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改正刑法草案における政治秩序(1)

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改正刑法草案における政治秩序(1)

一国家法益の偏重と保安主義を批判するための基礎的考察一

佐  川  一  信

      定中,改正スベキモノアルト認ム,其ノ可否如何1.改正刑法草案の歴史的過程      若シ可トセハ改正ノ綱要如何。

近代日本の成立以降,刑法をめぐる立法動向を   1.現行刑法ノ規定ハ之ヲ我国固有ノ道徳及美 概観すれば次のようになる。      風良習二稽へ改正ノ必要アルヲ認ム。

{111880年,明治維新に伴うわが国における最   1.現行刑法ノ規定ハ人身及名誉ノ保護ヲ完全 初の近代主義刑法としての「旧刑法」の制定。   ニスル為メ改正ノ必要アルト認ム。

(明治13年7月け日大政官布告36号)これは1810  1.韓近人心ノ趨向二見テ改罪防過ノ効果ヲ確

年のフランス刑法をモデルにボアソナードによっ  実ナラシムル為刑事制裁ノ種類及執行方法ヲ改ム      (1)て起草され罪刑法定主義を理論的支柱とした・客  ルノ心要アルヲ認ム。」

観主義刑法であった。       このような諮問に対し,臨時法制審議会は1926

(2)1907年,日露戦争後,日本資本主義が帝国  年10月,「刑法改正ノ綱要」40項目を答申し・翌 主義段階に突入した時点における国内体制再編の  年1月この綱要に基づいて司法省内部に刑法改正 一環としての「現行刑法」の制定。(明治40年4 原案起案委員会が設置される。そして同年6月 月24日法律娼号)背景としては,e資本主義の形  「刑法改正予備草案」が起草され・刑法並監獄法 成に不可避的な農村の破壊という事態の中で群馬  改正調査会を経て・わが国のファシズム体制が整

事件∫加波山事件,秩父事件,飯田事件等の集団  備される1931年に総則が・1940年には「改正刑       (3)的「騒擾」事件が高揚し,政府はこれに対する有  法仮案(未定稿)」がそれぞれ発衷されたのであ

効な対策を講ずる必要があったこと,口都市では  る。しかし折からの太平洋戦争の激化によって審 ルムペンプロレタリアートが増大し,農村の凶作  議は中断され,戦前の刑法改正作業はここで挫折 は深刻化して,労働争議の発生と小作争議の頻発・ する。

加えて窃盗を中心とする犯罰件数の増大が顕著   (4)1947年の憲法改正に伴って・これと矛盾す になったこと等を挙げることが出来る。つまり犯  る国家主義的規定の削除等現行刑法に至る根本的 罰現象の広汎な捕捉と国家刑罰権の強化である。  手直しとしての戦後の刑法改正。「皇室二対スル したがってその理論としては・2・世紀初頭にお 劉「鉾秩序尉スル罪」の全面削墜1「臆 ッる世界的規模の刑法改正運動の指導理論であっ  二対スル罪」等の全面改定がそれである。

た,社会的防衛論を理論的主柱とした,主観主義   ㈲今回の改正刑法草案の発表に連なる刑法改 刑法理藷であったことはいう迄もない。     正作業は,1956年10月,法務省内に刑法改正準備

(・)戦前の刑灘正牒は・1921年1明,鵬 会織けられることによって開始される・そ、8て

@制審議会に対する政府の次のよらな諮問により  1961年12月,同準備会より「改正刑法準備案」が 開始された。      公表されるに至る。それを受けて1963年5月・法

「政府ハ主トシテ左ノ理由二基キ現行刑法ノ規  務大臣から3年以内の努力目標期限を示しての・

(2)

       (6)

u刑法に全面改正を加える必要があるか。あると  の強いものを刑法典に吸収する必要があること」

すれば要綱を示されたい」(諮問第20号)との諮   つまり現行刑法の改正の要点はe現行法制定後 問がなされ,戦後の刑法改正作業は本格化する。  における刑法理論の変遷に対した刑法典の再編 諮問を受けた法制審議会は刑事法特別部会を設置  成,口刑罰,行刑制度の再編成,(≡)処罰範囲及び して,準備草案を素材に審議を行い,1971年Il月  処罰程度の再検討である。だがいかなる基本的立 特別部会は現行刑法の全面改正を内容とする答申  場ないし理念に基礎づけられた改正かという点に 原案を確定した。この内容は翌年3月法制審議会  ついては,一般的に「社会情勢及び精神的状況の

(総会)開催の直前に公表されることになるが,  推移,憲法をはじめとする法律制度の変遷等…」

この際に発表した「説明書」には以下のことが述  と述ぺるにとどまっていて,明確でない。そして べられている。       1972年4月から,法制審議会は,特別部会案を審

「現行刑法は,制定後,すでに60余年を経過し,そ  議し,驚くぺき「迅速さ」で終了して,去る5月 の間における社会情勢及び精神状況の推移,憲法  29日,刑事法特別部会案とほぼ同じ内容の「改正 をはじめとする法律制度の変遷,内外における刑  刑法草案」を法務大臣に答申したのである。

法理論や刑事政策思想の発展などからみてこれを  以上のような刑法をめぐる動向において,戦前 現代の要請に適合するものとするため,これを全  の刑法改正の基本的立場は,政府の諮問の際の綱 面的に再検討する時期に至っていること,とくに  領によって「醇風美俗」の維持と社会防衛的な刑

(1)現行法の用語が漢文調の文語体で一般国民  事政策の積極的展開ということが明らかとなって に理解しにくいものになっていること。     いるのに対し,戦後のそれは「個々の点について

(2)現行制定後における刑法理論の発展には著  改正の必要があるかどうかの検討が先行しなけれ しいものがあり,現行法とkに総則の規定のうち  ば,全面改正の必要の有無に答えられない」との

には,刑法の基本原則として一般に認められるに  論理の中で基本的立場の確定作業は全くなされて      (7)至っているところと十分に適合しない面があるだ  いないために改正刑法草案の基本的性格は容易に

けでなく,現行法に関する判例及び学説において  把握できない面がある。

は制定当時には予想されなかったような解釈が行   だが実は改正案の内容が戦前,戦後を通して極 なわれている面もありまた法文に簡潔であるため  めて酷似しているため,その連続性は明らかであ に,解釈上の対立が生じている場合もあるので理  る。つまり戦前の改正刑法仮案(以下仮案と略 論と実務との調和をはりながら・法典の全体特に  す)から,戦後の改正刑法準備草案(以下準備草 犯罪の成否に関する一般的な規定に再検討を加え  案と略す)えと継承されている内容の主たるもの る必要があること・       を改正刑法草案(以下草案と略す)と比較してみ

(3)現行法は制定当時における新しい刑事政策  ると,草案の基本的性格が逆に投影されるように 的な考え方を積極的にとり入れたものと思われる  思われる。つまり極めて平面的ではあるが,草案 が,その後における犯罪の防止及び犯罪者の処遇  によって新設された諸規定の中で,仮案および準 に関する理論原び技術の発展によって,法その他  備草案に基礎づけられているものの主なものを列 の刑事上の処分の種類及び内容を全面的に再検討  挙すれば,1.不作為による作為犯(仮13条,準11 する必要があること。      条)2・常習累犯(仮91条,準31条)3.不定期刑の

(4)社会の発展に伴って生じた新しい類型の違  言渡(仮31,93,94条,準52条)4・保安処分(仮 法行為に対して必要な処罰規定を新設するととも  126条以下,準109条以下)5.私戦(仮189条,準 に,現在における一般国民の法感情を基礎として  140条)6.多衆傷害暴行(仮400条,準278条)等 それぞれの罪の構成要件及びこれに対する法定刑  を挙げることができる。しかもこれらは,・いずれ を再検討し特別法上の罰則のうち刑事犯的な色彩  も草案の反憲法的性格の露骨な部分であり,,した

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がって論争点の主たるものでもある。そしてま  (6)改正刑法草案・附説明書87頁。

た,準備草案で悪評高かった規定のうち,スパイ  ω今回の草案作成に至る経過の中でその作成手続に 罪(仮案178.247条,準136条),偽計・威力によ   ついて批判する論稿が多い。「『新い・憲法のもと

・    る公務妨害(仮210条,準165条)等を今回の草案   で,刑法はいかにあるべきか』という発想で刑法の からはずした点を,閑却してはならないが,他方   改正に取り組むのであれば,まず改正の基本的な方 で不敬罪復活の前ぶれとしての外国の元首,使節   向を定め,改正の綱領を明らかにする,ということ に対する暴行等の罪,企業秘密漏示罪や騒動予備   から始めるぺきであろう。… 法制審議会でも改正

       の必要性や方向について一回も部会で討議すること罪の新設等,草案の基本的性格を検討する上で欠

       なく……準備草案を逐条的に手直しする,という方かすこと¢)できない各条項があらたに加えられて       法がとられた。結局,基本的な問題を討議する機会いる。この意味で草案の基本的性格を敢えて一言       は一度ももたれなかったといってよい」平野龍一・

でいえばファシズム下での刑法改正作業の所産で       改正刑法の研究ω概括的批判1.概説6頁,その他

ある仮案をよみがえらせたということができ,し   中山研一「改正刑法草案の概括的批判」法律時報.

たがって多くの論者の指摘をまつまでもなく,仮   46巻6号9頁,桜木澄和「刑法『改正』の思想と論 案一一準備草案一一草案を貫ぬく刑法改正作業の   理」・法の科学2号57頁等。

基本的理念は国家主義・治安主義と反人権主義,   (8)平場・平野編・刑法改正の研究・平場「はしがき」

益の偏重と社会防衛である。       法草案各則の批判」時報46巻6号。35頁以下,なお 小野清一郎はこの点に触れ「個人に優生する国家の 註(1)桜木教授は実定的には「罪刑法定主義」が明示   法益を認める立場,いわば国家主義を指す」とした

されていることを認めた上で「しかしながら,当時   上で「刑法は,やはり国家的刑法であり,その意味 においては人民主権に立脚した議会もなく,人民主    で国家主義をその原理とする」と居直っており,プ 権の表明としての法律による自由と人権を保障する   ロイセン国家主義を理論的支柱とする「後期旧派」

ものは何もなかったわけであるから,『罪刑法定主    の面目躍如たるものがある。

義は』実質的に保障されなかった,といっていい」

と指摘している。 (桜木澄和・『刑法「改正」作業       2. 国家法益の偏重の思想史的源流』法学セミナー72年11月号51頁)

(2)わが国における主観主義刑法理論の代表者に牧野   草案の極端な国家主義=政治的秩序意識は一方

●   ●   ●

英一が存する・大正デモクラシーの高揚を背景とし に「国家権力に対する犯罪」の抑圧規定の拡充と        ●   9  ●

ス牧野理論は労働組合運動等の大衆運動に一定の理  他方に「国家権力による犯罪」の寛容によって示 解を示し,興味深い。(牧野英一・・法律に於ける正  されている。

義と公平。同゜生の法律と理の法律等参照。)    前者はまず,政治権力の獲得をめぐって国内の

(3)仮案は総則,各則合せて全編462条から成り,国       ある特定階級が他の階級に対する高度の政治性を

家法益や社会法益に対する犯罪類型には「煽動」      おびた実力斗争,つまり内乱に対する処罰規定の「教唆」「蓄助」の独立処罰が付加されているほか

      拡大によって端的に示されている。草案は内乱罪各則では「皇室二対スル罪」の拡充や「安寧秩序二

対スル罪」「殿物燗スル罪」「決闘ノ罪」「神 の成立要件として「躰国離馨って認められ 社二対スル罪」等が新設されている。法律時報第32 た国家の基本秩序を変革する目的」を掲げている

巻8号。臨時増刊・「改正刑法準備草案の総合的検  が・ここでいう「国家の基本秩序」とは何かが明

討」の酬編に詳しい・      確でない上に,現行刑法が附和噸9類である単(4)法律時報第19巻11号「改正刑法の諸論点」,同20 純関与者を未遂罪から除外していたのに対し,草

巻1号・牧野英一「刑法の40年」         案はこれに処罪規定を新設している。かかる内乱

㈲法律時報・前掲臨時増刊に詳しい。       未遂罪が附和随行者に及ぶとする規定は,実は仮

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案によって騒擾罪についての主魁,率先助勢者・   もとより近代刑法の責任主義が行為責任でなけ 附和随行者等の区別を廃し,一律に10年以下の懲  ればならないことは,絶対主義社会において政治 役,禁固または500円以下の罰金に処しているこ  犯や思想犯が権力者の予断や偏見によってフレー

とにその起源をもっている。言うまでもなくこれ  ムアツプされた歴史的事実に対する反省の上に立    嘲 は附和随行者の大量検挙と長期拘留による主謀者  脚している。しかし国家に対する政治犯やそれに

または謀議参与者の割り出しに極めて有効であ  連なる大衆的組織運動家に対しては, 近代刑法は り,革命勢力に対する支配階級の万全の弾圧体制  その自らの原則性も顧りみず,「共謀」や「通謀」

を一段と補強するものであると言える。     といった,それ自体としては犯罪の行為事実に及 またこうした観点は草案171条の騒動罪におけ  ばない心情的なものまでをも犯罪対象として拡大

る単純関与者=「騒動に参加し,またはこれに関与  し,近代刑法の整合性は失なわれている・ここで  (3)した者」の刑をこれまでの500円以下の罰金から  は罰せられるぺきは行為ではなく行為者であり,

「2年以下の懲役,もしくは禁固,5万円以下の  行為原則の破綻をさらけ出して思想処罰に堕して 罰金または拘留」に高めたこと,騒動予備罪を新  いるといってよい・

設したことによって拡充されている。しかも前者   かかる国家法益を偏重する内乱罪・騒動罪と は,単に量刑をかさ上げすることによる弾圧の強  いった規定は,それぞれ相互補足的であることに 化としてのみ考えるぺきでなく,これによってi捜  注意しなければならない。内乱は国家の内部秩序 査当局が刑事訴訟法上の制約を免れるという点を  の根幹を揺るがす場合に限るとして・今仮りにご 看過すべきではない。現行法によれば附和随行  れを狭く解しようとすれば,社会的公安を侵害す 者は,犯人の住居もしくは氏名が明らかでない場  る騒動罪の適用範囲は広くなり・逆に内乱罪を広 合,または犯人が逃走する虞がある場合のほかは  く解せば騒動罪はその部分だけ狭くなるのであっ 現行犯逮捕は不可能であり(刑訴法217条)また住  て,両者の関係を別ける指標は「目的」以外な 居が不定でない限り,逮捕状による逮捕にも制限  く,結局「相対的」なものである・特に両罪の処

があり(199条1項但書)拘留も許されない。し  罰区分が,内乱罪の場合主謀,謀議参与・群衆指

かし草案のように懲役をも科しえるとなれば,か  揮・諸般任務従事,参加関与,の3段階であり・       (4)

かる制約に服することはないのであり,国家行政  騒動罪は「諸般任務従事」が「率先助勢」になるだ 権の拡充による反人権主義は顕著だと言わざるを  けであって極めて近似していることを考えれば・

得ない。      騒動の偶発性が内乱罪に転化される余地は拡大し また騒擾罪がこれまで労働運動や小作争議,農  たといわざるをえない。しかも内乱未遂罪の単純 民一一揆等大衆運動に猛威をふるってきたことは容  関与者を処罰の対象とする規定の新設や騒動予備        (5)

ユに想起されるが,草案はかかる騒動罪の処罰範  罪の新設によって,処分の対象が前段階行為に際 囲をひろげ,刑罰を重くするだけでは足りず,予  限なく拡大され・適用過程では拡大されればさ 備罪を新設した点に注目しなければならない。騒  れるほど両者の固有の意味は見出し難くなって,

動予備罪は多数が集合し,暴行または脅迫するこ  「相対性」は弛緩する。      (6)

とを「目的」として,2人以上が「通謀」し,多   加えて騒動予備罪や多衆不解散罪の整備は単に 数を「集合」させた場合に成立するものである  社会的不安を害する罪の強化という観点ではな が,もともと「目的」や「通謀」については捜査当  く,現在の兇器準備集合罪の緩和規定となってい 局が一方的に判断出来る性質のものであり・「集  る点も見逃がすぺきではない。これらはいずれも 合」の事実さえあればいつでも弾圧することが可  犯罪成立の立証のためには「目的」が重要である 能なものであって,明らかに大衆運動に対する事  から大衆運動を強力に推進する組織母体等に対す 前抑圧による政治的予防主義である。      る内偵が強化されることは必然で,しかもそれを

(5)

補完するように,騒動罪の単純関与者に対する刑  とのできた秘密を漏らしてはならないという・職・

のかさ上げや予備罪における事前の自首に,刑の  務規律違反という意味での秘密漏示であるのに対 軽減免除等捜査当局に対する刑事訴訟上の制約か  し,草案のそれは機密そのものの保護を意図した らの解除も怠りなく,治安立法えの変質はあらわ  ものである。したがってこれまでは公務員外の共 である。      犯関係等は生じようもなかったが・「機密」保護

       o   ●   ●

ワた「国家権力による犯罪」について言えば,  の観点が全面的に出てくる草案によれば・報道関 まず公務執行妨害罪が現行法の「3年以下の懲  係等の取材活動も直ちに共犯とされる可能性が容

(⊥の

役・禁固」から,草案では「5年以下の懲役・禁  易になった。しかも「機密」という概念の曖昧性 固」へと罰状を強化したのに対し,逆に公務員の  は,準備草案の理由書や草案の説明書による「ト 職権濫用罪を「2年以下の懲役・禁固」から「3  ップシークレットに属するもの」あるいは「国や 年以下の懲役・禁固」にとどまり,量刑の拡大が  地方公共団体の有する秘密のうち特に重要なも 不均衡であることを留意しなければならない。こ  の」という定義においても一構に明らかにならな の点については草案が基本的人権よりも公務員に  い。こうなると公務員は職務上知りえた秘密につ よる職務の励行を優先した国家法益の偏重,人権  いては今後ますます口を堅く閉ざし「国民全体の 思想に対する周倒な配慮を欠いた,個人法益の軽  奉仕者」であるより,政治権力の忠実な「下僕」

視が歴然としている。沢登教授の比較法的な指摘  となることは不可避である。したがって公務員た によれば,「一般的に言って,職権濫用の方に軍  る地位をかけて行政を告発しようとすれば,本罪 い刑が予定されているかまったく同等かのいずれ  は「公務員であった者」にも適用があるから,単 かであって,日本のように,公務妨害の方が明瞭  に退職するだけにはとどまらず処罰をも覚悟しな ノ重いというものは貼らな幽のであり,わが ければならないということになる.

国の現行刑法の公益偏重思想とそれをさらに拡大   またかかる公務員の機密漏示罪の導入は大衆運       藍δ)しようとする草案の「官尊民卑」の思想は,決し  動の発生の根拠になる国家の秘密に対してはこれ

て看過されてはならない。       を極力秘匿するためであることはいうまでもな また公務執行妨害罪が「公務」とは「公務員が  い。秘密に関する罪については,秘密探知=スパ その職務を執行するにあたって」と規定されてい  イ罪と漏示罪との両面から処罰することも可能で るにもかかわらず,すでに判例は単に執行行為だ  あろうが,草案はこれら一体の行為のうち,秘密 けでなくデスクワークをも含めて,公務員の行う の保持という観点からむしろ根源的位置に立つ漏

行為の一切を指すとしている。したがってかかる  示罪を厳罰に処した方が有効とみた。しかしこれ       (1り

判例の解釈によれば「たとえば国立大の教授の講  は「行為の悪よりは秘密の方が大切である」と考 義に際して暴行,脅迫を加えた場合は,公務執行  えたためであることは多言を要しない。

妨害罪(5年以下の懲役・禁固)が成立するが,

      註ω現行法が「政府ヲ顛覆シ…其他朝憲ヲ素乱スル」私大教授の場合には威力業務妨害罪(3年以下の

      と規定しているのと同趣旨であると説明書は述べて aK30万円以下の罰金)にな2,うる々こすぎない いる.(171頁)「用語を平易化する」と共に「齢

という奇妙な結論になりかねない」のである。       全体によって志向された民主主義的な国家秩序」を

.草案はまた公務員機密漏示罪を新設し「自然犯      内乱から保護するためとするが,漠として明確でな 的な性格の犯罪として」刑法の規定するところと       い。

なった。これは現在国家公務員法(100条・109条   (2}中山教授の指摘によれば「これは明らかに立法者 12号)地方公務員法(34条・60条)に規定されて   が,内乱が未遂にとどまる限り,特定の任務を有し いる秘密漏示罪とは大いに異っている。現行国家   ない附随的参加者をその他の者から区別して処罰の 公務員法等の規定は,およそ職員は職務上知るこ   範囲から排除しようとしたものであって,初期の段

(6)

階における大量無差別な一網打尽的処罰をさけるた    定しえないであろう」と指摘している。吉川・前掲 めの自制的態度を表現したものということが出来   研究203頁。

る」とされている。中山研一「内乱に関する罪」研   (1D)現在多衆不解散罪は,治安警察法の廃止で,解散 究(2)・131頁。       命令の根拠を失い,死文化していた。ところが「命

(3)「参加者」と「関与者」の区別に飢・ては「参加    令」を「要求」に改め,「暴行又は脅迫をする切迫 者は直接暴動の中に身をおいている者,関与者はそ    した危険がある場合」とすることによって・警察官 の外にある者」とされる。吉川経夫「騒動の罪」。   職務執行法等の活用に道を開き適用の根拠をあたえ 研究(2〕・198頁。       る。

ω吉川・前掲書によれば「現場にいる野次馬的な   (11)平場安治「改正刑法草案に対する若干の批判」ジ

『参加者』の大量逮捕は,予防立法としての騒動罪の    ユリスト・570号。しかしこの立場は決して探知罪 威力を遺憾なく発揮させることになるであろうし,    を設けるぺさだという見解でないことはもちろんで その長期間の勾留(起訴前の勾留は刑法208条の2    ある。

により25日聞におよびうる)は,主謀者や謀議参与

者等の割り出しにフルに利用されることになるであ  3.行為者責任と保安主義 ろう」(199頁)と述ぺられている。

㈲沢登俊雄「比較法的にみた日本刑法の各則の特   (イ)保安処分

色」研究(2)・27.8頁       草案によれば,保安処分を科すための要件は,

㈲職権濫用は「公僕精伸を忘れた所業というぺく・  ω「精神の障害により,第16条第1項(責任能力)

道義的にも破廉恥な行為である」(中・前掲時報36 に規定する能力のない者又はその能力の著しく低 頁)しかし説明書によれば「職務熱心のあまり行き  い者が,禁固以上の刑にあたる行為をした」 (第 過ぎがあったような事例などには・懲役では酷な場  102条)こと,(2)「治療及び看護を加えなければ 合もありうる」(175頁)となる・     将来再び細以上の刑にあたる行瀧するおそれ

ω中義勝・前掲37頁       があり,保安上必要があると認められる」(同条)(8}したがって新聞協会はこの点を重視し,その要望       ことである。しかし(1)についていえば「禁固以上書には以下のように記されている。「……機密指定

      の刑にあたる行為」は,草案各則のほとんど全てそのものの取り扱いに明確な基準が示されていない

現在i,この条項の立法1ヒによって報道機関の正当な  が該当し(禁固以上の刑にあたらないものは変死 取材報道活動が大きく制約されるおそれもある。機  者密葬罪・単純賭博罪・単純富くじ授受罪,過失 密漏示罪の新設は,将来スパイ罪復活の道を開くお  傷害罪の4つにすぎない),結局責任能力者ない

それもあるとの批判も由ている。しかも国公法およ  し限定能力者が犯罪行為を行えば,まず治療処分 び地公法より罰則が大幅に強化されており・このよ  のωの要件を充たすのである。そして(2)について

うな罰則強化は法の適用を誤れば,国民の知る権利  いえば,治療処分の許否を決定するに当って,行 をおびやかす事態を招きかねない」朝日新聞・74年  為者の将来の危険性を予測するというものである 7月23日・       が,草案説明書によれば「従来における精神鑑定

(9)特別部分において「騒動の罪」の章が審議 採決  の実績等からみて,わが国の精神医学は,精神障

が行なわれたのは,68年10月15日であった。この点      害の存否,その程度,精神障害者の社会に対する

?b繋紫饗灘譜雰鵬着危騰の撫こあたり・信聯る専門的意見

      を裁判所に提供することができる」としているの駅事件に対する騒慶罪適用の是非が現に大きな政治

問題となっており,さらに10.21新宿駅r騒擾』事  に対し,71年6月に決議された日本精神神経学会 件を6日後にひかえまさに物情騒然たるものがあっ  総会の見解によれば・精神障害者・酒精薬物中毒 たこの晦点が,騒動罪の規定を冷静に審議するため  者の将来的危険性に対する確実な予測表は存在し にはもっとも不適当なものであったことは誰しも否  ないと断言されている。また「保安上必要がある

(7)

と認められるという要件について,説明書は「殺  「医療」の本質とはいえない。

人,放火,強盗,強姦等の凶悪かつ重大な犯罪行   さらに保安処分の期間について考えてみても,

為をするおそれがある場合に限定すると,精神障  原則としては治療処分期間は3年であり,その更 害のため窃盗,詐欺等の財産犯を反覆する者が治  新は2年ごと2回を限度として,7年間という長 療処分の対象から除外されることとなって適当で  期の上限が定められているが,例外的に「死刑又

  (2)       ●   ●   ●   .   ●   .   .   o   .

ネい」とし,ここでも保安処分の適用の幅は広い。 は無期もしくは短期2年以上の懲役にあたる行為 このようにみてくると,保安処分の適用は必要  をするおそれのあることが顕著な者」(傍点筆者)

最少限度にとどめるというより,むしろその適用  については,更新回数の制限をおいていない。こ は際限のない程広汎なものとなり・保安処分導入  の意味で常習詐欺や常習恐喝程度の犯罪でも,短

に対する有力駕μ判の一つである・「思想犯の弾  期2年以上の懲役にあたる以上・無期限の保安処圧に悪用される」という危惧に論拠を与えるもの  分が可能ということになる。

ということが出来る。特に,精神衛生法によって   だが実は今問われなければならない問題は,保 は「精神病質」が精神病者,精神薄弱者とならん  安処分導入の背景に秘む,もう一つの側面であ で「病気」の一つとされている以上・草案での  る。それはたとえ純粋に医療的なものに限定する

「精神の障害」の中にも「精神病質」が含まれる  ことが可能であったとしても,刑法における保安 と考えるべきであろうが・今日これが医学的根拠  処分の導入の基礎には,明らかに精神障害者が社 はなく,「精神病質は実在しない」という状況の  会的に危険な犯罪を犯しやすいという認識の存在 中で・保安処分は治療に名をかりながら・政治犯  が否定できないということである。づまり精神障 を「性格の偏り」として「精神障害者」とりわけ  害者一般があたかも危険な犯罪者であるかのよう 精神病質者に仕立て上げ・「看護」という名の拘  な認識,その中に秘む精神障害者に対する差別と 禁に道を開くものだとする見解は一層リアルなも  偏見,そしてそのことを前提として,人間社会に のにならざるをえない。       隔離と抹殺の対象としての「棄民の論理」を公定

しかもまた保安処分が・刑罰ではなくて治療で  化することの問題性である。劣性陶汰の優性保護 あることをいかに強調してみても・刑と処分との  の思想下では,母親の胎内に生を受けると同時 併科主義を採用しているため,保安処分と自由刑  に,身体障害者や精神障害者の子供を生む権利は が同時に言い渡たされた場合,刑の先執行を原則  侵害され,優性手術を強行され,保健所や福祉事 としており(第108条本文,但し裁判所の裁量に  務所はそれを誘導する。まさに「身障者や精神障 よって,この順序が変更される場合があり,運用  害者である場合は抹殺せよ」というような人間に 面での配慮は存している),いかなる角度からも  対する価値観と保安処分は同一地平に立っている

「治療」を主眼としているとはいい難い。そして  のである。ここでは社会的に有用な人間のみが再 何よりも「治療」が,今日精神医療における「医  生産され,それ以外のものは隔離され,抹殺され 療とはなにか」という観点から,外科的療法とし  るという文字通りの国家による人間の選別と管理

てこれ迄何度か実験がくり返えされたロボトミー  が完成される。    (4)について,反人権,反医療として鋭く反省がせま  保安処分に対しこれ迄論じられてきたものの多

られていることを想起しなければならない。何を  くが,仮案の中に存した労作処分や予防拘禁等を いわれてもニコニコしている人間をつくり上げる  「思想処分」として,ないしは草案がこれに道を

精神医療が,保安処分の治療の一つであるという  開き,実定的にも濫用の危険を余りに多く残した       (6)のであれば,治療という名の犯罪を国家が是認す  問題性を指摘する視点が,一つの重要なモメント

るものにほかならない。保安のために人間の中枢  であることは疑いがない。だがいま仮りに保安処 器官である脳を破壊することはどこから考えても  分が純粋に「医療」であったとしても,なお刑法

(8)

o   ●   ●   ●   ●

えの導入が肯旨されえないという視点もまた,閉  あり,「犯罪の成立を制限する」制限的原理であ 却してはならないモメントである。人間に対する  ると指摘されている。これに対し「積極的」責任

差別と隔雛の論理を刑法を媒介とした秩序意識と  主義は「悪行に対しては必ず刑罰が加えられなけ       (3)して定着させてはならないからである。     ればならない」のであり,犯罪の成立範囲を拡大

       ●  ■   ●  ●  ●

アのように考えてくれば,保安処分導入の基本  するものであって拡張的原理である。この両者を

的思想を否定する立場はもちろん,諸外国との比  隔てる指標は責任を道義的なものをして捉えるか       曳4隔

r法的見地から,今日何程かの必要性を強調する  否かにかかり,道義的責任を含める責任主義は,

立場に立ってみても,その要件や期間に濫用の余  絶対的応報刑論であって「責任あれば刑罰あり」

地の多い点,また刑法学者が信頼をよせている精  という考え方に到達する。かか強い責任追求はさ 神病学会の混乱や精神病院の荒廃等を考え合せれ  らに責任に応じた刑でもなお保安の目的が達せら ば,保安処分は明らかに〈差別〉の思想に基礎付  れない場合は「責庄の限度を越えて刑罰を加える けられた保安主義=社会防衛惜置であつて,陰湿  こと」になって,「責任なくとも刑罰あり」とい

な刑罰であるとみなさざるをえない。      う転倒した責任主義に転化する。こうした観点か      (5)

帥ヨ前掲説明書157頁      ら批判されるものに,既に述べた保安処分制度が

(2》前掲説明書160頁       存し,また「常習累犯に対する不定期刑」がある。

(3}風早八十二rr保安処分』のねらい」前衛・1966  草案が犯罪常習者という行為者類型を重視し,

年11月号59頁以下,山田良三「刑法改悪における不  現行刑法の常習賭博のほか,各則に傷害暴行,脅 定期刑と保安処分」同・45頁以下,石川元也「保安  迫,窃盗,強盗,詐欺,恐喝の諸罪についても常 処分・不定期刑」同1972年11月号125頁以下,高杉  習者の加重規定を設け,さらに常習累犯に対する 晋吾 差別構造の解体へ・208頁以下等。     不定期刑を導入した。しかもかかる規定は6月以

(4}精神医療編集委員会…編゜精神医i療・1973・3巻1号  上の懲役に処せられた異犯者が,さらに罪を犯し が詳しい。       異犯として有期の懲役で処断される場合において

(5)佐伯千偲・「改正刑法草案の問題点一少数意見の      その犯人が常習者と認められるときは,これを常 立場から一」ジュリスト前掲・4頂。       習累犯とすると規定し,犯罪による限定をなくし

(6)こうした観点からの論稿は多いが,比較的問題が

       およそ有期懲役に当る犯罪ならば,どんな犯罪に整理されていて参考になるのは吉川経夫「保安処分

       ついても不定期刑を言い渡すことが出来るとしてと人権」ジュリスト臨時増刊・73年11月25日号・特

集医療と人権,平野龍一・前掲「草案と責任主義」  いる。そして制度の趣旨について準備草案理由書 は「元来,不定期刑の制度は,一方においては,

(2)常習累犯における不定期刑        犯罪者に対する教育的方法として刑の効果を全か 草案の国家法益の偏重によって否定されている  うしめようとするものであり,他方においては,

個人法益の軽視の側面は,「責任主義」の中に端  社会保全のために犯罪者に対する社会からの隔離      (1)的に表白されている。平野教授の指摘によれば,  に遺憾がないようとするものである。少年法の規

責任主義には「消極的」責任主義と「積極的」  定する不定期刑は,その前者であり,準備草案の

責任主義とがあり,前者は「責任なければ刑罰な  規定する不定期刑は,常習犯人に科すぺきものと      (6)し」であり,後者は「責任あれば刑罰あり」であ  して,その後者に重点をおいたものである。」と

る。そして責任主義は元来「責任なければ刑罰な  述べている。だが前者についていえば,創出者の し」をいうのであって「それは,刑罰が効果を発  一人であり,不定期刑導入論者の正木亮氏が少年 揮できるような心理的要素,すなわち故意・過失 法の不定期刑の運営を歴史的に検討した結果,所

あるいはさらに責任能力,期待可能性などが具わ  期の目的が達成されないばかりか完全な失敗であ       (2)っていない行為は,行罰の対象とはしない」ので  ることを認め,草案の不定期刑について「希望を

(9)

中心とする少年不定期刑についてすら,その運用   優iれた理論的体系」であり,「国民的」かつ「時代 と実績とがあがらない今日,より困難なる常習犯   的」であると評価する。仮案に対するこうした批判 人に対して不定期刑を採用しようとすることに無   と評価は理論的には国家主義を基礎とした皇国史観 揩ェあるのではなかろう調と麟するをこ至って  刑法といわれる躰蟻へ瀬斜するのもまた燃 いるのである。そして後者についていえば常習犯    だったかも知れない。「刑法に於ける道義と政策」

人の刑の加重が,行為責任では足りず「応報」と   法律時報12巻7号・

「保安」との加重が存することを表現したものと  ㈲平野教授は保安処分に対し「責任主義」の観点か みることが出来,卒直に「社会防衛の思樹を隠   ら次のように批判する・「刑務所では,精神障害者

の十分な治療は期待できないから,先に刑を執行す そうとしない。       ると精神障害の悪化さえも招きかねない。それにも

現行法が「常習として」という行為類型として      かかわらず,まず刑を執行するのは, 『刑を免れ

の規定のしかたをしているのに対し・草案はこと   ることになるのは不当だ,という積極的責任主議の さら「常習者であるとき」として,人格そのもの   現われである。そして刑の執行終了後になお拘禁を を処罰の対象にしようとしている。こうした草案   続けるのは釈放しては,危険なので保安のため拘禁 の意図は,平野教授によれば「集合犯であれば,   を続けるということになるであろう。このような拘 数個の行為が一罪であるから,その一部について   禁は,実質的には刑罰的な内容をもつ。したがって 確定判決があれば他の部分に及ぶ。しかし,常習   どうしてもr責任なくとも刑罰あり』ということに 者という主体の行為だとすれば公務員という主体   ならざるをえないのである」

の数個の収賄行為が数罪であるのと同じように数  (6)改正刑法準備草案理由書133頁以下。  

罪であって,その一部に確定判決あっても,その   ω正木亮゜刑法と刑事政策・87頁以下。また同じく 強制力は他の部分に及ばないというのであぢ雪と   不定期刑の賛成論者といわれる小川太郎氏は「成人

       については改善的効果は期しがたく,ただ改善しないうことになる。       ければ出さぬという保安効果のみが魅力だ」と述ぺ

@かかる責任主義は刑が行為責任の限度を超えて       ている。「不定期刑」法務省編・刑法改正に関する はならないという原則に反し,結局常習犯人の不       意見集・108頁

定期は「責任なくとも刑罰あり」ということに帰      (8)かかる観点から論述したものとして,宮沢浩一・

着する。       「累犯」・研究(1)・262頁以下が説得的である。

註(1}平野龍一・前掲「草案と責任主義」「概説」     (9>平野龍一・前掲・「草案と責任主義」30頁

(2)平野龍一・前掲「概説」八頁

(3)平野龍一・前掲「概説」八頁

ω小野清一郎氏は,責任主義といわれるものは「道  4・今後えの展望

義的責任を可罰性の条件とする意味において一本の   刑法は公法でありながら,同時に市民生活の秩

ものである。消極的・積極的,二つの責任主義があ      序に直接介入出来るく法〉であるため,国家は刑

なかったが,しかし論理的反省に乏しき実際的考慮  の行為規範に対する支配の論理の分析は不可欠で は知らず識らず委員会をその影響の下に立たしめ  ある・特に戦前戦後を貫ぬく刑法改正事業の基本 た。其の結果刑法における道義的精神が著しく弛緩  的思想が一つの連続性の中で把握されなければな せしめられ」と嘆き,「刑法における道義の危機」  らないとしても・なお形骸化されたとはいえ戦後

「刑法そのものの危機」とさえいったことがある。  の〈平和と民主主義〉の政治状況下での刑法改正 しかし仮案の各則においては「大体において極めて  の思想を戦前の天皇制ファシズム下でのそれとを

(10)

全く同一視するわけにはいかない以上,「道徳や  民の分裂化しつつある規範意識に干渉し・統一一化 風紀」の公定化に秘むイデオロギー分析は,戦後  し,支配しようとしたことにほかならないといえ の刑法改正事業の特殊性を明らかにすることにも  る。そして多元的意識の形成と自律(自立)意識 なる。      の源泉である集団に対する徹底した不信と献対意

大衆社会的状況といわれる60年以降,高度成長  識は,内乱未遂や騒動予備,多衆罪,そして保安 政策と共に全国民的規模で変化しつつある意識状  処分や常習累犯に対する不定期刑の導入の中に端 況,つまり意識の多元化は,任意の自生的な文化  的に表白されている。しかも捜査当局を配慮した 芸術活動,多様な市民的組織の創生や運動の高揚  重罰化,保安処分や不定期刑導入に伴う,行政権 の過程での集団の自律(自立)意識の中で形成さ  の拡大と介入を「司法の独立」の危機として閉却 れたとみることが出来る。しかもこうした自律的  できない。まさに刑法改正を急ぐ国家権力の危機 内部規範は,同時に国民の日常的行為規範えと拡  意識の一つが以上のようなものとして存している 大転化してゆくと,逆に既成ないしは国家の規範  とみることが出来る。

意識や秩序意識を批判し,そのための具体的行動

を醸成する。ここではもはや国家が国民の意識を    本稿は・草案の倫理主義的観点からの考察を後日

      に期し,国家主義・保安主義の側面からの分析にと統一的に支配し掌握することは至難となる。

      どめた。そのため戦前の刑法改正作業である仮案と この意味で草案の特徴の一つである,わいせつ,      の連続性を強調する視点に終始した。草案の国家主性的犯罪や堕胎,そして自動車等の不正使用,自      義・保安主義の側面が,倫理主義的側面と統一的に

ョ設備の不正使用や無賃乗車に至る重罰規定は      把握される時,仮案との連続と不連続=草案の今日

「決して社会の発展に伴って生じた新しい類型の       的特殊性が明らかにされるはずであるが,それは

違法行為に対して必要な処罰を新設」したのでは   く今後えの展望〉として拙稿を閉じる。

なく,道徳や風紀を公定化することを通して,国

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