厚生労働科学研究費補助金(創薬基盤推進研究事業)
(分担)研究報告書
肝臓組織の品質管理・供給体制整備
研究分担者 中村 和昭 国立成育医療センター研究所薬剤治療研究部実験薬理研究室長
研究要旨
創薬・疾患研究においてヒト細胞・組織は欠くことのできない研究ツールとなって いる。しかし、ヒト細胞・組織の研究資源化は十分とは言えず、研究資源として品質 の保証された細胞・組織資源の拡充、供給体制整備は重要な課題である。本研究では、
肝移植手術の際に摘出される肝臓組織を研究材料として用いるための品質管理・供給 体制の整備を行うため、手術摘出肝検体からの組織保存、肝細胞単離・凍結保存を行 い、品質管理試験に供するための試料の作成を行った。また、供給体制の整備に資す るべく、複数の検体のバンキングを行った。
A.研究目的
国立成育医療研究センターでは、年 間約40例の小児肝移植手術が行なわ れている。本研究では、この手術の際 に摘出された肝組織より、病理診断に 必要な部分を採取した後の廃棄予定の ドナー側余剰肝組織やレシピエント側 摘出肝組織を創薬研究に利用可能な細 胞・組織資源として活用するため、肝 組織の保存および肝細胞の分離・保存 を行い、バンキングすることを目的と した。バンキングした試料は品質管 理・供給体制の整備の為、保存細胞の マイコプラズマ汚染の有無等の品質を 検討する。
B.研究方法
1)ヒト新鮮肝細胞の分離・培養・保 存
国立成育医療研究センター・病院臓 器移植センター及び研究所先端医療開 発室と連携し、肝移植時の摘出肝から の肝細胞の分離・保存を行った。
書面による同意あるいは保護者によ る代諾を頂いた提供者より、国立成育 医療研究センターにて行われる肝移植
手術の際生じる摘出肝組織(ドナー余 剰肝組織及びレシピエント肝組織)の うち、移植術に用いず、かつ病理検査 においても不要な廃棄予定の余剰肝組 織を提供いただき、肝細胞の採取を行 った。生体肝移植手術で摘出されたド ナー肝組織は、手術室で執刀医が移植 に必要な部位を確保した後の余剰廃棄 部分を研究用として用いた。一方、摘 出されたレシピエント肝組織において は、病理検査に必要な処理をした後の 廃棄予定の組織を研究用として用いた。
提供された肝組織は、一部を凍結保存 あるいは組織観察用に固定し、残りは 肝細胞分離に用いた。
肝細胞単離に当たっては、肝組織切 断面より門脈もしくは中心静脈を確保 し、血管腔へカニューレを挿入後血管 周囲とともにカニューレを結索するこ とにより固定し、灌流路を確保した後、
37℃保温条件下でコラゲナーゼ液にて 20 分間灌流し、組織構造を消化した。
コラゲナーゼ液処理後、組織を分散し、
ガーゼとナイロンメッシュにて濾過す ることにより大型の細胞塊を除去し、
細胞懸濁液を得た。得られた細胞懸濁
液を低速遠心し、実質細胞(肝細胞)
分画と非実質細胞分画に分離した。こ れら分離細胞を市販の細胞凍結保存液 を用いて凍結保存し、液体窒素中に保 存した。
(倫理面への配慮)
本研究実施においては、対象患者個 人のプライバシーをはじめとした人権 擁護を最優先とし、危険性の排除や説 明と理解(インフォームドコンセント およびアセント)の徹底を図っている。
採取された肝組織を本研究に用いる ことは、国立成育医療研究センターの 倫理審査委員会にて承認が得られてい る。本研究に用いている肝組織は国立 成育医療研究センター病院臓器移植セ ンターにおいて主治医から説明を受け 同意を得た後に提供されたドナー余剰 肝およびレシピエント摘出肝であり、
通常は医療廃棄物として廃棄される組 織である。肝組織は国立成育医療研究 センター病院にて匿名化された後に国 立成育医療研究センター研究所に搬送 され、肝組織の一部の保存と肝細胞分 離の処理を行っている。国立成育医療 研究センター研究所においては、連結 可能匿名化され管理番号のみ附された 検体を受け入れている。本研究は、「臨 床研究に関する指針」(平成20年厚生 労働省告示第415号)並びに平成 10 年厚生科学審議会答申が定める「手術 等で摘出されたヒト組織を用いた研究 開発の在り方について」にも従い遂行 した。なお、本研究は国立成育医療研 究センター倫理委員会にて承認を得た 以下の研究課題に基づいて実施してい
る。
「 生 体 肝 移 植 時 に 生 じ る 余 剰 肝 等 か ら の ヒ ト 肝 細 胞 の 分 離 ・ 培 養 ・ 保 存 」( 受 付 番 号 385)
「 ヒ ト 肝 細 胞 ・ 組 織 を 用 い た 創 薬 研 究 お よ び 肝 疾 患 ・ 病 態 に 関 す る 基 礎 研 究 」( 受 付 番 号 396)
C.研究結果
1)ヒト新鮮肝細胞の継続的な分離・
培養・保存
平成 26 年度、当センターにて施行し た小児肝移植症例のうち、ドナー余剰 肝ならびにレシピエント肝 47 例の肝 検体より、肝組織の保存及び肝細胞の 分離・培養・保存を行った。肝組織に おいては、各検体につき 10 本の凍結バ イアルを作成し、バンキングした。単 離した肝細胞は、1x107cells/vial にて 凍結保存を行い、バンキングした。肝 細胞の単離においては、特に肝線維化 の進行しているような検体では、組織 消化が不要であり、得られた細胞数が 凍結保存するに足りない検体も認めら れた。
D.考察
本研究により、本研究班内の研究者 への手術摘出検体由来ヒト凍結肝細胞 の提供が可能となり、ヒト疾患肝組織 および新鮮肝細胞の研究利用の環境整 備が飛躍的に進行したと考えられる。
E. 結論
国立成育医療研究センターで実施さ れる生体肝移植からの肝組織を用い肝
細胞単離を行い、研究試料として利用 可能となるようバンキングを行った。
これらヒト新鮮肝細胞は市販凍結肝細 胞および肝細胞株と有機的に組み合わ せることにより、肝胆道疾患の病態解 明、新規薬物標的分子の探索および薬 物療法の開発が可能であり、ヒト肝細 胞の創薬研究への応用が推進できると 期待される。
F.研究発表 1.論文発表
(1) Suemizu H§, Nakamura K§, Kawai K, Higuchi Y, Kasahara M, Fujimoto J, Tanoue A, Nakamura M. § contributed equally to this work. Hepatocytes buried in the cirrhotic livers of biliary atresia patients proliferate and function in the liver of uPA‑NOG mice. Liver Transplantation. 2014, 20, 1127‑37.
(2) Enosawa S, Horikawa R, Yamamoto A, Sakamoto S, Shigeta T, Nosaka S, Fujimoto J, Tanoue A, Nakamura K, Umezawa A, Matsubara Y, Matsui A, Kasahara M. Hepatocyte transplantation using the living donor reduced‑graft in a baby with ornithine transcarbamylase deficiency: a novel source for hepatocytes. Liver Transplantation.
2014 20, 391‑393.
2.学会発表
(1) Matsui A, Horikawa R, Yamamoto A, Sakamoto S, Shigeta T, Nosaka S, Fujimoto J, Tanoue A, Nakamura K, Umezawa A, Matsubara Y, Kasahara M.
HEPATOCYTES TRANSPLANTATION FOR AN INFANT OF ORNITHINE TRANSCARBAMYLASE DEFICIENCY USING CELLS ISOLATED FROM LIVING DONOR REDUCED‑GRAFT TISSUE. 47th Annual Meeting of The European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition (2014, Jerusalem).
G. 知的財産権の出願・登録状況 該当なし