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日本はイノベーティブな国か ?:

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(1)

http://doi.org/10.15108/stih.00111 2017 Vol.3 No.4

1. European Innovation Scoreboard(欧 州イノベーション・スコアボード)とは ?

 科学技術・イノベーション政策の対象に関する現 状や展望についての理解を深く確実にするために、イ ノベーションに関する統計の着実な指標の拡充・展 開が図られている1)。例えば、世界のおよそ 100 以 上の国・地域では、イノベーション・データの収集 や解釈を定めたガイドライン『オスロ・マニュアル

(Oslo Manual)』に準拠した「イノベーション調査」

を実施して、企業のイノベーション活動の状況や動向 を把握している。各国における調査の結果は OECD

(経済協力開発機構)等に報告されており、特許や科 学論文といった文献レベルのデータと同様に国際比 較可能な統計指標集に活用されている。その統計指標 集の一つがEuropean Innovation Scoreboard(以 下、EIS)である。

 EIS は欧州委員会(EC:European Commission)

によって 2001 年から毎年作成・公表されており、

欧州連合(EU:European Union)加盟国のイノベー ション・パフォーマンスの現状を把握し、各国のイノ ベーション・システムの相対的な強みと弱みを比較 評価する上で有用である。2017 年 6 月に公表され

た EIS 2017(European Innovation Scoreboard 2017)では、EU 加盟 28 か国(2017 年 6 月時点)

のみならず、EU との関係が深い近隣 8 か国(アイス ランド、イスラエル、ウクライナ、スイス、セルビ ア、トルコ、ノルウェー、マケドニア)も評価の対象 となっている。また、これら 36 か国に加えて、より 限定された指標に関しては、日本を含む他の 10 か国

(インド、オーストラリア、カナダ、韓国、中国、日 本、ブラジル、米国、南アフリカ、ロシア)も対象と されている。したがって、EIS 2017 では計 46 か国 のイノベーション・パフォーマンスやイノベーショ ン・システムについて評価されている。

 EIS の注目すべき特徴の一つは、「総合イノベー ション指数(SII:Summary Innovation Index)」と呼 ばれる独自の測定尺度である注 1。総合イノベーショ ン指数は、科学技術・イノベーションに関する指標群 から算出される指数で、その指標群に含まれる指標の 種類や定義は各年において改訂されている。例えば、

EIS 2017 における総合イノベーション指数は 27 の 指標を算出根拠としている。最終的に、EIS では総合 イノベーション指数の高低によって、各国を「イノ ベーション・リーダー(Innovation Leader)」、「強 力なイノベーター(Strong Innovator)」、「中程度の  欧州委員会は、科学技術・イノベーションに関する統計指標集『European Innovation Scoreboard』を 毎年作成して公表している。この統計指標集では、科学技術・イノベーションに関する指標群から「総合イ ノベーション指数」を独自に作成して、EU 加盟国や日本を含む各国のイノベーション・パフォーマンスを 総合的に評価している。本稿では最新の 2017 年版の結果から、日本のイノベーション・パフォーマンスの 主要各国間での相対的な位置づけを紹介するとともに、指標群から示唆されるイノベーション・システムの 強みと弱みについて言及する。

キーワード:イノベーション・システム,統計,国際比較 概  要

レポート

日本はイノベーティブな国か ?:

欧州委員会『 European Innovation Scoreboard 2017

(欧州イノベーション・スコアボード 2017)』から見た 日本のイノベーション・パフォーマンス

第1研究グループ 研究員 池田 雄哉

(2)

盟 28 か国の平均については、限定された 16 指標に よっても算出されており、その平均との比較は可能と なっている。

 2016 年 に お け る 日 本 の イ ノ ベ ー シ ョ ン・ パ フォーマンスは、図表 2 に示す通りである。ここで、

図表中の数値は EU 加盟国の平均を 100 とした相対 値であり、正確には総合イノベーション指数それ自体 を表すものではない。図表 2 を見ると、日本の総合 イノベーション指数は 109 であり、これは EU 平均 に比べて日本のイノベーション・パフォーマンスが 9 ポイント高いことを示している。日本は韓国、カナ ダ及びオーストラリアを下回るものの、米国よりも高 いイノベーション・パフォーマンスを有している。

 前述したように、EIS 2017 では総合イノベーショ ン指数の多寡により、各国を「イノベーション・リー ダー」、「強力なイノベーター」、「中程度のイノベー ター」又は「微力なイノベーター」に分類しており、

それぞれは以下のように定義される。

 (1) イ ノ ベ ー シ ョ ン・ リ ー ダ ー:EU 平 均 の 120% 以上の国

 (2) 強力なイノベーター:EU 平均の 90% 以上 120% 未満の国

 (3) 中程度のイノベーター:EU 平均の 50% 以上 90% 未満の国

 (4) 微力なイノベーター:EU 平均の 50% 未満の国  日本の総合イノベーション指数は 109 を示してお り、これは EU 加盟国の平均を 100 とした相対値な ので、EU 平均の 90% 以上かつ 120% 未満の定義に 一致する。つまり、総合イノベーション指数による 分類では、日本は、オーストラリア(113)や米国

(101)と同じく「強力なイノベーター」である。その 一方で、韓国(128)とカナダ(121)の両国は「強 力なイノベーター」よりも優位の「イノベーション・

リーダー」に分類できる。

 本稿では割愛しているが、EU 加盟国等ではスイス が最も高い総合イノベーション指数を有する国であ り、同様にスウェーデン、デンマーク及びフィンラン ドといった北欧諸国やオランダも「イノベーション・

リーダー」である。また、G7(先進 7 か国)では英 国とドイツが「イノベーション・リーダー」に当たる なイノベーター(Modest Innovator)」のいずれか

に分類して、イノベーション・パフォーマンスの各国 間の強弱を可視化している。

 それでは、総合イノベーション指数から見て日本は いったいどの“イノベーター”に分類されるのだろう か。また、欧州諸国と比較して、日本のイノベーショ ン・システムはどのような点で強み又は弱みを持っ ているのだろうか。本稿では、これらの点について言 及していく。なお、本稿は EIS 2017 における結果の 概要とその示唆について議論しており、それぞれの指 標に関して国ごとの結果は十分に紹介していない。結 果の詳細は European Commission3)、さらに方法 論に関する詳細は European Commission4)を参照 していただきたい。

2. 日本は「強力なイノベーター」

 EIS 2017 における測定の枠組みは、図表 1 の通 りとなっている。この枠組みは 27 の異なる指標群 から構成されている。それぞれの指標は、「制度の 状 況( 枠 組 み 条 件 )(framework conditions)」、

「 投 資(investments)」、「 イ ノ ベ ー シ ョ ン 活 動

(innovation activities)」、「 経 済 効 果(impacts)」

の 4 分類に大きく分けることができる。さらに、こ の 4 分類は幾つかの小分類から構成されており、例 えば、「制度の状況」については「人的資源(human resources)」、「魅力的な研究システム(attractive research systems)」、「イノベーションに親和的な 環境(innovation-friendly environment)」から成 り、それぞれの小分類に属する計 8 つの指標が「制 度の状況(枠組み条件)」を構成している。

 総合イノベーション指数は、図表 1 に示した指標 群を基に算出される。各指標はそれぞれの単位におい て欠損値の補完及び異常値の補正(最大値又は最小値 への変換)がなされた後、0 から 1 の値を取るスコ アに変換される。このスコアの単純平均値が総合イノ ベーション指数である。なお、EU 加盟国等 36 か国 については、27 の指標全てが用いられているが、日 本を含む他の 10 か国については 16 指標(図表 1 の 太字で強調されている指標)に限定し、作成されてい る。異なる指標群によって算出されているため、総合 イノベーション指数について、EU 加盟国等の各国と

注 1 指標(indicator)は、その数値自体に何らかの意味を有し、通常は、単位を有するかパーセンテージで表示される。

これに対して、指数(index)は、その数値自体は、通常は、何らかの統一した変換によって 1 次元の情報(例.単 なる大小等)に射影して表される順序尺度でしかない場合が多い2)

(3)

日本はイノベーティブな国か ?:欧州委員会『European Innovation Scoreboard 2017(欧州イノベーション・スコアボード 2017)』から見た日本のイノベーション・パフォーマンス

図表 1 EIS 2017 における指標群とその枠組み

注:太字で強調された指標は、日本を含む 10 か国の総合イノベーション指数の算出に用いられたことを表す。

出所:European Commission3、4)より筆者作成。

注 2 PCT 国際特許出願とは、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願制度のことをいう。

これは、特許協力条約に即して出願願書を提出することで、条約に加盟した各国においても同時に出願したこと同じ 効果を付与する特許出願制度である。

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(4)

注:数値は EU を 100 とする相対的な値。

出所:European Commission3)より筆者作成。 注:数値は EU の 2010 年の総合イノベーション指数を 100 とした相対値の 2010 年と 2016 年の差。

出所:European Commission3)より筆者作成。

が、フランスは日本や米国と同様に「強力なイノベー ター」であり、イタリアはより劣位の「中程度のイノ ベーター」であった。

 日本のイノベーション・パフォーマンスは EU 平 均を上回っていたが、2010 年から 2016 年にかけ てパフォーマンスはどのように変化していたのであ ろうか。図表 3 に、2010 年から 2016 年にかけて のイノベーション・パフォーマンスの変化を示して いる。なお、図表中の数値は、EU の総合イノベー ション指数(2010 年)を 100 とした相対値の差であ る。図表 3 を見ると、日本の値は 5.9 となっており、

2010 年から 2016 年にかけてイノベーション・パ フォーマンスが約 6 ポイント増加していたことが分 かる。同期間における EU の増加幅は約 2 ポイント であり、日本は EU とのイノベーション・パフォーマ ンスの差を約 4 ポイント広げている。また日本の増 加幅は、オーストラリアや米国よりも高く、「強力な イノベーター」の中では日本が最も顕著にイノベー ション・パフォーマンスを改善していた。

3. イノベーション・パフォーマンス上昇の 要因は何か

 図表 3 では、日本のイノベーション・パフォーマ ンスが 2010 年から 2016 年にかけて上昇していた ことを示したが、この要因は何であろうか。これを明

らかにするために、指標別の結果を図表 4 に示して いる。なお、各指標の値は EU に対する相対値であっ て、それぞれの単位を表していない。

 図表 4 に示すように、2016 年において EU に対し て強みを持つ指標は、特に「企業部門の研究開発支 出額(227.6)」注 3、「PCT 国際特許出願数(168.4)」

及び「高等教育修了者数(153.7)」である。このう ち、「企業部門の研究開発支出額」と「高等教育修了 者数」における 2010 年と 2016 年の差は、それぞ れ -18.6 ポイント及び -9.1 ポイントであり、2010 年に比べると EU に対する強みが減少していること を示唆している。その一方で、「PCT 国際特許出願 数」は 2010 年から 2016 年にかけて 18.6 ポイン ト増加しており、EU に対する強みが増加していると 示唆される。「知的資産」を構成する指標では、「商標 出願数(137)」が 2010 年から 45 ポイント増加し ており、「イノベーション活動」を構成する指標であ る「他の機関と協力してイノベーション活動を実施し た中小企業の割合(151.1)」も 2010 年から 57 ポ イント増加している。これらの指標は 2010 年から 2016 年にかけて弱みから強みに変わっており、この 2 つの指標が総合イノベーション指数の上昇に寄与 したと考えられる。

 反対に、2016 年において EU に対して弱みを持つ 指標は、特に「民間共同出資による公的研究開発費

(35.1)」、「被引用度数上位 10% 論文数(58.5)」及び

注 3 科学技術・学術政策研究所5)によれば、企業部門における研究開発費の対 GDP 比率(2015 年)は 2.57% であり、

主要国の中では韓国(3.28%)に次いで高い水準であった。なお、総務省統計局6)によれば、企業部門における研究 開発費の総額(2015 年度)は 13 兆 6,857 億円(対前年度比 0.7% 増)で、科学技術研究費全体(18 兆 9,391 億円)

の約 72% を占めていた。

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(5)

日本はイノベーティブな国か ?:欧州委員会『European Innovation Scoreboard 2017(欧州イノベーション・スコアボード 2017)』から見た日本のイノベーション・パフォーマンス

「博士号取得者数(64.1)」である。このうち、「民間 共同出資による公的研究開発支出額」における 2010 年と 2016 年の差は 8.1 ポイントであり、2010 年 に比べると EU に対する弱みが減少している。

 その一方で、「被引用度数上位 10% 論文数」と「博 士号取得者数」の値は、いずれも 2010 年から 2016 年にかけて減少しており、EU に対する弱みは更に深 刻化している注 4。減少幅が特に大きい指標は、「高等 教育修了者数」、「企業部門の研究開発支出額」及び

「官民共著論文数」といった強みを持つ指標である。

また、全 16 指標のうち 10 指標で減少が見られてお り、総合イノベーション指数の上昇は、「商標出願数」

と「他の機関と協力してイノベーション活動を実施し た中小企業の割合」における顕著な増加に起因したと 考えられる。

 図表 4 を指標の 4 分類別に見ると、「制度の状況」

では 4 指標中 3 指標が相対的に EU よりも低く、イ ノベーション・パフォーマンスの点では弱みになっ ている。その一方で、「投資」と「経済効果」では、

全ての指標が相対的に EU よりも高く、イノベーショ 図表 4 日本のイノベーション・パフォーマンス―指標別の結果

注:数値は各年の EU との相対値。

出所:European Commission3)より筆者作成。

注 4 科学技術・学術政策研究所7)によれば、日本の被引用件数上位 10% 論文数(整数カウント)は、2013 年から 2015 年の平均(全分野)では 6,527 本であった。2003 年から 2005 年の平均(5,821 本)よりも増加しているが、他の 主要国に比べて伸び率が低く、この間に世界ランクは 5 位から 10 位に後退している。

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(6)

かしながら、いずれの指標も 2010 年から 2016 年 にかけて減少しており、その動向に注視すべきとい える。最後に、「イノベーション活動」では、8 指標 中 4 指標が相対的に高く、総合的にいえば、現状で は強みとも弱みともいえない。しかしながら、「イノ ベーション活動」では 8 指標中 6 指標が 2010 年か ら 2016 年にかけて向上しており、イノベーション・

パフォーマンス上昇の主たる要因であったといえる。

4. 結び

 EIS 2017 が示唆するように、日本のイノベーショ ン・パフォーマンスは EU や米国よりも高く、その位 置づけは「強力なイノベーター」といえるものであっ た。日本のイノベーション・パフォーマンスは 2010 年から 2016 年にかけて着実に向上しており、「他の 機関と協力してイノベーション活動を実施した中小 企業の割合」と「商標出願数」がこれに寄与していた。

 EIS は、各国のイノベーション・パフォーマンスの 状況やイノベーション・システムの強み・弱みを把

術・イノベーションに関する指標群の一部にすぎな い。そのため、各国のイノベーション・システムを全 体的・包括的に評価するには限界がある。したがっ て、総合イノベーション指数による順位付けに一喜一 憂すべきではなく、それよりもむしろ、その背景にあ る(欧州の政策担当者が注目する)指標を適切に理解 して、イノベーション・システムの様相や状況につい て検討を深めていく方が重要である。

 なお、EIS 2017 の作成に当たり、科学技術・学術 政策研究所(NISTEP)は、欧州委員会の要請に応え て一般統計調査「全国イノベーション調査」注 5 の分 析結果を提供している。当該調査分析の結果は、最近 では、『科学技術白書』(文部科学省)、『国土交通白 書』(国土交通省)、『通商白書』(経済産業省)、『労働 経済の分析』(厚生労働省)といった政府の政策文書 にも幅広く活用されている。一定の精度を確保しつつ イノベーション・システムの状況を定量的かつ正確 に測定する方法としては、イノベーションに関する統 計が有効であり、今後も継続的に「全国イノベーショ ン調査」を実施していく意義は大きい。

1) 伊地知寛博 (2008) 「研究開発・知的財産統計の現代化:国際動向および日本における展開と課題」,『研究・技術計 画学会 年次大会講演要旨集』,第 23 巻,pp.594-597。

2) 伊地知寛博 (2016) 「科学技術・イノベーションの推進に資する研究開発に関するデータのより良い活用に向けて:

OECD『Frascati Manual 2015(フラスカティ・マニュアル 2015)』の概要と示唆(前編)」, STI Horizon, 第 2 巻 3 号,

文部科学省科学技術・学術政策研究所:http://doi.org/10.15108/stih.00047

3) European Commission (2017) European Innovation Scoreboard 2017, Publications Office of the European Union, Luxemburg:http://doi.org/10.2873/076586

4) European Commission (2017) European Innovation Scoreboard 2017 -Methodology Report, European Commission, Brussels:http://ec.europa.eu/docsroom/documents/23981

5) 科学技術・学術政策研究所 (2017) 『科学技術指標 2017』,調査資料,No.261,文部科学省科学技術・学術政策研究所:

http://doi.org/10.15108/rm261

6) 総務省統計局 (2017) 『平成 28 年科学技術研究調査報告』,総務省統計局。

7) 科学技術・学術政策研究所 (2017) 『科学研究のベンチマーキング -論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の 状況-』,調査資料,No.262,文部科学省科学技術・学術政策研究所:http://doi.org/10.15108/rm262

8) 科学技術・学術政策研究所 (2016) 『第 4 回全国イノベーション調査統計報告』,NISTEP REPORT,No.170,文部科学省 科学技術・学術政策研究所:http://doi.org/10.15108/nr170

9) 池田雄哉 (2017) 「日本企業によるイノベーションの実像-『第 4 回全国イノベーション調査統計報告』-」,STI Horizon,第 3 巻 1 号,文部科学省科学技術・学術政策研究所:http://doi.org/10.15108/stih.00065

参考文献

注 5 2015 年に実施した「第 4 回全国イノベーション調査」の結果については、科学技術・学術政策研究所8)や池田9) 詳しい。

図表 1 EIS 2017 における指標群とその枠組み

参照

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