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調理実習の試食に関する研究

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埼玉大学紀要 教育学部,62(2):9-19(2013)

調理実習の試食に関する研究

河 村 美 穂 埼玉大学教育学部家政教育講座

里 村 友 実 神奈川大学

キーワード:試食 調理実習 児童の語り

1.研究目的

 調理実習は、家庭科の授業の中で最も印象深い授業であり、多くの人が記憶にとどめている。

この家庭科に特有の調理実習に関しては、これまでにも数多くの研究が行われてきており

注1)

、近 年では、調理実習という授業そのものを対象として調理技能の習得の実態を明らかにしたもの(河 村2010)、調理実習をエスノグラフィーの手法を用いて読み解いたもの(林他2008)など、多様 な研究が見られる。

 かつて村田泰彦は、試食と反省で完結する調理実習について、「技能・技術の習得をもとにして、

そこから科学的な認識が形成される理論学習として、発展的に組織され」(村田1978)るべきこと を指摘した。これは、単に食べておいしいかどうかを評価するための試食ではなく、調理活動と の関連から評価することによって科学的認識を培うという試食の一つのあり方を示していると言え よう。

 本来、調理実習における試食は、学校の教育場面で見る限り他に類を見ない「食べる」という 特殊な活動である。単につくったものを食べるというだけではなく、五感を使って料理を評価し調 理活動をふり返る活動として重要である。しかし、実際には、調理とは無関係の話をするなど

注2)

食べるだけの時間になっていることもある。また、家庭科の授業時間の削減もあって調理実習時 に十分な試食の時間をとることが行われにくい状況もある。このような現状もあわせて考えると、

つくった料理のよしあしを実際の調理活動をふり返りながら味わい評価するための方法をとること が科学的認識を育成する試食となるのではないだろうか。

 これまで試食に関する研究はほとんどなく、管見によれば、柳昌子と中屋紀子(柳・中屋2011)

によって、試食の時間が教師によってその位置づけも、指導の方法も多様であることが示されて いるのが唯一の試食研究である。

 そこで、本研究では小学校5年生のはじめての調理実習を対象として、試食活動において児童 が何をどのように語っているのかを調理活動の評価という観点から明らかにしたうえで、試食時に 調理活動との関連から調理したものを評価するか否かがどのような要因と関連があるのかを検討 することを目的とする。

2.研究方法

 調理実習の試食はつくった料理を評価することになってはいるが、学習者である児童が実際に

は何を考えどのように試食しているのかについて明らかにした研究はほとんどない。そこで本研究

では、試食時に評価を行っているのか否かを明らかにするために試食時の語りを分析することを

(2)

試みた。試食時に考え評価している内容が発語として語られるのかどうかについて予備調査(2010 年2月実施)を行ったところ、小学校段階では、試食の時間に感じたことは評価を含めてほとん ど班内で声に出して発言していることが確認されたことから、試食時の語りを分類し、調理活動 を評価することに関連する要因を探究するために、質問紙調査、観察調査を組み合わせて行うこ ととした。具体的には、表1に示した授業「野菜をゆでる」を対象として、質問紙調査(事前) (事後)

と観察調査①②によって得られた収集データを用いて分析した。分析の手順としては、まず、調 理実習①②それぞれの試食①②部分の録音をもとに試食時の語りを、試食時の録画記録や調理活 動時の観察記録と併せて、観察対象児童が意図していることを十分に読み解くようにした

注3)

。さ らに、対象クラス全体への質問紙調査により「調理技能の習得に対する認知(前)(後)」「調理へ の関心(前) (後)」得点の変化をみた上で、観察対象児童の試食時の語りと、それら得点との関連、

および調理活動①②における調理活動の生起率、調理活動の様子との関連を検討した。

2.1授業概要

 調査対象とした授業は、表1に示したように、調理実習を2回行うものである。1回目が「ゆでる」

課題調理であり、2回目はその発展という位置付けで温野菜サラダの調理である。この調理実習は、

課題解決的にゆでる調理に関する知識・技能を習得させることを目標として対象校で計画された ものである。

 なお、対象校では調理器具を共有する関係から男女2人1組のペアで取り組む方法をとり、食 材は1人ずつに配布し一人調理としていた。

表1「野菜をゆでる」授業概要と調査時期

場  面 収集データ 分析内容

質問紙調査

(全体) 事前 質問紙事前回答 調理技能に対する認知(前)

調理への関心(前)

調理実習・事前指導

観察調査①

(抽出児童)

調理実習①

調理活動①それぞれの野菜 に合ったゆで方を調べよう

ワークシート記述 自己評価記述① 時間見本法データ

観察記録・録音・録画 調理活動の生起率① 調理活動の様子① 試食① 観察記録・ 録音 ・録画 試食時の語り① 振り返りと調理計画

観察調査②

(抽出児童)

調理実習②

調理活動②材料に合わせた ゆで方でゆでよう

正しく計って、ドレッシン グを作ろう

ワークシート記述 自己評価記述② 時間見本法データ

観察記録・録音・録画 調理活動の生起率② 調理活動の様子②

試食② 観察記録・ 録音 ・録画 試食時の語り② まとめ

質問紙調査

(全体) まとめ1週間後 質問紙事後回答 調理技能に対する認知(前)

調理への関心(前)

(3)

 また、対象授業で担当教師(家庭科担当)が試食を始める時点で提示した評価の観点は、①ゆ でる調理によって生の野菜がどのように変化したのか、②各自が設定した調理の要点(ゆで方、

ゆで時間)にともない結果がどのようになったのか、③ペアの友人の調理と自分の野菜を比較し てどうか、である。この内容は試食開始時に配布されたワークシートにも記述するよう設定されて いた。

2.2調査対象と時期

 対象は国立大学附属小学校第5学年3クラスで、質問紙調査は109名、観察調査は質問紙調査 のうち「調理技能の習得に対する認知」得点を4段階に分け、担当教員と相談の上それぞれの段 階から偏りなく抽出した。具体的には調理実習の開始時に、調理実習及び試食時間のすべての会 話を録音およびICレコーダーの装着について了承を得た。対象児童を表2に一覧した。実施時期 は2010年5~6月である。

表2 質問紙調査対象の内訳と 観察調査対象児童

合計 男子 女子 うち 観察対象児童

A組 37 17 20 NO.1女 NO.2女 NO.3男 B組 37 18 19 NO.4男 NO.5女 NO.6男 C組 35 17 18 NO.7女 NO.8女 NO.9男

109 52 57 男子4名  女子5名

2.3質問紙調査

 記名自記式の質問紙法により、授業の事前事後に調査した。児童の実態を把握し観察調査対象 の児童を抽出するために利用した。調査用紙の配布、記入、回収は家庭科担当教師に依頼し、記 入にあたって学校の成績には一切関係ないことを伝えて児童に回答を求めた。

2.3.1調査内容

「調理に関する実態」および「調理技能の習得に対する認知」「調理への関心」についての質問を、

『小学校新学習指導要領 家庭科』の各学年の目標及び内容を参照し、対象授業のゆでる調理を勘 案して設定した。

 「調理に関する実態」では、「家庭での調理経験」や「家庭で一緒に料理をする相手」、「調理実 習に対する自信」について頻度、程度を問うた。

 「調理技能の習得に対する認知」についての回答は、「とてもできる」「できる」「どちらかという とできる」「あまりできない」「ほとんどできない」「まったくできない」の6段階のいずれかを選 択する方法で、「調理への関心」については、「とてもそう思う」「そう思う」「どちらかというとそ う思う」「あまりそう思わない」「ほとんどそう思わない」「まったく思わない」の6段階でいずれ かを回答する方法をとった。質問紙調査の対象は、表2のとおりである。

2.4調理活動の観察調査

 抽出した観察対象の児童は、表2に示した。調理活動時には、主として時間見本法

注4)

を用いて

観察調査を行った。観察単位は15秒とし、観察項目は、先行研究(河村2010)に倣い「調理操作

を行う」および「友達の調理を見る」とした。さらに、ICレコーダーでの会話録音と、ビデオ録

(4)

画も同時に行い、観察記録の作成に補助的に用いた。会話録音は対象児童に許可を得て、左胸に ICレコーダーを付けて行い、実際には調理活動の時間から試食まで、調理実習全体を通して録音 状態で装着した。ビデオ録画についても、観察対象児童が属している班全体の活動を、調理活動 から試食まで引き続いて録画した。収集した観察データの分析手続きについては、3.結果と考 察の項で分析結果とともに詳述する。

2.5試食活動の観察調査

 試食活動については、主としてICレコーダーによる会話録音をデータとして収集、分析した。

ICレコーダーは、調理活動中から引き続き録音状態にしておいた。試食活動の様子は、調理活動 と同様にビデオ録画し観察調査も行った。収集したデータの分析手続きについては、3.結果と 考察の項で分析結果とともに詳述する。

 なお、調理活動と試食活動の区切りについては、観察の結果、調理活動は手を洗い始めた時間 から調理活動をへて「いただきます」を言うまでの時間、試食活動は「いただきます」から「ご ちそうさま」と班全体で発する時間までの時間とした。試食は1.2回目ともおおよそ10~15分で あり、すべての班がこの時間内におさまっていた。

3.結果と考察

 児童が試食活動時に語っている内容と質問紙調査結果および観察調査結果との関連を検討した。

そのために本項ではまず、語りの分析の対象児童9名が所属する3クラス109名の児童に対して実 施した質問紙調査結果の概略を示し、試食活動時の語りの分析結果を提示する。さらに、これら の語りの分析結果と調理活動との関連、および質問紙調査結果との関連を考察する。

3.1質問紙調査の結果

 質問紙調査により得た調理技能の習得に対する認知得点、調理への関心得点の各設問の平均を 表3、表4に示した。なお、調理技能の習得に対する認知についての10設問のα係数は0.82、調 理への関心13設問のα係数は、事前0.80と、いずれも高い値を示したことから、これらの設問は 平均値を算出して検定した。

 この表からわかるように、調理技能の習得に対する認知、調理への関心ともに、女子は男子よ りも有意に得点が高い(t 検定、調理技能の習得に対する認知事前事後ともp<0.001、調理への 関心事前p<0.001,事後p<0.01)ことが示された。さらに、調理技能の習得に対する認知は、

事後の得点が、事前の得点より有意に高い(t 検定、p<0.001)ということがわかった。

3.2試食活動時の語り

 試食活動時の語りは、ICレコーダーによる録音記録を、すべて文字に起こして意味あるまとま

りに区切り、前後の文脈を考慮して、語りの内容を分類した。これらのデータを何度もよみ、筆

者二人で議論を重ねて、「野菜の調理に関する語り」「野菜の好き嫌いに関する語り」の2つのカ

テゴリーを生成し、表5に示した抽出の基準をもとに2つのカテゴリーにあてはまる語りを抽出し

てカウントした。その語りの例を同じく表5に示した。この抽出を行う際に、「野菜の調理に関す

る語り」には「調理過程をふまえたより質の高い語り」(表6中、質高)と「単純な内容の語り」(

(5)

表4 調理への関心の変化

質 問 事 項 調理実習前 調理実習後

男子 女子 全体 男子 女子 全体

⑪計量スプーンや、計量カップなどを使って、正しく計量できるようになりたい。 5.58 5.74 5.66 5.40 5.77 5.60

⑫包丁を使って、いろんな材料をもっと上手に切ることができるようになりたい。 5.60 5.96 5.79 5.71 5.82 5.77

⑬包丁を使っていろんな材料の皮をもっと上手にむけるようになりたい 5.58 5.93 5.76 5.56 5.84 5.71

⑭もっと上手に包丁を使えるようになりたい。 5.65 5.72 5.69 5.52 5.74 5.63

⑮調理の目的に合わせて、もっと上手に味付けができるようになりたい。 5.54 5.82 5.69 5.62 5.82 5.72

⑯ゆでたり、いためたりすることがもっと上手になりたい。 5.65 5.81 5.73 5.52 5.68 5.61

⑰いろんな料理ができるようになりたい。 5.77 6.00 5.89 5.77 5.95 5.86

⑱自分の好きな料理を作れるようになりたい。 5.77 5.88 5.83 5.77 5.88 5.83

⑲家族のために料理を作って食べさせてあげたい。 5.54 5.86 5.71 5.63 5.81 5.72

⑳いろんな料理にもっと挑戦したい。 5.48 5.88 5.69 5.52 5.82 5.68

㉑お料理の本を見れば料理はできそうだ。 4.52 5.07 4.81 4.62 5.12 4.88

㉒家族(父、母、祖父母など)に教えてもらえば料理はできそうだ。 5.37 5.61 5.50 5.46 5.58 5.52

㉓学校の調理実習で学べば料理はできそうだ。 5.21 5.60 5.41 5.15 5.49 5.33 平  均 5.48 5.76 5.63 5.48 5.72 5.60 標準偏差 0.79 0.46 0.67 0.82 0.50 0.68 t検定結果

***p<0.001  **p<0.01 表3 調理技能の習得に対する認知の変化

質 問 事 項 調理実習前 調理実習後

男子 女子 全体 男子 女子 全体

①材料や調味料を正しく計量する。 4.08 4.93 4.52 4.81 5.32 5.07

②野菜を洗う。 5.27 5.82 5.56 5.75 5.93 5.84

③包丁で野菜を切る。 5.23 5.65 5.45 5.54 5.72 5.63

④包丁でじゃがいもの皮をむく。 3.31 4.05 3.70 3.75 4.58 4.18

⑤野菜をゆでる。 4.33 5.02 4.69 5.52 5.68 5.61

⑥盛り付けをする。 5.35 5.82 5.60 5.69 5.86 5.78

⑦配ぜんをする。 5.60 5.91 5.76 5.79 5.89 5.84

⑧後片付けをする。 5.58 5.82 5.71 5.63 5.86 5.75

⑨調理に必要な用具・食器を安全で衛生的に扱う。 5.10 5.44 5.28 5.21 5.61 5.42

⑩こんろを安全に取り扱う。 5.19 5.61 5.41 5.44 5.72 5.59 平  均 4.90 5.41 5.17 5.31 5.62 5.47 標準偏差 0.92 0.64 0.83 0.74 0.54 0.67 t検定結果  

***p<0.001

*** *** ***

*** **

表5 試食活動時の語り 分析カテゴリーとその抽出基準・語りの例

カテゴリー 野菜の調理に関する語り 野菜の好き嫌いに関する語り 抽出の基準 調理課題である「野菜をゆでる」に関する発言を対

象とする。また、ゆで野菜について食べて評価して いる発言も含む。

調理実習で使用した食材について、

嫌い・苦手に関わると発言を対象と する。

質の高い 単純 単純

語りの例 「美味しいけど、あの、この

~茎がもうちょっとゆでた方 が良かった。」

「あ、ここ意外と甘い、

うまい!」 「もういらないよ~ニンジン。」

「ダメだ、うち吐きそう…死ぬ…。」

(6)

表6中、単純)の2種類に分類可能であったため、分けてカウントした。一方の「野菜の好き嫌い に関する語り」については、すべて嫌いな野菜に関する単純な内容であった。

 調理実習の試食の時間に、児童は、多くのことを語っているわけではない。試食活動の間は食 べることに集中しているということであろう。担当教師から提示された評価の観点について語ると いうよりは、食べて感じたことをそのまま声に出して発言するという様子であった。

 試食という限られた時間のなかで語っていることは、先に示したように、大きく分けて二つのこ とであった。調理に関する語りは、ドレッシングの出来具合も含めて作ったものに対する評価が語 られるものである。その多くはおいしいかどうか、どんな味がするかということであった。これら は、表6の単純というくくりにカウントしたものである。ただし、調理に関する語りには、調理活 動を振り返り「こうすればもっとよかった」「こうしたからおいしくなった」というような料理の できばえをもとに調理活動を評価している語りも見られた。これらの語りは、「質の高い」語りと してカウントした(表6中、質高)。この質の高い調理に関する語りは、試食活動で期待される調 理活動との関連から評価していると考えられる。本研究では、「ニンジン固すぎます!もっとゆで る時間を増やさなければ!」(児童NO.3)「あたし、これ(キャベツ)3分でやったの。(ほうれん 草やブロッコリーをゆでた友人に対して)これ、何分?」(児童NO.2)といった野菜をゆでる調 理について評価し、確認する様子がそれにあたると考えられた。

さらに、評価としての試食の語りの例を以下にあげる。これは対象児童NO.2が、同じグループの 女子児童と試食している場面の語りである。

児童NO.2:あたしのニンジン柔らかいよ?食べてみれば?

女子児童:まじ!?ちょうだい!

児童NO.2:はい、どうぞ。

女子児童:(児童NO.2がゆでたニンジンを食べて)あ、柔らか~い!

児童NO.2:あの~あたしさ、ムラがないように切ったから。

女子児童:すごいね。

表6 試食活動中の語り数

カテゴリー 野菜の調理に関する語り 野菜の好き嫌いに関する語り

児童№

性別 ①調理実習 ②調理実習 ①調理実習 ②調理実習

質高 単純 合計 質高 単純 合計 単純 単純

1 女 0 3 3 3 4 7 2 1

2 女 3 10 13 4 5 9 0 0

3 男 9 3 12 10 7 17 0 0

4 男 0 4 4 5 7 12 2 1

5 女 0 1 1 3 3 6 0 1

6 男 データなし 5 8 13 データなし 0

7 女 0 0 0 0 2 2 0 5

8 女 1 0 1 1 1 2 4 11

9 男 1 2 3 3 24 27 0 0

(注)1.児童NO.6の第1回調理実習は、ICレコーダーの不具合により、語りが一切録音でき なかったため、データなしとしている。ただし、1回目のビデオ録画を検討した結果、

調理活動、試食活動ともに、第2回目の様子と大きな違いはなかったため、第2回

目のデータのみを用いることを可能と判断し、観察対象としてデータを示した。

(7)

児童NO.2:いちょう切りにしたんだ。この人(ペア男子児童の名前)分厚く半月切りにしている から、だから…。

 好き嫌いがなく、食べることが好きな児童NO.2は、自分がゆでた野菜を「食べでみる?」と友 人に勧め、上手にゆでることができたので、その美味しさを友人と分かち合い、自分以外の友人 にも食べてもらいたいという思いを抱きながら試食している。これらの会話からは、ゆで具合をし っかり確認し、作るための工夫を評価していることもわかる。これら調理に関する質の高い語りは、

第1回目調理実習よりも、第2回目調理実習の方が多くなった児童が6名いる。調理の回数を重ね ることによって、気付くことが多くなっていると推察される。

 とくに、本研究の対象とした調理実習は、第1回目の課題調理を踏まえて第2回のサラダ作りを 行うという構成になっており、第2回目により気づきが多くなるということは、本授業の目的であ る課題解決を意識した結果とも考えることができる。

 一方「好き嫌いの語り」は、先に示したように、すべてが単純な内容のものであった。嫌いな 野菜に関するものであるため、「おいしくない」という否定的な表現がほとんどであり、どうやっ て食べようか思案している様子が語られていた。作った料理を評価することや、調理活動を振り 返り評価することは、このような思案する語りとともに語られることはなかった。さらに、調理活動、

試食活動の行動観察をあわせて、これら「好き嫌いの語り」を解釈した結果、嫌いな野菜がある 児童は大きく4つの特徴的な語り・行動のいずれかをすることがわかった。その4つというのは、 (1)

間接的にあまり好きではないことを表現する、(2)実は嫌いな食べ物だったと最後に打ち明ける、

(3)嫌いな食べ物を友人に食べてもらう、(4)明らかに嫌いであることを表現する、である。

 以上のことより、次の2点に整理することができる。1点目は、質の高い調理に関する語り(調 理活動との関連から評価)は、第1回目調理実習から第2回目調理実習におおむね増加するとい うことである。2点目は、扱う食材(今回は主として野菜)が嫌いな児童は、その食材が嫌いであ るということが試食活動にマイナスの影響を与え、十分に評価できないでいるということである。

3.3試食活動と調理活動、調理技能の習得に対する認知、関心との関連

 試食活動時の児童の語りを分析した結果、評価するか否かは好き嫌いのある語りの有無が関連 していることがわかった。そこで、さらに調理活動や学習者本人の調理技能の習得に対する認知、

関心との関連を検討するために「好き嫌い無群」「好き嫌い有群」という2つの群に分けて検討す ることとした。

3.3.1調理活動との関連

 調理活動中の観察項目である「調理操作を行う」生起率、および「友達の調理を見る」生起率、

について調査結果を見た。時間見本法では、特定の活動の生起率によって時間的な変化を表すが、

「調理操作を行う」生起率は28.9~68.9%、「友達の調理を見る」生起率は8.1~27.0%となり、

第1回目調理実習と第2回目調理実習の差は見られなかった。さらに、群による違いも見られなか った。つまり試食の時間に評価的な語りをするのかどうかは、その前の調理活動中に「調理操作 を行う」「友達の活動を見る」生起率との関連を見出すことはできなかったということになる。

3.3.2調理技能の習得に対する認知と関心との関連

 表7には、調理技能に対する認知得点と関心得点を事前事後とその差とともに群ごとに示した。

(8)

調理技能の習得に対する認知の得点について、2要因(群×時期)の分散分析をおこなったところ、

時期の主効果が有意傾向にあった(F=3.77,p<0.10)。これは、主として好き嫌い無群の得点 が上昇していることによると考えられる。

 一方関心得点においては、2要因(群×時期)の分散分析の結果、群および時期ともに主効果 は有意ではなく、群×時期の交互作用が有意である傾向が認められた(F=3.86,p<0.10)。さ らに下位検定を行ったところ、好き嫌い有群において事後に有意に得点が低い傾向が示された(F

=4.49,p<0.10)。好き嫌い有群の児童は、調理実習前に比べて実習後に関心得点が下がる傾向 を見せたのである。

 以上のことを整理すると、好き嫌い無群の児童は、調理実習を経験することによって、認知の 得点が増加し、一方の好き嫌い有群の児童は、関心の得点が調理実習をへて下がる傾向にある。

嫌いな野菜を食べることは、たとえ調理実習で自ら調理したとしても困難であるということ、また、

この嫌いな野菜を食べなければならない困難な経験によって、調理への関心が減じる傾向がある ということが示された。

 先に事例でも示したように、好き嫌い無群の児童は、自ら調理したものをゆっくり味わい、おい しいからと友達にも勧める様子が見られた。つまり、味わい共有するということから、評価という 活動につながることが推察された。さらに、このことが、調理技能に対する認知を高め、調理が できるという自信をはぐくむことになると考えられる。

 つまり、試食活動が評価活動となりうるかどうかは、調理活動を行ったあとに、調理する食材 を味わって食べることができるか否かに関わっている。本研究の題材であるゆでる野菜は、数あ る調理の中でも野菜嫌いとする児童にとっては味わって食べることが困難な状況となりやすいもの であることは容易に想像できる。そのため試食活動中の語りは「まずい」「きらい」といった単純 なものとなり、試食活動時の評価活動につながりにくいと考えられる。

4.本研究の結果から調理実習の試食を考える

 試食活動中に、児童が何を語っているのかについては、ほとんど研究対象とされてこなかった。

本研究では、9名の児童の語りを録音、分析したことによって、ゆでた野菜サラダを試食する際に、

表7 好き嫌いの有無群別(語り分析)からみた調理に関する認知と関心

(  )内は標準偏差 児童

№ 性 別

調理技能に対する認知 得点 調理への関心 得点

事前 事後 差 事前 事後 差

好き嫌い無群 2 女 4.8

4.88

(0.38)

5.5 5.35

(0.34)

0.7 6.0 5.65

(0.36)

6.0 5.73

(0.28)

0

3 男 4.7 5.2 0.5 5.2 5.4 0.2

6 男 5.5 5.8 0.3 6.0 6.0 0

9 男 4.5 4.9 0.4 5.4 5.5 0.1

好き嫌い有群 1 女 4.7

(0.43) 5.52 5.4

(0.31) 5.58

0.7 5.8

(0.11) 5.80 5.6

(0.27) 5.56

-0.2

4 男 5.8 5.9 0.1 6.0 5.5 -0.5

5 女 5.5 5.9 0.4 5.8 5.9 0.1

7 女 5.9 5.6 -0.3 5.7 5.7 0

8 女 5.7 5.1 -0.6 5.7 5.1 -0.6

(9)

嫌いな野菜をどうしようかと苦戦する児童の実態が明らかになった。そのような経験は、調理への 関心を減じる傾向があることも明らかになった。

 一方で、ゆでた野菜をおいしそうに共有しながら試食する児童たちは、自分の調理活動を振り 返り、おいしく野菜をゆでるための要点を実感として理解していた。このことは児童自身の調理へ の関心を持続させるという傾向があることがわかった。

 野菜の好き嫌いは調理実習のみならず、食教育においては重要な課題である。特に小学校高学 年以降の児童生徒においては、食べた経験の少ないものを好まない、食べようとしないという傾 向があり、学校給食においても指導の難しさが言われている。本研究の結果からは、この好き嫌 いの問題が、調理活動の評価に関連しているということが明らかになった。特に本研究が対象と した調理実習の題材は野菜であることから、嫌いな児童の興味関心が低いということもあったで あろう。

 ただし、本研究の結果を性急に一般化することは避けなければならない。また、この結果をも とに好きなもの、食べられるものだけを題材にして調理実習を計画することも教育的ではない。試 食活動における評価は、食べるという五感を使って作ったものの出来具合を感じること、個々の調 理活動との関連を振り返ることにある。とすれば、食べ物の好き嫌いにかかわらず、児童の食べ るという行為だけに頼らない客観的な評価の方法を考える必要がある。たとえば、色や硬さやわ らかさなど目で見たり触ったりしてわかる方法を取り入れる、調理方法の科学的要点とできばえと の関連をはかって評価するなど、調理題材ごとに評価の方法を考えることである。

 本研究の結果は、観察対象児童9名による結果をもとに考察していることや、課題解決的な2 回にわたる調理実習を対象としていることから、あらゆる調理実習に当てはまる知見とはいえな いかもしれない。ただし、多様な要因が複雑に絡み合って営まれる調理実習を対象とした研究は、

このような一つ一つの研究を積み重ねていくことからはじめる必要があると考える。本研究はその 端緒となる研究と位置づけたい。今後は他の題材や中学高校において同様の研究を蓄積すること が課題である。

注1)調理実習の研究は、家庭科教育学会誌掲載の論文だけでも、156本(創刊号~52巻第3号)の論文 を数えることができる。

注2)本研究に先だって行った予備調査(2010年2月実施)では、6年生で調理に関係のない話をする事 例がみられたことから、調理実習に慣れていない5年生を対象とした。

注3)本研究では、発話だけを対象とするのではなく、個々の児童の調理実習での活動を勘案しながら試 食活動の語りを対象として分析を加えることから、一般的な会話分析(好井1999)を援用しつつも、

調理実習という場面にあわあせて分析方法を検討した。

注4)時間見本法とは、頻繁に起こること(行動)を生起率で表し、行動の変化の様子・行動の特徴を示 す研究方法である(中澤1997)

謝辞

本研究において調査にご協力いただいた児童および担当の先生方にこの場を借りて御礼申し上げます。

引用文献

林美和子,住田佳奈美,江洲りょうこ,福田公子.(2008).中学校「50分の調理実習」授業のエスノグ

ラフィー、日本家庭科教育学会誌 51(2),87-95.

(10)

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The Study of Tasting in Cooking Classes

KAWAMURA Miho

Faculty of Education, Saitama University

SATOMURA Tomomi

Kanagawa University

Abstract

The cooking classes is the most interesting class in home economics for many students.

There are many people who remember their cooking classes from their schooldays. A lot of stud- ies about cooking classes in home economics produced much knowledge of students’ cooking skills and the actual conditions in cooking classes. However, there werevery few studies concern- ing tasting in cooking classes. Tasting is usually arranged after the cooking processes and regarded as evaluating dishes.

This study aimed to realize a relationship between the cooking process and tasting in cooking classes ; to examine the relationship between the tasting of the dishes and how thestudents evalu- ate their cooking skills.

Observation and recording were conducted with nine students during the lesson “boiling veg- etables” in an elementary school, and the data was analyzed by the authors. And two categories (the way of cooking and the foods disliked) were derived from the narratives in tasting.: Students talked about only the cooking processes and the dishes, There is no relationship between the narra- tives in the tasting and the cooking processes. Students took the tasting of the dishes as an evalu- ation. However, students who disliked foods could not evaluate the dishes, and they lost interest in cooking.

Key Words : tasting cooking class elementary school students’ narrative

参照

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