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SRES 4 A1 A1B A1T A1FI A2 B1 B2 A1 B1 21 IS92a IPCC 1994 IPCC % IPCC IPCC 1996 SRES IS c SRES A2 B2 MRI2 / CCSR/NIES2 HadCM2 CGCM2

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2.7 地球温暖化予測

 本節では、地球温暖化の進行にともなって、 どのような気候変化が生じる可能性が高いのか について、IPCC(2001)の結果と、気象庁お よび国内外の研究機関による最新の報告もあわ せて、2.7.1 項では世界全体における気候変化、 2.7.2 項では日本付近における気候変化について 記述する。また、2.7.3 項では気象庁で現在進め ている最新の研究を紹介する。また、これらの 研究成果から、地球温暖化が進んだ場合に異常 気象がどのように変化するのかについては 2.7.1 項(5)および 2.7.2 項(5)にまとめるととも に、1.4 節にも掲載した。 地球の気候は、大気、海洋、陸面、海氷など の要素から構成される一つのシステムと捉える ことができ、各要素の間にはさまざまな相互作 用がある。地球温暖化の進行にともなってどの ような気候変化が生じる可能性が高いのかを評 価するためには、気候モデルの利用が不可欠で ある。気候モデルは、大気、海洋、陸面、海氷 などの変動およびそれらの相互作用の物理法則 を記述した仮想的な気候システムを構築してお り、その時間的な変化を予測することができる。 しかし、気候モデルは一般的に、その特性上、 計算結果には特有の系統誤差が含まれるほか、 予測にともなう不確実性(計算結果のばらつき 具合など)があらわれる。この不確実性のもっ とも大きな原因となっているのは、雲とその放 射特性の取扱いである。雲は、日射を吸収・反 射することにより地表を冷やす効果があるが、 一方では長波を吸収・放出することにより地表 を暖める効果がある。この二つの効果の相対的 な大きさが地上気温に影響を与える。しかし、 これら二つの効果の相対的な大きさは、雲の高 さ、厚さ、放射特性に左右されるほか、エーロ ゾルの間接効果により、雲粒の粒径分布、寿命、 降水効率、放射特性の変化が未解明なため、雲 による不確実性をさらに大きくしている。  このため、計算結果を、温室効果ガスなどの 変化による影響評価などに利用するためには、 複数の気候モデルを用いて、複数の予測実験(ア ンサンブル実験)を行うことで不確実性を評価 したうえで利用する必要がある。

2.7.1 世界全体の気候変化の予測結果

(1)SRES シナリオ  地球温暖化にともなう将来の気候変化予測を 行う場合は、まず、温室効果ガスの排出量予測 が必要になる。そのためには人口、経済、エネ ルギー需給、石油に替わるエネルギー技術開発 など社会・経済的な側面による検討が必要で、 IPCC では社会学者と経済学者により、21 世紀 の 温 室 効 果 ガ ス の 排 出 量 を 予 測 し た SRES (Special Report on Emissions Scenarios)シ ナリオが開発された(IPCC, 2000)。  図 2.7.1(a)は六つの代表的な SRES シナリ オによる二酸化炭素排出量予測を示している。 過去の研究との比較のためIS92 シナリオ(IPCC, 1994)も第三次評価報告書で採用された。一方、 大気中に排出された二酸化炭素は海洋と陸域生 態系に吸収されるために、そのすべてが大気中 に残るわけではない。このため、大気中の濃度 を計算するには、二酸化炭素の吸収や放出過程 を記述した炭素循環モデルが必要である。図 2.7.1(b)は炭素循環モデルにより求められた 二酸化炭素濃度の変化予測である。同様な手法 によりメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、 クロロフルオロカーボン類(CFCs)などの排出 量と大気中の濃度に関するシナリオも作成され た。また、上記の温室効果ガス以外には、人為 起源の二酸化硫黄に関する排出シナリオも作成 された(図2.7.1(c))。多くの気候モデルで、 二酸化硫黄による硫酸エーロゾルのようなエー ロゾルが太陽放射を散乱、吸収することにより 対流圏を冷却する効果が考慮されている(温室 効果ガスおよびエーロゾルについては 2.6 節参 照)。

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図 2.7.1 IPCC 第三次評価報告書(IPCC, 2001)で用いられた、(a)人間活動にともなう二酸化炭素 の排出シナリオ、(b)対応する大気中の二酸化炭素濃度、(c)人為起源の二酸化硫黄の排出量 SRES シナリオは、大まかに 4 種のシナリオに分類される。A1 グループは、高い経済成長と地域格差 の縮小を仮定する(このなかで、A1B はエネルギー源のバランスを、A1T は非化石エネルギー源を、 A1FI は化石エネルギー源を重視している)。A2 グループは、高い経済成長と地域の独自性を仮定す る。B1 グループは、環境を重視した持続可能な経済成長と地域格差の縮小を仮定する。B2 グループ は、環境を重視した持続可能な経済成長と地域の独自性を仮定する。A1 と B1 グループは排出量が 21 世紀半ば以降に減少する。IS92a(IPCC,1994)は IPCC によって 1992 年に開発されたシナリオの 一つで、二酸化炭素濃度がほぼ年率1%複利で増加することに対応する。IPCC 第二次評価報告書(IPCC, 1996)による結果と比較するために導入された。 SRES シナリオでは地域的な大気汚染対策の 進展とエネルギー・システムの構造変化を仮定 したため、それまでに仮定されていた温室効果 ガスなどの排出シナリオ(IS92 シナリオ)に比 べ、二酸化硫黄の排出量が非常に小さくなって いる(図2.7.1(c))。 (2)気温の変化予測  1)IPCC(2001)での予測結果  図 2.7.2 は SRES A2、B2 シナリオに対する 大気・海洋結合モデルによる全球平均した年平 均気温の時間変化である。ここでは、日本の気 象研究所(MRI2)と東京大学気候システム研究 センター/国立環境研究所(CCSR/NIES2)をは じめ、英国気象局(HadCM2)、カナダ気候セ ン タ ー (CGCM2 ) 、 米 国大 気 研 究 セ ン タ ー (CSM1.3)、米国大気研究センター(DOE PCM ) 、 米 国 地 球 流 体 力 学 研 究 所 (GFDL_R30_c)、豪州連邦科学産業研究機構 (CSIRO Mk3)、独マックス・プランク研究所 (ECHAM4/OPYC)といった世界中の九つの大 気・海洋結合モデルによる結果が示されている。 1961∼1990 年の 30 年平均から 2071∼2100 年の30 年平均への変化は、A2 シナリオでは全 図 2.7.2 SRES(上)A2 および(下)B2 シナリ オに対する大気・海洋結合モデルによる全球平 均年平均気温の経年変化(単位:℃) 各気候モデルの過去歴史再現実験の1961∼1990 年平均値からの変化量。IPCC(2001)の図 9.6 より。

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気候モデルの平均が+3.0℃、最小値が+1.3℃、 最大値が+4.5℃である。B2 シナリオでは全気 候モデルの平均が+2.2℃、最小値が+0.9℃、 最大値が+3.4℃である。A2 シナリオのほうが、 B2 シナリオより温室効果ガスの排出量が多いた め、気温の増加も大きくなっている。  温室効果ガスの排出シナリオの違いによる予 測結果の広がりを図 2.7.3 に示す。この図は、 上記九つの大気・海洋結合モデルのうち、上限 と下限を示した日本の二つの気候モデルを除い た七つ大気・海洋結合モデルに対して個別に調 整した簡単な気候モデルを用い、35 個の SRES シナリオについて計算した全球平均気温の将来 予測を示している。この結果、1990 年から 2100 年までの間に、全球の平均気温は 1.4℃∼5.8℃ 上昇すると予測されている。 図 2.7.3 SRES シナリオによる 1990 年から 2100 年までの全球平均気温の上昇(単位:℃) 七つの大気・海洋結合モデル(図 2.7.2 と同じ 気候モデルであるが、日本の二つの気候モデル ははいっていない)に対して個別に調整した簡 単な気候モデルを用いた。図中の色が付いた 6 本の線は、各シナリオについての気候モデル平 均である。濃い影の部分は35 個のすべての SRES シナリオについての気候モデル平均である。薄 い影の部分は 35 個のすべての SRES シナリオ についてすべての気候モデルが取りうる値の範 囲である。図の外の右側に 2100 年における各 シナリオに対する気候モデルの値の範囲を示し た。IPCC(2001)の図 9.14 より。  2)IPCC(2001)以降の最新の予測成果  「地球温暖化予測情報 第 5 巻」(気象庁, 2003)では、気象研究所が新たに開発した気候 モデル(大気側の水平解像度約280km の大気・ 海洋結合モデル(MRI−CGCM2))による予 測結果を掲載している。また、国立大学法人東 京大学気候システム研究センター(CCSR)、 独立行政法人国立環境研究所(NIES)、独立行 政法人海洋研究開発機構地球環境フロンティア 研究センター(FRCGC)の合同研究チームは、 世界最大規模のスーパーコンピュータである地 球シミュレータを用いて、2100 年までの地球温 暖化予測を行っている。使用した気候モデルは、 CCSR、NIES、FRCGC で開発された、大気が 100km 程度、海洋が 20km 程度の世界で最高解 像度となる全球大気・海洋結合気候モデル(K −1 モデル)である。  気象庁(2003)では、2100 年頃の世界全体の 年平均気温は1971∼2000 年平均の値に比べて、 SRES A2 シナリオを採用した場合で 2.5℃程度、 SRES B2 シナリオを採用した場合で 1.7℃程度 上昇するとの予測結果になっており(図 2.7.4 参照)、先の図 2.7.2 での予測幅の中央をやや 下回る値、図2.7.3 でのほぼ下限となっている。 また、K−1 モデルでは、2071∼2100 年で平均 した世界全体の年平均気温は 1971∼2000 年の 平均に比較して、SRES B1 シナリオで 3.0℃、 SRES A1B シナリオで 4.0℃上昇との予測結果 になっている(気象庁(2003)で用いられた温 室効果ガス排出シナリオとは異なることに注 意)。

図 2.7.4 MRI-CGCM2 による SRES A2,B2 シナリオ にともなう平均気温の経年変化(単位:℃) 3 メンバーによるアンサンブル平均。気象庁 (2003)の図 A−1 より。

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 地球温暖化時の地上気温変化の空間分布をみ るために、図2.7.5 に気象庁(2003)の SRES A2 シナリオにともなう気温の変化量の予測結果を、 図2.7.6 に K−1 モデルによる SRES A1B シナ リオにともなう年平均気温の変化量の予測結果 を示す。これらの図をみると、分布の特徴とし て、以下の五つが挙げられる。 ①海洋より陸の昇温が大きい。これは陸の熱容 量が海より小さいため、暖まりやすいことに 加え、海面からの水蒸気の蒸発による冷却効 果があるからである。 ②南半球より、大陸の多い北半球の昇温が大き い。 ③北大西洋と南極の周辺で昇温が小さい。これ らの地域は、海洋の鉛直循環が卓越するとこ ろであり、海面表層の熱が海洋の深層に運ば れるため、昇温が押さえられている。 ④東部熱帯太平洋で昇温が大きい。この空間分 布は、エルニーニョ現象発生時の海面水温変 化と似ており、世界中の多くの気候モデルで 同じ変化がみられるが、その理由は明確でな い(2.7.2 項(5)4)にて考察)。 ⑤冬半球での昇温が大きい。特に 1 月の北半球 の高緯度地方の昇温量が大きい。これは雪氷 域が減ったために、反射率が減少し、太陽放 射を吸収しやすくなることで、さらに暖まる こと(正のフィードバック効果)と、海洋か ら大気への熱の輸送を妨げていた海氷が減り、 大気が温まることで、さらに海氷が減るフィ ードバック効果が働くためである。    図 2.7.5 では、オホーツク海付近の気温に大 きな上昇傾向がみられる。ここでの昇温は、シ ベリア大陸からの寒気の吹き出し、海氷、黒潮 の離岸位置などの変化が重要な役割を果たして いる。しかし、現状の気候モデルにおいて、特 に海洋の解像度は十分でないために、オホーツ ク海付近における気温の大きな上昇傾向につい ては、気候モデル間でばらつきが大きい。

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図 2.7.5 MRI-CGCM2 による SRES A2 シナリオにともなう平均気温の変化(単位:℃)

2071∼2100 年平均値と過去歴史再現実験の 1971∼2000 年平均値との差。3 メンバーによるアンサン ブル平均。(上)年平均、(中)1 月平均、(下)7 月平均。気象庁(2003)の図 A−5 より。

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図 2.7.6 K-1 モデルによる SRES A1B シナリオにともなう年平均気温の変化(単位:℃) 2071∼2100 年の平均気温から、1971∼2000 年の平均気温を引いたもの(平成 16 年 9 月 16 日の東京 大学など合同研究チームによる報道発表より)。気象庁(2003)で用いられた温室効果ガス排出シナ リオとは異なることに注意。 (3)降水量の変化予測  1)IPCC(2001)での予測結果  図 2.7.7 は SRES A2、B2 シナリオに対する 大気・海洋結合モデルによる全球平均降水量の 時間変化である。図 2.7.2 同様に世界中の九つ の大気・海洋結合モデルによる結果が示されて いる。 1961∼1990 年の 30 年平均から 2071∼2100 年の 30 年平均への変化は、A2 シナリオでは全 気候モデルの平均が+3.9%増加しており、最小 値が+1.3%、最大値が+6.8%である。B2 シナ リオでも全気候モデルの平均が+3.3%の増加、 最小値が+1.2%、最大値が+6.1%である。気温 が高いほど大気中に含み得る水蒸気が増加する ため、温暖化が進むと降水量が増加すると考え られている。A2 シナリオのほうが B2 シナリオ より二酸化炭素の排出量が多く、気温の増加が 大きいため、A2 シナリオのほうが B2 シナリオ より降水量の増加が大きいと推察される。  2)IPCC(2001)以降の最新の予測成果 図2.7.8 に気象庁(2003)で計算された SRES A2 シナリオにともなう降水量の変化の空間分布 を示す。一般に、地球温暖化にともなって降水 量は、熱帯で増加し、亜熱帯で減少する可能性 図 2.7.7 SRES(上)A2 および(下)B2 シナリ オに対する大気・海洋結合モデルによる全球平 均年平均降水量の時間変化(単位:%) 過去歴史実験の 1961∼1990 年平均値からの変 化量を 1961∼1990 年平均値に対する割合で示 した。IPCC(2001)の図 9.6 より。 が高い。特に、太平洋の赤道付近では顕著な増 加が予測されており、この領域は(2)2)で述 べたとおり、温暖化時のエルニーニョ現象発生 時と同じパターンの変化で海面水温が上昇した

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海域に対応する。その南北の亜熱帯地域では、 ハドレー循環(赤道付近の降水量が多い地域で 上昇した空気が、その南北の亜熱帯地域で下降 する大気の循環)の下降気流域にあたるため、 降水が減少している。7 月をみると、夏のイン ド付近の季節風(モンスーン)による降水が強 まることにともない、インド付近で降水量が増 加している。また、梅雨前線にともなう降水量 が増加するために、東シナ海から西・東日本に かけて降水量が増加している。温暖化時に降水 量が増加する地域では、降水量の年々変動も大 きくなっている。  一方、K−1 モデルを用いた 2071∼2100 年で 平均した地球平均の降水量は、1971∼2000 年の 平均と比較して、SRES B1 シナリオで 5.2%、 A1B シナリオで 6.4%の増加となった(気象庁 (2003)で用いられた温室効果ガス排出シナリ オとは異なることに注意)。 図 2.7.8 MRI-CGCM2 による RES A2 シナリオにともなう降水量の変化(単位:%) 2071∼2100 年平均値と過去歴史再現実験の 1971∼2000 年平均値との比。3 メンバーによるアンサン ブル平均。(上)年、(中)1 月、(下)7 月。気象庁(2003)の図 B−4 より。

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(4)海面水位の変化  1)IPCC(2001)での予測結果  地球が温暖化すると、海面水位が上昇すると 予測されている。図2.7.9 は、35 個の SRES シ ナリオについて計算した海面水位の将来予測を 示している。七つの大気・海洋結合モデルに対 して個別に調整した簡単な気候モデルを用い、 海水の熱膨張と陸氷の変化を計算した。永久凍 土の融解、土砂の海底への堆積の効果、過去の 気候変化に対する氷床の長期間の応答による寄 与も加えた。海水の熱膨張の寄与が一番大きく、 南極の氷床や海氷が融解することによる寄与は 小さい。2100 年で上昇量は 0.09m から 0.88m の範囲にあり、中位の予測は 0.48m である。中 位の予測による上昇率は、20 世紀の観測値の 2.2 ∼4.4 倍も大きい。  2)IPCC(2001)以降の最新の予測成果  気象庁(2003)では、2100 年頃の世界全体の 平均海面水位は 1971∼2000 年平均の値に比べ て、SRES A2 シナリオを採用した場合で約 15 ∼16cm、SRES B2 シナリオを採用した場合で 約 12cm 程度上昇するとの予測結果になってい る(図2.7.10 参照)。  海面水位の変化量の水平分布の一例として、 気象庁(2003)による SRES A2 シナリオにと もなう平均海面水位の変化量を図2.7.11 に示す。 2071∼2100 年平均値と 1971∼2000 年平均値と の差である。海水の熱膨張のみによる上昇を示 している。基本的に海面水温の上昇が大きいと ころで、海面水位の上昇も大きい。世界の多く の気候モデルで南極の周囲で水位の上昇が小さ いが、同じ傾向がこの気候モデルでもあらわれ ている。 図 2.7.9 SRES シナリオによる 1990 年から 2100 年までの全球平均した海面水位の上昇(単位:m) 七つの大気・海洋結合モデル(図 2.7.2 と同じ 気候モデルであるが、日本の二つの気候モデル ははいっていない)に対して個別に調整した簡 単な気候モデルを用い、海水の熱膨張と陸氷の 変化を計算した。永久凍土の融解、土砂の海底 への堆積の効果、過去の気候変化に対する氷床 の長期間の応答による寄与も加えた。図中の色 が付いた 6 本の線は、各シナリオについての気 候モデル平均である。濃い影の部分は35 個のす べての SRES シナリオについての気候モデル平 均である。薄い影の部分は35 個のすべての SRES シナリオについてすべての気候モデルが取りう る値の範囲である。最も外側の 2 本の黒い実線 は、陸氷の変化、永久凍土の変化、土砂の海底 への堆積にともなう不確実性を考慮した場合に、 すべてのシナリオについてすべての気候モデル が取りうる値の範囲である。西南極氷床の棚氷 の崩壊と消滅に関連した不確実性は考慮してい ない。図の外の右側に 2100 年における各シナ リオに対する気候モデルの値の範囲を示した。 IPCC(2001)の図 11.12 より。

図 2.7.10 MRI-CGCM2 による SRES A2、B2 シナリ オにともなう平均海面水位の経年変化(単位:m) 3 メンバーによるアンサンブル平均。気象庁 (2003)の図 E−1 より。

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図 2.7.11 MRI-CGCM2 による SRES A2 シナリオにともなう平均海面水位の変化(単位:m) 海水の熱膨張のみを考慮している。2071∼2100 年平均値と過去歴史再現実験の 1971∼2000 年平 均値との差。3 メンバーによるアンサンブル平均。(上)年平均、(中)1 月平均、(下)7 月平均。 地中海と黒海で水位が低下しているのは、塩分濃度が高くなり密度が増加したためと推察される。 気象庁(2003)の図 E−2 より。 (5)極端な現象の変化  極端な現象の変化に関する知見を以下にまと める。この極端な現象は局所的に起こるうえに、 寿命が比較的短いことが多いのに対し、気候モ デルの水平分解能は粗く、再現しにくい。した がって、ほとんどの気候モデルによる極端な現 象の変化に関する予測信頼性は十分でないと考 えられる。  1)IPCC(2001)での予測結果 IPCC(2001)では、極端な現象の変化につ いて、以下の可能性を指摘している。 (ア)気温  地球温暖化にともない平均気温が上昇するた め、極端に高い気温の出現頻度が増え、極端に 低い気温の出現頻度が減る可能性がかなり高い。

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多くの地域で、昼間の最高気温の上昇に比べ、 夜間の最低気温の上昇が大きくなり、1 日の寒 暖の差(日較差)が縮小する可能性がかなり高 い。このような気温の変化に関連して、人間が 感じる快適さやストレスをあらわす熱指数(表 2.7.1 の注参照)も増加する可能性がかなり高い。 (イ)降水量  平均値の増加よりも、極端に強い雨の増加の ほうが大きく、その頻度も増加する可能性がか なり高い。夏季に大陸の内部で、土壌水分の減 少によって一般に乾燥化が進む可能性が高い。 その原因としては、降水量が増加せずに、気温 が上昇して蒸発量が増加することが考えられる。 (ウ)温帯低気圧 温帯低気圧については、地上気圧でみると、 弱い低気圧の数が減り、強い低気圧の数が増え、 低気圧の全体の数が減るという研究がある。地 球が温暖化すると熱帯の昇温より中高緯度地方 の昇温が大きいため、南北の温度傾度が減少し、 温帯低気圧の数が減ると考えられている。一方、 地球が温暖化すると大気中の水蒸気量が増える ので、潜熱による加熱が増え、より強い低気圧 が増える可能性も指摘されている。しかし、渦 度でみた低気圧の強度は増加しないという研究 結果もあるなど、温帯低気圧の変化については、 気温や降水量の変化ほど一致した結果は得られ ていない。 表 2.7.1 極端な現象について、観測された変化と予測される変化に関する信頼性の評価 20 世紀後半に観測された変化 の信頼性 現象の変化 21 世紀中に予測された変化の 信頼性 可能性が高い ほぼすべての陸域で、最高気温 が上昇し、暑い日1)が増える 可能性がかなり高い 可能性がかなり高い ほぼすべての陸域で、最低気温 が上昇し、霜が降りる日が減る 可能性がかなり高い 可能性がかなり高い ほぼすべての陸域で、日較差が 減る 可能性がかなり高い 多くの地域で、可能性が高い 陸域で、熱指数(Heat index) 2) が増える ほとんどの陸域で、可能性がか なり高い 北半球の中高緯度の多くの陸域 で、可能性が高い 強い降水現象が増加する3) ほとんどの陸域で、可能性がか なり高い 可能性が高い地域がある 夏の大陸で、乾燥化が進み、干 ばつの危険性が増加する ほとんどの中緯度の大陸の内部 で、可能性が高い。ほかの地域 では一致した予測が得られない 利用可能な数少ない解析で観測 されていない 熱帯低気圧の最大風速が増加す る4) いくつかの地域で、可能性が高 い 評価するにはデータが十分でな い 熱帯低気圧の平均的な降水量と 最大降水量が増加する4) いくつかの地域で、可能性が高 い IPCC(2001)の表 9.6 による。左の欄の観測された変化に関する記述で「可能性がかなり高い(very likely)」とは、実現性が 90∼99%であることを意味する。「可能性が高い(likely)」とは、実現性 が 66∼90%であることを意味する。右の欄の予測された変化に関する記述で「可能性がかなり高い」 とは、いくつかの気候モデルで記述された変化がほとんどの地域で認められ、しかも物理的にもっと もらしいことを意味する。「可能性が高い」とは、理論的研究や気候モデルの解析に記述された変化 があらわれているが、数少ない最先端の気候モデルにのみ、そのような変化がもっともらしくあらわ れることを意味する。 1)暑い日とは、その日の最高気温が、人間や自然環境に影響を与える臨界値と考えられるある気温に 達したか、または超えた日を指す。実際のしきい値は地域によって異なるが、典型的な値は、32、 35 または 40℃である。 2)熱指数(Heat index)とは、気温と湿度を組みあわせた人間の快適さを測る指標である。 3)ほかの地域では、データが十分でないか、または解析結果が互いに矛盾する。 4)過去と未来の熱帯低気圧の位置と頻度の変化は、確かではない。

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(エ)熱帯低気圧 熱帯低気圧の発生頻度の変化は地域によって 異なるが、発生する平均的な場所は変化しない という研究結果がある。また、熱帯低気圧の強 度が 5∼10%増加し、降水量が 20∼30%増加す るという研究がある。しかし、熱帯低気圧の変 化についても、気温や降水量の変化ほど一致し た結果は得られていない(1.4 節コラム参照)。 表 2.7.1 は、極端な現象の過去と未来の変化 について信頼性を評価したものである。観測さ れた変化と同様な変化が気候モデルによる予測 にもみられることは、過去の変化傾向が引き続 き未来にも起こりうる可能性が高いことを示唆 している。  2)IPCC(2001)以降の最新の予測成果 温暖化時の日最高気温の変化の空間分布の一 例として、図2.7.12 に気象庁(2003)による SRES A2 シナリオにともなう日最高気温の変化量 (1971∼2000 年の平均と 2071∼2100 年の平均 との差)を示す。北半球の高緯度地方、特に 1 月の昇温が大きい。この分布は、図 2.7.5 に示 した平均気温の変化分布に似ている。 図 2.7.12 MRI-CGCM2 による SREA A2 シナリオにともなう平均日最高気温の変化(単位:℃) 2071∼2100 年平均値と過去歴史再現実験の 1971∼2000 年平均値との差。3 メンバーによるアンサ ンブル平均。(上)年平均、(中)1 月平均、(下)7 月平均。気象庁(2003)の図 A−13 より。

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 図 2.7.13 は日最高気温と日最低気温の差であ る日較差の変化を示している。中・高緯度や熱 帯地方などの多くの地域では、最低気温の上昇 量が最高気温の上昇量より大きいため、日較差 が減少している。 図 2.7.14 は、年最大日降水量の変化である。 太平洋赤道域の中・東部を中心とした赤道付近 の地域で増加している。その南北に位置する熱 帯収束帯や南太平洋収束帯を一部含む地域では 減少している。7 月の日本付近は大きな増加が みられることから、梅雨期に強い雨が増える可 能性がある。平均降水量の変化に比べ、最大日 降水量では地域差が拡大傾向にある。図 2.7.15 は無降水日の変化を示している。温暖化時の無 降水日数の変化も、降水量の変化(図 2.7.8)で みられたような地域差の拡大傾向を裏付けてお り、赤道付近の熱帯域と中・高緯度で減少して いる。また、亜熱帯域では増加傾向がはっきり とあらわれており、これらの地域では干ばつの 可能性が高まることを示唆している。なお、一 般に、気候モデルによる降水の予測は複数のモ デルで違いが大きいので、上記の降水に関する 変化予測は不確実性が大きい。 図 2.7.13 MRI-CGCM2 による SRES A2 シナリオにともなう気温日較差の変化(単位:℃) 2071∼2100 年平均値と過去歴史再現実験の 1971∼2000 年平均値との差。3 メンバーによるアンサ ンブル平均。(上)年平均、(中)1 月平均、(下)7 月平均。気象庁(2003)の図 A−19 より。

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 また、1.2.3 項で述べたとおり、2003 年夏は 欧州で熱波が猛威をふるい(Luterbacher et al., 2004; Black et al., 2004)、フランスで 1 万人以 上が死亡した。この熱波の原因として地球温暖 化の影響があるのかについて、最新の解析結果 が報告されてきており、Stot et al.(2004)は、 2003 年の欧州熱波には人為的な気候変化の寄与 が認められるとの結論を導き出している。また、 Schär et al.(2004)、Schär and Jendritzky (2004)によれば、観測された温暖化の影響を

考慮しても、2003 年の欧州熱波は統計的にみて 極 め て 異 常 で あ っ た 。Meehl and Tebaldi (2004)は大気・海洋結合モデルを用い SRES A1B シナリオによる温暖化実験から、熱波の発 生の変化を予測した。その結果、欧州では地中 海で、米国では西部と南部で熱波の発生の可能 性が増加することがわかった。日本でも 2004 年の夏が猛暑であったことから、その原因の解 明と人為的な気候変化の寄与に関する同様の研 究を日本でも進めていかなければならない。 図 2.7.14 MRI-CGCM2 による SRES A2 シナリオにともなう年最大日降水量の変化(単位:%) 変化量を2071∼2100 年平均値の過去歴史再現実験による 1971∼2000 年平均値に対する割合で示した。 3 メンバーによるアンサンブル平均。(上)年平均、(中)1 月平均、(下)7 月平均。気象庁(2003) の図B−14 より。

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図 2.7.15 MRI-CGCM2 による SRES A2 シナリオにともなう無降水(日降水量 1mm 未満)日数の変化(単 位:日) 2071∼2100 年平均値と過去歴史再現実験の 1971∼2000 年平均値との差。3 メンバーによるアンサン ブル平均。(上)年平均、(中)1 月平均、(下)7 月平均。気象庁(2003)の図 B−20 より。 (6)そのほか(IPCC(2001)の結果から)  温暖化時の太平洋の海面水温は、熱帯東部太 平洋がその周囲に比べて昇温が大きいエルニー ニョ現象に似た変化を示す気候モデルが多いも のの、エルニーニョ・ラニーニャ現象の変動度 が温暖化時にどう変化するかという点について は気候モデル間のばらつきが大きい。  一方、夏のアジア・モンスーンの日降水量の 年々変動が、温暖化時に大きくなることは確か らしい。大気・海洋結合モデルの予測によると、 東アジア地域(北緯20∼50 度,東経 100∼145 度)で平均した夏季(6∼8 月)の降水量は増加 する。  上記の変化を含め、温暖化時の気候変化予測 を図2.7.16 にまとめた。 また、海洋の深層循環(2.5 節参照)について は、大部分の気候モデルでは弱まり、そのため、 北半球の高緯度への熱の輸送が小さくなる。し かしながら、たとえ循環が弱まったとしても、 ヨーロッパは温室効果ガス濃度の増加のため温

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暖化する。気候モデルを使った現在の予測では、 2100 年までに循環が完全に停止することは示さ れていない。2100 年以降、放射強制力の変化が 十分大きく、かつ十分長期間にわたるとなると、 循環はどちらの半球でも完全に停止し、ふたた び循環が起きることはないと考えられる。

温度の指標

水文と低気圧の指標

海洋 海洋 海洋 海洋 下部成層圏冷却*** 対流圏昇温*** 積雪面積減少** 陸 陸 陸の昇温が海洋よ り大きい*** 海面上の気温が昇温*** 海面水温がほとんどの場 所で昇温*** 陸の夜間の温度上昇が昼間の温 度上昇より大きい** 陸上気温が昇温*** 対流圏の水蒸気が増加*** 海氷が減少*** ほとんどの海洋域で熱帯の 降水量が増加** 熱帯低気圧の頻度と 強度が増加* 温帯低気圧の頻度と 強度が増加? 冬季の中高緯度の降水が増加 ** 亜熱帯の降水が減少** 図 2.7.16 大気・海洋結合モデルによる将来の気候変化予測で得られた気温と水文の指標の変化(IPCC, 2001) *** ほぼ確実(virtually certain):気候モデルの解析が多く、そのすべてにみられる。 ** 可能性がかなり高い(very likely):いくつかの気候モデルの解析にみられる。そのほかの気 候モデルでも変化が物理的にもっともらしく、その変化が容易にみいだし得る。 * 可能性が高い(likely):変化が解析される気候モデルがある。そのほかの気候モデルでも変化 が物理的にもっともらしく、その変化が見出し得る。 ? どちらともいえない(medium likelihood):変化が解析される気候モデルが少ない。または、 変化が気候モデルによって異なる。

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2.7.2 日本域の温暖化予測結果

 日本域の詳細な温暖化予測にはより解像度の 細かい地域気候モデルが不可欠である。この地 域気候モデルは、2.7.1 項で述べたような全球大 気・海洋結合モデルの結果を境界条件として、 アジア域を抜き出して計算し、さらにその結果 を境界条件として日本域を抜き出して計算を行 うための気候モデルである(図2.7.17 参照)。  領域を狭くするために、その分領域内の解像 度を細かくすることができる。このため、地形 もより詳細に再現できることから、我が国の冬 季の降水など地形性のパターンが正確に再現で きることになる。一方で、計算領域を人為的に 区切るために、領域の周辺部でノイズが発生し、 領域内部の予測精度を下げる可能性があるなど の問題もある。  ここでは、新たに気象研究所で開発された、 水平解像度 20km の地域気候モデル(MRI− RCM20、以下 RCM20 とする)を用いた予測実 験結果を紹介する(気象庁,2005)。本実験は、 通年の日本域の詳細な気候予測として、我が国 で初めて行われたものである。温室効果ガス濃 度の将来の変化シナリオとしては、前述のSRES A2 シナリオを用いている。以下では、地域気候 モデルの結果に沿って予測結果を示す。なお、 地域気候モデルによる温暖化予測の不確実性の 程度は必ずしも確認されておらず、示した数値 は一つの目安であると考えていただきたい。予 測の不確実性の大きさについては今後明らかに して行く必要がある。 空間分解 能  大気: 280km × 28 0km 30 層              海洋: 経度2.5度、緯度0.5 ∼2度         23層

  

全球大気 海洋結 合モデ ル アジア域地域気 候モデル   60km × 60km   36層 日本域地 域気候モ デル   20km × 20km   36層    RCM 60    RCM 20 空間分解 能  大気: 280km × 28 0km 30 層              海洋: 経度2.5度、緯度0.5 ∼2度         23層

  

全球大気 海洋結 合モデ ル アジア域地域気 候モデル   60km × 60km   36層 日本域地 域気候モ デル   20km × 20km   36層    RCM 60    RCM 20 図 2.7.17 地域気候モデルの計算概念図

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(1)地域気候モデル(RCM20)の気候再現性の 評価  RCM20 の気候再現性を評価するために、 RCM20 を用いて計算した 1981∼2000 年の 20 年平均値と、これまでの気象観測所における平 年値(1971∼2000 年平均値)とを比較した。具 体的には、日本を七つの地域(北日本日本海側、 北日本太平洋側、東日本日本海側、東日本太平 洋側、西日本日本海側、西日本太平洋側、南西 諸島)に分け、各領域内の気象官署における平 年値と、RCM20 における当該官署に最寄りの 格子点値の領域平均値を月ごとに比較した。  図 2.7.18 は、領域ごとの月平均気温を比較し た結果である。これをみると、すべての地域に おいて RCM20 の再現値が実際の観測値よりも 若干高い傾向がみられる月もあるが、おおむね よく再現されていることがわかる。 図 2.7.19 は、領域ごとの月降水量を比較した 結果である。これをみると、北日本日本海側・ 北日本太平洋側・東日本太平洋側・南西諸島で は RCM20 の再現値が実際の観測値に比べ多く なる傾向がみられ、特に夏季にその差が大きく なっていることがわかる。一方、東日本日本海 側・西日本日本海側・西日本太平洋側ではおお むねよく再現されている。 図 2.7.18 月平均気温における、RCM20 による再現結果と観測値との比較結果 両者とも海面補正を行ったうえで比較している。

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図 2.7.19 月降水量における、RCM20 による再現結果と観測値との比較結果 (2)気温の予測結果 図 2.7.20 は 2081∼2100 年平均値から 1981 ∼2000 年平均値との差による、約 100 年後の年 平均気温、1 月平均気温、7 月平均気温の変化を 示している。年平均気温では 2.0∼4.0℃程度の 昇温が予測されており、高緯度地域で昇温が大 きい。また、1 月平均気温は 7 月平均気温に比 べ全体的に大きな上昇傾向を示しており、本州 で 2.4℃以上、北海道オホーツク海側では 4℃以 上の上昇が予測されている。ただし、2.7.1 項で 述べたとおり、全球大気・海洋結合モデルの予 測結果(気象庁,2003)では、オホーツク海付 近に高偏差パターンがあり、その影響が1 月、7 月の日本周辺の分布図に同様の特徴としてあら われている可能性がある。このため、オホーツ ク海付近の気温予測の結果の扱いには特に注意 が必要である。このように、地域気候モデルは、 境界条件として与えた全球気候モデルの影響を 強く受けていることも考慮しなければならない。 また、瀬戸内海付近では、7 月の気温上昇が 周辺より小さくなっているが、これは、RCM20 の計算上の問題で、瀬戸内海の海面水温が周辺 より顕著に低い値となったことによる影響であ ると考えられ、瀬戸内海付近の気温の扱いにつ いても注意が必要である。

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図 2.7.20 RCM20 を用いた平均気温の変化量(単 位:℃) 2081∼2100 年平均値と 1981∼2000 年平均値と の差。(上)年平均、(中)1 月平均、(下)7 月平均。 図 2.7.21 RCM20 を用いた降水量の変化比(単 位:%) 2081∼2100 年平均値と 1981∼2000 年平均値と の比。(上)年降水量、(中)1 月降水量、(下) 7 月降水量。 (3)降水量の予測結果  図2.7.21 は約 100 年後の年降水量、1 月降水 量、7 月降水量の変化を示している。 年平均では、九州南部の一部で減少が予測さ れているが、ほとんどの地域では増加する。特 に西日本日本海側での増加が大きく、多いとこ ろで20%程度の増加が予測されている。1 月は 北海道で増加、九州や四国の太平洋沿岸で減少 するが、そのほかの地域における変化は大きく ない。一方、7 月は北日本や九州の一部を除き、 広範囲で増加する。夏季の降水の変化について は(5)4)で考察する。

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(4)降雪量の予測結果  図2.7.22 は約 100 年後の年間降雪量の変化を 示している。これをみると、オホーツク海を除 いた全ての地域で減少が予測される。特に現在 気候で降雪量の多い北海道から山陰にかけての 日本海側での減少が大きく、多いところで年間 400mm(水換算)程度の減少が予測されている。 図 2.7.22 RCM20 を用いた年降雪量の変化量(単 位:mm) 2081∼2100 年平均値と 1981∼2000 年平均値と の差。 (5)極端な現象の変化  1)暑い日の増加 地球温暖化にともなって気温が上昇すること により、熱帯夜日数や真夏日日数が、南西諸島 をはじめ全国的に増加するなど暑い日の頻度が 増えるとの予測結果が得られた。詳細は以下の とおりである。 (ア)日最低気温 25℃以上となる日(熱帯夜) の年間出現日数の変化  日最低気温が 25℃以上となる日を熱帯夜と呼 んでおり、寝苦しい夜を代表する指標となって いる。図 2.7.23 は、年間の熱帯夜日数が約 100 年後にどの程度増加するのかを示している。こ れをみると、約 100 年後は中部山岳地域から東 北地方、北海道にかけては15 日以下の増加であ るが、関東地方と近畿地方以南では20 日前後の 増加と予測されている。特に、九州南部や南西 諸島では30 日以上の増加が予測される。 図 2.7.23 約 100 年後の熱帯夜の年間出現日数 の変化(単位:日) 2081∼2100 年平均値と 1981∼2000 年平均値と の差。 (イ)日最高気温 30℃以上となる日(真夏日) の年間出現日数の変化  日最高気温が 30℃以上となる日を真夏日と呼 んでおり、暑い日を代表する指標となっている。 図2.7.24 は、年間の真夏日日数が約 100 年後に どの程度増加するのかを示している。これをみ ると、約 100 年後は本州山間部や東北地方、北 海道では 5 日以下の増加であるが、関東地方や 近畿地方以西の海岸部では15 日前後の増加と予 測されている。特に、九州南部や南西諸島では 25 日以上の増加が予測される。 図 2.7.24 約 100 年後の真夏日の年間出現日数 の変化(単位:日) 2081∼2100 年平均値と 1981∼2000 年平均値と の差。

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図 2.7.25 K-1 モデルによる日本の真夏日日数の 経年変化(単位:日) SRES A1B シナリオを採用。日本列島を覆う格 子(100km×100km 程度)のうち一つでも最高 気温が30℃を超えれば、真夏日 1 日と数えた(平 成16 年 9 月 16 日の東京大学など合同研究チー ムによる報道発表より)。 図2.7.25 は K−1 モデル(全球大気・海洋結 合モデル)(2.7.1 項(2)2)参照)による日 本付近の真夏日日数の経年変化を示す。この結 果からも、地球温暖化の進行とともに真夏日日 数が増えており、定性的には一致している。  2)寒い日の減少 同様に、地球温暖化にともなって気温が上昇す ることにより、冬日日数や真冬日日数が北日本 をはじめ全国的に減少するなど寒い日の頻度が 減るとの予測結果が得られた。詳細は以下のと おりである。 (ア)日最低気温 0℃未満となる日(冬日)の 年間出現日数の変化 日最低気温が 0℃未満となる日を冬日と呼ん でおり、寒い日を代表する指標となっている。 図2.7.26 は、年間の冬日日数が約 100 年後にど の程度減少するのかを示している。これをみる と、本州の山間部や東北地方、北海道で30 日以 上の減少と予測されている。特に北海道の太平 洋側やオホーツク海側では50 日以上の減少が予 測される。 (イ)日最高気温 0℃未満の日(真冬日)の年 間出現日数 日最高気温が 0℃未満となる日を真冬日と呼 んでおり、より寒い日を代表する指標となって いる。図 2.7.27 は、年間の真冬日日数が約 100 年後にどの程度減少するのかを示している。こ れをみると、本州の山間部や東北地方北部、北 海道で 20 日以上の減少と予測されている。特に 北海道の太平洋側やオホーツク海側では40 日以 上の減少が予測される。 図 2.7.26 約 100 年後の冬日の年間出現日数の 変化(単位:日) 2081∼2100 年平均値と 1981∼2000 年平均値と の差。 図 2.7.27 約 100 年後の真冬日の年間出現日数 の変化(単位:日) 2081∼2100 年平均値と 1981∼2000 年平均値と の差。

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 3)強い雨の頻度の増加  地球温暖化にともなって気温が上昇すること により、大気中に多くの水蒸気が蓄えられるこ とから、強い降水現象の頻度が西日本をはじめ 全国的に増加するとの予測結果が得られた。 なお、激しい降水現象については現在の予測 精度は必ずしも十分ではない。以下に今回の地 域気候モデルの結果を示すが、今後さらに地域 気候モデルの高精度化を目指す予定である。 (ア)日降水量 50mm 以上となる日の年間出現日 数の変化  図2.7.28 は、1 日の降水量が 50mm 以上とな る日の年間出現日数が約 100 年後にどの程度変 化するのかを示している。これをみると、太平 洋側の一部地域と北海道の一部を除く、多くの 地域で増加が予測されている。特に西日本日本 海側で大きな増加率となっている。 (イ)日降水量 100mm 以上となる日の年間出現 日数の変化 図 2.7.29 は、1 日の降水量が 100mm 以上と なる日の年間出現日数が約 100 年後にどの程度 変化するのかを示している。これをみると、太 平洋側の一部地域と北海道の一部を除く、多く の地域で 1 日以上の増加と予測されている。特 に中国地方から九州北部にかけて大きな増加が 予測される。 (ウ)日降水量 200mm 以上となる日の年間出現 日数の変化  図 2.7.30 は、1 日の降水量が 200mm 以上と なる日の年間出現日数が約 100 年後にどの程度 変化するのかを示している。これをみると、近 畿地方など一部を除く、多くの地域でわずかな がら増加が予測される。 図 2.7.28 約 100 年後の日降水量 50mm 以上とな る日の年間出現日数の変化(単位:日) 2081∼2100 年平均値と 1981∼2000 年平均値と の差。 図 2.7.29 約 100 年後の日降水量 100mm 以上と なる日の年間出現日数の変化(単位:日) 2081∼2100 年平均値と 1981∼2000 年平均値と の差。 図 2.7.30 約 100 年後の日降水量 200mm 以上と なる日の年間出現日数の変化(単位:日) 2081∼2100 年平均値と 1981∼2000 年平均値と の差。

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 4)夏季の降水の変化について 図 2.7.31 は日本の陸上における年間の月降水 量の変化について地域気候モデルによる過去の 再現結果(1981∼2000 年平均)と将来の予測結 果(2081∼2100 年平均)を比較したものである。 0 100 200 300 400 500 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 月降水量( m m ) 再現結果 将来予測 図 2.7.31 地域気候モデルで計算された日本の 陸上における月降水量の将来(2081∼2100 年の 平均)と過去の再現結果(1981∼2000 年の平均) (単位:mm)  この図をみると、温暖化時は、6∼9 月に現在 よりも降水量が増加していることがわかる。こ の時期は、もともと梅雨前線や秋雨前線などの 活動により、我が国では降水現象にともなう災 害が多く発生する時期である。このため、地球 温暖化の進行にともなう夏季降水に対する防災 は喫緊の課題であるといえる。以下に、夏季降 水に関する解析結果をまとめる。  図2.7.32 は約 100 年後の 6∼9 月における降 水量(上)、降水強度(中)、標準偏差(下)の 変化率を示している(降水強度は通常使われる 意味とは違い、図の説明にあるように、降水日 の平均降水量を示している)。これをみると、北 海道南部から南西諸島にかけての広い範囲で現 在よりも降水量が増加すると予測されており、 特に北陸地方から九州北部にかけては 20%以上 の増加予測となっていることがわかる。また、 降水強度も同じような変化パターンを示してお り、降水量の大きく増える地域では 1 回あたり の雨の量が多くなっている。このことは強い雨 が降りやすくなることを意味している。 図 2.7.32 約 100 年後の 6∼9 月における(上) 降水量、(中)降水強度、(下)標準偏差の変化 率(単位:%) 降水強度とは期間の降水量を降水日数(日降水 量 1mm 以上)で割った値で、雨が降った日平 均の雨量をあらわす。100%を超える変化率は、 現在よりも将来のほうが 1 回あたりの雨量が多 い(雨が強い)ことをあらわす。標準偏差は年々 の変動度をあらわす。100%を超える変化率は、 現在よりも将来のほうが年々の変動が大きい(多 い年と少ない年との差が大きい)ことをあらわ す。

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さらに、標準偏差は東日本から南西諸島にか けて 40%以上と大きく増加している。降水量の 平均的な増加を考慮すると、このことは、年々 の雨量が、平均増加率を大きく上回る年と下回 る年が出現する可能性が高いことを示している。 このため、大雨・強雨に対する警戒とともに、 少雨に対する備えも必要となる。  一方、K−1 モデル(全球大気・海洋結合モデ ル)を用いた予測においても、日本の夏の降雨 量は温暖化により平均的に増加するという結果 となっている。2071∼2100 年平均で 1971∼2000 年平均に比較して B1 シナリオで 17%、A1B シ ナリオで 19%増加している(気象庁(2003)で 用いられた温室効果ガス排出シナリオとは異な ることに注意)。また、図2.7.33 が示すように、 夏季において、日降水量が 100mm を超えるよ うな日数も地球温暖化の進行とともに増加して いる。 図 2.7.33 K-1 モデルによる日本の夏季の豪雨日 数の変化(単位:日) SRES A1B シナリオを採用。日本列島を覆う格 子(100km×100km 程度)のうち一つでも日降 水量が100mm を超えれば、豪雨 1 日と数えた (平成16 年 9 月 16 日の東京大学など合同研究 チームによる報道発表より)。  このように、日本の夏に降水量が増加し、日 降水量が100mm を超える日数が増加するのは、 温暖化した将来において、日本の南側が高気圧 偏差となり、これが日本付近に低気圧偏差をも たらすと同時に暖かく湿った南西風を西日本周 辺にもたらし、また梅雨前線の北上が弱まって 日本付近に停滞しやすくなることによると考え られる。この要因として考えられるのが全球大 気・海洋結合モデルの予測結果にみられるエル ニーニョ型の海面水温偏差パターンである(図 2.7.34)(石原ほか, 2004; Kurihara et al., 2005 など)。図は MRI−CGCM2 の結果をもとにし ているが、東部熱帯太平洋域での海面水温の上 昇が大きくなっており、まさにエルニーニョ現 象が発生しているときの偏差パターンに類似し ている。このような傾向はほかの全球大気・海 洋結合モデルにもみられ、将来的にエルニーニ ョ型の海面水温偏差パターンがあらわれる可能 性が大きいと考えられる。  この理由は必ずしも明らかでないが、例えば、 温暖化にともない、西太平洋では積雲対流が活 発化し、太陽放射が減少することで西太平洋の 海面水温変化が相対的に小さいためであるとの 指摘がある(Meehl and Washington, 1996)。 また、温暖化にともない大気が安定化すること で大気の循環が弱まる効果に加え、水温が高い 西太平洋で蒸発による冷却効果が働くためであ る と の 指 摘 も あ る (Knutson and Manabe, 1995)。  これまで、東部熱帯太平洋での正の海面水温 偏差が強まると、日本付近では、西日本をはじ め夏季の降水量が多くなっており、その状態が 温暖化時にあらわれる可能性が示唆される。 図 2.7.34 約 100 年後の夏平均海面水温の変化 量(単位:℃) 前述のMRI−CGCM2 による予測結果

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2.7.3 気象庁における最近の予測研究

(1)地域気候モデルに関する最近の研究  世界全体を予測対象とする全球気候モデルは 格子間隔が粗く、わたしたちの生活に直接影響 する地域的な予測には適さない。このため、よ り高い分解能をもち、地域的な気候予測が可能 な地域気候モデルが開発され、利用されている。 気象研究所では、1980 年代後半に世界に先駆け て研究に着手し、大規模場の情報を取り込む手 法 と し て ス ペ ク ト ル 境 界 結 合 (Spectral Boundary Coupling)法を開発し、地域気候モ デルによる気候予測が可能であることを示した (Kida et al., 1991; Sasaki et al., 1995, 2000)。 同じ時期に、米国でも地域気候モデルによる気 候変動研究が始まっている(Dickinson et al., 1989; Giorge and Bates, 1989)。その後、地域 気候モデルによる温暖化予測計算が盛んに行わ れるようになり、現在に至って、日本をはじめ、 各国の気象機関、研究機関、大学などで地域気 候モデルを用いた気候予測計算が実施されてい る。IPCC 第四次評価報告書においても、地域 気候モデルによる貢献が期待されている。  気象庁では、気象研究所が開発した 20km 分 解能の地域気候モデルを用いて、1年をつうじ た地球温暖化による日本付近の詳細な気候変化 予測結果を「地球温暖化予測情報 第 6 巻」(気 象庁,2005)として公表した。  しかし、今回の気象庁の予測計算では、海面 水温は解像度の粗い全球気候モデルによる計算 結果を一方的に地域気候モデルに与えるだけで あり、高い分解能での大気と海洋の相互作用を 必ずしも十分に反映していない。日本の周辺海 域は、黒潮(暖流)と親潮(寒流)がぶつかり、 また北海道では冬季に海氷が接岸するなど局所 的かつ複雑な変化をしている。このため、この ような日本周辺の複雑な海洋との相互作用を温 暖化予測に取り入れ、予測精度の向上を目指す と同時に、海洋の詳細な変動予測を行うために、 気象研究所は「大気・海洋結合地域気候モデル」 を開発した。これは 20km 分解能の地域気候モ デル(大気モデル)と高分解能の北太平洋領域 海洋モデル(経度 1/4 度×緯度 1/6 度の分解能) (Ishizaki and Motoi, 1999; 石川ほか, 2005) を結合した気候モデルである。  大気・海洋結合地域気候モデルにより予測さ れた日本周辺の海面水温の予測結果を図2.7.35 に示す。これによれば、海面水温は北海道の南 東側の太平洋側で上昇することが予測されてい る。このような結果は海洋モデルにおいて、別 に計算した全球大気予測データを海面における 境界条件として与えながら計算した場合にもみ られ(佐藤ほか,2004)、海面水温上昇域が東 北南部から北の海岸よりに位置していた。大気・ 海洋結合地域気候モデルでは、この上昇域が陸 からやや離れるとともに、より細かい分布が予 測されている。このように、大気と海洋の高精 度の相互作用を取り入れた詳細な日本付近の大 気と海洋の変動予測は、今後ますます重要な知 見をもたらすことが期待される。 図 2.7.35 「大気・海洋結合地域気候モデル」 により予測された 70 年後における年平均海面水 温の現在との差(℃) (2)地球シミュレータによる研究  IPCC 第四次評価報告書の 2007 年完成に向け、 世界中の研究機関で温暖化実験が行われた。現 在、世界中の科学者が予測結果の解析と相互比 較を行っている。日本では「地球シミュレータ」 という世界最高水準のスーパーコンピュータに のみ可能な世界最先端の温暖化実験も行われた。

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東京大学/国立環境研/地球環境フロンティア研究 センターのグループと、電力中央研究所/米国大 気科学研究センターのグループでは、大気・海 洋結合モデルとしては世界最高水準の高分解能 モデルによる温暖化実験を行った。  そのようななか、気象庁気象研究所/地球科学 技術総合推進機構のグループでは、梅雨と台風 を主な対象として、地球シミュレータ用の20km 格子全球大気モデルを開発した。大気・海洋結 合モデルによる温暖化時の海面水温の予測を、 20km 格子全球大気モデルに与えるタイム・ス ライス実験(はじめに大気・海洋結合モデルで 海面水温を予測し、次に解像度の高い大気モデ ルに、大気・海洋結合モデルにより予測された 海 面 水 温 を 与 え て 将 来 予 測 を 行 う 方 法 : Bengtsson et al., 1996)による温暖化予測を行 った。  図2.7.36 はタイム・スライス実験による梅雨 期の温暖化予測の一例である。図2.7.36(a)を みると、日本と韓国付近で梅雨に相当する降水 がよく再現されている。降水分布の細かい構造 もみえる。図2.7.36(b)は 20km 全球大気モデ ルの境界値を、さらに5km 格子雲解像非静力領 域モデルに与えて計算した場合の降水量の分布 図 2.7.36 タイム・スライス温暖化予測実験による 7 月の現在気候値と温暖化時の変化 (a)観測された現在気候の海面水温(年々変動なし)を 20km 格子全球大気モデルに与え 10 年積分 したときの降水量の気候値(色、mm/day)と 850 hPa 風ベクトル(矢印、m/s)。 (b)全球大気モデル(a)の境界値を与えた 5km 格子雲解像非静力領域モデルによる降水量の気候値。 カラーバーは(a)と同じ。

(c)まず、新しい気象研究所大気・海洋結合モデル MRI−CGCM2.3 により SRES A1B シナリオ実 験で21 世紀末の海面水温を予測した。そのバイアスを補正したのち予測された海面水温を 20km 格 子全球大気モデルに与え 10 年積分した。20km 格子全球大気モデルによる予測値からモデルの現在 気候値(a)を引いた変化量を示した。図の形式は(a)と似ているが、カラーバーと矢印のスケー ルが異なる。 (d)20km 格子全球大気モデルによる予測値(c)の境界値を与えた 5km 格子雲解像非静力領域モデ ルによる降水量の気候値。

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である。全球大気モデルの結果と似ているが、 さらに微細な降水分布が得られている。図2.7.36 (c)は温暖化時に予測される変化である。中国、 東シナ海、南西諸島、西日本、日本の南海上で 降水量が増加している。逆に、北日本、台湾か らフィリピン付近で降水が減少している。850 hPa 風ベクトルをみると、亜熱帯高気圧で時計 回りの循環が強化され、水蒸気収束が増加して 日本の南で降水量が増加していることがわかる (Kusunoki et al.,2005)。図 2.7.36(d)では、 九州付近の降水量の増加が著しく、この地域で 集中豪雨や極端に強い雨が増える可能性を示唆 している(Yoshizaki et al.,2005)。雲解像非 静力学領域モデルの結果は6、7 月のみを対象と した実験的なものであり、信頼性の検証も今後 行っていく必要があるが、梅雨域の降水特性の 基本的な変化を捉えることができており、この 実験から、雲解像非静力領域モデルの有効性を 十分に確認することができた。 (3)新しい気候予測を目指して 気候変動、特に降水については、日本の複雑 な地形により、局地的にさまざまな特徴をもっ ている。また、梅雨末期などに発生する局地的 な豪雨の将来における変動は、重要な予測対象 である。日本における予測結果が十分な利用価 値をもつためには、このような日本周辺の局地 的な気候の特徴を、主要な山脈や河川の流域程 度のスケールで再現し、予測することが必要に なる。このために、豪雨などの顕著な現象を取 り扱うことができ、また主要な山脈や河川の流 域スケールの地形を表現する高精度の地域気候 モデルを、(2)で示した 5km 格子雲解像非静力 学領域モデルの結果をもとにして気象庁・気象 研究所で開発する予定である。このモデルには 高精度な境界条件、および日本周辺の詳細な海 面水温の情報が不可欠であり、これらを実現す るために、(1)で示した大気・海洋結合地域気 候モデルをさらに発展させるとともに、炭素循 環やエーロゾルの予測モデルを含む高精度な全 球大気・海洋結合モデル(地球システムモデル) の開発を行う。これらにより、新しい気候予測 システムを構築し、より精密な予測情報の提供 を行っていく計画である。

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コラム】気候統一シナリオ

現在、我が国では、科学技術政策を取り扱 う総合科学技術会議において「地球温暖化研 究イニシャティブ」を設定し、政府全体とし て地球温暖化研究を推進しており、この地球 温暖化研究イニシャティブに設置された「温 暖化影響・リスク評価研究プログラム」のも とで、自然生態系、農業、健康などさまざま な分野に地球温暖化が及ぼす影響が研究され ている。しかし、これまでは影響・リスク評 価研究で共通に利用できる、日本付近の詳細 な気候変化に関する予測結果がなかったため、 個々の分野における影響評価結果をまとめて、 地球温暖化が我が国全体に及ぼす影響を評価 することは困難であった。  このため、気象庁は、地域気候モデルを用 いて日本付近の気温や降水量などの気候変化 を20km の解像度で予測し、その結果を「温 暖化影響・リスク評価研究プログラム」へ「気 候統一シナリオ 第 2 版」として平成 16 年 9 月に提供した。平成 15 年度には「気候統一 シナリオ 第1版」を提供していたが、「気候 統一シナリオ 第 2 版」は、気候モデルをさ らに改良し、予測結果をより高精度化したも のである。  これらのデータは、影響・リスク評価研究 において統一して使われる気候変化予測デー タとして、データの再現性などを考慮したう えで広く活用されており、災害リスク評価や 自然生態系、健康への影響評価など活発な研 究が行われている。  「気候統一シナリオ」は以下の影響・リス ク評価研究などに利用されている。 ・温暖化のブナ林など森林への影響 ・温暖化による災害リスク ・温暖化の農業への影響 ・将来の気温が健康に及ぼす影響 ・温暖化の陸上生態系への影響 ・暴露温度の推定による暑熱リスク 図 1 気候統一シナリオの利用

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図 2.7.1 IPCC 第三次評価報告書(IPCC, 2001)で用いられた、(a)人間活動にともなう二酸化炭素 の排出シナリオ、(b)対応する大気中の二酸化炭素濃度、(c)人為起源の二酸化硫黄の排出量 SRES シナリオは、大まかに 4 種のシナリオに分類される。A1 グループは、高い経済成長と地域格差 の縮小を仮定する(このなかで、A1B はエネルギー源のバランスを、A1T は非化石エネルギー源を、 A1FI は化石エネルギー源を重視している)。A2 グループは、高い経済成長と地域の独自性を仮定す る
図 2.7.4 MRI-CGCM2 による SRES A2,B2 シナリオ にともなう平均気温の経年変化(単位:℃) 3 メンバーによるアンサンブル平均。気象庁 (2003)の図 A−1 より。
図 2.7.5 MRI-CGCM2 による SRES A2 シナリオにともなう平均気温の変化(単位:℃)
図 2.7.6 K-1 モデルによる SRES A1B シナリオにともなう年平均気温の変化(単位:℃) 2071∼2100 年の平均気温から、1971∼2000 年の平均気温を引いたもの(平成 16 年 9 月 16 日の東京 大学など合同研究チームによる報道発表より)。気象庁(2003)で用いられた温室効果ガス排出シナ リオとは異なることに注意。 (3)降水量の変化予測  1)IPCC(2001)での予測結果  図 2.7.7 は SRES A2、B2 シナリオに対する 大気・海洋結合モデルによる全球平均
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参照

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