読解ストラテジーの使用と読解力との関係に 関する調査研究
一外国語としての日本語テキスト読解の場合一
南 之 園 博 美 *
キーワード: 読解ストラテジー, トップーダウン・ストラテジー,ボトムーアップ・ストラテジ 一,テストーテイキング・ストラテジー,読解力
要 旨
近年,外国語の読解教育では読解ストラテジーが指導されるようになってきている. 日本語 学習者を対象としたストラテジー使用の実際や有効性について調査,実験を行った研究はまだ 見当たらないが,指導方法の確立のためには,学習者の読解過程を把握することが重要であろ う.本研究では, 1 )読解力の高い読み手ほどトップーダウン・ストラテジーを使用する程度が 高い, 2 )読解力の高い読み手ほどボトムーアップ・ストラテジーを使用する程度が低い, 3 )読 解力の高い読み手ほどテストーテイキング・ストラテジーを使用する程度が高い,という三つ の仮説をたて, 日本語学習者の読解ストラテジーの使用と理解との関係について調査を行っ た.中級後半から上級レベルの被験者 7 3 名はまず,日本語能力試験 2 級程度の,約 1000 字の テキストを読んで多肢選択問題 20 間に答える読解テストを受け,次いで 26 のストラテジーを どの程度使用したか, 4 段階(いつも,時々,あまり,全然)で回答するアンケートに答えた.
トップーダウン・ストラテジー,ボトムーアップ・ストラテジー,テストーテイキング・ストラ テジーの三つのサブカテゴリーに分類したストラテジー使用の程度と,読解力との相関を求め たところ,仮説 2 )に関して有意な相関があった.今後は,発話思考法なども用いてより詳細に ストラテジー使用の実際を調べ,同時にストラテジー指導の効果も検証してゆく必要があるだ ろう.
1 . 読解ストラテジーとは
「ストラテジー J は,天満( 1 9 8 9 )によればもともと軍事用語で, 目 的 遂 行 の た め の 長 期 に わ た る総合戦術を指すが,同定したルールで、はなく,またルールに支配された過程でもないという.
つまり, 目 的 成 就 へ の 手 順 と い っ た 意 味 に 解 す れ ば よ い と い う こ と で あ る . また, Barnett
* MINAMINOSONO Hiromi: アダム・ミツキェヴィチ大学新文献学部東洋・バルト学科講師.
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( 1 9 8 9 ) , Cohen ( 1 9 9 0 )によれば,読解ストラテジーは,読み手がテキスト
1に対して,効果的に働 きかけて意味を引き出すために用いる心的な操作であり,意識的に用いられる場合と,自動化さ れて無意識に用いられる場合があるとされている.本論文でも読解ストラテジーをそのようにと らえることとする.(以下,ストラテジーという場合も,読解ストラテジーを指すものとする.)
2 . 読 解 ス ト ラ チ ジ ー 使 用 に 関 す る 研 究
外国語の読解において,読み手がどのようなストラテジーを使用しているのかを調べた研究に は , Rosenfeld( 1 9 8 4 ) , Block ( 1 9 8 6 ) , S a r i g ( 1 9 8 7 ) , Anderson ( 1 9 9 1 )によるものがある.これらの 研究では,読み手自身が頭の中にうかんだ考えや行動をことばにして報告する発話思考法 ( t h i n k
−同aloudp r o t o c o l )が用いられており,それによって明らかにされたストラテジーの種類は 多岐にわたっている. B a r n e t t ( 1 9 8 9 )によれば,現在のところ,研究者逮に共通して受け入れら れているストラテジーのリストの類はまだないという.これは,読解というものが読み手,テキ スト,タスクによって複雑に構成されており,各研究によってそれらが異なっているため,研究 結果を一般化することが閤難なためであろう. しかしながら, Rosenfeldらの研究から抽出され たストラテジーを比較してみると,重複しているものも多くある.
ストラテジー使用と理解との関係については,各研究者によって見方が異なっているようであ る. Rosenfeldは,読解に成功した読み手(s u c c e s s f u lr e a d e r s )が用いたストラテジーをとりあ げて,それらを全て「読解に有効なもの」ととらえているのに対し, B l o c k ,S a r i g , Andersonは 特定のストラテジーを使用することがすぐに理解に結びつくわけではない,としている.このよ うに,まだ研究者によって見解が異なっているのだが,外国語教育(とくに英語教育)では,「効 果的な J ストラテジーを指導することがしばしば奨励されており,その指導との関連で一般に効 果的なストラテジーとされているものがある.例えば,背景知識の構築と活性化,テキスト構造 の認識,予測,タイトノレや挿絵の使用,スキミング,スキャニング,文脈を利用した未知語の推 測,語の品詞の認識,代名詞が指す語の認識,語構成などによる意味の認識などである(Bar
岡町 t t 1 9 8 8 ;津田塾大学言語文化研究所読解研究クやループ 1 9 9 2 ) . これらは,確かに,先の Rosenfeldらの研究において抽出されたストラテジーリストにも含まれているものである.教育 の現場で「効果的」とされ,指導されているストラテジーは,優れた読み手(goodr e a d e r s / s u c ‑ c e s s f u l r e a d e r s )に,実際に用いられていることが,外国語の読解研究でも確認されてきたが,
それらのストラテジーを使用することがすぐに読解を促進するかどうか, という点については,
今後,さらなる研究が必要といえるだろう.
1
本論文において,「テキスト
Jという用語は,節や文といった文法的単位を指すものではなく,全体とし
て整合的に統ーのある,言語使用単位を指すものとする.
3 3 日本語教育の現場でも,新しい読解指導の試みが行われてきており(岡崎@中傑 1 9 8 9 ;伊藤 1 9 9 1 ;谷口 1 9 9 1 ;加納 1 9 9 3 ),指導項目として,読解ストラテジーがとりあげられるように なってきた. しかしながら, 日本語学習者を対象とした読解ストラテジー使用の実際やその有効 性について調査,実験を行った研究はまだみあたらない.そこで,読解指導方法の開発,確立の ための基礎となるデータを提供するものとして,本研究では, 日本語学習者の読解ストラテジー 使用に関する調査を行うことにした.
3 . 読 解 ス ト ラ チ ジ ー の 使 用 と 読 解 力 と の 関 係 に 関 す る 調 査 3 ‑ 1 . 目 的
本調査では,日本語テキスト読解における,読み手のストラテジー使用の実態を明らかにする ことを目的とする.具体的には,三つのカテゴリーに分類した 26 のストラテジー使用の程度と,
読解力との関連を検討する.
3 ‑ 2 . 仮 説
調査にあたり,読解や読解ストラテジーに関する先行研究を参照して,以下の仮説を設定し た .
仮説 1 :読解力
2の高い読み手ほど, トップ。ーダウン・ストラテジー
3を使用する程度が高い.
仮説 2:読解力の高い読み手ほど,ボトムーアッフ
0・ストラテジ_+を使用する程度が低い.
仮説 3 :読解力の高い読み手ほど,テストーテイキング・ストラテジー 5 を使用する程度が高
一般に外国語学習者の読解では,文字情報に頼るボトムーアップ処理に偏る傾向があり,その 結果,逐語読みをしていることが多い(天満 1 9 8 9 ;岡崎・中傑 1 9 8 9 ) . Kintch & van Dijk ( 1 9 7 8 )は,逐語読みが起こるのはボトムーアップ処理が自動化されていないためだと説明してい
2
r 読解力
Jとは,テキストを読んでその内容を理解することとし,本調査で用いる読解テストの多肢選択 問題によって測定されるものとする.
3 読み手がテキストの意味を構築していく際に,テキストに関する背景知識や読み手自身の経験に基づき ながら予測をたて,さらにその予測の確認を行う処理において使用するストラテジーを「トップーダウ ン・ストラテジ−
Jとする.
4 テキスト上の文字,語といった言語 清報を認識,解読していくことから始まり,さらに文,文章へと向 けて意味を構築していく処理において使用するストラテジ一を「ボトム一アツブ。.ストラテジ、−−白白−白 る .
5 「テキストを読んで,多肢選択問題に答える
Jというタスクを達成する際に,使用されるストラテジーを
「テストーテイキング・ストラテジ』−
Jとする.テストーテイキング・ストラテジーを読解ストラテジーと
してとらえて研究しているものは少なく,本研究では Anderson( 1 9 9 1 )の研究を参照した.
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る.詩句の意味を思い出そうとしたり,複雑な構文を解読しようとすることが,母語では自動化 されているのに対し,外国語の読解ではしばしばそういった処理に時間と労力がうばわれてしま い , トップーダウン処理,つまりテキスト内容に関する知識や,文章構造に関する知識を活用す る余裕がないのだとされる.また,読解指導がボトムーアップ処理に比重を置きすぎていること も,学習者の読解のスタイルがボトムーアップ処理に依存する一因になっていると考えられる.
結果的に,読み手は個々の文の意味はわかるが,文章全体としての意味はとらえられないことに なる.以上のような点から,本調査の対象となる日本語学習者の中にもそのような傾向がある読 み手がいるのではないかと予想し,仮説 1 ,仮説 2を設定した.
読解の過程に影響を与えるもの 6 に「外的目標の設定 J が考えられるが,本調査の場合には
「テキストを読んで,読解テストの多肢選択問題に答える」という目標が調査者によって設定さ れているといえる.この目標を意識し,その達成のために能動的,積極的にテキストに向かう読 み手は,テストーテイキング・ストラテジーを多く用いるのではないかと予想し,仮説 3を設定
した.
3 ‑ 3 . 被験者と調査の実施日
筑波大学,上智大学,国際基督教大学,東京外国語大学,大阪大学に在籍する中級後半から上 級レベルの日本語学習者 78 名を被験者とし
7,各機関において, 1994 年 1 0 月 27 日から 1 1 月 2 1
日までの問に調査を実施した.最終的には,回答に不備があった 5 名のデータを無効とし, 7 3 名(男性 37 名,女性 36 名)を分析の対象とした. このレベルの学習者は,初級レベルの基本的な 文型,語葉が既習であるため,ある程度の長さのある,内容に意味のあるテキストを読むことが できると考えられるため,本調査の対象とした.
3 ‑ 4 . 調査材料
3 ‑ 4 ‑ 1 . 読解テキスト
産能短期大学日本語教育研究室編「日本語を学ぶ人たちのための 日本語を楽しく読む本@中 級」( 1 9 9 1 )より,「趣味」を引用した.このテキストは,国際交流基金「日本語能力試験 出題
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