る さ ま を 詳 述 す る 。 し か し よ く 読 む と[̀Aril))7
"
轡血 鵬"̀̀s鷺 搬 澱eガ'winter'と へ め ぐ る 季 節 に な ぜ 秋 が な い の か と レイ ニ ー は い ぶ か る 。そ して5行 霞の"Wi盤 鰍kep拠s騨&鴛f'と18行 匿 の̀̀搬&g◎so鷹h 血thewi瞭}r"は 同 じ冬 な の か と疑 問 を ぶ っ け る。 た しか に 前 者 は 朗 唱 的 で 、 後 者
は 退 屈 な 会 話 の せ りふ だ 。 しか しr冬 」 と い う類 似 性 が 意 味 を 深 め る の で は な く、
反 対 に 「 骨 抜 き に し て い る 」 と 主 張 す る(47‑4)。 そ の ほ か 、 ソ ソ ス ト リ ス の 占 い と
ナ ラ テ ィ ヴ
フ レバ ス の 関 連 性(49)な ど を 分 析 して(52‑69)、 『荒 地 』 に あ る の は 吻 語 り」 で は な
セン トサオ ヴのナラテ ィヴ
く、 吻 語 の 香 り」 で あ る 、 「 誰 か が 部 屋 を 立 ち 去 っ た 後 の 香 水 の 残 り香 の よ うな 」 雰 囲 気 で あ る とい う(49)。 『荒 地 』 と い う詩 は 「 一 貫 性 の ゾ ー ン 」 が あ ら わ れ て は 消 え 、 ま る で 「 手 招 き す る 幽 霊 の よ う ユ(48)で 、 暗 い 道 を つ い て ゆ く と 、 き ま っ て 行 き 止 ま りで あ り、 詩 の 本 当 の 世 界 と 直 面 す る の は ど こ か 別 の 場 所 に あ る と言 い た げ な 詩 だ 、 と い う。 そ れ は ど こ か 。 レイ ニ ー は タ イ レ シ ア ス の 透 視 す る タ イ ピス トの 情 交 の あ と の 場 面 に 注 濁 し 、 そ こ に 出 て く る ニ̀的 な 手 」 に 、 こ の よ うな 表 現 に よ っ て しかrpり え ぬ も の 」 を 読 み と ろ う とす る。 そ して こ の 噛 動 的 な 手 」 を す
り抜 け て い っ た の は 、 あ の 最 後 に 書 か れ た 断 片 的 草 稿"Theriverstentisbroken"
[25]の 、 そ の 終 わ り方 に あ る と読 む 。 と い うの も 、 草 稿 は̀̀Bythe騨a蹴s"で 終 わ っ て い る が 、 完 成 版 は これ に つ づ け て"…Isatd◎wnandwept"と 書 い て い る か ら だ 。 そ して レ イ ニ ー は 、 草 稿 は 正 し く 「 語 り え ぬ も のJそ の も の で 終 わ っ て い る が 、 「 身 を 引 き 裂 く よ う な 現 代 性 の 数 々 の 恐 怖 に 立 ち 会 っ た と き の 」 こ の 聴 り え ぬ
サブスタンス
悲 し み 」 こ そ が 、 「こ の 詩 の 実 質 」22で あ る と論 ず る(68‑7◎)。
卓 抜 な 読 み で あ る と い わ ね ば な ら な い 。 しか し残 念 な が ら 、 彼 の 引 用 は ま ち が っ
て い る 。完 成 版 が 書 き 加 え た の は"Tsatdownand.wept"で は な く 、"Isatd◎ 糀 蹴d
r荒地 こ草 稿試論 一い くつか の仮説99
weft̲J9で あ る23。そ して レイ ニ ー の読 み と る 「 語 りえぬ も の」が も しこ こ にあ る とす れ ば 、 それ は最 後 のcc.."に こそ あ る と言 わね ば な らない。 そ して この よ うな 結 論 を導 き 出す こ と と、 どの 草稿 が 何月 の第 何 週 潭に書 かれ た とい うよ うな厳 密 な 特定 との 関連 性 は 、限 りな く薄 い。そ れ が 「 こ の詩 の実 蜘 な らば、廃 りえぬ もの1 との言 葉 に よる格 闘 はつ ね に お こ なわ れ てい た はず だ し、 それ が い っ 出来 したか と い う間題 とは 、つ ま り草稿 の 作成 順 序 とは 関係 の な い事 柄 だ か らだ。 事 実 それ は第 二部 の豪 奢 だ がむ な しい 生活 を営む 女 の 部屋 の装 飾 品 のひ とつ か ら飛 び 出 して きて 、 第 三 部 に低 い声 で響 く、 舌 を切 られ て鳴 く フィ ロ メ ラの"諏 幻ug鉾 幻u幻 疑g麺g"
ア ン ス ピ カ ブJY
とい う言 葉 にな らな い声 に も読 み とる こ とが で き る。 また レイ ニー の 引用 し損 な っ た個 所 を見 る と、 詩 は そ こで 区切 りをつ けて は い ない 。 そ の あ と詩 は祈 りに も似 た 調 子 で 弱hし く歌 を つづ け る こ とを明 か し、 しか し次 の よ うな恐 ろ しい イ メー ジで パ ッセ ー ジ を結 ぶ 。
SW・ee宅Th歌 憩,es,1'Lil3S◎ 銑1y宅 戴lIe難 く 蔓憩ysO難 霧,
S珊eeむTぬa灘es,澱 鍛s◎ 撮 泓 蝕 Σspe段k簸ot1◎ 磁 ◎II◎簸霧, B聡 捻 毒憩yわ&cki難&C◎ldblast王 ぬea灘
The麟 盛eof癒 曲 ◎簸es,段 難虚ch犠ckle$i◎ 皿e鍵 総ea凱
(C〕E》R67,玉 】L183韓6)2建
最初 の1行 は エ ドマ ン ド ・スペ ンサ ー か らの 引用 で あ り、 断片 的 草稿̀The撮ve鶏 宅e煎is漉ok髄'ほ 黛5}にもそ の意 図 が示 され て い る。だ が2行 資の 後 半 はz)オ ッ ト
の 言葉 で あ る。 そ して最 後 の2行 はパ ウン ドに よ って 削除 され た長 い長 い 「 フ レス カの 挿話 」 の最 後 の2行 で あ る。 そ こで は さ した る効 果 を あげ な か った2行 だ が 、 こ う して編 集 を経 た結 果 、 大都 会 ロン ドンの ド 身 を引 き裂 く よ うな現 代性 の数 々 の 恐怖 に立 ち会 った とき の」、この場 合 は 「 語 りえぬ恐 怖 」を かた るべ く、見事 に よみ が え って い る。そ して この編 集 と どち らが先 にお こな われ た か 、レイ ニ ー の 『 荒 地 』 作成 過 程 論 で は分 か らない が 、「 語 りえぬ もの」に 「 この詩 の 実質 」をみ るの な らば、
さ らに分析 すべ き課 題 が残 って い る。詩 に は結 局 、1.と い うタ
イ トル がっ け られ るの だ し、 コ ンラ ッ ドか らの 引用 もな され る。 そ こに記 され て い
る̀̀Th曲 ◎ 買◎r!雛曲o鷲o罫!"も ま たPり え ぬ もの 」で は な い のか。 で は、 それ
を カー ツ の 「 い ま わ の際 の言 葉 」 と して書 い た ほン ラ ッ ドとい う作 家 は ど う評価 す
べ きで 、 それ を こ こに引 用 しよ うと したエ リオ ッ トの功罪 は ど うで 、そ れ を止 め た
i13荒 地こ 葦稿試 論 一い くっ かの仮 説
パ ウ ン ドは ど う な る の か 。 こ う した こ と を 論 じ な い で̀̀Bythe脚aters"の う し ろ に
ロセ ン ト じオ ヴ ぴイ ン ヴ ぷ ン シ ョ ン
こだわ る レイ ニ ー に筆 者 は 「物 語 の 香 り ユを感 じる。 雛 か が部屋 に入 って きた とき の香水 の よ うな」 雰 囲気 の変化 を感 じる。
結 局 、レイ ニー は断片 的 草 稿̀̀Tileriverstentisbroken"[25]が"Shantihshantih sh鋤 証h"よ りもあ とに書 か れ た最 終 的 断 片 で あ る こ とをて こに 、近 年 流 行 の 批評 用 語 をつ か っ た読 解 の 、そ の あ るべ き模 範 を示 した か った のだ ろ う。 しか し 聴 り
えぬ もの」が 「 詩 の実 質 」で あ る こ と と、『 荒 地 』を 書 くエ リオ ッ トに は何 の構 想 も プ ラ ン もな く行 き 当た りぱ った りの辻 棲 合 わせ をお こな った にす ぎな い とい う彼 の 分析 とは 、水 準 の 異 な る事柄 で あ る。 両者 に論 理 的 関係 はま っ た くない。 も しかす る と ギ 『 荒 地 』が達 成 した こ とは 、つ ね に一 貫性 の秩 序 を相 対 的 ・増 殖 的 につ く りあ げ る こ とで あ り、 それ は部 分 的 、偶 発 的 、遡 及 的性 質 の もの」 で あ った か も しれ な い。 草稿 を書 い てい る ときの エ リオ ッ トは 自分 の詩 のま とま り具合 に 自信 が なか っ た か も知れ ない。 しか しい か にお ぼつ か な い もの で あ って も、 ひ と りの詩 人 が何 の ヴ ィジ 召ン もな しに各 パ ー トをま とめ た とは到 底 、 思 え ない 。 だ とす れ ば、 せ っ か く草稿 作 成 の順 番 をあ そ こま で綿 密 に特 定 した の だか ら、 レイ ニー は各 パー トの ヴ ィジ ョン とそ の変 質 の有 無 を も っ とて いね い に論 ず るべ き だっ た と思 う。
さ らに疑 問 が あ る。1988年 に 『 書 簡集 』が 出版 され て 、そ こに は タイ プ ライ ター の謎 に 関す る解 答 が 明記 され て いた(本論 注 記19を 参 照)。 これ を機 に 、『荒地 』 の 制作 過 程 を も う一度 見 直 そ う と考 えた 研 究者 はい な か った の だ ろ うか。2005年 に い た るまで 、誰 も気 に とめな か った の だ ろ うか。
そ して 最 後 に … いや 、最 後 の 疑 問 は こ こで述 べ るの はや めに して 、研 究 者 の 話 に移 ろ う。 レイ ニ ー 似 前 」 はま だ ほ か にい た ので あ る。そ れ も、『書簡 集 』が 出 版 され る前 に。
4.ス テ ッ ドと ゴー ドン
レイニ ー を読 み な が ら、た しかC・K・ ステ ッ ド25と い う研 究者 が何 か論 じて い た は ず だ とず っ と気 に な って いた が 、 あ い に く手元 に本 が な く、 そ の ときは確 認 で きな か った 。 しば ら く後 に 見つ けだ した の で再 読 して み る と、『 荒 地 』の制作 順 序 に つ い て 、 い くつ か間 違 い は あ る ものの 主 要 な点 で レイ ニー とほ ぼ同 じ結 論 に達 して
い た。
まず 、 タイ プ ライ ター の謎 で あ る。 ステ ッ ドは い う。 ケ ナー とス ミス の過 ち は、
タイ プ ライ タ ー の違 い は論 理 的 に別 の場 所 をあ らわ して い る と考 え た ところ に あ る。
それ は 、 か な らず しも別 の場 所 で作 成 され た こ とを示 す もの で はな い 、 と。 そ して
『 荒 地』 草稿試 論一 い くつか の仮説101
彼 は 、 フ ァ ク シ ミ リ版 に 明 記 され て い る ヴ ァ レ リ ー の 証 言 か ら、 エ リオ ッ トは ロー ザ ン ヌ で タ イ プ ラ イ タ ー を 使 用 し て は い な い こ と を 確 信 し 、AとBの タ イ プ ラ イ タ ー は と も に ロ ン ド ン に 帰 属 す る と
、 ガ ー ドナ ー の 示 唆 に ふ れ な が ら結 論 づ け る (Stead,36◎)。 ふ た っ あ る の は 、 た ん に 新 しい も の を 途 中 で 入 手 した か 、 ゴ ー ドン の い う とお り、 片 方 は ロ イ ド銀 行 の も の か も しれ な い と推 理 す る(1◎4)26。 そ して 第 二 部 の ヴ ィ ヴ ィ ア ン の コ メ ン トに 注 目 し 、 こ れ も ゴ ー ドン に 賛 成 し て 、 こ の 妻 と の や り と り は ロ ー ザ ン ヌ 滞 在 中 で あ る 必 要 は な い 。21年5月 の 不 在 で 説 明 が つ く(361) 。 第 一 部 と第 二 部 は ク ィ ン に 手 紙 を 送 っ て 暖 い 詩 」 に ふ れ る5月9日 に は 完 成 して い た とみ る(105,361)。 た だ し第 一 部 と 第 二 部 の ど ち ら が 先 に 書 か れ た か 、知 る こ とは で き な い 。 わ れ わ れ に 分 か る こ と は 、r ス トン の 夜 遊 び 」 を の ぞ い た 部 分 と 第 二 部 で は 素 材 が い くぶ ん 違 う と い う こ と だ け で あ る と し、 制 作 過 程 に お い て は 二 つ
を 一 つ の ブ ロ ッ ク と み る27。
ま た 、 ゴ ー ドン が 困 っ て い た パ ウ ン ドの 証 言 に つ い て は 、 ス ミス は 証 拠 を 示 し て い な い と一 蹴 し 、 ソ ソ ス ト リス の 件 に 関 し て は 、『クmム ・イ エ ロ ー 』 の 発 表 と か 原 稿 の 回 覧 な ど は 問 題 に な ら な い とす る。 な ぜ な らハ ッ ク ス レー も エ リオ ッ トも バ ー トラ ン ド ・ラ ッセ ル の 愛 人 オ ッ トー ラ イ ン ・モ レル の 主 催 す る ガ ー シ ン トン ・サ ロ ン の メ ン バ ー で あ り、 こ こ で は ラ ッ セ ル を モ デ ル に した セ ソス ト リ ス な る 占 い 師 は メ ン バ ー 共 有 の ジ3一 ク だ っ た と説 明 す る(361)。 こ う して ス テ ッ ドは 、ケ ナ ー と ス ミス の 間 違 い を 正 し て 、 ゴ ー ド ン を 袋 小 路 か ら 救 い 出 し、 ガ ー ドナ ー ニゴ ー ドン 説 を推 し進 め た の だ 。 だ か ら 「ヒエ ラ テ ィ カ ・ボ ン ド」 に 書 か れ た 手 稿 は ゴー ドン に な ら っ て1918年 の 作 成 と考 え て い る{107,362)。
ス テ ッ ドは ケ ナ ー の 長 所 も 取 り入 れ て 立 論 す る。21年5月 に 書 い た 書 評 「ドライ デ ン 」 を 契 機 に6月 に 灰 の 説 法 」 の 冒 頭 を 書 い た こ と、 『荒 地 』 は 当 初 、 ロ ン ド
ン を 中 心 舞 台 と した 都 会 の 風 刺 詩 を 目 指 し て い た こ と な ど を 認 め る。 だ が6月 以 降
11月 は じめ に か け て 徐 々 に 書 か れ た 「 火 の 説 法 」 に よ っ て 詩 は 「オ ー ガ ス タ ン 様 式
を と お して 屈 折 した 都 会 の パ ノ ラ マJか ら 膿 終 的 な 形 で 我 々 の 知 る 幻 視 的/象 徴 主
義 的 詩 」 へ と 方 向 転 換 を 果 た し た と論 ず る の で あ る 。 そ し て エ リオ ッ トに は 新 古 典
主 義 的 傾 向 と ロマ ン 主 義 ・象 徴 主 義 的 傾 向 が 共 存 す る が 、 パ ウ ン ドは エ リオ ッ トの
後 者 の 傾 向 を 際 立 た せ る こ と に 貢 献 し た と い う の が 、 ス テ ッ ドの 解 釈 で あ る
(107‑125)。 パ ウ ン ドが 「 良 し」 と した の は 経 験 を 内 側 か ら語 る詩 行 で あ っ て 、そ の
よ うな 言 葉 は ジ ェ シ ー ・ウ ェ ス トン の 聖 杯 伝 説 に の っ と っ て 詩 を 書 く こ と で は 決 し
て 出 て こ な い と論 じ、ク レ ア ン ス ・ブ ル ッ ク ス 以 来 の 読 み を 否 定 す る(1◎1,124‑127)。
102慌 堪 草 聯 式論 一い くつカ'の仮 説
マ ジ1Lロ イ ン カ ン テ シ ョ ン