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兵庫県立大学 大学院物質理学研究科 高橋 慶紀

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(1)

統計力学 I

兵庫県立大学 大学院物質理学研究科 高橋 慶紀

[email protected] 2006

10

5

概要

このノートは、統計力学Iの講義の内容についてまとめたものであり、この講義を履修する学生の便宜 をはかるために公開することにした。学部の2年後半で、初めて統計力学を勉強しようとする学生を念頭に おいて準備し、とくに統計力学の基本的な考え方を理解してもらうことに重点をおいた。

目次

1 はじめに 3

1.1 力学と確率 . . . . 4

1.2 位相空間 . . . . 5

2 統計力学の基本原理について 7 3 マイクロカノニカルアンサンブル 7 3.1 マイクロカノニカルアンサンブルとマイクロカノニカル分布. . . . 7

3.2 Maxwell-Boltzmannの速度分布の導出. . . . 8

3.3 統計力学的な温度の定義 . . . 11

3.4 マイクロカノニカル分布の応用 . . . 14

4 カノニカルアンサンブルとカノニカル分布 20 4.1 カノニカルアンサンブルとカノニカル分布 . . . 20

4.2 カノニカル分布の導出 . . . 21

4.3 分配関数の導入 . . . 22

4.4 体積の変化する系 . . . 26

4.5 熱力学との対応 . . . 29

4.6 カノニカル分布の応用 . . . 30

5 粒子数の変化する系の統計力学 44 5.1 化学ポテンシャルの導入 . . . 44

5.2 グランドカノニカルアンサンブル . . . 44

5.3 熱平均値の求め方 . . . 45

(2)

5.4 粒子数が自由に変化する系の化学ポテンシャル . . . 46

5.5 グランドカノニカルアンサンブルの応用 . . . 47

5.6 Gibbsの自由エネルギー. . . 51

5.7 ルジャンドル変換 . . . 53

6 光についての統計力学 55 6.1 光子ガスの統計力学 . . . 55

6.2 波動の描像による統計力学 . . . 58

6.3 Planckの輻射公式と光量子仮説 . . . 59

6.4 古典から量子統計力学へ . . . 60

付録A 統計力学でよく利用する数学 62 A.1 ガウス積分の関係する積分 . . . 62

A.2 Stirringの公式 . . . 62

A.3 双曲線関数 . . . 62

(3)

1 はじめに

統計力学は、いわゆるミクロな原子論の立場から巨視的な世界のふるまいを説明しようとするものである。

したがって、原子、分子の世界を支配している量子力学をその基礎とすることで、初めて実際的な意味をもつ 場合が多い。ただ、初めて統計力学を教えようとする場合、量子力学の知識を前提として説明をすることがで きない場合がある。例えば、多くの大学の学部教育におけるカリキュラムでは、統計力学と量子力学が平行し て同じ時期に開講され、統計力学の講義の際に量子力学の知識を前提にすることはできない。そこで、この講 義でも量子力学の知識を特に前提とせず、できるだけ古典力学の枠内で統計力学について説明する。基本的な 統計力学の考え方自身は、古典力学、量子力学に関わらず共通するものである。したがって、古典力学の描像 を基礎において説明するにしても統計力学の基本的な考え方についての理解を深めることを特にこの講義の目 標とする。

熱現象と呼ばれる現象がある。この熱現象を支配する法則を取り扱うための科学の 1分野に熱力学がある。

熱力学は、次の3つの法則をその基本法則としている。

1.1 法則 熱エネルギーを考慮に入れることにより、熱現象に関してもエネルギーの保存則が成り立つ 2.2 法則 孤立した系のエントロピーが増大すること

3.3 法則 温度が絶対零度に近づくとき、エントロピーはゼロに近づく

これらの法則は、他の自然科学の法則同様に、我々の日常的な経験や、実験的な研究の積み重ねの結果を総合 して帰納的に抽出された経験則である。また、これらの法則すべてが、対象となる系についてそれが何ででき ているかや、どのような形態にあるかなどに依らずに極めて普遍的に成り立つことが知られていることも注目 すべきことである。

科学に基づいて自然現象を理解しようとする場合のひとつの流れとして、分析的な方向がある。例えば、物 質の性質を理解しようとする場合、物質を細かく分けていきその構成要素の最小単位である、原子、分子の力 学的なふるまいから元の物質を理解しようとするものである。この背景には、それら原子、分子の運動を支配 する力学をその基礎においた自然観がある。よく知られたエネルギーの保存則は、力学的な考えをもとに形成 された物理学の中でも特に重要な概念である。この法則によれば、エネルギーはいろいろな形で存在すること が可能であるが、常にその総量は一定の値に保たれているとするものである。

いくらエネルギーが一定に保たれていても、エネルギーがその形を変えるときにある決まった方向性があっ たり、一口にエネルギーといってもその質が問題となる場合がある。このことは、エネルギーに関連づけて言 うと、エネルギーをいろいろな自由度に如何に割り当てるかという、エネルギーの配分のしかたに関しても何 らかの法則性があることを示唆している。エネルギーとして総量が一定であるという条件があっても、その分 割のしかたの自由度は依然残っているわけである。このことを明確な形で述べたのが、上の熱力学の第2 法 則であるといえる。第2 法則もエネルギー保存の法則同様に、物理学の中では極めて重要な概念に関係して いるということができる。統計力学は、このように経験により求められた熱力学の法則を、微視的な原子論の 立場から力学を基礎に説明しようとするものである。

上に挙げた熱力学の法則の背景にあるより深い原子論的な意味は統計力学によって初めて明らかにされるも のである。同時に統計力学は、熱力学で導入された様々な状態量や、熱力学関数を原子論的な立場より力学を 用いて具体的に計算する手だても与えてくれる。つまり、系を構成する原子、分子を出発点としてそれらの間の 相互作用を考慮に入れながらこれらの値を計算することにより、

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

微視的なミクロの世界を支配する力学の法則

(4)

を用いて、

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::巨視的なスケールで成り立つ熱力学的性質を演繹的に導くことを可能してくれる。

統計力学はそれが取り扱う対象によって大きく2つに分けて考えることができる。つまり、

熱平衡状態の統計力学 どのような初期状態から出発しても、最後に系が到達するような状態を熱平衡 状態と呼ぶ。この平衡状態に到達後は、系はそれ以降もこの状態を保ち続け、時間的な変化は観測され なくなる。

非平衡状態の統計力学 平衡状態にない系のふるまいに関する統計力学をすべてこのように総称する。

系に対し、外部から何らかの外力が作用しているような系で、それが時間に依存しない定常状態であっ てもそのような系は、本来の意味での平衡状態ではないことにも注意すべきである。

この講義の内容は、すべてこの前者の平衡状態の統計力学に関する説明に限られる。また、量子力学的効果 を取り入れるかどうかによって、古典統計力学と量子統計力学という呼び方もあるが、本来なら量子力学に基 づくべきであるが、これ以降の説明はすべて古典力学に限られる。理解を深める目的でいくつかの例題が示さ れるが、温度領域などに関するその適用範囲は当然上の制約により限られたものになることも初めに注意して おく。

1.1

力学と確率

本来なら、確率や統計という言葉は、さいころを振ったとき出る目の数のように不確かで、予測のつかない 現象を記述する場合に使われる。統計力学という名前は、この名前からして本来は互いに相容れないと思われ る「統計」という用語に、曖昧さの入り込む余地のない力学系の運動に関する「力学」という用語を一緒にし て、ひとつの名前がつけられていること自体すこし奇妙な印象をもつかも知れない。そこでまず、本来決定論 的な力学に確率を導入する可能性について考えてみよう。

Newton力学のひとつの数学的な表現として、ハミルトンの運動方程式を用いて力学系の時間発展を記述す

る方法がある。3 次元空間内にあるN 個の質点から成る系を例にとると、この方法は各質点の座標と運動量 をそれぞれ独立変数とみなし、それらの時間依存性が次の、時間に関する1階の微分方程式Hamiltonの運動 方程式によって記述されると考える。

dqi

dt =∂H(q, p)

∂pi

, dpi

dt =∂H(q, p)

∂qi

(1.1) ただし、H(q, p)は系のハミルトニアンである。もともとのNewton 力学と異なり、独立な変数が2 倍に増 えたことと引き替えに、運動方程式の時間微分はすべて1 階となるところに特徴がある。粒子を1個だけ含 む系の場合で比較とすると次の表のようになる。

運動方程式 独立変数 方程式の数 時間微分の次数 ニュートンの場合 x,y,z 3 2 ハミルトンの場合 x, y,z,px, py,pz 6 1

1 ニュートンとハミルトンの運動方程式の違い

ニュートン力学の場合の初期条件は、ある時刻にすべての粒子の座標qiと、その速度q˙i の値を指定する。

ハミルトン力学の場合は、系に含まれるすべての粒子の座標と運動量の値を指定することになる。これらの座 標の組により系の状態は完全に決まり、それ以降の系の時間発展は上の時間に関する微分方程式を解くことに より得られる。

(5)

1.2

位相空間

このハミルトンの運動方程式を利用する場合、通常の空間座標系の代わりに位相空間(phase space)を考え ると便利である。位相空間は、いまのN 個の質点からなる系を例にとると、個々の質点のそれぞれの空間座 標(x1, y1, z1, · · ·)に関する3N個の空間座標に付け加え、これにさらに質点の運動量の値(p1x, p1y,p1z,

· · ·)を表すための3N個の座標軸を追加した6N次元空間として定義される。この位相空間を利用すること 空間次元の自由度 粒子数 位相空間の次元

1 次元 1 2

2 次元 1 4

3 次元 1 6

3 次元 N 6 N

2 系を記述するために必要な位相空間の次元

により、力学系の運動を

::::::::幾何学的、

::::::視覚的にとらえることが可能となり、また力学系の状態は、この位相空間

内のひとつの質点として表される。つまり次のような対応が成り立つ。

力学系の状態 位相空間内の点

力学系の時間発展を位相空間内の質点の動きでとらえると、特定の初期条件で出発した系は、運動方程式に従 う時間発展により位相空間内に軌跡を描くことがわかる。簡単な例として1 次元的な運動を行う1個の調和 振動子を考えみよう。フックの法則にしたがうバネのついた質量m の粒子の運動と考えてよい。この力学エ ネルギ─T と位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)V はそれぞれ次のように与えられる。

T = m

2x˙2, V =1 22x2 角周波数ω は、バネ定数Kω=p

K/mの関係がある。この系のハミルトニアンH を求めるには、まず 次のように定義されるラグランジアンLから、運動量pを定義する。

L=T V =m 2x˙21

22x2, p=∂L

x˙ =mx˙ ハミルトニアンHLから次のように求められる。

H(x, p) =px˙L(x,x) =˙ p2 m 1

2mp2+1

22x2= 1 2mp2+1

22x2

ハミルトニアンは必ず座標と運動量の関数として表し、速度x˙ を含んではならないことに注意する必要があ る。求まったH を利用して、(1.1)式を利用してハミルトンの運動方程式として次の2つの式が得られる。

˙ x= ∂H

∂p = p

m, p˙=∂H

∂x =2x この解は次のように与えられる

x(t) = r 2E

2cos(ωtα), p(t) =

2mEsin(ωtα) この運動の軌跡を2次元の位相空間内で表すと次の図のようになる。

(6)

x p

1 位相空間における調和振動子の運動

1.2.1 滞在時間と確率の定義

熱平衡状態に関する統計力学で問題となることは、平衡状態にある系の性質に関することである。熱平衡状 態とは、どんな初期条件から出発しても充分時間が経った後に、系が最終的に到達する状態である。この状態 に到達後は、巨視的に見ると系のふるまいにはほとんど変化がないように見える。つまり、熱平衡状態に関係 するのは力学系の短い時間内の変化に対応するような性質ではなく、充分長い時間かけて系のふるまいを観測 したときに得られる性質であると考えられる。力学系に確率を導入するための準備として、いま、ここで力学 系の運動に関係する位相空間の領域を適当な方法で部分領域1, Ω2,· · · に分割てみよう。

Ω = Ω1+ Ω2+· · ·+ Ωi+· · ·

また、充分長い時間T をかけて系の時間変化を観測した場合を想定しよう。系の力学的な状態に対応する位 相空間内の点は時間の経過とともにいろいろな領域を通過することになる。分割した各領域内を系が通過する に要した時間としてそれぞれti (i= 1,2,· · ·)が定義できる。

T =t1+t2+· · ·+ti+· · ·

この各領域における系の滞在時間ti を用いて、その値の全体の時間T に占める比の値として、系を領域i

に見いだす確率pi を定義できる。つまり、

pi= ti

T : 系を領域i に見いだす確率

定義より、この比の値はすべて0pi 1 を満たす。系の運動が、ここで考えたすべての部分位相空間の和 で覆われる空間内に限られるとすれば、すべてのpi の和は1となる。つまり、我々はこの比の値pi を確率 であると考えることができる。このようにして定義される、いわば滞在確率が充分長い時間が経過したときあ る一定の値に収束し、また初期条件の取り方に依存しなければ、系の平衡状態の性質を調べる目的にこれを利 用できる可能性がある。

(7)

2 統計力学の基本原理について

力学系に確率や統計の考え方を導入できる可能性の根拠は、すでに述べたように位相空間の各領域に系が滞 在する時間を確率に対応させることにある。位相空間の各領域における滞在時間を、その領域の何らかの性質 に対応させる簡単な規則性が見つかれば、系の長時間平均の性質に関する平衡状態の性質を考える上で大いに 役に立つ。このような考えを基に力学系の位相空間内の時間発展に関して、次のような予想が成り立つかどう かが重要な問題と考えられた。つまり、充分長い時間が経過したとき、どのような初期条件から出発しても、

時間発展によって系が描く軌跡は、位相空間のすべての点をくまなく埋め尽くすであろうという予想である。

もしこの予想が成り立てば、系の各領域における滞在時間は長時間経過の極限において、その領域の体積に比 例することが導かれる。その場合、領域に系が見いだされる確率は領域の体積に比例する。すなわち、

tiVi, pi= i

(2.1)

が成り立つ。力学系に関するこの予想が成り立つかどうかはErgod問題として知られている。

Ergod(エルゴード)性が成り立つかどうかを数学的に証明するための多くの試みがかつてなされた。その

結果は、残念ながらErgod性は厳密な意味において一般に成り立たないことがすでに数学者のBirkoffによ り証明されている。しかしながら、もともと考えられたErgod性の条件をすこし緩めた準Ergod性なら成り 立つこともBirkoffによって証明されている。実際上は、この準 Ergod性が成り立つことで充分であると考 えられている。そこで、これ以降の説明においては準Ergod性が成り立つことを仮定し、充分長い時間が経 過すれば、位相空間内のある領域内に系が滞在する時間は、その領域の体積に比例するという(2.1)式が成り 立つことを 今後の議論の出発点して仮定する。また、この基本的な仮定のことを今後、

先験的等確率(Equal a priori probability)の仮定 と呼ぶことにする。

3 マイクロカノニカルアンサンブル

先験的等確率の仮定という、系の平衡状態を記述するための統計力学の基本的な考え方について説明した。

この仮定を利用すると、系の巨視的な性質の長時間の平均は、位相空間における空間平均に置き換えて考える ことができる。この仮定に基づいて熱平衡状態の系の性質を記述するために、位相空間内に分布する統計的な 母集団を導入することがこの節の目的である。熱平衡状態に関する系の種々の性質は、この母集団に関する統 計的な平均操作によって得られることになる。

3.1

マイクロカノニカルアンサンブルとマイクロカノニカル分布

大きな自由度を含む、孤立したエネルギーの保存する系について考えよう。この系の力学的な運動を記述す るハミルトニアンをH(q, p)とすると、エネルギー保存則によりこの系の時間発展は、位相空間の中の等エネ ルギー面、

H(q, p) =E

の上に軌跡を描くことになる。ただし、Eは系のエネルギーの値とする。先験的等確率の仮定やエルゴード性 は、系の長時間の運動による軌跡がこの面上を一様に埋め尽くすことを意味する。そこでこの等エネルギー面

(8)

上における系の滞在確率と関係する、次のような分布関数ρ(q, p)を定義する。

ρ(q, p) =

ρ0 EH(q, p)E+δE のとき

0 その他の場合 (3.1)

これは、位相空間内においてある特定の系の時間発展を考える代わりに、初期条件だけがその系と異なる、元 の系の多くの複製からなる統計的な母集団を考えることに対応している。また、上の分布関数はこの母集団 に属する各サンプルが位相空間内の等エネルギー面上に一様な密度 ρ0 で分布している様子を表している。こ のような分布に従う統計母集団のことを

::::::::::::::::::::::::::::::

マイクロカノニカルアンサンブル(Micro-canonical ensemble)と呼 び、その分布のことをマイクロカノニカル分布(Micro-canonical distribution)と呼ぶ。定義より、この分布 は孤立したエネルギーの保存する系に対して適用されるものである。

3.1.1 Liouvilleの定理

なぜ、座標と運動量を一緒にした位相空間を用いて統計的な母集団を導入する必要があるのだろうか。何か 別の、例えば運動量の代わりに速度を座標軸とした空間で考えてはいけないのだろうか。結論をいうと、統計 母集団を位相空間で定義する必要性には、それなりの明確な理由がある。

位相空間内の各点は、ハミルトンの運動方程式にしたがって絶えず運動している。位相空間のある決められ た領域にn個の点が含まれていたとすると、ある時間∆t が経過すれば、そのうちのδnout 個の点は領域の 外に出てしまい、また、領域外のδnin 個の点が新たに流入する。δnout=δnin が成り立たないとすると、こ の領域の粒子密度は時間の経過によって変化してします。そのような場合には、先験的等確率のような分布を ある時刻に仮定しても、時間の経過によってその分布が変化してしまうので意味がない。

我々の仮定した仮定が役に立つことを保証するためには、位相空間内の密度がどのような時間変化をするか について知る必要がある。このために利用できるのが、位相空間内で定義された確率分布関数ρの時間発展 を表す次のLiouville方程式である。

∂ρ

∂t +

3N

X

i=1

∂ρ

∂qi

∂H

∂pi ∂ρ

∂pi

∂H

∂qi

= 0 (3.2)

分布密度ρがハミルトニアンH(q, p)の関数の場合、そのq,p依存性は、ハミルトニアンH(q, p)q,p依 存性から生ずる。このような場合、密度のq,pに関する偏微分は次のように表される。

∂ρ

∂qi

= ∂ρ

∂H

∂H

∂qi

, ∂ρ

∂pi

= ∂ρ

∂H

∂H

∂pi

この結果を(3.2)に代入することにより∂ρ/∂t= 0が一般に成り立つことがわかる。つまり時間が経過して も最初に仮定した分布の形はそのまま保たれる。(3.1)で定義したマイクロカノニカルアンサンブルの場合も、

このひとつの例として分布関数の形は時間によらず保たれる。

3.2 Maxwell-Boltzmann

の速度分布の導出

先験的等確率の仮定のもつ意味を、より明確に理解する目的から、マイクロカノニカルアンサンブルおよ び、マイクロカノニカル分布の簡単な応用として、理想気体に含まれる気体粒子の速度分布を求めてみよう。

気体に含まれる原子、または分子はすべて同じ速度をもっているのではなく、いろいろな速度をもった粒子が 含まれていると考える方がより自然である。

(9)

N 個の粒子が含まれる気体中の各粒子の速度に関して、速度(vx, vy, vz)から 速度(vx+δvx,vy+δvy, vz+δvz)の範囲にある粒子数をδn(vx, vy, vz)とする。

δn(vx, vy, vz) =N f(v)δvxδvyδvz

で与えられるとき、関数f(v)のことを速度分布関数と呼ぶ。以下では、速度vの関数としてこの関数を具体 的に求めてみよう。

カノニカルアンサンブルを適用するために、外部とエネルギーのやりとりがない、孤立したN 個の粒子を 含む理想気体について考えることにする。気体の全エネルギーE は、含まれる全粒子の運動エネルギーの和 として次のように与えられる。

E=X

i

1

2mp2i (3.3)

粒子の質量をm、運動量をpi とした。気体を入れた容器の壁と気体粒子との間の衝突の影響や、気体粒子の 間の衝突による粒子間の相互作用のエネルギーは無視できるものと考えた。ただし、これらの相互作用が全く 存在しないとすると、個々の気体粒子の速度に変化が生ずることはない。したがって、その場合の速度分布 は、最初に仮定した分布が時間が経過してもそのまま変化せずに保たれるだけである。したがって、実際には 相互作用がわずかながら存在して、気体粒子は互いに時々起こる粒子間の衝突などによって、その運動量、ま たは速度の再配分が起きていると考えことにする。ある1 個の粒子の運動に着目してみれば、わずかな気体 粒子間の相互作用によってこの粒子は、まれに起る他の粒子や壁との衝突の度に速度の値に変化が起きる。ま た、ここで求めようとする速度分布が、平衡状態における速度分布、つまり、どのような初期状態の速度分布 から出発しても、充分時間が経った後、最終的に到達する分布についてであることにも注意する必要がある。

それでは、気体中から1 個の粒子を取り出したとき、その粒子がある速度v をもつ確率を求めてみよう。

気体から1個の粒子を取り出したとき、その粒子の運動量p1pの値であったとする。この粒子を 1番 目の粒子と呼ぶことにする。このとき(3.3)のエネルギーの保存則は次のように表すことができる。

E= p2 2m+

N

X

i=2

1

2mp2i (3.4)

1番目の粒子以外の残りのN 1個の粒子のエネルギーの値はエネルギー保存則によりEp2/2mで与え られ、この値は1番目の粒子の運動量pの値の大きさにより変化する。位相空間は空間座標に関する自由度 も含まれるが、ここでは運動量の自由度だけに特に着目し、その部分空間の体積についてだけ考えることにす る。座標空間についての分布は、一様であると考える。

(3.4)からわかることは、運動量空間においてN1個の粒子が許される領域の体積は、3(N1)元空

間において次の半径rで与えられる球の表面積になることである。

r2=

N

X

i=1

(p2ix+p2iy+p2iz) = 2m(E p2 2m)

一般にn次元空間における球の体積n、およびその表面積Sn は次のように与えられる。

n=Cnrn, Sn=nCnrn−1 これを利用すれば、面積はエネルギーの関数として次のようになる。

Ω(Ep2/2m)3(N−1)[2m(Ep2/2m)]3(N−1)/2−1exp[3N

2 ln(Ep2/2m)]

= exp[3N

2 lnE3N

2Ep2/2m+· · ·] (3.5)

(10)

この式では、N が非常に大きな値であると考えて、N に対して1 程度の値は無視した。ここで得られた体積 は、粒子1がエネルギーp2/2mの値をもつ場合に、残りのエネルギーを2番目以降の各粒子のそれぞれに配 分するとしたときの場合の数、つまりN1個のベクトル(p2, · · ·,pN)が取り得る可能な組み合わせの数 が、総エネルギーと1番目の粒子のエネルギーの関数としてどのように表されるかを示している。

マイクロカノニカルアンサンブルの背景にある先験的等確率の仮定は、この微視的な運動量ベクトルの取り 得る値のそれぞれが同じ確率をもって出現することを意味する。つまり、着目した粒子1 が運動量pをもつ 確率は、残りの粒子が位相空間で取り得る位相空間の体積、(3.5)に比例することがわかる。つまり速度分布 はこの体積に比例すると考えられる。(3.5)式に現れるp2 の係数は、エネルギー等分配則から得られる理想 気体の内部エネルギーEについてのよく知られた式、E/N= 3kT /2が成り立つことを利用して温度T を用 いて表すことができる。気体の速度分布として最終的に次の式が得られる。

f(v)Ω(Ep2/2m)exp(mv2/2kT), (p=mv)

これが、Maxwell-Boltzmannの速度分布として知られている式である。

この説明の最後に用いた温度の導入のしかたは、少し説得力に欠ける。また、等分配則が成り立つことを仮 定したが、これがどのような場合に成り立つのかについては必ずしも明確とはいえない。般の場合にも適用で きるかどうか必ずしも明らかではない。したがって、上のような分布則の導き方は完全なものとは言い難い。

今述べた議論を、より首尾一貫したものにするためには、これまで曖昧に用いてきた温度を、統計力学的に はっきりと定義する必要があることを、この例は示している。

温度をどのように定義するかについては次に考えていくことにするが、その前にとりあえず速度分布の導出 の際に導入された温度について、以下のような関係が成り立つことを指摘しておく。いま、エネルギーE を もつ位相空間の状態の体積 Ω(E)の自然対数としてエネルギーについての次の関数S(E)を定義すると、こ の関数は次のように与えられる。

Ω(E) = expS(E)/kB E3N/2 S(E) = 3N

2 lnE+· · ·

あとで説明するようにS(E)は熱力学に現れるエントロピーに対応するものであることがわかる。一般に用い られている定義に一致させるため、ここではあえてボルツマン定数kB を用いて定義した。したがって、S(E) はボルツマン定数と同じ単位をもつ。関数S(E)を用いると、温度の導入に用いたエネルギー等分配則の関係 は次のように表せる。

∂S(E)

∂E = 3N kB

2E = 1 T

(11)

3.3

統計力学的な温度の定義

Maxwell-Boltzmannの速度分布関数の導出の際に、温度をエネルギー等分配則を利用して導入した。この

点から、その導出のしかたはそれ自身で閉じたものにはなっていない。また、この等分配則が成り立つこと についての根拠についても、必ずしも自明でない。この節の目的は、

::::::::::::::::::::::::::::::

マイクロカノニカルアンサンブルに対し て、温度を統計力学的にどのように定義するかについて考察することである。

3.3.1 温度がもつべき性質

まずその前に、温度を定義する前に、普段我々が何気なく使っている温度がどのような情況で使われ、どの ような性質をもつものであるかを以下にまとめてみた。

1. 2 つの系が熱的な接触をしたとき、両方の系が同じ温度になったとき熱平衡状態が到達される。これ は、熱力学の第0 法則と呼ばれることもある。

2. 温度の高い系から低い系へエネルギーの移動が生ずることによって熱平衡状態が到達される。

3. 温度は、物質の状態を表す普遍的な尺度である。この普遍的ということは、それがどのような形態、つ まり、気体や液体、固体の状態にあるかということとは無関係に定義できる性質であることを意味す る。また、それがどのような材料(微視的には、原子、分子などの種類)を用いてできているかにも無 関係に定義されるものでなくてはならない。

これ以外にも温度を定義するにあたっては従来の温度の定義と矛盾するような定義であっては困るとい う要請もある。

3.3.2 熱平衡状態とは

我々が生活する巨視的な世界において実感する状態の巨視的に見えるあるひとつの性質には、数多くのミク ロな状態が対応している。マイクロカノニカル分布の基礎にある先験的等確率の仮定に基づくと、位相空間の 個々のミクロな状態は同じ実現確率をもつことになる。その場合、より多くの微視的な状態を含むような巨視 的な性質、つまり位相空間の中で大きな体積を占めるような巨視的な性質が大きな実現確率をもつことがわか る。位相空間の中で最大で、他と比べて圧倒的に大きな体積を占めるような巨視的な状態が存在すれば、それ が最も確からしい状態として実現すると考えられる。つまり、その状態は熱平衡状態と呼ぶにふさわしい。

熱平衡状態⇐⇒ 位相空間で最大の体積を占める巨視的状態

特に、系に含まれる自由度の数が巨大になるほど、この平衡状態に対応する位相空間の体積は、それ以外の 他の状態と比較して圧倒的なものとなることが知られている。

3.3.3 温度の定義

温 度 が も つ べ き 性 質 の 1 に あ る よ う に 、2 つ の 系 は 同 じ 温 度 の と き に 熱 平 衡 状 態 が 達 成 さ れ る 。 今 述 べ た 熱 平 衡 状 態 に つ い て の 説 明 に よ れ ば 、同 じ 温 度 の と き に 、そ の 状 態 の 位 相 空 間 の 体 積 は 最 大 に な る は ず で あ る 。こ の 考 え に し た が っ て 温 度 を 定 義 す る た め に 、2 つ の 系 A, B を 考 え 、こ れ の 間 に 熱 的 な 接 触 に よ っ て 互 い に エ ネ ル ギ ー の や り と り が で き る よ う な 状 況 を 考 え て 見 よ う 。

(12)

2 熱平衡状態にある 2つの系

-

System A System BSystem B

∆ E

2つの系それぞれのエネルギーはEA, EB の値をも ち、両方の系を合わせた全系のエネルギー

Etot=EA+EB

は一定の値で保存されると考えよう。したがって、両 方合わせた系全体の統計的な性質についてはマイクロ カノニカル分布に従うと考えられる。理想気体の場合 には、系のエネルギーは、その中に含まれる粒子の運 動エネルギーの和として表される。運動量空間におけ る等エネルギー面の体積がΩ(E)E3N/2 で与えら れることをついてすでに説明した。また、体積の自然 対数からエネルギーの関数S(E)を定義した。任意 の巨視的な系についても、このようなエネルギーの関数としての位相空間の体積Ω(E)や、関数S(E)が存 在すると考えてみよう。もちろん、そのエネルギー依存性は理想気体のものとは一般に異なる。

ここで考える2つの系A, Bに対し、これらの関数が次のように与えられると考えよう。

A(EA) = expSA(EA)/k, B(EB) = expSB(EB)/k

熱的な接触により、片方の系からもう片方の系へエネルギーの移動が可能である。全系のエネルギーは保存し ても、各系のエネルギーはいろいろな値を取り得る。つまり、全系のエネルギーの値EtotA, B 2つの系 に配分のしかたには、いろいろな可能性がある。この配分のしかたは、この系の

::::::::::::

巨視的な性質と考えられ、そ の性質(つまり、配分のしかた)には、それぞれの系において巨視的な数の微視的な状態が含まれている。

相互作用がほとんど無視できると考えると(2つの系は互いにほぼ独立と考えられる)、あるエネルギーの 配分に対応する系全体の位相空間の体積は、2 つの系それぞれについての位相空間の体積の積、つまり

tot(EA) = ΩA(EA)×B(EB) = exp[SA(EA)/k+SB(EB)/k] (3.6) で与えられる。全エネルギー一定の条件から、上の積の値は例えば系A のエネルギーEA のみの関数と見な すことができる。

平衡状態が最大の位相空間の体積をもつ状態に対応することについて説明した。したがって、熱平衡状態に 対応するエネルギーの配分のしかたを求めるには、(3.6)の全系の状態数tot を最大にすることによって得 られる。つまり、全エネルギーの値が一定の条件の下で、エネルギーEA に関する状態数tot の極値を求め ることから、熱平衡状態のための次の条件が得られる。

∂SA(EA)

∂EA

= ∂SB(EB)

∂EB

EB=Etot−EA

(3.7)

「温度」に要求される1番目の性質に着目すると、上で得られた条件は温度の定義に都合がよいことがわかる。

例えばそれぞれの系A, Bに対して定義される次の微係数の値を考えてみよう。

∂SA(EA)

∂EA

=βA, ∂SB(EB)

∂EB

=βB

これらは、温度の定義に用いるにふさわしい値である。(3.7)の条件から、これら2 つの値が同一の値となっ た場合に熱平衡状態が到達されることがわかる。これらの値が何らかの方法で系の温度と関係するものと考え られる。

(13)

この微係数の値は、特定の系に固有の性質や状況に応じて決まるようなものであってはならないこともわか る。例えば上の定義から、βA の値は、系Bとは全く無関係に系Aに対して独自に SA(E)を用いて定義さ れる値である。同じことはβB の値についてもいえる。それぞれの系で独自に定義される値でありながら、そ の値がどの系についても共通に同じ値をもたなけばならないとしたら、その値は、どの系にも依存しないもの とならざるを得ない。したがって、微係数βA,βB が温度と何らかの関係があるとすれば、それぞれの系には 無関係な、ある普遍的な関数関係に依らざるを得ない。つまり、ある関数β(T)を用いて、

βA=β(TA), βB =β(TB)

の成り立つことがわかる。β(T)個々の系を記述するための独自のパラメータなどに依存してはならない。こ のようにして我々は温度を導入することができる。このようにして定義した温度は、要求される1 番目と 3 番目の性質を満たしていることがわかる。

次に、残された問題として普遍的な関数β(T) の具体的な関数形について考えてみよう。初めに2 つの系 の温度が異なっていると考えてみよう。例えばTA< TB とすると、温度に関する2番目の要請から温度の高 い系Bから温度低い系Aにエネルギーの移動が生ずることによって、熱平衡状態が達成されるはずである。

つまり、

TA< TB のとき、δEA>0 が成り立つ。

2つの系の温度が等しくない場合には、系AのエネルギーをδEA 増加させたときの全系の状態数の増加は 次のように表すことができる。

δΩ(EA) =Ω(EA) k

∂SA(EA)

∂EA ∂SB(EB)

∂EB

δEA=Ω(EA)

k [β(TA)β(TB)]δEA

この式から次のことがわかる。δEA>0が成り立つとすると、熱平衡状態に向かって状態数が増大するため には次の不等式、

β(TA)> β(TB), (TA< TB の時)

が成り立つ必要がある。逆のTA> TB の場合にも同様に、上と反対の不等号が成り立つこともわかる。つま り、関数β(T)は温度についての要請を満足するためには、温度T に関して単調減少関数であることが必要 である。

原理的には、どのような単調減少関数を用いて温度を定義するも可能であるが、次の式によって温度を定義 すると理想気体の系について知られている状態方程式と矛盾がない。

∂S(E)

∂E = 1

T (3.8)

したがって、関数S(E)の導関数として与えられる上の式を、マイクロカノニカルアンサンブルに対する温度 の定義として今後用いることにする。マイクロカノニカル分布における上の温度の定義は、系の平均エネル ギーの値E/N と温度との関係を与える式であると見なすこともできる。

(14)

3.4

マイクロカノニカル分布の応用

マイクロカノニカルアンサンブルに関する温度の定義は、理想気体の場合には、エネルギー等分配則に対応 するものである。しかし、以下の例からわかるように、この関係は系によっていろいろな形を取り得ることが 可能である。これまでの説明から、温度はより一般的な統計力学的な温度の定義によって導入されるべきもの であることが示された。マイクロカノニカルアンサンブルに対するこのような一般的な温度の定義は、系の平 均エネルギーと温度との間に11の対応関係を与えるものである。

マイクロカノニカルアンサンブルの温度の定義について、具体的なイメージをつかんでもらうために、簡単 な例題を用いて具体的に温度を定義してみよう。

3.4.1 単原子理想気体の系

もう1度、理想気体の場合を簡単に復習する。N 個の粒子を含む理想気体の系の全エネルギーをE とする と、この系に含まれる状態の数の対数(自然対数)S(E)が以下のように与えられることをすでに示した。

S(E) = 3N k

2 lnE (3.9)

温度の定義を用いると、系のエネルギーE と温度T を結びつける関係として以下の式が導かれる。

1

T =∂S(E)

∂E = 3N k 2E

これは、内部エネルギーについてE= 3N kT /2が成り立つことを意味し、より一般的な温度の定義から理想 気体の場合についてのエネルギー等分配則が導かれることが示せる。

3.4.2 調和振動子の集合

N 個の調和振動子を含む系の温度を定義してみよう。この系のハミルトニアンは、次のように与えられる。

H =

N

X

i=1

1 2mp2i +1

22q2i

まず、この系のエネルギーE の閉曲面に囲まれる位相空間の体積Ω(E)を求めてみよう。座標と運動量に対 して次のような変数変換を導入する。

xi= r2

2 qi, xi+N = r 1

2mpi

すると、エネルギー一定の閉曲面は、6N 次元空間において次の式を満たす部分空間として定義される。

E=

2N

X

j=1

x2j (3.10)

これは6N 次元空間における球面の方程式である。球面の体積がE3N−1/2 に比例することと、上の変数変換 に伴って長さの尺度が変化したことを考慮すると、閉曲面の面積は以下のように表される。

Ω(E) 2E

ω 3N

(15)

この結果を用いて、温度を定義するために必要な関数S(E)E 依存性は次のように求まる。

S(E) = 3N klnE+ const.

(3.8)式の温度の定義から、この系の平均エネルギーと温度との関係として、次の結果が得られる。

1

T =3N k

E ,またはE= 3N kT

理想気体の場合との違いは、座標の自由度(ばねの位置エネルギー)に関係するポテンシャル(位置)エネル ギーに対しても、運動エネルギーと同様にkT /2で与えられる熱エネルギーが割り当てられたことである。こ れが、EkT との比例係数が2倍だけ異なる理由である。

参考: n 次元空間における球の体積と面積

まず、(3.10)N= 1 の場合に関係する次の2次元の積分は、極座標変換を利用して以下のように求める

ことができる。

Z

−∞

dx Z

−∞

dyexp(x2y2) = Z

−∞

dxexp(x2)× Z

−∞

dyexp(y2)

= Z

0

Z

0

drrexp(−r2) =π Z

0

dsexp(−s) =π, (s=r2) この結果から次の定積分の公式が成り立つことがわかる。

Z

−∞

dxexp(x2) =

π, または、一般に、

Z

−∞

dxexp(ax2) =p

π/a (3.11)

上の積分をn次元空間に拡張した同様な積分は、この結果を用いて次のように求めることができる。

In = Z

Πni=1dxiexp(

n

X

i=1

x2i) =πn/2 (3.12)

一方、この積分についても極座標変数を用い、角度と球の半径rに関する積分の積として次のように表すこと ができる。

In=Cn

Z

0

dr rn−1e−r2 =Cn

2 Z

0

ds sn/2−1e−s=CnΓ(n/2)

2 (3.13)

Γ(α) = Z

0

ds sα−1e−s

Γ(α)はガンマ関数を表す。Cn は角度変数(立体角)についての積分を表すが、(3.12)(3.13) が等しいこ とから、この値は次のように求まる。

Cn = n/2 Γ(n/2)

この結果を利用してn次元空間の半径Rの球の体積Vn と表面積Sn は極座標変数についての積分を利用し て次のように求められる。

Vn= Z

r≤a

Πni=1dxi=Cn

Z a

0

drrn−1= πn/2an

Γ(n/2 + 1), Sn= dVn

da = n/2an−1 Γ(n/2)

(16)

3.4.3 離散的な2準位系の集合

エネルギー等分配則が成り立たないような系についても、(3.8)を用いることによって温度が定義できるこ とを次の例で示そう。微視的な長さのスケールの世界、例えば原子や、分子内に含まれる電子のエネルギーは 連続的な値を取るのではなく、(エネルギー準位と呼ぶ)とびとびの離散的な値になる場合がある。古典力学 的な描像では理解が難しいこのような現象も、量子力学によってその原因が明らかになっている。いま、この ような離散的なエネルギー準位をもつ原子などが多数集まってできている系を考えてみよう。簡単のために離 散的な準位のうち、低いエネルギーの方から2つのエネルギー準位だけに着目する。我々が関心のある温度範 囲に関係するのは、これら2つの準位だけであると考えることに相当する。2つの準位の内、低い方の準位を 基底状態、高い方を励起状態と呼び、このような2つのエネルギー準位だけに関係するような系を2 準位系と 呼ぶことにする。

まず最初に、以下の図3に示すような2つのエネルギー準位からなる原子などが

::::::::

2個だけ含まれている系を 考えてみよう。理想気体の場合のように、これら2つの2準位系の間の相互作用はほとんど無視できるものと する。また、基底状態、励起状態のそれぞれのエネルギーはε, ε+ ∆で与えられるものとする。系全体のエ ネルギーは、各2準位の系のエネルギーの和として次のようになる。

E=ε1+ε2, i =ε, ε+ ∆)

ε ε+ ∆

1 2 1 2

3 2個の2準位の系

2つの系それぞれのエネルギーは、基底状態か励起状態かによって2つの値を取り得るので、系全体として は4つ(= 22)の異なる微視的な状態が可能である。系全体のエネルギーの値と、対応する微視的な状態数と の関係を下の表に示す。図では、E = 2ε+ ∆ の場合が示されている。この系をマイクロカノニカルアンサン ブルと見なすということは、微視的な異なる状態に対応する上の2つの状態が同じ実現確率をもつと仮定する ことである。微視的な2 準位系の間にわずかに存在する相互作用のために、図 3 に示すように、適当な時間

系全体のエネルギーE 含まれる状態の数

+ 2∆ 1

+ ∆ 2

1

が経つと2つの状態は移り変りが起きている。同じエネルギーの2つの異なる状態間を行き来していると考え

図 2 熱平衡状態にある 2 つの系

参照

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