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鹿 児 島 国 際 大 学 大 学 院 福祉社会学研究科

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(1)

博士学位論文

認知症高齢者支援システムにおけるセルフヘルプ・グループの機能と可能性

―認知症高齢者と家族介護者へのソーシャルワーク実践に関する研究―

鹿 児 島 国 際 大 学 大 学 院

福祉社会学研究科 社会福祉学専攻

福 﨑 千 鶴

2018 年 9 月

(2)

i

【目 次】

凡例(ⅵ) 図表一覧(ⅵ-ⅶ)

はじめに

1.研究の背景と問題意識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2.研究の意義と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 3.研究の方法および構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

第1章 当事者主権と認知症施策

1.当事者主権の意味と先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 1) 当事者主権と「語り」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 2) 認知症の当事者主権の原点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・9 3) 認知症当事者研究と筆者の関わり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 2.高齢者支援と認知症高齢者施策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 1) 長期療養を要する高齢者への医療的支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2) 認知症高齢者施策の変遷と関係団体の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・14 (1) 1970・80 年代の認知症高齢者政策の変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・14 (2) 認知症高齢者への支援―回廊式廊下の設置・徘徊模擬訓練・・・・・・・・・16 (3)1990 年代における高齢者対策の進展・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 3.認知症高齢者・家族介護者への支援と権利擁護の変遷・・・・・・・・・・・・・19 1) 介護保険制度導入後の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2) 権利擁護のための制度の整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 3) 認知症高齢者研究および教育と認知症施策の変遷・・・・・・・・・・・・・・・22 4.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

第 2 章 セルフヘルプ・グループ機能を活かしたソーシャルワーク実践

1.セルフヘルプ・グループの歴史・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

1) 英国におけるセルフヘルプ・グループの起源・・・・・・・・・・・・・・・・・26

2) アメリカ合衆国におけるセルフヘルプ・グループの起源・・・・・・・・・・・・27

3) わが国における当事者運動及びセルフヘルプ・グループの歴史・・・・・・・・・28

2.セルフヘルプ・グループの定義・機能・分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・30

(3)

ii

1) セルフヘルプ・グループ研究の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 2) セルフヘルプ・グループの定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 3) セルフヘルプ・グループ機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 4) セルフヘルプ・グループの分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 5) 考察・まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 3.セルフヘルプ・グループの展開過程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 4.セルフヘルプ・グループへの専門職の関わり・・・・・・・・・・・・・・・・・43 5.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44

第 3 章 セルフヘルプ・グループの機能とサクセスフル・エイジング(インタビュー調査)

1.研究の目的と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 2.倫理的配慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 3.研究結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 1) ボランタリー機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 2) 鏡映的自己機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 3) 問題を発見する機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 4) サポートシステムの機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 5) 情報発信や共有の機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 6) 役割モデル(ロールモデル)機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 7) グリーフケア(看取り後の支援)機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 8) 資源開発及び資源育成機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 9) 教育及び研究機関としての機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 10) 社会改良的機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 4.サクセスフル・エイジングへの導き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 5.まとめ―認知症高齢者支援の可能性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57

第 4 章 認知症の人と家族の会の介護者支援における対面的相互効果(アンケート調査)

1.研究の目的と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61

2.倫理的配慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62

3.研究結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62

(4)

iii

1) 過去 1 年間の集い・講演会への参加頻度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 2) 集い・講演会への参加に影響するもの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63 3) 集いや講演会について感じることや意見―自由回答の分析―・・・・・・・・・・65 4) 少人数の集いについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 5) 集い・講演会へのサポーターとしての参加意向・・・・・・・・・・・・・・・・68 4.考察・まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70

第 5 章 全国組織結成の経緯と活動史

1.京都における呆け老人をかかえる家族の会の結成・・・・・・・・・・・・・・・73 1) 社会的な背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73 2) 「家族の会」の結成への早川一光医師の関り・・・・・・・・・・・・・・・・・74 2.全国組織結成後の経緯と活動の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81 1) 全国組織結成後の経緯と活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81 2) 支部活動への支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84

(1) 支部活動の手引書の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85

(2) 情報共有やスーパービジョンの実施・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85 3) 介護保険制度への関わり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86 3.国際アルツハイマー病協会と「認知症の人と家族の会」の関り・・・・・・・・・87 1) 国際アルツハイマー病協会の結成と活動の概要・・・・・・・・・・・・・・・・87 2) 国際アルツハイマー病協会 第 20 回国際会議(2004) ・・・・・・・・・・・・・90 3) 国際アルツハイマー病協会 第 32 回国際会議(2017 年)に向けての取組み・・・91 4.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95

第 6 章 認知症の人と家族の会 A 県支部の活動史

1.「家族の会」の結成から 2015 年までの経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・97

1) 準備期:発足に先立つ行政主導による活動(1983~1988 年) ・・・・・・・・・・97

2) 啓発期:会の体制作り・会の啓発(1989~1993 年) ・・・・・・・・・・・・・・105

3) 充実期:全国家族の会加入・活動の充実(1994~1999 年) ・・・・・・・・・・・106

4) 拡大変動期:介護保険制定・会の名称変更(2000~2009 年) ・・・・・・・・・・107

5) 飛躍・転換期(2010~2017 年) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109

(5)

iv

2.歴代の世話人代表と副代表の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110 1) 歴代世話人の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110 2) 歴代世話人の取り組みと Katz,A.らの研究との比較・・・・・・・・・・・・・114 3. 「家族の会」を側面から支えてきた専門職の取り組み・・・・・・・・・・・・・・118 1) 保健所の保健師及び精神衛生相談員の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・119 2) O医師の取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120 4.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・122

第 7 章 総合考察―当事者主権とセルフヘルプ・グループの取り組みと可能性

1.認知症高齢者のエンパワメントへの取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・125 2. 「当事者主権」による権利擁護活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・125 3.セルフヘルプ・グループの活動内容とその有効性・・・・・・・・・・・・・・・・126 1) 任意性の横関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・126 2) 客観視からエンパワメントへ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127 3) 問題の発見と機能の相互関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127 4) 当事者支援と自己成長・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・128 5) 情報の発信と共有・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129 6) 役割モデル(ロールモデル)と責任感・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129 7) グリーフケア(看取り後の支援)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 8) 資源開発及び資源育成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130 9) 教育および研究と社会参加・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・131 10) 問題の社会化と認知症支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132 4.セルフヘルプ・グループの展開と機能の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・133 5.サクセスフル・エイジングの可能性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136

終章 「家族の会」の展望

1.専門職が参加することの意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・137

2. 「家族の会」の取り組みと公的機関との相互補完的関係・・・・・・・・・・・・・138

3. 「家族の会」と「育成会(親の会) 」との関連・・・・・・・・・・・・・・・・・・139

4.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・140

(6)

v

謝 辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・143

引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・144

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159

参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161

(7)

vi 凡例

本論文における資料の引用は以下によるものとし,脚注を同頁下に主要参考文献を巻末 に示した.

1.本論文での文献表示の形式は,原則として日本社会福祉学会機関誌『社会福祉学』の執 筆要項に従っている.

2.欧文文献からの引用に際して,邦訳のあるものは適宜参考にさせて頂いた.ただし,文脈 を考慮して訳したため,必ずしも翻訳に従ってない場合がある.

3.インターネットの参考に関しては,URL,該情報のタイトル,アクセス年月日を示し た.

4.引用文中の省略は・・・・・で示した。

図・表一覧

表 1-1 認知症高齢者支援の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 表 1-2 介護保険法開始後の認知症対策の変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・20 表 1-3 高齢者関連の専門的教育の変遷・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 図 2-1 セルフヘルプ・グループ研究数の推移・・・・・・・・・・・・・・・・・31 表 2-1 「12 ステップ・グループ」&「非 12 ステップ・グループ」

・・・・・・・・40

表 3-1 2007 年面接調査協力者の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 表 3-2 2015 年面接調査協力者の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 表 3-3 ボランティア活動の現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 表 3-4 カテゴリーとインタビュー内容の例・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 図 3-1 セルフヘルプ・グループの機能を活かした認知症高齢者の支援の可能性・・60 図 4-1 「集い」の参加状況 (過去1年間)・・・・・・・・・・・・・・・・・63 図 4-2 「集い」への参加に影響するもの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 表 4-1 集い・講演会への参加に影響するもの・・・・・・・・・・・・・・・・・65 表 4-2 集い・講演会への意見・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66

(8)

vii

表 4-3 少人数の集いへの意見・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 表 4-4 サポーターとしての参加意向 (「その他」の記述内容)・・・・・・・・・68 図 4-3 サポーターとしての参加意向 (複数回答)・・・・・・・・・・・・・・69 表 4-5 集い・講演会に関連するサポーターとしての参加意向・・・・・・・・・・70 図 5-1 家族の会に影響を与えた諸要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 図 5-2 「家族の会」京都支部の要望書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79 図 5-3 「ふりかえれば」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80 図 5-4 家族の会のあゆみ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83 図 5-5 支部・会員数の年次推移・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84 図 5-6 2004 年 ADI 国際会議で示されたこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・89 表 5-1 国際会議通信の発行状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92 表 5-2 国内で開催された国際会議の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95 図 6-1 A 県支部活動史のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・122 図 7-1 セルフヘルプ・グループの展開にともなう機能の変化・・・・・・・・・・133 図 7-2 セルフヘルプ・グループの機能の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・135 図 7-3 専門職経験者がセルフヘルプ・グループに参加する事の意義・意味・・・・137 図 7-4 セルフヘルプ・グループの機能を活かした認知症高齢者の支援システム・・141 表 1-4 介護保険法の改正の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161

(9)

1 はじめに 1.研究の背景と問題意識

わが国は,近年,少子高齢化の進展により稼働世代などの支え手の減少が課題となって いる.また,過疎過密などの地域格差や,経済格差などの様々な格差が社会的な課題とな っており,社会的格差が生じない社会づくりやサポートシステムの構築が求められている.

「支援される側・支援する側」,「問題を抱える人・問題を発見する人」というような区分 ではなく,日頃から相互扶助による問題の発見や支援体制の構築が求められる.この関係 性は,通常の有事の際だけではなく,災害時などの非常時の対応にも大きく影響する.

厚生労働省研究班の調査

1

によると,2012 年時点で,認知症高齢者は 65 歳以上の 15%を 占め,約 462 万人と推計されている.軽度認知障害(MCI)と呼ばれる人は,約 400 万人と 推計されている.2012 年には,65 歳以上の高齢者の約 7 人に 1 人(有病率 15.0%)が認知 症であったが,2025 年には,約 5 人に 1 人になるとの推計もある

2

.また,85 歳を超える と 3 人に一人,90 歳以上では過半数が認知症という研究結果

3

もあり,認知症高齢者支援 システムの構築が急務となっている.

高齢者人口の急激な増加や認知症高齢者の増加に伴う支援が要請される中で,2015 年 1 月に認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)が策定された.新オレンジプランは,

国家戦略として,財務省以外の各関係省庁が一丸となって取り組むことを申し合わせてい る.新オレンジプランでは,認知症の人や介護者への支援など,当事者の視点に配慮した 内容となっている.

このように,国家戦略の中に認知症の人や介護者の視点に基づく支援が明記されたのは,

認知症高齢者の推計値の上昇や国際的な情勢に加え,「公益社団法人認知症の人と家族の 会(以下「家族の会」と略す)」などの当事者グループ(セルフヘルプ・グループ)の継続 的な働きかけも影響していると思われる.認知症の人と家族介護者が,当事者の立場から 生活障害や生活困難についてカミングアウトし,社会に認知症に対する理解と支援を求め,

セルフヘルプ・グループの力を借りながら活動を続けてきたことが功を奏したのである.

1 厚生労働省「社会保障審議会-介護給付費分科会」(2014)『認知症施策の現状について』第 115 回

(2014 年 11 月 19 日)参考資料1.

2 内閣府(2017)「認知症高齢者数の推計」『平成 29 年版 高齢社会白書』.

3 朝田(2012)によれば,全国 6 カ所(新潟県上越市,茨城県利根町,愛知県大府市,島根県海士町,

大分県杵築市,佐賀県伊万里市)の 65 歳以上住民約 5,000 名を対象として調査の結果.85 歳を超え ると 3 人に一人,90 歳以上では過半数が認知症であったことが記されている.

(10)

2

当事者が安心してカミングアウトでき,積極的に社会参加できる環境が求められる.支援 体制が整っていない中でのカミングアウトは,偏見や差別の標的にされる可能性も高いた め,社会に向けた正しい理解が得られるような教育や取り組みが急務であるといえよう.

認知症の人を含むすべての人の基本的人権が守られ,社会的役割を感じながら社会参加で きるような社会づくりが必要なのである.

災害も,精神障害も,認知症も,人が生きていく上で直面する危機である.その危機を 超えて生き延び,生き延びてよかったと言えるしくみや雰囲気を作り出すことができてい るかどうか,それは,一部の人たちの問題ではなく,この時代に生きる私たちすべてが直 面する課題である.そうした観点から,本研究は認知症の人と家族との筆者の 10 年以上に わたる関わりにもとづいて分析し,紡ぎ出そうとするものである.

2.研究の意義と目的

セルフヘルプ・グループは,1935 年にアメリカで成立したアルコール依存症のグループ Alcoholics Anonymous(以下 AA の会と略す)が始まりとされている.しかし,セルフヘル プ・グループの結成に至る背景やセルフヘルプ・グループの発展過程について,認知症高 齢者のセルフヘルプ・グループの実践史に基づき論じたものは少ない(斉藤 1995:49).

カッツ(Katz,A.H.)とベンダー(Bender,E.I.)は,1976 年に著した The Strength in Us の中で, 「セルフヘルプ・グループとは,相互扶助並びに特有の目的を達成するためのボラ ンタリー集団(心理集団)である」と定義している(=2010:53-54).セルフヘルプ・グ ループは,「共通の問題をもっている者同士が支え合うことを目標にして連合したボラン タリー集団」 (中島 1989)のことであり, 「対面関係を基調とした相互交流と相互援助,他 者を援助することが自らの問題解決に繋がるメカニズム,自発的な発生と平等な関係,自 立的な組織,経験的な知識,情報に基づく相互教育を通して問題の認識と対処行動の変化 等がセルフヘルプ・グループの機能である」 (窪田 1991).いくつかの文献に共通すること は, 「相互扶助」や「特有の目的を達成する」という点である.また,小集団に限定してい ない定義も存在する.

一般に,特定のグループのメンバーとして認められるためには, 「契約による基準」があ

る.しかし,セルフヘルプ・グループの場合は「同じ体験をもつ」という,もう一つの基

準,いわば「資格による基準」がある.この「契約による基準」と「資格による基準」の

混在が,セルフヘルプ・グループの「グループの限界の問題」を深めている(久保・石川

(11)

3

1998:58-59).この「グループの限界の問題」は,他者の受け入れを排除する可能性を含 んでいる.

本研究では,セルフヘルプ・グループを,共通の課題を抱えた当事者が「基本的人権」

を獲得し,特有の目的を達成するために集まり,メンバー間は「対等性」と「相互扶助」

を基本に活動するボランタリー集団と定義する.そして,このような定義にあてはまるグ ループであれば,集団の規模は小集団に限定せず,活動目的や活動内容,セルフヘルプ・

グループの活動の発展過程において,集団の規模は変化する可能性があるものと考える.

セルフヘルプ・グループの展開過程に関して,セルフヘルプ・グループの実践史に基づ く先行研究は必ずしも多くない.セルフヘルプ・グループに関する先行研究には,①セル フヘルプ・グループの萌芽期から発展期,終息期など歴史について記しているものや,② セルフヘルプ・グループの定義や機能,③セルフヘルプ・グループと専門職の関係,④セ ルフヘルプ・グループをサポートする活動やグループに関するもの,⑤セルフヘルプ・グ ループとソーシャルワークを対比して記したものなどがある.

なお,セルフヘルプ・グループには, 「セルフヘルプ」という自助による権利擁護活動や 社会改良的な働きかけによるエンパワメント

4

なども含まれている.しかし,「セルフヘル プ・グループが,はたして社会を変える目的をもつかどうかという問題もある」 (久保・石 川 1998:59).

セルフヘルプ・グループは,生活課題を抱えた人々に対し,柔軟に対応できる可能性が 高い.また,限られた財源の中で当事者の視点や経験に基づくマンパワーを有効に活用す ることにより,新たな生活課題の発見や,地域特性や生活課題に応じた支援につながる可 能性を秘めている.そして,自助・共助・互助・公助や地域特性や財政に応じた柔軟な支 援システムの構築に繋がる.本研究の意義はここにある.

元来,セルフヘルプ・グループ活動への参加は,新たな価値観や文化,社会資源を創り出 している.セルフヘルプ・グループの中心で活動しているメンバーは,社会的な役割を意 識しており,体験や経験を肯定的に受け止め,豊かな人生に繋がる可能性を有していると いえる.しかし,先行研究では,セルフヘルプ・グループ活動がどのように新たな価値観 や文化,社会資源を創出してきたのか,具体的に示した研究は少ない.また,認知症高齢

4 エンパワメントとは,「自分の生活を自分でコントロールしたり,自分の生活に影響する外的な要因 に影響を与えるために,パワー・資源・能力と称されるその力を,個人というミクロから政治という マクロのレベルで発展させることである」(三毛 1997:172).

(12)

4

者への支援に関する文献では,否定的高齢者観や長期化する認知症介護に対して,介護負 担や介護困難などマイナスイメージに視点を当てた研究が多く,肯定的な視点からの研究 は必ずしも多いとはいえない.

認知症高齢者の支援システムを構築する場合,老年期の特徴や支援対象者の生活史,支 援対象者を取り巻く環境を理解したうえで支援システムを構築することが求められる.周 知のように,老年期は,家族や自分の健康および経済的な事柄が大きなストレッサーとな りやすく,ライフイベントや環境変化,対人関係の機能不全に影響することが多い.生態 学的視点を基礎として生活モデルを体系化したジャーメイン(Germain,C.B.1979)とギッタ ーマン(Gitterman,A.1996)によると,エコロジカル視点の特徴としては,人間の対処様式と, 人が接する環境が相互作用する中間面に介入することであり,方法として人間の対処能力 及び適応能力を高めるか,環境を改善するか,あるいはその両面の調整を行うことを提示

(ジャーメインら=1992:6‐8)している. ライフストレッサーは「人生移行,ライフイ ベントによるストレッサー」「環境ストレッサー」「社会関係ストレッサー」のいずれかに よってとらえることができる述べている.また,ストレス対処法としてのコーピングは,

「問題焦点型」「情動焦点型」「回避型」に大きく分けることができる.コーピング尺度に は,特性論とプロセス論の立場がある.高瀬(2013:240-241)は,特性論に基づく尺度を 用いて調査を行い,高齢者のコーピングが「視点転換」 「他者への情動発散」 「回避と抑制」

の 3 つの因子から構成されているということを示唆している.

セルフヘルプ・グループ活動への参加は,ストレスコーピング因子に何らかの影響があ ると考えられる.介護者のストレス要因についての研究では,チェックリストや尺度を用 いた調査研究は多いが,項目化された事柄に関するデータしか収集できないという限界が ある.そのため,トライアンギュレーションなど複数の研究手法を用いた分析が有効と思 われる.

認知症の症状は環境変化の影響を受けやすく,環境に配慮した支援が求められる.とり わけ,認知症高齢者が増加するなかで,認知症高齢者や家族介護者への支援など,地域特性 を活かした認知症高齢者の支援システムの構築が求められる. 「家族の会」や国際アルツハ イマー病協会では,認知症の人や家族介護者への支援をボランティアと専門職が協同し活 動を行っている.つまり,認知症当事者と介護者,専門職らが協同で活動することにより,

認知症の人の生活実態や症状に応じた細かい支援が可能となり,認知症当事者や介護者の

ストレス軽減につながる可能性が高い.

(13)

5

認知症には若年期認知症も含まれ,幅広い世代で誰でも認知症となる可能性がある. 「家 族の会」は,社会の中で認知症の人への理解が得られず,利用できる社会資源がほとんど ない時代に,専門職からの助言もありつつ自然発生的に結成された集団である. 「家族の会」

では,認知症の人と家族介護者を中心に,社会改良的な活動を行っている.認知症の人に やさしい社会を構築するためには,全世代に対する認知症研究に基づく教育的アプローチ と,情報共有による支え合いの仕組みを構築することが求められる.

本研究の目的は,セルフヘルプ・グループとしての「家族の会」の実践に関し,主とし て以下の 4 点について考察する.①セルフヘルプ・グループとしての「家族の会」の機能 にはどのような特徴があるか.②セルフヘルプ・グループとしての「家族の会」の発展過 程にはどのような特徴があるか.③セルフヘルプ・グループとしての「家族の会」の活動 において,専門職や行政機関はどのような関わりをしてきたか.④セルフヘルプ・グルー プとしての「家族の会」は,国際組織とどのように関わってきたか.これらの課題を明ら かにする中で,認知症高齢者支援システムにおけるセルフヘルプ・グループのはたらきと 可能性,効果的なソーシャルワーク実践のあり方を探求する.

3.研究の方法および構成

以上に述べたように, 「家族の会」は,社会の中で認知症の人への理解が得られず,利用 できる社会資源がほとんどない時代に,専門職からの助言もあり自然発生的に結成された 集団である.認知症の人と家族介護者を中心に,社会改良的な活動を行い ,認知症の人にや さしい社会を構築するため,全世代に対する認知症研究に基づく教育的アプローチと,情 報共有による支え合いの仕組みを構築する取り組みがなされている.

本研究では「家族の会」本部の活動と A 県支部の活動について,文献研究を行い, 「家族 の会」が発行している文献や会報などをも参考にしながら分析を試みた.その過程で全国 および A 県支部活動の参与観察や世話人を中心に,会員らにインタビュー調査を実施して 質的分析を試みた.また,会員を対象にアンケート調査に基づく量的研究を行った.なお,

2017 年 4 月に京都で行われた第 32 回国際アルツハイマー病協会国際会議では,国内およ び国際的な最新の情報を得て研究に活かした.

本論文の構成は,以下の通りである.

第 1 章では当事者主権と認知症施策と題し,当事者主権の意味と先行研究,認知症の当

事者主権の原点,認知症当事者研究と筆者の関わり,について考察し,第 2 章ではセルフ

(14)

6

ヘルプ・グループの機能を活かしたソーシャルワーク実践について,セルフヘルプ・グル ープの歴史,定義,機能,分類,展開過程,専門職の関わりから検討した.

第 3 章ではインタビュー調査の結果に基づき,セルフヘルプ・グループの機能を分類し, サクセスフル・エイジングへの導きを述べた.第 4 章では認知症の人と「家族の会」の介 護者支援における対面的相互効果についてアンケート調査にもとづく研究結果を示した.

第 5 章では「家族の会」の全国の活動史について,第 6 章では「家族の会」の A 県支部の 活動史について,セルフヘルプ・グループの展開過程および専門職の関りを検討した.最 終章の第 7 章では,当事者主権およびセルフヘルプ・グループの取り組みと可能性を総合 的に考察としてまとめ,本研究の総括とした.

なお,本研究のベースになったものを発表順に列挙すると次のようになる.

①福﨑千鶴(2007)「『ふれあいプラザなのはな館』高齢者中央大学に関する調査」

『2006 年度大学院プロジェクト研究報告書』鹿児島国際大学大学院福祉社会学 研究科.

②福﨑千鶴(2007b)「医療機関での身体拘束の認識と実施頻度に関する研究」日本 社会福祉学会九州地域部会『九州社会福祉学』119-129.

③福﨑千鶴(2007a)「やすら木会の活動について-世話人と会員の方への調査から

-」『第 23 回全国研究集会抄録と誌上報告』37.

④福﨑千鶴(2008a)「認知症高齢者支援システムとセルフヘルプ・グループの機能 に関する研究」(鹿児島国際大学大学院福祉社会学研究科修士論文).

⑤福﨑千鶴(2008b) 「認知症高齢者の介護とセルフヘルプ・グループの活動に関す る研究」『鹿児島国際大学社会福祉学会誌』7,12-13.

⑥福﨑千鶴(2010a)「保健医療サービスシステムと現状」安達笙子編『保健医療サー ビスとソーシャルワーク』法律文化社,17-56.

⑦福﨑千鶴(2010b)「緩和ケア」安達笙子・岡田洋一編『保健医療サービスとソーシ ャルワーク』法律文化社,77-78.

⑧福﨑千鶴(2010c)「看護師」安達笙子・岡田洋一編『保健医療サービスとソーシャ ルワーク』法律文化社,117-118.

⑨中山慎吾・福﨑千鶴 (2014)「認知症家族介護者への電話相談の効用と可能性」鹿

児島国際大学『福祉社会学部論集』33(1),37-46.

(15)

7

⑩福﨑千鶴・中山慎吾(2014)「認知症の人と家族の会の介護者支援における対面的 相互効果」鹿児島国際大学『大学院学術論集』6,55-60.

⑪福﨑千鶴(2015)「自然災害時における 生活保護課のソーシャルワーク実践と課 題―東北大震災の被地調査結果から―」日本社会福祉学会九州地域部会『九州 社会福祉学』11,71-81.

⑫福﨑千鶴(2015)「認知症高齢者支援システムとセルフヘルプ・グループ機能に関 する研究―認知症の人と家族の会 A 県支部会員の取り組みより―」鹿児島国際 大学大学院『学術論集』7,11-21.

⑬福﨑千鶴,大野さおり(2016)「高齢期の生活」高尾公矢・北川慶子・田畑洋一編

『少子高齢化社会の家族・生活・福祉』時潮社,129-142.

上記論稿は本研究をまとめる段階でいずれも加筆修正されている.因みに②⑩⑪⑫につ

いては「査読付き論文」である.

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8 第 1 章 当事者主権と認知症施策

1.当事者主権の意味と先行研究 1)当事者の主権と「語り」

「当事者」とは,援助の方法や内容を決定し行使する権利を個人に取り戻すために必要 とされる概念である(中島・永田 2013).また, 「当事者」という用語は,社会運動の担い 手としての主体の能動性を示している(貴戸 2007).人はだれでも当事者になる.ニーズ を満たすのがサービスなら当事者とはサービスのエンドユーザーのことである.だからニ ーズに応じて,人はだれでも当事者になる可能性を持っている.当事者とは, 「問題を抱え た人々」と同義語ではない.問題を生み出す社会に適応してしまっては,ニーズは発生し ない.ニーズ(必要)とは,欠乏や不足という意味から来ている(中西・上野 2003:2-3).

当事者主権は,何よりも人格の尊厳にもとづいている.主権とは自分の身体と精神に対 する誰からも侵されない自己統治権,すなわち自己決定権(中西・上野 2003:3)を意味す る. 「当事者主権」が主張される際の「当事者」という言葉は,障害者,女性,高齢者,患 者等, 「問題」の中で不利益を受けている主体,あるいは「問題」の起点となるニーズが帰 属する主体のこと(星加 2012)を示している.

「当事者」のニーズを把握する方法の一つに「当事者の語り」がある.野崎によれば,

「当事者」に固有の語りはあるとしても「当事者が語ればすべて正しい」というわけでは ないこと,ひとりひとりの当事者の経験は障害者一般の経験に敷衍されないこと,その一 方で,代表・代弁は原理的に不可能とされるべきではなく,実生活上それが必要とされる 局面では「いかに代表代弁が可能か」というアプローチが求められる(野崎 2004).

「当事者」はその主張を他者によって代弁されてきた存在という一面を持ち, 「当事者の 語り」は,状況を定義する権利を自分の手に取り戻すことを意味するため, 「当事者」とい う存在を考察するうえで外すことのできない重要な事柄とされてきた.けれども,物語論 の知見を参照するとき, 「当事者の語り」はある種の危うさと隣り合わせであることがみえ てくる(貴戸 2007).

「当事者の語り」を治療的介入に取り入れたものにオープンダイアローグがある.オー

プンダイアローグは精神的に危機的状況にある人たちへの治療的介入の方法である.オー

プンダイアローグを開発したヤーコ・セイックラ(Jaakko Seikkula)は,「技法や治療プ

ログラムではなく,「哲学」や「考え方」であると述べている.オープンダイアローグはメ

ソッド(手法)というよりも,哲学や考え方であるとされる.同様に,当事者研究もまた

(17)

9

単なる「技法」ではなく,問題と思われている出来事に向かい合う「方法的態度」 「とらえ 方」であると向谷地は述べている.オープンダイアローグを実践する場ではヒエラルキー がなく,医療的従事者側もクライエントも誰もが「尊重」されており,対等な位置にいる

(佐藤 2017).

「当事者の語り」は「当事者」 「当事者主権」の中核にあり,当事者の権利獲得や「考え 方」 「生き方」に関わる. 「当事者の語り」は, 「言葉」を介して行うものだけでなく,絵画 などによる表現も含まれ,当事者の能力に応じて表現の方法は異なる.また,それは,目 的や方法,得られる機会により,ミクロ・メゾ・マクロの様々なレベルでなされる.

2)認知症の当事者主権の原点

老年看護学・認知症研究の第一人者である中島(2013)によると, 「認知症者は,意思表 示もできない『個人』として,また契約主体にもなりえない『老人』 『患者』として扱われ,

1980 年代に入ってもなお,世間やヘルスケア/サービスの担い手たちは,認知症の人が『他 者』として存在する『人』という認識において無関心であった.当事者主権という認知症 の『人』の利得にかかわる問題が,認知症介護を中心に語られるようになったのは,1990 年代の入り口に入るころである.....本来, 『当事者性』は,文字通り認知症当事者の主権 が主要なテーマであるべきである.しかし, 『当事者不在』が認知症介護家族を苦しめ,そ の不当性に声をあげた介護家族当事者とそれを取り囲む女性たちの運動が,ようやく認知 症の人の当事者性の諸課題にたどり着いた」.

認 知 症 当 事 者 主 権 に ま つ わ る 国 際 的 な 動 き を み る と , ク リ ス テ ィ ー ン ・ ブ ラ イ デ ン (Christine Bryden)の功績は大きい.彼女は「1949 年,イギリスで生まれ.成人後,オー ストラリアに渡り,国家公務員として働いていた 1995 年,46 歳でアルツハイマー型認知 症と診断された.1998 年,2004 年に 2 冊の手記を出版し,世界各地で講演を行い,自らの 経験を語り伝えている

5

.2001 年,認知症の当事者同士が国境を越えてインターネットで結 ばれる『国際認知症啓発支援ネットワーク(DAZNI:Dementia Advocacy and Support Network

5 2003 年に手記の日本語版刊行に合わせて日本に招かれた後,日本でも繰り返し講演活動などを行って いる.日本語版の著作には 2003 年の『私は誰になっていくの―アルツハイマー病者から見た世界』,

2012 年の『扉を開く人 クリスティーン・ブライデン―認知症の本人が語るということ―』クリエ イツかもがわ,『私は私になっていく』クリエイツかもがわ,2017 年の『認知症とともに生きる私―

「絶望」を「希望」に変えた 20 年』大月書店,『私の記憶の確かなうちに』クリエイツかもがわ,等 などがある.

(18)

10

International)』の設立に参加した.2003 年には,認知症当事者として初めて国際アルツ ハイマー病協会(ADI:Alzheimer's Disease International)の理事に選任された」 (川村 2013).

クリスティーン・ブライデンの活動は,社会や認知症当事者に大きなインパクトと影響 をもたらした.わが国でも,2004 年に開催された国際アルツハイマー病協会の国際会議の 影響もあいまって,「認知症当事者が語る」ということに焦点があてられるようになった.

しかし,社会や公の場で「認知症当事者が語る」機会は現在においても決して多いとは言 えない.

「認知症の医療ケアっていうけど,本人に聞かないで,なんでやれるんですかね・・・・?」

これは,2010 年 7 月に宮城県で開催された研修で 100 名近くのケア関係者の前に立った 67 歳の男性(アルツハイマー型認知症)が語った言葉である.本人からの素朴で力強い問 いではないだろうか.「本人に聞かないで,なんでやれるのか」「自己満足ではないか」と いう問いかけこそが,「当事者研究とは何か」を考えていく原点(永田 2013)と言えるであ ろう.

3)認知症当事者研究と筆者との関わり

川村(2013)は認知症当事者研究が誕生したのは,東京日本橋で第 1 回認知症当事者研 究勉強会『当事者が拓く認知症新時代』が開かれた 2012 年 9 月 4 日であるとし,次のよう に述べている. 「呼びかけたのは,認知症当事者に,家族,医療,ケア,行政,報道などの 関係者を加えた 9 名.私もその一人だった.なぜ『認知症当事者研究会』と言わず, 『研究』

と『勉強』とが重なるまどろっこしい名称になったのか?そこに,私たちの目標設定と現 状認識が反映している.私たちの目指す『当事者研究』は,当事者の,当事者による,当 事者のための研究である.だが,認知症の場合,現状はまだそこに至っていない.この日 をもって,当事者の主体性による研究が始まった,とは言えない.だがそれはいますぐに も必要なものだから,そういう研究が生まれてくるための基盤をつくり,できたら助走に 入りたい.そのために,『認知症当事者研究をめざす勉強会』を始めたのである.なので,

認知症当事者研究は当面のところ,『当事者の研究』というよりは,『当事者と共に考え,

探る研究』,共同作業,共同研究の形をとるしかないと考える」.

(19)

11

川村の「当事者の,当事者による,当事者のための研究」という言葉は,1963 年米国大 統領であるリンカーンが発した演説の一説(government of the people, by the people, for the people)を連想させる.リンカーンは民主主義にもとづく政治を原則として,演 説の中でこの言葉を用いている.

木之下ら(2013)は当事者研究について次のように述べている. 「認知症の当事者研究は,

医療者にとってもきわめて重要な視座を切り拓く.つまり,当事者研究とは,この『誰』

の問いかけに対して,それはその当事者である,という解を明瞭に与える.ここでの当事 者とは, 『いま認知症になっている人』をあげるのが当然である.....認知症の当事者とは,

誰であろうか.認知症の人,そしてともに暮らす人々,さらにはケアを提供する人々のよ うに,同心円上に,このテーマを日常的に共有する濃淡はあるものの,空間的に広がりを もち,より多くの人々が内包されていく」.

認知症診断には,確定診断と臨床診断がある.すなわち基本的に死後剖検で明らかにな る確定診断と生前の症状から判断される臨床診断である.確定診断とは神経病理学的な判 断である.一方,逆の論理構造を持つ臨床診断とは,症候からの神経病理像を推定するも のである.ところで症候は認知症の進行に伴って,それまでに推定された疾患を超えて変 化することがある.そのときには,臨床診断は変化する(木之下ほか 2013).

筆者は,2018 年 2 月 24 日に東京で開催された「認知症当事者勉強会」に参加した.全 国より,認知症当事者,家族,医療,ケア,行政,報道などの関係者が集まり, 「障害者基 本法」と「認知症の人基本法」というテーマで勉強会が行われた.認知症当事者を中心に 勉強会が開催され,認知症当事者が自らの意見を述べ,認知症当事者が主体的に社会生活 を送るための法整備やどのような社会資源が必要か,意見交換がなされた.

たとえば,障害手帳について次のような議論がなされている.認知症と診断された人は,

認知症の症状や生活障害の程度によって,精神保健福祉手帳や身体障害者手帳の交付を申 請でき,その障害手帳に基づく支援を受けることが可能である.しかし,認知症の障害特性 により,現存する障害者手帳制度に当てはめるのは困難な面がある.認知症様の症状が出 現しても本人が自覚していない場合や周囲に認知症と気づかれない場合がある.認知症は 生活障害であり,その生活障害を軽減し社会の一員として社会参加するために,認知症に 特化した新たな障害者手帳の創設が必要である.

認知症の当事者主権をめぐる研究は,「当事者」抜きでは語れない.「当事者主権」をめ

ぐり,「当事者」を含む様々な領域の人が集まり,「当事者」の声を聴きながら参加者の誰

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12

もが意見が言えるような環境,ヒエラルキーのない関係性が必要であり,その中での意見 交換こそが「当事者主権」をめぐる新たなアイディアを生むことができるといえよう.

2.高齢者支援と認知症高齢者施策

1)長期療養を要する高齢者への医療的支援

人口の高齢化の進展や高齢者世帯の増加とともに,1960 年代後半より寝たきり高齢者の 存在や介護問題が社会問題としてクローズアップされ始めた.1967 年には,東京都社会福 祉協議会が,全国に先駆けて初めて「寝たきり老人実態調査」を行っている.その後,全 国社会福祉協議会,厚生省が実態調査を行った.

1961 年の国民健康保険制度の義務化により国民皆保険が実現した後,1973 年の老人福 祉法改定により,70 歳以上の高齢者について一定の所得制限のもとに公的医療保険の自己 負担分を公費負担することが制度化された.天田(2015)によれば, 「老人医療費無料化の 流れをつくっていったのは岩手県沢内科である.そこからだんだんと『ヴ・ナロード=人 民の中へ』ということで佐久総合病院や堀川病院などが,地域の貧しい高齢者に医療を,

という流れが出てくる.もう一方で老人を病院に入院させていくという逆のベクトルが生 まれてくる.」

1983 年に施行された老人保健法では,原則として 70 歳以上の者にも一定の自己負担を 求めた.また,長期の慢性疾患の人が多い高齢者の心身の特性にふさわしい診療報酬を求 めるという「特例許可老人病院」及び「特例許可外老人病院」という制度

6

が設けられた(小 沼 2007). 「特例許可病院」と「特例許可外老人病院」の総称として, 「老人病院」という言 葉が用いられた.

わが国において高齢者の医療依存ニーズが高まった要因の一つに,以上にふれたような 1973 年の老人医療費の無料化や老人病院の創設等がある.一般病院における長期入院患者 の増加の影響を受け,1993 年の医療法の改正では「療養型病床群」の創設により,病床単

6 「特例許可老人病院」および「特例許可老人病院」は,1983 年に医療法上位置づけられている病院で ある.老人診療報酬の入院医療に対する包括した評価の導入がなされ,一般病院よりも,医師,看護 師の配置を減らし介護職員を多く配置する等の介護機能等の点を評価している(厚生労働省保健局 総務課 2005).

特例許可老人病院は,老人慢性疾患患者をおおむね 7 割以上入院させる病院をいい,特例許可外老人 病院は,特例許可老人病院以外の病院のうち 70 歳以上の老人の入院比率が 6 割以上等の要件を満た す病院である(小沼 2007).

(21)

13

位でも設置できるようにした.2000 年に介護保険法が施行され,療養型病床群の一部につ いて介護保険法上,主として長期にわたり療養を必要とする要介護者に対して医学的管理 と介護などを行う「介護療養型医療施設(介護療養病床)」が位置づけられた.2001 年の 医療法改正では,療養型病床群と老人病院(特例許可老人病院)を再編し, 「療養病床」に 一本化された.

2006 年の医療保険制度改革により診療報酬と介護報酬の同時改定において介護療養病 床の 2011 年度末での廃止を決定した.しかし,2011 年介護保険法の改正では,介護療養 病床の廃止・転換期限を 2017 年度末までに延長した

7

.2017 年の医療法の改正では,介護 療養病床の経過措置期間をさらに 6 年間延長して「平成 35 年度末まで」とした(厚生労働 省 2017)

8

.そして, 「日常的な医学管理」や「看取り・ターミナルケア」等の機能と, 「生 活施設」としての機能とを兼ね備えた新たな介護保険施設として 2018 年度より介護医療 院が創設された (厚生労働省 2017)

9

以上のように,2006 年の医療保険制度改革により打ち出された介護療養病棟の廃止は,

2023 年まで延期されることになり,介護療養病棟の廃止案が出されてから実に 17 年間も 延長されることになった.これらは療養費による医療財政圧迫が継続することにつながる 可能性が高い.

このようにわが国では,慢性的な療養を必要とする高齢者などに対して,医療保険制度 に基づく支援と老人福祉法や老人保健制度などの保健・福祉に関する制度の中で,支援を 行ってきたことが特徴と言える.国民皆保険制度により医療が受けやすくなった半面,高 度先進医療の進展や福祉ニーズの高い高齢者などに対して,医療保険を含む社会保障費が 使われてきた.そのことは,社会保障財政を圧迫することになる.社会保障財政を維持し,

人口動態の変動や国民の状況に応じた支援を行うために,保健・医療・福祉に関する制度 の改変が継続的に行われている.しかしながら,国民の状況を十分考慮した社会保障制度 になっていないように感じられる面も見受けられるため,検証が必要と思われる.

7 厚生労働省・保険局医療介護連携政策課(2016 年 1 月 28 日)「療養病床・慢性期医療のあり方の検討 に向けて~サービス提供体制の新たな選択肢の整理案について~に関する参考資料」を参照.

8 厚生労働省・社保審-介護給付費分科会(2017 年 8 月 4 日)参考資料「介護療養型医療施設及び介護 医療院」を参照.

9 厚生労働省(2017 年 2 月 7 日):「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法などの一部を改正 する法律案のポイント」を参照.

(22)

14 2)認知高齢者施策の変遷と関連団体の取り組み

(1)1970・80 年代の認知症高齢者政策の変遷

認知症の人の介護について社会的に関心を集めるようになったのは,1972 年に有吉佐和 子著『恍惚の人』 (新潮社)が発表されて以降である.当時の認知症高齢者に対する理解は 乏しく,家族は介護が限界に達すると,一部の特別養護老人ホームや精神科病院への入院 に頼らざるを得ない状況であった.認知症高齢者は社会的処遇困難者として捉えられ,保 護と安全の名のもと施設入所や精神科病院への入院など収容主義が一般的であり,認知症 問題に対する精神衛生相談員

10

の実践的関与は希薄な時代であった.その後,老人病院や 施設が急増し,集団処遇を中心としたケアが行われるようになる(岩尾 2015).この推移 は表 1-1 のようになる.

ところで,中島(2013)によれば, 「認知症は,老い衰えて惚けてゆく老親扶養と介護の 問題として,また,経済的,政治的,制度的問題として,さらには忌むべき障害に与えら れるスティグマの問題として, 『寝たきり老人』とひとまとめに認識されるような方向付け が社会文化としてなされてきた」.

要介護高齢者の増加に伴い,さまざまな「問題」のために,介護家族が崩壊の淵に立た される事例が,表面化してきた.これに対応するかのように,1977 年には,大阪を中心に 大同生命事業団の「老人相談事業」が始まり,1980 年には,朝日新聞文化事業団の「アサ ヒ老人相談室」がスタートした.この事業が老人介護家族の唯一の専門相談窓口としての 役割を担ってきた(大國 2012).

公衆衛生審議会では 1980 年 3 月に,精神病院における老人精神病棟の必要性とその建 築基準について意見が述べられた.また,1982 年 11 月 24 日の公衆衛生審議会では,「老 人精神保健対策に関する意見書

11

」 (厚生省 1982)が提出された.この意見書には,本審議 会で使用する用語の定義,Ⅰ.老人の痴呆疾患の予防及び普及啓発,Ⅱ.地域老人精神保健 対策,Ⅲ.精神病院に置ける老人精神障害者対策,Ⅳ.老人精神保健従事者の確保及び資質 の向上,Ⅴ.研究体制の強化,Ⅵ.老人の痴呆疾患のための保健医療及び福祉対策の連携に ついて記載されている.この意見書によれば,老人精神障害とは,老年期にみられる精神

10 1965 年の精神衛生法改正によって,精神衛生相談員が創設される.1997 年に国家資格として精神保 健福祉士の資格制度が始まる.

11 厚生省・公衆衛生審議会(1982 年 11 月 24 日)参考資料.「老人精神保健に対策に関する意見書」に は,「痴呆疾患」と表記されている.2004 年 厚生労働省による公募(「痴呆」に替わる用語に関する 意見募集結果)に基づき 2004 年 12 月 24 日「認知症」に統一された.

(23)

15

障害の老年期に初発した精神障害と,老年期以前に発病,経過し老年期にいたった精神障 害に大別される.

表 1-1 認知症高齢者支援の動向 1963 年 「老人福祉法」の制定

1971 年 社会福祉施設緊急整備 5 カ年計画 1972 年 有吉佐和子『恍惚の人』を発表

1973 年 老人医療費支給制度の創設(老人医療費の無料化)

東京都第 1 回在宅老人調査,老人の痴呆の有病率 4.5%

東京都は老人福祉手当を痴呆老人にも支給

1980 年 東京都第 2 回在宅老人調査,老人の痴呆有病率 4.6%

国の公衆衛生審議会「痴呆病棟に関する意見」

東京都単独事業(痴呆ショートステイ,特別介護棟など)

1982 年 横浜市第 1 回在宅老人調査,老人の痴呆の有病率 4.8%

公衆衛生審議会「老人の精神保健に関する「意見」

1983 年 保健所における老人精神保健相談について(公衆衛生局長通知)

老人保健法制定,老人医療費一部負担導入

1984 年 痴呆性老人処遇技術研修施設(厚生省社会局長通知)

各地で自治体の在宅(痴呆)老人調査が始まる.有病率は大阪府 4.3%,愛知県・

名古屋市 5.8,福岡市 3.4%

1986 年 厚生省「痴呆性老人対策推進本部」の設置(1987~ 1993)

老人保健法の改正により老人保健施設の創設

老人性痴呆疾患治療病棟及び老人性痴呆疾患デイケア施設の施設整備基準につ いて提言

北海道の在宅(痴呆)老人調査 3.9%

1987 年 厚生省「痴呆性老人対策推進本部」報告

国立療養所における老人性痴呆に対する医療のモデル事業 特別養護老人ホームにおける痴呆性老人介護加算の創設

1988 年 老人性痴呆疾患治療病棟(施設基準に回廊式廊下の設置を義務づけた)・デイケア 施設の創設

老人保健施設痴呆性老人加算承認施設の創設 厚生省「痴呆性老人対策専門家会議」提言 老人性痴呆疾患治療等・デイケア施設の創設 東京都第 3 回在宅老人調査(痴呆の有病率 4.0%)

1989 年 老人性痴呆疾患センターの創設 介護対策検討会

老親介護に関する労働者福祉対策のあり方検討会 1994~1996 年 グループホームに関する調査研究の実施

1997 年 グループホームへの運営費補助の創設

痴呆対応型老人共同生活援助事業(痴呆老人向けグループホーム)開始 1998 年 グループホームへの施設整備費補助の創設

出所:厚生労働省12(2004),厚生労働統計協会編(2014:255),柄澤(1999,134)

鹿児島国際大学大学院(2011:2-3)を参考に筆者作成.

12 厚生労働省(2004)「痴呆性高齢者の現状」「『痴呆』に替わる用語に関する検討会(第1回)資料 3」を参照.

(24)

16

意見書によると,痴呆とは,精神医学的にはいったん獲得された知能が,脳の器質的障 害により持続的に低下することをいう.老人の痴呆疾患とは,老人であって脳の器質的障 害により痴呆を示す疾患をいう.すなわち,初老期痴呆,老年痴呆,脳血管性痴呆のほか,

脳の外傷,腫瘍,感染,中毒,代謝障害など種々の要因によって痴呆を呈する障害をいう.

痴呆老人とは老人の精神障害のうち,脳の器質的障害により痴呆を呈している老人をいう.

さらにこの意見書では,地域老人精神保健対策では,1.在宅老人精神保健対策の充実 (1)家庭訪問サービスの充実,(2)通院医療の充実,(3)介護者に対する講習など,(4)家族 の組織化の奨励等,(5)在宅老人福祉対策との連携,2.地域行政における行政組織の充実 強化,(1)老人精神保健相談窓口の設置,(2)老人精神保健協議会『仮称』の設置について 記載している.精神病院における老人精神障害者対策としては,1.老人精神病棟への入院 対象者の明確化,2.老人精神病棟の医療従事者の確保について記載している.

1982 年の「老人精神保健対策に関する意見書」の中には,「老人が可能な限り社会の中 で健やかに安定した生活が営めるよう施設対策に合わせ,地域のケア体制を確立するなど 包括的なケアシステムの確立を目指すべきである」との明記がなされ,その後,認知症高 齢者を含む高齢者の精神障害者への支援の構築がすすめられていった.

今回,あえて 1982 年の「老人精神保健対策に関する意見書」について詳しく明記したの には理由がある.それは, 「公益社団法人認知症の人と家族の会」A 県支部の結成は A 市保 健所の保健師の活動が影響しており,A 市保健所の活動は,この意見書が大きく影響して いると思われるからである.

(2)認知症高齢者への支援―回廊式廊下の設置・徘徊模擬訓練

1984 年に岡山県にある「きのこエスポアール病院」の佐々木健医師は,徘徊をする認知 症患者に対して, 「回廊式廊下」をつくった.1988 年老人性痴呆疾患治療病棟を制度化し,

施設基準に回廊式廊下の設置を義務づけ,全国の特別養護老人ホームや老人保健施設等へ 広がっていった.佐々木は, 「認知症の人の徘徊行動は,脳が障害されておこる行動ではな くて,100 人徘徊している人がいれば,100 通りの理由がある」ことに気づき,開設して 10 年後に「回廊式廊下」を壊した(宮崎 2011:44).

認知症の人によって個人差はあるが,認知症の人は一見,うろうろと歩き回るといった

行動がみられることがある.認知症の人の視点に考慮した研究が行われることにより,そ

の行動は記憶障害による見当識障害や判断力の低下などが影響しており,それぞれ目的を

(25)

17 もって行動していることが分かった.

また,帰宅願望や不安感が強いときなどにも同様の行動がみられる場合がある.認知症 の人の症状の程度により自分の思いを言葉で表現できる場合と,記憶障害による不安や混 乱などにより,自分の思いを言葉で表現できない場合もある.そして,言語障害などによ り自分の思いを言葉で表現し他者に伝えられない場合も多い.これらが影響し,認知症の 人に関する理解不足から認知症の人の思いとは異なる対応をしてしまうこともある.認知 症高齢者の支援を行う際は,一人ひとり異なる症状が生じる場合もあるため,認知症の人 一人ひとりの生活歴や行動パターンを把握するなどアセスメントを行い,観察し,反応を みながら対応を検討する必要がある.

地域に住む認知症高齢者への対応として,徘徊 SOS ネットワーク,認知症徘徊模擬訓練 が全国的に広がっている.徘徊 SOS ネットワークとは,認知症高齢者が行方不明になった 時に,家族が警察署に通報すると,捜索協力機関に FAX などで一斉に情報が伝えられ,タ クシー会社,バス会社,トラック協会,郵便局,ガソリンスタンド,町内会,老人クラブ などの生活関連団体が必要に応じて協力して,早期発見に努める体制である(NPO 法人シ ルバー総合研究所 2008:8).

この徘徊 SOS ネットワークが始まった背景には,北海道釧路地区の「呆け老人を抱える 家族の会」の取り組みが影響している.釧路地区の「呆け老人を抱える家族の会」 (たんぽ ぽの会)は,1985 年 6 月北海道に発足している.1990 年 4 月に,「たんぽぽの会」の会員 家族が徘徊死したことをきっかけに,1994 年 4 月釧路警察署管内(1 市 5 町村)の 31 団体 が参加し,地域を巻き込みながら訓練を行っている.この徘徊老人 SOS ネットワークは,

その後,全国に広がっていく.

福岡県大牟田市では,2001 年に,大牟田市介護サービス事業者協議会の専門部門として 認知症ケア研究会が発足した.いつでも,どこにいても自分らしく,幸福にくらしてほし いという願いが出発点である.2002 年からは,国の補助金で,大牟田市が地域認知症ケア コミュニティ推進事業を組み立て,地域全体で認知症の理解を深められるように取り組ん でいる(大谷 2015).

大牟田市は,2005 年 1 月に「認知症の人とともに暮らすまちづくり宣言」を行い,10 年

かけて,福祉・医療・介護・地域・行政が連携を図り,まち全体で認知症の人とその家族

を支えていくことに取り組んできた.認知症コーディネーターの養成や小中学校の認知症

絵本教室の開催,徘徊 SOS ネットワーク模擬訓練による地域見守り体制の構築など,積極

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