コンツェルンにおける戦略的人的結合と企業結合規制
―直接的・間接的兼任構造と競合関係―
高 橋 宏 幸
Strategic Interlocking Directorates in the Group Management and Regulations of Integration
Hiroyuki TAKAHASHI
This paper discuss the interlocking directorates for effective competition and corporate performance. However interlocking directorates have been criticized that they reduced com- petition, at the same time they have been considered as useful management apparatus for the increment of corporate performance
Horizontal competition and vertical competition are in striking contrast in the following point of regulation. The latter has been neglected by economic theoreticians and it has been without legal restraint. On the contrary, it should be concerned about vertical competition and indirect interlocking directorates. Namely it should be much received attention that the role of vertical competition and its interactions with horizontal competition from the legal point of view. In fact new movement indirect interlocking directorates are increasing instead of direct interlocking directorates.
Key…Words:…「企業の利益」・「株主利益」,直接的人的結合,間接的人的結合(誘導的結
合),コンツェルン内人的結合,コンツェルン間人的結合,合法的・禁止 的直接的結合,垂直的兼任関係,水平的兼任関係
Ⅰ は じ め に
グローバル化,グループ化の進展のなか,今日企業はコーポレート・ガバナンス改革を はじめとする多くの戦略的課題に直面している。国や時代によって,戦略的課題は異な り,またその対応も必ずしも同じではない。本稿では,株式会社における機関とその関 係,なかでも取締役会と監査役会の二元的システム(二層式システムdualistisches…Sys- temとも呼ばれる)をとるドイツの株式会社における人的結合,特に兼任取締役を巡る 問題を取り上げる。
まずドイツでは取締役会は,株主に責任を負わない(株主利益のための経営を追求しな
い)。すなわち,株主利益と労働者の利益の調和を図る会社の利益(Wohl…der…Gesell- schaft)の追求であって,株主利益に還元し尽くされるものではない。「会社の利益」と 対比される「企業の利益」はInteresse…des…Unternehmensで,これは株主の利益と労働 者の利益の対立という構図を表している。この「会社の利益」を追求すべく取締役会と監 査役会の2つの機関が人的結合のネットワークを活用しながらそれぞれの業務遂行にあ たっている。
他方,ドイツでは株式会社の多くが階層的にグループ化された集団,すなわち高い戦略 的弾力性と戦略的推進力を持つコンツェルンを形成し,この形成されたコンツェルン内で の人的結合に加え,同一産業分野内,異分野産業間に位置するコンツェルン間での人的結 合など重層的な関係が築かれている。そこで繰り広げられる人的結合となることもあれ ば,逆に資本結合した結合企業の形を成すコンツェルンの強化企業結合の限界を克服し,
結合を強化する企業管理の用具といった面も指摘されている。
こうした点を踏まえ,コンツェルン内の人的結合とコンツェルン間の人的結合を,法的 規制の対象とコンツェルン強化という2つの側面からドイツ株式法,ドイツ競争制限禁止 法,アメリカの独占禁止法ならびに日本の独占禁止法による人的結合の規制の動向も織り 交ぜながら取り上げていく。その際,コンツェルン内の親子会社間の兼任関係とコンツェ ルン間の兼任関係を分け,それぞれの兼任関係の固有の戦略的意義を明らかにする。特 に,後者については競業関係にある水平的関係での兼任関係を中心に展開する。そうする ことで,ドイツのコンツェルン経営の戦略的行動を解明することを本稿の最終的課題とし ている。
Ⅱ 人的結合の活用と兼任取締役の用語法
グローバル化の進展に伴う企業の巨大化,国際化が合併等による企業結合を広範に展開 している。企業結合は資本集中を惹き起こす企業集中として,長いこと独占禁止法の対象 とされてきた。すなわち,企業集中による市場集中が公正な市場競争を歪め,非効率をも たらすということから規制対象とされてきたのである。したがって,資本結合にはおのず と限界があり,それを補完するものとして人的結合personelle…Verflechtungenが企業結合 の他方を構成してきた。すなわち,人的結合はこの企業結合の限界を克服し,結合を強化 する「企業管理の用具」と見られてきたことについては別稿で取り上げた1)。企業結合が
1) 高橋宏幸「準制度的管理用具としての人的結合と企業結合―直接的人的結合と間接的人的結 合の多重結合関係を中心に―」中央大学経済研究所年報第45号,2014年9月。なお,そこでは ド イ ツ のD.…Schönwiz…;…H.…J. Weber,…Unternehmenskonzentration, personelle Verflechtungen und
Wettbewerb,…Baden-Baden,…1982,…S.…25。(以下,Schönwiz, Unternehmenskonzentrationと略記す
企業間の結びつきを強める制度的な企業間関係を表すとすれば,人的結合はむしろ緩やか な企業間関係を表す準制度的な企業間関係ということができる。同時に少なくとも2つの 企業における1人の人によるポストの引き受けである人的結合には,兼任,兼担,派遣と いった類似の用語がある。同一企業グループ内での人的結合では兼担,同一企業グループ 外の場合は兼任という区分がなされるが,ここでは,一般的な使用法に従って,両者を一 括して兼任という用語を用いることにする。
なお,この兼任取締役とは別個の表現として,社外取締役outside…directorsがあるが,
この社外取締役については,「経営にたずさわらない取締役」あるいは非常勤取締役とい うのが基本的な理解である2)。ただ,平成26年のわが国会社法改正でも明確にされたよ うに,文字通り当該会社を「退職後10年間,所定の不適格要件に該当しない限り,社外 性が認められる3)」ということで,その要件を充足した人的結合関係にある社外からの兼 任取締役も社外取締役から排除されないと解釈できる。その場合には,上述した「経営に たずさわらない取締役」は,「業務執行にたずさわらない取締役」と表現することが適っ ているように思われる。
日本では取締役より幅広い概念である役員が用いられ,兼任取締役以外にも役員兼任と いう用語も使われてきている。そもそも人的結合の用語は,かなり多義にわたっており,
例えば人的結合と同義なものとしては人的連紐がある。また,その下位概念として兼任関 係,兼担関係が,さらにこの関係が取締役レベルでの場合,兼任取締役が用いられ,これ と関連して社外取締役がある。社外取締役は社内取締役に対比されるもので,わが国の会 社法第2条15では,社外取締役は条文で「株式会社の取締役であって,当該株式会社又 はその子会社の業務執行取締役……若しくは執行役又は支配人その他の使用人でなく,過 去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使 用人となったことがないものをいう」と定められている。すなわち,業務執行取締役もし くは執行役又は支配人その他の使用人以外であれば当該会社に職位のあったものも社外取
る)に依拠して,主として水平的・垂直的産業間での直接的及び間接的人的結合についての実 証研究の成果を検討した。
2) わが国の公正取引委員会では,人的結合が企業結合を著しく強化するなどの影響をおよぼす ものだけが企業結合審査の対象とされ,それに関連しない人的結合は審査対象外とされてきた。
その意味で,従来の社外取締役や非常勤取締役は禁止の対象とはなり得なかった。ちなみに,
わが国の独占禁止法第13条では公正取引委員会への役員兼任の届出義務は課せられていない。
参照,田辺治,深町正徳編著『企業結合ガイドライン』商事法務,2014年2月,39ページ。
3) 藤田祥子「社外取締役・社外監査役規定における使用人・重要な使用人」所収:早川勝,正 井章筰,神作裕之,高橋英治編『ドイツ会社法・資本市場法研究』中央経済社,2016年7月,
223ページ。
締役となり得る。
指名委員会等設置会社および監査等設置会社では,この社外取締役の選任が義務付けら れているが,従来型の監査役会設置会社では義務付けられていない。ただし,特定監査役 会設置会社(①公開会社,②大会社,③監査役会設置会社,④発行株式について有価証券 報告書の提出義務アリ)では,社外取締役を置かない場合,置かない相当の理由を定時株 主総会で説明することが義務付けられている。したがって,社外取締役選任の圧力が制度 上生じ,急速に普及したことが頷ける。しかし,この社外取締役が同時に独立取締役に なっているということではなく,またすべての会社に独立取締役がいるという訳ではな い。
ここで独立取締役は,東京証券取引所が有価証券上場規定436条の2第1項で定めた
「独立役員」のことを指し,「一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または 社外監査役」のことである。さらに続けて,「上場会社は,社外取締役である独立役員を 少なくとも1名以上確保するよう努める」ことが望まれるという「努力義務」として提示 されていた。
したがって,社外取締役の中には独立取締役であるものと,そうでないものとが存在す ることになる。2015年6月東京証券取引所第一部および第二部に上場する会社に独立社 外取締役の選任が要請された状況のもと,日経225銘柄を対象に調査した結果,2015年 7月時点の段階で,東京証券取引所第一部上場会社では独立社外取締役の選任比率は約
87%(要請時点以前と比較し約25.6%増),社外取締役の選任は94.3%(要請時点以前と
比較し約20.0%増)と圧倒的に多くの会社が独立社外取締役の選任および社外取締役の選
任に動いたことが示された4)。社外取締役の選任が94.3%と際立って高い最大の理由は,
社外取締役の選任が義務付けられていない監査役会設置会社においてもその圧倒的多数が 特定監査役会設置会社であることから,社外取締役を置かない相当の理由の説明義務はか なりの圧力となっている。
他方,その約15年前の2000年2月には,東京弁護士会会社法務部が社団法人商事法務 研究会の協力を得て全国証券取引所上場会社全社(2,445社)を対象にアンケート調査を 実施していた。そこで回答を得た951社(全国証券取引所上場会社全体の約4割)につい ての集計,分析結果から社外取締役については次のようになった。なお,この調査は商法 改正によって執行役と社外取締役の法制化の提言が出されていた時期にあたり,執行役に ついても詳細な調査結果が示されていたが,ここでは触れない。また社外取締役をどう定 義するかで,集計,分析結果が違ってくるため単純に2000年と2015年の結果は比較でき
4) 柗田由貴『社外取締・社外監査役の兼職等状況の分析』別冊商事法務No.…402,…2016年1月。
ないことを前提としても,総数999社のうち社外取締役がいると回答した会社は331社 で,35.3%と予想以上に低い5)。それが15年という短期間で急増していること,また単な る社外取締役にとどまらず独立取締役,すなわち独立社外取締役にまで進んできたという ことが注目される。
上述したように,2015年7月時点の段階で,東京証券取引所第一部上場会社で日経 225銘柄では独立社外取締役の選任比率は約87%(社外取締役の選任比率は100%)とい う極めて高い数値になっていたものの,全く独立社外取締役を選任していないケースや,
社外取締役のうち一部独立社外取締役でないものを選任しているケースなどがある。例え ば圧倒的に多数の会社では社外取締役は独立取締役となっているものの,独立取締役と なっていない社外取締役を含む会社もあり,そうしたものとしてキリンホールディング ス,三越伊勢丹ホールディングス,信越化学,宇部興産,花王,中外製薬,テルモ,ヤ フー,昭和シェル,横浜ゴム,日本硝子,日本軽金属ホールディングス,DOWAホール ディングス,古河電気工業,日立建機,千代田化工建設,ミネベア,日本電気,シャー プ,京セラ,三菱自動車,本田技研工業,リコー,ヤマハ,クレディセゾン,ユニグルー プ・ホールディングス,新生銀行,みずほファイナンシャルグループ,第一生命保険,東 急電鉄,スカパーJSATホールディングス,KDDI,NTTドコモ,NTTデータ,東京ドー ム,ファーストリティリング等があげられる。
また,社外取締役はいるが独立社外取締役を全く持たない会社として,凸版印刷,電 通,東宝,古河機械金属等例外的な会社数にとどまっていて,機関設計としてはこれらは すべて監査役会設置会社である。ここで注目されるのは,これらの会社はいずれも選任さ れた社外監査役に最低1名の独立役員を含んでおり,「上場会社は,社外取締役である独 立役員を少なくとも1名以上確保するよう努める」ことが望まれるという「努力義務」を 充足していることである。なお,社外監査役は監査役設置会社にのみ存在し,指名委員会 等設置会社および監査等委員会設置会社には存在しない。その上で,日経225銘柄の中で 監査役設置会社における社外監査役の選任状況を見ると,100%の採用で,しかも監査役 に占める社外監査役の割合は平均約60%となっていた。日経225銘柄中,監査役会設置
会社が約90%弱であったことからも,日経225銘柄のほとんどが社外監査役を選任して
いたことになる。
2015年5月の改正会社法による指名委員会設置会社において各員会の委員の過半数は 社外取締役でなければならなくなり,新たに創設された監査等委員会設置会社においては
5) 東京弁護士会会社法務部編『執行役員・社外取締役の実態―商法改正の方向を含めて―』別 冊商事法務No.…243,…113ページ,表54。
監査等委員である取締役は3名以上で,その過半数は社外取締役でなければならないと義 務付けられた。当然,このことが社外取締役の選任を押し上げるように作用するにして も,日経255銘柄での機関設計の分布を見ると,従来型の監査役会設置会社に留まるもの
が90%弱も占めており,残りのうち8%が指名委員会設置会社,2%が監査等委員会設置
会社ということからも改正会社法による影響は限定的であったと推測できる。このこと は,従来型の監査役会設置会社において社外取締役が相当数浸透していることを意味して いて,2000年2月の社外取締役35.3%から2015年7月で社外取締役94.3%の急速な拡大 はそこにもとめられる。
ところで,これまで社外取締役を採用してこなかった会社が約65%もあり,実施して こなかった理由として,有用性への疑問(28.2%),適当な候補者の獲得難(37.5%),社 外監査役の意見を聞くことで十分(30.9%),業務内容に精通しないため説明等に手間が かかる(18.6%)などがあげられていたが…6),こうした状況が一気に解消したとは考えに くい。こうした制約が十分に解消されない中で,社外取締役および独立社外取締役選任の 外圧が高まり,急速に採用が拡大したと理解される。したがって,わが国の社外取締役お よび独立社外取締役には解決すべき課題が多いと言えよう。特に,業務執行にはかかわら ないのが社外取締役および独立社外取締役であり,それに取締役会による経営陣の監督機 能を強化するという役割期待が寄せられたのである。日常的に会社の職務に従事しないた め,当該会社の実態や固有の経営・技術的特性の事情に通じていないという大きな限界が ある中での助言活動の有効性が疑問視されている。
また,社外取締役の出自から見た場合の助言活動の有効性や社外取締役が当該会社の社 外取締役以外に他の会社に同時にポジションを持たないという社外取締役である場合と他 の機関との兼任関係にある場合の意義についてである。実際には,後者の兼任取締役の ケースが多く,しかも1名の社外取締役が複数の社外取締役を兼任することも少なくな い。果たして,わが国の場合それに戦略的意義があるかという問題である。結論を先取り すれば,わが国の社外取締役および独立社外取締役はあくまでも形式的なもので,戦略性 の欠如と有効性の脆弱性を指摘できる。この点に関連して,ドイツの兼任取締役について 後述する。ここで,取締役,社内取締役,社外取締役,独立社外取締役,兼任取締役の関
6) 東京弁護士会会社法務部編『同上書』114ページ。なお,最近の社外取締役の動向として女性
の社外取締役が社外取締役全体に占める比率(11.6%)が欧州連合(EU)域内の大企業(23.3%)
と比べても大幅に立遅れていることが報告されている。その最大の理由は社外取締役にもとめ られる資質やキャリアを備えた候補者が少ないことがあげられていた(日本経済新聞,2018年 9月16日)。このことは,女性に限らず現在でも人材不足という状況は何ら変わっていないこ とを示唆している。
係を図式化しておく。
取締役であって,それが兼任関係にある兼任取締役が人的結合の中心である。しかし,
社内取締役であって兼任取締役ではないケースも相当数ある。他方,この取締役より包括 的な内容の役員を用いて企業結合の法的制限を展開したのが,日本の独占禁止法である。
そこでは取締役ではなく役員という用語が用いられ,役員は取締役より幅広い概念で,
「理事,取締役,執行役,業務を執行する無限責任社員,監事もしくはこれらに準じる 者,支配人または本店もしくは支店の事業の主任者7)」を指していた。したがって,取締 役と役員の関係を図示すると,下記のようになる。
この役員兼任による結合関係について,兼任当事会社間で結合関係が形成・維持・強化 される場合には,企業結合審査の対象となるというのがわが国公正取引委員会の基本的な 考え方で,当事会社の役員数の過半数を他方当事会社の役員・従業員が占めている場合と 特定の個人が双方の会社の代表権を有する場合である。もっとも,当事会社間の議決権保 有状況,融資関係,業務提携関係等の状況も加味され,結合関係が競争関係にある企業間 の役員兼任であることで独占禁止法第13条第1項「会社の役員又は従業員……は,他の 会社の役員の地位を兼ねることにより一定の取引分野における競争を実質的に制限するこ ととなる場合には,当該役員の地位を兼ねてはならない」に抵触し,独占禁止法違反とな る。ただし,兼任当事社が同一の企業結合集団に属する場合は,企業結合関係が形成・強 化されるものではなく,したがってそのような役員兼任は企業結合審査の対象とはならな い。兼任関係に対するこのような日本の立場は,いみじくもグループ経営ないし企業集団
社外取締役 独立社外取締役 兼任取締役 取締役
社内取締役
非独立社外取締役 非兼任取締役
広義の取締役= 理事
独占禁止法の「役員」 取締役=狭義の取締役 執行役
業務を執行する無限責任社員 監事もしくはこれらに準じる者
支配人または本店もしくは支店の事業の主任者
7) 川濱昇,泉水文雄,武田邦宣,宮井雅明,和久井理子,池田千鶴,林秀弥『企業結合ガイド ラインの解説と分析』商事法務,2008年7月,57ページ。
内の人的結合の持つ競争力強化に向けた戦略的意義を軽視している。グループ経営内での 戦略的重要性が希薄であれば,そのような同一グループ内での人的結合,すなわち役員結 合の戦略的意義は認められない。
いずれにせよ,社外取締役さらには兼任取締役には用語の多義性がつきまとい中身が不 明確なままにその人的結合の戦略的意義も自覚されてこなかった。本稿では,人的結合な かでも兼担取締役の本質的意義を,ドイツのケースとの比較を交えて検討していく。人的 結合の問題は単に理論上の問題というより,グローバル化の進展の中で実務上焦眉の問題 としても検討が急がれている。
会社は特定の企業形態のもと,特定の組織形態を採用して企業活動を展開している。そ のような企業はまた社会の様々なシステムのサブ・システムを構成しており,そのシステ ムの1つである人的ネットワークを形成し,様々なネットワークと連動し,相互補完しな がら複合的な構成体を形成している。もとより企業自体が個人を成員とする組織構造と なっており,職能体系,権限・責任体系,情報ネットワークを形成している。そうした組 織構造の中で,取締役の職位に位置する人間の兼任が兼任取締役であり,組織と組織との 関係,すなわち組織関係,企業間関係も表す。このことから,兼任取締役の研究は階層構 造を成す企業組織での「入れ子状分析」と「兼任取締役のクリーク分析」という形で進め られてきた8)。
1914年制定されたクレイトン法Clayton…Actは競合企業間における兼任取締役を禁じ ていたものの,実際には有罪判決を下すことはなく,兼任取締役を規制してきたクレイト ン法の存在にもかかわらず,違法な兼任取締役が広く普及してきた。この事実から分かる ように,実際は法的制限と競争制限との間にはかなり複雑な関係が働いていることが推測 される。それは兼任取締役と組織がもたらす便益の方が,予想されるコストよりも大きい からである。
今日,兼任取締役には別稿で触れたように,「競争を無くし,非効率をもたらす」諸悪 の根源であるというものと,「関連する専門知識と時間の節約が図られ9)」,戦略策定に とって極めて有意義なものである10)という対照的な評価が存在する。後者の評価は人的
8) その代表的なものとして,仲田正機,細井浩一,岩波文孝『企業間の人的ネットワーク―取 締役兼任制の日米比較―』同文舘,1998年10月があげられる。
9) 高橋宏幸「兼任取締役制度と戦略的意義―競争的関係の交錯的変容に関連して―」中央大学 経済研究所年報第31号,2017年8月。これはChristine…Schropshire,…Interlocking Directors and
Diffusion of Strategy,…Dissertation…2008,…p.…12に依っている。
10) Daniel…Rexford…Hoyt,…Implications of Direct and Indirect Interlocking Directorships for Effective Competition,…Dissertation,…1976,…p.…1.
結合,特に取締役レベルのそれである兼任取締役が戦略的業務にたずさわっていることか ら,コンツェルンの戦略的推進という点から,「効果的コンツェルン管理のための有効な 手段11)」とも言われてきた12)。
兼任取締役は,(1)株主利益という観点からのモニタリング,コーポレートガバナンス 強化のためのものと(2)株主のためではなく経営それ自体の観点から経営効率の最大 化,戦略策定・実施の貫徹のための兼任取締役に大別される。(1)がアメリカで見られる もので,反トラスト法であるクレイトン法13)に象徴され,いかに公正な競争を確保する かという独占禁止法の視点から兼任取締役に対する規制が図られている。なお,企業結合 がすでになされたところでは兼任取締役関係は生じ得ないが,兼任取締役関係のあるとこ ろでは兼任取締役によって競争制限が生じる事態が発生し,それに対応して規制がなされ ると理解される。(2)はドイツの同一コンツェルン内での兼任取締役関係に象徴され,コ ンツェルン法でその法的関係が定められ,その圧倒的な部分は会社法的な視点から法的規 制が定められている。こうした対極的な視点の間を揺れ動いてきたのが兼任取締役であ り,その定義が多義的であったことはこのことに由来する。
本稿では旧制度学派経済学の「制度」が意味した社会制度のようなマクロ的な経済外的 因子の影響関係から理論構成を図るということではない。むしろ,新制度学派の意図した 学際的結合を図るもので,「制度的環境(法,政体等)とガバナンスの制度(市場,階層 組織等)14)」を射程に入れたものである。本稿では,この制度的環境の重要性を意識しつ つ,ガバナンスの制度というミクロ的な側面に研究の中心を置いている。簡単に言えば,
マクロ的な法制度のもと,各企業の当事者の企業政策的観点から彼の自由裁量で選択可能 な人的結合を準制度的管理用具と表現した。
11) Arndt…Eversberg,…Doppelvorstaende im Konzrn,1992,…S.…5.
12) 兼任取締役に対する評価は昔も今も,完全に割れている。例えば,1991年6月にマッキン
ゼー・カンパニーのDr.A.BornとインタビューしたA.Eversbergが明らかにしていたように,日 常的に実践の指導ににたずさわるコンサルタントですら兼任取締役を非効率的な,全く無駄な 組織形態と見下していた。というのは対等のもとでの合意Einigung…unter…Gleichenを表してい る兼任取締役は,人間の本性の弱さによって集まった取締役たちの部局エゴイズムによってお おわれているからだという。Vgl.…Arndt…Eversberg, Ebend,…S.…33,…Fussnot…165.
13) 反トラスト法の規制は,市場行為規制と市場構造規制に分けられる。クレイトン法2条は前
者,7条,8条は後者に該当する。規制の強化はこの7条の企業結合規制によるもので,競争制 限となる株式取得と資産の取得が禁止された。佐藤一雄『アメリカ反トラスト法―独占禁止政 策の理論と実務―』青林書院,1998年,12ページ以降参照。
14) オリバー・E・ウィリアムソン著 / 石田光男,山田健介訳『ガバナンスの機構―経済組織の学 際的研究―』(The…Mechanisms…of…Governance)ミネルヴァ書房,2017年7月,2ページ。
Ⅲ ドイツ・コンツェルン法制と人的結合
ドイツにおけるコンツェルンの歴史はドイツ帝国建設に始まるというほどに長い15)。そ れを契機としてドイツ資本主義が発展し,併せてドイツ株式会社の発展を見ている。株式 会社が大幅に普及した今日,メーシェルによれば,「ドイツの全株式会社の75%がコン ツェルンに組み込まれている16)」。企業の結合であるコンツェルンでは,多数派株主の利 益追求が優先されることでかつてないほどに会社法上の深刻な問題を生起させてきた。こ のまさしくコンツェルンにおける従属会社の少数株主および債権者の保護という会社法上 の問題への対応としてコンツェルン法制が制定された17)。
これまで存在してきたドイツ株式法(1965年)において,コンツェルン法制の制定が なされ,コンツェルンについて「一個の支配的企業と一個または数個の従属的企業が支配 的企業の統一的指揮のもとに総括されているときは,それらの企業は1つのコンツェルン を成し,それらの各企業はコンツェルン企業である」(株式法第18条)と規定されてい た。コンツェルンとコンツェルン企業の関係は,独立の法人格を有する企業である複数の コンツェルン企業からコンツェルンは形成されるというものである。またHirteはコン ツェルンを「肢体企業の法的独立性のメルクマールによって単一企業から区別される経済 的単位として管理された企業グループ―多重的社団企業polykorporatives…Unternehm- en―18)」と位置付けていた。つまり,コンツェルンは法人格を有さない企業の形をまとっ た企業組織Organisation…von…Unternehmenで,多国籍企業等はこのコンツェルンの組織 形態の1つと考えられている。コンツェルンは法人格を有さないが,株式会社,株式合資 会社,有限会社と同様に指揮・監督機能を有する点で特異な存在となっている。コンツェ
15) ヴェルンハルト・メーシェル著 / 小川浩三訳『ドイツ株式法』信山社,2011年2月,134ペー
ジ。
16) ドイツでコンツェルンが形成されたのは,1886年で,同年に持ち株会社もはじめて設立され
ている。高橋岩和『ドイツ競争制限禁止法の成立と構造』三省堂,1997年3月,16ページ参照。
17) ドイツのコンツェルン調査書に基づいて,従属会社の少数株主および債権者が利益を害され たことを裏付ける事実は実際には認めらなかった。それ以上に,コンツェルン内の損益相殺に よる節税目的から機関契約の締結が必要になったことが契約コンツェルン法の制定を必然化し,
それとの対応で事実上のコンツェルンの規定もなされたことを河本は指摘していた。河本一郎
「西ドイツコンツェルン法の背景についての一考察」神戸法学雑誌第28巻第3号,1978年,263 ページ以降参照。
18) H.…Hirte,…LI.M. Two-Tier System and Groups of Companies Die…Vereinbarkeit von Doppelmandat- en mit dem dualitische Fuehrungssystem im Konzern, Rechtsvergleichendes Seminar S.4)zum Gesell- schftsrecht im Miland in Zusammmenarbeit mit der Universita Cattolica del Sacro Cuore, Sommw- ersemester, 2007,…S.…4.
ルンは法的単位ではなく1つの経済的単位であるという「法的な多様性と経済的一体性の 乖離19)」を基礎としているということが,法学的コンツェルン研究と経営経済学的コン ツェルン研究という2つの研究領域を提供している。前者が結合企業における利害関係の 調整,関係者の利益保護のための規制に向けられている。これに対して,後者は法的規制 を前提にコンツェルンの競争力の維持・拡大の方途の理論的基礎をもとめるものである が,現在までのところ量的・質的に圧倒的に前者の研究蓄積が優位を占めている。
そこで,法学的研究の成果に依拠しながら,経営経済学的問題意識からドイツ・コン ツェルンを基本的な問題から整理していく。先ず,このコンツェルンのメルクマールは,
1.…企業の法的独立性,2.…1つにまとまった多数企業,3.…統一的指揮ある20)。これらのい
ずれを欠いてもコンツェルンは成り立たない。多数の企業が1つの経済的単位として統一 的指揮のもとに置かれることで,コンツェルンは単一企業にはない高い戦略的弾力性と戦 略的推進力を持つ。すなわち,経営経済的には「個別の企業がそれぞれ有する資源を1つ に束ねることができ,それによって生産過程は合理化され21)」,豊富な商品の供給可能性 がもたらされ,それによって市場の変動への柔軟な対応,相乗効果が可能となる。
また,法的にはコンツェルンを構成するそれぞれのコンツェルン企業自体が行為能力を 持ち,独立して責任を負っていて,コンツェルン全体にリスクが及ぶことにはならない。
また,合併要件としては基礎資本金額の4分の3以上であるのに対し,コンツェルン形成
には51%以上の資本で済むといった面や税法上の優遇などが指摘される22)。
このことと符合して,ドイツ株式法で定義されていたようにコンツェルンは法的な存在 であると同時にコンツェルンが持つ固有の経営経済学的意味があり,それに対応して会社 法上のコンツェルン概念と経営経済学上のコンツェルン概念に分類され,そのもとでさら に細分化がなされている。そのうち本稿では,会社法上のコンツェルンでは,従属コン ツェルンの契約コンツェルンと事実上のコンツェルンに,また経営経済学上のコンツェル ンでは事業型ホールディングと戦略的ホールディングに焦点が置かれる。
このことを前提に,社会的市場経済下でのコンツェルンにおける人的結合問題を取り扱 う訳であるが,ドイツ株式法の1分野として別途制定されたコンツェルン法は,「企業集 中が企業債権者や少数株主に不利をもたらさないように,そして会社法の規律をコンツェ
19) マルクス・ルッター著 / 山口賢訳「ドイツコンツェルン法の体系(二)」甲南法学第27巻第
3・4号,1987年,15ページ参照。
20) ヴェルンハルト・メーシェル著 / 小川浩三訳『前掲書』135ページ。
21) Vgl.Thomas…Mellewigt,…Konzernorganisation und Konzernfuhrung-Eine enpirische Untersuchung boesennotierter Konzerne, 1995.
22) ヴェルハルト・メーシェル著 / 小川浩三訳『前掲書』137ページ。
ルン関係に対応させるように配慮する23)」ということからも分かるように,株式会社の圧 倒的多数(約75%以上)を占めるコンツェルンの普及が現実のものとなり,その利点ば かりでなく弊害も次第に明らかになってきたことを反映している。そうしたなかで,コン ツェルン形態ならびにコンツェルンの戦略的強化の重要性がますます高まってきている。
いずれにせよ本稿で取り上げる人的結合は,コンツェルン化の進展するドイツでは,資 本結合した結合企業の形を成すコンツェルンの強化という意味合いから人的結合がなされ てきた。そして,この人的結合は「経済の組織化を促進する要素の1つであって,……従 来の判例は監査役会への競業者の参加を認めて24)」きたし,競争制限禁止法による制限も 企業結合により市場支配的地位が発生あるいは強化されるであろうという予測に基づく場 合に限られ,カルテル参加企業の生産性向上に役立つ限り容認されるというものであっ た25)。他方,株式法による兼任の禁止,規制については後述したようにかなり踏み込んだ 内容が示されている。このような人的結合,すなわち兼任の規制はアメリカ合衆国や日本 でも行われているが個々の点で違いがある。
このように,人的結合を包括的に扱うのではなく,取締役,監査役に区分して兼任を取 り扱うドイツの場合,個々の職位に応じて生じる兼任の作用関係を明らかにし,兼任を経 済化の促進要因の1つとして積極的に評価していることは,兼任を企業管理の戦略的用具 とする意味合いを理解することができる。
ところで,この人的結合のうち直接的人的結合によって,「高品質な人的資本」の分配 と拡大が図られ,不十分な企業家的能力が補充され,潜在的な利害調整と行動調整がもた らされ26),同時にそれは競争に対する実質的な制限を与える可能性から規制対象となって いた。企業結合には水平的企業結合,垂直的企業結合そして混合型企業結合の3つが含ま れる。ここでの企業結合は弱い資本結合によるもので,企業はそれぞれ単独の競争単位 で,法的単位としてまた経済的単位としてもそれぞれが独立の単位を形成している。これ らの関係の中で,企業が他の企業と協調的行動をとることで,競争の実質的制限が生じれ ば,有効な競争が失われてしまう。ここに,企業結合に対する独占禁止法等による法的規 制の理由がある。言うなれば企業間ないし企業グループ間の企業結合である。こうした関 係を前提とした人的結合として直接的人的結合が一方において存在していた。
23) 村上淳一 / ハンス・ペーター・マルチュケ『ドイツ法入門』有斐閣,2000年4月,150ペー
ジ。
24) 吉田夏彦「ドイツにおける競業会社の監査役員の兼任―Friedrich…Kueblernの所説を中心とし
て」(以下「競業会社」と略記)憲法論叢第9号,2002年12月,94ページ。
25) 吉田夏彦「競業会社」100ページ以降参照。
26) Schönwiz,…Unternehmenskonzentration…S.…26.
これに対して,単独企業の成長方向としての専業事業による拡大,垂直統合型拡大,そ してコングロマリット型拡大がある。そうした拡大の結果として生み出された企業による 取引制限,独占的行為によって競争制限に影響を及ぼす可能性があることから独占禁止法 による市場行為規制が行われてきた。
単独企業間の結合,すなわち企業結合によってグループが形成されているところでは,
グループを構成する法人格を持つ企業群が,経済的には1つのまとまった単位(コンツェ ルン)を形成している。ここでは企業結合を前提とした人的結合,すなわち直接的人的結 合が高い頻度で活用されているのが一般的である。この企業グループ(企業集団,コン ツェルン)内の人的結合は,同一の企業結合集団での結合関係,すなわち資本結合関係に ある企業集団内の人的結合にあたるもので,結合関係を形成・維持・強化するようには働 かず,したがって競争の実質的制限をもたらさないというのが上述したようにわが国公正 取引委員会の見解である。しかし,企業集団で株式会社形態をとる親子関係が成立し,親 子上場あるいは子会社少数株主が存在している場合には,この単独行動による行動余地を 含んだ企業グループ内での直接的人的結合には,わが国の会社法,民事法,銀行法さらに はドイツの株式法などによる禁止規定も存在する。
さらにこうした直接的結合(一次的結合)ばかりでなく,間接的結合(誘導的結合)も 存在しており,それらが当事者企業間での職位別の兼任関係,産業部門別,企業規模別の 兼任関係において,どのような役割を担っているのかが解明されなければならない。
Ⅳ ドイツ株式会社とその機関 1.業務執行機関と監視機関の分離
株式会社は株主総会,取締役会そして監査役会という3つの機関から構成される。その 機関の間でどのように機能を分担し,権限を配分するかで株式会社のモデルは違ってく る。例えば執行と監視を1つのシステムでやる一元的システムmonisistisches…System(こ の役員会Board…of…Directors内部で業務執行役員exseccutive…directorsと非執行役員non-
executive…directorsとが分離される)と業務執行機関と監視機関が分離されている二元的
システム(二層式システムとも呼ばれる)dualistisches…Systemの2つのモデルがある。
前者がアングロサクソン流の経営,後者がドイツやオーストリアの経営に見られるもので ある27)。本稿では,後者の二元的システムであるドイツの株式会社における人的結合の固 有の問題を析出し,兼任取締役の戦略的意義を明らかにしていく。
もともと株式会社の設立が免許主義(許可主義)から準則主義に移行する19世紀の後
27) ヴェルンハルト・メーシェル著 / 小川浩三訳『前掲書』66ページ。
半,すなわち1870年ならびに1884年の株式会社改正により,監査役会と業務執行機関と が分離され,監査役会が業務執行機関の監督機関として位置付けられた。ここに取締役会
Vorstandの監視機関すなわちコントロール機関として監査役会が登場しドイツ固有の二
元的システムが確立したことが注目される28)。この点で,取締役会という1つのシステム で執行と監視を行うわが国の一元的システムとは根本的に異なる。しかし,後述するよう にわが国の取締役会が監督機能に加えて助言機能を強く求められてきている。そのこと は,二元的システムをとるドイツの監査役会と一元制をとるわが国の取締役会がかなり近 似してきていることを暗示している。社外性なり外部との兼任関係が見出されるのは主と してドイツでは監査役会であり,わが国では取締役会となっている。この点から見てもド イツの取締役会とわが国の取締役会を同一視することは許されない。見方を変えれば,わ が国の取締役会は限りなくドイツの監査役会に近似していると言えよう。
この点については後述するとして,このコントロール機関としての監査役会がその後幾 多の変遷を経て現行の監査役会に至り,現在では監視機能はコントロール義務Kontrol- lepflichtと助言義務Beratungspflichtの2つに拡大されている。こうした監査役会の機能 分化・拡大と並んで,1976年の共同決定法による労働者の監査役会への参加と並んで取 締役会における労働者代表の役員Arbeitsdirectorの任用という資本主義経済体制のもと での株式会社の根幹に触れる深刻な問題も胚胎することになった。こうしたアングロサク ソン流の経営とは決定的に異なる特質を有するドイツの株式会社における現行の取締役会 と監査役会について,ここで簡単に整理しておこう。
取締役会は会社の指揮にあたり,業務執行を行うのに対し,監査役会は取締役会の監督 機関であると同時に取締役の選任権を持つ。この監査役会には株主総会で選出された持分
28) 前田重行「監査役会の監督機能―業務執行に対する監査と関与・介入―」所収:早川勝,正 井章筰,神作裕之,高橋英治編『前掲書』298ページ以降参照。
図1 株式会社の機関関係
監査役会 資本家側
労働側
株主総会
従業員・労働者 取締役会
監視・監督
選任
選出 選出
所有者側の代表と労働側から選出された従業員代表から構成される。ちなみに,監査役の 兼任可能数は10社までで,コンツェルン内部の5社の監査役ポストはこれに含めない29)。
2.取締役会 Vorstand と監査役会の義務と責任
ところで株式会社を論ずるにあたって,ドイツ法の「会社」Gesellshaftという概念に ついて触れておくことにする。会社とは「特定の共同目的を達成するために法律行為によ り設立された私法上の人的結合30)」で,法人(権利能力のある法人格が認められる社団)
と法人でないものとが含まれる。前者の社団法人となるのが,株式会社,株式合資会社,
有限会社の3つの資本会社Kapitallgesellschaftである。これに対して,後者の法人格を持 たない合名会社,合資会社が人的会社Personengesellschaftと呼ばれる。
株式会社は社団法人であることから,権利・義務の主体は社団にあり,成員(社員)に は法人の財産は帰属しないばかりか,法人の債務も法人財産だけが責任財産となり成員の 個人財産には及ばない31)。すなわち,株式会社においてはその成員である社員は有限責任 社員であり,無限責任社員は存在しないことになる。また,ここで株式会社の社員と言っ た場合,有限責任社員である株主(出資者)を指している。したがって,株主を構成メン バーとする株主総会,株主総会で選出された監査役会における株主代表だけが有限責任を 負い,その他の人は一切法人の債務にかかわらない。以上のことを前提に,株式会社の2 つの機関,すなわち取締役会ならびに監査役会の概要に触れておこう。
ドイツ株式会社における取締役会が,株主総会に由来しない「固有の権限」を有し,
特定の利害代表の利益ではなく,利害関係者の利益すなわち「会社の利益」を追求する という点で,株主価値の最大化を追求する欧米とは決定的に袂を分かつものである。また 取締役の権限についても,ドイツの場合,株主総会に由来しない「固有の権限」であるの に対し,欧米では株主総会からの権限委譲である。ただしドイツの取締役は株主価値を否 定しているのではなく,株主価値Shareholder…der…Valueの極大化だけを目指すことを禁 じているのであって,「企業の持続的な価値創造,すなわ『会社の利益』に配慮するこ と32)」が義務付けられている。
ドイツの株式会社における取締役会には以下のような固有の特徴が見られる。
29) 森本滋「大会社の経営機構と取締役の法的地位」法学論叢第140巻第5・6号,1997年1月,
131ページ以降参照。
30) 村上淳一 / ハンス・ペーター・マルチュケ『前掲書』141ページ。
31) 村上淳一 / ハンス・ペーター・マルチュケ『前掲書』142ページ以降参照。
32) 正井章筰「ドイツにおけるコーポレート・ガバナンスと労働者の共同決定制度―ドイツ監査 役会の役割について―」所収:『監査役制度を巡る諸問題について―ドイツ法およびEU法から のアプローチ―』2011年7月29日。
① 「基本的に社内取締役をメンバーとしている」
②… ①と関連し,「社外取締役は少なくしたがって社外との兼任関係(兼任取締役)
も希薄である」
③ 「取締役会機能としては業務執行機能(経営管理機能)が中心」
④ ③と関連し,「監査機能(監督機能)はない」
⑤ 「取締役会は株主に責任を負わない(株主利益のための経営を追求しない)」
こうした点は,ドイツ株式会社の本質にかかわるものであり,株式会社の生成に遡って 吟味する必要のあることは当然のこととして,本稿では先行研究に依拠して検討を試みる ことにする。先ず,①「基本的に社内取締役をメンバーとしている」という点は,歴史的 には文字通り内部取締役中心であった。それゆえ,②「社外取締役は少なくしたがって社 外との兼任関係(兼任取締役)も希薄である」ということが言える。しかも,当初は,こ の内部取締役は大株主でもあった。この株主であると同時に企業家である有限責任社員に くわえて経営管理の一貫である業務執行に関わらない単なる株主に過ぎない局外株主であ る有限責任社員が資本需要の増大,企業規模の拡大に伴って登場してくる。この有限責任 社員の間での多数派株主と少数派株主という性格を異にする社員の存在が早い段階から株 式会社における利害対立の底流を形づくっていた。
また少数派株主にせよ出資者である有限責任社員からすれば,内部取締役による業務執 行に対するコントロールを,そして債権者も業務執行を監督することをもとめたことは容 易に推測される。そのための経営コントロール機関が監査役会Aufsichtsratであった。そ れに先立って設けられていたのが取締役会における経営管理委員会(経営管理協議会)
Verwaltungsratで,それは経営管理機能を担うものであったがゆえに,監査・監督機能か
ら逸脱していた。そのため,あらたな監査機能の要請に基づいて,Verwaltungsratにかえ てAufsichtsratが用いられたという説もある33)。
表1 取締役の義務・責任
取締役の義務・責任
×経営効率の監督
×経営価値の増大
×株主の受託者あるいは受任者
○経営者の自己利益行為といった不正行為
○従業員・債権者・共同体全体の利益の配慮
○契約上の債務・義務を会社自体に負う 出所) テオドール・バウムス著 / 丸山秀平訳「ドイツ法における会社取締役
の個人責任」商事法務No.…1429,…1996.…7,…15
33) この点については,新山雄三『ドイツ監査役会制度の生成と意義』商事法務,1999年8月に
また③「取締役会機能としては業務執行機能(経営管理機能)が中心」という点につい ては,取締役会機能としては④「監査機能(監督機能)ではなく,業務執行にあり,この 業務執行機能を内部取締役で,場合によっては大株主でもある取締役が担うという関係に あった。今日では,この経営管理機能すなわち業務執行機能は業務執行担当取締役
Vorstandと執行役の機能として存在し,それには監視・監督機能が含まれない34)。
さらには⑤「取締役会は株主に責任を負わない(株主利益のための経営を追求しない)」
という点で,「株主価値」を追求するアングロサクソン流の経営とは一線が画される。す なわち,ここでは株主利益と労働者の利益の調和を図る「社会の利益」の追求であって,
「株主利益に還元し尽されるものではない35)」。この「社会の利益」は株主の利益と労働者 の利益の対立という構図を浮かび上がらせるもので,従来の会社法Gesellschaftsrechtで はなく,企業法Unternehmensrechtの枠組みに基づいている36)。
企業法の枠組みに基づく「社会の利益」は原語Wohl…der…Gesellschaftで,どちらかと 言うと「社会の繁栄」という幅広い概念で,特定の利害代表の利益を指すものではない。
またこの社会の利益は「取締役会や監査役会の行為の基準」を示すというのがメ―シェル の説明である37)。また,「会社の利益」はInteresse…des…Unternehmensで,これは株主の 利益と労働者の利益の対立という構図を表している。これは現行の株式会社,厳密には 1976年制定の共同決定法以降の株式会社における監査役の態様を指す。すなわちこの共 同決定法の適用を受ける企業の監査役会は「持分所有者(出資者)と労働者の同数の監査 役員によって構成され38)」,両者が同等の利益を主張し,利害対立していたことを象徴し ている。この監査役会がさらに少数派株主,債権者,従業員そして労働者の利害調整機関 であって,さらにはこの監督機能が「事後の監督から戦略的な企業計画への転換39)」が図
詳しい。第2部を参照。
34) 日本の取締役会は,業務執行取締役および執行役の業務を監視・監督するという機能を有す る。また,日本の監査役会設置会社にあっては取締役会がもっぱらその機能を担う。ドイツで は取締役会ではなく,監査役会Aufsichtsratがその機能を担うことから,ドイツの監査役会は日 本の取締役会に該当し,取締役会は日本の経営執行機関に該当するという見方もなされている。
35) 高橋英治『会社法の継受と収斂』有斐閣,2016年4月,284ページ。
36) 1955年の法律家会議の報告書で示された。これは,「大企社がもはや私的な存在ではなく,公
的ないし準公的な存在であるという認識に基づいている。」正井章筰『ドイツのコーポレート・
ガバナンス』成文堂,2003年6月,2ページ。
37) ヴェルンハルト・メーシェル著 / 小川浩三訳『前掲書』2011年,2月,信山社,39ページ。
38) 正井章筰『前掲書』9ページ,ただし(出資者)は引用者による。
39) 三原園子「ドイツ監査役会の計画機能への参加」早稲田法学第75巻第3号,2000年,350
ページ。
られ,監督機能から計画機能を包摂する助言機能が強められてきているという現状が認め られる。他方,このことは監査役会に労働側代表が参加しているという点で経営上深刻な 問題を孕んでいると言わざるを得ない。監査・監督機関と言われてきた監査役会は,取締 役会との機能関係との関係も含めて検討される必要がある。何故ならば,本稿で扱う人的 結合の1つが同一コンツェルン内での従属会社であるコンツェルン企業の監査役会と支配 会社であるコンツェルン企業の取締役会という2つの機関関係での人的結合であり,また コンツェルン外部の機関とのそれであるからである。この点については後述する。
3.利害調整機関としての監査役会
以上の有限責任社員たる持分所有者(株主)との利害対立という点では,有限責任社員 対無限責任社員の対立が,株式会社AGとは別の形式の株式会社である株式合資会社 Kommanditgesellschaft…auy…Aktien:KGaAに見出すことができる。無限責任社員と有限 任社員という利害対立関係が措定され,そこでは,無限責任社員が経営管理機能を担い,
これをコントロールする機能を有限責任社員が担うという関係となっていた。その意味で は,同じ持分所有者でありながら,業務執行機能(経営管理機能)と監査機能(監督機 能)が担い手によって分化し,無限責任社員である経営者の利益が追求され,もう一方の 出資者である有限責任社員が自らの利益を守るために経営者をコントロールするという動 きが必然化し,監査役会の萌芽形態が生み出された。
また株式会社の黎明期においては多数派株主である出資者である経営者,すなわち企業 家の他,少数株主も存在した。この少数株主は株主総会では局外株主とし利益代表から締 め出されたことが一因となって,少数株主によるコントロールすなわち少数株主の利益を 回復する補助的機関としての監査役会という側面も指摘されている。さらに株式会社の発 展は出資者である持分所有者ではなく金融機関をはじめとする大口の債権者からの資金調 達に多くを依存していた。このことから,融資側からの経営のコントロールの必然性も推 測される。
となれば,経営者に対するコントロールは,有限責任社員である少数株主によるものと 融資者である債権者からのものという2つのコントロールが想定される。大株主である経 営者の利益と少数株主である有限責任社員の利益の対立,大株主である経営者の利益と債 権者の利益の対立に加えて少数株主である有限責任社員である出資者と債権者の利益の対 立という3つの利害対立構造が存在し,その調整機関がもとめられることになる。そのよ うな調整機関として登場したのが監査役会であると考えることができる。ただし,株式会 社の発展は大株主であると同時に内部取締役を兼ねる所有者型経営者を後退させ,所有者 型経営者は非所有経営者すなわち専門経営者にとってかわられ,これまでの所有者型経営