幼児教育プロジェクト 研究報告その2 幼稚園教 育要領・保育所保育指針の改訂と実践展開の試み
−「自然体験」と「子ども相互の関わり」の創出を 中心に−
著者 瓜生 淑子, 上野 ひろ美, 森本 弘一, 小林 静香
雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要
巻 9
ページ 141‑161
発行年 2000‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10105/4185
幼稚園教育要領・保育所保育指針の改訂と実践展開の書式み
一「自然体験」と「子ども相互の関わり」の創出を中心に−
瓜生 淑子・上野ひろ美
(奈良教育大学幼児教育教室)
森本 弘一
(奈良教育大学理科教育教室)
小林 静香
(大阪市立玉出幼稚園)
YoshikoURIU,HiromiUENO
(DepartmentofEarlyChildhoodEducation,NaraUniversityofEducation)
KoichiMORIMOTO
(DepartmentofScienceEducation,NaraUniversityofEducation)
ShizukaKOBAYASHI
(TamadeKindergarten,OsakaCity)
要旨:1998年12月の幼稚園教育要領改訂に続き、1999年10月には保育所保育指針が改訂された。
本稿では、時代の変化の中で、乳幼児期の子どもたちの育ちに幼稚園とともに一層役割を期待さ れるようになってきた保育所の保育指針改訂について紹介しつつ、幼稚園・保育園に、社会的子 育ての機関として、今後さらに求められる課題について検討した。1.のはじめに続いて、2.で は保育所保育指針の改訂の概要紹介とそれへのコメントを述べた。3.では、保育活動において 子どもたちの自然体験の成立を企図する「原体験ワークシート」導入の有効性を公立幼稚園にお いて検討した実践研究を報告した。4.では、3歳児のA男が初めての集団生活の中で友だちと の関わりに気づき、人間関係を広げていく一年間の保育を、保育者のその時々の援助のあり方や 役割を中心に検討しまとめた実践を報告した。5.では、前章までを受けて、保育内容編成や保 育活動の中での保育者の役割について、保幼小接続の視点を重視しつつ、考察を加えた。
キー・ワード:保育所保育指針改訂、原体験、保育者の役割 1.はじめに
今日、子どもを取り巻く社会の急激な変化を背景に、子育てや教育に関わる提言や改革が矢継 ぎ早に提案されてきている。昨年度のプロジェクトでは、幼稚園教育要領の改訂や諸提言などに 一定の分析と評価を加えたが(上野・瓜生・比留間、1999)1)、本年度のプロジェクトでは、ま ず、新たに改訂された保育所保育指針を紹介する(2.保育所保育指針の改訂をめぐって:瓜生)。
続いて、2つの実践的研究を報告する(3.原体験ワークシートの実施:森本、4.子ども相互
のかかわりを築くための保育者の援助:小林)。自然体験、及び、人との関わりは、改訂教育要 領及び改訂保育指針の「目標」でも取り上げられているように、今日の子どもにとって、とりわ け配慮されるべき重要な課題となっている。この2つの報告について、5.(「体験」と「関わり」
を成立させる保育活動一保幼小接続の視点−:上野)で、保育者の役割を中心に考察を加えた。
保育者の役割については、改訂教育要領及び改訂保育指針で、単に「子ども理解」にとどまらな い保育者の様々な役割の大切さが改めて留意事項として書き込まれたことにも示されるように、
一層、実践に即した検討が求められている。
2.保育所保育指針の改訂をめぐって
一昨年、小・中の学習指導要領とともに幼稚園教育要領が改訂2)され、2000年には完全実施が 予定されている。その前の幼稚園教育要領改訂3)は1989年であるが、前々回の改訂が1964年であっ たことを考えれば、極めて短期間の改訂であった。この幼稚園教育要領改訂に加えて、今回保育 所保育指針(以下、改訂指針と略)の改訂作業が一昨年10月から進められ、中央児童福祉審議会 保育部会が昨年10月19日に厚生大臣に提出した意見具申4)に基づいて、保育所保育指針が改訂、
通知された5)。2000年4月からの施行となる。今回の改訂は、基本的には一昨年の幼稚園教育要 領の改訂に連動している。記述体裁も現行保育指針(1990)6)にはぼ対応したものとなっており、
全体として、現行指針の記述内容にさらに詳しく書き込んだ構成となっている。しかし、特徴的 なのは、「保育士の姿勢と関わりの視点」という項目の設定や、守秘義務の徹底等の記述、地域 活動までも視野に入れた多様な役割を担いうる保育者への期待とともにそのための研修の必要性 が明記されていることから、保育者の一層の専門性確立がめざされていることである。
2.では、改訂の概要について紹介し(2.1)、若干のコメントを述べる(2.2)。
2.1.改訂の概要
「保育所保育指針の改訂の概要」(10月19日)で7点にわたってまとめられていることにそっ て、まず改訂の概要について紹介する。
2.1.1.児童福祉法改正への対応
少子化対策として、90年代に入って示された「エンゼルプラン」(1994)7)、それに基づいた
「緊急保育対策等5か年保育事業」(1994)8)で、延長保育、地域子育て支援センター事業等の特 別保育事業が具体化されてきた。その後改正された『児童福祉法』(1997・4)には、地域の住 民へ保育に関する情報の提供や相談を行うよう努力することが書き加えられた(第48条の2)。
それらが改訂指針にも「入所児童の多様な保育ニーズへの対応」(第13章)として盛り込まれた。
(なお、本年3月で期限終了となる「5か年保育事業」は、3歳児未満児の収容枠など目標未達 成のものも含めて、さらに5ヶ年の「新エンゼルプラン」として新たに4月から実施されること になっている。)
2.1.2.保育士の保育姿勢についての記述
保護者や子どものプライバシーの保護のための守秘義務の徹底、体罰等の禁止など、従来踏み
込んで記述されてこなかった、職務上の特殊性に関わる配慮について、人権尊重の立場から明文
化されている。総則に「乳幼児の最善の利益を考慮し」とうたわれたことともあわせて、『子ど もの権利条約』(1989)9)の国内批准(1994)の影響も見て取れる。
2.1.3.家庭や地域社会・専門機関等との連携・協力
2.1.1で述べたように、保育所には、「地域に開かれた」「地域において最も身近な」児童保育 施設として、単に入所している子どもだけでなく、地域の乳幼児や親を対象とした様々な支援活 動が期待されている。その際、関連諸機関との連携・協力について一層細かく記述されており、
専門機関を必要に応じて紹介・斡旋することなど、子育て支援の「窓口」的機能をも求められて いる(13章)。
2.1.4.「保育士の姿勢と関わりの視点」を設定
前回の改定以来、一人一人を受けとめるという受容が強調されてきたが、新たに「保育士の姿 勢と関わりの視点」という項目が各年齢ごとに記述され(3章〜10章)、一層、具体化されてい る。なお、1999年4月より、保母・保父という名称が消えたことを受け、一括して「保育士」と 記述されるようになった。
他方、留意事項として「子どもの主体的な活動を促すためには、保育士が多様な関わりを持っ ことが重要であることを踏まえ、子どもの情緒の安定や発達に豊かな体験が得られるように援助 を行うこと」(第11章2の5)とある。改訂幼稚園教育要領で、「子ども理解」にとどまらない教 師の「様々な役割」について新しく書き込まれたことと対応している。
2.1.5.細かな配慮事項の記述
前回の指針から、乳児期が、6ケ月未満児及び6ケ月から1歳3ケ月未満児にわけて記述がさ れるようになったが、今回とくに6ケ月未満児にたいする配慮事項が細かく書き込まれているの が目立っ。特に、6ケ月未満児に対する関わりの視点として、従来から保育の現場ではその重要 性が指摘されてきていたことが、「特定の保育士の愛情深い関わりが、基本的な信頼関係の形成 が重要であることを認識して、担当制を取り入れるなど」工夫して当たると加えられた。
医学的な研究成果についても書き込まれている。例えば、乳幼児突然死症候群(SIDS)への 予防として、仰向けに寝かせる(即ち、うつ伏せにしない)ことなど(3章5)細かな配慮事項 が書き込まれている。保育室での禁煙を職員・保護者に禁じたのも、喫煙がSIDSの一要因との 研究結果を受けたものである。また、安易な食事制限や除去食の提供を戒めつつ、保護者との対 応を一致させるよう配慮が述べられ、さらに、離乳のめやすの時期が、「離乳の基本」(厚生省:
1995年改訂)にそって「ほぼ1歳から1歳3か月を目安に、遅くとも1歳6か月までに」(現行 では1歳頃まで)と遅くなっているのは、アトピー性皮膚炎対策である。
2.1.6.新たな章「保育所における子育て支援及び職員の研修など」の設定
幼稚園教諭と違って明確化されていなかった保育者の研修について、標記の新たな章(13章)
で、その専門性の確保が求められることが明文化された。これは、一方で次代を担う子どもたち
を保育するという仕事の大切さへの認識が社会的にも高まり、その専門性が一層求められてきて
いることに対応したものである。他方、今後の保育所に期待されている多様なニーズやサービス
に臨機応変に応えるべく、行政が新しい保育者像を求めていることをも反映している。また、
「自己評価」を「主体的、かつ定期的に実施する」ことが新たに求められている(13章3)。
2.1.7.保育内容5領域を維持
保育内容は、前回に引き続き5領域に分けられている。「言葉」領域では、6歳児が「文字や 記号などに興味や関心を持ち、それを使おうとする」と述べられている。これは、現幼稚園教育 要領にある「文字に関する指導は小学校から行われるものであるので、幼稚園においては直接取 り上げて指導するのではなく」「無理なく養われるようにすること」という早期教育への戒めが、
改訂幼稚園教育要領では削除されたこととの整合性を図って記述されたものである。
また、総則で、「生きる喜びと困難な状況への対処する力を育てることを基本と」すると述べ られている。これも、自己責任を強調する、いわゆる「生きる力」の教育が幼少期から基本とさ れた改訂幼稚園教育要領の記述に連動している。
2.2.改訂及びその背景についてのコメント
2,2.1.変わらぬ「保育に欠ける」子どもを対象とするという立場
昨年、厚生省は『平成10年版 厚生自書』10)で初めて「三歳児神話」批判をした。同年の、い わゆる「心の教育」を説いた中教審答申でも、従来からの共働き批判は影を潜めた。長年、集団 保育、特に低年齢児のそれを必要悪とする考え方が強かったことを思えば、時代の変化を感じさ せる新しい論調といえる。
しかし、少子化や家庭・地域の変容の中で、全ての子どもに大切な乳幼児期をどこでどう保障 していくのかという社会的課題、その具体的課題の一つの柱である、いわゆる「幼保一元化」の 課題をどうするのかという問題は今回の改訂でも触れられず、「保育所は・・・保育に欠ける乳 幼児を保育する児童福祉施設である。」(冒頭)と従来からの文言をそのまま踏襲している。
現実には、厚生省・文部省が共同で、幼稚園・保育所の垣根を低くするような規制緩和を提案・
実施してきており(「文部省・厚生省共同行動計画」1998・6)、例えば、保育時間一つを見ても、
幼稚園の保育所化が進んでいる。さらに、大都市での待機児童対策であるとして、社会福祉法人 の資格をもたないもの、つまり一般企業などでも保育園の営業を可能にすべく設置主体制限の撤 廃が本年4月実施に向けて具体的に検討されている(政府の「産業構造転換・雇用対策本部にお ける規制等における決定」1999・7・13)。こうした規制緩和を受け、保育所の形態が「保育マ マも含め複線化あるいは多様化していくという流れの中にある」(全国少子化対策主管課長会議 での厚生省家庭児童局長発言:1999・7・22)ことが、果たしてすべての子どもに豊かな子ども 期を保障するという精神の上に立ってのことなのか、それとも女性を含む労働力確保と産業構造 転換という産業界の発想が強く出たものになるのか、危惧されるところである。
2.2.2.親との連携の問題
改訂指針では、親との連携や協力、保護者の意向の考慮などの表現が多くなされている。
総則等において『子どもの権利条約』の影響が見られることは1.1.2でも述べたが、「子どもの
人権に十分配慮する」ことや、体罰の禁止、さらには「性別による固定的な性役割分業意識を植
え付けることのないように配慮すること」などが書き込まれているように、1つには子どもの権
利という視点が盛り込まれている。他方、様々な願いを持った親の委託を受けて行う「社会的子
育て」への明確なルールづくりが、新しい時代を切り開く新たな課題であり、それへの具体化が
始まったことが見てとれる。
ところで、最近の育児雑誌などの傾向として、「母性神話」だけを一面的に説く風潮が減った 反面、子どもがかわいく思えず苛立っている母親の声に対して「誰でもそんなときはあるよ。気 にしない。」と、母親世代の末熱さに安易に迎合するような風潮があることが指摘され始めた
(大日向雅美、1999など)。子育て支援という場合、 今どきママ′′や ヤン・ママ′′ に盛りだく さんのサービスを提供し、心置きなく子どもを産んでその後は自己実現に励みなさいというだけ で十分なのだろうか、それだけで大人としての、親としての成長はどうなんだろうかという問題 提起が、最近、子どもや母親と関わってきた専門家から聞かれるようになってきた。いわゆる親 世代への「過保護」をめぐる議論はかつてからあったが、今日的社会状況一高度経済成長期の消 費礼賛の風潮と少子化進行の中で育ってきた親の成長過程そのものの変化、他方で保育所等の規 制緩和と競争化の進行−において、再度議論が求められていよう。
2.2.3.学級崩壊との関連について
尾木直樹(1999)11)は、学級崩壊の問題を述べる中で、新幼稚園教育要領下で育った子らが小 学校へ入学してくる頃から子どもが変わったと述べた。その後、「悪いのは幼稚園、保育園だ。」
という論調がマスコミなどにも広がっている。確かに、今回の幼稚園教育要領改訂に向けた基本 方針が示された報告書一時代の変化に対応した今後の幼稚園教育の在り方に関する調査研究協者 会議の最終報告(1997・11)一に、遊びを中心とした教育の実践にあたって、「一部に幼児が自 由に」遊ぶのに任せればいいといった誤解があり、幼児の精神的な拠り所やモデルとしての役割 など教師の役割の基本を明らかにすることが必要」であると述べられたことが示唆しているよう に、10年前の改訂以降、早期教育や教え込み批判ともいうべき問題意識を背景に、自由保育が一 面的に強調された風潮があったことも否定できない。しかし、今日の低学年からの 学級崩壊′′
をすべてこのことだけに起因するには無理がある。むしろ、受け止める小学校の側が今日の子ど もの変化(必ずしも悪いことだけではない)に柔軟に対応し切れていないことからくる問題の一 つではないだろうか。特に、低学年の変化をどう受け止めていくかについては、幼小接続という 視点から、幼保小の関係者の議論が可能になる行政的手だてが急務になっているだろう。
現実の保育では、一斉保育的な時間も自由保育的な時間も一日の生活の流れの中で組み合わさっ て展開している。一斉保育がよいのか、自由保育がよいのかという二者択一的な選択に大揺れす る議論は生産的ではない。子どもと保育者の多様な関係を保育の流れに即して問いっつ、その中 で、どのような保育計画と指導計画が組まれ、それに照らして保育実践はどうだったのか、そし て、そこで一人一人が発達的課題の達成と精神的充実がなされているのかという、縦糸と横糸と の視点からの評価がなされているかどうかが、問われていくべきではなかろうか。
改訂指針では、「保育の計画作成上の留意事項」(13章)が現行指針よりもさらに細かく書き込 まれているが、現場の創意工夫を前提に、柔軟な保育計画と指導計画及びその評価が、保護者の 声も反映させつつ取り組まれていくことが期待される。 (瓜生淑子)
3.原体験ワークシートの実施
3.1.原体験ワークシートの実施にあたって
原体験とは、「生物や他の自然物、あるいはそれらによって醸成される自然現象を触覚・嘆覚・
味覚を伴う視覚・聴覚の5官(感)で知覚したことで、その後の事象の認識に影響を及ぼす体験」
と定義されている12)。文部省の生涯学習審議会の中間まとめ「生活体験・自然体験が日本の子ど もの心をはぐくむ」13)では、小学校2・4・6年生及び中学校2年生合計約1万1千人等を対象 としたアンケートの結果、「自然体験が豊富な子どもほど、道徳観・正義感が充実」している傾 向が見られたと報告されている。
このように、原体験は、幼稚園保育において実施されることが望ましいと考えられ、森本らは 保育者用の原体験ワークシートを60枚作成した14)。そして、その有効性を、奈良教育大学附属幼 稚園において検証した14)。本研究は、この原体験ワークシートが公立の幼稚園でも実施可能であ
り、かつ有効であるかどうかを検証したものである。
3.2.実施内容
3.2.1.実施園と時期
1999年2月26日 奈良市立飛鳥幼稚園 年長22人 1999年6月16,17日 奈良市立済美幼稚園 年長25人 1999年11月17日 奈良市立佐保幼稚園 年長28人
3.2.2.実施したワークシート
○飛鳥幼稚園…「においあて」「草花あそび」「ミカン花火」
「においあて」は、フィルムケースの中に、レモン、タマネギ、月桂樹の葉を入れて、匂いを 嗅ぎ、中身を当てるものである。「草花あそび」は、松の葉甲すもうとェノコログサで遊ぶもの、
ヤエムグラを服につけて遊ぶものである。「ミカン花火」は、ろうそくの火にミカンの皮の汁を 飛ばして、火が大きくなる様子を見るものである。いずれも4、5人単位のグループに分かれて 実施した。
○済美幼稚園…「カタツムリ」「ダンゴムシ」「草花遊び」「砂絵遊び」
「カタツムリ」は、棒に這わせたり、アクリル板に乗せたりして動く様子を見るものである。
「ダンゴムシ」は、触ったり、迷路を行かせたりして遊ぶものである。「草花遊び」は、ハギの葉 の笛と、ユリノキの葉のお面とアジサイの菜のぞうりつくりであった。「砂絵遊び」は、紙の上 に糊で絵を描いてそこに、砂を振りかけて絵を措くものである。始めに遊びの紹介をして、子供 達が自分で4つのワークシートのコーナーの好きなところに行くようにした。
○佐保幼稚園…「ムクロジの実のシャボン玉」「タラヨウ」「落ち葉をあつめる」「ドングリ」
「ムクロジの実のシャボン玉」は、ムクロジの実を湯につけて、シャボン玉をっくるものであ る。「タラヨウ」は、タラヨウの葉に割り箸の先をとがらせたもので傷をつけて好きな文字など を書くものである。「落ち葉をあっめる」は、幾つかの落ち葉の中から同じ落ち葉を選んで合わ せることと、落ち葉などを使った人形つくりである。用意した糞は、ナンキンハゼ、ユリノキ、
サクラ、イチョウ、モミジであった。「ドングリ」は、ドングリの中をくりぬいたドングリ笛、
ドングリに爪楊枝を刺したドングリごま、ドングリに穴をあけてモールをとおしたドングリの飾
りを作ることである。「落ち葉をあっめる」は、一斉に行い、残りのワークシートの活動は、コー
ナーを設けて、子供達が好きなところに行くようにした。ワークシートの例として、図1に「に
おいあて」のワークシートを示している。
なんだろう?このにおい…
フィルムケースの中身を当ててみましょう。
〜遊び方〜 (例)
①
江口互日石
1 2 3
中が見えないように画用紙を はったフィルムケースに、細 かく刻んだものを入れる。
ふたは、画用紙にたくさん穴 をあけたものを使う。
左の表を子どもにわたす。
レモン・月桂樹・タマネギ の絵を用意しておき、1番の フィルムケースの中身がレモ ンだと思ったらレモンの絵を はるようにする。
なるべく新鮮なものを使うほうが、分かりやすいでしょう。
「においあて」をする前に、実物を見せ、半分に切ったもの で十分においをかいでもらうようにしたらよいでしょう。
勿\「 図けクシ_トにおいあて 「ノ㊨
3.3.実施結果と考察
3.3.1.飛鳥幼稚園
「においあて」の活動では、はじめにレモンやたまねぎ、月桂樹を見せた。子供にとってレモ ンやタマネギは、身近なもののようであり、「どんなにおい?」「食べたことある?」「何に入っ ていた?」という質問に対して多くの反応が見られた。それに対して、月桂樹のにおいは、くさ い、こしょうみたい、へんなにおいなどマイナスイメージを持った子が多かったようだ。フィル ムケースに入れたあとの反応では、タマネギとレモンは分かりやすかったようだが、月桂樹のに おいは分かりにくかったようだ。においよりも、フィルムケースを振り、カサカサした音で判断 しているようであった。「においあて」では、嗅覚だけでなく味覚も伴う活動となった。この活 動は、日常の保育の中で1つの活動として取り上げるよりも、お泊まり会など園の行事のなかで 子供が料理を作る機会をっくり、包丁を使わせながら「どんなにおいする?」など聞き、におい に興味をもたせる方が子供にとってより親しみやすいものになると思われる。
「草花あそび」の松の葉のすもうは、やったことがある子が多く、かなり興味を示していた。
また、一本を折り曲げて「一本同士でも勝負できる。」と気付いてやっている子がいたし、強く するために、セロテープをつけている子も見られた。「チクチクして痛い」「なんかベトベトする」
と触感を楽しんでいる子もいた。この他には、一本を丸めて指輪にして遊んでいる子もいた。
「これをつなげたらネックレスにもなるんだよ」といろいろ工夫して遊んでいた。エノコログサ は、遊び方がよく分からずいろいろと考えてやっていたが、手で握ると、生き物のように動くよ うに見えることを発見して喜んでいた。ヤ工ムグラは、草が服にくっつくのが不思議だったのか、
「すごい」と驚いていた。初めは、自分のからだにくっっけているだけだったが、友達や先生に くっっけて遊ぶ姿も見られた。「松の菓」「エノコログサ」「ヤエムグラ」は、身近に生えている 草花であり、日常の保育で十分取り入れられる活動である。また、非常に発展性のある遊びなの で、なるべく草花がたくさんある外で行うようにすればより楽しめるだろう。
「ミカン花火」は、火を慎重に取り扱っていたが、必要以上に怖がっている子はいなかった。
力が足りなくて,汁を飛ばすのが難しい子もいた。この活動は、においや、パチパチという音や、
汁が手にいっぱいっく感じなど様々な楽しみ方ができて良かったと思う。一回できたら、何回も やりたいと子供達はとても興味を示していた。「ミカン花火」は、保育者が一人だと目が行き届 かなくて危険なので、夏の夜に花火をし、その際にこの活動も取り入れるなど行事の中で取り入 れていく方がいいと考えられる。
全体的に、子供は、教えられた遊び以外にも、「こんなこともできそうだよ」「こうやったらど うなるかな?」といろいろと自ら試していたのを見ると、今回の活動が、自然に親しむきっかけ になっていると思われた。また、やり方が分かっている子が分からない子に教えていたり、他の 子と対戦したがったりすることで、子供同士の関わり合いも多く見られた。ゲーム性のあるもの
は盛り上がっているが、そうでないもののときは盛り上がらない傾向が見られた。
3.3、2.済美幼稚園
「カタツムリ」では、カタツムリのヌルヌル感に興味を持って、「何これ?」などと言ってい
た。中にはティッシュを出して、手についたヌルヌルを拭き取っている子もいた。殻が乾いてい
るのを見ると、「かわいそう」「お水が好きやねんで−」と言って、霧吹きで水をかける姿が見ら
れた。わりばLで囲いを作って、カタツムリを閉じ込めたり、わりばLを2段重ねにして乗り越 えさせようとする様子が見られた。また、腕に乗せて、「お散歩」といってうろうろしている子 や、肩まで上らせようとする子もいた。アクリル板の上にカタツムリをのせて下から覗き「ロが ある」「ナメクジみたい」と言っていた。全体的に嫌がる子は少なかった。「カタツムリ」は、梅 雨時期に保育室で飼育し、子供が十分に楽しめるように、保育者が促していくとよい活動になる と恩われる。
「ダンゴムシ」の活動では、自分のダンゴムシを決めて迷路で競争していたが、早くゴールに 行かせたくて手で動かしたり押したりしていた。偶然、ダンゴムシの産卵があり、子供達が集まっ て黙って眺めていた。雌のお腹の黄色いところに子供がいるということを知っている子が何人か いた。その他には、立てたわりばLに近づけてどのように動くか、たくさんわりばLに乗せたら どうなるか、などいろいろ試していた。「ダンゴムシ」は、子供にとって身近な存在なので、飼 育せず日常の保育の中で、自然と触れ合うにした方がよいと考えられる。「カタツムリ」と「ダ
ンゴムシ」は、とても子供達に人気のある活動であった。
「草花遊び」の中のハギの笛では、笛に興味をもち、やりたいと言ってくる子がいた。また、
葉の口への当て方を言ってやると、できる子が多かった。なかなかコツを掴めない子も、葉を替 えながら何度も挑戦していた。1度昔が鳴ったら、すごくうれしそうに何度もやっていた。「葉っ ぱによって違う音がなる」と葉の大きさと音との関係を考えている子もいた。「フジの葉でも鳴 るよ」と言っている子もいた。ユリノキの葉のお面を作る活動では、どこをどう切ったらよいか わからない子がほとんどだったが、1つ保育者といっしょに作ると、次からは自分で作れるよう になっていた。はさみを使うのが難しかったようで、手でちぎっている子もいた。「おぼけだぞ−」
と言いながら他のコーナーの子に見せにいったりしていた。アジサイの草履を作る活動では、は さみでどこまで切るかが難しかったようである。また、菜がやわらかいので、切っている途中に 手で破いてしまう子も多かった。はだしになってアジサイの草履をはいて歩いている子が1人い た。両手にはめて歩いているふりをしている子もいた。このコーナーだけならば、子供達は十分 に楽しんでくれるものと恩われるが、他のコーナーの魅力には勝てなかったようで、期待してい たほど子供達は集まらなかった。しかし、様々な身近な植物を使って行える活動なので、幼児の 興味・発達段階(今回のようにハサミを使った活動など)に応じて、季節を考慮しながら行えば 楽しむことができると考えられる。
「砂絵遊び」の活動では、花の絵が多かったが、マンガのピカチュウなどペンの色を変えてカ ラフルに描いていた。砂がしっかりついた方が良いと恩っているらしく、砂をしっかりつけよう と努力していた。何枚も挑戦する子がほとんどだった。「砂絵遊び」は、予想以上の人気があり 驚いた。砂の感触を楽しむ活動としては物足りないが、砂を使った遊びとして、保育の中で紹介 するには良い活動ではないかと思われる。
3.3.3.佐保幼稚園
「落ち葉遊び」の活動では、ユリノ与の葉以外は、知っている子がほとんどであった。ナンキ
ンハゼの名前を知っているのは驚いた。サクラの葉を見て、「ギザギザがある」と、細かい部分
まで観察する姿も見られた。また、葉っぱを集めて、「たき火みたい」と言う子もいた。ユリノ
キの葉を服に見たてて、作っている子もいた。葉の特徴をしっかりつかんでいるのである。ユリ
ノキの歯は、葉のくぼんだ部分がはんてん(半纏)の形に似ているのでハンテンボクとも言われ
ている。落ち葉を使った人形作りでは、どんぐりと落ち葉を上手に組み合わせて、動物の顔(ね こ・うさぎなど)を作っている子が多かった。この他には、タラヨウに2つ穴を空け、どんぐり をつけて車を作ったり、何枚も葉をっなげてドレスにするなどといった姿が見られ、子供達の創 造力には驚かされた。「落ち葉遊び」では、子供達が普段から自然物に親しんでいることが窺わ れた。子供が身近に感じることができる葉を使うと、より楽しい活動となると思われる。
「ムクロジの実のシャボン玉」の活動では、シャボン玉は石鹸からというイメージが強かった のか、ムクロジの実からシャボン玉ができることに驚いていた。新しいムクロジの実を入手する ことが出来ず、ブクブク遊びをするのが精一杯でシャボン玉はできなかったが、すごく興味を示 しており、あきらめずに何度も挑戦していた。新しいムクロジの実が入手できれば、もっと活動 が広がりを見せたものと推察される。
「タラヨウ」の活動では、字の書ける葉っぱがあることを知っている子が1,2人いた。そし て、色が出るのが待てなくて、何回も同じところに書いて葉っぱを破ってしまう子がいた。その 他には、妻っぱの表にも書いてみて、裏しか書けないことを発見していた。葉の数が少なかった ので、遊び足りなかったようだ。「ムクロジのシャボン玉」や「タラヨウ」は、子供達が十分満 足して遊べるだけの数を揃えるのが難しいが、普段から保育者が樹木の場所などを調べておくと よいと思われる。
「ドングリ」の中のドングリ笛を吹く場面では、鳴らせずにつぶしてしまう子もいたが、上手 に鳴らせると、「自分で作りたい」と言う子が何人かいた。また、大きさによって音が違うとい うことに気付いている子がいた。これも、十分な数を用意できなかったのが残念である。ドング リごまを回す場面では、「自分で作りたい」と言う子がほとんどであり、自分で作ったこまが回っ たらすごく嬉しそうであった。物が動く活動はとても子供の興味を惹くものと見えて、何回も挑 戦して、一番良く回る回し方を考えている子が多かった。ドングリのモール通しでは、「お母さ
んに作ってあげるねん」といいながら一生懸命作っている男の子がいた。全体的に、女の子の方 が興味をもったようで、何個も作っている子が多かった。この他には、大きいドングリや小さな
ドングリを組み合わせて、自分なりに工夫して作ったりしていた。作ったあとは、手にはめたり 指輪にしたりして遊んでいる姿が見られた。「ドングリ」は、秋の代表的な自然物であり、手に 入りやすいこともあり、ほとんどの幼稚園で保育に取り入れている。ドングリ遊びを充分楽しみ、
ドングリをおもちゃとして見る傾向が強くなってきた頃に今回のような保育を行うと、ドングリ に今までとは違った魅力を感じることができるのではないかと考える。
以上のような子供の様子から、今回の原体験の活動は、何らかの形ですべて保育に取り入れる ことができると考える。 (森本弘一)
4.子ども相互のかかわりを築くための保育者の援助
現代社会において、物があふれ、情報が氾濫する一方で、少子化、核家族化など子どもたちを 取り巻く環境は、人とのかかわりが薄くなる状況にある。幼稚園においても、入園当初の子ども
たちを見ていると、まずは自分の思いを満足させて楽しみ、思い通りにならないと、パニックに
なったり、言葉よりも先に手や足が出てしまうなど、友達の思いに気づきにくい様子がよく見ら
れる。また、環境の変化に戸惑い、どのように遊べばよいか、友達とどうかかわればよいかが分
からずにいる子どももいる。
そのような中で、子どもたちにとって初めての集団生活の場である幼稚園において、子どもた ちが友達とのかかわりに気づき、その力を育むために保育者がどのようにかかわり援助していけ ばよいか、A男についての一年間の実践をもとに考えたい。
A男のプロフィール
・3歳児で入園。8月生まれ。父、母、本人の3人家族。
・思い通りにならないと物をばらまいたり、奇声をあげたり、手足が出たり、周りの人をかん だりする。(両親にはしない)
・両親は、自分たちの思いを優先してA男に接している面があり、A男が恩いを言糞や身体で 表現する前に制止したり、特に父親は、本人の思いを聞かずに手をあげたり、蹴ったり、子
どもには理解しにくい言葉で怒鳴ったりする。母親は、自分の思いとは違うA男の様子に戸 惑い、「この子は私を必要としていない」ともらし、子どもの育ちを受け入れる余裕がなく、
子育てに悩んでいるようである。
4.1∴遊びのなかで、かかわりに気づく 4.1.1.自ら楽しみ、満足する経験
4月(3歳8カ月)
A男と保育者でダックローラー(バスケットボールくらいの大きさの球の中心に棒が通ってい て、その棒を両手で持って、押し転がすもの)を使って遊ぶ。「うわ−、すごい」「あれー?おっ
とっと」など一人で呟きながら進んでいく。まっすぐ進もうとしてもうまく進めず、曲がってし まうが、その変化にも喜んでいる。何回も遊戯室を往復し、顔は真剣で集中している。
入園当初は、どの子どもも新しい環境に対する期待と不安をもっている。母親と離れにくく、
泣いたり、保育者の側をっいて歩いたりする姿が多く見られる。保育者といることで安定して遊 ぶことができるようだ。
A男は入園当初から、幼稚園には喜んで登園してきた。保護者ともなんなく離れた。家では見 たことのないいろいろなおもちゃを好きに使える環境、走り回れる広い部屋など気持ちを開放で きる場であったのだろう。特に動いたり、変化のあるものや遊びへの興味が強く、一人でそのお もしろさを身体を動かしたり声をあげたりして表現していた。このときも、思い通りに動かなく ても何度も繰り返し、遊びが続いた。
反面、人間関係に関しては、家とは違い、自分の他に同じものを欲しがる友達の存在などで、
思い通りにならないことも多く、その度に、本人もパニックになったり、トラブルになることが 続いた。
4.1.2.保育者と思いを共感する経験 5月(3歳9カ月)
続いて、ダックローラーで遊んでいる。保育者が見に行くと、その手を引っ張る。
「どうしたの?」
「一緒(に)する!」
保育者が横に並んで進むと、それを横目で見ながら、笑っている。保育者が遅れると後ろを気に するように振り返る。
昨日の楽しかった思いが、遊びを継続させている。また、同様に保育者とも一緒にしたいとい う思いも継続している。それが、保育者の手を引っ張るという行動になったのだろう。満足して 遊び、その楽しさを共感し合えたという充実感が、その相手を再び必要とする気持ちや行動になっ ている。その気持ちに答え、共に楽しむという経験を繰り返すうちに、相手を気にしながら遊ぶ という今までにない様子も見られるようになった。
4.1.3.友達の存在を意識する 6月(4歳10カ月)
B男と保育者がダックローラーをしているところへA男がやって来る。
A男:(何も言わずにB男のダックローラーを取り上げようとする)
B男:(離さない)
保育者:「Aくんもしたいよね」
B男:「 貸して〝言わなあかんで」
保育者:「あ、そうか。貸してって言ってみようか」
A男:(保育者の方を見て)「貸して」
保育者:「Bくんに言ってごらん」
A男:「貸して」
B男:「うーん、いや」
A男:「・・・」
B男:「じゃあ、交代しよ」
A男:(たどたどしく押しながら進んでいく。保育者はスピードを合わせ一緒に進む)
B男:(ずっと待っている)
自分が好きな遊びを保育者が別の子どもとしている様子は、A男にとって衝撃的だったのだろ う。B男が持っているものを取り上げようとしているその行為の中の思いを、まずは保育者が受 け止めて他見にわかりやすく伝えることでA男の気持ちが落ち着いた。自分の思いを言葉で伝え ることが少ないA男にとって媒介者としての保育者の役割は大きい。他児にA男の思いに気づか せA男自身にも、自分の思いが伝わったという心地よい経験を積み重ねていけるような援助が必 要である。そこから、相手がリードし、遊びが続いていくこともある。
また、友達と遊ぶ上での、「貸して」「寄せて」といった簡単なやりとりを知らせることでA男 もかかわりのきっかけをつかむことができたのではないだろうか。
4.1.4.友達と思いを共感する経験 6月(4歳10カ月)
4.1.3.の統き
保育者:(B男と交代する)
B男:(すいすいと進んでいく)
A男:(慌ててついていこうとするがうまく進まない)
B男:(後ろを振り返りながら途中で止まり、A男が来るのを待って一緒に進む)
A男:(ふらふらしながらもB男に追いっくと一度止まり、また笑顔で進んでいく)
B男:(微笑み返す)
保育者の他に、自分の好きな遊びを同じように楽しいと思っているB男の存在のうれしさ、ま た、活発に遊びを楽しめるB男と一緒にいるおもしろさで、A男は、B男を受け入れている。B 男も、満足しているので自分からA男を待ってやろうという優しい気持ちが生まれている。その 気持ちを感じているかのようにA男はずっと笑顔で遊び続けた。
4.1.5.自ら友達を求める経験 6月(4歳10カ月)
4.1.4.の翌日(B男は欠席)
給食を食べるための机と椅子を運ぶ。椅子にはそれぞれの子どもに決められたマークのシール が貼ってある。
A男:(自分の椅子(飛行機マーク)を運び、机の中に入れる)
(B男の椅子(かえるマーク)を探して持って来る)
「かえる、ここ置くの。Bちゃんここ座る」(と自分の椅子の隣に入れる)
保育者:「AくんはBくんが好きだもんね。一緒に食べたいね」
A男:「一緒(に)食べる」
実際は、一人であるが、落ち着いている。
翌 日、 B 男 が登 園。 保 育 者 が 出迎 え、 話 を して い る とA 男 が 走 って きて、
A 男 : 「お はよ う」 (と B 男 の 顔 を覗 き込 む ) B 男 : 「お はよ う」
保 育 者 : 「A くん、 B くん元 気 にな って よか っ たね 。 寂 しか った もん ね」
A 男 : 「うん。 寂 しか った よ。 一 緒 に行 こ う」