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戦後 70 年間のわが国の建築活動の結果と課題および対応の 方向

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はじめに

 昨年2015年,太平洋戦争終結後70年を迎えて わが国では,様々な分野において多様な角度から の特集,論評,議論がなされてきた。それらを並 べて観ると,経済,科学技術や文化の面では課題 を残しつつも大きな成果があったと評価する一方 で,政治・社会面では目指すべき方向に関する立 場の違いから,評価は大きく分かれているように 見受けられる。

 本稿では,建築と言う技術的な側面と社会的側 面とが拮抗する分野にあって,これまで70年間の 建築活動から浮かび上がって来た問題点を取上 げ,それらが生じて来た背景を探るとともに取組 むべき課題と克服する方向について,日本建築学 会の特 別 調 査委員会* 2 での提 言の基となった考察 を紹介する。

 

1.  戦後 7 0 年を経たわが国の建築に係る          様々な状況

1)建築活動の主な流れ

 わが国では,第二次世界大戦,太平洋戦争末期 の1944年末からの連合国軍,主に米軍の戦略爆 撃により全国で200以上の都市が戦略爆撃を受け た。第二次世界大戦時の爆撃にあって連合国軍側 の枢軸国への対応は,ドイツ,イタリアの両国へ とわが国とでは戦略爆撃の方法が大きく異なった ことはよく知られている。石と煉瓦の建築による

都市へは主に爆発力の強い爆弾が使われたのに対 し,木と紙による都市へは主に燃焼力の強い焼夷 弾が使われた。その結果わが国の被災面積は6 万4000ha,全住戸数の約2割の約223万戸が焼失 し *3,空襲を受けた都市は文字通り灰塵に帰した。

この,都市部における大量の住居の喪失は,人々 の復興活動そのものを困難にする深刻な事態であ ることから,政府には早急の対応が求められた。

そこで1945年11月に戦災復興院が設置され,同 年12月には戦災復興都市計画基本方針が閣議決 定されている。

 方針は空襲で被災した全国115都市の復興に当 たって,都市の効率的な形態形成,保健,防災を 主眼として,国民生活の向上と地方の美観を高め るとともに,気候,風土に対応すると言ったこと を目標とした,当時の状況としては極めて順当な ものであったと言える。特に都市計画レベルでの 可なり大胆,画期的な方針と目標は,その後,必 ずしも全て実施されはしなかったが,わが国の都 市の形態を大きく変化させる基となったと考えら れる。

 これに対して住宅建設に関する取組としては,

市街地の密住を避けて「堅牢建築物」の建設を促 すための土地区画整理を,過小区画の整理と言っ た面での対応と,住宅敷地造成事業により対応す ると言う,極めて限られたものであった。また建 築物については,不燃,保健,防災を目指した構 造と設備への指導と監督を強化すること,都心部 での建設は「堅牢建築物」にすること,敷地内の 空地を確保するための建蔽率制限を強化すること

戦後  7 0 年間のわが国の建築活動の結果と課題 および対応の 方向

木 俣 信 行

* 1

《論 文》

(2)

に限られていた。

 東京での戦災復興に関与していた東京大学の池 辺陽教授は,戦災復興に当たるわが国の住宅政策 を振り返り筆者に,ドイツの取組みとわが国との 彼我の差を指摘されていた。即ちドイツにあって は,先ず国民のライフスタイルが将来どのような 方向に展開するかについての大規模な調査研究を 行い,これに基づいて復興すべき住宅の在り方を 検討し,計画を立てて行ったと言う。これに対し てわが国は,そのような基本的な調査研究は行わ れず,専ら建設する住戸数を如何に増やすかに関 心が集中していた。その結果,限られた財政的,

経済的制約の下では戸当たりの建設費を下げてよ り多くの住宅を建設することが主流となり,住宅 の質的な面での充実を図ると言った対応が等閑に なった。こうした中で池辺陽からは「立体最小限 住宅」,増沢洵の「最小限住宅」など,機能主義 と称される一連のプロトタイプの住宅生産につい ての提案がなされている。この流れがその後,高 度経済成長下の人手不足を補って住宅を供給する 手段としての工業化住宅が,わが国にあっては主 流となる源となっている。

 一方戦後復興期の住宅建設は専ら国産材に拠っ たが,戦時下で疲弊した山林には供給力が大幅に 不足していた。このために計画植林が進められ,

結果的にわが国の森林面積 2508万 ha の内41%に 当たる1029万 ha が人工林,内44%の448万 ha では広葉樹からスギに植え替えられると言う,極 めて偏った植林が行われた * 3。これが今日,杉花 粉症を広範に発生させる元凶ともなったとも考え られる。

 戦後日本の建築は,国民のライフスタイル,生 産環境が大きく変わるなかで,如何なる方向に進 むべきか,未だ模索の最中にあるとも言えよう。

2)建築物のスクラップアンドビルトによる膨大         な国富の損失

 このようにわが国の建築物に係る戦後70年の スタート段階は,建築物は破壊されてもその素材 としてのレンガや石は残っていたドイツ,イタリ アと全く異なり,再建のための建築材料が乏しい

と言う状態であった。加えて,焼失した住宅戸数 が膨大であったため,建設の目標としては数が挙 げられ,質は余り問われない状況が続いた。こう した状況がわが国の建設の基本的な特性を構成し て行ったとも考えられる。

 即ち,日本の建築物は業務用,住宅用を問わず 鉄筋コンクリート造,鉄骨造であっても,経済的 な利益の確保・向上を狙って築後数十年程度で建 て替えることが一般的とも言える状態となってい る。その原因の一つとして上述のように,建築物 を地域の資産,共通財産として捉えるという考え 方が,特に太平洋戦争以降,わが国に欠落してい ることが考えられる。

 図−1は公表されている国土交通省建築着工統 計にある,1948年から2014年までの66年間の建 築着工床面積の推移である。これによると1948 年から50年代は3千万〜4千万 ㎡ 程度の水準で あったものが,1960年代に入ると経済成長が進 む中で建設される床面積も急速に増大し,70年か ら2000年までの31年間は年間総着工床面積が2 億㎡ を超えている。その後,建築着工床面積は山 谷はあるものの,平均,住宅1億2千万㎡,住宅 以外(産業用など)の建築物1億2百万㎡,合計 2億3千万 ㎡ 程度と言う高い水準で推移してい る。結果として1948年〜2014年の66年間で着 工床面積は住宅58.1億㎡,住宅以外48.9億㎡,合 計116億 ㎡,総着工住宅戸数7134万戸建設して きたことになる。またこれによる推定建設費は,

住宅567兆円,住宅以外(産業用など)875兆円 の,合計1439兆円に達している。(「国土交通省 建設工事デフレーター2005年度基準」により1960 年〜2014年の非住宅および住宅の建設費を補正。

但し,1948年〜1959年については1960年のデフ レーターを使用)

 一方,国土交通省総合政策局建設統計室が平成 27年に公表したストックに関するデータを見る と,平成27年1月1日現在で住宅は約54 億9587  万㎡(対前年比約1.2%の増加),住宅以外は約18  億3044 万㎡(対前年比約0.2%の増加)となって いる。

 このことからは,66年かけて住宅は58億㎡ 建

(3)

設したものの残ったのは55億 ㎡,住宅以外では49 億 ㎡ 建設したものの残ったのは18億㎡ というこ とが推定される。

 ここで,現にストックされている建築物が全て 新しい建築物に置き換わると言う意味の指標とし て,

 代替周期 = ストック床面積÷平均年間着工床          面積………(式1)

     = ストック床面積×建設期間÷期間         建設床面積合計………(式2)

と 定 義 す る。こ の 式2に,わ が 国 の1948年 〜 2014年の66年の建設実績を当てはめてみる。

 そこで先ず,ストック床面積については国土交 通省の報告による値とし,建設床面積には66年 間の着工床面積を当てはめるものとする。当然ス トック床面積には,1948年以前に着工された建築 物の床面積も入っているものと考えられる。本稿 執筆段階ではそのデータを得ていないので,これ については次のように想定した。即ち住宅につい ては,「戦災復興 日本再生の記憶と遺産」* 4

「全住宅の約2割の223万戸が焼失」とあるので推 定1115万戸が1948年に着工され,その床面積は 1948年から2014年までの住宅の平均住戸面積 81.4㎡/ 戸に準ずるものとする。他方産業用建築 物については,米軍が生産施設を爆撃目標として 徹底して攻撃したことから,敗戦時に残存した産 業用建築物はほぼ全て失われ産業用建築物の建設 は1948年から始まったものと仮定する。

 以上のように大雑把に仮定しても全体的な建設 量のイメージは描けるものと考えられる。こうし た想定をすることで,代替周期については次の値 が得られる。

  全建築物:41年(66年間に1.6回代替する)

  住宅建築:54年(66年間に1.2回代替する)

  住宅以外:24年(66年間に2.7回代替する)

 住宅以外は産業用が大きな比率を占めているの で,事業目的に沿わなくなるとスクラップされ,

新たな事業のためにビルトされると言う流れが定 着していることを,代替周期は示している。また 住宅にあっても半世紀程度と言う代替周期の値 は,親の代から孫の代に移る段階で取壊されると 言う,わが国ではほぼ一般的になっている風景を 裏付けていると言えよう。

 この代替周期については,同じく建築学会の

「建築と地球環境特別研究委員会」の報告書* 1 に,全建築物の代替周期に関する欧米と日本の比 較結果が以下のように紹介されている。

   日本:         30年    イギリス:     141年    フランス:      85年    ドイツ:     79年    アメリカ: 103年

 図−1からもわかるように,1990年頃の建設量 は戦後66年の間でも高い水準にあったから,日 本の代替周期が短くなるのは当然とも考えられる が,日本と同様,建設量が多いとされるアメリカ 図−1 建築着工床面積(万㎡)の推移

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であっても代替周期は100年を超えている。更 に,第二次世界大戦後の復興対策が未だ尾を引い て建設量が多かったと考えられる独仏であって も,代替周期は日本の2.5倍以上となっており,

建築物の耐用への考え方の彼我の違いが大きいこ とを示唆していると言えよう。

 これに対して図−2は,加藤,野城等によって 研究された,建築物の除却年数に関する調査結果 である。ある年に建設された建物が年を経るに 従ってどれだけ除却されていくかを見ると,建物 構造によって異なる傾向が見られる。除却された 建物数が半減するまでの年数を比較すると,短い のは木造共同住宅の30年強程度,続いて RC 造事 務所ビルで35年程度,木造専用住宅は40年弱,

最も長いのは RC 造共同住宅で50年強となってい る。

 この除却状況からみても,わが国の建築物の平 均耐用期間は半世紀足らずであることは共通して いると言えよう。

 建築物に世紀を超えて利用し続ける上で必要な 物理的技術的耐久性を持たせることは,わが国の 建築界では可能になっている。しかしそのために 必要な費用の増加が短期的には投資の意思決定に 影響し,発注者・建築主からは建築物の超長寿命 化に必要な投資への理解が得られないケースが少 なくない。今日にあってもわが国の多くの発注者・

建築主は,建築物の建設にあってできるだけ少な

い投資で当座の建設目的が満たされればそれで良 い,とするのが一般的になっているように見受け られる。結果的に,せいぜい2,30年から半世紀程 度の,建築物にとってはごく短い利用期間でスク ラップアンドビルト(S & B)しても良いように建 築物を建てる方向を選択していることになる。北 欧では自動車の耐用年数が20年を超えるとも言 われている。わが国の建築物はそれらの国々から みれば,耐久消費財と同等と言うことになる。

 加えてわが国では,組織・企業が所有する土地 の持つ収益性を高めるために,築後2,30年程度 の建築物であっても建替えることに躊躇しない。

現に21世紀に入ってからは,著名な超高層の建 築であっても建替えられる例は枚挙に暇がない。

更にわが国の多くの人々にとって,住むことを目 的に土地を求める際には,そこに建っている住宅 を取壊し自分好みの住宅に建て替えることに疑問 を持たない。わが国において建築物の膨大な量の S & B が繰り返されて来たのは,こうした人々の 建築物に対する姿勢,考え方が背景にあるとも言 えよう。

 この S & B は,対象となる建物が建築主の利用 目的(収益性も含め)や建築主の嗜好に適わなく なったと言うことが切っ掛けとなるが,S & B を された建築物の中には,社会,特に地域社会に とって大きな価値が残存していたものも多かった のが現実でもある。

 前 述 の よ う に 着 工 統 計 に よ れ ば,わ が 国 は 1948年から2014年にかけて建築物に1,439兆円投 資し,116億 ㎡ の建築物を建てて来た。その内ス トックとして残っているのが73.7億 ㎡ であるか ら,建設費は床面積に単純に比例するものとして 取壊され廃棄された金額を求めると,553兆円と なる。

 わが国の国富は3000兆円とも言われるが,そ の規模からすればスクラップとして廃棄された額 は国富の18%に達することになる。スクラップ された建築物の多くは耐震性や耐火性など安全面 で問題があったものも少なくないであろう。また S & B によって新たに建替えられた建築物がより 多くの価値を生み出すものとなっていることは考 図− 2 建築物の除却年数* 5

(5)

えられる。しかし代替周期は欧米の約半分以下の 短さである。その一方,欧米の長寿命の建築物の 価値は低いかと言えばそうではなく,寧ろ全体と しては地域社会の財産となって現に活用されてい る。こうしたことからも,わが国においてスク ラップされないような建築計画上の対応策が得ら れる可能性は十二分にある。

 この,国家的な富の損失とも考えられるわが国 の S & B 常態化の原因は,どのようなものがある であろうか。これにはまず建築物を私的財産とし て考え自己都合,自分の好みで建てることが一般 的になっていることが挙げられる。また,建築主 の資金的制約の下で,妥協の結果としての建設が 多いことも原因の多くを占めるものと考えられる。

 図−3は,前掲着工統計を基に,着工された住 宅の戸当り床面積の推移を見たものだ。1960年代 に欧米から「ウサギ小屋」と揶揄されたわが国の 住宅も,次第に規模は大きくなっていたものの,

1990年代初頭のバブル経済崩壊とそれに続く不 況下で伸び悩み,再び規模の拡大が見られたが 2000年前後の経済停滞の下で頭打ちとなるなど,

一進一退を続けている。この状態を見ると,住宅 面積に関しては未だ人々が満足できる水準に達し ていないが,経済状況が足を引っ張っているとも 見られる。

 住宅の面積規模が十分の水準に至っていないと 言う状況に加えて,地域社会の共通財産に関する 人々の認識の問題もある。地域の共通財産として

地域の人々が考える建築物は,主に神社仏閣,公 共建築物,およびたまたま残存している伝統建築 物に限られていると考えられる。更には,明治維 新以降の西欧化をひたすら目指して来たわが国に あって,その社会のニーズに適うとともに,わが 国の風土・伝統・文化に適うような建築物の姿を 描き切れていないこと,公共の福祉優先の土地利 用が進まないことなども S & B からの脱却が難し い原因として挙げられる。

 社会資本の維持や充実に当てる財源が不足する 状況は,少子高齢化と人口の一極集中が極点社 会 * を招いているわが国の財政状況の下では,今 後益々深刻の度を高めるものと予想される。

 今日,多くの鉄道・道路,港湾,堤防,上下水 道を始めとする社会インフラが老朽化に伴う存続 の危機に直面しているが,建築物についても老朽 化は進むとともに資産としての劣化も進んでい る。にもかかわらず,今後ともこうした状況の打 破,克服に要する財源の不足が続けば,建築物を 含む社会インフラの維持を困難にし,結果的に地 域の人々の暮らしの継続を困難にすることに繋が ることが懼れられる。

 今日でもわが国にあっては,建築物の S & B に は膨大な資金と資源を費やしている。S & B され る原因を除去するには,

 イ . 構造材料上の技術的な対策に加えて,

 ロ . 使いやすく利用の変化を受容する空間のあ     り方を追求する建築計画的な対応,

図−3 着工住宅の面積規模(裃/ 戸)の推移

(6)

 ハ . 建築物の外観を地域の景観形成に馴染ませ     リードする意匠上の対応

が挙げられる。

 建築物にあって内部空間については,利用者が 変われば変更されることは当然であり,これへの 対応はこれまでと変わりはない。原因除去のため に前述「イ」への投資増は不可避だが,「ロ」お よび「ハ」については,建築主,建築計画・設計 者の工夫・知恵で,大きな投資増に因らず対応が 可能な部分でもある。

  S & B は見方を変えれば,良好な資産としての 建築物を社会に蓄積する絶好の機会にもなりう る。従来のような S & B を繰り返す余裕は,超少 子高齢社会に直面するわが国には,最早全く無い と考えるべきだろう。

3)中心市街地を構成する建築物の在り方が不明確  歩いて暮らせるまちは,かつて自動車社会到来 以前にはわが国でも一般的なまちの姿であったの だが,それはいわゆる弱者にとって好ましいだけ ではなく,様々な利点のあるまちの姿でもあった。

従って今日,わが国がその方向に向けてまちづく りを進めているのは当然のことと考えられる。

 わが国の都市は殆どが,平均階数が2未満の建 物で埋められ,同時に市街地が旧市街地から郊外 に拡大(スプロール)して形成されている。図−

4は,そうしたわが国の都市の中から5つの異 なった類型から31都市選び,都市の市街化の程 度とそこでの人口密度を表したものである * 6。類 型と夫々のサンプルとしては a. 田園の只中に成 立しているまち,b. 工場を中核に発展したまち,

c. 夫々の地方で中核を成すまち(県庁所在など)

については夫々7都市,d. 政令指定都市は5市,

e. 関東・中部・近畿の巨大都市については5都市 の都合5類型,31都市で,できるだけ全国に分布 するように選んだ。図−4ではこれらについて,

夫々の行政区域の面積に対して市街化されている 面積を市街化面積率(%),その面積に全住民が 住んでいると仮定して人口密度(人 /ha)を算出 し,プロットしている。

 この図−4から分かるように,全体としては市 街化面積率が上昇すれば市街化部人口密度も上昇 する様子は窺えるが,全体として R2 が0.3程度と 明確な関係性はみられない。しかし,夫々の類型 毎の平均値の回帰直線の R   は0.95と大きいこと から,a 〜 e の類型間では市街化部面積率と人口 密度の間にはある程度の関連性が考えられる。た だ何れも人口密度は最高で170人 /ha 程度以下に 止まっており,ヨーロッパの都市の人口密度とは 各段の差がある。

 既に多くの地方自治体では,都市の中心部に住 宅及び医療,福祉,商業その他の居住に関連する 施設の整備を誘導し,コンパクトシティ(CC)を 構築する取組みが進められている。しかし,CC という概念で示されるまちが国全体の中ではどの ような位置付になるのか,それをどのような対象 地域に,如何なる手順で造り上げていくのか,国 民の理解はまだ十分には得られていないと見られ る。また,現状の低層,低密度で広がる伝統的な まちにおける暮らしは,CC にすることによって どのようになるのか,人々のまちの暮らしへの願 いに応え,かつ国や地方の政策の狙いと合致する 方向はどのようなものか,検討すべき課題はまだ 多く残されている。

 わが国でヨーロッパの都市に近い形で市街地を 形成している地区に,幕張ベイタウンがある。こ こは計画面積84ha に対して計画人口は26,000人 図−4 都市の市街化率と人口密度

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であることから,人口密度は309人 /ha である。

この幕張ベイタウン並みの人口密度のまちは,国 が目指す CC の方向に近いものとも考えられる。

 しかし今日,その中核を成す建築物の在り方に ついては,特段の方向は示されておらず,将来に 亘って発生すると予想される多様な空間需要に応 え得るような解法についても,人々の納得が得ら れている状況とは到底言えない。今後,多くの人々 にとって暮らしやすい居住環境を,高い人口密度 の下で実現しようとする場合,克服されねばなら ない課題は多い。その意味で,ヨーロッパのまち からは,今後わが国が CC の方向でまちづくりを 進める上では,学ぶべき事柄,検討すべき課題が 依然として多く残されている。

4)疲弊が止まらない地方都市の中心市街地  増田寛也と人口減少問題研究会が指摘している ように*7,太平洋戦争後の高度経済成長政策の下 で多くの人々が地方から大都市へ職を求めて移動 し,わが国は極端に大都市に人口を集中させる一 方で,地方を急速に疲弊させる結果を生んでいる。

 地方の疲弊は限界集落と共に,特に中小都市の 中心市街地において一層顕著である。大規模店舗 の規制緩和は多くの商店街の活力を奪い,空店 舗,空家,空地・駐車場が増え続け,再生への動 きは勿論,展望も持ちえていない地区が多い。し かもこうした疲弊した地区を構成する建築物の多 くは継続的な利用に堪え難いものと見られるとと もに,存在そのものが崩壊や火災などの危険を内 包している。

 更に都市に多く建設されているマンションの存 在も問題をはらんでいる。マンションの住民は一 般にそれが存在する地区の住民との融和・協調を 欠く。更に殆どのマンションが地区のまちの連続 性・景観を損ねる原因となっている。このように マンションは,安定して地域の豊かな活動を継続 的に受止めることが難しい存在となっている。し かし地方都市の中心市街地は歴史的には長い年 月,人々の生活や事業活動が繰り広げられてきた 場であり,価値が高い地区が多い。こうした土地 が活かされず放置されている状況が続くことは,

社会的にも大きな損失とも考えられる。

 地方のまちの活性化への取組みは1990年代か ら顕著になっているものの,大きな成果を挙げ得 た事例は未だ少ない。その原因としては,疲弊し た中心市街地でどのような「まちの暮らしのある べき姿」を目指すのかが定まっていないことに起 因しているとも考えられる。今日,多くの地域で は,まちの現状や問題点などについて住民や事業 者を中心としたステークホルダの間での共通の認 識,合意が得られていない。

 まちづくりにあっては,どのようなまちの構 成・姿があるべきか,考えを広く議論することが 難しい。またあるべき姿について共通の認識が得 られていない状況の下では,人々が求めるまちを 実現するために必要な原資をいかにしたら用意で きるのか,そこでの暮らしや活動に係る事業者や 居住者をいかに招き寄せるのかなどの,多様な課 題に応えていく解法への合意は容易には得られな い。このように,危機的状態にある地方都市に あっても未解決の問題が数多く残されている。

5)雑然として特色の無いまちの景観

 わが国のまちの景観の多くは形態,色彩,材料,

様式がマチマチな建物が雑然と並ぶともに,頭上 には電線が雑然と空を横切っており,どのまちを 訪れても同じような印象を与える景観が目に入 る。近年完成した大都市の再開発ビル群において も,隣接する建物の間でデザインがまちまちのま まであり,デザインを調和させるような配慮は殆 どみられない。多くの人々は住環境の利便性や快 適性の改善は評価しても,まちの人工的な景観の 多くは,国民から肯定的な評価は得ていない *8。 それだけではなく,海外から日本政府へは都市政 策の改善に関する勧告がなされ,更に環境倫理学 の加藤尚武からは日本建築学会が開催した地球環 境問題に関わるシンポジウムにおいて,建築関係 者の責任を問う発言があったり,法学の五十嵐 敬喜*9 など多くの識者からの景観問題に関わる 指摘もなされたりしている。

 これに対して国は,いわゆる景観緑三法等を 2005年に施行し,人工的景観の改善に対応して来

(8)

て い る。し か し な が ら,法 施 行 か ら10年 以 上 経った今日でも,その成果は未だ顕著に得られて いるとは言い難い。2020年のオリンピック東京 大会開催に向けて,わが国は海外からの客を年間 2000万人とする目標を立てている。これにより日 本の景観は,海外からのより幅広い人々による評 価を受けることになるが,果たしてそれまでにわ が国のまちの景観に関して顕著な改善が為される 得るか,現状の取組みを見る限り甚だ疑問であ り,心もとない。

 今日でも辛うじて保たれているわが国の優れた 自然景観のように,かつて江戸時代には海外から の来訪者に称賛されたわが国の都市の景観,まち の景観を人々の評価に堪えるようなものとするに は,法を含めた制度の整備だけでは不十分であろ う。魅力的な景観形成は,そこに住む人々の美意 識の反映でありそのための行動の結果でもある。

従って地域の景観形成については,建築物の所有 者,建設事業の建築主・事業主の理解と当事者意 識が不可欠と考えられる。

 また,わが国のまちの景観の現実を診ると,如 何なる景観を目指すのかが明確にされていない地 域,地区が殆どと見られる。こうした状況を克服 するには,住民自身が自分達の美しいまちの景観 は如何にあるべきかを追求するとともに,目標と なる地域の景観を実現することに自らも積極的に 関与するようになることが,必須の要件と考えら

れる。

6)気候変動に伴う激甚災害の増加への対応の必   要性

 漸く今日,IPCC を中心とした調査研究により,

今後長期間に亘って地球温暖化が益々進み,これ に伴い異常気象が常態化することは世界が共通に 認識するものとなった。わが国では更に,東南海 大地震を始め巨大地震の発生が予想されている。

これらによってもたらされる甚大な災害の脅威に 地域社会が備え,住民に暮らしの安全・安心を保 障することは国としての喫緊の課題と考えられ る。図−6は,ドイツ・ミュンヘンのジオリスク リサーチが世界の自然災害による経済的損失を集 計したものだが,自然災害は年率12%の勢いで増 加していると言う。UNEP は,今後地球温暖化の 緩和策が十分に効奏しなければ,2065年には世界 の GDP を自然災害による経済的損失が上回る危 険があると指摘している。

 わが国では近年,巨大な台風などによる激甚災 害が予想される場合,自治体から,避難の呼びか けが該当地域の数十万世帯になされることが珍し くなくなりつつある。しかし,現実に大規模な避 難が実施された場合には,却って大きな社会的混 乱と二次的災害を招く可能性も危惧される。仮に 予想される気象災害に際して,現実に居住・生活 している施設から災害に対して相当の防御が可能 な施設へ「避難」するとした場合,これによって 生じる膨大な避難民を適切に移動させる手段,そ して必要な期間滞在させ生活できる施設を予め確 保することは,地域にとって経済的・財政的に大 きな負担となる。その意味で,移動を伴う大規模 な避難は,実施可能な対策とは考えられない。

 人々に呼びかける「避難」が,現実に居住・生 活している建築物の中で比較的安全な場所への移 動を意味することも考えられる。しかし,起こり うる自然の猛威に耐え,暴風による家屋の破壊や 段波・洪水による浸水などの危険から逃れること ができる空間が確保されている建築物は,未だ多 くは存在し無いと考えられる。更に,意図してそ のような空間が造られているのか,またそのこと 図−5 日本人の都市景観評価

(9)

を建築物の利用者・居住者が認識しているかどう かも不確かである。このようなことから,予想さ れる激甚災害に対して,該当する地域の住民全体 を対象とした大規模避難によって住民の生命の安 全を確保するという対応策は,その有効性に関す る疑問を払拭できない。

 このように,地域避難所への避難というわが国 において今日一般化している対応策は,その災害 の規模が大きくなると実施可能かという問題を内 包している。土石流による災害や巨大な津波・段 波などによる沿岸の浸水に関して,堤防や防潮堤 などを強化して対応する従来の方策は評価できよ う。しかし極端に高い堤防や防波堤を築くこと は,その地域の日常生活を維持する上では大きな 疑問がある。また,台風の巨大化に伴う都市洪 水,竜巻・烈風が引き起こす飛散物や風圧などの 外力に耐え生命の安全を保つことがわが国の多く 建築物にとって少なからず困難なのは,これまで の巨大台風による被災の実態からも,十分推定さ れる。

 今や,異常気象によって極めて危険な災害の発 生が高い確率で予想される状況となっている。こ うしたことから,2015年3月に仙台市で開催さ れた「第3回国連防災世界会議」では,気候変動

に伴う異常気象に適応する対応策を講ずる必要性 が議論されている。*1 

 一方わが国では巨大地震による激甚災害が継続 的に発生している。この場合も,家屋を破壊され た人々が長期間に亘って避難生活を強いられるこ とが多い。これは人々の健康と生活,生産活動に 大きな打撃を与え,地域の疲弊を招くことに繋 がっている。伝統的建築のみならず,現代に建設 された建築物の多くが致命的なダメージを受ける 事態が継続している状態は,社会の学習力に問題 があるとさえ考えられる。

7)わが国の建築を係る問題状況の纏め

 以上述べて来たように,これまで話題にされて きた災害や社会問題から現存するわが国の建築物 を見直すと,様々な問題があることが分かる。今 後急速に進展する少子高齢社会の下では,社会イ ンフラへの投資余力が減退するものと予想され る。これまでわが国に築かれてきた建築物が,果 たして今後,人々の生活の安全・安心・安寧を保 障する役割を果たせるのかどうか,多くの疑問が ある。

経済的損失(2006年の価値基準による) 

保険損害 (2006年の価値基準による) 

経済的損失の動向  保険損害の動向  200 

180  160  140  120  100  80  60  40  20 

0

1950   1955   1960   1965   1970   1975   1980   1985   1990   1995   2000   2005 

 

図−6 異常気象による損害の増加実態

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2 .  建築物に係る諸問題解決の方向

1)問題解決の方向

 以上述べて来たように,太平洋戦争後の70年 間にわたるわが国の建築活動にあっては,幾つか の面で深刻な問題が生じており,多くは未だ解決 に至っていない。

 建築活動の主な流れ(上記1.1)参照)を見る と,建築物の建設にはライフスタイルなどの変化 を受容しているものの,その時期の経済環境が大 きく影響して建築物のあり様を規定してきたこと が分かる。即ち,建築物のあり様はいわば発注者 として投資出来る資金次第となっており,わが国 の建築物が目指すべき方向には目が向いていな かった。伝統的日本家屋,木と土を主たる材料と した従来の家造りと,椅子式ライフスタイルに対 応した鉄・コンクリートによる洋風の建築との間 でどの方向を目指すのか,それがわが国に如何な る意味を持つのか,考え方はいまだもって定まっ ていない。

 建築物のスクラップアンドビルト(上記1.2)

参照)については,それが産業の活性化に役立っ ていると言う見方,建設に要する費用と資源の量 はライフサイクルで見ても僅少であると言う見方 が依然として少なくない。しかしその見方には,

元々建替えざるを得ないような建築物を大量に建 て,大量の建替え需要が発生することを前提に,

産業構造を維持して来た背景があることは否めな い。大量の建設には大量の建材を要し,そのこと が工業化建材の大量生産を生んできている。こう した建材は確かに大量生産されている時点では安 価だが,数十年先の修繕・改修時には生産されて いる保障はない。その結果,修繕・改修のための 費用が増えることにも繋がり得る。数百年の歴史 的木造建造物にあっては,中核となる柱であって も傷んだ部分を新しい木材で取替え補修している のとは大きな違いがある。工業化建材で建設され た建築物は,S & B でしか経済的には対応出来な いものとなっている可能性もある。いずれにして も S & B は膨大な資源(マンパワーも含め)の消

費が必然となる。

 まちなかの有用な空間を確保するには S & B を するしかないと言う建築物のあり方を根本的に変 えるには,建築物が永く価値を維持し続けること ができる条件を突き詰め,その条件を満たす建築 物の在り方を追求し,そのような建築物を実現す る上で適切な建築プロジェクトを進めていくこと が前提になる。

 前節1.3)および4)でも触れてきたように,

まちは建築物の集合によって形成される。まちで の暮らしを人々が求める背景には,便利で快適,

かつ安全な生活への願望がある。そのような生活 が維持されるには,ある程度の数の人々がその地 域に住み暮らし続けていることが前提となる。そ れには,人々が快適で便利と感じられるような暮 らし,様々な活動を繰り広げるための受け皿とし ての空間が必要となる。

 わが国の多くの中小都市の中心市街地を形成し て来た商店街の建築物の多くは,店舗と一部の関 係者の住宅からなり,より多くの人々が暮らし,

活動する空間にはなっていない。それでも伝統的 な商店では,店主・店員が住み込みであったか ら,中心市街地も人口はそれなりに保たれていた ので,今日とは事情がかなり異なる。太平洋戦争 後,多くの商店従業員は住み込みから通いに勤務 形態が変わり,また商店主自身も通いとなった結 果,商店街は生活の場の性格を失って行った。地 域における商業上で必要とされる基礎的消費人口 を失った商店街は,寂れるべくして寂れてきた。

 都市,取分け地方中小都市の中心市街地は,全 体的には利便性の高い位置に在り,社会インフラ への投資も継続的に行われてきた。こうした地域 が過疎状態になるのは,都市経営上からも大きな 損失であることは間違いない。そこで国を挙げて 推進されているのがコンパクトシティ(C C)であ る。その推進者は都市中心部に住民を回帰させる ための方策を講じている。しかし,土地所有が細 分化していること,土地所有への拘りが強いこ と,所有権の壁が厚く高いこと,その反面,所有 者の資本力が弱いこと,CC の必要性への理解が 進まず,共感も得られていないと言った住民側の

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現状がある。また中心市街地に散発的に建設され ているマンション建築の多くが,まちの景観のみ ならずまちの賑わい,住民の連帯に対しても障害 になっている現実もある。更に為政者側のこれま でのまちづくりに対する不信感が払拭できないで いること等々の要因が複雑に絡み合い,中心市街 地に様々な人々が暮らし活動する空間が貧弱であ る実態を変える肝心の取組みは,中々進まないで いる。

 こうした状況を克服するのは一筋縄には行かな い。それには捩れた筋を一本ずつ解きほぐしてい くことが本道であろう。その出発点として,憲法 で手厚く保護されている財産権の壁を乗り越える ための,土地基本法で目指された公共の福祉優先 の土地利用を促す状況造りがある。多くの人々の 暮らしと活動を受止めるのにふさわしい,豊かな 空間を有する建築物を整備するには,ある程度の 規模の土地の存在を前提とする。中心市街地にそ のような建築物を実現する上で,土地の所有と利 用を切り離す仕組みを整えることは,一つの方向 と考えられる。

 所謂景観緑三法が平成17年に施行され,都市 景観の改善にわが国もようやく重い腰をあげたか に見える。しかし前述(1.5)参照)のように,

多くの人々が日常目にしているのは身近なまちの 景観である。そのまちの景観に大いに影響を与え る要因としては,電柱・電線がある。これについ ては電線地中化を促進する方向での議論が国のレ ベルでも為されている。しかし電線が無くなる と,建築物自体の貧弱さが露呈し,必ずしもまち の景観が改善されるとは言えない。

 まちの景観問題の本質は,そこに住み建築物を 建て住んでいる人々の美意識であり,また自らが 住むまちの景観への関心は低いか殆どないと言う のが実態である。日本からはヨーロッパのまちに 多くの人々が観光に出かけている。その多くの観 光ツアーの売り物が,彼の地の美しいまちであり 建造物である。わが国の人々も基本的には美しい まち,建築物を求めて居ると理解できる。しかし 現実のわが国のまちの景観については,前述のよ うに否定的な評価が肯定的評価を遥かに上回る。

こうした事態を克服するには,人々が美しいと感 じ,地域の特色を実感できる景観を作り出すしか ない。

 美しい景観を造る上で,大きな投資は必ずしも 絶対条件ではない。清水港では港湾に面して生産 施設を有している企業が連携して,生産施設の維 持保全のために予め用意されている予算の執行に 併せて塗装工事の色彩調整を行った結果,魅力的 な港湾景観が形成され,テーマパークに匹敵する 多くの人々を呼び寄せている * 1。景観形成は建築 物の一棟一棟が新築,あるいは改修・改築される 折に,建築主および建築家・設計者の気配りがあ れば,必ずしも大きな投資を要せず対応できる性 格の課題である。そのためには,建築主が地域,

まちの景観造りに貢献する役割・責任を自覚する とともに,目指すべき景観形成の方向が地域で合 意されていることが,先ず問われるのである。

 気候変動によってもたらされると予想される異 常気象は,激甚災害を引き起こす危険性が高い

(前述1.6)参照)。わが国で予想されている自 然災害は,まず地震による損傷・損壊。そして巨 大台風に伴う豪雨や高波・段波による洪水・浸 水,竜巻や突風に伴う飛散物や倒壊物による窓・

外壁や屋根など家屋の損傷,損壊がある。これに 加えて大きいのは,気候変動が建築物内部の快適 環境維持,これに伴うエネルギー消費,GHG 排出 量に与える影響である。建築物の側でこうした問 題に対応するには,地球温暖化の緩和策,および 温暖化の結果生じる異常気象・気候変動への適応 策である。気候変動は長期的に起こる現象である から,そのことを予見し認識した対応が,建築主 には求められる。

 しかしこれらの諸々の課題に,市井の一建築主 が限られた資本力で対応するのは,極めて荷が重 い状況と考えられる。

2)問題解決の上での建築主の役割

 今日のわが国の建築物は,公共建築と私有財産 としての建築物に分けられる。大多数は私有財産 として個人ないし企業などに所有され,あるいは 構築,活用されている。

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 この私有財産としての建築物にあっては,わが 国ではこれまで「建築自由」と揶揄される程に財 産権・所有権が重視されてきた。特に土地が私有 されている場合は,公序良俗に反しない限りその 利用方法を決めるのは所有者の権利と認識されて いる。村山内閣時代に成立した,土地基本法第2 条で謳われている「土地の利用は社会の福祉利用 を優先」という考え方は,残念ながら多くの場 合,土地の所有者・建築主の念頭にはなく,活か されてもいない。建築物についても状況は同様で あり,関連法令に反しない限り,建築物の在り方 を決める建築主の自由は保障されているという考 え方が一般的となっている。

 私有財産である建築物を建設するに際しては,

建築主の目的意識,願望,経済的制約,思想・信 条,嗜好などによって建築事業の方針が決定され,

その建築物が建てられる地域のステークホルダの 意向を受止めるような対応は,現実には殆ど見る ことが出来ない。このような建築プロジェクトの 進め方は,地域の人々が期待するような優れた建 築物を建設,あるいは改修,改築して地域社会に 残す道を閉ざしているとも考えられる。

 しかし,特にわが国が超少子高齢社会に突入す ることで,地域社会の基盤を発展,維持・保全す る経済的余力は急速に失われ,多くの地域で地域 社会全体の安全・安心な暮らしの維持,個々の建 築物の安全と住民の生活の質を維持することが困 難になってきている。最早,建築物に係る問題を 漫然と見過ごすことは許されない。

 このようなわが国の建築物が直面する問題を払 拭する上で,建築主の役割は大きい。

 私有財産である土地,建築物であっても,所有 者・建築主にだけではなく,地域社会のニーズに 応え,予想される様々な災害から人々の生命・財 産を守りつつ,世代を超えて永く利用され続けら れていくように建築プロジェクトを進めること は,建築主が主体的に決定できることである。こ うした考え方を土地・建築物の所有者が持ち対応 するようになれば,1章に挙げた多くの問題の克 服に結びつく。

3)問題解決に資する社会の役割

 このように見て来ると,建築物は建築主の財産 であると同時に,地域社会に永く存在し続けるこ とで,人々に馴染み親しまれ,記憶に残り地域の 象徴,誇りの対象にもなり得ることから,地域社 会の共通財産と見做し対応していくのは,必然的 な方向と考えられる。

 これまでわが国の地域社会の住民には,そこに 建つ建築物の在り様に関し,都市計画段階で発言 できる機会は殆どなかった。また個別建築プロ ジェクトが企画・計画される段階でも,その内容 に発言できるような機会は制度として用意されて おらず,僅かにそれが具体化されようとする段階 で周辺住民の同意が必要とされることで,発言の 機会がようやく得られると言う程度であったと言 えよう。

 こうした実態は,特に土地・建築物に係る財産 権の不可侵性の保障(憲法第29条第1項)の反 映とも考えられる。しかし第1章で述べてきたよ うに,土地とその上に建つ建築物が地域社会に与 える影響は大きくかつ永続的であることを勘案す るならば,財産権に対しては地域の「公共の福祉」

増進のために一定の制限(憲法第29条第2項)

が如何にあるべきかを,あらためて検討する方向 が考えられる。

 既に土地の利用に関しては土地基本法の第2条 で,公共の福祉優先が謳われている。他方建築物 については,未だ基本となる法自体が存在せず,

公共の福祉との関連を明示的に位置づける法的根 拠は未整備である。わが国にあっては今後,建築 物のあるべき姿を明示する「建築基本法」と言っ た基本法の整備が期待される。

 しかし建築物が地域社会の中で代替の利かない 土地の上に存在し続けることにより,様々な形で 周辺地域社会と関係を持ち影響を及ぼすものであ ることは,否定しえない事実である。従ってその 在り様として,基本的に地域社会との協調を求め るのは,相応の合理性があると考えられる。

 地域社会には,地域を構成する建築物に対して 何を求めるのか,個別の建築物にどのような役割 を期待するのか,地域には様々なニーズが存在す

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る。建築物が地域社会と共存していくには,その 地域のニーズへの理解が不可欠である。従って地 域社会は,建築物への地域の期待を明らかにして いくことが重要である。

 建築物の所有者・建築主にとって地域の住民は 身近なステークホルダであり,建築物が在るまち づくりの一端を担うことが期待される。そのため にも,建築物の在り方を企画している段階で地域 の住民には,ステークホルダ・ダイアログの機会 を通じて建築物への地域社会の期待を建築主に伝 えていくことがポイントとなる。* 1 

 このようなプロセスを経て建築物が,建築主の 意図のみならず地域社会のニーズを汲み取る形で 整備されていけば,それが私的な所有物,私有財 産であっても,地域社会の共通財産としての地位 を得ることができると考えられる。

4)諸問題解決の出発点

 わが国は少子高齢化を始めとする社会状況の大 きな変動の下で,持続可能な社会に向けた対応を 迫られている。こうした流れの中では建築につい ても本質に関わる対応が不可避と考えられる。そ の様々な課題を解決する方向としては,建築物の

「地域の共通財産」としての性格を生かし,地域 社会の中での建築物の位置付けを明確に示すこと が出発点として重要と考えられる。

3   地域社会の共通財産に寄せられる期待

 地域の人々と土地所有者の協働により地域社会 の共通財産となるように建築物を構築し,これを 地域にとって価値ある建築物として維持・保全し ていくことが常態になれば,今後,少子高齢社会,

人口減少が更に進展し,国全体の生産力が縮小す る状況の下でも,豊かな社会を持続させることが 可能になるものと期待される。

 従来,私有財産であり,私的な効用の極大化,

私的欲望を満たすことを目的として建設されてき た多くの私有財産としての建築物を,地域社会の 共通財産として構築することに寄せられる期待 は,多面にわたると考えられる。

 以下に,その期待について考察する。

1)生活環境向上への期待

(1)中心市街地の蘇生

 建築物を地域社会の共通財産として構築するこ とにより,その建築物にひとり建築主だけではな く,地域社会を挙げて必要な投資を行う状況が生 まれる。これによって建築物の持つ生活や活動空 間としての価値を,建築主だけの投資力では実現 できないレベルに飛躍的に高めることが期待され る。その結果,地域に建つ建築物を,世代をこえ て使い続ける状況が生まれる。このことにより,

従来建築物のスクラップアンドビルトに充てられ ていた原資を,他の新たな戦略的投資に充てるこ とができるようになる。

 特に地方都市の中心市街地にあって,従来,主 に店舗と住宅に当てられていた中心市街地は,そ の利便性から多くの人々にとって居住ニーズが高 い。ここに郊外の住宅のようなゆとりのある空間 を備えた建築空間が整備され,事業用空間と居住 用空間が適切に組合されれば,その利便性と快適 性を兼ね備えた建築物は,かつてゆとりと快適性 を求めて郊外に居を移した人々,特に高齢の人々 にとっては大きな魅力になる。超高齢社会の到来 によって,地方都市にあっても都心回帰のニーズ は既に高まっているが,これに応える建築物の整 備は,多くの人々に価値ある生活空間,活動空間 をまちなかに提供することに繋がる。これはコン パクトシティが目指す方向でもある。

(2)生活の安全性の強化

 地域社会の共通財産と認められる建築物に対し て,巨大地震や激烈な暴風雨による生命・財産へ の影響を最小限に止めるための配慮・対策が講じ られれば,長期に亘って生活の安全性は飛躍的に 向上する。

 更に,地域社会の共通財産としての建築物の重 要な役割の一つとして,災害時の地域の人々の避 難の受入れ対策が施されれば,予想される様々な 激甚災害の下で中心市街地周辺の人々が安全かつ 迅速に避難することが可能になる。これにより地 域の人々の安全を大きく向上させることも期待さ

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れる。

2)豊かな地域社会の共通財産の構築

 これまでわが国の建築物にあっては,会計法の 減価償却のための法定耐用年数があたかも実耐用 年数のように認識され,償却されていることが多 かった。これが引き金となり,建替えへの投資の 意思決定がなされているとも言われる。

 建築主および地域の人々が,建築物は本来,物 理的には十分な耐久性を持たせることが可能であ り,それにより世紀を超えて使い続けられるよう にできると言う認識の下に協働すれば,結果的に 永い耐用を前提とした建築物を構築し,地域社会 として安定した居住・活動空間を永続的に確保,

拡大することに繋がり,地域社会の共通財産は豊 になるものと期待される。

3)国富・経済に及ぼす効用

 物理的に耐用しうる状態の建築物を廃棄するこ とは,一面でその建築物への投資を無にすること を意味し,貴重な国家の資産が失われることにも なる。

 第1章2)で触れたように,わが国は第二次世 界大戦後の1948年から2014年までの66年間で,

建築物の建設に累積で1439兆円を超える巨額の 投資を行い,合計床面積116億㎡ の建築物を建設 してきた。にもかかわらず,2014年段階でのわが 国の建築ストックは73.7億㎡ に止まっている。即 ち取壊された建築物は42.4億 ㎡。これに投資さ れた金額は,着工時の金額が着工床面積に比例す ると仮定すると約533兆円相当と見込まれる。

 建築物を地域社会のコンセンサスを得て,地域 社会の共通財産として整備して行けば,一旦建設 された建築物はそれが物理的に耐用する間,使い 続けられることが一般的になると期待される。こ れにより,従来代替周期41.9年で建替えに投資し ていた膨大な資金を,全額とは行かないにしても 他の有効な投資先に投下することが可能になる。

 また企業にとっては,しっかりした既存の事業 用建築物が利用出来れば,事業経営のための施設 を整備する上での経済的負担も,内装改装と生産

設備への投資の範囲に止めることができる。事業 活動のための豊富な既存の空間の存在は,新規事 業のリスクを低減することにも繋がる。

 このように建築物を超長期間継続して使い続け る環境が整えば,3000兆円とも言われるわが国 の国富を建築分野で更に増大することに繋がる。

更に言えば,超長期間に亘って安定的に使い続け られる建築物を増やすことは,利便性,価値の高 い有用な国土面積を拡大することと同じであると も言えよう。

4)地域の活動に及ぼす効用

 新たに建てられる建築物が,地域の空間ニーズ にも応えて建てられれば,様々な地域の活動に利 用可能な空間が豊に整備されることになる。超高 齢社会の中で顕在化している福祉系の様々な活動 の場に係るニーズ。男女雇用平等化などによって 拡大する学外保育の場,子供たちの学習の場に係 るニーズ。地域社会の活性化のための文化芸術活 動,成果発表の場,文化団体の拠点造りに係る ニーズ,町内会・自治会など地域の活動の場,地 域の人々の交流・たまり場,更に新たな経済活動 の揺籃の場造りなどのニーズに応えることが可能 になる。その結果,「まち」が持つ人々が高度に 集まる空間の本来の意味,効用が得られるように なり,まちなかの活性化に大きな影響を与える。

 まちなかに地域の文化を表象する建築物が永続 的に存在することによって,まちは時間を掛けて 独自の文化を育て,地域の人々のまちに対する愛 着・愛情を深め,誇りを高め,人々のその地域へ の定着に繋がる可能性がある。

5)建築物の建設,運用,維持管理,流通に係る   関係者の変化への期待

 建築物を地域社会の共通財産となるようにまち なかに整備・蓄積していくことは,建築分野に大 きな変化をもたらすものと予想される。基本的に は建築物を,わが国の風土・伝統・文化に適った ものとして安定して建設し,それを永続的に維 持・保全・運用していく状況が生まれ定着してい くことが期待される。

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(1)建物所有者と地域にとっての期待

 建築物が私有財産であれば自己都合でどのよう にでも建てられるとする状態から,地域に配慮,

協調・協働して建てる方向へと姿勢が変わること で,建築主だけではなく,地域にとって価値の高 い建築物を産み出すことに繋がる。

 個人所有の建築物であっても,地域の財産とし て扱うことにより,維持管理し,使い続け,次世 代に継承することが当然となり,所有者個人と地 域との結びつきは深くなる。

(2)企業と地域にとっての期待

 企業の持つ大きな資金力を,地域の共通財産形 成により効果的に活かすことができる。

 まちなかの土地を,自己都合,企業の特定事業 目的のみに使うのではなく,地域から期待される 土地利用の在り方に対応したものにしていく,地 域に貢献する経営の流れが生まれ定着すること で,企業活動への地域の信頼は高まる。

 地域との繋がりが深まり,信頼が得られること で企業経営の安定化に寄与する。

(3)建築家・設計者,施工者,維持・管理者に    係わる期待

 建築物を,地域社会の共通財産として行く上で 必要かつ有効な建築技術的な配慮と取組みが夫々 の専門の立場で行われるようになる。また,建築 物を長期的に利用し続けるための維持保全の活動 が,地域との関係の維持・向上に繋がる。

 更に,建築物を超長期的に運用・利活用する上 で必要な技術・ノウハウが蓄積され進化する。

(4)行政側にとっての効用

 地域社会の共通財産として認識される建築物に 対しては,公的助成などを配慮することにより地 域の社会基盤を強化し地域の活性化に繋げ,地域 経営を安定させることができる。

 また,中心市街地の建築物については,公共の 福祉のための利用に当てられる空間が,経済的に より得やすくなる可能性が広がる。

 更に,こうした建築物が中心市街地に増えるこ とで,郊外にスプロールした市街地のスマート シュリンクを進める上での環境が整い,その政策 を進めやすくし,社会基盤の維持に必要な公共事

業の削減に繋がる。

 これにより将来的には,わが国の地方都市のコ ンパクトシティ化が進み,過去スプロールした市 街地を抱えることで生じていた財政負担が減少 し,財政の健全化に寄与する。

4 .建築物を地域社会の共通財産にするた    めの考え方

 以上第1章から3章に示してきたように,わが 国の建築活動がこれまで積み重ねてきた「建築物 を消費する」ような路線から,地域の資産として 蓄積してゆく路線に切り替えるのが,超少子高齢 社会にあって地球環境問題等様々な課題に対応が 迫られているわが国の採るべき道と考えられる。

 そのためには,次のような建築のパラダイムの 思い切った転換が求められる。

1)建築物の位置づけの方向

 わが国が超少子高齢社会の中で,個々の人々の 生活や様々な活動を安定して継続できる様にして いく上では,社会の基盤をゆるぎないものするこ とが前提になる。その場合,前章で述べて来たよ うに,建築物,取分け都市の中心市街地に建てら れる建築物を「地域社会の共通財産」と考えて建 築主と地域とが協調して整備していくことによる 効用は大きい。

 このような地域社会の共通財産となる建築物に ついては,経済学者宇沢弘文が提唱する「社会的 共通資本」に該当すると言う考え方が出来る。こ の「社会的共通資本」について宇沢は,「ゆたか な経済生活を営み,すぐれた文化を展開し,人間 的に魅力ある社会を持続的,安定的に維持するこ とを可能にするような自然環境や社会的装置」と 定義している* 。その上で宇沢は,これを充実さ せることが地域社会の安寧,豊かさに繋がると主 張している。

 宇沢は,この社会的共通資本には自然環境,社 会的インフラストラクチャ,制度資本という3つ の類型があるとする。その社会的インフラストラ クチャには,元々考えられていた土木構築物の

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他,建築物とこれらにより形成されるまちも該当 するという見解が,環境経営学会の2011年度大 会シンポジウム * の質疑の中で宇沢から示され ている。

 こうした考え方によるならば,持続可能な地域 社会を構築する上では,建築物を社会的共通資本 として位置づけ,「超長期に亘って使い続ける上 で必要十分な条件を備えるよう適切に維持,改 修,改造,改築あるいは新築し,その適切な運 用・管理を通じて地域社会の価値ある共通財産と して蓄積し活用していく」*2  ことが考えられる。

この場合,社会的共通資本としての建築物は,

「たとえ過酷な自然災害に襲われても,その下で 人々は安全で安心できる豊かな生活と活動が継 続できるとともに,様々なコミュニケーションや すぐれた文化を展開することができる社会的装 置」*2となる。

 建築物を社会的共通資本と位置付けることで,

それがたとえ私有財産であってもその在り方につ いては,地域社会の共通財産として条件を満たす ことを建築主に求める根拠になる。それととも に,そのような建築物とする上で必要な対策に地 域社会が関与できる根拠を与えることにも繋が る。

 こうしたことから,今後は建築物を社会的共通 資本と位置付け,国民の理解と認識を得るように することが重要と考えられる。

2)社会的共通資本となる建築物を社会に普及さ   せるための方策

 これまでわが国では,建築物は私有財産として 所有者の自由裁量権が絶対的であった。しかし前 述のようにわが国の持続可能性を担保する上で は,人々が建築物を社会的共通資本と認識すると ともに,個々の建築物にあっては,建築主と地域 社会の協働によってその充実を図ることが,不可 避の要件と考えられる。

 そこで,こうした考え方を国民に広く浸透さ せ,具体的対応に結び付けていく上では,有効な 方策が求められることになる。そこで以下に,そ の方策と考え方を示す。

方策−1:  超長期に亘り人々に豊かさと安全・安      心な暮らしの基盤となるような建築物      の姿の具体化

 超長期間に亘り人々に豊かな空間を提供すると ともに,激甚災害にあっても安全な暮らしを保障 する,「社会的共通資本としての建築物」の「ある べき姿を具体的に描く」とともに,これを実現す る上で有効な仕組みや環境などを明らかにする。

 この「社会的共通資本としての建築物」の意味 が人々から理解され,その目指す方向での建築物 造りが進むようにするためには,建築物がどのよ うな姿のものかを具体的に示す必要がある。

(1)社会的共通資本としての建築物を具体化  これは地域社会の空間需要に応え,超長期に 亘って使い続けられる十分な機能・性能・品質を 備えるよう計画・建設・運用され,地域の共通財 産と認められるようになる建築物を言う。即ち,

耐用年数は世紀を遥かに超え得るものであり,か つその耐用の間に予想される様々な用途の変化に 応えて改装などが容易にできるとともに,質的に も将来に亘って利用者,居住者の満足を十分に得 続けられるような建築物を指す。(こうした建築 物は欧州などではごく普通に見られるし,現にわ が国にあっても少なからず存在している。)  このような建築物には超長期に亘り物理的化学 的に存在し続けられる性能と,夫々の時代の要請 に従った用途変化の要求にスムーズに応える性能 という2つの異なった性能が求められる。

 そこで「社会的共通資本としての建築物」に あっては,超長期に亘って安定して建築空間と建 築物の周辺環境を構成する部分(以下「不動部分」) と,建築物の居住者や利用者の利用目的に応じて 改装などの変更ができる部分(以下「可変部分」) とを明確に区分して構築することが勧められる。

 本稿にあって狭義には,この「不動部分」が社 会的共通資本となると考えている。

 従って狭義には,この建築物の不動部分が「超 長期に亘って使い続けられる十分な条件」を備え ることが条件となる。即ち不動部分については,

世紀を超えて加わる劣化や外力に対して物理的化 学的に十分な強度と耐久性を持つようにする。ま

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