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卸売企業による商圏調整の ヨーロッパへの適用

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Academic year: 2021

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(1)

Ⅰ.問題の所在

いわゆる「西欧型」と異なり,日本の流通システムは多数の小売店舗が存 在し卸売は多段階だと指摘されてきた(e.g. Yoshino 1971)。小売の零細・過 多・生業性は資本主義の前近代性(森下 1974;風呂 1974)を示し,そうし た小売構造を所与とすると環境に受け身な卸売の構造は多段階性(田村 1986)となるとした理論仮説群は,日本の流通システムを説明するものとし て説得的だった。

鮮度志向(田村 1998)が強い日本の消費者の買い物は多頻度で小口になり やすく,住宅が平均的に大きくないなど家庭内での在庫が容易でないため,

多数の小売店舗が身の回りに存在することで消費者の移動コストを含めた流 通コストは削減される(丸山 1991;成生 1994;松井・成生 2003 等)。経済 の発展とともに変化する小売業種構成は

Ford

効果(Ford 1935)として検討さ れ,零細小売店の生存領域だった市場スラック(田村 1986)が経済発展で次 第に狭くなり,家族従業(石井 1996;柳 2013;坂田 2016)に特徴づけられ

卸売企業による商圏調整の ヨーロッパへの適用

杉 本 宏 幸

Ⅰ.問題の所在

Ⅱ.モデル

Ⅲ.データと実証

Ⅳ.まとめと課題

( 1 )

(2)

た生業性(田村 1986)は大規模小売業者の進出とまちづくりの過程で徐々に 薄くなり,個人店は減少した(e.g. 二宮・濱 2018)。

小売店舗数がどのような要因に左右されるか,消費者および小売市場内部 の問題として扱う研究は,東アジアにおける取組では一定の成果があがって いる(成生 1994;松井・成生 2003;Matsui and Yukimto 2004;Matsui, Lu,

Nariu and Yukimoto 2005)ものの,小売店舗が卸売業者をはじめとした取引関

係からどのような影響を受けるのか十分に検討されているとは言い難い。

現代でも,日本に数多く存在する中小小売店は,商品仕入等に関する業務 を卸売業者に依存しながら経営しやすい。消費者がなじみのお店に行って欲 しいものを欲しいときに買えるのは,その小売店が商圏のニーズを見定めた 品え形成とマーチャンダイジングを担えているからだが,多くのアイテム を取引先の卸売業者無しで調達することは容易でない。中小店だけでなく,

CVS

チェーン等も卸売業と強固な関係(今泉 2010)をもち,卸売業者のリ テール・サポート(杉本・中西 2002),物流システム(金 2003),協働関係

(浦上 2004)等が小売経営やオペレーションを支え,それらは取引特定的 投資(久保 2008)として機能することも少なくない。地方の買い物弱者問題 と小売店の少なさへ卸共同配送で対応する事例(中小企業庁 2009)も見られ る。本研究が着目するのは,卸売業者が小売業者の経営と存続を支える側面 であり,多数の小売店舗の存在と存続には,卸売業者の活動がかかわってい るとする問題意識に立つ。

こうした問題意識について,本研究では杉本(2019)によるモデル分析の 妥当性を検討する。モデルの妥当性について,既に杉本(2019)で日本国内 の都道府県データを用いてその妥当性を一部検討したが,本研究で用いるの は

OECD

が公表するデータである。モデルが日本に固有のものでなく,海外 でも妥当するかを検討する。いわゆる「西欧型」の流通システムは,卸の比 重が低く,大規模小売業者が席巻する仕組みとして捉えられてきたように思

( 2 )

(3)

われる。しかし,例えば現代では

Tesco

Tesco Express

等の小規模な小売 フォーマットをヨーロッパ域内でも出店することが日常的で,日本の

CVS

に類似する小売業態ないし小売フォーマットも見られるようになった。上述 のステレオタイプは,我々が日常的に観察可能なものとしては,既に部分的 な誤りが含まれている。こうした問題意識の下,以下では卸売企業の意思決 定が含まれるモデルを西欧諸国のデータで検討する。

Ⅱ.モ デ ル

本研究では,卸売企業の商圏規模調整を扱ったモデル(杉本 2020)を用い る。これは,メーカーと大規模小売業者が直接取引する直接流通チャネル,

複数の中小小売業者(以下,小型店)が卸売業者を介して商品を仕入れる卸 介在型チャネルの二つが競争する構造を扱った杉本・中西(2002)を拡張し たものである。杉本・中西(2002)が扱ったのは,卸売業者が取引先小型店 を介して大型店と競争する「段階間競争」(pp.18-19)だが,杉本(2020)は

「段階間競争」状態にある流通システムの小売段階が自由参入である状態を 扱った。

モデルは次のように要約できる。卸売業者は,利潤を最大にする大きさ

r

の営業地域を選択し,卸売業者の取引先である複数の小型店は正常利潤が得 られる水準まで市場に参入する。大型店は正常利潤が得られる限り営業する。

続いて,卸売業者は自身の利潤を最大化させるように卸売価格を決定し,こ の仕入価格を所与として,各小売業者は自身の利潤を最大化させるように価 格を決定する(杉本 1999;杉本・中西 2002)。最適化と導出過程については 杉本(2020)を参照されたいが,モデル分析の主要結果は以下の(1)(2)(3)(4) 式で得られる。

( 3 )

(4)

݊כൌ ͵ߨݒݐܨܥௌ௜݂ܿିଵ൫݂ܿଵȀଶ൅ ܨܥௌ௜ଵȀଶିଶ

(1)

ݎכ

ξଶݒଵȀଶݐଵȀଶܨܥௌ௜݂ܿݓെͳቀ݂ܿܮͳȀʹ൅ ܨܥܵ݅ͳȀʹെͳ

(2)

ܳכൌ ͵ξʹߨݒଷȀଶݐଵȀଶܨܥௌ௜ଷȀଶ݂ܿݓെʹቀ݂ܿܮͳȀʹ൅ ܨܥܵ݅ͳȀʹെʹ

(3)

ܳכൌ ͵ξʹߨݒଷȀଶݐଵȀଶܨܥௌ௜݂ܿଵȀଶ݂ܿݓെʹቀ݂ܿܮͳȀʹ൅ ܨܥܵ݅ͳȀʹെʹ

(4)

ここで,

n:小型店店舗数

r:(円環)市場の市場半径 Qw

:卸売業者の販売量

QL

:大型店の販売量

v:(円環)市場の需要密度

tS

:小型店への単位あたり移動コスト

fcw

:卸売業者の単位面積あたり固定費用

FCSi

:小型店の固定費用(i=1,2,…,n)

fcL

:小型店一店舗あたりの大型店固定費用

を指し,アスタリスク(*)は最適化されたことを示す。

分析結果は大きく 2 つである。単位面積あたり固定費用

fcw

が低い(高い)

卸売業者は,広い(狭い)市場で活動しうる((2)式)。単位面積あたり固定 費用

fcw

が低い(高い)という意味で卸売業者が効率的(非効率)なとき,取 引する小売店(小型店)の数

n

は多く(少なく)なる((1)式)。すなわち,

卸売業者が効率的であれば,取引する小売店(小型店)の数は増える。

次に,単位面積あたり固定費用

fcw

が低い(高い)卸売業者が活動する広い

(狭い)市場((2)式)では,市場需要

rv

が多い(少ない)。市場需要全体 が広がっているので,単位面積あたり固定費用

fcw

が低い(高い)という意味 で卸売業者が効率的(非効率)なとき,卸売業者の販売量

Qw

は多く(少な

( 4 )

(5)

く)なる((3)式)。同時に,そうした広い(狭い)市場における大型店の販 売量

QL

も多い(少ない)((4)式)。すなわち,卸売業者が効率的であれば,

自身の販売量が増えるとともに,直接取引関係になく「段階間競争」(杉本・

中西 2002)関係にある大型店の販売量も増えることになる。

これらを総合すると,卸売業者が効率的であれば,取引する小売店の数は 増えて(卸介在型チャネルの販売拠点は増加して)卸の販売量が増えると同 時に,本来これと競争関係にある直接流通チャネルの販売量が増え,卸売業 者が効率的であることが二つのチャネルを共存させることにつながる。卸売 業者が効率的であれば,卸売業者,大型店,小型店の三者が共存しうるので ある。この効果は,卸売業者が営業地域の広さを調整するように行動し,

多くの先行研究で一定とされていた円環市場の大きさ

r

を可変であると仮定 し直したモデルから得られたものである。なお,円環市場の市場半径を

r

(>0)としたモデルでも,消費者の単位当たり移動コストが高い(低い)と き小型店へは出向しにくい(しやすい)ことが(1)式から確認でき,市場半径 を1と固定した先行研究群(丸山 1992;成生 1994)と整合的である。

ここまでの結果はモデル分析から得られたものだから,結論の妥当性を データで確認することが望ましい。このモデルは,卸売業者,大型店,小型 店の三者共存関係を捉えるもので,三者共存を確認するには卸売業者の販売 量

Qw

大型店の販売量

QL

に関わるデータの取得が必要である。しかし,価格 情報を除去した販売量のデータを取得するのは容易でないため,ここでは データの入手可能性の問題から(1)式を使用して,モデルが機能しているか 否かをデータから確認する。(1)式をそのまま使うのでなく,両辺について 対数をとり(1

'

)式とする。

݈݊݊כൌ ݈݊͵ߨ ൅ ݈݊ݒ ൅ ݈݊ݐ൅ ݈݊ܨܥௌ௜െ ݈݂݊ܿെ ʹ݈݊൫݂ܿଵȀଶ൅ ܨܥௌ௜ଵȀଶ

(1

'

) さらに,切片τ

i

, τ

T

と誤差項ε

iT

を加えて,(5)式の対数線形モデルとして実

( 5 )

(6)

証モデルを特定化する。

݈݊݊כ௜௧ൌ ߬൅ ߬൅ ߚ݈݊ݒ௜௧൅ ߚ݈݊ݐௌ௜௧൅ ߚ݈݊ܨܥௌ௜௜௧൅ ߚ݈݂݊ܿ௪௜௧

ߚ݈݊൫݂ܿଵȀଶ௜௧൅ ܨܥௌ௜ଵȀଶ௜௧൯ ൅ ߝ௜்

(5)

ここで

i

は地域または個体を指し,T は時間を指す。モデルから予想される 実証結果は,β

1

>0,β

2

>0,β

3

>0,β

4

<0,β

5

<0 である。

Ⅲ.データと実証

データ

(5)式で特定された対数線形モデルを国レベルのデータを用いて検討する。

国レベルのデータを用いるのは,本モデルが静学的な均衡状態を扱ってい ること,分析単位としては独立した経済を扱うのが望ましいと考えるためで ある。卸売業を含めたモデルが,どの程度西欧諸国で妥当するか検討するた めに

OECD

が公表する

Structural and Demographic Business Statistics(SDBS),

国際連合(United Nations)が公表する

World Population Prospects: The 2019 Revision,そして世界の統計各年版を用いる。

小型店店舗数は,

SDBS

に含まれる小売企業の企業数(number of enterprises)

で測定し,以下でこれを

N

と呼ぶ。本モデルの小型店は,企業数でなく事業 所数で測定するのが適切だが,SDBS から事業所数を取得可能なのはわずか な国しかなかった。必ずしもモデルと整合的でないが,ある程度の国で一定 期間入手可能だった企業数を用いる。

分析対象の業種は食品を採用する。これは,モデルが最寄り品を想定した ものだからである。食品を扱うため,採用する産業分類については,SDBS に含まれる小売業と卸売業について

ISIC3(International Standard Industrial Classification)の 522Retail sale of food, beverages and tobacco in specialized stores,

( 6 )

(7)

512

Wholesale of agricultural raw materials, live animals, food, beverages and

tobacco

をそれぞれ使用する。卸の 512 には農機具が含まれるため,小売の

522 とは必ずしも産業分類が一致しない恐れがあるが,これ以上細かい産業 分類にすることで分析可能なデータが大きく減少する恐れがあるためこれら を採用した。

大型店と小型店の規模は従業員数(Number of employees)で分類する。小 型店として分析可能なカテゴリーは,従業員 1-9 人小売企業,従業員 10-19 人小売企業,従業員 20-49 人小売企業の三カテゴリーがあるが,分析可能な 国がなるべく多くなるように従業員 1-9 人小売企業を採用する。小売の規模 を従業員数で操作的に定義したため,小売企業の固定費用は,大型店も小型 店も企業あたり従業員数でそれぞれ測定する。小型店のそれを

LR

と呼ぶ。

卸売業者の単位面積あたり固定費用は,二つを採用する。まず,杉本

(2020)にしたがって,人口あたり卸売従業者/員数を採用する。これは,

小売店を通じて地域の消費者に商品を届けるために,卸売業者はどれほどの 従業者/員を要するかを測定するものである。この値が低い(高い)とき,

モデルにおける単位当たり固定費用

fcw

は低い(高い)。杉本(2020)では地 域独占の卸売企業を扱ったが,杉本・中西(2019)では競争的な卸売業者を 扱い,後者の単位当たり固定費用

fcw

は卸売事業所あたり卸売従業者数を人 口で割ったものが採用された。これは各地域での卸売業者の参入と競争を加 味した操作化であるが,本研究ではこれら二つの変数のどちらがあてはまり がよいか確認する。これらは

SDBS

World Population Prospects: The 2019

Revision

を使用して推計する。測定変数の前者を

LWM

と,後者を

LWC

と呼ぶ。

消費者の単位あたり移動費用

tS

は,先行研究(成生 1994;松井・成生 2003 等)にしたがって,乗用車保有台数を人口で割った値を採用する。人口 あたり乗用車保有台数を

CAR

とよぶ。乗用車保有台数は各年の世界の統計 に掲載されているものを使用し,人口は

World Population Prospects: The 2019

( 7 )

(8)

Revision

を使用した。この操作化により,t

S

の操作化された変数

CAR

はモデ ルの数値とは大小関係が逆になるため,(5)式で確認したβ

2

>0 は,β

2

<0 へ 修正される。そして,杉本(2019)と同様に,需要密度

v

は,人口あたり小売 業年間商品販売額を用いる。各国で為替レートと物価が異なるため,OECD が公表する購買力平価によって調整し,ドル単位でこれを扱う。人口あたり 小売業年間商品販売額を

SALES

と呼ぶ。

最後に,(5)式の第七項である

൫݂ܿଵȀଶ௜௧൅ ܨܥௌ௜ଵȀଶ௜௧

について

FCSi

には

LR

とで操作化されているため,この平方根をとり,

fcL

は変数の定義にしたがっ て大型店の従業員数を小型店店舗数(本研究では小型店企業数

N)で割る。

しかし,例えば,従業員数 50 人以上の飲食料品小売企業の従業員数データを

SDBS

から収集するとデータがかなり少なくなる。このため,飲食料品小売 業全体の従業員数から,従業員規模 1-9 人の従業員数を除した値を大型店の 従業員数と扱う。こうした手続きで得られた測定変数を

CTRL

と呼び,この 変数が回帰式で大型店と小型店の競争状態を測定することになる。

これらデータを国名と年次で接合させた。しかし,従業員 1-9 人小売企業 で公表されている数値が限定されていること,乗用車保有台数は入手できな かった国があったことなどから,本研究で採用するデータを 1995 年から 1999 年に絞った。2000 年以後のデータを使用しなかったのは,乗用車保有 台数が入手できない年が少なくなかったからである。1995 年から 1999 年の 間であっても,1997 年の

Denmark,Greece,Ireland,1999 年のGreece,Ireland,

Portugal,Spain,Sweden

では乗用車保有台数が入手できなかったため,これ

らはそれぞれ前年(1996 年,1998 年)のデータを外挿した。前年度のデータ を使用したのは,この変数が回帰モデルでの説明変数になるためで,因果関 係の時間的な順序を考慮したためである。

こうした手続きを経て,最終的に次の三つのパネルデータを作成した。

Panel. A

は,1995 年から 1999 年までの

Austria,Czech Republic,Denmark,

( 8 )

(9)

France,Ireland,Italy,Latvia,Portugal,Spain,United Kingdom(5 期 10ヵ国),

Panel. B

は,1995 年から 1998 年までの

Austria,Czech Republic,Denmark,

France,Ireland,Italy,Hungary,Latvia,Portugal,Spain,United Kingdom(4

期 11ヵ国),1995 年から 1997 年までの

Austria,Czech Republic,Denmark,

France,Germany,Hungary,Ireland,Italy,Latvia,Portugal,Romania,Spain,

United Kingdom

(3 期 13ヵ国)である。三つの

Panel

はそれぞれ時系列の長さ と国家の構成が異なる。これは,この間時系列で長くデータが取得できたも の(Panel. A),なるべく多くの国を採用したもの(Panel. C),この二つの中間

(Panel. B)という三つの選択肢を採用した結果である。これらを分析して も結論が大きく変わらなければ,この時代のヨーロッパにおけるおおよその 結 論 が 導 け る か と 思 わ れ る。こ の 中 で は,Austria が 1995 年,Latvia と

Hungary

が 2004 年,Romania が 2007 年に

EU

に加盟しており,この時代の

EU

域内の分析とはいえないが,ヨーロッパ経済圏を対象とした分析と考え てもそれほど差し支えないだろう。なお,本研究はヨーロッパに絞ったため,

SDBS

に含まれていたデータであってもデータを国名と年次で接合させて

Panel

を作成する途中で削除した。

分析結果

これら変数の定義は〔表 1〕に,基礎統計量は〔表 2〕に整理されている。

回帰分析の推計結果は〔表 3〕に整理されている。ここでは,三つの

Panel

に ついて分析結果を確認する。

まず,三つの

Panel

それぞれで,プール推定,固定効果推定,変量効果推定,

そして

DID(Difference in Difference)での推定を行った。固定効果推定,変

量効果推定はそれぞれ一要因(国),二要因(国および年)で実施した。しか

し,どの

Panel

でも二要因の変量効果では回帰モデルが推定できなかったた

め,統計的検定を通じてモデル特定化をすることが困難だった。ここで,本

( 9 )

(10)

研究では推定が不安定になる時間方向(年)についてはプールし,空間方向

(国の違い)について一要因の固定効果と変量効果についてモデル特定化の 検定を実施し,固定効果と変量効果についてプール推定と

F

検定および

LM

検定を行った。この結果,

Panel. A

では一要因固定効果モデル,

Panel. B

では 一要因変量効果モデル,Panel. C では一要因変量効果モデルが示唆された。

なお,一部のモデルについては参考のために,二要因固定効果モデル(Panel.

A),DID

推定(Panel. A,

B,C)の結果を付与している。Panel. A

では一要因 でも二要因でも外生変数の影響にそれほど違いがなかった。全てのパネルで 参考に付与した

DID

推定の結果も一部を除けば他の推定結果とおおよそ同 じ結果を主張している。

回帰分析の結果を確認すると,SALES は

Panel. C

DID

推定を除き,LR

Panel. B

の一つを除き,CTRL はすべてがモデルの結果と一致している。

つまり,1995 年から 1999 年の時代のヨーロッパでは,大規模な食品小売企 業と小規模な食品小売企業が競争する状態にあり(CTRL による確認),消費 者市場が拡大(縮小)するならば,または消費者の購買力が高い(低い)市 場では,小規模な小売企業は規模を拡大させながら増加・参入(減少・撤退)

していたといえる。他方,CAR はどの

Panel

もモデルを支持しなかったし,

一部には先行研究および本モデルと逆方向を示唆している。1995 年から 1999 年の時代のヨーロッパで,消費者の移動コストとして乗用車保有台数を 採用することが不適切なのか,ヨーロッパの小規模企業に対しては先行研究 の知見が妥当しないのか,これら国またはヨーロッパという地域を採用した ことがモデルとの妥当しないサンプルセレクションの問題なのか現時点では 明らかでないが,これは支持されなかった。

そして,卸売業者の小売競争への効果を示す

LW

は,地域独占を仮定した

LWM

と競争的卸売業を仮定した

LWC

で効果が異なり,モデルと合致したの は競争的卸売業を仮定した

LWC

だった。LW

C

の値が小さい(大きい)とき,

( 10 )

(11)

〔表1〕 変数の定義

モデル内の変数 測定変数 測定変数の定義 測定変数の

単位 データソース 小型店店舗数n 小売企業数N 各小売業者規模カテゴリー

小売企業数 企業数 SDBS

需要密度v 人口あたり

小売販売額SALES 小売業年間商品販売額

人口 ドル/1000 人 SDBS World Population Prospects 消費者の小型店への

単位あたり 移動コストtS

人口あたり乗用車

保有台数CAR 保有乗用車数

人口 乗用車数/人

都道府県別・

車種別保有台数表 World Population Prospects 小型店固定費FCSi 小型店一企業あたり

従業員数LR

各小売業者規模カテゴリー 小売業者の従業員数

N

人/企業 SDBS

卸売業者の 単位面積あたり

固定費用fcw

人口あたり 卸売従業者数LWM

卸売企業従業者数

人口 SDBS

World Population Prospects 人口あたり

一企業卸売従業員数LWC

卸売企業従業者数 卸売企業企業数

人口

/企業 SDBS World Population Prospects

〔表2〕 単純集計

n Mean Min Max Median

N

Panel.A 50 538.1200 11.0000 2827.0000 228.0000

Panel.B 44 502.5000 11.0000 2827.0000 212.0000

Panel.C 39 634.0000 11.0000 2827.0000 233.0000

SALES

Panel.A 50 9192.3800 62.0900 27402.4700 3633.7800

Panel.B 44 8586.9000 79.3000 27402.5000 3443.3000

Panel.C 39 8597.7000 119.4000 27402.5000 3633.2000

CAR

Panel.A 50 0.3643 0.1334 0.5565 0.3583

Panel.B 44 0.3477 0.1334 0.5565 0.3492

Panel.C 39 0.3348 0.0957 0.5565 0.3314

LR

Panel.A 50 13.0480 2.0670 23.4230 12.8220

Panel.B 44 12.9880 2.0670 23.4230 12.7870

Panel.C 39 13.3280 5.3640 23.4230 12.8710

LWM

Panel.A 50 0.0057 0.0035 0.0100 0.0046

Panel.B 44 0.0055 0.0026 0.0100 0.0045

Panel.C 39 0.0053 0.0027 0.0100 0.0046

LWC

Panel.A 50 0.0051 0.0032 0.0086 0.0042

Panel.B 44 0.0049 0.0025 0.0086 0.0042

Panel.C 39 0.0048 0.0026 0.0086 0.0042

( 11 )

(12)

〔表3〕 パネルデータの回帰分析結果

variable/parameters in model n v t FCSi fcw fcL1/2FCSi1/2

model predicts

data estimation lnNintetcept lnSALES lnCAR lnLR lnLWC lnLWM lnCTRL

Panel.A 1way Fixed Effect

beta 0.4132*** 0.5405** 0.2540*** 0.3848 −2.4530***

Std. Error 0.1456 0.2250 0.0656 0.3051 0.1975

t-value 2.8389 2.4023 3.8696 1.2610 −12.4226

p 0.0075 0.0217 0.0005 0.2156 0.0000

1way Fixed Effect

beta 0.3829*** 0.4607** 0.3561*** −0.4401*** −2.3234***

Std. Error 0.1140 0.1935 0.0634 0.1268 0.1400

t-value 3.3596 2.3810 5.6215 −3.4698 −16.5955

p 0.0019 0.0228 0.0000 0.0014 0.0000

2way Fixed Effects

beta 0.4127*** 0.4462 0.3674*** −0.3456** −2.3536***

Std. Error 0.1308 0.2651 0.0668 0.1407 0.1409

t-value 3.1549 1.6829 5.4984 −2.4567 −16.6982

p 0.0036 0.1024 0.0000 0.0198 0.0000

DID

beta 0.4841*** 0.5548 0.3261*** −0.4700*** −2.2668***

Std. Error 0.1166 0.3327 0.0546 0.1160 0.1295

t-value 4.1518 1.6676 5.9676 −4.0507 −17.5022

p 0.0002 0.1043 0.0000 0.0003 0.0000

Panel.B 1way Random Effect

beta 20.6153*** 0.9580*** 0.7149** 0.0932 0.1813 −2.1517***

Std. Error 1.9676 0.1404 0.2796 0.0699 0.3454 0.2398

t-value 10.4776 6.8250 2.5563 1.3333 0.5248 −8.9737

p 0.0000 0.0000 0.0141 0.1893 0.6024 0.0000

1way Random Effect

beta 5.1860** 0.4512*** 0.6482*** 0.3810*** −0.6955*** −2.2548***

Std. Error 2.2241 0.1223 0.2215 0.0707 0.0850 0.1801

t-value 2.3318 3.6895 2.9263 5.3861 −8.1859 −12.5190

p 0.0251 0.0007 0.0058 0.0000 0.0000 0.0000

DID

beta 0.4277** 0.5124 0.3737*** −0.6439*** −2.1712***

Std. Error 0.1608 0.3519 0.0770 0.1216 0.2247

t-value 2.6605 1.4560 4.8533 −5.2948 −9.6625

p 0.0128 0.1565 0.0000 0.0000 0.0000

Panel.C 1way Random Effect

beta 20.0019*** 0.7416*** −0.6085 0.3175*** 0.7330* −2.1337***

Std. Error 2.2155 0.1951 0.3798 0.1105 0.3886 0.3205

t-value 9.0282 3.8009 −1.6021 2.8748 1.8862 −6.6566

p 0.0000 0.0006 0.1187 0.0070 0.0681 0.0000

1way Random Effect

beta 1.8863 0.3929** −0.0170 0.5677*** −0.9102*** −2.7741***

Std. Error 2.5825 0.1481 0.2487 0.1093 0.1029 0.2948

t-value 0.7304 2.6529 −0.0686 5.1961 −8.8465 −9.4108

p 0.4703 0.0122 0.9458 0.0000 0.0000 0.0000

DID

beta 0.3643 −0.7298 0.5665*** −0.7774*** −2.6691***

Std. Error 0.2226 0.4272 0.0990 0.2210 0.3414

t-value 1.6366 −1.7082 5.7239 −3.5171 −7.8177

p 0.1166 0.1023 0.0000 0.0020 0.0000

( 12 )

(13)

1way Fixed effect vs pooled OLS

1way Random effect vs Pooled OLS

1way Fixed effect vs

1way Random effect R2 adjusted

R2 n Times Countries

F test LM test Hausman test

491.7900*** 82.5220*** 13.2290***

0.8771 0.8279 50 5 10

0.0000 0.0000 0.0213

67.4240*** 33.2250*** 17.5890***

0.9044 0.8662 50 5 10

0.0000 0.0000 0.0035

0.9114 0.8600 50 5 10

0.9121 0.9020 50 5 10

276.3200*** 69.2340*** 1.6505

0.7989 0.7760 44 4 11

0.0000 0.0000 0.8951

50.8830*** 24.0050*** 2.8687

0.8836 0.8683 44 4 11

0.0000 0.0000 0.7202

0.8783 0.8609 44 4 11

49.5130*** 29.6690*** 3.1220

0.71403 0.6707 39 3 13

0.0000 0.0000 0.5376

45.5730*** 20.9820*** 7.9537

0.84274 0.81892 39 3 13

0.0000 0.0000 0.1588

0.83675 0.80565 39 3 13

( 13 )

(14)

小規模小売企業の数

N

は多く(少なく)なる。つまり,ヨーロッパで食品卸 売企業が競争的で,セールスパーソンや営業部隊の人員が市場(人口)に対 して過剰におらず,効率的な活動をできているとき,取引先となる小規模な 食品小売企業は多くなる。LW

M

でこの結論が得られないのは,国単位でみた とき,それぞれの国での食品卸売業の比重が高くないことが考えられる。

Ⅳ.まとめと課題

卸売および卸売研究の重要性はヨーロッパでも指摘されることが少なくな い(e.g. Dawson 2007)。しかし,卸売企業または卸売業者による流通活動や マーケティング活動が流通システムの中でどのような意義を持つのか,それ ほど明らかになっているとは依然言い難い。

本研究では,多数の小売店舗が存在するのは,卸売企業による競争的な商 圏探索行動の結果がその一つであるとするモデルを基礎に,これをヨーロッ パの統計で検討した。卸を介在する,いわゆる日本型の流通システムまたは 流通チャネルを説明したモデルで,俗に言われる西欧型の流通システムと思 われる国々を説明できるか,モデルの外的妥当性を確認した。

1995 年から 1999 年までの国レベルのデータで確認した結果,飲食商品業 界における卸売企業と 1-9 人規模の小売企業でおおむね妥当だった。このモ デルは,卸売が多く,特殊と思われやすい日本に固有の結果でないことが,

OECD

統計を用いて 1990 年代半ば以後のヨーロッパで観察された。

この期間では,従業員数 1-9 人の小規模小売企業の役割が重要な地域ほど,

ヨーロッパでも飲食料品卸売企業の役割は大きいと言える。販売量のデータ で直接検証していないものの,杉本(2020)のモデルが機能する状況では,

卸介在型チャネルと大型店チャネルが共存し,卸売企業,小型店,大型店の 三者が共存する可能性が高い。すなわち,従業員 1-9 人の小規模食品小売企

( 14 )

(15)

業と食品卸売企業のチャネル,これより規模の大きい食品小売企業のチャネ ルはヨーロッパで共存している可能性が高い。

ヨーロッパの小売環境がグローバル化した大規模小売企業によって営まれ,

現代では消費者はウェブから発注して自宅に配送されるとはいえ,そうした 仕組みは収益事業として成立しやすい都市部に限定されやすい。今回分析し た 1995 年から 1999 年までの期間は,物理的な小売店舗による流通網とそれ へ商品を効率的に届ける卸売流通システムの機能が重要と示唆されただろう。

例えばイギリスでも,辺境の地域や離島における流通問題は依然残されてい て(Freathy and Calderwood 2011),それらが地域の小規模店とサプライチェー ンに支えられていることを考慮すれば,本研究の結果は自然であったかもし れない。西欧諸国でも,小規模小売企業と卸売企業の流通システムにおける 役割は重要であると示唆される。一般に議論される西欧型の流通システムの 姿は,大規模小売企業と大規模メーカーが直結した太く短い効率的なもので,

近年は大規模小売企業が主導するグローバルサプライチェーンを想起するか もしれない。しかし,やや丁寧に議論しなければ,こうした姿はステレオタ イプとして動きはじめる恐れがあることを本研究の分析は示唆しているよう に思われる。消費者または顧客がそれを求めているとして,卸売企業が支え る流通システムの姿とその機能がいかなるものであるか,引き続き検討が必 要だろう。

こうした検討を進める上で,本研究にはかなり多くの課題が残されている。

第一に,2000 年以後のデータは今回確認していない。大規模小売企業による グローバルサプライチェーンの発展はヨーロッパの流通を分析する上で看過 できない問題だが,これらは今回捨象している。さらに,今回のデータでは 結果に大きく影響しなかったため捨象したが,EU への加盟,非加盟は流通 問題にとって重要と思われる。今回構築したデータについて,時点と産業を 変えてさらに検討する必要があるだろう。

( 15 )

(16)

第二に,今回,データの利用可能性から事業所数や

local unit

でなく企業

(enterprise)数を使用したが,これはモデル内の変数とデータの対応関係と 測定変数の操作的定義が必ずしも適切とは言えないため,この実証は杉本

(2020)のモデルを間接的に支持しているに過ぎない。このため,モデルの 再検討も含めて変数の操作的定義に関する検討をしたい。

第三に,卸売企業の単位当たり固定費用

fcw

LWM

LWC

で操作化し,

LWC

がモデルに近い状態だったが,モデルと測定変数の対応関係は引き続き 検討する必要がある。モデルとデータからは 1990 年代のヨーロッパの食品 卸売企業は競争的だったと判断できるが,卸売企業の行動についてモデルを 再検討して必要な修正を行いたい。最後に,CAR と

N

の実証では先行研究 と異なる結果を得てしまったので,これについて検討していきたい。

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参照

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